自衛隊がファンタジー世界に召喚されますた@創作発表板・分家

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匿名ユーザー

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だれでも歓迎! 編集
9月31日現在の戦況地図
                                ▼補給船団







                              ■第58任務部隊
                              ↓午前7時 第1次攻撃隊381機発艦
                               午前8時 第2次攻撃隊276機発艦
                               午前11時 第3次攻撃隊170機発艦







           /丶ヽ)ヽ\丶
          ′      丶
         ∫         。ヽ
        ソ          ラグナ岬
       /               ゝ                  
      /                 ヽ
丶ヽヾゝ/                   ソヾヽ丶亠∝t彳θヽ
                                ヽ丶″′ソ
                                    ヽ丶))ヽゝ丶
                                          ヽ丶

         ○マリアナ
          午前8時30分 第1次攻撃隊来襲
          午前9時40分 第2次攻撃隊来襲
午後0時10分 第3次攻撃隊襲来

午後4時 ラグナ岬沖北東130マイル地点
第58任務部隊は、午後1時50分に、第3、第4任務群から第4次攻撃隊174機を発艦させた。
その1時間半後の午後3時20分には、第1、第2任務群から248機の第5次攻撃隊を発艦させている。
第5艦隊旗艦、戦艦ノースカロライナの作戦室内では、誰もが緊張した顔つきで、何かを待っていた。
その時、ドアが開かれた。
通信参謀のアームストロング中佐が、紙を持って作戦室内に入ってきた。
「長官、第5次攻撃隊指揮官より戦果報告です。」
「読め。」
「我、敵対空陣地60以上を完全撃破せるも、魔法施設に損害なし。
わが方の損害、11機被撃墜、8機被弾。第6次攻撃の要ありと認む。」
誰もが落胆したような表情になる。
「どうも、実感が沸かぬものだな。」
スプルーアンスは、重々しい口調でそう呟いた。
「レイム君、マリアナから感じられる魔力はどうなっている?」
彼は、椅子に座っているレイムに視線を向けた。
「反応は時間が経つにつれて、大きくなっています。さきほど、召喚儀式の最終段階に入りました。」
「最終段階か・・・・・・・・」
さしものスプルーアンスも、この時は珍しく焦りを感じていた。
「第6次攻撃隊はどうか?」
「今のところ、準備は半分以下までしか進んでおりません。搭乗員、整備員の疲労も限界に近づきつつあるようです。」
この時までに、機動部隊は5次、合計で1267機の戦闘機、攻撃機を送り出している。
この強大な航空戦力を叩きつけられた魔法都市マリアナは、持てる対空砲火を総動員して迎撃に当たったが、
物量で押しまくる米艦載機群に、次々と潰されていった。
第5次攻撃隊が帰路に着いたときには、マリアナに残されている対空陣地はわずかに機銃座が58、
高射砲にいたっては17という有様であり、大魔道院周辺の建物に無傷なものは全く無かった。

それどころか、原形をとどめている建物を探したほうが早いという有様であり、
米軍の空襲が如何に仮借ないものか、それを知らしめている。
だが、主目標の大魔道院はどうか?
3次から5次に至っては、アベンジャーやヘルダイバー、ドーントレスという攻撃機類は全て、
この大魔道院に殺到し、容赦なく爆弾を叩きこんでいる。
だが、叩かれても叩かれても・・・・・・黒煙が晴れると、大魔道院はその重厚な姿を現し、
米艦載機のパイロット達は、それを見るたびに深くため息をついていた。
米軍機の被害は、この5次の攻撃によって、ヘルキャット38機、ヘルダイバー42機、
アベンジャー24機、ドーントレス5機、合計109機が撃墜されるか、着艦事故などで失われた。
その後、損傷機の中にも、ヘルキャット17機、ヘルダイバー5機、アベンジャー6機が修理不能と見られている。
それも入れると、合計で137機が失われた事になる。馬鹿に出来ない喪失数だ。
それだけ、継戦派も必死に戦っていると言う表れでもある。
「参謀長、もし現時点で発艦できる艦載機があるとしたら、何機ほどが確保できるかね?」
「現時点でありますか・・・・・・・しばしお待ちください。」
そう言うと、デイビス少将は作戦室から出て行った。
15分ほど経って、デイビスは紙を携えて戻ってきた。
「長官、現時点で発艦できる数はこの通りであります。」
そう言って、デイビスは読み上げようとするが、
「いい。自分で読もう。」
彼はそう言って、デイビスから紙を取った。
(現時点で攻撃可能機は・・・・・第1任務群は空母ホーネットがF6F12機、
SB2C13機、TBF6機、ヨークタウンがF6F4機、SB2C9機、TBF7機、
軽空母ベローウッドはF6F15機、TBF3機、ベローウッドは搭載爆弾があと1撃分か。
バターンはF6F3機、TBFはまだ準備中。こちらも搭載爆弾が欠乏・・・・・第1任務群は少々厳しいな)
スプルーアンスは眉をひそめる。

正規空母は余分に爆弾や魚雷を積んでいたため、あと4~5回の攻撃が行え、
一番弾薬の少ない正規空母エセックスとバンカーヒルでも、あと3回は航空攻撃が行えると、
バートンビックス大佐から報告を受けている。
だが、軽空母は、弾薬は定数のままであった。
本来なら、軽空母にも余分に爆弾を積ませようと思っていたのだが、時間の都合上、それはできなかった。
それに、本来は攻撃機のみに爆弾を積むはずが、ヘルキャットにまで爆弾を回さねばならず、
軽空母の弾薬庫から爆弾が見る見るうちに減っていったのだ。
気がつく頃には、第1任務群の軽空母は2隻とも、少ない数であと1撃分のみ、
第2任務群の2軽空母ではあと2撃分、第3任務群のプリンストンはあと1撃。
そして、第4任務群にいたっては、ついに軽空母のカウペンスが爆弾切れという目がくらむような事態を引き起こした。
寮艦の軽空母ラングレーも、F6F4機、TBF5機にしか爆弾を搭載できず、
これらを放ってしまえばラングレーも爆弾なしとなる。
調べた結果、第1任務群の他に、第2任務群ではF6F21機、SB2C32機、SBD9機、TBF27機。
第3任務群ではF6F12機、SB2C17機、アベンジャーは修理中か、補給中で参加可能機なし。
第4群ではエセックスがF6F6機、SB2C3機、TBF7機使用可能という状態である。
合計すると、F6F73機、SB2C74機、SBD9機、TBF50機。
206機が出撃できるのである。しかし、第6次攻撃隊は、本来ならば360機は確保できる
予定であったが、360機が発進準備に入るのは、午後6時20分。
日没は7時18分を予定されているから、もはや間に合わない。
「護衛空母部隊は・・・・・・・」
スプルーアンスは海図を眺めてみた。
第58任務部隊の後方260マイル地点には、護衛空母部隊である第52任務部隊が続航している。
護衛空母部隊は、本来は艦載機とパイロット補充用に取っておいていたが、
スプルーアンスは第52任務部隊にも空襲に加わるように命じていた。

持てるものは全て使う。スプルーアンスはそう腹に決めていた。
だが、肝心の護衛空母部隊は、補給船団から離れ、こちらに向かったはいいが、
スピードが18~19ノットしか出せず、今現在もその「全速力」で戦場に向かっている。
だが、現時点ではまだ260マイルの距離にしかおらず、この作戦には間に合うかどうか怪しくなってきた。
マリアナまでは650キロあり、護衛空母搭載の補充機のみならず、本来の艦載機であるFM-2や、
アベンジャー、ドーントレスの後続半径に入っている。
しかし、肝心のパイロットはまだ技量が未熟であり、機動部隊のパイロットと比べると、
いささか色があせる感がある。
これは補充機のパイロットにも言える事であり、スプルーアンスは第52任務部隊は戦場には間に合わぬだろうと思っていた。
「206機・・・・・・・・・それで充分だ。
参謀長、もはや時間が無い。今発艦できるだけの艦載機で第6次攻撃隊を編成する。」
「長官、しかし、パイロットは相当疲労しております。
それに、今日だけで3度出撃したものもおり、疲労が重なると、着艦事故が増える可能性があります。」
デイビス少将はスプルーアンスに思いとどまるように言う。
「被害報告を見ましたか?敵の対空砲火は減少したといえど、未だに残っています。
それに、着艦事故も9件、艦隊近くでの不時着水も29件報告されています。おまけに外をご覧ください。
太陽は傾いております。」
だが、スプルーアンスはデイビス少将の意見を退けた。
「時間は無い。それに待っている余裕も無い。
参謀長、敵は最大のカードをあと一歩で切れる立場にあるのだ。それも、とてつもなくな。」
もはや止められまい。スプルーアンスの意志に、デイビスは言葉を失った。
「直ちに第6次攻撃隊を編成し、発艦準備を行え。諸君、第6次攻撃隊の勇士に祈ろう。」

午後4時30分 ラグナ岬沖北東385マイル
第52任務部隊は、2つの護衛空母を中心に輪形陣を敷いている。
輪形陣は2つあり、左側の陣がタフィ1、右側の陣がタフィ2と呼ばれている。
タフィ1は護衛空母ガンビア・ベイ、キトカン・ベイ、ファーション・ベイ、カリーニン・ベイ、マニラベイ
の5空母を中心に、重巡洋艦チェスターと軽巡のデンヴァー。
それに駆逐艦6隻が周囲を取り囲んでいる。
司令官はレイノルズ少将が執り、将旗をガンビア・ベイに上げている。
タフィ2は護衛空母セント・ロー、ネヘンダ・ベイ、ホワイト・プレーンズ、ナトマ・ベイ、ホガット・ベイ
の5空母が中心。
重巡洋艦のルイスヴィル、スプリングフィールド、駆逐艦5隻が周囲に展開している。
指揮官はブランディ少将である。
その中の1群、タフィ2の旗艦であるセント・ローの艦内で、トーマスブランディ少将は
ややげんなりした表情を浮かべていた。
「艦長、マリアナまではあとどれぐらいだね?」
この日、何回目か分からぬ質問を艦長に問いただした。
「あと385マイルです。」
「385か・・・・・さすがは19ノットだ。」
ブランディ少将は、護衛空母の足が遅い事にいささか苛立っている。
スプルーアンス長官から戦闘参加の要請を受け取ったのは、午前11時を回った直後である。
第58任務部隊の後方460マイルを航行していた補給船団から、第52任務部隊は離脱して、
一路、第58任務部隊のもとに向かった。
しかし、いかんせん、空母自体の足が遅いのではどうにもならず、なんとか艦載機の攻撃半径に
入ったときには、午後4時を過ぎていた。
それに、パイロットも技量が不十分なものが多い。技量の満足なものは大多数が、高速機動部隊のほうに取られてしまっている。
彼が座上する護衛空母は、カサブランカ級に属するもので、1年間でなんと50隻もの同型艦が、
カイザー造船所に発注されており、その多数の姉妹艦は、太平洋戦域で後方支援や地上部隊援護、船団護衛などで活躍している。

カサブランカ級などの護衛空母部隊は、その数の多さと、汎用性の高さから、将兵の間では
「シープ空母」とあだ名されており、護衛空母群は犠牲を出しながらも、文字通り「ジープ」のごとく働いていた。
この第52任務部隊もそうである。だが、その足の遅さが、味方機動部隊の足を引っ張っている・・・・・・・・
(役立つはずが、逆に足を引っ張る結果となってしまった。)
ブランディ少将は、内心でそう思っていた。
実は、護衛空母の艦長の中に、あらかじめ船団からはなれて、第52任務部隊と共にマリアナ攻撃に加わってはどうか?
という意見があった。だが、ブランディ少将は、
「戦場では何があるか分からない。それに、護衛空母の艦載機は半数以上が
機動部隊の補充用で埋まっている。その少ない戦力でも、第58任務部隊に足しになるとは私も思う。
しかし、私達には守るべき補給船団もいる。先日の空襲では我が空母のワイルドキャットの活躍で被害を最小限に抑えているし、
今後のことも考えて、護衛空母は補給船団護衛に付かせるべきだ。」
と、意見を押しのけてしまった。同僚であるレイノルズ少将もこの案には賛成であった。
しかし、今思うと、その意見を押しのけたのは間違いであったと後悔せざるを得ない。
「司令・・・・・私達が不甲斐無いばかりに、申し訳ありません。」
護衛空母セント・ローの艦長、ジョー・オフスティー中佐がすまなさそうに謝ってきた。
最初、なんだ?と思ったブランディだったが、彼はさきほど、独り言を呟いていた事を思い出した。
「いや、あの言葉は気にしないでくれ。別に君を批判しているわけではないさ。
しかし、不快な思いをさせたのは申し訳ないと思っている。」
そう言いながら、ブランディはふとした失言を取り消した。
「パイロットの連中はどうだね?」
彼は別の話題に話を変えた。
「ずっと静かだが。」
「さあ、私も分かりかねますが・・・・しかし、彼らも発艦したいとは思っているでしょう。
前線では支援するはずの味方機動部隊が頑張っているのですから。」
「そうか。気持ちは分かるが、腕前はまだ未熟だ。その彼らのためにも、早く距離を積めねば。」

その時、数人のパイロットが艦橋に押し掛けて来た。
「おお、どうした?」
オフスティー中佐はやや顔を驚かせつつも、彼らに問うた。
「艦長・・・・ブランディ司令。どうか、行かせてください!」
1人のパイロットが懇願する。そのパイロットは機動部隊補充機の搭乗員である。
その他にも、セント・ローのパイロットも混じっている。
「行かせてくださいだと?君達はまだ腕前が十分ではない。それに、もう夕方だ。じきに日が落ちる。」
「それでも構いません!どうか、第58任務部隊の戦友達の負担を軽くするために、自分達をマリアナ爆撃に行かせてください!」
「私達は確かに腕前はまだまだです。しかし、発艦と着艦、それに一通りの技術は身につけています。
こんな私達でも、役に立てるはずなのです。艦長・・・・・司令・・・・どうか、行かせてください!」
米軍機のパイロットにしては珍しい。司令や艦長に直談判など、滅多に無い。
「私も君達を送り出したい。だが、太陽は既にああだし、それに距離がある。
360マイル地点までに到達したら、私が行けと命令する。それまで、君達は待機していてくれ。」
「待機待機じゃあ、時間がありません。飛行機とは、1000キロ以上の距離をひとっ飛びで行けます。
しかし、この速力では、時間に間に合うかどうか分かりません。
それよりかは飛んで、敵に爆弾を叩きつける以外にありません。」
「だが、君達はまだ技量が足りぬ。それにワイルドキャットは、」
「他にどんな僕達の使い方があるんですか!?ありゃしませんよ!
それに、敵は日没には化け物を召喚するそうじゃないですか。それが召喚されれば・・・・・・・・・・・・」
彼らの熱意は熱かった。仲間の負担を減らしたいがために、わざわざブランディを説得しに来たのである。
「それでは聞く。貴様らは、本当に行きたいのだな?」
「はい!司令・・・・艦長・・・・・どうか行かせてください!」
もはや、彼らに迷いは無かった。彼らは、行きたがっている。それを除外するのは、どことなくブランディには躊躇われた。
しばらく、ブランディは黙り込んだ。

そして沈黙する事10分。
「よろしい。君達を送り出そう。」
ブランディはついに決心した。やらないで破滅を待つよりは、まずは手を尽くすべき。
彼はそう決めたのである。
「必ず、生きて帰って来い。これは命令だぞ!」
「アイアイサー!」
6人のパイロットは、全員が直立不動の態勢を取り、ブランディらに敬礼をした。ブランディも彼らに答礼する。
それを確認したパイロット達は、固い表情をゆるめて艦橋を飛び出していった。

午後5時
甲板上には、6機のF6Fと6機のアベンジャーが並べられていた。
それらはいずれもプロペラを轟々と回しており、出撃できる喜びを味わっているかのようだった。
風上に立ったセント・ローは、発艦に適した合成速力を作り出し、艦載機の発艦を促進させる。
セント・ローの左舷800メートルのホワイト・プレーンズも同様に19ノットのスピードで海上を疾走する。
「発艦始め!」
艦長のオフスティー中佐が号令すると、命令を受け取った甲板要員が頷く。そして合図をヘルキャットに送った。
カタパルトが強引に、重いヘルキャットの機体を引っ張り、艦首方向から海上に放り込もうとする。
ヘルキャットは風に乗り、鳥の如く高度を上げていく。2番機のヘルキャットがすかさず前進し、カタパルトの位置に止まる。
カタパルトにワイヤーが装着されたのを確認すると、発艦よしの合図を送る。2番機も同様に上空に上がっていった。
攻撃隊の発艦には、レイノルズ少将も同意し、右に10キロ離れた洋上を航行するタフィ1も、艦載機を発艦させ始めた。
発艦は17分かかり、午後5時42分には第1次攻撃隊120機は30機ずつの編隊を組んで南西に向かっていった。
午後5時36分には第2次攻撃隊120機が発艦を終え、同じく南東に向かっていった。

午後6時30分 魔法都市マリアナ
「よくこんな状態まで持ちこたえたわね。」
エリラは、グールらと共に、壁画に埋め込まれていた水晶玉を見つめて感慨深げに呟いた。
「さすがは、マリアナの魔道師集団。ついに大仕事をやってのけたわね。」 
エリラは満足そうな笑みを浮かべて、右隣のグールの肩にポンと手を置いた。
「ありがとうございます。」
グールはうやうやしく頭を下げた。
朝の第1次空襲前に、壁画の窪み装着された、赤い水晶玉は、今では横に大きな亀裂が走っている。
傷はそれだけではなく、小さなヒビがいくつも生じている。
米機動部隊は、エリラ達が傷を確認した後も、3波に渡る航空攻撃を行ってきた。
最後の1波、206機が現れたときは、エリラやグールも水晶玉が持つかどうか、爆弾が炸裂するたびに心配していた。
だが、見事に耐え切った。
水晶玉は、米機動部隊の物量の前に屈することなく、爆撃を耐えしのいだのである。
報告では、敵機動部隊からは述べ1400機以上の航空機が、このマリアナに派遣されたという。
1400機・・・・・・・・・
これはとてつもない数字である。並みの町ならば、たちまち灰燼に返している数だ。
だが、グール達が作った水晶玉は、これに打ち勝ったのである。
「最後の最後まで、敵はハラハラさせてくれるわね。でも、」
エリラは、ヒビの入った水晶玉を優しく撫で付ける。
「その邪魔者も、もうすぐで消える。グール、今夜は今までに無い宴が見られるわよ。」
「はい。」
グールは頷く。
「ふふふふふ・・・・・これで、父の願い、いや、あたしの願いが、やっと叶えられる。」
エリラは笑顔を絶やさない。それもそうだろう。
もう既に陽は落ちつつあり、エンシェントドラゴンもあと少しの時間で召喚できる。
その後は、自分の好きなように国が作れる。まさに幸せの絶頂に達していた。
「この水晶玉も、よく持ってくれましたわい。あと1、200機の攻撃隊が来れば、水晶は魔力を失う恐れがありました。」
「でも、もう来ない。」
エリラは外に視線を向ける。外はオレンジ色の夕焼けに包まれている。あと数十分で、陽は落ちる。
「今から、敵の空母が飛空挺を発進させたとしても、もはや後の祭りね。」

そう言うと、エリラ達は3階の魔法陣が見渡せるいつもの場所に移動した。
魔法陣には・・・・・・エンシェントドラゴンのおぼろげな姿が映し出されていた。
これは、最終段階に入ったときに見られる現象で、召喚があと50分ほどで完了する姿である。
時間が経つに連れて、次第に姿が実体化し、最終的には、このおぼろげな姿は、本物のエンシェントドラゴンとなる。
「大きな犠牲は払ったけれども、ようやく、枕を高くして寝られる時が来る。」
エリラは、凄みのある笑みを浮かべながら、その光景をじっと見つめていた。
影は、心なしか少しずつ、濃くなってきているようだ。
それは、彼女の夢が、着実に進んでいるという証拠でもあった。
(運は、私達に味方したのね)
エリラはそう確信した。
だが、
「殿下!」
いきなり、魔道将校が血相を変えた表情で、エリラのもとに向かってきた。
「・・・・まさか・・・・」

第52任務部隊のタフィ1から発艦してきた60機の攻撃隊は、目印であるラグナ岬の灯台上空に達した。
「こちらバウンティ1、ラグナ岬上空に到達。目標上空まであと15分。」
攻撃隊指揮官のクロース・ミズーリ大尉は、隊内無線で全機にそう告げた。
攻撃隊の陣容は、F6Fが30機にヘルダイバーが18機、アベンジャーが12機である。
彼らの後方20マイルの空域には、タフィ2から発艦した攻撃隊の姿がある。
攻撃機隊は時速400キロのスピードで前進していた。
編隊の密度は、正規空母の艦載機隊に比べると、やや間隔が開いている。
それもそのはず、パイロット連中の腕前は、これから磨きに磨いていこうとしているのだ。
それを行おうとした矢先に、今回のドラゴンスレイヤー作戦が入ってきたのである。
「一応、全機付いてきているな。」
ミズーリ大尉は、各機がしっかりついてきている事に一安心した。
パイロット連中たちは、この機会に勇躍して、母艦を飛び立ったものの、後方が苦手ものも少なくない。
苦手といっても、一応はできるのだが、その点については機動部隊の精鋭航空隊と比べると雲泥の差がある。

その事から、もし脱落した場合は第58任務部隊の元へ向かえと、彼は出撃前に、部下達にそう告げてある。
予想では1機か2機ははぐれているかな?と思っていたが、それは杞憂のようだ。
攻撃隊は、やがて、魔法都市マリアナに到達した。
「ひでえ、これが街かね?」
ミズーリ大尉は、愛機の窓から見える下界の光景に、思わず息を呑んだ。
まともな建物は数えるほどしか見つけられず、その被害は主目標らしき巨大な建物に近づくにつれて、酷い。
(TF58の奴ら、散々暴れまわったな)
彼はそう思った。第58任務部隊から発艦した攻撃隊は、対空砲制圧を任されていた
ヘルキャットにも500ポンド爆弾を抱かせて送り出している。
このため、ヘルキャットに狙われた建物は、必ず500ポンドの洗礼を受けている。
ヘルキャットのパイロットは、もともと艦爆や艦功乗りではないから、外れ弾も多かった。
それでも、相当数の小屋や建物が破壊されている。
火災を起こしている建物も多々あり、いかに激しい空襲だったか、如実に表している。
「目標を発見した!目標は1に魔法施設、2に魔法施設、3に魔法施設!全機突撃せよ!」
「「アイ・サー!」」
無線機越しに、部下達の威勢のいい返事が聞こえてくる。
「こちらアーロン1、ラグナ岬上空に到達した。」
タフィ2から発進した攻撃隊も、上空に到達しつつある。
「こちらバウンティ1、了解。悪いが先に行くぞ!」
「俺たちの分も残しておけよ。」
「ちょっとだけ残してやるさ。」
そう言うと、ミズーリ大尉は無線機を切った。
前方に高射砲弾が炸裂する、小さな煙が沸きあがった。ミズーリ大尉のヘルキャットが異音を発する。
破片がいくつか当たったのである。
それを皮切りに、継戦側の対空砲火が始まった。
60機の攻撃隊の前面に、6~8の黒煙が湧き上がる。
現在高度は2700メートル。ヘルキャットはいずれも、胴体に500ポンド爆弾を搭載している。
この爆弾を、あの禍々しい赤い光を放っている大魔道院に叩きつける。

これまでに、最低でも700発を超える爆弾を受けても、平然とした姿を見せ続けた大魔道院。
(下でニヤニヤしていた奴らが、あの中にいるんだろう。
安全なとこに隠れて、のうのうとしている奴らが)
高射砲弾の炸裂が、ヘルキャットの機体を揺さぶる。
時折カーン!という音があがり、破片が突き刺さる。
だが、ヘルキャットはそれでも参らない。
やがて、大魔道院まで距離5000に近づいたミズーリ大尉は、突入する事を決意した。
(俺たちが、その気色悪い笑みを、驚愕に変えさせてやる!)
ミズーリは操縦桿を手前に押し込む。機首が下がり、風防ガラスの前面に、薄赤い光を放つ魔法施設が見える。
その外周部から、発砲炎が見えた。
ヘルキャットのプラットアンドホイットニー社製、2000馬力エンジンが轟々と唸りを上げ、機速がぐんぐん上がっていく。
降下角度50度で、ミズーリ大尉のヘルキャットはまっしぐらに突っ込んでいった。
距離が1800を切ると、機銃弾が放たれてきた。一見、全てが命中しそうに見える。
ガンガンと、機銃弾の幾発かが機体に当たる。だが、ヘルキャットの機体には異常は見られない。
距離が1000メートルまでに迫った。その時に、ガツン!と三度機銃弾が命中する。
「グラマン鉄工所の機体は、貴様らの機銃弾なんざ受け付けんぞ!」
ミズーリ大尉はそう喚き散らすと、爆弾を投下した。
腹から500ポンド爆弾が離れ、機体が軽くなる感触が伝わる。
距離800で、12.7ミリ機銃を撃った。ドダダダダダ!というリズミカルな音が聞こえる。
曳光弾が、大魔道院の外周の壁を右に縫っていく。
600キロのスピードまで上がったヘルキャットの機体を、ミズーリ大尉はフットバーを踏み込んで右方向に進路を向けさせた。
ミズーリ大尉が放った爆弾は、大魔道院の巨大な外壁に命中して炸裂した。
彼の突入をきっかけに、次々と、ヘルキャットが高空から落下するように降りてきて、爆弾や機銃弾を叩きつけてきた。
7番機がコクピットに直撃弾を受けて、パイロットを射殺される。
だが、ヘルキャットは爆弾を抱いたまま猛スピードで大魔道院に激突した。

外見的には無傷であるものの、壁画の水晶玉の傷を広げる戦果をあげた。
30機のヘルキャットは、わずか4分で全機が爆弾を叩きつけた。
外れ弾が6発あり、関係の無い施設や残骸を吹き飛ばしたものの、23発の爆弾が外壁や、内側に命中した。
ヘルキャットの最後が爆弾を投下した直後、今度は高度2800から18機のヘルダイバーが
翼を翻して、猛禽の如く襲い掛かってきた。
対空砲火が、慌ててヘルダイバー群に照準を向け、火箭を放つ。その時には、1番機が胴体から爆弾を投下した。
これを皮切りに、ヘルダイバーは次々と爆弾を叩きつけ、大魔道院の外側、内側問わずに18の閃光が立ち上がる。
2分ほど間が開いたところに、12機のアベンジャー隊が悠々と、上空に侵入してきた。
それらは、2発ずつの500ポンド爆弾を、バラバラと投下。
24発中、7発が外れたが、残り17発が目標に叩き込まれ、更なる黒煙が巨大な魔法施設を覆い隠した。
米側の攻撃はこれで一旦終息したが、まだ残り矢は現場付近に向かいつつある。
むしろ、航空攻撃はこれからたけなわになりつつあった。
タフィ2から発進した攻撃隊は、速いテンポで攻撃を進め、ついにはアベンジャー隊18機の爆弾が投下された。
大魔道院の内部では、それを無視するかのように、召喚の儀式が続けられていた。
エンシェントドラゴンの姿は・・・・・先と比べて、身のある雰囲気になってきた。
最初はとても透けて見えていたのだが、今では透けていたはずの光景が、見えにくくなっている。
「あと少し・・・・あと少しで・・・・エンシェントドラゴンが私の手に!」
エリラは両手をあげて、召喚の近い事を喜んでいる。その笑顔には、少しばかり狂気が混じっている。
上空からヒューという爆弾が落ちてくる音が聞こえてくる。
「大丈夫・・・・水晶は耐え抜くわ。そうよね、グール?」
「もちろんでございます。」
グールはややぎこちない笑みを浮かべながら、エリラに答える。
一番気になっているのはグールである。
来ないと思っていた敵空母からの攻撃隊が、またもやマリアナに暴れこんできている。
「心配する事は無いわ。敵の最後の足掻きよ。」
そう言って、エリラはふふふと笑った。
その刹那、ダダーン!という地震のような衝撃が、この巨大な大魔道院を揺さぶった。
これまでにない衝撃に、誰もがうろたえる。

「うろたえるな!儀式を続けよ!」
下で狼狽し始める魔法陣の魔道師達を、グールが声を張り上げて叱咤する。
「い・・・今の衝撃は?」
揺れが収まってから、エリラは隣の魔道将校に聞いてみた。
「分かりません。」
彼も何のことか最初分からなかった。だが、3分ほど時間が経ってくると、少し焦げ臭い臭いが漂い始めた。
「殿下!」
パスキ大尉とは別の伝令がエリラの元にやってきた。
「外周部の壁に、敵弾1発が命中し、火災が発生しました。
壁画の水晶玉は、粉々に砕け散っておりました。」
「なんと!?」
グールは驚愕の表情を浮かべた。
この大魔道院を守り通していた赤い水晶が、ついに耐え切れなくなったのである。
アベンジャー隊18機が投下した500ポンド爆弾の連続爆発に、水晶玉は作用限界を来たし、
ついにその役目を終わらされたのである。
「グール・・・・・よくもあんな役立たずな水晶玉を・・・・・」
エリラは先と打って変わった表情でグールを攻め立てた。だが、グールを攻めるのはお門違いもいいところである。
むしろ、米艦載機の猛爆をここまで受け止めた水晶玉の防御力は賞賛に値する。
「報告には続きがあるのですが・・・・・・・」
「!!」
エリラはその伝令に目を剥いた。
「ラグナ岬沖の20キロ上空に敵編隊が」
「黙れぇ!!!!!!!!!」
エリラはその伝令の首を掴んで、力を込めた。
グキッという音が鳴って、伝令は唐突に生命を終了させられた。
エリラはその死体をそこらに投げ捨てると、何かをぶつぶつと口にする。
「こんなはずでは・・・・・・こんなはずでは・・・・・」
彼女は拳を握りながら、呻くように呟いた。
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