自衛隊がファンタジー世界に召喚されますた@創作発表板・分家

297 外伝64

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508 :陸士長:2011/04/27(水) 19:07:10 ID:eW4IB1ds0

掃海艇乗員の憂鬱


「監視は厳重にしておけよ。作業を行う海域まではまだ距離はあるが、漂流しているブツがあるかもしれん」
「諒解しました、艦長殿」

気心の知れた副長と部下達にブリッジを任せ、彼は艦長室へと滑り込む。
ふぅ、と溜息を吐き、収納棚から蒸留酒を取り出す。
鮮やかなリンゴの絵が描かれたリンゴの蒸留酒だ。
艦長は生産地特有の技術で作られた樽の匂いと、濃厚な果実の風味が合わさったこの蒸留酒を愛していた。

しかし、今この瓶を飲み干したら次に何時購入出来るかは不明だ。
愛飲している事で個人的な友誼を得た蔵主によれば、一番出来の良かった畑が米軍の爆撃の外れ弾を受けた事。
かの地方都市が交通の要地であった為何度も米軍の空襲を受け、対空戦闘などにより町はずれの畑や蔵が滅茶苦茶になったらしい。
街の若い人口層が動員でかなり持って行かれた事もあり、街の復興は遅々として進んでないそうだ。
何カ所かの古くから続く酒蔵も閉鎖する予定だとか。

「そういえば、旦那さんの息子達も未だに連絡付かないんだっけな」

小さなキャップにチビチビと琥珀色のアルコールを注ぎ、大きな揺れが来ない内に喉に流し込む。
チリリと痺れる喉越しの良さと、口に残る風味も何故か昔ほど美味くなく感じた。
旦那さんの手紙には何度も書かれてあった。「どうして、こうなってしまったのだろうか」と。

「まぁ、あんたの気持ちは分かるつもりだ。あんたは今、軍人嫌いになっているみたいだがね」

彼らの戦いは掃海艇から武装の一切が解除された後も、米軍の監視下にある本部の指示によって続けられていた。
あの蒼空を我が物顔で飛び回っていた要塞から数え切れないほど投下された、機械式の機雷を北大陸沿岸から排除する為に。
戦勝国曰く、復興には自助努力も必要らしい。彼ら海軍の敗残兵達の仕事もまた自助努力だそうだ。

「全く踏んだり蹴ったりだぜ。戦時は敵機やガトー級に狙われながら死に物狂いで機雷を除去してきたってのによ」

彼の属した海軍は多数の支援艦を持ち、掃海艇も多数装備していた。
だが、今は見る影もない。船長は彼らがどうやって戦中で散っていったかよく知っている。

幾ら頑張って排除し続けても、それを嘲笑うかのように超空の要塞は機雷をばらまいていく。
掃海中に接触して船体が真っ二つに折れた、作業中の単調な動きを狙ったガトー級の雷撃を受けて轟沈した。
戦線に近い海域で作業をしていたらハリネズミの様に機銃を積んだミッチェルに銃撃され、文字通り蜂の巣にされた同僚の艦もある。
ようやく作業が完了し港に戻ったと思ったら、敵の空襲に遭遇し係留状態で大破着底、隊の半数が壊滅した事もあった。

「そんな目に遭い続けて、ようやく生き残ったと思ったらかつての敵に顎で使われる。ふざけてるよ全く」

しかし、まだ海の上に居る方が気楽かもしれないな、と艦長は思った。
敗軍に付きものの自国の敗者を見る民衆の白い目。
帰還兵達に向けられる冷ややかな目線と、町中に翻る勝者の旗。
無敵の祖国を信じてた兵士達は今も尚『何故?』という気持ちを抱いて生きているだろう。
自国の女達が米兵や南大陸の兵士達に春を売り、彼女らを守るはずだった自分達は道の端を俯きながら歩かなきゃいけない。

「陸の上で現実にうち拉がれているよりは、まだこうして任務をしている方が良いかもしれん。まだ……戦っていられるからな」

そう切なげに呟くと、艦長はボトルに残っていた分を全部呷った。
まだ祖国が祖国で有り得た頃に醸造された酒は、やっぱり昔ほど美味くなく感じた。
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