※投稿者は作者とは別人です
787 :外伝:2008/07/06(日) 18:43:14 ID:OiXF2z220
「坊や、そんなに硬くなることはないぞ」
右側に腰掛けた年かさのパイロットに話しかけられたデューガン大尉は
強張った笑みを浮かべた
マックス・デューガンはB-17で37回の戦闘飛行を生き延びてきた
ヴェテランだが流石に生きている伝説を副操縦士席に座らせて緊張するなというのは
無理な話だった
デューガンの隣りにいるのはあのスピリット・オブ・セントルイス号で大西洋を横断
した男なのだ
チャールズ・A・リンドバーグは民間人だったが技術アドバイザーの肩書きを
もっていたし
陸と海を問わずウイング章を持つもの全員から崇拝されていたので
どの基地にも自由に出入りし
あらゆるメーカーの飛行機を飛ばすことが出来た
この年の6月には最前線で戦う475戦闘飛行隊に赴き
若い飛行士にP-38からどうやって最大航続距離を搾り出すかを教えるとともに
彼らに混じって非公式に作戦飛行にも同行していた
そんな訳で素晴しい飛行機だが気難しいじゃじゃ馬と評判のB-29の
最新鋭機につきものの初期不良を洗い出し
飛行士の立場に立った実践的な技術的不具合の改善プログラムの作成に
リンドバーグが乗り出してくるのは当然の成り行きといえた
そしてハリウッドの雇われ脚本家がやっつけ仕事で書いたストーリーのごとく
リンドバーグは遭難した
「第一報を受けた司令官は死んだ婆さんが墓から這い出してきたみたいな
顔をしていたよ」
トーレ基地の無線士だったアル・シモンズは当時を回想して言った
「でも無理ないかな、あのリンドバーグが自分の隊の爆撃機で墜落したんだから」
アイラ・エイカー、ジミー・ドゥリトルそしてアイゼンハワーまでもが
トーレ基地に駆けつけた
幸いトラブルに見舞われてもマックス・デューガンはパニックに陥る事無く
突然エンジンが四基とも停止したためやむお得ず不時着するという報告と
現在位置の座標を基地に送信していた
788 :外伝:2008/07/06(日) 18:43:58 ID:OiXF2z220
救出機の操縦士に選ばれたのは第71特務飛行隊のトム・ヘスだった
OSSに所属していた関係で戦後の資料でも階級がはっきりしないこの男は
敵地に強行着陸して工作員や現地の情報提供者を回収し素早く飛び立つ仕事を
何度もこなしており今回のミッションにはうってつけの男だった
トム・ヘスのB-25が出発したときトーレ基地の周囲二百マイルは雲一つなかったのに
不時着現場は小雨が降り続き地面はぬかるんでいた
トム・ヘスは失速寸前までスピードを落とすと車輪を接地させて滑走状態を保ってから
再度上昇するタッチ・アンド・ゴーを行い
機体に伝わる感触から地面は離着陸可能なコンディションにあると判断した
着陸しリンドバーグを含む11人の爆撃機クルーを収容したトム・ヘスは言った
「全員後ろに行ってくれ」
少しでも機首が上がりやすくなるように乗客を後部区画に追いやったB-25は
離陸促進用のジェットブースターをふかし泥濘を巻き上げながら飛び立った
「見事な離陸だったな」
「そいつはどうも」
トム・ヘスの手並みを賞賛するリンドバーグの言葉にヘスの返事は素っ気なかった
ユダヤ系アメリカ人のヘスは1938年に政府の依頼を受けてドイツ空軍を視察した
リンドバーグがゲーリングから勲章を貰ったことが忘れられなかったのだ
リンドバーグは生還したがB-29の墜落はその後も続き当局による徹底的な
調査が行われた
原因はシェル石油が新しく精製した130オクタンの高鉛航空燃料にあった
高度三万五千フィートでR-3350エンジンの出力を10%以上向上させるという
触れ込みのこの超ハイオクガソリンがある種のバクテリアにとっては理想的な苗床で
自動防漏式燃料タンクの中で増殖したバクテリアがタンクの内張りを腐食させ
ゴムの欠片が気化器を詰まらせていたのだ
研究者達の努力にも関わらずガソリンの品質を落とさずに-オクタン価を下げると
バクテリアは実にあっさりと死滅した-バクテリアを制圧する試みは悉く失敗に終わり
陸軍航空隊はこのタイプのガソリンの使用を無期限に中止する決定を下した
マサチューセッツ工科大学のチチステンノー・モミスーナイダー博士はこう記している
「H・G・ウエルズの宇宙戦争で地球よりはるかに進んだ科学を持つ火星人は
未開の惑星のウイルスに敗北した、今回は我々が火星人だった」
マーチン・ヘイドン著「F世界航空戦史秘話」より
787 :外伝:2008/07/06(日) 18:43:14 ID:OiXF2z220
「坊や、そんなに硬くなることはないぞ」
右側に腰掛けた年かさのパイロットに話しかけられたデューガン大尉は
強張った笑みを浮かべた
マックス・デューガンはB-17で37回の戦闘飛行を生き延びてきた
ヴェテランだが流石に生きている伝説を副操縦士席に座らせて緊張するなというのは
無理な話だった
デューガンの隣りにいるのはあのスピリット・オブ・セントルイス号で大西洋を横断
した男なのだ
チャールズ・A・リンドバーグは民間人だったが技術アドバイザーの肩書きを
もっていたし
陸と海を問わずウイング章を持つもの全員から崇拝されていたので
どの基地にも自由に出入りし
あらゆるメーカーの飛行機を飛ばすことが出来た
この年の6月には最前線で戦う475戦闘飛行隊に赴き
若い飛行士にP-38からどうやって最大航続距離を搾り出すかを教えるとともに
彼らに混じって非公式に作戦飛行にも同行していた
そんな訳で素晴しい飛行機だが気難しいじゃじゃ馬と評判のB-29の
最新鋭機につきものの初期不良を洗い出し
飛行士の立場に立った実践的な技術的不具合の改善プログラムの作成に
リンドバーグが乗り出してくるのは当然の成り行きといえた
そしてハリウッドの雇われ脚本家がやっつけ仕事で書いたストーリーのごとく
リンドバーグは遭難した
「第一報を受けた司令官は死んだ婆さんが墓から這い出してきたみたいな
顔をしていたよ」
トーレ基地の無線士だったアル・シモンズは当時を回想して言った
「でも無理ないかな、あのリンドバーグが自分の隊の爆撃機で墜落したんだから」
アイラ・エイカー、ジミー・ドゥリトルそしてアイゼンハワーまでもが
トーレ基地に駆けつけた
幸いトラブルに見舞われてもマックス・デューガンはパニックに陥る事無く
突然エンジンが四基とも停止したためやむお得ず不時着するという報告と
現在位置の座標を基地に送信していた
788 :外伝:2008/07/06(日) 18:43:58 ID:OiXF2z220
救出機の操縦士に選ばれたのは第71特務飛行隊のトム・ヘスだった
OSSに所属していた関係で戦後の資料でも階級がはっきりしないこの男は
敵地に強行着陸して工作員や現地の情報提供者を回収し素早く飛び立つ仕事を
何度もこなしており今回のミッションにはうってつけの男だった
トム・ヘスのB-25が出発したときトーレ基地の周囲二百マイルは雲一つなかったのに
不時着現場は小雨が降り続き地面はぬかるんでいた
トム・ヘスは失速寸前までスピードを落とすと車輪を接地させて滑走状態を保ってから
再度上昇するタッチ・アンド・ゴーを行い
機体に伝わる感触から地面は離着陸可能なコンディションにあると判断した
着陸しリンドバーグを含む11人の爆撃機クルーを収容したトム・ヘスは言った
「全員後ろに行ってくれ」
少しでも機首が上がりやすくなるように乗客を後部区画に追いやったB-25は
離陸促進用のジェットブースターをふかし泥濘を巻き上げながら飛び立った
「見事な離陸だったな」
「そいつはどうも」
トム・ヘスの手並みを賞賛するリンドバーグの言葉にヘスの返事は素っ気なかった
ユダヤ系アメリカ人のヘスは1938年に政府の依頼を受けてドイツ空軍を視察した
リンドバーグがゲーリングから勲章を貰ったことが忘れられなかったのだ
リンドバーグは生還したがB-29の墜落はその後も続き当局による徹底的な
調査が行われた
原因はシェル石油が新しく精製した130オクタンの高鉛航空燃料にあった
高度三万五千フィートでR-3350エンジンの出力を10%以上向上させるという
触れ込みのこの超ハイオクガソリンがある種のバクテリアにとっては理想的な苗床で
自動防漏式燃料タンクの中で増殖したバクテリアがタンクの内張りを腐食させ
ゴムの欠片が気化器を詰まらせていたのだ
研究者達の努力にも関わらずガソリンの品質を落とさずに-オクタン価を下げると
バクテリアは実にあっさりと死滅した-バクテリアを制圧する試みは悉く失敗に終わり
陸軍航空隊はこのタイプのガソリンの使用を無期限に中止する決定を下した
マサチューセッツ工科大学のチチステンノー・モミスーナイダー博士はこう記している
「H・G・ウエルズの宇宙戦争で地球よりはるかに進んだ科学を持つ火星人は
未開の惑星のウイルスに敗北した、今回は我々が火星人だった」
マーチン・ヘイドン著「F世界航空戦史秘話」より