自衛隊がファンタジー世界に召喚されますた@創作発表板・分家

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午前3時50分
アイオワの前部の非装甲部に開いた穴へ、ダメージコントロールチームが、消火ホースを使って水を注ぎ込んでいる。
その光景を、アイオワの艦橋からウイリス・リー中将は眺めていた。
「司令官、前部、左舷中央部の火災はあと1時間で鎮火できます。」
「そうか。アラバマの状況はどうだ?」
「アラバマは目下消火作業中でありますが、主要部分の損害は砲塔を除いて軽微だそうです。」
「そうか。」
迎撃部隊の戦艦のうち、4隻の戦艦全てが損傷している。
その中でも、アイオワとアラバマの被害が大きい。アイオワは中破。
アラバマは左舷の火災が予想以上に酷い事と、砲塔2基が使用不能という事で大破と判定されている。
ニュージャージーは14発受けたが小破、インディアナは7発を受けたが、これも小破に留まっている。
それに対し、駆逐艦の援護はあったものの、敵重武装戦列艦5隻は、全てが撃沈されている。
それに3分前に入った報告では、駆逐艦部隊がハルフォード沈没、デューイ大破、
ルイスハンコック中破の損害を受けたものの、小型戦列艦8隻撃沈、4隻大破の戦果をあげている。
巡洋艦部隊は、重巡洋艦のサンフランシスコが大破、ボストンとクリーブランドがそれぞれ砲塔1基を潰されて中破、
残りは小破したが、敵艦4隻を撃沈し、2隻を大破させた。
損傷艦は多いものの、沈没艦は第3次サイフェルバン沖海戦より少ない。
それでいて前回と同等の大戦果をあげたのである。これは圧勝といっても過言ではない。
「これで障害は取り除いた。あとは明日、機動部隊の活躍如何に掛かっている。」
その時、通信士官が1枚の紙を持ってきた。それを受け取ったリー中将は、文面を見る。
全部見終わると、顔を曇らせた。

9月31日 午前3時 ギルガメル諸島西南370マイル沖
第52任務部隊のタフィ2は、その日、補給船団の北10マイルを時速16ノットで航行していた。
現在、艦隊は右後方に地図に無い島を背にしている。島自体は広くも無く、狭くも無い。
その島の南方30マイル地点を今しがた通り過ぎたばかりだ。
タフィ2は護衛空母キトカン・ベイを旗艦にしており、トーマス・ブランディ少将が座上している。
タフィ2はキトカン・ベイ始めとする護衛空母5隻の他に、重巡1、軽巡2、駆逐艦6で編成されている。
この護衛空母群は、搭載機数28機のうち、16機を機動部隊の艦載機補充用に当てている。
16機の内訳は、F6Fが8機、SB2Cが4機、TBFが4機という割合である。
自身の艦載機はFM-2ワイルドキャット6機、TBF6機のみである。
その6機しかいないFM-2でも、タフィ1とタフィ2全部を合わせば、60機という纏まった数となる。
この60機は、今日の防空戦闘で大活躍している。
艦隊は16ノットの速度でギルガメル諸島を通過、ゆっくりと西進している。
軽巡洋艦のブルックリン艦長であるロイ・コール大佐は艦長席に座ってコーヒーを飲んでいた。
「艦長、対抗部隊は敵艦を何隻沈められますかね?」
「う~ん・・・・・俺の予想としては、3分の2撃沈がいいところだと思うぞ。」
「3分の2ですか・・・・味方は何隻やられると思います?」
「おい、あんま縁起悪い事言わすなよ。と言っても何が起こるのかが分からんのが戦争だ。
とりあえず、3隻喪失、4隻大破というところか。それにしても、TF58の奴らはいいよな。
自分達だけでドンパチやって。」
「自分らも参加したいところですね。」
2人が雑談を交わしていると、右舷後方の駆逐艦コンウェイが隊内無線で海竜らしきものをソナーで探知したと報告してきた。
やがて、コンウェイがしばしの間、隊列から離れ始める。
3分後、コンウェイから新たな通信が入った。
「我が艦隊より北北東20マイル地点に南下する艦隊あり。」
「南下する艦隊だと?」

コール大佐は首を捻った。
「TF58は西に離れている。TF54は・・・・・おい!TF54は船団の護衛についているか?」
「はい。全艦艇が所定の位置で船団の護衛に当たっております。」
TF54もいる・・・・・・・そういえば、第58任務部隊の空襲を受けて何隻か沈没し、撤退した敵艦隊があった。
だが、もし、その部隊が、撤退すると見せかけ、こちらの目が襲撃してくる空中騎士団や、敵飛行場に移っている間に、
ギルガメル諸島、あるいはクリオメール島に回りこんでいたとしたら・・・・・・・
「コンウェイから報告!未確認艦応答なし!」
「敵だ!敵艦隊だ!」
コール大佐はいきなり、血相を変えた表情で叫んだ。
「その未確認艦は、午前に機動部隊の艦載機を受けて壊滅したはずの敵艦隊に間違いないぞ!」
ふと、彼はあることを思い出した。
20分前、12ノットの速力で通過していく小艦隊があった。
それらは損傷した空母エンタープライズを始めとする軽巡1、駆逐艦2の艦隊であった。
それらは、先に後退していった損傷艦の後を追うように後方に下がりつつあった。
(もしや・・・・・・)
その時、コンウェイからの新たなる情報が入る。
「未確認艦隊は東南に針路を変更せり。時速25ノット。」
東南。エンタープライズ隊が避退していった方向である。
(待てよ。さっきコンウェイは海竜を追いかけていった。
もしや、その海竜が、これまでの損傷艦の通過状況を味方艦隊に教えていたとしたら・・・・・・)
エンタープライズが危ない!
その時、旗艦のキトカン・ベイから緊急通信が入った。

時系列はここからしばらく遡る。
午後1時30分 第58任務部隊の第3次攻撃隊の最後のドーントレスが、重武装戦列艦ムルベントに爆弾を叩きつけ、戦場を去っていった。
中型戦列艦チャイエイトに旗艦を移したオルコイヅ大将は、無念の思いでその一部始終を見守っていた。
ムルベントは左舷に5本、右舷に2本の魚雷を叩き込まれた上に、8発の爆弾を受けていた。
ムルベントは黒煙を盛大に上げ、洋上に停止している。沈没は誰の目から見ても明らかだ。
「上空が丸裸の艦隊が、こうも敵の航空戦力に対して無力だとは。」
彼は愕然としていた。
これまでに襲撃してきた敵機動部隊の艦載機は、まるで演習をやっているかのように、
回避運動を繰り返す第5艦隊の艦艇に、あっさりと爆弾や魚雷を叩きつけた。

そして、1時間後に送られた被害報告書に、彼は愕然となった。
第5艦隊は重武装戦列艦3隻、中型戦列艦4隻、小型戦列艦16隻。計23隻で編成されていた。
だが、たった2時間の戦闘で、重武装戦列艦3隻、中型戦列艦2隻、小型戦列艦4隻が撃沈され、
2隻が大破して、スピードが出せなくなっている。
残存兵力は中型戦列艦2隻、小型戦列艦10隻のみ。
だが、オルコイヅ大将はこの直後、ある考えが浮かんだ。
「参謀長、確かここはギルガメル諸島より西に920キロ離れていたな。」
「はい。ここからちょうど東に920キロほど行けば辿り着きます。」
しばらく何かを考えた後、オルコイヅ大将は艦橋の後ろにある海図室に幕僚を連れていった。
「司令官、どうされました?」
「いやな、少し面白い事を考えたのだ。」
そう言うと、オルコイヅ大将は海図のある地点を指差した。
「クリオメール島・・・・・ですか。」
「そうだ。ここから西に410キロだ。ちなみに、今、敵の機動部隊がここ、
ギルガメル諸島の南西272キロの所で味方空中騎士団と戦闘を行っている。」
「それで、司令官の面白いお考え、とはなんでありますか?」
「ああ。それを今から言おうと思っていた。我が艦隊は今より第6艦隊との合流をやめ、クリオメール島に避難する。」
それを聞いた幕僚達は誰もが仰天した。

時は流れ、午前2時50分 クリオメール島
「しかし、こんな島に、このようなものがあるとは。」
現在、第5艦隊はクリオメール島の北側の入り江に停泊していた。
だが、この入り江はただの入り江ではない。一見緑に覆われているように見えるが、
実は伸び切った木の枝が高く生い茂り、入り江を隠しているのである。
実は何度かこの島の上空を米機が飛んでいたが、米機のパイロットは無人島と報告している。
1時間前の午前1時50分に、第5艦隊はアメリカ側に見つかる事無く、クリオメール島に辿り着いていた。
午後1時45分から時速25ノットのスピードで進み、13時間近くをかけて到着したのである。

そして午前1時30分、
「敵艦隊の一部発見。その敵艦隊の16キロ後方に、損傷した大型空母が撤退中」
との報告を受けた。
「司令官。どうやら本当に、敵をあっと言わせそうですな。」
「これまでにさんざん敵空母には手を焼かされた。それに、昨日の戦闘で沈んで行った3隻の重武装戦列艦も、
敵空母の艦載機にやられている。だが、今度はこっちが襲う番だ。さあ、出港だ。
派手に暴れまわってやろう。」
オルコイヅ大将が自ら提案した作戦。それは、損傷して、後退してくる敵艦を討ち取ろうというもの
であった。
幕僚達は反対した。第6艦隊との合流はどうなるか?
クリオメール島まで無事に行けるのか?
議論は長く続くかと思われたが、オルコイヅ大将は命令を強行し、第5艦隊の残存艦は、損傷の
ひどい2隻の小型戦列艦を避退させ、クリオメール島に向かったのである。
米軍偵察機は、この艦隊を発見せず、策敵線の抜け穴にいた第5艦隊は粛々と、そして確実に
目的地に向かう事が出来たのである。

午前3時16分 クリオメール島東南20マイル
左舷に敵弾を受け、大破した空母エンタープライズは、軽巡洋艦バーミンガム、駆逐艦コットン、ナップに
護衛されて避退中であった。
艦長のガードナー大佐は艦長席で居眠りをしていた。
「艦長!起きてください!」
「・・・・う・・・すまん。居眠りをしとったようだな。どうした?何か異変でも起きたのか?」
「バーミンガムから通信が入りました!艦隊左舷後方から接近中の未確認艦発見せりとの報告です!」
「はぁ?」
ガードナー大佐は思わず間の抜けた声を漏らした。
「未確認艦だと?TF52か54の艦隊じゃないのか?」
「違うようです。」

現在、エンタープライズは12ノットしか出せない。
昨日の海戦では、敵機の爆弾6発が左舷に命中し、そのうち4発が喫水線付近に、
2発が格納甲板の外壁にあたって炸裂した。
左舷側に浸水が起き、一時は12度まで傾斜したものの、乗員の懸命な処置のお陰で浸水は止まった。
エンタープライズは一旦応急処置を施し、午後5時に護衛艦を伴って後方に避退し始めた。
その応急処置の際に、右舷側に注水してバランスを取る事が出来たが、
最高速度が12ノットに落ち込んでしまっている。
ダメージコントロールチームの報告では、修理に3ヶ月はかかるだろうと言われている。
その手負いのエンタープライズと、護衛艦の後方に現れた未確認艦。
そして、TF52、54から後退している艦がない事を考えると・・・・・・
それを裏付けるかのように、バーミンガムから訂正の通信が入る。
「バーミンガムから新たなる報告。未確認艦は敵艦隊の誤り。我、これより迎撃する。」
続いて、TF52からも連絡が入った。
「我、応援部隊を貴艦隊に増派する。」
彼らは知らなかったが、この時、ブランディ少将の命を受けて、軽巡のブルックリンと駆逐艦6隻が反転、
エンタープライズ隊のもとへ急いでいた。
護衛船団とは通り過ぎて大して時間はたっておらず、両者の距離は数マイルしか離れていない。
味方艦の来援は早い。だが、敵の来援も早かった。
エンタープライズの護衛をしていたバーミンガムは駆逐艦コットン、ナップを引き連れて反転、敵艦隊に向かった。
そして午前3時25分 バーミンガムのレーダーが2つの艦隊を捉えた。1つは巡洋艦2、駆逐艦10を引き連れた艦隊。
もう1つは巡洋艦1、駆逐艦6の艦隊。
前者は北、後者は前者よりやや西側から来ている。
「こちら軽巡洋艦のブルックリン艦長、ロイ・コールだ。そちらは味方艦だな?」
「そうだ。私は軽巡洋艦バーミンガム艦長のフリッツ・クリルだ。」
「あと少しで合流できそうだが、敵のほうが先に君達に突っ込んでくるな。」
「ここはひとつ、挟み撃ちでやろう。そうすれば敵に動揺を与えられるし、こっちに飛んでくる砲弾も少なくなる。」
「OK。では君達が敵の右側、俺たちが敵の左側を行く。エンタープライズを守るぞ。」
その言葉を最後に、無線が切れた。

敵艦隊まではあと12マイル。もうすぐそこである。
バーミンガムと駆逐艦2隻は、33ノットのスピードで敵艦隊に向かった。
そして5分後、ついに敵艦隊が姿を現した。
バーミンガム隊の上空に、敵艦隊が発砲した照明弾がきらめく。
「敵との距離、10マイル!」
「ようし、左砲戦、撃ち方始めえ!!」
前部の6インチ砲2基のうち、1番砲が砲弾を放つ。
まずは定石通りに交互撃ち方からだ。
敵艦隊とはすれ違う形で対峙しているため、前部の砲しか使えない。
ドーン!と音を立てて1番砲が火を噴く。敵艦も前部砲塔を撃ってきた。
まるでどけ!と言わんばかりである。
バーミンガムの右舷後方に水柱が立ち上がる。
バーミンガムは33ノットの高速で突っ走っているため、照準がいまいち合わせにくいのだろう。
8秒後に2番砲が6インチ砲弾を放つ。敵艦隊の左舷前方に2本の水柱が立ち上がる。
敵艦隊の砲火が増えた。先は1番艦だけしか撃ってこなかったが、今度は2番艦も砲撃に加わっている。
8本の水柱がバーミンガムの右舷後方に立ち上がる。
「敵さん、こちらの速度を掴み損ねてるぞ」
クリル艦長はニヤリと笑みを浮かべた。
彼らの役目は、ブルックリン隊が来るまで、敵艦隊を足止め、もしくは掻き乱すことである。
ここで敵艦隊の進撃を阻み、ブルックリン隊と共同して叩けば、エンタープライズを守る事が出来る。
「敵との距離、8マイル!」
CICからの報告が艦橋に入る。3番砲が吼える。
砲弾は惜しくも敵艦を飛び越えてしまう。それを払拭するかのように、1番砲がすぐに撃つ。
弾着は敵艦の左舷側に至近弾となった。そして第5射で夾叉が出た。
バーミンガム隊は敵艦隊の1番艦の左舷側に回り込もうとしている。
ここでようやく、第3、第4砲塔も使用できるようになり、砲撃可能な砲が増えた。
「よし、一斉撃ち方だ!」
それを機に、しばらく砲が静かになる。そして30秒後、バーミンガムの左舷側が真っ赤に染まった。
「5インチ砲撃ち方はじめ!」

左舷側に射撃可能な5インチ連装両用砲が咆哮を始める。
第1斉射が敵1番艦の周囲を取り囲む。その中に3つの命中時の閃光が走る。
さらに5インチ砲弾が殺到し、再び命中弾の閃光に覆われる。
1番艦に3斉射を叩き込んだところで、目標を2番艦に変える。
2番艦からは6インチ砲は交互撃ち方ではなく、一斉射撃で対抗した。
バーミンガムの艦体にガーン!という衝撃が走る。
「左舷3番機銃座損傷!」
敵弾の1発が左舷の40ミリ連装機銃座を叩きつぶした。
後続の駆逐艦も5インチ砲を乱射している。遠距離なので、魚雷は撃てないでいるが、
それでも、5インチ両用砲の速射性能はめざましいものがある。
バーミンガム隊は高速で敵とすれ違いながら、会敵からわずか10分の時間で敵艦隊を通り抜けた。
バーマント艦隊は、バーミンガムに17センチ砲弾3発、9センチ砲弾2発を食らわせた程度で終わったが、
米艦隊もまた、バーマント艦隊に致命傷を負わせていない。
元々撹乱が目的であるから、最初、バーミンガム隊は早撃ち逃げに徹した。
「面舵一杯!」
クリル大佐がすかさず号令を下す。今度は同航する隊形で、敵艦隊の後方から迫る位置だ。
こちらが有利な態勢である。
(エンタープライズとの距離が6マイルしか離れていない。もっとこいつらを遠ざけなければ)
彼はそう思い、再び全速前進を命じた。
この時、敵艦隊に異変が起こった。
敵艦隊の3番艦と4番艦がいきなり西に分離し、エンタープライズの方向に向かったのである。
「いかんぞ!目標変更、あの分離した敵小型艦を狙う!」
クリル艦長は素早くそう命じた。だが、それと同時に最後尾の敵小型艦が艦隊の針路をさえぎるような形で前進してきた。
敵艦隊は25ノットの速度しか出せていない。
だが、バーミンガム隊はこの時、敵艦隊に近寄りすぎていたため、敵艦隊の妨害をモロに受ける事になった。
「艦長!衝突の恐れが」
「わかっとる!取り舵一杯!先に邪魔者を片付けるぞ!駆逐艦部隊は敵に肉薄して、雷撃せよ!」

バーミンガムの艦首が左に振られる。敵艦隊は回頭中であるが、最後尾の敵小型艦がバーミンガムの右舷7000メートルを航行する形になっている。
「目標、右舷の敵小型艦!撃ち方はじめ!」
バーミンガムはいきなり6インチ砲を斉射した。それのみならず、5インチ砲の動員して撃ちまくる。
砲戦開始2分で、バーミンガムは9センチ砲弾3発を受けたものの、敵艦に6インチ砲弾7発と5インチ砲弾10発を撃ち込み、完膚なきまでにたたきのめした。
「ブルックリン隊が当海域に到着しました!」
CICから喜びの混じった声が響く。10キロ離れた海上から盛んに発射の閃光がきらめいている。
この時、ブルックリンは最初から15門の6インチ砲を一斉撃ち方で射撃し、
5インチ砲も動員して敵中型戦列艦の1番艦を叩きまくっていた。
敵1番艦も負けじと、17センチ砲を撃ち返してくる。
敵艦が第3斉射目でブルックリンに2弾命中させたが、その間に、1番艦は12発の6インチ、5インチ砲弾を受けていた。
2番艦も傘にかかってブルックリンを撃つ。
後続の6隻の駆逐艦は別の小型戦列艦を戦列から引きずり出して、至近距離で殴り合っている。
しかし、個艦性能の差は技量だけで埋めるのはとても難しい。
1隻、また1隻と小型戦列艦は5インチ砲の猛射の前に力尽き、沈んでいく。
ブルックリンと中型戦列艦2隻の撃ちあいが始まってから4分足らずで魔法防御を打ち破られる。
「敵巡洋艦の魔法防御を粉砕!敵艦の後部に火災発生!」
「ようし、このまま一気に畳み掛けるぞ!」
コール大佐は弾んだ声で言う。
それからブルックリンは8秒おきに6インチ砲弾を、6~7秒おきに5インチ砲弾を撃ちまくった。
当然ブルックリンにも敵弾が集中する。
だが、手数はブルックリンが多い。そして、敵をノックダウンさせるのもブルックリンが先だった。
魔法防御を叩き割られてから8分後、敵1番艦は6インチ砲弾28発、5インチ砲弾37発を叩き込まれて大破炎上、
戦列から離れていった。

艦橋は跡形も無く吹き飛び、オルコイヅ大将は艦橋職員や幕僚と共にあの世に送られてしまった。
そして2番艦との戦闘に移る。
2番艦にも6インチ砲の一斉射撃で応戦する。
ブルックリンが第4斉射を放った時に、後部に強い衝撃が襲った。
この時、2番艦の17センチ砲弾2発が、後部の第5砲塔を叩き、砲塔を粉砕してしまった。
ブルックリンと敵2番艦の撃ちあいは1番艦の時より壮絶であった。
ブルックリンの10斉射目で魔法防御が叩き割られると、その次には前部の第3砲塔が被弾して使用不能になる。
そして12斉射目で敵の後部砲塔を打ちのめし、2基とも使用不能にした後、
今度は敵の砲弾が後部の第4砲塔をたたきのめして砲火を減少させる。
まさに殴り合いの様相を見せた。だが、ブルックリンは残りの6インチ砲6門と
、左舷に残っている5インチ単装砲2門を乱射して、敵2番艦との殴り合いに勝利した。
ブルックリンは敵2番艦から17センチ砲弾16発を受けたが、逆に6インチ砲弾30発、
5インチ砲弾22発を叩き込み、最終的には前部弾火薬庫を誘爆させて撃沈した。

12ノットの速力で、逃げるように東に向かうエンタープライズの左後方から、2隻の艦影が現れた。
エンタープライズに現れたその艦影は、距離8000で砲を撃ってきた。
「敵艦だ!」
艦長のガードナー大佐は驚いたような表情を浮かべた。
敵艦隊は、西の洋上で味方艦隊と戦っているはずだった。
現に西の洋上では盛んに砲火が交わされている。
なのに、敵は突破して来たのである。
砲弾はエンタープライズを飛び越えて右舷側の海面に落下した。
敵が第2射、第3射撃ってくるが、全てが外れ弾になる。
「下手糞ですなあ。こんな巨体に当てる事すら出来ないとは。」
「馬鹿野郎、下手糞で充分だ。」
敵艦の粗末な射撃をあざ笑う副長を、ガードナー艦長が叱責する。

「こっちは手負いなんだ。いつ滅多打ちに撃たれてもおかしくない。だから敵さんには下手糞じゃないと困る。」
そういった直後、飛行甲板の後部に1つの閃光がきらめいた。青白い光が混じった閃光は一瞬で消え、白煙が覆う。
「くそ、当り始めたぞ。左舷で後部高角砲が使えたな。そいつで敵を迎え撃つんだ。」
彼の命令はすぐに伝わり、1分後に5インチ砲が敵艦に向けて砲弾を放つ。
しかし、敵はこれに刺激されたかのように、ますます精度を上げて、9センチ砲を撃ってくる。
敵艦2隻はエンタープライズの左右に回ろうとしている。
「そうはさせん!面舵一杯!」
「面舵一杯、アイサー!」
操舵員が必死の形相で舵を回す。だが、海水を飲み込んだエンタープライズの回頭は恐ろしくのろい。
その間にも、飛行甲板や舷側に命中弾が増えていく。
ついに、応戦していた左舷高角砲座が叩き潰された。
「左舷後部に浸水!」
「後部付近に火災発生!現在消火作業中!」
艦橋に次々と報告が入ってくる。どれもこれも、悲痛な叫びが混じっている。
(ビッグEが・・・・・歴戦のエンタープライズが、異世界の小型艦になぶりものにされるとは!)
ガードナー艦長はエンタープライズが沈む時は、敵航空機の爆弾や魚雷を受けて沈むと思っていた。
その覚悟もしていた。
だが、現実には、敵小型艦の小さな砲でちまちまと、一寸刻みに破壊されつつある。
彼はやりきれない怒りで一杯になった。
しかし、エンタープライズに居ついていた幸運の女神は、この時もビッグEに味方した。
突如、右舷側に付こうとしていた敵艦の近くに、6本の水柱が立ち上がった。
その敵艦は泡を食ったような動きで急に回頭を始め、別の方角に向かっていく。
その方角から、またもや閃光が走る。左舷側の敵艦も、エンタープライズから離れていき、
やがて2隻は向こうで砲火を放つ艦、バーミンガムのほうに向かっていった。

「敵艦2隻、我が艦に向かってきます!」
見張りの声が聞こえ、クリル大佐は頷く。
「敵艦との距離、8マイル!」
「よし、取り舵一杯!」
バーミンガムが軽快な動作でたちまち回頭を始める。敵艦が先に撃って来た。
水柱が、バーミンガムの右舷2000メートルに立ち上がる。
「敵さん、慌ててやがるな。」
クリル艦長は嘲笑を浮かべる。右舷の5インチ砲から星弾が発射され、上空に明かりが灯る。
敵艦の小柄なシルエットがぼんやりと浮かび上がる。
「右砲戦!距離7マイル!」
12門の6インチ砲が生き物のように動き、敵艦に照準を定める。
「エンタープライズ、火災発生の模様。」
遠くにエンタープライズのぼんやりとした艦影が見える。うっすらとだが、火災を起こしているのが見える。
(俺たちのビッグEをよくも傷つけてくれたな。その倍返しを、今、お前達に叩きつけてやる!)
クリル艦長は目をかっと見開いた。
「撃ち方はじめえ!」
一旦中断されていた砲撃が、再び開始された。
12門の6インチ砲が一斉に咆哮し、ドドドーン!という先の交互撃ち方とは比べもにならない衝撃が、艦を通じて体を伝う。
敵艦の前方に12本の水柱が立ち上がる。敵小型艦はそれを振り払うように突進を続け、前部2門の9センチ砲を撃ち返す。
バーミンガムの右舷側800メートル付近に水柱が立ち上がる。
新たにバーミンガムが斉射を放ち、舷側を真っ赤に染める。
曳光弾がすうっと敵のほうに伸びていき、それが落ちた、と思った瞬間に水柱が立ち上がる。
「敵1番艦を夾叉!」
CICから弾んだ声が、スピーカー越しに聞こえる。
さらに第3斉射が放たれる。その直後に、バーミンガムにガツン!という衝撃が伝わる。
「敵弾、右舷中央部に命中!20ミリ機銃座損傷!」
「ふむ、まだ軽微の範囲だ」

送られてくる被害報告を聞いて、クリル艦長はそう判断する。
6インチ砲弾は、1発が敵1番艦の前部に命中した。砲弾は1番砲を叩き潰して、少ない敵の砲戦力を削ぎ取った。
敵艦2隻はこのままでは不利と判断したのだろう、すぐに回頭してバーミンガムと同航する形となった。
敵艦からの砲火が一気に2倍に増える。
ガガン!と2発命中する衝撃が、バーミンガムを揺さぶる。だが、それだけではバーミンガムを倒す事は難しい。
バーミンガムは対抗面積が大きくなった敵艦に対して、容赦ない射撃を浴びせる。
敵1番艦が新たに3発の砲弾を叩き込まれる。
大きいとはいえない敵小型艦から、猛烈な黒煙が吹き上がる。
それは後方にたなびき、2番艦の姿を覆い隠そうとする。
1番艦が残り1門だけとなった9センチ砲を撃つ。
しかし、照準が滅茶苦茶に狂ったのか、あらぬ方向に飛んでいく。
バーミンガムがその1番艦に第5斉射、第6斉射と遠慮なしに砲弾を撃ち込む。
この2斉射だけで6発の砲弾が叩き込まれ、敵1番艦はガクッとスピードを落とした。
それに怖気付いた様子も無く、2番艦が4門の9センチ砲を乱射する。
「目標変更、敵2番艦!」
バーミンガムの砲がしばらく鳴り止む。
その時、ガン!という今までよりかなり近い位置で衝撃が走った。
思わず艦橋職員の誰もがよろめいた。その直後、
「レーダー使用不能!」
CICから悲鳴じみた声が届く。この時、敵2番艦の9センチ砲弾は2発が命中していた。
1発が右舷の艦橋横の第1甲板に、そして2発目が艦橋のすぐ後ろのマストを真ん中から叩き折っていた。
そして破片がレーダーを傷つけてしまっており、射撃用レーダーでは射撃管制ができなくなった。
「光学照準切り替えろ!星弾を撃て!」
右舷の5インチ両用砲から星弾が撃たれる。
ぱあっと青白い輝きが海上にきらめき、敵艦のシルエットが浮かび上がる。

「射撃準備よし!」
「撃て!」
再び、バーミンガムの砲撃が始まる。最初は目標を飛び越したり、目標の手前に弾着を繰り返していたが、
第7斉射で命中弾を得た。
そして第15斉射で敵艦に8発目を叩き込んだ時、突如大爆発を起こし、真っ二つに轟沈してしまった。
その壮絶な最後に、誰もが息を呑んだ。
敵艦は中央部から綺麗に切断されて、艦首と艦尾を逆立てて、急速に沈みつつある。
クリル大佐は、その壮絶の最後を遂げた小型戦列艦に、いつしか敬礼を送っていた。
(最後まで諦めない気持ち・・・・・・その精神は感服に値する。敵ながら見事な戦いぶりだった)
最後までバーミンガムに食らいつき、手傷を負わせ続けた小型戦列艦を、クリル艦長は感慨深げな表情で眺めながら、
そう思っていた。

9月31日、2つの異なる海域での戦闘は、終わりを告げた。
この2つの海戦は、それぞれブリュンス岬沖海戦、クリオメール島沖海戦と呼ばれ、アメリカ軍と継戦派の最後の艦隊決戦となった。
ブリュンス岬沖海戦では、米側は駆逐艦ハルフォード沈没、戦艦アラバマ、ニューオーリンズ、デューイ大破
戦艦アイオワ、ボストン、クリーブランド、ルイス・ハンコック中破。
戦艦ニュージャージー、インディアナ、重巡洋艦ボルチモア、サンタフェ、駆逐艦3隻小破の損害を受けたが、
重武装戦列艦5隻、中型戦列艦4隻、小型戦列艦10隻を撃沈。
残りを全て大破した。
クリオメール島沖海戦でも、空母エンタープライズが敵弾37発を受けたが、大事には至らず、
航行速度は8ノットに低下したものの、自力航行が可能。
軽巡洋艦ブルックリン、駆逐艦コンウェイが大破し、軽巡バーミンガムと駆逐艦2隻が中破し、駆逐艦1隻が小破。
逆にエンタープライズを狙った中型戦列艦2隻、小型戦列艦10隻全てが全滅するという被害を受けた。
こうして、継戦派最後の望みも完全に粉砕されたのである。

31日の午前4時に、機動部隊は再び前進を開始。
午前7時までには、マリアナ沖北東350マイル付近に到達すると見込まれている。
次なる目標は、魔法都市、マリアナ。



最後の戦いが、ようやく始まろうとしていた。
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