第184話 世論転換
1484年(1944年)10月14日 午前8時 アメリカ合衆国ワシントンDC
「ふむ……ひとまず、アメリカ国民の声は決まった…か。」
アメリカ合衆国大統領フランクリン・ルーズベルトは、新聞の一面に目を通してから、淡白な口ぶりで言う。
「大統領閣下、嬉しくないのですか?」
執務机の前で立っていた補佐官のハリー・ホプキンスが意外だ、と言わんばかりに聞いて来る。
それに、ルーズベルトは肩を竦めてから答えた。
それに、ルーズベルトは肩を竦めてから答えた。
「嬉しくない筈は無いよ。内心では、これぞアメリカ合衆国だ、と、満足気に思っている。ただ……」
彼は、新聞の第一面に視線を向けたまま言葉を続ける。
「これは……利きが良すぎたとしか言いようがないな。見たまえ。」
ルーズベルトは、机の上に新聞紙を置いた。その新聞は、ワシントンポスト紙の朝刊である。
ホプキンスは、第一面に大きく掲載されているその記事に注目した。
ホプキンスは、第一面に大きく掲載されているその記事に注目した。
「世論調査の結果が載っている。どうやら、国民の多くが、シホールアンルの講和に乗る事は、自国を滅ぼす事に
なりかねないと判断したようだ。」
「確かに……調査の結果では、回答者のうち、講和派が23.2%なのに対し、継戦派が76.8%と、圧倒的に
継戦派が多いですからね。」
なりかねないと判断したようだ。」
「確かに……調査の結果では、回答者のうち、講和派が23.2%なのに対し、継戦派が76.8%と、圧倒的に
継戦派が多いですからね。」
ホプキンスは、やや唸るような口ぶりでルーズベルトに返す。
炉辺談話が行われた翌日から、一部の大手新聞社は報道と同時に世論調査を行った。
ワシントンポスト紙もその中の1つであり、その結果は、今日の朝刊で発表された。
炉辺談話が行われた翌日から、一部の大手新聞社は報道と同時に世論調査を行った。
ワシントンポスト紙もその中の1つであり、その結果は、今日の朝刊で発表された。
調査の結果、回答者の中で継戦派が7割5分以上を占め、逆に講和派が2割程度に落ち込むと言う、ルーズベルト自身も
予想外の物になった。
その他の新聞が行った世論調査でも、継戦派の割合は常に7割以上を占めていた。
ルーズベルトは、確かに継戦を望む声が講和を望む声よりも多くなるであろうと確信していたが、彼は、過半数以上の
国民が賛成すれば上出来であると考えていた。
しかし、国民の反応は、世論調査が起きる前には既に決まっている様な物であった。
炉辺談話が行われてから翌日。
フロリダ州の州都タラハシーでは、1000人を超える人々が継戦を望む声を上げながら、大通りをデモ行進し、その様子は
地方紙で大きく取り上げられた。
また、ワシントンDCでは、平日であるにもかかわらず、5000人を超えるデモ隊がホワイトハウスの周辺を回りながら、
予想外の物になった。
その他の新聞が行った世論調査でも、継戦派の割合は常に7割以上を占めていた。
ルーズベルトは、確かに継戦を望む声が講和を望む声よりも多くなるであろうと確信していたが、彼は、過半数以上の
国民が賛成すれば上出来であると考えていた。
しかし、国民の反応は、世論調査が起きる前には既に決まっている様な物であった。
炉辺談話が行われてから翌日。
フロリダ州の州都タラハシーでは、1000人を超える人々が継戦を望む声を上げながら、大通りをデモ行進し、その様子は
地方紙で大きく取り上げられた。
また、ワシントンDCでは、平日であるにもかかわらず、5000人を超えるデモ隊がホワイトハウスの周辺を回りながら、
「悪逆シホールアンル帝国を許すな!」
「講和をするのはアメリカがシホールアンル領になるも同然!講和断乎阻止!」
「戦争が終わるのはマオンド、シホールアンルの脅威が完全に除去されてからだ!」
「講和をするのはアメリカがシホールアンル領になるも同然!講和断乎阻止!」
「戦争が終わるのはマオンド、シホールアンルの脅威が完全に除去されてからだ!」
といった言葉を、様々なプラカードを掲げながら叫んでいた。
10月13日には、ニューヨークで2万人を超えるデモがあり、このデモ隊も合衆国解体講和反対、敵国完全打倒を叫びながら、
ウォール街の道を練り歩いた。
各州で市民達が継戦を叫ぶ中、地方紙でもルーズベルトの炉辺談話を称賛する社説が掲載され、とある地方紙は、
10月13日には、ニューヨークで2万人を超えるデモがあり、このデモ隊も合衆国解体講和反対、敵国完全打倒を叫びながら、
ウォール街の道を練り歩いた。
各州で市民達が継戦を叫ぶ中、地方紙でもルーズベルトの炉辺談話を称賛する社説が掲載され、とある地方紙は、
「もし、シホールアンル帝国やマオンド共和国が、我が合衆国を徐々に解体させようと考えているのならば、もはや容赦する
必要はない。我が合衆国が、マオンドとシホールアンルを逆に、そして、速やかに解体してやるまでだ。」
必要はない。我が合衆国が、マオンドとシホールアンルを逆に、そして、速やかに解体してやるまでだ。」
という過激な社説を掲載するなど、国内は継戦でまとまりつつあった。
こうして、アメリカの世論は一気に転換する事になったが、ルーズベルトとしては、まさか、7割以上もの国民が継戦に
賛同するとは思ってもいなかった。
こうして、アメリカの世論は一気に転換する事になったが、ルーズベルトとしては、まさか、7割以上もの国民が継戦に
賛同するとは思ってもいなかった。
「私は、せいぜい5割以上の国民が賛成すれば上出来だと思っていた。しかし、結果はこうなった。ハリー、どうやら、
私は国民を甘く見ていたようだ。」
私は国民を甘く見ていたようだ。」
彼は苦笑しながら、ホプキンスに言った。
「やはり、被害者達の証言を、大々的に公表したのが利いたのでしょう。」
「そうかもしれんなぁ……」
「そうかもしれんなぁ……」
ルーズベルトは頷く。
「我々の常識では、子供は家で遊び、学校の教育を受けてすくすくと育っていくのが当たり前だ。そんな当たり前の事を、
シホールアンルはあの被害者達から奪い去り、両手を血に染めさせたのだからな。それも、とんでもない方法で。」
「私自身、あの話を聞いた時には呆然としました。」
「普通ならそうなるよ。子供を拉致して、同期生を殺させてまで精鋭部隊を作り上げるという、こんな馬鹿げた方法は
考えられるかね?」
「いえ、全く考えられませんな。」
シホールアンルはあの被害者達から奪い去り、両手を血に染めさせたのだからな。それも、とんでもない方法で。」
「私自身、あの話を聞いた時には呆然としました。」
「普通ならそうなるよ。子供を拉致して、同期生を殺させてまで精鋭部隊を作り上げるという、こんな馬鹿げた方法は
考えられるかね?」
「いえ、全く考えられませんな。」
ホプキンスは頭を横に振りながら答える。
「しかし、大統領閣下。この世界では、我々が元居た世界とは感覚がまるで違います。」
「うむ。その点に関しては私も重々承知している。」
「うむ。その点に関しては私も重々承知している。」
彼はそう言ってから、浅いため息を吐いた。
「だが、感覚が違うからと言って、理不尽な理由で命を奪った現実は、決してなくなりはしない。そして、それに付随する責任も。」
ルーズベルトはホプキンスに顔を向ける。
「ハリー。もし、君が、どこぞから現れた粗暴犯に家族を殺されたとする。それも、戦争中ではなく、平和な時に。
その犯人は捕まったが、理不尽ともいえる理由で裁けないと聞かされたら、君は納得するかね?」
「納得できませんね。」
その犯人は捕まったが、理不尽ともいえる理由で裁けないと聞かされたら、君は納得するかね?」
「納得できませんね。」
ホプキンスは即答する。
「例え、その理由とやらに従っても、私は生涯、その犯人を許さないでしょう。」
「うむ。それが当然だ。シホールアンルや、マオンドの悪行で命を落とした人々も当然同じ思いだ。いや、断定する事はできないが、
少なくともそう言う感情は抱いているに違いない。」
「うむ。それが当然だ。シホールアンルや、マオンドの悪行で命を落とした人々も当然同じ思いだ。いや、断定する事はできないが、
少なくともそう言う感情は抱いているに違いない。」
ルーズベルトは再び、新聞に視線を向ける。
「アメリカ国民も、シホールアンルやマオンドにはきっちりと責任を取らせるべきだと判断し、その結果が、この世論調査に
現れている。ハリー、私は近いうちに、南大陸の首脳は勿論の事、レーフェイル大陸の代表者とも会って、新しい戦時国際法
を制定してはどうかと尋ねるつもりだ。」
「戦時国際法……それはつまり、ジュネーブ条約やハーグ条約のような物を、この世界でも作ろうと言うのですか?」
「その通りだ。その他にも、魔法兵器の間違った使用方法……人間を大量殺戮兵器に変えるような悪質な魔法研究の規制や
廃止も考えてはどうか?と、提案してみるつもりだ。」
「南大陸やレーフェイル大陸の代表者たちは、強く反発すると予想されますが。」
「そこは覚悟の上だよ。強く反発するのならば、こう言ってやればよい。」
現れている。ハリー、私は近いうちに、南大陸の首脳は勿論の事、レーフェイル大陸の代表者とも会って、新しい戦時国際法
を制定してはどうかと尋ねるつもりだ。」
「戦時国際法……それはつまり、ジュネーブ条約やハーグ条約のような物を、この世界でも作ろうと言うのですか?」
「その通りだ。その他にも、魔法兵器の間違った使用方法……人間を大量殺戮兵器に変えるような悪質な魔法研究の規制や
廃止も考えてはどうか?と、提案してみるつもりだ。」
「南大陸やレーフェイル大陸の代表者たちは、強く反発すると予想されますが。」
「そこは覚悟の上だよ。強く反発するのならば、こう言ってやればよい。」
ルーズベルトは、悪童が浮かべるような笑みを顔に張り付かせる。
「話し合わなかった結果、この世界がどのようになろうとしていたか分かるかね?と。」
「……それはまた、きついお言葉ですな。」
「それぐらい言わなければ、また同様の事件が起きる。ハリー、君は恐ろしいと思わんかね?街中でいきなり、人間が爆発して
都市が吹き飛ぶとか、目の前にいきなり怪物のような魔法使いが現れて、町を荒し回るその光景を。」
「ええ。実に恐ろしいです。」
「だからこそ、やるのだよ。」
「……それはまた、きついお言葉ですな。」
「それぐらい言わなければ、また同様の事件が起きる。ハリー、君は恐ろしいと思わんかね?街中でいきなり、人間が爆発して
都市が吹き飛ぶとか、目の前にいきなり怪物のような魔法使いが現れて、町を荒し回るその光景を。」
「ええ。実に恐ろしいです。」
「だからこそ、やるのだよ。」
ルーズベルトは真剣な眼差しで語り続ける。
「アメリカが今後、影響力を持つ国としてやっていくためには、この戦争と、やってくるであろう戦後で、何か大きな事を
成し遂げるしかない。そのためには、必ず、シホールアンルとマオンドを完全に打ち破り、そして、この世界で、我々から、
先程話したような世界の常識を変える、新しい国際法や、国際連盟をより発展した、国際同盟機関の設立を提案するしかない。」
「閣下、それは幾らなんでも、少々無茶かと思いますが。」
成し遂げるしかない。そのためには、必ず、シホールアンルとマオンドを完全に打ち破り、そして、この世界で、我々から、
先程話したような世界の常識を変える、新しい国際法や、国際連盟をより発展した、国際同盟機関の設立を提案するしかない。」
「閣下、それは幾らなんでも、少々無茶かと思いますが。」
「やはりそう言うかね。」
ルーズベルトは首をすくめる。彼は予想通りと言わんばかりの表情を表していた。
「だが、やらなければいけない。もし、この戦争が終わっても、何ら対策を施さないままでいれば、また、どこかで第2、
第3のシホールアンルやマオンドが生まれるかもしれない。そして、その新たな敵は、決起する時は必ず、我が合衆国が
最大の脅威だと確信しているに違いない。」
第3のシホールアンルやマオンドが生まれるかもしれない。そして、その新たな敵は、決起する時は必ず、我が合衆国が
最大の脅威だと確信しているに違いない。」
彼はそう断言した。
戦争が終われば、勿論アメリカも軍縮へと向かうのは、既に決定事項となっている。
だが、技術力発展のためには、各種兵器の開発は戦後も続けられる。
また、アメリカ経済の基盤でもある膨大な工業力は、戦後も健在であるから、もし新たな敵が決起した場合、アメリカの大黒柱とも
いえる工業地帯を狙う可能性がある。
方法は定かではないが、何らかの形で行われる事は、あり得ない事ではない。
戦争が終われば、勿論アメリカも軍縮へと向かうのは、既に決定事項となっている。
だが、技術力発展のためには、各種兵器の開発は戦後も続けられる。
また、アメリカ経済の基盤でもある膨大な工業力は、戦後も健在であるから、もし新たな敵が決起した場合、アメリカの大黒柱とも
いえる工業地帯を狙う可能性がある。
方法は定かではないが、何らかの形で行われる事は、あり得ない事ではない。
「つまり、閣下は、戦後に現れる敵に対して、今からでも備えよ、という事なのですね?」
「まぁ、そうなるな。」
「まぁ、そうなるな。」
ルーズベルトは深く頷いた。
「この世界には、私達が知らない国がまだまだある。南北大陸や、レーフェイル大陸の間には、オーストラリア並みの大陸が
あり、その北方には日本並みの大きさを持つ島もあるという。これらの未知の国々にも、我々の事は幾らか知れ渡っている
だろうが、もし、今後有事があるとすれば、この大陸と、島が絡んで来るかも知れないな。」
「ここ数年で、我々が独自に見つけた島も多いですからな。私達には、まだまだ知らない面が多い。」
「その知らない所を、後でじっくりと調べるためにも、この戦争でこれ以上、大きなヘマはできないな。」
「最も、レビリンイクル沖の失態の原因は、同盟国にありますが。」
「そうだな。」
あり、その北方には日本並みの大きさを持つ島もあるという。これらの未知の国々にも、我々の事は幾らか知れ渡っている
だろうが、もし、今後有事があるとすれば、この大陸と、島が絡んで来るかも知れないな。」
「ここ数年で、我々が独自に見つけた島も多いですからな。私達には、まだまだ知らない面が多い。」
「その知らない所を、後でじっくりと調べるためにも、この戦争でこれ以上、大きなヘマはできないな。」
「最も、レビリンイクル沖の失態の原因は、同盟国にありますが。」
「そうだな。」
ルーズベルトは肩をすくめる。
その時、執務室に1人の人物が入って来た。
その時、執務室に1人の人物が入って来た。
「おはようございます。大統領閣下。」
「やあ、おはよう。」
「やあ、おはよう。」
ルーズベルトは、入室して来たハル国務長官に挨拶を返した。
「遅れて申し訳ありません。少しばかり、急な知らせが入りまして、それに対応に追われてしまいました。」
「急な知らせ?」
「はっ。それを今から、大統領閣下にお知らせいたします。」
「急な知らせ?」
「はっ。それを今から、大統領閣下にお知らせいたします。」
ハルは、持っていた鞄を開け、中から数枚の紙を取り出してルーズベルトに渡した。
「つい先ほど、バルランドの駐米大使館より知らされた報告電です。」
「ふむ、ありがとう。」
「ふむ、ありがとう。」
ルーズベルトは礼を言ってから、報告書を一読した。
4分ほどで1枚目を読み終えると、彼は眉間に皺を寄せてから、ハルに顔を向けた。
4分ほどで1枚目を読み終えると、彼は眉間に皺を寄せてから、ハルに顔を向けた。
「バルランド王国で、何らかの政変があったようだな。」
「はい。報告書にも書かれておりますが、バルランド側はこの2日の間に、何人かの閣僚が辞任をしており、軍部でも
数人の将官が自己退職や、辞任を表明しています。その中の1人に、あのインゲルテント将軍も含まれています。」
「インゲルテント……」
「はい。報告書にも書かれておりますが、バルランド側はこの2日の間に、何人かの閣僚が辞任をしており、軍部でも
数人の将官が自己退職や、辞任を表明しています。その中の1人に、あのインゲルテント将軍も含まれています。」
「インゲルテント……」
ルーズベルトは、重い口調でその名前を言う。
「インゲルテント将軍が厄介事を持ち込まなければ、我々はこんな苦労をする事は無かった筈だったが……一概に、
あの将軍だけを責める事は出来ぬな。」
あの将軍だけを責める事は出来ぬな。」
彼はそう呟いてから、しばし瞑目する。
確かに、バルランド側……特に、インゲルテントにも責任はあるが、作戦決行を了承したルーズベルトにも、責任はある。
(思えば、私はあの時、焦っていたのかもしれないな……)
確かに、バルランド側……特に、インゲルテントにも責任はあるが、作戦決行を了承したルーズベルトにも、責任はある。
(思えば、私はあの時、焦っていたのかもしれないな……)
彼は、心中でそう思った。
徐々にではあるが、国民に広がり始めた厭戦気分を吹き飛ばす為。
そして、間近に迫って来た大統領選挙に勝利するため、彼は何かを手土産に、それらの問題を解決しようと考えていた。
そんな所に回って来たのが、あの悪魔の囁きのような作戦案だった。
インゲルテント案を受け入れた時、彼は期待と、何かしらの不安を感じていた。
そして、9月19日。ルーズベルトは、インゲルテント案を受け入れた事を深く後悔した。
(上手い話には裏がある。良く考えれば、私もまた、それに釣られた犠牲者となったな)
ルーズベルトはそう呟く。
徐々にではあるが、国民に広がり始めた厭戦気分を吹き飛ばす為。
そして、間近に迫って来た大統領選挙に勝利するため、彼は何かを手土産に、それらの問題を解決しようと考えていた。
そんな所に回って来たのが、あの悪魔の囁きのような作戦案だった。
インゲルテント案を受け入れた時、彼は期待と、何かしらの不安を感じていた。
そして、9月19日。ルーズベルトは、インゲルテント案を受け入れた事を深く後悔した。
(上手い話には裏がある。良く考えれば、私もまた、それに釣られた犠牲者となったな)
ルーズベルトはそう呟く。
「閣下。バルランドでの政変ですが、我々の分析では、インゲルテント派の粛清である可能性が高いと判断しております。」
「インゲルテント派?それは一体何だね?」
「インゲルテント派?それは一体何だね?」
ルーズベルトは怪訝な顔つきを浮かべてから、ハルを問い質す。
「はっ。これは、ミスリアル側から伝えられたのですが、バルランド王国の深部には、インゲルテント将軍が率いる、
旧主流派が多数居たようです。私も、ミスリアル駐留大使から知らされたばかりのなので、あまり理解できていませんが、
バルランドでは、ヴォイゼ王を中心とする新保守派と、それを嫌っている旧主流派が水面下で対立していたようです。
今回の政変は、その旧主流派を政権から排除するために行われたのではないか?と言われているのです。」
「ほう、バルランドでそのような対立が起きていたのか。」
旧主流派が多数居たようです。私も、ミスリアル駐留大使から知らされたばかりのなので、あまり理解できていませんが、
バルランドでは、ヴォイゼ王を中心とする新保守派と、それを嫌っている旧主流派が水面下で対立していたようです。
今回の政変は、その旧主流派を政権から排除するために行われたのではないか?と言われているのです。」
「ほう、バルランドでそのような対立が起きていたのか。」
ルーズベルトは冷静さを取り繕いながらも、内心では幾らか驚いていた。
以前から、バルランド王国では何らかの対立が起こっているのではないか?という報告は何度かあった。
しかし、アメリカ本国では、これらの報告は真面目に取り上げられなかった。
ルーズベルトも幾度か耳にした程度であり、大した事ではないと思っていた。
だが、ハルの話を聞いて、ルーズベルトは、バルランド内部の対立は、思いのほか深刻な状態であるという事を初めて理解した。
以前から、バルランド王国では何らかの対立が起こっているのではないか?という報告は何度かあった。
しかし、アメリカ本国では、これらの報告は真面目に取り上げられなかった。
ルーズベルトも幾度か耳にした程度であり、大した事ではないと思っていた。
だが、ハルの話を聞いて、ルーズベルトは、バルランド内部の対立は、思いのほか深刻な状態であるという事を初めて理解した。
「もしかしたら、インゲルテントが持ち込んだ案は、政権内部で、旧主流派が発言権を拡大するために計画された可能性がありますな。」
「可能性どころか、もはや確実だろうな。」
ハルの言葉に、ルーズベルトは相槌を打つ。
「ヘイルストーン作戦が成功し、シホールアンルの国力が弱体化すれば、その功績はアメリカのみならず、バルランド側の
物にもなる。そして、旧主流派達は、その功績を糧に国内での発言権を増して行き、しまいには政権を奪取する、という
筋書きを、インゲルテント派は思い描いていたのだろうな。」
「可能性どころか、もはや確実だろうな。」
ハルの言葉に、ルーズベルトは相槌を打つ。
「ヘイルストーン作戦が成功し、シホールアンルの国力が弱体化すれば、その功績はアメリカのみならず、バルランド側の
物にもなる。そして、旧主流派達は、その功績を糧に国内での発言権を増して行き、しまいには政権を奪取する、という
筋書きを、インゲルテント派は思い描いていたのだろうな。」
「ですが、今回はそれが、仇になったようです。」
ハルが言う。
「我々がヘイルストーン作戦に失敗した影響で、作戦を立案したインゲルテント側は責任を激しく追及されました。
それに加え、かの将軍は、連合国軍の将官の前で、同盟国の軍隊……我が海軍の艦隊に対して、役立たずと言う
とんでもない失言を発したばかりに、バルランド軍部での立場は、もはや無いも同然となり、そして、しまいには
軍を退職という結果になったようです。まさに、策士が策に溺れたという典型例を世に示したという訳です。」
「なるほど。」
それに加え、かの将軍は、連合国軍の将官の前で、同盟国の軍隊……我が海軍の艦隊に対して、役立たずと言う
とんでもない失言を発したばかりに、バルランド軍部での立場は、もはや無いも同然となり、そして、しまいには
軍を退職という結果になったようです。まさに、策士が策に溺れたという典型例を世に示したという訳です。」
「なるほど。」
ルーズベルトは納得する。
「ヘイルストーン作戦失敗の結果は、必ずしも悪い方向だけに作用したわけではない……か。」
「そうなりますな。」
「そうなりますな。」
ホプキンスが言う。
「それに、今回の報道で、国民もシホールアンルとマオンドが、どのような国かを知る事が出来ました。今の所、
合衆国は運に見放されていないようです。」
「私もそう思うよ。」
合衆国は運に見放されていないようです。」
「私もそう思うよ。」
ルーズベルトはそう言ってから、再びハルに視線を向ける。
「ミスターハル。私は、今回のシホールアンル側の申し入れを断る事に決めたよ。」
「断るのですか?」
「そうだ。」
「断るのですか?」
「そうだ。」
ルーズベルトは即答する。
「シホールアンル側は、確かに態度を軟化して来た。だが、あの国がこれまでやって来た行動を見る限り、私は国民の
声を聞いた上で、今回の申し入れを受け入れる事は出来ないと判断した。そもそも、私達が要求するのは、不当に占領
している被占領国の返還と、“現政権の即時解散”だ。これらの2つは必ず果たさなければならない。しかし、シホール
アンルやマオンドは、それを守る必要はないと考え、一時的とはいえど、現政権の残留の後に解散、という形でお茶を
濁そうとしている。」
声を聞いた上で、今回の申し入れを受け入れる事は出来ないと判断した。そもそも、私達が要求するのは、不当に占領
している被占領国の返還と、“現政権の即時解散”だ。これらの2つは必ず果たさなければならない。しかし、シホール
アンルやマオンドは、それを守る必要はないと考え、一時的とはいえど、現政権の残留の後に解散、という形でお茶を
濁そうとしている。」
彼は、鋭い口調でハルとホプキンスに言う。
「つまり、この講和を結んだ時点で、我々は敵の掌で踊らされる事になる。そうならぬためには、敢えて、ここでNOと
言い放ち、ヴィルフレイング宣言を受諾しろと言うしかない。ハル、返事はNOだけで言い。犯罪者である彼らに主導権は
無い事を思い知らせてやれ。」
言い放ち、ヴィルフレイング宣言を受諾しろと言うしかない。ハル、返事はNOだけで言い。犯罪者である彼らに主導権は
無い事を思い知らせてやれ。」
ルーズベルトは、はっきりとそう言い放った。
10月15日 午後1時 カリフォルニア州エドワーズ飛行場
その日、レイリー・グレンゲルは、エドワーズ飛行場の休憩室で、同僚のルィール・スレンティと共に休憩を取っていた。
「ふぅ……暑い。」
隣のルィールは、しきりに汗を拭きながら水を飲んでいる。
「ルィール。水ばっかり飲んでいるから汗が止まらないんじゃないのか?」
「うるさいわね。さっきから喉が渇いているんだから仕方ないでしょう。」
「うるさいわね。さっきから喉が渇いているんだから仕方ないでしょう。」
レイリーの忠告に、ルィールはむっとした口調で答えた。
「もう、やっと国に帰れると思ったら、いきなり輸送機が故障して、こんな所で立ち往生なんて……はぁ。」
「気持ちは分かるけど、あまりイライラしていてもしょうがないぜ。」
「気持ちは分かるけど、あまりイライラしていてもしょうがないぜ。」
レイリーは他人事のように言いながら、新聞を読み続けた。
ルィールとレイリーは、東海岸からC-47に乗って、西海岸に向かっていた。
しかし、その途中で輸送機がエンジントラブルを起こし、やむなく最寄りの飛行場に着陸して、そこで代わりの
輸送機を待つ事になった。
その最寄りの飛行場がエドワーズ陸軍飛行場であり、レイリールィールはかれこれ5時間ほど、ここで待ちぼうけを
食らわされている。
ルィールとレイリーは、東海岸からC-47に乗って、西海岸に向かっていた。
しかし、その途中で輸送機がエンジントラブルを起こし、やむなく最寄りの飛行場に着陸して、そこで代わりの
輸送機を待つ事になった。
その最寄りの飛行場がエドワーズ陸軍飛行場であり、レイリールィールはかれこれ5時間ほど、ここで待ちぼうけを
食らわされている。
「ルーズベルト大統領、シホールアンル側の申し入れにNOと言う!か。」
レイリーは、何気ない口ぶりで呟きながら、新聞の記事を読んでいく。
新聞には、昨日夕方に行われた、ルーズベルト大統領の記者会見の模様が書かれており、ルーズベルトは閣僚会議の
後に開かれた議会で、シホールアンル側の提案を拒否する事が正式に決まったと報じられている。
新聞には、昨日夕方に行われた、ルーズベルト大統領の記者会見の模様が書かれており、ルーズベルトは閣僚会議の
後に開かれた議会で、シホールアンル側の提案を拒否する事が正式に決まったと報じられている。
「賢明な判断だ。」
彼は小声でそう呟く。
「ん?何が?」
ルィールが力無い声で聞いて来た。
彼女は元々、山岳氏族の出身であり、これまでに暑い気候で過ごした事が少なかった。
そのため、ルィールは、ロスアラモス勤務時は、冷房の利いた施設からは殆ど出ておらず、外に出れば毎回、暑さでダウンしている。
彼女は元々、山岳氏族の出身であり、これまでに暑い気候で過ごした事が少なかった。
そのため、ルィールは、ロスアラモス勤務時は、冷房の利いた施設からは殆ど出ておらず、外に出れば毎回、暑さでダウンしている。
「ルーズベルト大統領の事さ。この大国を率いるだけあって頭が切れる。」
「ん。確かに、そうねぇ。」
「ん。確かに、そうねぇ。」
ルィールが、先と比べてややしっかりとした口ぶりで相槌を打つ。
「シホールアンルの本質とも言うべき話を、ラジオで喋った時には、思わずやるねぇと思ったよ。」
「あのラジオ放送の結果、この国の人達は、シホールアンルとマオンドがどれだけ狡猾で、危ない国かを理解出来たからな。」
「まっ、あたしはあの後、アメリカだって充分危なげな国じゃないと思ったね。」
「ん?それはどういう事だい?」
「あのラジオ放送の結果、この国の人達は、シホールアンルとマオンドがどれだけ狡猾で、危ない国かを理解出来たからな。」
「まっ、あたしはあの後、アメリカだって充分危なげな国じゃないと思ったね。」
「ん?それはどういう事だい?」
レイリーが首を捻る。それに、ルィールはツンとした冷たい目線を送る。
「レイリー、確か、ここ1カ月間。あたし達は東海岸で造船所を見て回って、船の進水式にも参加させて貰えたよね?」
「ああ。結構な数だったな……そうか、ルィールが言いたいのはそこの所か。」
「ええ、そうよ。」
「ああ。結構な数だったな……そうか、ルィールが言いたいのはそこの所か。」
「ええ、そうよ。」
ルィールがレイリーの顔に指を向けながら答える。
「ここ1カ月間で、立ち会った進水式は12回。そのうち、戦艦や空母等の大型艦の進水式は7回よ、7回!」
ルィールは、珍しく興奮しながら言葉をまくしたてている。
「こんな短期間で大型艦を作りまくる国があるなんて、ある意味、危ないと言えないかな?」
「ハハ、そりゃ危ないよなぁ。」
「ハハ、そりゃ危ないよなぁ。」
レイリーは苦笑しながら、ルィールにそう返事した。
2人は、本国からやって来た留学生を引き連れて、1か月ほど東海岸を渡り歩いた。
彼らは造船所の見学や、進水式に立ちあう事があったが、そこで彼らは、アメリカの工業力の一端を見せ付けられていた。
彼らは、12回の進水式に立ち会ったが、そのうち、7回は大型艦の進水式であった。
その中でも、アメリカ海軍の今後の主役となるであろう、リプライザル級航空母艦の2番艦、キティホークと、アイオワ級戦艦の
7番艦、ケンタッキーの進水式には圧倒された。
それ以外にも、初見であるデ・モイン級重巡洋艦3番艦セイレムや、ウースター級軽巡洋艦3番艦サヴァンナの進水式にも
立ち会っている。
レイリーとルィールは、この建艦ラッシュに驚いたが、2人が率いていた10人の留学生達は更に驚いていた。
とある留学生は、
2人は、本国からやって来た留学生を引き連れて、1か月ほど東海岸を渡り歩いた。
彼らは造船所の見学や、進水式に立ちあう事があったが、そこで彼らは、アメリカの工業力の一端を見せ付けられていた。
彼らは、12回の進水式に立ち会ったが、そのうち、7回は大型艦の進水式であった。
その中でも、アメリカ海軍の今後の主役となるであろう、リプライザル級航空母艦の2番艦、キティホークと、アイオワ級戦艦の
7番艦、ケンタッキーの進水式には圧倒された。
それ以外にも、初見であるデ・モイン級重巡洋艦3番艦セイレムや、ウースター級軽巡洋艦3番艦サヴァンナの進水式にも
立ち会っている。
レイリーとルィールは、この建艦ラッシュに驚いたが、2人が率いていた10人の留学生達は更に驚いていた。
とある留学生は、
「ミスリアルがアメリカと戦争したら1ヶ月も持たない」
と嘆いたほどである。
「アメリカが今作っているキトカン・ベイ級護衛空母なんて、1年間で40隻も作られているほどだ。週単位で小型空母を。
月単位で大型空母を竣工させ、前線に投入できるほどの力を持つ国と戦うシホールアンルとマオンドか……連中が早く講和
したがるのも無理はないな。」
「確かにね。」
月単位で大型空母を竣工させ、前線に投入できるほどの力を持つ国と戦うシホールアンルとマオンドか……連中が早く講和
したがるのも無理はないな。」
「確かにね。」
ルィールはクスリと笑う。
「でも、その最後の望みも、ルーズベルト大統領の英断で潰えた。これから、シホールアンル、マオンドは厳しい状態になるな。」
レイリーはそう言いながらも、心中ではこの両国対して、幾ばくか同情の念を抱いていた。
それから20分後、唐突に、飛行場の方から聞き慣れない音が響き始めた。
「…レイリー、何か、変な音が聞こえない?」
ルィールは、コップに入った水を一口飲んでから、レイリーに話しかける。
「ああ。聞こえるよ。」
彼は頷きながら、長い耳を音のする方向に傾ける。
普通の飛行機が発する音とはまるで違う。通常、航空機のエンジン音は重々しく感じる。
所が、今聞こえているこの音は妙に甲高いもので、耳にはキーンという高い音が響いている。
2人は音のする方向。反対側の窓に顔を向けた。
彼らは、すぐに音の正体を突き止める事が出来た。
普通の飛行機が発する音とはまるで違う。通常、航空機のエンジン音は重々しく感じる。
所が、今聞こえているこの音は妙に甲高いもので、耳にはキーンという高い音が響いている。
2人は音のする方向。反対側の窓に顔を向けた。
彼らは、すぐに音の正体を突き止める事が出来た。
「あれは……飛行機か?それにしては……」
「前にプロペラが付いていないね。」
「前にプロペラが付いていないね。」
2人は言葉を交わしながら、滑走路に移動していく“プロペラ無しの飛行機”を見つめていた。
2分ほどで、その不思議な飛行機は滑走路の端に辿り着き、そこでしばしの間待機していた。
2分ほどで、その不思議な飛行機は滑走路の端に辿り着き、そこでしばしの間待機していた。
「何か、やけにほっそりとした飛行機だね。」
「そうだな。それに、操縦席の下側に穴が開いているぞ。あれは一体、何のために?」
「さぁ…」
「そうだな。それに、操縦席の下側に穴が開いているぞ。あれは一体、何のために?」
「さぁ…」
2人は、その未知の飛行機をじっくりと観察する。
プロペラの無い未知の飛行機は、無骨な印象のあるこれまでのアメリカ軍機とは違って、全体がすっきりとしている。
(まるで、速さのみを追求したみたいだな)
レイリーは、心中でそんな印象を抱いた。
ふと、唐突に飛行機が滑走を始めた。その時、飛行場に木霊する音が急に高まった。
先ほどの甲高い音の代わりに、雷が間延びして響くような重低音が響いて行く。
大気が、これまでに経験した事の無い轟音にビリビリと震えているかのような錯覚に捉えられた。
プロペラの無い未知の飛行機は、通常の飛行機よりも長い距離を滑走してから、大空に舞い上がった。
プロペラの無い未知の飛行機は、無骨な印象のあるこれまでのアメリカ軍機とは違って、全体がすっきりとしている。
(まるで、速さのみを追求したみたいだな)
レイリーは、心中でそんな印象を抱いた。
ふと、唐突に飛行機が滑走を始めた。その時、飛行場に木霊する音が急に高まった。
先ほどの甲高い音の代わりに、雷が間延びして響くような重低音が響いて行く。
大気が、これまでに経験した事の無い轟音にビリビリと震えているかのような錯覚に捉えられた。
プロペラの無い未知の飛行機は、通常の飛行機よりも長い距離を滑走してから、大空に舞い上がった。
「うわぁ…凄い音だ。」
「な、なんなのあれ?中に雷でも積んでいるの!?」
「な、なんなのあれ?中に雷でも積んでいるの!?」
ルィールが興奮しながら、レイリーに聞いて来る。
「いや、雷は積んではいないだろう。でも、今までのよりも新しく、画期的な動力を積んでいる事は間違いないだろうな。」
レイリーの言葉を聞いたルィールは、思わず絶句する。
彼女は、今しがた飛び上がった飛行機に目を向けたが、その飛行機はあっという間に飛び去って行った。
5分ほど間を置いてから、未知の飛行機は基地の上空に戻って来た。
彼女は、今しがた飛び上がった飛行機に目を向けたが、その飛行機はあっという間に飛び去って行った。
5分ほど間を置いてから、未知の飛行機は基地の上空に戻って来た。
「遠くからも音が聞こえるな。どうやら、動力部の馬力は今までの航空機と比べて、桁違いかもしれないぞ。」
レイリーはそう話しながらも、頭の中で速度計測の魔法を起動させる。
この魔法は、敵ワイバーンの速さを測るために作られた物で、最大で400レリンク(800キロ)の速度まで探知できる。
未知の飛行機は、飛んで行った方角から戻って来た。レイリーは、その未来位置に視線を固定する。
(さて、新型機の速度はどれぐらいかな……)
彼は期待しつつも、米軍機が通り過ぎるのを待った。
次の瞬間、飛行機が全速と思われるスピードで基地の上空を通り過ぎた。
スピードは思っていた以上に早く、その轟音たるや、これまでの航空機とは比べ物にならない。
飛行機が通り過ぎた後も、しばらくはその余韻が残っていた。
(瞬速とは、まさにこういう事を言うのだろうな)
レイリーはそう思った。この時、計測の結果が出た。
この魔法は、敵ワイバーンの速さを測るために作られた物で、最大で400レリンク(800キロ)の速度まで探知できる。
未知の飛行機は、飛んで行った方角から戻って来た。レイリーは、その未来位置に視線を固定する。
(さて、新型機の速度はどれぐらいかな……)
彼は期待しつつも、米軍機が通り過ぎるのを待った。
次の瞬間、飛行機が全速と思われるスピードで基地の上空を通り過ぎた。
スピードは思っていた以上に早く、その轟音たるや、これまでの航空機とは比べ物にならない。
飛行機が通り過ぎた後も、しばらくはその余韻が残っていた。
(瞬速とは、まさにこういう事を言うのだろうな)
レイリーはそう思った。この時、計測の結果が出た。
「こんなのを、間近でずっと聞かされたら、難聴になっちゃうわね。」
「確実になるな。それに、あいつはとんでもない化物だぞ。」
「確実になるな。それに、あいつはとんでもない化物だぞ。」
レイリーは、呆れた顔つきを浮かべながら、ルィールに顔を向ける。
「俺は今、速度計測の魔法であいつのスピードを調べてみた。」
「几帳面ね。で、どれぐらいだったの?」
「……実を言うと、計測不能だ?」
「計測不能?んな馬鹿な。」
「……実を言うと、計測不能だ?」
「計測不能?んな馬鹿な。」
ルィールが困惑する。
「速度計測の魔法は、400レリンクまで計測できるのよ?計測不能なんて……もしかして、術式の起動方法を
間違えたんじゃないの?」
「いや、それは無い。というか、この魔法で術式の起動に失敗したら、しばらくは頭痛で寝込むぞ。」
「…まさか。」
「そう、そのまさかさ。」
間違えたんじゃないの?」
「いや、それは無い。というか、この魔法で術式の起動に失敗したら、しばらくは頭痛で寝込むぞ。」
「…まさか。」
「そう、そのまさかさ。」
レイリーは空を見え上げてから答えた。
「計測魔法は、アレが早過ぎたために計測不能となったんだ。あのプロペラの付いていない飛行機は、確実に
400レリンク以上は出ている。」
「………」
400レリンク以上は出ている。」
「………」
ルィールはまたもや絶句する。
そして、彼と同様に空を見上げた。
そして、彼と同様に空を見上げた。
「アメリカって、とんでもない兵器を次から次へと作って行くわね。」
「ああ。」
「ああ。」
レイリーは苦笑する。
「本当。シホールアンルとマオンドの奴らが、可哀そうで仕方がないよ。」
彼は、憐憫を込めた口調で、レイリーにそう言ったのであった。
彼らが初めて目にしたプロペラの無い飛行機だが、2人は後になって、その飛行機の名前を知る事になる。
その名は、ロッキードP-80シューティングスター。
アメリカが新たなる決意を表したこの日。
2人のエルフは、ジェット時代の到来を初めて目の当たりにする事となった。
P-80の発する轟音は、まるで、アメリカの断固たる意志を世界に向けて叫んでいるようだったと、ルィールとレイリーは、
戦後、仲間達に向けてそう話す事になる。
2人のエルフは、ジェット時代の到来を初めて目の当たりにする事となった。
P-80の発する轟音は、まるで、アメリカの断固たる意志を世界に向けて叫んでいるようだったと、ルィールとレイリーは、
戦後、仲間達に向けてそう話す事になる。