自衛隊がファンタジー世界に召喚されますた@創作発表板・分家

265 第197話 死霊の行く大地

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第197話 死霊の行く大地
1484年(1944年)11月18日 午前8時30分 トハスタ市

トハスタ市街地の中心部にある行政庁舎内に設けられている会議室で、トハスタ領領主であるイロノグ・スレンラド侯爵は、トハスタ方面軍
司令官のラグ・リンツバ大将を始めとする方面軍首脳部と共に、次々と舞い込んで来る報告の対応に追われていた。

「閣下!リィクスタ方面隊より追加報告であります!」

既に、幾度も会議室を出入りしている魔道士が張りのある声音で(無理に元気を出そうとしているようにも見える)、リンツバ大将の側に
歩み寄り、魔法通信の内容を書き記した紙を手渡した。
早朝から幾度も凶報を伝えられていたせいか、常に渋面を浮かべていたリンツバ大将の顔が、より一層渋さを増した。

「スレンラド候。リィクスタの部隊より続報が入りました。現在、リィクスタでは、既に町の東部分が、凶暴化した暴徒共と、謎のキメラに
よって制圧されました。暴徒の鎮圧に当たっていた都市警備隊と第7連隊は、10分前に防御線を突破され、後退中です。目下、住民の避難を
急がせると同時に、町の西部分に新たな防御線を敷き、そこで暴徒の阻止を試みるようです。」
「犠牲者はどれぐらいかね?」

スレンラドは、顔を俯かせたまま、リンツバ将軍に質問する。

「今の所、住民の犠牲者は、暫定ながら3000人以上にのぼり、負傷者は500人です。警備隊と第7連隊は、総計で死者58名、
負傷者120名を出しております。」

リンツバ将軍は、一旦言葉を区切りってから続ける。

「負傷者の中にも、暴徒化する者が続出しております。620名の負傷者も、いずれは……」
「彼らも死人となり、生ける者達目掛けて襲って来る。そうだね?」
「……はっ、仰せのとおりでございます。」

リンツバ将軍の言葉を聞いたスレンラドは、深いため息を吐いた。

「一体……誰が、この悪夢のような地獄絵図を作り出したのだ……!」

スレンラドは小声で呟いたが、最後は怒りのあまり、声がわなないた。
しばしの間、室内は静寂に包まれる。

それから10分ほどが経った後、沈黙は唐突に破られた。
ドアが開かれる音が聞こえ、スレンラドは音のした方向に顔を向ける。

「領主様、少しお話したい事があるのですが……」
「君か。」

スレンラドは、会議室内に入って来た痩身の男を見るなり、相好を崩した。
細身の男……ダビウス・ティルクは、スレンラドが独自に組織したトハスタ騎士団(別名都市警備隊の事である)の指揮官を務めている。
今回の一連の騒動でも、ティルク指揮下の部隊が第一報を伝えてきている。

「いいぞ。こっちに来てくれ。」

彼は、手招きでティルクを呼び寄せる。

「実は……気になる情報を掴んだのですが…」
「気になる情報だと?」

スレンラドは怪訝な表情を浮かべつつ、ティルクに聞き返す。

「はっ。これは、私の指揮下にある特戦隊の指揮官から聞いた話なのですが、何でも、ナルファトス教の教会や施設に居た教団関係者達が、
昨日の未明までにこのトハスタから姿を消してしまったようなのです。」
「姿を消しただと?それはどういう事だね?」
「わかりません……」

スレンラドは眉をひそめた。

「わかりません……と言われても、私は困るのだがね。」

彼は、歯切れの悪い騎士団長を不快気な目付きで見つめる。
だが、その次の瞬間には、スレンラドはティルクが何を言わんとしているのかが理解できた。

「騎士団長……まさか、君は……」
「はっきり言いまして、証拠も何も無いため、詳細はわかりません。ただ、トハスタ領にいた、計2000名以上ものナルファトス教関係者が、
そっくりそのまま、トハスタから姿を消した事。その直後に行われた、この大暴動……これは単なる偶然かもしれませんが……」

ティルクは、顔を青くしながらスレンラドに言い続ける。

「この無差別的に起きている暴動の中で、教団関係者だけが事前に領内から姿を消した。推測で物事を判断するのは良くない、という事は
十分承知しております。しかし……私としては、この2つの出来事が連動しているのでは?という疑念が、先程の情報を得てからずっと、
胸の内で渦巻いているのです。」
「騎士団長!馬鹿な事を言うのはやめたまえ!」

リンツバ将軍が、厳しい口調でティルクを叱りつける。

「ナルファトス教は、このマオンドの偉大なる国教なのだぞ!ナルファトスは、これまでにマオンドに尽くし、マオンドにも助けられて来た。
そのナルファトスが、主同然の共和国に盾突く筈が無い!」

リンツバ将軍はスレンラドに顔を向けた。

「殿下。もう1度、中央に確認を取りましょう。早く確認を取らなければ、ジクスを始めとする諸都市は暴動に飲み込まれてしまうでしょう。」
「……将軍、魔法通信はトハスタ領内のみでしか使えん。領外に送った通信は、何一つ返事が無いではないか。」
「閣下、領内のみは魔法通信が行えて、領外には一切通じない…となると……これは、明らかに人為的な妨害工作ではありませんか?」
「うむむ……暴動を計画した者が、密かに魔道士を集めて妨害を行っているのではないかな?」
「閣下。お言葉ですが…この広大なトハスタ領に魔法通信妨害の術を施すには、事前に妨害魔法を発動できる金属缶を、最低でも4000個は
集めて領境に配置しなければなりません。」

リンツバ将軍の隣に控えていた、大佐の階級章を付けた魔道参謀が言う。

「この金属缶も、術式発動の魔法石と含めて用意しなければいけないため、費用が掛かります。ただ1個の金属缶を用意するだけでも、国軍兵士に
支払う給料1カ月分の費用が掛かります。それを4000個も用意するとなれば莫大な資金と資材が必要になります。また、金属缶も特殊な方法で
製造されている他、製造工場が首都近郊や南部地域のごく限られた場所にしか存在しないため、資金力の乏しい野党等が、容易く数を揃える事は
出来ないばかりか、出来たとしてもアシがつきます。」
「しかし、現に魔法通信は妨害されておるではないか。」

リンツバ将軍は尚も食い下がった。

「暴動を計画した者達が、容易に金属缶や魔法石を集める事が出来たから、我々は苦境に陥って……」

唐突に、リンツバ将軍は言葉を失った。
表情を凍りつかせた彼は、しばし呆然自失となっていたが、何か呟きながら頭を横に振ってから、改まった口調で言葉を紡いだ。

「……ともかく、魔法通信が使えないのであれば、何か別の方法で連絡を取るしかない。」

リンツバ将軍は地図に視線を向ける。
彼の視線は、トハスタ南部のコルザミ付近で止まった。

「そうだ。ワイバーン隊の中から1騎を領外に飛ばして、トハスタの状況を知らせてはどうかな?」
「ワイバーンを使うか。うむ、良い案だな。」

スレンラドもリンツバ将軍の案に賛成する。他の幕僚達も同意とばかりに頷いた。

「将軍、魔法通信が使えぬ以上は仕方がない。時間はかかると思うが、すぐにワイバーン隊に連絡し、このトハスタで起きている
事件を中央に知らせよう。」
「わかりました。すぐに手配いたします。」

リンツバ将軍は頷きながら言うと、他の幕僚達に命令を伝え始めた。

「……殿下、少しよろしいでしょうか?」

不意に、スレンラドの耳元でティルクが囁いて来た。

「……何だ、まだ何かあるのか?」

スレンラドに聞き返されたティルクが頷く。

「ここでは話せません。」
「ふむ……」

スレンラドはしばし黙考したあと、席から立ち上がった。

「将軍。私は少し席を外す。10分ほどしたら、またここに戻って来る。」
「はっ、わかりました。」

リンツバ将軍に伝えると、スレンラドはティルクを引き連れて、会議室から退出した。
2人は会議室から出た後、スレンラドの執務室に入って行った。
スレンラドは、ドアを閉めてからティルクに顔を向ける。

「それで、話とは何かね?」
「殿下……もしかしたら、我々は、中央から見捨てられたのではないですか?」
「見捨てられた……か。何故そう思う?」

スレンラドは、務めて平静な声で聞き返す。

「領境一帯に展開されている不思議な通信妨害……このトハスタは広大です。どこの馬の骨かも分からぬ夜盗風情や、英雄気取りの反逆者が、
このトハスタ一体の魔法通信を妨害できるだけの資材を揃え、設置できるとは、とても思えません。ですが、」

ティルクは、俯きがちだった顔を上げ、真っ直ぐスレンラドの目を見据えた。

「それを出来る者は、居ないとは限りません。」

「居ないとは限らない……だと?」
「ええ。」

ティルクは頷いた。

「中央政府ならば……このトハスタ領一体の通信を妨害するだけの資材と人材、そして設置する時間を確保する事は、十分に可能です。」
「まさか……このトハスタ領は、純然たるマオンドの領土だ。確かに中央はいささか、胡散臭い所があるが、こと、領土に関しては、
出来る限りの事を尽くして維持しようとして来た。陛下も昨日、援軍を送るまではしばし我慢せよと、直々に魔法通信を送って来られた。
あの差別好きで有名な陛下がだぞ?この神聖な領土を、中央は決して見捨てはしない。」
「神聖な領土……確かにそうでしょうね。では、何故……このトハスタに居る軍は、大半がトハスタ出身の将兵で固められているのですか?
それも、将軍クラスも含めて。」
「それは、祖国防衛戦であると同時に、郷土防衛戦でもあるという事もあるからではないか?戦場では、地形を知る者が有利になる。
軍司令部は、そこを考えて、あえてトハスタ出身者で固められている2個軍を、このトハスタに配備したのではないか?」
「ワイバーン隊の竜騎士も丸ごと、トハスタ出身者ですぞ?殿下、これはおかしいではありませんか?」

ティルクは眉をひそめながら言う。

「元々、私は正規軍で様々な仕事をこなし、最終的には3個師団からなる戦闘軍団を率いていた身ですから、軍の編成に関しては
多少なりとも分かりますが……軍の編成では、同郷の者が1つの部隊に集まるという事は多々あります。ですが……」

ティルクは、信じがたいと言わんばかりに言葉を放った。

「陸軍のみならず、ワイバーン隊までもが、“ほぼ丸ごと”同郷者……それも、一領地から出身した将兵だけで固められているのは、
一度も見た事がありません。」
「一領地だけ……トハスタに居た2個地上軍、1個空中騎士軍が、ほぼトハスタ出身者のみ……リンツバ将軍からは、トハスタ出身者が
多いようだ、と聞いていたが。」
「中央には、未だにトハスタでは独立気運が維持されている、と言いがかりを付ける者が多く居るようです。殿下、もしかしたら、
今回の騒動は……中央が中心になって引き起こした物では?」
「そんな……馬鹿な!」

スレンラドは、思わず大声で叫んでしまった。

「我々トハスタ人は、マオンドに統合されて以来、マオンド人たるべくして日々尽くしてきている。先の戦争でも、トハスタ出身の師団は
少なからぬ貢献をしている。トハスタに集められた軍も、錬度が高いと言われていた部隊ばかりだ。13万近くもいる将兵や180万の
民を無為に殺してまで、この戦争に勝とうとする馬鹿な考えがあるものか!?」

スレンラドは、ティルクの言葉が信じられず、半ば八つ当たりに近い形で言葉を放つ。
しかし、ティルクは尚も冷静な口調で言い続けた。

「……では殿下。今起きている状況はどういう事ですか?」
「………」

スレンラドは答えようとしたが……どういう訳か、言葉が出ない。
10秒ほど間を置いてから、ようやく言葉を言い放つ。

「とにかく、今の段階で中央政府が犯人であると思うのはいかん。アメリカ軍が、ミスリアルの支援を受けて行った可能性も否定はできない。
ひとまず、偵察ワイバーンを派遣して中央と連絡を取ろう。話はそれからだ。」
「……わかりました。」

ティルクは不承不承ながらも、スレンラドに頷いた。

「そういえば、住民の避難状況はどうなっている?」
「現場は混乱の極みにあります。ですが、無傷の住民達は多数が、各都市からトハスタ市に向けて脱出しつつあります。脱出者の中で、
暴徒化する者は今の所おりません。ただ……」

ティルクは表情を曇らせる。

「被害は現在も、急速に拡大しつつあります。先程の暫定報告では、リィクスタ、リルマシク、シィムスナでは、合計2万名の住民が死傷し、
負傷者の中に暴徒化する者が続出し、軍部隊や警備隊の抵抗線を圧迫しています。ジクスでは一方向からではなく、市街地の全方位に渡って
暴徒が押し寄せたため、ジクスに居た38000の住民のうち、7000名が被害に遭い、住民達は、半ば暴徒に包囲された形になっています。
現在、ジクス駐留の軍部隊と警備隊が突破を図っています。」

「突破は出来そうか?」
「……各隊とも奮闘しておるようですが、今の所は、何とも言えぬようです。」
「わかった。」

スレンラドは頷きつつも、僅かな時間で、民衆にこれだけの被害が出た事に内心、ショックを受けていた。

「とにかく、今は連絡が回復するのを待ちつつ、民の被害を抑えながら、各都市を放棄するしかない。」

スレンラドは、ため息を吐きながらそう言った。

「我々に出来る事は、それしかないだろう。」


11月18日 午前8時30分 リィクスタ市街地

第7連隊に所属している第21対空大隊は、リィクスタ市街地の西地区入口付近に陣を構え、迫りつつある暴徒の群れを迎え撃とうと
していた。
第21対空大隊第2中隊の指揮官であるスニスト・イヴェンル大尉は、2階の屋上から住民達が西地区の出入口目指して逃げている
様子を見つめていた。

「急げー!化け物共が押し寄せて来るぞ!」

道の縁側には、武装した警備隊員や、連隊の兵士達が避難誘導に当たっている。

「中隊長、避難ももうすぐで終わりそうですな。」
「ああ。」

イヴェンル大尉は、声を掛けて来た部下に顔を向けずに答える。
彼の視点は、避難民の列の最後尾に向けられている。

「本当なら、あの列の後ろにもっと続いていた筈なんだが、10分ほど前に突如襲いかかって来たキメラと、後からやって来た暴徒共に
相当数が殺されたからな。」

彼は、視点を列から500メートルほど離れた煙の所に向ける。
今では、そこは白煙で覆われているため、煙の中の様子を見る事が出来ないが、今から10分程前、避難民の列はあの煙の中の更に後ろまで続いていた。
キメラの襲撃は唐突に行われた。
まず、列の両側から護衛の兵士達を狙った魔法が放たれ、爆発が起きた。
爆発は兵士のみならず、住民達をも巻き添えにした。
早朝から立て続けに起きた恐怖体験の連続で、神経を擦り減らせていた住民達はパニックに陥った。
そこを狙ってから、6頭のキメラが列の両側から現れ、住民達や護衛兵達を次々と殺しまくった。
列から分断された避難民が何人いたかは定かではないが、少なくは無かった。
キメラ達は、護衛兵の果敢な抵抗をあっさりと蹴散らしながら、思う様に殺しを続けた。
キメラに襲われなかった者は、後から続いて来た暴徒共に襲われ、全身に歯を突きたてられながら、1人、また1人と地面に押し倒され、食い殺されていった。
化け物達は更に、逃げ惑う避難民目掛けて襲いかかって来たが、イヴェンル大尉の対空中隊はそのキメラ目掛けて全力射撃を行い、たちまちのうちに
2頭のキメラを射殺した。
キメラを撃退した後は、暴徒共が避難民達を追撃しようとしたが、この暴徒共にも容赦のない射撃と砲撃が加えられ、敵の進出は一時的に抑えられた。
そのため、彼らはこうして、一息いれている訳だが……

「畜生、煙が晴れてきやがった。」

イヴェンル大尉は忌々しげに呟く。
霧が薄れたのを見計らったかのように、薄い煙の向こうから、幾人もの暴徒達が、不安定な足取りで歩いて来る。
イヴェンルは望遠鏡を覗いて、遠くの暴徒達を見つめた。
千鳥足で向かいつつある暴徒達は、外見から見れば暴徒には見えない。
彼らは、いずれもが重傷を負っている。ある者は、首に噛み千切られたような傷を負い、ある者は腹部を真っ赤に染め上げ、腹の内容物を垂らしている。
暴徒達は、男のみならず、老人や女、子供まで含まれている。どれもこれもが、致命的な傷を負っており、暴徒と呼ぶには、死にかけた傷病人と言った
方がふさわしいだろう。
だが、軍や警備隊の兵士達は、向かいつつあるそれらを、あえて“暴徒”と呼び続けていた。

「おい、あいつらが来たぞ。射撃用意。」

イヴェンルは、冷静な口調で指示を伝える。

「撃て!」

小さいながらも、鋭い声音が放たれた。その直後、彼の陣地に居た兵士が魔道銃を発射した。
イヴェンルのいる陣地には、4丁の魔道銃が配備されている。
元々、この陣地には2丁しか無かったのだが、大隊本部からの命令で更に2丁が追加された。
彼の居る陣地のみならず、他の陣地で待機していた射撃班も同様に魔道銃を撃ち放つ。
その時、もそもそと歩いていた暴徒達が、急に走り始めた。
最初に放たれた一連射は、悉く空振りに終わり、僅か7、8名の暴徒を討ち取っただけに終わった。
走り寄りつつある暴徒はかなり多い。
先頭に続く暴徒達は、最低でも200名は下らないだろう。いや、後続はまだまだ居る事から、最悪の場合はその倍以上は続いているだろう。

「チッ、やはりそう来たか。」

イヴェンルは舌打ちをする。
彼は、後退して来た軍の将兵から、すれ違いざまに先頭の内容を聞いている。
暴徒共は、時々走りだす事があり、気が付いた時には部隊の中に突っ込んで、兵士に次々と襲いかかった、と言われている。
イヴェンルは、それを聞いた直後は半ば信じられなかったが、10分程前に起きた惨劇と、今、目の前で展開されている光景を見た事で、
あの兵士が言った事は本当だと確信した。

「なるほど。あの動きなら、鎮圧に動いた部隊が散々にやられたのも納得出来る。だが……相手が悪かったな。」

イヴェンルは人の悪い笑みを浮かべる。
イヴェンルの自信を表すかのように、4丁の魔道銃は狂ったように撃ちまくっている。
この魔道銃は、元々シホールアンル製の対空用の1.2ロレグ魔道銃であり、歩兵部隊に配備されている魔道銃と違って、
口径が違う分、威力が大きい。
彼らは知らないが、威力は米軍が使用する12.7ミリ50口径機銃よりも強いため、突き進んで来る暴徒達には
恐ろしい制圧力を発揮した。
照準を修正した魔道銃が、重々しい発射音を響かせながら七色の光弾を暴徒目掛けて放ち続ける。

イヴェンルの陣地から放たれた光弾と、別の陣地から放たれた光弾が暴徒共の左右から注がれた。
まともに十字砲火を食らった暴徒がばたばたとなぎ倒されていく。
光弾の威力が高いため、暴徒達は手足か、あるいは胴体を引き千切られ、運の悪い暴徒は頭を吹き飛ばされて倒れ伏す。
走り寄ろうとしていた暴徒共は、魔道銃の猛射の前に、あっという間にその数を減らしつつあった。

「ようし、これなら阻止できそうだぞ!」

イヴェンルは、次々と魔道銃に討ち取られていく暴徒を見ながら、満足気な笑みを浮かべた。
激減する暴徒を見て溜まりかねたかのように、街道の左右から、俊敏そうな外観を持つキメラが飛び出して来た。
キメラは、軽快な動きで建物の屋上伝いに飛び移りながら、対空陣地に向かって来る。
キメラの存在に気が付いた銃座が即座に反応し、光弾を浴びせかけた。
1頭のキメラが、次の建物の屋上に飛び移ろうとした瞬間、前方から注がれた光弾の嵐に両脚を引き裂かれ、体勢を崩して建物と
建物の間に落ちていった。
別のキメラは、目標である対空陣地まであと100メートルと迫った瞬間、別の目標を売っていた陣地の魔道銃が突如向きを変え、
近寄りつつあったキメラ目掛けて撃ちまくる。
光弾の集束弾をもろに受けたキメラは、頑丈な筈の体をずたずたに引き裂かれ、被弾した反動で後ろ向きに吹き飛ばされて、建物の
屋上から落下して行った。
対空陣地は健闘したが、キメラの攻撃を完全に防ぐ事は出来なかった。
ある対空陣地は、2頭目のキメラを射殺した所で、懲りもせずに近寄ろうとしている暴徒に狙いを定めた瞬間、いきなり、横合い
からキメラに襲われた。
両手の長く、鋭い鉤爪が対空要員の体を容易く引き裂く。
最初の一撃で仕留め損ねた兵には、その強力な牙で食らい付き、兵士は激痛を感じた瞬間に首をもぎ取られた。
1つの対空陣地が、1頭のキメラによって瞬く間に潰されていく光景は、やや後方で控えていた別の銃座からもはっきりと見えていた。

「5番銃座の奴らが殺られたぞ!」
「化け物が!これでも食らいやがれ!!」

戦友が殺された事に激高した兵が、仲間の死体を愉しげに切り刻むキメラに向けられ、躊躇なく放たれる。
4丁もの魔道銃の射撃を食らったキメラは、避ける暇も無く光弾を食らい、全身をずたずたに引き裂かれてしまった。

「思い知ったか!化け物!!」

キメラを討ち取った射手が歓声を上げた。再び狙いを、道を走りぬけようとする暴徒に向ける。
暴徒に魔道銃を撃ち始めてからわずか10秒ほどで、別の方角から2頭のキメラが現れる。

「おい、また化け物が来やがったぞ!3番銃座がやられてる!」
「くそ、こっちはあの不気味な奴らを相手しているというのに!」

魔道銃の射手は愚痴を言いながら、仲間を襲うキメラに狙いを付ける。
3番銃座も5番銃座と同様に、射手や待機していた兵があっという間に殺された。
キメラが、3番銃座の兵員を抹殺するに要した時間は、キメラが2頭と多かった分、5番銃座の時よりもかなり短かった。
キメラは7番銃座に目を向けると、建物の屋上を飛び伝って襲いかかって来た。

「撃て!近付けるな!!」

銃座の指揮官である軍曹が、金切り声を上げて命じた。
4つの筒先は、銃座に向かって飛び跳ねて来るキメラに向けられ、すぐに放たれる。
1頭のキメラに4丁の魔道銃から放たれた光弾が集中し、キメラの全身に着弾する。最終的に首を吹き飛ばされ、胴を二つに分断された
キメラは、町の街道に惨死体を晒すだけに終わったが、残りの1頭が銃座へ急接近した。
魔道銃が残る1頭に狙いを定め、猛射を加える。今度のキメラも、先の1頭目と同様に光弾の集中打を食らった。
しかし、2頭目との距離が近すぎた。
キメラがおぞましい雄叫びを上げながら銃座に飛び込んで来る。その際に、鎌状に変形した両腕を、着地間際に振り抜いた。
その瞬間、2人の射手が首を切られ、なにが起きたのか理解できぬまま絶命した。

「!?」

軍曹が顔を青く染めながら、銃座に飛び込んで来たキメラを凝視する。
その瞬間、キメラの顔に青白い光が走った、と思いきや、その顔が爆ぜた。

「なっ……!」

軍曹は、驚きの表情を浮かべたまま、屋上から地面に落ちていくキメラを見つめる。

「軍曹、大丈夫でありますか!?」

彼の耳に、分隊付きの魔道士の声が響く。

「あ、ああ。なんとかな。それより、さっきの攻撃は…」
「はい。私がやりました。咄嗟に威力の強い攻勢魔法で攻撃したので、何とか仕留める事が出来ました。」
「そうか、恩に着るよ。」

軍曹は、ホッとしながら魔道士に礼を言った。
彼は再び、残った魔道銃で暴徒を撃てと命じた。射手は命令通りに魔道銃を撃ちまくり、尚も防衛線の突破を図る死人達に痛打を与えた。
だが、敵を阻止する筈の光弾の数は、最初と比べて大幅に減っていた。
暴徒共は、残った魔道銃の猛射の前に次々と打ち倒されていくが、それでもじりじりと銃座に近付きつつある。

「中隊長!銃座が敵の化け物にやられたせいで、火力が集中できません!」

イヴェンルは、その報告を聞いて眉をひそめる。

「くそ、訳の分らん化け物共が、邪魔しやがるせいで……!」

彼は悔しげに呟くが、唐突に、彼の背中を誰かが押した。

「ぬ……何だ!!」

イヴェンルは、苛立ち紛れに叫びながら、後ろを振り返る。
目の前には、他の銃座を襲いまくっていたキメラと似た化け物が、荒い息を吐きながら立っていた。

「……!」

彼は絶叫を上げかけたが、口を開ける前に、彼の顔面はキメラの巨大な拳によって、真上から叩き潰された。

午前10時30分 リィクスタ市街地上空

空母イラストリアスから発艦した1機のハイライダーが、リィクスタ市街地上空に到達した時には、時計の針は
午前10時30分を回っていた。

「6時方向の敵ワイバーン、急速に遠ざかっていきます。」

機長であるフィスト・デハビラント大尉は、帰還して行く敵ワイバーンを不思議そうな目付きで見つめながら、後部座席にいる
ジェフェリー・フィングルス1等兵曹の報告を聞いていた。

「俺達に向かって来る事は無いようだな。」

デハビラント大尉は、腑に落ちぬと言った表情で呟く。

「ジェフ。連中、少しおかしいと思わんか?」

デハビラントは、フィングルス兵曹に聞く。

「少しどころじゃないですぜ。」

フィングルス兵曹もまた、理解に苦しむと言わんばかりの口ぶりでデハビラントに答える。

「連中、町の一角に爆弾をぶち込んだと思いきや、4、5分ほど、爆弾を落とした周辺に火を噴きまくっていましたよ。」
「この町では、早朝から暴動が起きているとか言われているが……ここはマイリー共の町だぜ?なのに、あんな……怒り狂ったような攻撃を、
軍事施設でも無い町に行うとは……」

デハビラントは、15分ほど前から見続けたその一部始終を、再度思い出す。
今から25分ほど前、2人の乗るハイライダーは、高度4000メートルを維持しながらトハスタ市上空に到達した。
この日の天候はやや曇り気味で、雲量も多かったが、2人は雲の隙間から市街地の偵察を続けていた。
10分ほど、トハスタ市の偵察を続けていた所へ、唐突にワイバーンの編隊が南方向から現れた。

デハビラントは危険を察知し、機を一旦海側へ逃がそうとした。
だが、フィングルス兵曹は、ワイバーン群がトハスタ市よりも内陸にあるリィクスタ市街地に向かっている事に気が付いた。
フィングルス兵曹からその知らせを受けたデハビラントは、雲を利用しながら、ワイバーン群の後を追う事に決め、
慎重にワイバーン編隊の後を付けた。
不思議な事に、町に向かうワイバーンは僅か7、8騎ほどしか居なかった。
デハビラントとフィングルスが、出張って来たワイバーンの少なさに首をかしげた時、リィクスタ市街地が見えて来た。
どういう訳か、リィクスタの町からは、幾つもの火災煙と思しき煙が上がっていた。
いや、煙が上がっているのはリィクスタのみならず、その北側に位置しているリルマシクや、シィムスナ側からも、
数え切れないほどの煙が上がっていた。
これは一体どういう事かと、2人が頭で考え始めたその瞬間、町の上空で旋回していた7、8騎のワイバーンは、
町の西側と思しき場所に向けて
猛然と急降下を開始し、あろう事か、爆弾を町の建物の群れに叩き付けた。
爆弾を落としただけでは物足りなかったのか、ワイバーンは低空飛行で光弾の掃射やブレスの放射を繰り返し行った後、
慌ただしく帰還していった。
この、敵が起こした突然の奇行を前にして、2人はしばし呆然となった。

「機長、マイリー共のワイバーンは、かなり激しく攻撃を行っていましたが……飛行長は確か、トハスタ方面で大規模な暴動が
起きていると言っていましたね?」
「ああ。そう言っていたな。」
「もしかして、相当性質の悪い暴動が起きているんじゃないですかな。例えば、軍部隊が反乱を起こしたとか。」
「……飛行長は、ただ暴動が起きているとしか言わなかったからなぁ。断言する事はできないが……」
デハビラントは、出撃前のブリーフィングを思い出す。
飛行長のヴィンク・バイラッハ中佐は、あまり詳しい情報を教えてはくれなかった。
ただ、2人にはトハスタ方面の暴動の様子を偵察して来いとしか命じていなかった。
デハビラントは、バイラッハ飛行長に他に情報は無いのか?と尋ねたのだが、飛行長は答えてくれなかった。
2人はやや納得しがたい気持ちになりつつも、イラストリアスの飛行甲板を蹴って任務に馳せ参じた。
その結果が、今、目の前で起きている不可解な事件である。

「あのトカゲ共の暴れようからして、その線は確実かもしれん。」

デハビラントはそう答えつつ、機の周囲を確認した。
2人が乗るハイライダーの周囲は、見た限りではどこにも敵騎は居ない。上空に関してはそうだが、雲に隠れがちな下界の状況はまだ判然としない。

「しかし、ここからじゃ、下の様子が見えにくいな……さて、どうしたものか。」

デハビラントは、しばしの間考える。
(飛行長からは、ただ偵察して来いとしか言われなかった。それはつまり、あまり無理はするなという事でもある。だが、偵察屋の俺としては、
今のまま帰るのはちと不満だな……ここは、いつもの手で行くとするか)
彼は、意を決すると、後部座席のフィングルスに伝える。

「ジェフ!ここからじゃあまり分からん。一旦下に降りるぞ!」
「OK。そう来ると思ってましたよ。撮影の準備に入ります。」

後部座席の相棒からは、すでに予想済みだ、と言わんばかりの声音で返事が来た。
デハビラントとフィングルスは、今年の10月下旬にイラストリアス配属となったが、その前は太平洋艦隊所属の空母バンカーヒルで、
同じハイライダーに乗っている。
バンカーヒルには、VS-18が編成されて以来、交替期間を覗いて(米空母の艦上機搭乗員は、定期的にパイロットが交替するローテーション制を
取っている)ずっとペアで乗り組んでおり、レビリンイクル沖海戦で乗艦バンカーヒルが撃沈されてからは、しばらく待機が続いたが、今年の10月
中旬にイラストリアスで偵察隊の乗員に欠員が生じたため、補充としてVS-9へ配属される事になった。
通常なら、敵地への単独、それも、低空へ降りての偵察行となれば誰もが怖気づく物だが、太平洋戦線で経験を積んだ2人にとっては、さほど
恐ろしい物ではない。
デハビラントは操縦桿を押し込むと同時に、右のフットバーを踏んで旋回降下に移った。
濃いネイビーブルーに彩られた細身の機体が、弧を描きながら降下して行く。
高度計の針が、やや速いペースで回り、愛機は断雲を破ってリィクスタ市街地に近付いて行く。
高度計が500を下回った所で、彼は機を水平に保った。
この時、2人のハイライダーは、リィクスタ市街地の南西側から町の上空に侵入しつつあった。
対空砲火を避けるため、500キロの高速でハイライダーは町の上空に到達した。
下界に視線を向けた彼は、その瞬間、背筋が凍りつくような悪寒に囚われた。
彼は、恐ろしい物を見てしまった。
ハイライダーは、猛速で町の上空を飛んでいるが、ハイライダーに向かって放たれる光弾や高射砲弾は1発も無い。

そのため、2人は懸念していた迎撃を受ける事無く、下界の様子を見る事が出来た。
偵察機の搭乗員を務めて長い2人は、視力に関してはピカイチであり、特に、元は戦闘機パイロットでもあったデハビラントは、地上の物体をある程度
見分ける事が出来る。
その優れた視力で、彼らは、地上で展開されている地獄絵図を見る事となった。
いや、見る事になってしまった、といった方が正しかった。

「き、機長……!人が、人に噛み付いています!」
「……なんてこった……これは、本当に暴動なのか!?」

2人は、町の各所で展開されている暴動……もとい、捕食と虐殺行為を目の当たりにして驚愕した。
町の至る所で、不気味な動きをする多数の人に、少数の人が囲まれ、しまいには飲み込まれる。
最初は大雑把で分かりにくかったが、別の場所では、同じように、人ごみに飲まれたと思しき人を貪り食う集団が見受けられた。
また、とある場所では、住民がキメラと思しき化け物に惨殺されていく姿も目の当たりにした。
フィングルスのカメラは、地上の地獄絵図を鮮明にとらえ続けている。
町の東側では、幾つもの建物が炎上しており、黒煙が北東方面に流れている。
ハイライダーは、先程、ワイバーンが爆撃した個所の上空に辿りついた。

「……ここら辺は、燃えている建物が多いな。」
「それに、死体も多いですね。」

2人は、ワイバーンの空爆を受けた個所に見入っていた。
先程のワイバーン隊は、建物5、6個を粉砕した他、100名ほどの人らしき物を焼き払っていた。
だが……

「でも、人の流れは絶えていませんね。」

フィングルスは、爆弾孔の上を歩く人影を見つめながら言う。
ワイバーンの編隊は、確かに多数の人らしき物を焼き払い、引き返したが、それでも、被害を受けた個所には、200は下らぬ
人らしき集団が、西目指して歩き続けていた。デハビラントは、機首を東に向ける。
ハイライダーは、市街地の東地区に到達し、先程と同じように上空をゆっくりと旋回する。

東側にも、幽鬼のように蠢く人らしき物が多数居るが、それ以外の人間は全くと言っていいほど見当たらない。

「あちこちで火災が起きているが、ここでは騒ぎが起きていないな。」
「もしかして、生き残りは町の西側にしか居ないんじゃないんですか?騒ぎも、西側地区の方でしか起きていません。」
「かもしれんな。恐らく、町の東側に住んでいた人間は、あの人らしき物に全て殺されたんだろう。」

デハビラントはそう言ってから、視線を町から外そうとした。
ふと、彼の視界の隅で、何かが移った。
(……今のは?)
デハビラントは、視界の隅に移ったのを確かめるべく、視線を戻す。
彼の眼には、人らしき物の集団の後方で、固まって歩いている黒づくめの人影が移っていた。
愛機が、その黒づくめの人影の上空を通り過ぎたため、視界から消えさる。
彼が、今の不審な存在を確かめるべく、愛機を旋回させようとした時、

「機長!人もどきの集団の後方に人が……あっ!」
「ん?どうしたジェフ!」
「あいつら、キメラらしき化け物を操ってますよ!それに、あいつらにだけ人もどきが反応しない!!」
「何だと!?」

その瞬間、デハビラントは体が跳ね上がらんばかりに驚いてしまった。
彼は急いで愛機を旋回させ、先程の不審な黒ずくめの人影を確認しようとする。
この時、彼は、黒ずくめの人影が隠れてしまったかと思ったが、それは杞憂に終わった。
デハビラント機は、黒ずくめの人影の後方から、猛速で接近しつつあった。

「ジェフ!1度だけ、あいつらに機銃を撃つ!どうも、奴らは臭いぞ!」
「撃ち殺すんですか!?」
「出来ればそうしたいが、目的は別にある。」

デハビラントは、機銃の発射ボタンに指をかざし、照準器越しに黒ずくめの集団を睨みつけた。
高度計は500から下がり、400、300、200と推移して行く。

「機銃をぶっ放して奴らを蹴散らし、こいつのガンカメラでその様子を捉える。後で、こいつらの正体を確かめる時に使えるかもしれん。」
「なるほど、そいつは名案ですぜ!」

フィングルスは、デハビラントの考えに納得した。
高度が100以下になり、そして50メートル以下になる。機首の大馬力エンジンは、猛々しく鳴り響き、下界にその爆音を轟かせている。
黒ずくめの集団は、自分達が狙われたと確信し、蜘蛛の子を散らすかのように逃げ惑った。
デハビラントは、無言で機銃の発射ボタンを押した。
両翼に付いている2丁の12.7ミリ機銃が唸りを上げ、曳光弾が、散会しつつある黒ずくめの集団に注がれた。
走り寄る黒ずくめの人影の周囲に機銃弾着の煙が立ち込めるのを確認した瞬間、デハビラントは機首を上げた。
2人のハイライダーは、人らしき物の集団の上を猛速で飛び抜けて行った。


デハビラントは、午前10時50分に、母艦へ向けて帰投の途へ付いた。

「機長。報告終わりました。」

後ろで、母艦に報告を送っていたフィングルスがデハビラントに言って来る。

「ご苦労。引き続き、警戒を怠るな。」

デハビラントは、通常と変わらぬ冷静な声音で、フィングルスに指示を下した。

「母艦まで、あと250マイル……機動部隊は、補給作業のため、トハスタ近海に進撃するのはかなり遅くなる……その間、あの町の住民は……」

彼は、先の偵察行で見た、悲惨な光景を思い出す。
町の西側には、かなりの数の住民と思しき人がおり、さほど広い西側の門から脱出しようとしていた。
敵国の人間とはいえ、あそこに居たのは、罪の無い一般住民である。
その住民達を、必死に守るマオンド軍の姿も確認している。
あの時は、今まで憎らしげな思いしか浮かばなかったマオンド軍に賛嘆の声を上げたが、あの勇敢な兵士達も、いずれは、多数の人もどきの集団に
飲み込まれて行くのだろう。
(なぜ、あのような状況になったんだ……それに、あの黒ずくめの集団の正体は、一体?)
デハビラントは、心中で疑問に思ったが、彼には、あの不審者の集団を突きとめる事は出来なかった。

「それはともかく、マオンド軍の奴らが、何とか耐えしのぐ事が出来れば……せめて、TF73がこの近海に現れるまで頑張ってくれれば。」

彼はそこまで思ってから、いつしか、自分が、あの地獄絵図の中、必死に生き抜こうとしているマオンド軍と住民達に、同情の念を抱いている事に
気が付いたのであった。
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