自衛隊がファンタジー世界に召喚されますた@創作発表板・分家

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シャーリーフへの訪問が終わった後、司令部の面々は引き上げていった。
その時彼らの胸中には、成功を収めたという感慨と共に、ちょっとした
不安の影が宿っていた。

「我々はいつまで、これを続けねばならないんだろうな?」
望田の言葉は、全体の気分を良く表していた。今回は偶然、未来の
人間だなどと信じてくれた(というか商人ではないと見破られた)ものの、
これが何度も続く訳がない。普通に考えて、もっと抵抗する人物もいるはずだ。

そして彼らは、相手がどうであれ毎回「自分は未来人」という、狂っている
としか思えないような言葉を説くか、似非商人を名乗らなければならないのだ。
その事を考えると、前途には暗い物があった。

「根気で何とかしよう。そう簡単に済む話ではないしな。とにかく今は
こういう手でも使うしかない」

芝尾は正論を述べていたが、多少うんざりもしていた。元々彼は軍人、
それも現場の指揮官なのだ。役人的なお追従は得意ではなかった。

「山村君、今回は良かったが、次はああならないようにしてくれ」
「はい、すいませんでした。以後気を付けます」

通訳兼事務官になってしまった山村事務官は、今回の訪問の途中で気絶して
いたのだった。そのせいで言葉が通じなかったり、かと思うといきなり
言葉が通じたりと、訳の分からないことが起ったのだった。

山村以外の自衛隊員は、言葉がいきなり通じたことを深く考えなかった。
理由は説明されなかったし、聞いたところでまたジンだの魔法だのといった
無茶苦茶な答えが返ってくると思われたから、あえて気にしない事にしていた。

司令部はこの日、現地に対しては根気よく粘り強く、とにかく説明と受け入れを
求める事を基本方針と定めた。それは茨というよりは針山の道だったが、それも
仕方がない、と高級幹部らは覚悟を決めていた。

そうこうしている内に、車は艦のある港へと戻っていった。夜間走行とはいえ、
一度通った道だから、なんとか迷わずに帰投できたのだった。こうして
彼らは、1200年前のイラク・バスラでの第一夜を過ごしたのだった。

一夜明けて艦内では、司令部が護衛艦の一室でミーティングをしていた。
基本方針に従って、今日の訪問先を選定していたのだった。

「まず、どこから手を付ければいい?」
「普通に考えれば、まずは街の偉いさんに会うことだな。とにかく停泊や
上陸の許可を貰わん事には、どうにもならない」

芝尾と望田の言葉に、周りの幕僚も同意した。現在イラク派遣部隊が居るのは
昔のバスラだから、事前に得ていた全ては失われていた。だから現在の彼らの
立場は、いかれた漂流者以外の何者でもなかった。

「とにかく、ここに根を下ろそう。考えるのはその後でやればいい」
世界はどうなってしまったのか、ここでどうやって生き延びるか。それを考える
前に、とにかく存在を彼らの王朝に認めて貰わなければならなかった。

もちろん戦いになれば、一時の優勢は確保できるだろう。だが何の当てもなく
殴り合いをしたところで意味はない。それよりはここで何とか手を考える
べきだった。

そうして彼らが頭を悩ませていると、壁に掛かった内線電話が鳴った。
会議中に電話をすると言うことは、当然緊急連絡と言うことである。
側にいた士官が電話を取ると素早く応対した。

「こちら会議室。何かあったのか?」
「大変です!窓の外に、物凄い数の人がいます!」

得体の知れない船に対する、示威行為かも知れない。そう思った士官は
戦慄しながら、状況の説明を求めた。

「どんな様子だ?雰囲気や艦からの位置は。軍隊なのか?」
士官の冷静な声に、電話の相手も少し落ち着きを取り戻し、連絡を
行うときの口調に戻って言った。

「大半はただの民衆のようです。ほとんどは艦から遠巻きに見ているだけで、
近付いてくる様子はありません。ただ、馬に乗った派手な男と取り巻きだけは、
人だかりと艦の中間位の位置にいます」

それを聞いた士官は、取り敢えず危険はないと思ってほっとした。
その後相手先に報告ご苦労と告げ、電話を切った。

「報告します。現在艦の外に、大量の民衆が集まっているそうです。それと
民衆から離れて、騎乗した派手な男と取り巻きがいるそうです。危険な様子は
ないようです」

報告を聞いた芝尾と望田は、すぐに幕僚に意見を求めた。
「民衆が集まってきたそうだが、どう思う?」
「危険な兆候が無いとすると、単なる見物なのでは無いでしょうか?
我々の艦隊が珍しいでしょうから、見物人が集まっても不思議はありません」

幕僚の意見に望田は頷き、さらに言葉を継いだ。
「見物人だ、というのはそうだろうな。しかし騎乗した男というのは、
一体何者なんだ?軍人でも無いだろうし、脳天気な見物人だとも思えんが」

幕僚はその言葉にも、すぐに返答を返した。
「推測ですが、派手な格好に取り巻きが居ると言うことは、恐らく貴族か
為政者なのでは無いでしょうか。そして群衆から離れていると言うことは、
我々に何か言いたいのかも知れません」

「なるほど確かに、そう考えるべきだろうな。だが何か言いたいのなら、
何故何も言ってこないんだろうか?」
「我々が何者なのか解らないから、出方を待っているのでは無いでしょうか」

「ふむ、そう言うことならこっちから出向かねばならんな」
そう言うと望田は腰を上げ、芝尾に頷いた。そして芝尾が立ち上がった
所で、他の幹部にも付いてくるように言った。

立ち退き要求か武装解除か、どんな用件かは知らないが、とにかく話を聞きに
行かなければ始まらなかった。例え話の内容がなんにしても、全部自分らで
決めねばならないと思うと、芝尾と望田の気は重かった。

しかしそうも言っていられないと思い直し、強い足取りで芝尾たちは
艦の外へと向かっていったのだった。

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