自衛隊がファンタジー世界に召喚されますた@創作発表板・分家

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煙が晴れるにつれ、現れた人影はハッキリと見え始める。そこに居たのは、
意外にも小さな子供であった。

「お呼びでしょうか、ご主人様」
その子供の声は高く、黒い皮膚は若々しく、正しく少年といった感じだった。
少年の上半身は裸で下には長いズボンを履いている。全体に派手さは無かったが、
ターバン止めの宝石だけは、少年には不釣り合いな輝きを見せていた。

「や、山村君。これは一体どういうことだね?」
後ろの席にいた芝尾は、状況が全く掴めないでいた。通訳の山村事務官に
話しかけるが、彼は返答もせず笑い顔で固まっている。芝尾は思わず戸惑った。

芝尾が困惑していると、そばにいた望田が自分の意見を述べた。
「これはひょっとして、向こうの魔術なんじゃないか?」

望田は現状を相手の余興だと思っていた。昔からインドやアラビアには魔術が
あるし、宴席でこちらが『時計』という超技術を見せつけたのだ。対抗して
何らかの見世物を行っても不思議ではない。

「そ、そうか、魔術か。確かにそうだな」
『魔術』という言葉を聞いて、後ろにいた幹部と隊員も納得し始める。
マジックショーならば不思議なのが普通だからだ。そうと分かれば、とりあえず
態度は決められる。拍手と喝采でもって迎えればいいのだ、と。

「おお来たか、宝石の精よ」
シャーリーフは現れた少年に話しかけると、状況を説明しはじめた。

「この商人の男が、ジンも使わずにこの時計を動かしているというのだ。しかし
私にはどうも信じられん。この中にジンが無いかどうか、確かめてくれんか」

「かしこまりました、ご主人様」
少年はシャーリーフに一礼すると、時計に手を伸ばし-時計の文字盤に
吸い込まれるようにして消えてしまった。

その途端に席の商人たちから拍手が起こり、シャーリーフは驚きあきれた。
確かに実物のジンは珍しかろうが、別に見世物という訳ではない。この
商人共は、一体何を考えているのだろうか?

「ブラボー!ハラショー!素晴らしい!」
芝尾たち自衛隊員は、素直に目の前のマジックに感動していた。自分たちの
贈った時計を、即興で道具に使ってしまうテクニックは一級と言えた。

「いやー、凄い魔術だ。これほど凄いのは見たことがない」
望田は惜しみない賞賛を贈っていたが、同時に気づいてもいた。
シャーリーフ氏の様子がおかしい。誉められているのに、一向に嬉しそうに
していない。いやむしろ、不機嫌というか不可解という表情になりつつある。

「なあ、向こうさんの様子がおかしくないか?」
「それは俺も感じた。余興をやってる人間の態度じゃない。もしかすると
誉めてるって事に気付いて無いんじゃないか?」
二人は拍手を続けながらも、小声で話していた。

「じゃあ山村に通訳して貰うか、アラビア語の誉め言葉を教わるか?」
「うーん、今の状態じゃなあ。ちょっと無理だろう」
芝尾が目線で示した先には、完全に硬直している山村が居た。何故かは
分からないが彼は凍ったような姿になっていた。

実のところ山村の脳内では、思考レベルが停止から崩壊に移っていた。
耳に魔術という『現実的説明』をできる言葉が飛び込んではいるが、
その処理は保留されており、しばらく反論を構成できない状態だった。

その様子を尻目に、時計の文字盤に消えた少年が戻ってきた。しかも今度は
時計から上半身を出現させた状態で、腰から下は煙のようになっていた。

隊員たちはさらに喝采を浴びせ、シャーリーフはますます不機嫌になっていった。
望田と芝尾は、やはり誉め言葉を使うべきなのだと考えていた。

「戻ったか。で、結果はどうだった?」
時計から出てきた少年の顔は、全く驚きに溢れていた。それにつられてシャーリーフの
顔もこわばり、そして少年は声までも驚いた調子で話しはじめた。

「中にジンは居ませんでした!ノミみたいに小さなからくりが沢山動いて
いるだけで、どこにも力が感じられません!」
「本当か?本当にジンはいなかったのか!」

少年もシャーリーフも、お互いに信じられないと言った顔をしている。少年が
興奮気味に掌を開くと、そこには小さな小さな歯車が乗っていた。
それを見たシャーリーフは、少年の言を信じないわけにいかなかった。

「中にはこれより小さな部品もありました。それから小さなクリスタルも
見つけたんですが、そこにも何も入っていませんでした」

少年から小さな歯車を受け取ると、シャーリーフは小声で言った。
「クリスタルの中にも無いとなると、本当にどこにもジンは無いようだな」

「では私はこれで。またご用の時はお呼び下さい」
少年は主人の眼前で一礼すると、煙になって額の宝石に戻っていった。
それと同時にまた拍手が起きたが、先程よりは大分控えめになっていた。
いい加減うるさく感じていた所なので、シャーリーフはほっとした。

そして彼は驚きながらも納得していった。本当に時計にはジンが入って居ない
らしいこと、そして彼らの持ってきた物が、とても高度な技術で作られていることを。
掌に乗っている小さな歯車は、その判断を肯定していた。

「お前たちは本当に商人なのか?この技術はいったいどこで?」
シャーリーフは目の前の男に聞こうとしたが、男はまるで動かなかった。
後ろの男にも声を掛けてみるが、曖昧な反応しかしない。こちらの言葉が
全く通じないらしかった。

じれったくなったシャーリーフは、もう一度額の宝石をこすった。
するとまた白煙が沸き出し、少年が現れた。

「こんどはどんなご用でしょう、ご主人様」
「彼らと話がしたい。言葉を通じるようにしてくれないか」
シャーリーフの命令に、少年は笑顔で一礼した。

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