自衛隊がファンタジー世界に召喚されますた@創作発表板・分家

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玉座の間にある天井裏の点検抗から煙と共に現れた、少なくとも神聖騎士団の連中にはそう見えたに違いない、邪教徒にして悪魔の使いであって王国を混乱におとしめた元凶のぼくが落としたある物体が、この国で最も武力を持つ騎士団を率いる男の動きを止めていた。
「マルチハンディ 検針くん」
  最大500件の顧客をインプット可能。ガスメーターの指針を打ち込むだけで前月からのガス使用量とガス料金が瞬時に表示される。付属のディスクを親パソコ ンに挿入して検針結果を受信するだけで細かい更新は一切不要。タッチパネルでその日の集計。顧客検索も片手で可能。インクのいらない感熱タイプのプリンタ 搭載。専用のロール紙もリサイクル品という優れものの一品だ。
「タチバナ・・・・。剣に対して魔法で抵抗する気か・・・」
 問答無用でぼくに剣を振り上げておいてアストラーダが恨めしそうな声でぼくに問いかけた。
「へ?」
 思わず聞き返したぼくはアストラーダやマガンダ、周囲の神聖騎士団がぼくの落としたマルチハンディに注目していることにようやく気がついた。ガス屋必携のマルチハンディは長さ10センチほどの検針伝票を印刷して動きを止めていた。
 こいつら、どうやら検針伝票を魔法の何かと勘違いしているようだ。恐る恐る、マルチハンディを手にとってみた。神聖騎士団はぼくの動きに反応してびくびくしている。
「・・・・・・あ・・・・・」
  たぐり寄せたハンディを見て思わずぼくはつぶやいた。何のことはない。伝票にはここ、玉座の間を昨日検針した結果が印刷されているだけだ。ちなみに「玉座 の間 エアコン」って名前だ。だが、ここで敵にこんなことを感づかれてはぼくの殺害フラグは確定してしまう。こうなったら一世一代の大ばくちしかない。

「アストラーダ。この紙には破滅的な魔法の朗詠呪文が書いてある。もしも、ぼくがこれを捨てて降伏したらどうする?」
「騎士の慈悲だ。わしの手で神の元へ送ってやる」
 予想通りの答えだが、実際に聞くとけっこう凹む。
「じゃあ、魔法を使わないで抵抗したら?」
「騎士の名において正々堂々と戦っておまえを殺す」
 どのみちおまえが殺すんじゃないかよ!ってつっこみを入れたくなったが、ここは我慢のところだ。大きく深呼吸して大見得を切る準備を整えた。視線を向けることはできないが、天井裏のリナロはさぞやはらはらしていることだろう。
「どうせ何やっても死ぬんなら、前から唱えたかったんだよな・・・・この呪文。禁断の魔法だから見たことないけど、このお城くらいは軽く吹っ飛ばすらしいしなぁ・・・」
 ぼくの言葉に周囲の騎士たちがどよめいた。アストラーダはさすがに隊長。少し眉をぴくりとさせただけだったが、動揺しているようだ。ぼくはさらに芝居を続けた。
「読んでいいか?だって、降参しても抵抗しても殺すっていうんなら、この際だからめちゃくちゃしても死ぬんだろ?だったらいいじゃん」
 このぼくの言葉にさすがのアストラーダも色を失った。
「貴様!名誉の死を選ぼうとは思わないのか?ここで我々を巻き込んだ魔法を使って死ぬことはないんだ!」
 これがぼくを殺す予定の張本人でなければ多少の説得力もあるんだろうがな。彼自身がいうのは全くもってこっけいだった。
「あ~!もういいです!刺されて死ぬのも禁断の魔法でみんなと爆死するのも、ぼくにとっては死ぬことに変わりはないんだから。え~・・・・」
「ま、ま、ま、待て!いったい貴様は何をしたいんだ!?」
 検針伝票を読み上げようとしたぼくをマガンダ侍従の言葉が止めた。マガンダは明らかにびびりまくっている。彼ほどではないだろうが神聖騎士団の多くもびびっていることは明白だ。ぼくは「しめた!」と思いつつも表情には出さないでマガンダを見た。
「だってさぁ。抵抗しても降参しても殺されるんなら、自分の好き勝手やって死にたいだろ?それだけ・・・。えっとどこから読むんだっけな・・・。え~!”毎度ありがとうございます。今月の検針は次の通りです”」
 ぼくがいよいよ決心したと思いこんだアストラーダは表情こそ変えないものの、顔色は真っ青だった。それを見たぼくはさらに心理攻撃をかける。
「あれ?顔が青いぞ。お互い様じゃないか。こっちは死にたくないし、死ぬような病気もない健康体だ。それをあんたは、こっちの都合に関係なく殺すっていうんだから。だったらこっちもどうせ死ぬなら好きなことさせてもらうまでだ。何か問題でも?」
  マガンダのおっさんは、完全にぼくの作戦に引っかかっていることを確信していた。作戦とはいっても本当に一か八かの大作戦だ。彼らはマルチハンディから出 てきた伝票を禁断の魔法の朗詠呪文が書かれた何かと思っている。それを逆手に取った作戦だ。あわよくば、王様を連れ出す譲歩を引き出すための100%ブラ フだ。

 ぼくの質問にアストラーダは青い顔をしたまま何も答えない。それを見て少しぼくも焦りながら、伝票の読み上げを再開した。
「検診日2005年4月18日。コード:100033 玉座の間 エアコン様・・・・」
 ぼくが淡々と数値を読み上げていると、神聖騎士団の魔導師が隊長に呼びかけているのに気がついた。
「アストラーダ様、いかがしましょう?このままでは・・・・。ヤツからは魔法力の高まりを感じることはできません。きっと我々に感知できない魔法に違いありません!」
 魔法力の高まりもへったくれもない。だって検針結果を読み上げているだけだ。こっちの都合のいいように魔法の専門家である魔導師が勘違いしてくれていることに冷や汗をかきながら感謝した。
「・・・・・え~、上記の通りご請求いたします・・・・。保安点検・・・・。容器設置場所「良」・・・・」
  まずい。そろそろ伝票に書いてあることを読み終えてしまう。アストラーダの野郎!さっさと折れやがれ。びびってんのはわかってんだぞ。とでも言いたくなる が、ここまで来ればぼくとやつのチキンレースだった。だが、ぼくにとってはこのレースの引き分け。もしくは敗北は死を意味していた。だってぼくには何も武 器はない。やけくそで始めたハッタリしかないのだ。
「ぬぬぬ・・・・・。引かぬ!こびぬ!悔いぬ!これが神聖騎士団だ!」
 自らの恐怖を振り払うようにアストラーダが叫んで剣を再び振り上げた。内心、今にも小便をちびりそうだったがそれでも伝票の朗読をやめなかった。

「ちょっと待ったぁ!!」
  その声と共に大広間の大きな扉が勢いよく開かれた。あまりに勢いがよくて扉の前に立っていた神聖騎士が2名、コントのように吹っ飛ばされた。アストラーダ やマガンダなどの騎士団も、マキシム6世もその声の主を捜して開かれた扉を注視した。彼らを無視して入室してきた連中を見てぼくは見て言葉を失った。
「な、なんで・・・・」
 ちょっと高そうなスーツを着こなしたインテリ、川村だったのだ。しかも彼の後方には数十名の自衛官も続いている。
「立花君、よく時間を稼いでくれた」
 つかつかと大広間に入ってくる川村や自衛隊に混じって、例の門にいた衛兵がいるのをみつけた。
「いや、本当にまずいですって。ここは玉座もあるんですから」
「いえ、これは緊急の出動なんで、おたくの国王も認可した事態なんで問題ないですから・・・・」
  数にモノを言わせてここまでドカドカと入ってきたらしい。衛兵と担当にされた幹部がなにやらもめている。完全武装の自衛官を見てもアストラーダは少しもひ るむ様子もなかった。無理もない。川村の引き連れてきた自衛隊はせいぜい30名。この広間にいる神聖騎士団と同じくらいの数だ。
「今まで恐れをなして駐屯地にこもっていた異世界の軍隊が今更何の用だ?」
 神聖騎士団長の挑発的な言葉も、国家公務員一種試験合格者には通用しなかった。
「用事は1つだけ。この国にいる日本人の保護だけです。」
  そう言って川村はぼくを見た。なるほど、ここまで自衛隊を引き連れてくる口実にぼくを使ったのか。でもよく考えたらそれだけでは事態は全然解決しないじゃ ないか。アストラーダはぼくを殺す気満々。その気になれば王様も殺せる。でも自衛隊は駐屯地内でさえ、日本人が怪我をしないと武力行使をできなかったじゃ ないか。そのために合意の上とは言え、大川さんの手をちょっとカッターで切ったじゃないか。ぼくの疑問を払拭するアクションが川村のすぐ後ろで起こった。 無線を抱えた隊員が川村のところに歩み寄った。受話器を受け取ってなにやらやりとりをしている。
「な、なんだ・・・・?」
 滑稽なことに、今攻撃を仕掛ければいいモノをアストラーダたちは川村の行為をぽかんとした表情で見つめているだけだ。その間に、川村は受話器を自衛官に返さずに、会話が終わった後、そのまま受話器に叫んだ。
「たった今、本国の閣議で駐屯地の外にいる邦人に対しても、その保護のために武力行使をしても、事後に国会の了承があれば違法でないという決定が下った。並びに、この世界の同盟国元首の援助要請があれば我が自衛隊は集団的自衛権の行使を容認された!」
 一同は川村の宣言を理解するのに数秒を要したが、悟った者から歓声をあげた。助かった・・・・。つまり、ここでぼくを助けるのに法的根拠ができたのだ。
「川村さん!自衛隊のみなさん!助けてください!このままじゃ殺されてしまいます!」
「よし!立花君!誰から襲われているんだ?」
 川村のほとんど出来レース的な質問にぼくは、事態を飲み込めないできょとんとしているアストラーダたちを指さした。
「こいつらです!」
 いきなり人殺し呼ばわりされたアストラーダの表情が見る見る怒りに満ちていくのがわかった
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