「かしこまりました、ご主人様」
少年は両手を商人、いや奇妙な客人たちに向けると、指先からゆっくりとした
白い稲光のようなものを打ち出した。その光は客人たちを取り巻くと、グルグルと
周りを回ってすぐに消えてしまった。
「これで、彼らとの話も通じるはずです。ではまたご用が有れば・・・」
客人たちはあっけに取られて目をしばたかせていた。彼らが気を散らしている間に、
また少年は額の宝石に戻っていってしまった。
客人たちが我に返るのを待って、シャーリーフは話しかけてみた。
「客人たちよ、私のことばが分かるか?分かるならば返事をしてくれ」
しかし客人たちはほうけた顔をするだけで、言葉を返してこなかった。
その様子を見たシャーリーフは、宝石の精は術に失敗したのだと思った。
やはり子供のジンでは、まだまだ力不足か。シャーリーフは諦めて、
通訳の男を起こそうとした。
「あのー、ひょっとして『言葉が分かったら返事してくれ』と言いましたか?」
その声にシャーリーフは、思わず振り返った。後ろから聞こえてきたのは、
紛れもなくアラビア語であったからだ。
「通じたか、よかった。確かに今そう言った」
シャーリーフが笑顔で返事をすると、彼らは「やはり通じるのか」などと話して
いた。それが聞き取れたのも、やはり彼らがアラビア語で話していたからだ。
彼らの言葉はさっきまでの、訳の分からない言葉ではなくなっていた。
「しかしなぜ日本語が話せるのです?日本人がこんな所にいるとも思えないし、
我々の言葉を覚えたとも思えないし・・・」
言葉が通じると分かると、望田はすぐさま疑問を投げかけた。一般隊員には
特に秘密にしてあるが、司令部だけは山村事務官の話を聞いていた。現在
自分たちがいるのは、1200年以上昔のバスラで有ることを。
だから望田の疑問は、もっともな物だった。この時代に自分たちの他に、日本人が
こんな所にいるはずもない。少なくとも自分の知る歴史では。望田はそう思っていた。
「日本語?・・・ああ、あなた達にはそう聞こえるのか。あなた達の言葉は私には、
アラビア語に聞こえているが」
シャーリーフの言葉に、望田たちは大いに混乱した。自分たちはアラビア語など
一言も話していないし、彼は流暢な日本語を話していたからだ。
しかし混乱が収まらない内に、シャーリーフは話題を転換してしまった。
「日本語ということは、あなた達の国は日本というのか?それとも別の国?」
一瞬戸惑ってしまったが、すぐに望田は返答した。
「ええ、我々の国は日本といいます」
言葉が通じると分かった場合、すぐさま話が通じる場合は多い。しかし彼らの
場合は、逆にすぐ話が暗礁に乗り上げた。
日本側は自分たちの正体-遙か未来からやって来た軍隊、自衛隊であることを
隠していたからだ。しかもシャーリーフの話の中には、魔神だのジンだの
訳の分からない要素が満載だった。彼は親切に注釈を付けてくれたが、それは
余計な混乱を日本側に与えただけだった。
「では話をまとめよう。日本というのはシナ、あなた達の言う中国の沖にあって
あなた達はその国の商人。そして日本はとても高度な技術を持っていて、魔力が
存在しなくとも、小さなからくりを動かせる力がある」
シャーリーフの言葉に、どこか曖昧な笑いを浮かべたモチダは頷いた。
しかしシャーリーフの方は、全く釈然としない顔をしていた。
「うーむ。話をまとめればまとめるほど、中身が破綻していく。あなた達の話は
本当なのか?どうにも訳が分からない」
「信じがたいかもしれませんが、本当のことです」
今度は芝尾が同意を示したが、しかしシャーリーフは頷かなかった。
「私はシナの他にも様々な国を知っている。その国の交易品や技術もだ。
だがいままでどんな国も、こんなに小さな時計や、魔法によらないからくりや、
そしてこんなに小さく、質のいい金属の歯車など作ったことはないはずだ」
シャーリーフはそういうと、掌にしまっていた小さな歯車を望田に見せた。
すると望田が驚いたので、やはり話は嘘なのだとシャーリーフには分かった。
「アッラーも私も、嘘は嫌いだ。だが今なら大目に見よう。本当のことを
話してくれるのなら」
シャーリーフの圧力に対し、望田からはこわばった空気が抜けていった。
どうやら話す気になったらしい。シャーリーフはこれからされる話を想像して、
思わず微笑みを浮かべた。
少年は両手を商人、いや奇妙な客人たちに向けると、指先からゆっくりとした
白い稲光のようなものを打ち出した。その光は客人たちを取り巻くと、グルグルと
周りを回ってすぐに消えてしまった。
「これで、彼らとの話も通じるはずです。ではまたご用が有れば・・・」
客人たちはあっけに取られて目をしばたかせていた。彼らが気を散らしている間に、
また少年は額の宝石に戻っていってしまった。
客人たちが我に返るのを待って、シャーリーフは話しかけてみた。
「客人たちよ、私のことばが分かるか?分かるならば返事をしてくれ」
しかし客人たちはほうけた顔をするだけで、言葉を返してこなかった。
その様子を見たシャーリーフは、宝石の精は術に失敗したのだと思った。
やはり子供のジンでは、まだまだ力不足か。シャーリーフは諦めて、
通訳の男を起こそうとした。
「あのー、ひょっとして『言葉が分かったら返事してくれ』と言いましたか?」
その声にシャーリーフは、思わず振り返った。後ろから聞こえてきたのは、
紛れもなくアラビア語であったからだ。
「通じたか、よかった。確かに今そう言った」
シャーリーフが笑顔で返事をすると、彼らは「やはり通じるのか」などと話して
いた。それが聞き取れたのも、やはり彼らがアラビア語で話していたからだ。
彼らの言葉はさっきまでの、訳の分からない言葉ではなくなっていた。
「しかしなぜ日本語が話せるのです?日本人がこんな所にいるとも思えないし、
我々の言葉を覚えたとも思えないし・・・」
言葉が通じると分かると、望田はすぐさま疑問を投げかけた。一般隊員には
特に秘密にしてあるが、司令部だけは山村事務官の話を聞いていた。現在
自分たちがいるのは、1200年以上昔のバスラで有ることを。
だから望田の疑問は、もっともな物だった。この時代に自分たちの他に、日本人が
こんな所にいるはずもない。少なくとも自分の知る歴史では。望田はそう思っていた。
「日本語?・・・ああ、あなた達にはそう聞こえるのか。あなた達の言葉は私には、
アラビア語に聞こえているが」
シャーリーフの言葉に、望田たちは大いに混乱した。自分たちはアラビア語など
一言も話していないし、彼は流暢な日本語を話していたからだ。
しかし混乱が収まらない内に、シャーリーフは話題を転換してしまった。
「日本語ということは、あなた達の国は日本というのか?それとも別の国?」
一瞬戸惑ってしまったが、すぐに望田は返答した。
「ええ、我々の国は日本といいます」
言葉が通じると分かった場合、すぐさま話が通じる場合は多い。しかし彼らの
場合は、逆にすぐ話が暗礁に乗り上げた。
日本側は自分たちの正体-遙か未来からやって来た軍隊、自衛隊であることを
隠していたからだ。しかもシャーリーフの話の中には、魔神だのジンだの
訳の分からない要素が満載だった。彼は親切に注釈を付けてくれたが、それは
余計な混乱を日本側に与えただけだった。
「では話をまとめよう。日本というのはシナ、あなた達の言う中国の沖にあって
あなた達はその国の商人。そして日本はとても高度な技術を持っていて、魔力が
存在しなくとも、小さなからくりを動かせる力がある」
シャーリーフの言葉に、どこか曖昧な笑いを浮かべたモチダは頷いた。
しかしシャーリーフの方は、全く釈然としない顔をしていた。
「うーむ。話をまとめればまとめるほど、中身が破綻していく。あなた達の話は
本当なのか?どうにも訳が分からない」
「信じがたいかもしれませんが、本当のことです」
今度は芝尾が同意を示したが、しかしシャーリーフは頷かなかった。
「私はシナの他にも様々な国を知っている。その国の交易品や技術もだ。
だがいままでどんな国も、こんなに小さな時計や、魔法によらないからくりや、
そしてこんなに小さく、質のいい金属の歯車など作ったことはないはずだ」
シャーリーフはそういうと、掌にしまっていた小さな歯車を望田に見せた。
すると望田が驚いたので、やはり話は嘘なのだとシャーリーフには分かった。
「アッラーも私も、嘘は嫌いだ。だが今なら大目に見よう。本当のことを
話してくれるのなら」
シャーリーフの圧力に対し、望田からはこわばった空気が抜けていった。
どうやら話す気になったらしい。シャーリーフはこれからされる話を想像して、
思わず微笑みを浮かべた。