第42話 シホールアンルの思惑
1482年 9月20日 午前9時 カレアント公国レギテルリク
レギテルリクは、最前線であるループレングより北西100ゼルド離れた寂れた田舎町である。
シホールアンル軍が占領する前までは、300人の村人が住んでいたが、彼らは占領前に南部に
逃げ出してしまい、今ではシホールアンル軍の中継基地となっている。
シホールアンル第152補給旅団に属する物資輸送の馬車隊20台は、そんな田舎町にやって来た。
馬車隊は町に入った後、ワイバーン発着地の手前で憲兵に止められた。
シホールアンル軍が占領する前までは、300人の村人が住んでいたが、彼らは占領前に南部に
逃げ出してしまい、今ではシホールアンル軍の中継基地となっている。
シホールアンル第152補給旅団に属する物資輸送の馬車隊20台は、そんな田舎町にやって来た。
馬車隊は町に入った後、ワイバーン発着地の手前で憲兵に止められた。
「止まれ!」
臙脂色の軍服に身を包んだ下士官が、先頭馬車に駆け寄った。
「私は第152補給旅団第1補給大隊所属、第5補給中隊のラッヘル・リンヴ大尉だ。いつもの奴を届けに来た。」
「いつもご苦労様であります。すぐにお通しいたします。」
「いつもご苦労様であります。すぐにお通しいたします。」
下士官は部下に命じると、基地の出入り口のバーを上げた。
馬車隊は基地に入ると、基地の倉庫に向かった。
程無くして20台の馬車が倉庫に辿り着くと、荷台から梱包された荷を降ろし、倉庫の中に運び入れていった。
作業が30分ほど経った時、
馬車隊は基地に入ると、基地の倉庫に向かった。
程無くして20台の馬車が倉庫に辿り着くと、荷台から梱包された荷を降ろし、倉庫の中に運び入れていった。
作業が30分ほど経った時、
「あれ?あんた・・・・ラッヘルじゃない?」
作業の指揮を取っていた彼は誰かと思い、後ろを振り向いた。
そこには、1人の女性士官が立っていた。
顔つきからして整っているが、どこか勝気で、喧嘩なら誰にも負けぬと言っているかのような、荒々しさが感じられる。
ラッヘルはすぐに誰であるか分かった。
そこには、1人の女性士官が立っていた。
顔つきからして整っているが、どこか勝気で、喧嘩なら誰にも負けぬと言っているかのような、荒々しさが感じられる。
ラッヘルはすぐに誰であるか分かった。
「おっ、レネーリじゃないか!久しぶりだなあ。」
「士官学校以来ね。相変わらず、頑張り屋さんを貫き通している?」
「もちろんだ。君こそ、持ち前の勝気で頑張っているな。怪物殺しの名を頂戴されたとあっては、眩しく見えるぜ。」
「士官学校以来ね。相変わらず、頑張り屋さんを貫き通している?」
「もちろんだ。君こそ、持ち前の勝気で頑張っているな。怪物殺しの名を頂戴されたとあっては、眩しく見えるぜ。」
そう言ってから、ひとしきり再開を喜び合った。
「あっ、そういえば君はこの基地に配属されているのか?」
「そうよ。私が所属する第72空中騎士隊は1ヶ月前からこの小さな基地に移動なったの。
なんでも、戦力の補充と訓練のためみたいね。」
「そうよ。私が所属する第72空中騎士隊は1ヶ月前からこの小さな基地に移動なったの。
なんでも、戦力の補充と訓練のためみたいね。」
レネーリ・ウェイグ中尉は、シホールアンル軍の中では知る人ぞ知るエースである。
彼女はこれまでの航空戦で、天空の怪物と恐れられたB-17を個人で2機撃墜し、共同で4機を撃墜、または損傷させた。
それのみならず、ミッチェルを1機、ハボックを3機、ライトニング、シホールアンルから双胴の悪魔で
呼ばれている戦闘機も2機撃墜した。
総計で12機の米軍機を個人、または共同で落としている。
彼女よりもアメリカ軍機を落とした竜騎士は何人もいるが、撃墜機の中でB-17が多いため、
彼女は怪物殺しの異名を与えられている。
彼女はこれまでの航空戦で、天空の怪物と恐れられたB-17を個人で2機撃墜し、共同で4機を撃墜、または損傷させた。
それのみならず、ミッチェルを1機、ハボックを3機、ライトニング、シホールアンルから双胴の悪魔で
呼ばれている戦闘機も2機撃墜した。
総計で12機の米軍機を個人、または共同で落としている。
彼女よりもアメリカ軍機を落とした竜騎士は何人もいるが、撃墜機の中でB-17が多いため、
彼女は怪物殺しの異名を与えられている。
「俺は補給路を言ったり来たりしてるだけだから情報が早く回って来ないんだが、前線はどのような状況なんだ?」
ラッヘルが聞くと、レネーリは少し表情を暗くする。
「厳しいね。地上軍は相変わらず膠着状態で、戦いは航空戦止まりよ。アメリカ軍の飛空挺は、フライングフォートレスの
ように巨大で頑丈な化け物も居れば、ミッチェルやハボックみたいに低空でサッと味方陣地に近付いて来る奴もいるから
大変。特にフラングフォートレスとミッチェル、ハボックがセットで来たら後は目も当てられないわ。
これに双胴の悪魔が来たらおしまいね。」
「前線の被害は少なくないと聞いているが、本当なんだな。」
「少なくないなんてものじゃないわ。2ヶ月前なんて1個師団分の兵力が空襲だけで消えちゃったんだから、被害は甚大よ。
今はこっちのワイバーンも増えて、新兵器も投入されたから少しはマシになったけど・・・・・」
ように巨大で頑丈な化け物も居れば、ミッチェルやハボックみたいに低空でサッと味方陣地に近付いて来る奴もいるから
大変。特にフラングフォートレスとミッチェル、ハボックがセットで来たら後は目も当てられないわ。
これに双胴の悪魔が来たらおしまいね。」
「前線の被害は少なくないと聞いているが、本当なんだな。」
「少なくないなんてものじゃないわ。2ヶ月前なんて1個師団分の兵力が空襲だけで消えちゃったんだから、被害は甚大よ。
今はこっちのワイバーンも増えて、新兵器も投入されたから少しはマシになったけど・・・・・」
そう言ってから、レネーリは深いため息をつく。
「新兵器って、この基地の周囲に作られているあれか?」
ラッヘルは比較的手近なそれに指を向けた。
周囲を盛られた土に囲まれて、その上部から棒の様な物が生えている。
周囲を盛られた土に囲まれて、その上部から棒の様な物が生えている。
「そ。1ヵ月半前に届いた魔道銃よ。作りは海軍の魔道銃と一緒だけど、魔法石は陸地と相性の良いものが
使われている、と話は聞いたけど、その相性の良い魔法石を作るのに1年半も掛かっていたみたい。」
「長いというべきか・・・早いと言うべきか俺には分からんが、君はどう思う?」
「遅すぎ。どうせなら半年で完成しろって言うのよ!」
使われている、と話は聞いたけど、その相性の良い魔法石を作るのに1年半も掛かっていたみたい。」
「長いというべきか・・・早いと言うべきか俺には分からんが、君はどう思う?」
「遅すぎ。どうせなら半年で完成しろって言うのよ!」
彼女は腹立たしげに言った。
「この基地に配備されているのは何基だ?」
「12基。前線基地ではこれの倍の24基、それ以上のところもあるわ。でもね、アメリカ軍機って
なかなか撃たれ強くて、魔道銃と高射砲を総動員してもバタバタ落ちる光景なんて見たことが無い。
それにね、」
「12基。前線基地ではこれの倍の24基、それ以上のところもあるわ。でもね、アメリカ軍機って
なかなか撃たれ強くて、魔道銃と高射砲を総動員してもバタバタ落ちる光景なんて見たことが無い。
それにね、」
彼女は一層深いため息を吐いてから、意を決したように言った。
「あいつら、数が減らないの。」
「数が減らない?なんで?一応は落ちてるんだろ?」
「あたし達が攻撃した後はもちろん数は減ってるわよ。3週間前なんか、20機以上の敵を落として一方的に
勝利を挙げたときもあった。でもね、2日も経たないうちに、アメリカ軍機は同じ数で、いや、それどころか
最近は落とす前よりも多い数でやって来る。一度なんか、2倍以上の数でやって来た時もあるわ。
要するに、いくら落としてもキリが無いのよ。」
「本当かよ。」
「数が減らない?なんで?一応は落ちてるんだろ?」
「あたし達が攻撃した後はもちろん数は減ってるわよ。3週間前なんか、20機以上の敵を落として一方的に
勝利を挙げたときもあった。でもね、2日も経たないうちに、アメリカ軍機は同じ数で、いや、それどころか
最近は落とす前よりも多い数でやって来る。一度なんか、2倍以上の数でやって来た時もあるわ。
要するに、いくら落としてもキリが無いのよ。」
「本当かよ。」
ラッヘルは思わず耳を疑った。
シホールアンルの基準からして20機以上も落とされれば、回復には最低でも3日程度は待たねばならない。
なのに、アメリカ軍は2日程度で前と同じか、それ以上の数の飛空挺でけしかけてくると言うのだ。
なのに、アメリカ軍は2日程度で前と同じか、それ以上の数の飛空挺でけしかけてくると言うのだ。
「少なくとも、減ったためしは無いね。これは弱気と受け止められないかもしれないけど」
レネーリは少しだけ声を小さくして、ラッヘルに真意を告げる。
「私達って、とんでもない相手と喧嘩してるかもしれない。」
「冗談はよせよ。君らしくないセリフだぜ。」
「その冗談も、アメリカ軍機の空襲を一度でも受ければ」
「冗談はよせよ。君らしくないセリフだぜ。」
「その冗談も、アメリカ軍機の空襲を一度でも受ければ」
といかけた時、基地全体にけたたましいサイレンが鳴り始めた。
「チッ!いきなり空襲警報とはね!こんな辺鄙な基地も襲わないと気が済まないのかね!」
彼女は女性らしからぬ乱暴な口調で言うと、ラッヘルの傍から離れていく。
少し進んだ所で彼女はラッヘルに振り向いた。
少し進んだ所で彼女はラッヘルに振り向いた。
「あんた、今日が初体験でしょ!?死なない程度に味わいなよ!」
一方的に言い放って、彼女は走り去って言った。
「ちゅ、中隊長!もしかして敵の空襲ですか!?」
「ああ、そのようだな。」
「ああ、そのようだな。」
ラッヘルが答えると、補給中隊の部下達はどうするべきか迷った。
彼らがしばらくおろおろしていると、基地の兵が駆け寄ってきた。
彼らがしばらくおろおろしていると、基地の兵が駆け寄ってきた。
「あんたら何してる!さっさとあっちの防空壕に隠れろ!ここにいたら爆弾で吹っ飛ばされるぞ!」
その言葉に反応し、補給中隊の面々は慌てて手近な防空壕に入って言った。
倉庫より100メートルほど離れた防空壕にラッヘルは滑り込んだ。
「大尉殿、さあ、中に入ってください。」
「ああ、ありがとう。」
「ああ、ありがとう。」
その頃には、高射砲が砲撃を開始している。
ラッヘルは、防空壕の横に開けられた開閉式の隙間から基地の上空を見た。
視界が狭いため、あまり広範囲は見えぬが、上空には行く筋物雲が絡み合っていた。
初めて聞くアメリカ軍機のエンジン音が地上にまで響き渡り、トトトトンというリズミカルな音が幾度と無く聞こえる。
小さな粒が、急にバランスを崩して真っ逆さまに墜落していく。
1秒後にその小さな粒は炎を吹きあげる。
アメリカ軍機は、燃料を使用した発動機で機体を飛ばしていると聞く。
敵の燃料は、光弾が当たれば燃えてしまうから、今墜落していくのはアメリカ軍機だ。
ラッヘルは、防空壕の横に開けられた開閉式の隙間から基地の上空を見た。
視界が狭いため、あまり広範囲は見えぬが、上空には行く筋物雲が絡み合っていた。
初めて聞くアメリカ軍機のエンジン音が地上にまで響き渡り、トトトトンというリズミカルな音が幾度と無く聞こえる。
小さな粒が、急にバランスを崩して真っ逆さまに墜落していく。
1秒後にその小さな粒は炎を吹きあげる。
アメリカ軍機は、燃料を使用した発動機で機体を飛ばしていると聞く。
敵の燃料は、光弾が当たれば燃えてしまうから、今墜落していくのはアメリカ軍機だ。
「味方も頑張っているようだが・・・・・」
ラッヘルはぼそりと呟く。
「新たなるアメリカ軍機接近!ミッチェルだ!」
壕の入り口で戦況を見守っていた基地の兵が、唐突に叫び声を上げる。
彼は慌てて入り口まで駆け寄った。
彼は慌てて入り口まで駆け寄った。
「大尉殿、外に出ないで下さい!危険です!」
「外には出ない。君らと同じようにこっちで見学するだけだ。」
「外には出ない。君らと同じようにこっちで見学するだけだ。」
そう言いながら、彼は外を見た。
しばらくはどこにアメリカ軍機いるのか分からなかったが、やがて30機ほどのアメリカ軍機が基地の南側、
ラッヘルから見て左前斜めから現れた。
網目状の機首に大きく、ごつい機体に取り付けられた翼。その両側に1基ずつ付いている発動機が調子よく回っている。
尻尾にあたる尾翼は左右に広がっており、2枚の垂直尾翼が、さながらモンスターの双尾にも見える。
特徴からしてミッチェル爆撃機である事に間違いない。
それらは高射砲弾が炸裂する中、高度800メートルで基地上空に進入してきた。
基地の外縁に取り付けられた魔道銃が射撃を開始し、七色の光弾がミッチェルに注がれる。
ラッヘルは、先頭の爆撃機はたちまち撃墜されるだろうと思ったが、そうはいかなかった。
ミッチェルの先頭機が、短い滑走路の上に辿り着くと、開かれた胴体から5発の黒い物を吐き出した。
それはヒューという音を上げながら地面に落下し、1発目が地面に突き立てられたと思った瞬間、轟音と共に多量の土砂を噴き上げた。
しばらくはどこにアメリカ軍機いるのか分からなかったが、やがて30機ほどのアメリカ軍機が基地の南側、
ラッヘルから見て左前斜めから現れた。
網目状の機首に大きく、ごつい機体に取り付けられた翼。その両側に1基ずつ付いている発動機が調子よく回っている。
尻尾にあたる尾翼は左右に広がっており、2枚の垂直尾翼が、さながらモンスターの双尾にも見える。
特徴からしてミッチェル爆撃機である事に間違いない。
それらは高射砲弾が炸裂する中、高度800メートルで基地上空に進入してきた。
基地の外縁に取り付けられた魔道銃が射撃を開始し、七色の光弾がミッチェルに注がれる。
ラッヘルは、先頭の爆撃機はたちまち撃墜されるだろうと思ったが、そうはいかなかった。
ミッチェルの先頭機が、短い滑走路の上に辿り着くと、開かれた胴体から5発の黒い物を吐き出した。
それはヒューという音を上げながら地面に落下し、1発目が地面に突き立てられたと思った瞬間、轟音と共に多量の土砂を噴き上げた。
「うぉっ!?」
離れていても伝わって来た振動に、ラッヘルは思わず度肝を抜かれる。
これを皮切りに、ミッチェルが次々と爆弾を投下していく。
滑走路には10発以上の爆弾が落とされ、短いながらも、基地隊員や竜騎士達が綺麗に整備した滑走路は、瞬時に醜いあばた面に変換された。
別のB-25は立てたばかりの真新しい兵舎に爆弾の雨を降らす。
兵舎に爆弾がすぽっと入った、と思って瞬きした後には兵舎は木っ端微塵に吹き飛び、あるいは叩き潰されて、ただの木屑集積所に変えられた。
別のB-25が落とした爆弾は、作られたばかりの銃座の至近に落下し、魔道銃を撃ちまくっていた兵を、応急の防盾ごとごっそり薙ぎ払う。
そして、爆弾はラッヘル達が荷卸をしていた馬車の周囲や、倉庫群、それに防空壕の近くにも降り注いだ。
ヒューッ!という爆弾が落ちてくる音がこれまで以上に大きく響く。
これを皮切りに、ミッチェルが次々と爆弾を投下していく。
滑走路には10発以上の爆弾が落とされ、短いながらも、基地隊員や竜騎士達が綺麗に整備した滑走路は、瞬時に醜いあばた面に変換された。
別のB-25は立てたばかりの真新しい兵舎に爆弾の雨を降らす。
兵舎に爆弾がすぽっと入った、と思って瞬きした後には兵舎は木っ端微塵に吹き飛び、あるいは叩き潰されて、ただの木屑集積所に変えられた。
別のB-25が落とした爆弾は、作られたばかりの銃座の至近に落下し、魔道銃を撃ちまくっていた兵を、応急の防盾ごとごっそり薙ぎ払う。
そして、爆弾はラッヘル達が荷卸をしていた馬車の周囲や、倉庫群、それに防空壕の近くにも降り注いだ。
ヒューッ!という爆弾が落ちてくる音がこれまで以上に大きく響く。
「伏せて!伏せてください!」
誰かがそう叫ぶと、皆が悲鳴を上げながら伏せる。
ドガァン!ズダァーン!という巨大な大砲を至近でぶっ放したかのような轟音と凄まじい衝撃が大地を揺るがし、
伏せていた将兵の体を少しばかり吹き上がらせ、そして地面に叩きつけた。
ドガァン!ズダァーン!という巨大な大砲を至近でぶっ放したかのような轟音と凄まじい衝撃が大地を揺るがし、
伏せていた将兵の体を少しばかり吹き上がらせ、そして地面に叩きつけた。
外でゴオー!と、爆風が音立てて入り口付近を駆け抜けた。
爆風の余波は防空壕の中にも流れ込んで、入り口付近にいた者を壕の奥に吹き飛ばした。
爆発音はいまだに止まず、何かが砕け、音立てて地面にばら撒かれていく。
誰もが、この基地全体が爆弾で粉微塵に吹き飛ばされるのでは無いかと思い始めるが、気が付いた時には、
ミッチェルは既に基地の上空から遠ざかって行った。
爆風の余波は防空壕の中にも流れ込んで、入り口付近にいた者を壕の奥に吹き飛ばした。
爆発音はいまだに止まず、何かが砕け、音立てて地面にばら撒かれていく。
誰もが、この基地全体が爆弾で粉微塵に吹き飛ばされるのでは無いかと思い始めるが、気が付いた時には、
ミッチェルは既に基地の上空から遠ざかって行った。
「・・・・・・・・・・」
辺りに不気味な静寂が流れた。
重苦しい沈黙を破ったのはラッヘルだった。
重苦しい沈黙を破ったのはラッヘルだった。
「みんな、生きているか!」
彼は大声で壕の中の将兵に問いかけた。
それがきっかけとなったのか、残りの30人余りの将兵が恐る恐る顔を上げた。
それがきっかけとなったのか、残りの30人余りの将兵が恐る恐る顔を上げた。
「空襲は終わったようだな。外に出るぞ。」
彼がそう言いながら、足早に壕から出る。
「うわ・・・・・・少し酷いなぁ。」
ラッヘルは辺りを見回した。
彼らの補給中隊が作業を行っていた6つの倉庫は、2つが綺麗さっぱり消し飛んで、僅かながら、
土台部分に木らしきものが残っている。
3つは半壊状態であり、うち1つは全体が猛火に包まれている。最後の1つは無事だ。
彼らの補給中隊が作業を行っていた6つの倉庫は、2つが綺麗さっぱり消し飛んで、僅かながら、
土台部分に木らしきものが残っている。
3つは半壊状態であり、うち1つは全体が猛火に包まれている。最後の1つは無事だ。
「6つのうち、5つまでも爆撃で・・・・・いや。」
彼は自分が言った答えを保留にしながら、破壊された倉庫の傍に走り寄っていく。
倉庫群の前に止めてあった馬車は、咄嗟の判断で半数以上を逃がす事が出来たが、6台の馬車はこの場から
逃げ切れずに爆弾で吹き飛び、倉庫群の前には肉片混じりの破片が広範囲に散らばっている。
彼はその光景に吐き気を感じながらも、肝心の破壊を免れた倉庫を見てみた。
倉庫群の前に止めてあった馬車は、咄嗟の判断で半数以上を逃がす事が出来たが、6台の馬車はこの場から
逃げ切れずに爆弾で吹き飛び、倉庫群の前には肉片混じりの破片が広範囲に散らばっている。
彼はその光景に吐き気を感じながらも、肝心の破壊を免れた倉庫を見てみた。
「ああ、やっぱりな。」
ラッヘルは倉庫を見るなりガクリと肩を落とした。
外見上、倉庫には目立った傷は無いように見える。
空襲が始まる前まで中には彼らの運んできた物資が詰め込まれていた。
だが、倉庫は入り口の戸がどこぞに吹き飛ばされ、内部には積み上げた物資が無秩序に散乱し、中身が落ちてきた
別の箱の下敷きになり、無残に潰されている。
傍目から見ても、詰め込んだ箱の4割は破損した内容物がはみ出し、中身が無意味なゴミに成り下がっていた。
外見上、倉庫には目立った傷は無いように見える。
空襲が始まる前まで中には彼らの運んできた物資が詰め込まれていた。
だが、倉庫は入り口の戸がどこぞに吹き飛ばされ、内部には積み上げた物資が無秩序に散乱し、中身が落ちてきた
別の箱の下敷きになり、無残に潰されている。
傍目から見ても、詰め込んだ箱の4割は破損した内容物がはみ出し、中身が無意味なゴミに成り下がっていた。
「敵もうまい具合にやったものですな。」
一緒に出て来た部下が頭を抱えながら彼に言って来た。
「自分らが運んできた物資がほとんどパァですよ。畜生、遠くから延々と運んでくる身にもなれってんだ!」
その部下は、きっちり仕事をこなして去った米軍機を呪った。
「逃がした馬車の荷台にはまだ少し補給品が入っていたはずだ。その分だけでもこっちに置いて行こう。
おい、馬車を呼び戻せ。」
おい、馬車を呼び戻せ。」
ラッヘルは部下に、逃がした馬車を呼びに行かせる。
基地のあちこちで、空襲の後始末が始まった。
兵舎は全てが爆砕されており、この基地の兵員はしばらく満足な睡眠が取れないだろう。
基地のあちこちで、空襲の後始末が始まった。
兵舎は全てが爆砕されており、この基地の兵員はしばらく満足な睡眠が取れないだろう。
ワイバーンの宿舎も多数の爆弾を浴びて全壊している。アメリカ軍の空襲は、的確かつ、容赦が無かった。
ワイバーンの発着に使う短い滑走路も補修しないと使えないが、垂直離着陸が可能なワイバーンでは
滑走路が使えなくても、発着が遅くなるぐらいで出来ぬ事は無い。
彼は馬車隊が戻ってくるまで、基地の惨状を見渡す。
基地の敷地外の草原で、2つほど、それに隣接する陸軍の兵舎から黒煙が上がっている。
ワイバーンの発着に使う短い滑走路も補修しないと使えないが、垂直離着陸が可能なワイバーンでは
滑走路が使えなくても、発着が遅くなるぐらいで出来ぬ事は無い。
彼は馬車隊が戻ってくるまで、基地の惨状を見渡す。
基地の敷地外の草原で、2つほど、それに隣接する陸軍の兵舎から黒煙が上がっている。
「おい、あの黒煙は何だ?」
彼は傍を通りかかった基地の兵を捕まえて聞いてみる。
「ああ、あれですか。あれは撃墜されたミッチェルのものです。魔道銃と高射砲が3機撃墜したんですが、
うち1機が燃えながら第524騎士連隊の兵舎に突っ込んだんです。あっちでも死傷者が出たみたいです。」
「自爆か。」
うち1機が燃えながら第524騎士連隊の兵舎に突っ込んだんです。あっちでも死傷者が出たみたいです。」
「自爆か。」
彼はぼそりと呟いた。
退避させた馬車隊が戻って来るまでさほど時間はかからなかった。
14台の馬車は、倉庫より少し離れた広場に集められた。
退避させた馬車隊が戻って来るまでさほど時間はかからなかった。
14台の馬車は、倉庫より少し離れた広場に集められた。
「中隊長、酷くやられましたな。」
退避組を率いていた1番車の御者が、いささか驚いたような表情で聞いてきた。
「ああ。まさかアメリカ軍機がやって来るとは思わなかったよ。」
「このレギテルリクは、ロゼングラップから直線距離で278ゼルド。ミッチェルの航続距離は1000ゼルドも
あるようですから余裕で攻撃範囲内に入りますよ。」
「それは分かっている。だが、アメリカ人共は専ら前線か、ポルリオといった重要な場所にしか来てなかった。こんな辺鄙な後方の基地を襲うのは珍しい。」
「まさか・・・・・」
「このレギテルリクは、ロゼングラップから直線距離で278ゼルド。ミッチェルの航続距離は1000ゼルドも
あるようですから余裕で攻撃範囲内に入りますよ。」
「それは分かっている。だが、アメリカ人共は専ら前線か、ポルリオといった重要な場所にしか来てなかった。こんな辺鄙な後方の基地を襲うのは珍しい。」
「まさか・・・・・」
御者の軍曹と、ラッヘルは馬車の荷台に顔を向ける。
荷台の中には、ここに置いて行く物資の他に、別の物も入っている。
時期作戦を成功させる鍵と聞いている物だが、見た限りではただの円筒形の入れ物にしか見えない。
太さは結構あった。口の悪い部下からは、生首を入れるに適しているとえげつない事を言って来たものだが、彼らはただ、ミスリアル国境の近くまでこの円筒形の物を運ぶだけだ。
「材料は後で別の班が輸送するから、君たちは気にしないでいい。」
出発の前に、あの入れ物を持って来た魔道士の1人がそのような事を言っていた。
彼は魔道士の言葉通り気にしていなかったが、もし情報が漏れていて、アメリカ軍がこの入れ物を
所定の位置に配備する前に叩き潰そうと思ったのなら・・・・・
時期作戦を成功させる鍵と聞いている物だが、見た限りではただの円筒形の入れ物にしか見えない。
太さは結構あった。口の悪い部下からは、生首を入れるに適しているとえげつない事を言って来たものだが、彼らはただ、ミスリアル国境の近くまでこの円筒形の物を運ぶだけだ。
「材料は後で別の班が輸送するから、君たちは気にしないでいい。」
出発の前に、あの入れ物を持って来た魔道士の1人がそのような事を言っていた。
彼は魔道士の言葉通り気にしていなかったが、もし情報が漏れていて、アメリカ軍がこの入れ物を
所定の位置に配備する前に叩き潰そうと思ったのなら・・・・・
「いや、そうではないか。」
彼は自分の考えを否定した。アメリカ軍機の狙いは、馬車の荷ではなくこの基地だった。
それに、こんな馬車を狙うには、爆撃機よりも戦闘機のほうが向いている。
情報が漏れていたとすれば、あの双胴の悪魔が爆撃前にやって来て虱潰しに機銃掃射を仕掛けているだろう。
それがないのだとすれば、情報は漏れていない事になる。
やがて、迎撃に出ていたワイバーン隊が帰ってきた。
38騎出撃したワイバーンは31騎に減っている。
最初、アメリカ軍機に翻弄されっぱなしだったワイバーン隊も、今では対抗策を確立しているため、前のように一方的にやられなくなったと聞いている。
それでも、相手はあの双胴の悪魔だ。被害ゼロに抑えるのはとても難しいのだろう。
(これで、陸軍も奴らと張り合えるような装備を持っていれば文句なしなんだが)
ラッヘルはそう思いながら、集まって来た部下達にこれからの方針を発表した。
それに、こんな馬車を狙うには、爆撃機よりも戦闘機のほうが向いている。
情報が漏れていたとすれば、あの双胴の悪魔が爆撃前にやって来て虱潰しに機銃掃射を仕掛けているだろう。
それがないのだとすれば、情報は漏れていない事になる。
やがて、迎撃に出ていたワイバーン隊が帰ってきた。
38騎出撃したワイバーンは31騎に減っている。
最初、アメリカ軍機に翻弄されっぱなしだったワイバーン隊も、今では対抗策を確立しているため、前のように一方的にやられなくなったと聞いている。
それでも、相手はあの双胴の悪魔だ。被害ゼロに抑えるのはとても難しいのだろう。
(これで、陸軍も奴らと張り合えるような装備を持っていれば文句なしなんだが)
ラッヘルはそう思いながら、集まって来た部下達にこれからの方針を発表した。
「注目!」
彼は鋭い声音で、皆の視線を自分に向けさせる。
「突然の空襲で、諸君らも動揺していると思うが。我が隊はこの空襲で馬車6台と、荷降ろしした物資の大半を
失った。今後は残った物資の荷降ろしを終えて休息した後、予定通りルギンジュに向かい、そこで持ち込んで来た
重要物資を降ろす。後の予定は出発前に発表した通り。以上!」
失った。今後は残った物資の荷降ろしを終えて休息した後、予定通りルギンジュに向かい、そこで持ち込んで来た
重要物資を降ろす。後の予定は出発前に発表した通り。以上!」
ラッヘルはそう言い終えると、部下達に残った補給品を荷降ろしさせた。
「しかし。」
彼は部下達が荷台から箱を下ろしていくのを見ながら、時折荷台の奥に視線を向ける。
「あれで一体、何をするのだろうか・・・・・お上は何を考えているのかな。」
彼は上層部の思惑が何であるか理解しようとしたが、いくら考えても分からずじまいだった。
彼はまだ知らなかったが、同様の物体は、ミスリアル国境沿いに次々と設置され、総数は2万個を超えていた。
その配置は、まるでミスリアルを取り囲むようであった。
その配置は、まるでミスリアルを取り囲むようであった。
SS投下終了であります。