自衛隊がファンタジー世界に召喚されますた@創作発表板・分家

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午後0時10分 魔法都市マリアナ
第58任務部隊は、1次と2次合わせて657機の攻撃機を発艦させ、敵の総本山であるマリアナに打撃を与えた。
この攻撃で高射砲53門、機銃座212を破壊し、その他の施設にも爆弾を叩き込んだ。
しかし、主目標である大魔道院は依然健在であり、米側は第3次攻撃隊の派遣を決定した。
第3次攻撃隊は、第1任務群の軽空母ベローウッド、バターンからF6F18機、TBF6機ずつ、
第2任務群の正規空母バンカーヒル、ワスプからF6F12機、SB2C8機、軽空母キャボット、
モントレイからF6F16機、TBF5機ずつ。
第4任務群の正規空母エセックスからF6F12機、SB2C12機、TBF6機。
軽空母カウペンス、ラングレーからF6F10機、TBF4機ずつ。
合計で188機の艦載機が、午前11時に発艦した。
これまでの陣容からして、かなり少なめに見えるが、それでも戦闘機124機、艦爆28機、
艦功34機と、普通の海戦ならば、大型艦の1、2隻は海底に送り込める戦力である。
その第3次攻撃隊は、午後0時10分にマリアナ上空に到達した。

「敵戦爆連合200機、まもなくマリアナ上空に到達する見込み!」
伝令兵が息を切らしながらも、銃座に報告にやってきた。
「ご苦労。」
銃座の指揮官は、その伝令兵に労いの言葉をかけて、再び別のところに向かうその兵士を見送った。
「さて、レイックル曹長」
鼻に髭を生やした指揮官は、後ろで機銃の動作を確認していたレイックル曹長に姿勢を向けた。
「その11.2ミリ機銃が、新たに君が操作する武器である。できるかね?」
「大丈夫です。動作もバッチリ」
そう言いながら、レイックル曹長は弾帯を機銃に入れて、いつでも発射できる状態にした。
「それに、自分はもともとこれを主に使って、訓練していましたから。」
「そうか。頼りにしているぞ。」
指揮官はそう言って、彼の側を離れて言った。ここは2階建ての魔法関係の建物の屋上に設けられた銃座である。
2階建てだが、横幅が40メートルあり、建物自体も石造りのために作りも頑丈である。

この施設は、もともと魔法研究が行われていた所で、
主に情報操作や思考操作関係の魔法を中心に研究が行われていた。
この施設は、大魔道院の西200メートルに位置する場所で、西側の空域を、他の銃座と共に防衛する事になっている。
レイックルらは、この魔法研究施設を間借りする形で、ここに18.5ミリ連装機銃1基、
補充用の11.2ミリ機銃3丁を設置する事が出来た。
設置に要した時間は1時間で、午前11時40分には陣地は完成した。
陣地といっても、簡易の防御壁を積み立てただけの代物で、本来の対空陣地よりは防御力はいくらか劣る。
ないよりもまし、といった程度である。
そして、準備ができ、兵達が一息ついていたところに、第3次攻撃隊はやってきたのである。
午後0時16分、北東の空に無数の羽虫のような物体が見え始めた。
それは緊密な編隊を組みながら、徐々に近づきつつあった。
第58任務部隊より発艦した三の矢は、ついに敵地上空にやってきたのである。
「そろそろ敵の戦闘飛空挺が襲ってくるぞ!やられないように気をつけよ!」
指揮官が割鐘のような声音で、部下達にそう告げる。
「今度ばかりは、生きて戻れんかも知れんなあ。」
レイックルは、誰にも聞かれない声音でそう呟いた。
敵攻撃隊は、まず高速の戦闘飛空挺を先にけしかけてくる。
この戦闘飛空挺が非情に厄介な代物で、600キロ以上はありそうなスピードで突進してくるのである。
外見はずんぐりとして、鈍重そうなのに、動きは俊敏である。その猛スピードに機銃を合わすのはなかなか難しい。
彼自身、1機のF6Fを、煙を吐かせて撃退し、1機を撃墜しているが、それは彼に幸運がついていただけといえる。
6丁の機銃で掃射し、爆弾を叩きつけてくるF6Fの存在は、今や継戦派将兵にとって悪魔と同義語的な存在になっていた。
実際、F6Fが通り過ぎた後は、体が千切れたり、大穴を開けられた死体が散乱しており、悪魔と思われても仕方ないではある。
そして、その戦闘飛空挺は、定石通りに対空陣地の掃射にかかる可能性がある。
「来るなら来い、白星の悪魔め。」
レイックルは体を引き締めて、襲ってくるはずの敵戦闘機を迎え撃つ準備を整えた。
爆音が再びマリアナに木霊し始めた。米機動部隊から発艦した艦載機群は、ざっと見ても200機近くいる。
少なめに見積もっても、150機以上はいるであろう。
その大編隊は、都市の一番外側の上空に達しつつある。

これまでの攻撃で、白星の悪魔共は、戦闘飛空挺が対空陣地を掃射して、風通しを良くした後に、
高空から急降下爆撃機、水平爆撃機が防空網を突破、目標に爆弾を叩きつけている。
少なからぬ敵機が、味方の対空砲火で撃墜されているが、洪水のような米軍機の進入を防ぐには、
現在の対空火器は威力不足である。
主に狙われている大魔道院が、強力な魔法防御で自らの施設を覆っておかなければ、後の想像は容易につく。
その敵の爆撃作戦、第1段階は、もうすぐ始まろうとしていた。
米軍機の編隊は、そのまま都市の外縁部を・・・・・・そのまま編隊を組みつつ、進入してきた。
恐れていた敵戦闘飛空挺は、編隊から離れない。
「ん?」
レイックルは不審に思った。
「おかしい・・・・・・」
戦闘飛空挺は、高度2500付近から全く降りようとしない。
そればかりか、攻撃機の前面に張り付いてばかりだ。
「怖気づいたのか。」
レイックルは呟く。傍若無人な銃爆撃をさんざん行ってきた戦闘飛空挺だが、彼らも無敵ではない。
レイックルも敵を撃墜しているし、他の対空陣地でも撃墜の報告は挙がっている。
(敵も馬鹿にならぬ損害を負っているのだな)
彼はそう思うと、いささかいい気分になってきた。やはり、彼らも人間なのだ。
馬鹿一文字のように突撃するだけが能ではないのだ。
高射砲が撃ち始めた。50門以上が破壊された高射砲だが、米軍機が来ない間に、
武器庫から予備の砲を引っ張り出して、14門が新たに配置されている。
そして7門が移送中であったが、恐らくこの戦闘には間に合わない。
米編隊の周囲に黒々とした、小さな煙が沸き立つ。
40門以上の高射砲が弾幕を張るのだが、どうしてどうして、敵は1機も落ちる気配が無い。
「下手糞な射撃しやがって!」
弾帯を持つ部下が、高射砲の要員を罵る。
(いや、当たってないのではない。当たっているが、敵飛空挺の耐久力が頑丈すぎて、破片が傷を負わせにくいのだ)

レイックルはそう判断した。
実際、彼も対空射撃を行っていたときに、米軍機は頑丈だと言う事を思い知らされている。
機銃弾が何発か命中しても、エンジン部分か、操縦席といった、当たったら危ないとこ以外ならば、
米軍機は平気で突っ込んでくる。
撃墜するには、まず多量の弾をぶち込む事。
いくら頑丈な装甲でも、連続する着弾にいつまでも耐え続けられるわけが無い。
米編隊は、高射砲の弾幕をものともせずに突き進んでくる。
やがて、それらは外縁部と大魔道院のちょうど中間辺りまですすんできた。
突然、先頭の1機が高射砲弾の破片を至近に浴びた。
その敵機は、ぐらりと機を横滑りさせると、その4秒後には機首を真下にして落下していった。
その次に、後部集団の1機が白煙を吐いた。
その敵機は、慌てふためいたように爆弾を投下すると、来た道を戻り始めた。
恐ろしい事に、高射砲の戦果は今現在、たったこれだけであった。
その時、急に先頭集団が翼を翻し、猛然と急降下を開始した。
「!」
誰もが息を呑んだ。その先頭集団は全て戦闘飛空挺であったが、
それらは対空陣地に対して、無視を決め込むと思われた時、急に牙を剥き出しにしてきたのである。
戦闘飛空挺の指向する目標・・・・・・・それは紛れも無く、大魔道院の周辺に位置する対空陣地であった。
グオオオオオオオーーーーーー!という猛烈な唸り声を上げて、ずんぐりとした機体が襲い掛かってきた。
レイックルの所属する魔法研究施設にも、2機が向かってきた。
「撃てぇ!」
指揮官がすかさず叫び、機銃が射撃を開始する。
レイックルは敵機が目測で1300を超えたところで機銃を撃った。
曳光弾が敵機に向かっていくが、狙いがなかなか定まらない。
その間にも、F6Fは急速に距離を縮めつつあった。

先頭の1機が胴体から黒い物体を投下した。
40度の角度で突っ込んできたF6Fは、爆弾を投下した直後に距離700で12.7ミリ機銃をぶっ放した。
敵機の搭乗員も頭に血が上っているのだろう。弾着は左端の18.5ミリ機銃の左に離れたところに命中して煙を上げる。
1番機が猛スピードで過ぎ去った直後に2番機が突っ込んでくる。レイックルはそれに照準を合わせて、引き金を引く。
1番機の爆弾が、施設より100メートル離れた位置に着弾する。爆発しない。
1番機のはなった爆弾は、不運にも不発弾であった。
2番機が爆弾を投下すると、定石どおりに機銃を撃ちまくってきた。
機銃の狙いは正確で、18.5ミリ機銃のすぐ右にある11.2ミリ機銃にぶすぶすと突き刺さった。
機銃手やその要員たちが12.7ミリ機銃に体を貫かれ、胴や手足がもぎ取られ、頭部を吹き飛ばされた。
「伏せろ!爆弾が来るぞ!」
レイックルは辺りにそう叫んだ。彼と彼の部下達はすぐに床に伏せる。
2番機の爆弾は、施設より20メートル手前という至近で着弾した。
ドーン!という爆発音が鳴り響き、施設ががくがくと揺れる。
ガラスの割れる音が聞こえ、煙が辺りを覆い隠した。
破片が体に落ちてくる。言いようの無い恐怖が体を侵食していく。
だが、レイックルはそれを振り払う。煙が収まると、指揮官の名前を呼ぶ声が聞こえた。
「レイックル曹長!そっちの要員は大丈夫か!?」
「しばしお待ちを!」
彼はそう言って、部下達を見回した。
皆、土煙でひどく汚れているが、先の爆弾で怪我を負ったものはいない。
「無事です!」
「そうか!よし、応戦を続けるぞ!」
指揮官は生き残りにそう命じた。レイックルは機銃に取り付いて、異常が無いか確かめる。
異常はなかった。
「敵機左方向より接近!」
1機のF6Fが彼らの施設に向かってきた。
そのF6Fは、進路上の対空機銃座に対し、片っ端から機銃を撃っている。

そして、次に狙いをつけたのは、彼らの対空陣地であった。
18.5ミリ機銃が最初に射撃を開始する。その後に11.2ミリ機銃も続いて撃つ。
3つの銃座から放たれる曳光弾が、接近するF6Fを絡めとろうとするが、
F6Fは巧みに機体を動かして、全て空振りに終わらせる。
「敵はうまいぞ!」
レイックルは、その敵のあっさりとした手際に舌を巻いた。
F6Fはひらりひらりと射弾をかわすと、距離800で機銃を撃ってきた。
6つのオレンジ色の線があっという間に施設に取り付き、ついには屋上にも取り付いた。
その取り付いた先は、11.2ミリ機銃座がある所だった。
操作要員が絶叫を発して叩き伏せられ、伏せた女性魔道兵が背中に
12.7ミリ機銃弾を撃ちこまれて、屋上に縫い付けられる。
機銃弾は11.2ミリ機銃にも襲い掛かり、部品や弾帯を弾き飛ばした。
そして、この対空銃座の指揮官にも、機銃弾を襲い掛かった。指揮官の姿が派手な煙に包まれて見えなくなった。
レイックルはそれに構わず、F6Fに向けて11.2ミリを撃ちまくる。
機銃弾は6発がF6Fの左主翼に命中したが、11.2ミリ機銃弾では頑丈なF6Fに致命傷を与える事が出来なかった。
敵機が過ぎ去り、辺りは一時的に静かになった。
「くそ・・・・・次はどこから来るんだ?」
レイックルは、体にぐっしょり汗をかいていた。
さきほど銃撃された機銃座には、新たに2つの死体が転がり、血だまりを作っている。
機銃本体は銃身が半ば吹き飛ばされ、それ以外にもひどく傷つけられて使用不能であった。
指揮官は、というと、不幸にも、彼も仰向けに倒れ、ぴくりとも動かない。
その指揮官の体にも、左胸の辺りに大きな穴が開いている。
戦死していることは一目瞭然であった。
「指揮官が戦死」
その時、言葉が甲高い唸り声にかき消された。

言葉を遮られたレイックルは、腹立たしそうな思いを胸に、音のする方向を見てみた。
なんと、いつの間にか敵機が大魔道院の上空に来ていたのだ。
20機以上の敵飛空挺が、甲高い音を上げて真ッ逆さまに急降下していく。
彼はすぐに機銃の方向をそれらに向ける。しかし、弾が切れていた。
「おい、弾を込めろ!」
レイックルは給弾係りにそう命じる。給弾係りは慣れた手つきで素早く弾帯を取り替えた。
後ろの18.5ミリ連装機銃が重々しい射撃音を響かせる。
思い出したように、高射砲弾が敵の周囲で炸裂し始めた。
この時、他の機銃座は襲ってきた米戦闘機の対応に追われており、ほぼ同時に襲撃してきた米艦爆の応戦が出来ないでいた。
「装填よし!」
給弾係りが作業終えた。レイックルはすかさず引き金を握り、第一弾を薬室に入れて、射撃を開始した。
ドダダダダダダ!というリズミカルな音が鳴り、機銃の振動が体を震わす。
曳光弾が、降下していく米艦爆隊の未来位置に向けて飛んでいく。
(落ちてくれよ!)
レイックルは心の中でそう願う。他の銃座もこの米艦爆隊に向けて射撃を開始する。
何条もの火箭がヘルダイバーを射抜こうとするが、どれも降下するヘルダイバーに命中しない。
3番機に火箭が集中したかと思うと、破片が飛び散り、ついには右主翼から火を噴き出した。
次に7番機のヘルダイバーがコクピットに機銃弾を叩きこまれて、操縦手を射殺されてしまった。
操縦する主を失ったヘルダイバーは、そのままきりもみで墜落し、
まだ生きていた後部座席の味方をあの世に引きずり込んだ。
対空砲火の支援は、驚くほど少なかった。
なぜなら、大多数の対空陣地が、傍若無人の機銃掃射を繰り返す、グラマンの対応で精一杯であった。
そのため、最初に撃墜できた米艦爆はわずかに2機のみであった。
甲高いおめき声が極大に達したかと思うと、腹から黒い物体を投げ捨てた。
黒い物体を投げ捨てたヘルダイバーは、今度はエンジン音をがなり立てながら機体を立て直そうと、懸命に水平に移ろうとする。
26機の艦爆は、次々と爆弾を投下し、全てが大魔道院に突き刺さった。

たちまち、大魔道院は26の閃光と、黒煙に包まれる。
米側は継戦側に休む暇を与えなかった。
艦爆隊が投弾を終えた直後には、アベンジャー隊が既に、目標施設上空に到達していた。
別の高射砲がこれらに向けられ、すぐに発砲を開始する。だが・・・・・・・
「ああ・・・・・応戦する砲が少なすぎる。」
レイックルは、すっかり薄くなった高射砲弾の弾幕に愕然とした。
数時間前までは、米攻撃隊の前面に数十以上の黒煙を張り巡らしていたものが、今ではポツ、ポツ、と。
5~6つの黒煙しか吹き上がらない。
息つかせぬ、米攻撃隊の攻撃テンポの速さに、応戦する側の対応がついていけていない。
アベンジャー隊は、1機が高射砲弾のまぐれ当たりで爆裂した以外は、全機が投弾に成功した。
大魔道院を覆っていた黒煙がさらに濃く染まる。
黒煙は、レイックル達の銃座にも流れ込み、彼らを咳き込ませた。
やがて、黒煙が晴れてきた。
「さすがは・・・エリラ殿下のお膝元だ。」
レイックルは、無事な姿を見せる巨大な魔法施設を見て、そう思った。
これまでに、無数の爆弾を叩きつけられている。
大魔道院が黒煙に包まれるたびに、魔法防御が打ち破られ、施設が崩壊するのではないかとひやりとする。
しかし、大魔道院に張られた防御魔法は、しっかり持ちこたえていた。
魔法都市、マリアナが吹き上げる何十条もの煙は、高々と空に吹き上がっている。
中には大火災を起こしているとこもあり、兵士達が懸命の消火活動を行っているが、焼け石に水の状態である。
しかし、レイックルの関心は、やや意外なところにあった。
「敵は、攻撃方法を変えてきましたね。」
彼の部下の女性魔道兵、ルイラ・アグルレが思い出したように彼に言ってきた。
「お前もそう思うか?」
「はい。」
彼の問いに、アグルレは頷いた。
「攻撃のテンポが、どこか速いように感じられます。」

「ほぼ、同時に近かったからな。」
レイックルは、今日体験してきた、米軍の空襲の様子を思い出した。
まず、思い出したのは空襲の方法である。
これまでの空襲では、まず、機銃を主に積んだ、ずんぐりとした格好の戦闘飛空挺を最初にけしかけてきた。
戦闘飛空挺があらかた暴れまわると、今度は急降下爆撃主体の攻撃機が突っ込んできた。
その後に、水平爆撃機が進入し、最後の仕上げ、というのがこれまでの方法だった。
だが、今回の空襲では、戦闘機が暴れこんでから、少ししか経っていないのに急降下爆撃機が突っ込んで
来て、その直後には水平爆撃機が爆弾の雨を降らせている。
3種類の攻撃が、非常に早いテンポで、大げさに言えばほぼ同時に行われたのである。
その影響で、撃墜した米軍機はこれまでより少なく感じられた。
現在、米軍機はサッと、潮が引くようにもと来た空に帰っていった。
「早く攻撃を済ませて、帰りたかったのでしょうか?」
「いや、違うな。」
レイックルは否定した。
「一見早く帰りたがっているように見えるが、あれはあれでかなりいい手だ。
前回までは順序良く攻撃してきたが、今度は戦闘飛空挺、攻撃飛空挺が同時に攻撃してきている。
俺の推測だが、戦闘飛空挺は対空砲火を引き付けるオトリで、それに引き付けられている隙に、
敵攻撃部隊が迫って、爆弾を叩きつけたんだ。君も見ただろう?急降下爆撃機や水平爆撃機の迎撃に
当たった対空陣地が少なかった事を。」
実際、ヘルダイバー隊が攻撃を終えるまで、ヘルキャット隊は対空陣地に攻撃を仕掛けては、視線を自らの元に引き付けていた。
頭に血が上っている対空要員たちは、大多数が、小生意気なヘルキャットを叩き落そうと夢中になっていたが、
早い段階で突入してきたヘルダイバー隊やアベンジャー隊には気が付かないものが多く、応戦した機銃や高射砲も、
大魔道院の近くに来てやっと気が付いたという始末である。
「戦闘飛空挺が去ったら、今度は攻撃機が来る。」
その先入観が、米軍機の戦爆同時攻撃の意図を読み取れぬ結果となった。

「以上が、第3波空襲で受けた被害です。」
エリラの専属魔道将校のマルス・パスキ大尉は、すらすらと報告文を読み上げた。
目の前の女性は、彼に見向きもせずに、ただ下の階の魔法陣を眺めているだけである。
「ご苦労。下がっていいわ。」
エリラは、パスキ大尉に向けてしっしっと手を振った。
エリラは別にどうも思っていなかったが、パスキ大尉は、自分が邪魔であると表現しているみたいで、少し不快に思った。
(畜生が。こっちだって、こんな報告を届けたくて届けているわけじゃないんだ。
外見は美人だが、中身は問題ありだな)
彼は内心で、エリラを皮肉りつつも、すごすごと下がっていこうとした。
その時、何人かの人が、慌しく会談を駆け上っていく音が聞こえてきた。
階段から、黒いローブをつけた若い魔道師が、息を切らしながら通路に踊り出し、エリラ達のもとにやってきた。
「グール様!」
年長らしき男の1人が、血相を変えた表情でグールの名前を呼んだ。
「なんじゃ、騒がしい。」
グールは、顔に不快な表情を表しながら、彼らに聞いてきた。
「まあよい。何か以上があったのかね?」
「はい。じ、じゃなくて、あの・・・・じ、実は」
「実は?」
「ええ・・・・水玉、いえ、ヒビの・・・・割れ目。」
「何もじもじしてんだ!男ならしっかりしゃべろ!!」
側でやり取りを聞いていたエリラが、きつい口調でその年長の男に向かって怒鳴る。
「ひ、・・・・じゃなくて。水晶の・・・」
そっぽど慌てているのか、それでも言葉がうまくかみ合わない。
その時、エリラは突然、男の胸倉を掴むと、拳で殴った。
よろめいた男が、殴られた左頬を押さえながら、驚いた表情で彼女を見つめる。
「気合が足りないようだから、あたしが入れてやったよ。さっ、少しは落ち着いただろう?」
彼女は鋭い口調で言ってきた。
「はっ、申し訳ありません。」

やっとの事で、気持ちを取り直した男は、彼女らに向かって説明を始めた。
「実は、2階に差し込んだ、水晶玉に・・・・・・傷が付いていました。」
「なんじゃと!?」
グールが素っ頓狂な声を上げる。その直後、グールは急ぎ足でどこかに向かい始めた。
エリラもそれに続く。
やがて、朝訪れた2階の白く聳え立つ、壁画の入った壁の前にやってきた。
その真ん中に、赤い水晶玉が入っている。
グールは水晶玉を見てみた。最初、
「傷は無いではないか。」
グールはそう呟いた。だが、よく見てみると、上の辺りに、傷が出来ていた。
その傷は、横に3センチの亀裂となっており、ヒビは、水晶玉の中に達している。
「グール、傷の具合は?」
「殿下、これは少々、由々しき事態かもしれませぬ。」
グールは、珍しく顔を青ざめさせている。彼女の顔が、まるで屍のようになった、と、パスキ大尉は思った。
「由々しき事態・・・・・・ちょっと待って。それはどういうことなの!?」
「まことに申し上げにくいのでございますが、このまま、敵機動部隊から空襲が続行されると、
水晶に秘められた魔力が力尽きる恐れがあります。」
一同に衝撃が走った。これまで、大魔道院が無傷で済んできたのも、グールらが作った、この赤い水晶玉のお陰である。
グールは、この水晶玉を作る際、バーマントの中でも指折りの人材を交えて製作し、たっぷりと魔力を注ぎ込んだ。
しかし、米機動部隊の物量作戦は、この貴重な魔法道具までも蝕んでいたのだ。
(そういえば、数時間前に・・・・あれは第1波の攻撃が終わったあとだったが、ここを通る時に変な音がしたな)
パスキ大尉は、数時間前の出来事を思い出した。
あの時、彼はこの壁画の前を通り過ぎている。

(もしかして、あれは、この水晶玉のヒビが入る音なのだろうか・・・・いや、そうだったのだ)
「グール、では魔法防御はもう役に立たないの?」
「いえ、エリラ様。魔法防御は今も続けられております。」
グールはエリラの質問に答えた。
「しかし、このまま、第4波、第5波と、延々と空襲が続けば、この水晶玉も魔力が尽く恐れがあります。それに」
「とりあえず、何時間持つ?」
エリラはグールの言葉を遮った。彼女は、もっと別な事を聞こうとしている。
「あたしの考えでは、日没の召喚時まで持てばいいと思っているわ。」
「日没までですか・・・・・・・・・・・」
グールはしばらく考え込んだ。そして、
「敵の攻撃力次第でありますが、作用限界に達しなければ、魔力は保ち続けられます。」
「つまり・・・・敵があと何波、攻撃隊を出すかなのね。」
エリラは不快そうな表情浮かべた。
「運命は、敵の手にありか・・・・・・それじゃつまらない。」
対抗手段が対空砲しかない今は、じっと耐えるしかなかった。
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