自衛隊がファンタジー世界に召喚されますた@創作発表板・分家

139 第104話 アラスカ初陣

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第104話 アラスカ初陣

1484年(1944年)1月9日 午後3時20分 ルテクリッピ沖西方240マイル地点

「艦長、レーダーが敵編隊を捉えました。」

巡洋戦艦アラスカ艦長、リューエンリ・アイツベルン大佐は、艦内電話でCICからの報告を受け取った。

「確かか?」
「ええ、確かです。敵編隊の総数は約200。方位135度方向から約280マイルの速度で迫りつつあります。わが艦隊
との距離は170マイルを切りました。」
「ふむ・・・・この調子だと、あと40分ほどで突っ込んで来るな。」

リューエンリは、腕組みをしながらそう呟きつつ、前方を航行している空母に視線を移した。
第57任務部隊第2任務群は、午後2時30分に2騎の偵察ワイバーンに発見されている。
最初の偵察ワイバーンは悠々と引き返して言ったが、次のワイバーンはそうもいかず、2機のF6Fに追い回され、最後には撃墜された。
TG57.2は、TG57.3と共にルテクリッピの港湾施設、軍事施設を艦載機で叩いていた。
TG57.1は、ルテクリッピより100マイル南方の軍港を叩いていたため、TG57.2、TG57.3とは別行動の状態にあった。
既に3波、460機の航空機を差し向け、これまでに航行中並びに停泊中の輸送船13隻、FLAK艦3隻を撃沈し、
その他の小型艦艇数隻にも損害を与えた。
港湾施設は3波の航空攻撃で壊滅し、ルテクリッピの軍港機能を著しく低下させ、迎撃してきたワイバーンも29騎が撃墜された。
アメリカ側は、敵のワイバーンの迎撃と対空砲火でF6F8機、SB2C9機、TBF13機を失った。
激しい迎撃を受けた割には、比較的軽微な損害でルテクリッピが壊滅したため、攻撃隊は意気揚々と母艦へ戻っていった。
しかし、第3次攻撃隊が母艦に降り立つ前に、敵ワイバーンは機動部隊を発見していたのである。
アラスカは今、TG57.2の護衛艦として配備されている。
輪形陣は、外周部を16隻の駆逐艦が囲い、その少し内側をアラスカと5隻の巡洋艦が守りに付いている。
そして、主力である4隻の空母は、その更に内側を縦2列に並んで航行している。
アラスカは、その4隻の空母の後方に配備されており、左舷前方には軽空母のプリンストンが、右舷前方にはベローウッド航行している。
空母群の前方には、対空軽巡のオークランドが布陣し、左側には重巡のボルチモアと軽巡のコロンビアが、右側には重巡ボストンと
軽巡クリーブランドが布陣している。

このバランスの取れた対空火網で、迫り来る敵ワイバーンを防ごうと言うのである。
空母群から、次々と艦載機が発艦しつつある。
機種からして、F6Fだ。

「迎撃隊が発艦していきます。」
「ああ。シャーマン司令は手早く戦闘機を発艦させて、敵編隊を阻止するつもりだな。流石は歴戦の機動部隊指揮官だ。判断が早い。」
「これで、このアラスカも初陣を飾る時が来ましたな。」

副長のロバート・ケイン中佐が、緊張した面持ちでリューエンリに言う。

「敵さんに、このアラスカの威力を見せ付けてやりますよ。」
「そうだな。まぁ副長、覇気の良い言葉を言うのもいいが、無理に気負わないでいいぞ。」

リューエンリは、いつもと変わらぬ陽気さでケイン副長に言い、彼の肩をポンと叩いた。

「いつも通りにやろうぜ。そして、常連さん達を派手に歓迎してやろう。」

リューエンリは、この日も敵のワイバーンが、艦隊に襲い掛かってくるであろうと思っていた。
しかし、シホールアンル側は、今回の攻撃では、飛空挺という新顔を伴っていた。

午後3時40分になると、各任務群から発艦した戦闘機が、敵編隊と接触し、激しい空戦になった。

シホールアンル軍第3攻撃飛行隊に所属するケルフェラク72機は、第12、第15空中騎士隊から発進したワイバーン隊と共に、
偵察ワイバーンが見つけたアメリカ機動部隊に向っていた。
第3中隊を率いるラナバ・タウラモ中尉は、前方の遠くに現れた粒々に見入っていた。

「アメリカ軍機か。結構な数がいやがるな。」

タウラモ中尉は、緊張した面持ちで呟いた。

彼の居る第3攻撃飛行隊は、今回が初めての実戦である。
第3攻撃飛行隊は、前年の11月初めに編成された。シホールアンル軍は飛空挺搭乗員の育成に力を注いでおり、猛訓練の結果、
12月末までには新たに4個の戦闘飛行隊と、3個の攻撃飛行隊を編成できた。
南大陸が連合軍の手に落ちると、シホールアンル軍は第2、第3戦闘飛行隊と第1、第3攻撃飛行隊をウェンステル領に派遣した。
本来ならば、全ての飛空挺部隊が配備される予定であったが、何らかの事情で、残りの飛行隊は別方面に配備された。
第3攻撃飛行隊は、第3戦闘飛行隊と共にウェンステル西部航空軍所属の第4空中騎士軍に編入されている。
米機動部隊発見の報が入るや、第4空中騎士軍は直ちに攻撃隊発進を命じた。
ルテクリッピ北方20ゼルドのハラ・ギドレからは、第12空中騎士隊から戦闘ワイバーン32騎、第15空中騎士隊から
戦闘ワイバーン32騎、攻撃ワイバーン28騎が飛び立った。
ルテクリッピから東方20ゼルドの田舎町クームナウに駐留していた第3戦闘飛行隊からは戦闘飛空挺48機、第3攻撃飛行隊から
72機が発進した。
計212機の大攻撃部隊が、あの憎き米機動部隊の殲滅を誓いながら進撃を続けていた。
そして、発進して1時間が経ち、最初の難関が立ちはだかった。
攻撃隊の目の前にアメリカ軍機は、ざっと見ても70機近くはいるだろう。
そのアメリカ軍機に向けて、先頭のワイバーン隊が増速し始める。
アメリカ軍機の群れとワイバーンの群れが交わるや、たちまち乱戦となった。

「注意!10時方向に新たな敵機発見!向って来る!」

飛行隊長の声が、前に置かれている箱状の魔法通信機から流れて来る。
タウラモ中尉は11時方向を見てみる。そこには、新たなアメリカ軍機の群れがあった。数は30~40機近くはいるだろう。

「あのアメリカ軍機、妙な形してやがる。」

タウラモ中尉は、一瞬怪訝な表情を浮かべた。攻撃隊に向って来るアメリカ軍機は、全機が湾曲した翼という特徴的な形をしている。

「もしや、コルセアか!」

タウラモ中尉は、頭の中にあったとあるアメリカ軍機の名前を思い出した。

彼の言った通り、そのアメリカ軍機の群れは全てコルセアで形成されていた。
そのコルセア群に、護衛の戦闘飛空挺が立ち向かって行く。
このコルセア群は、TG57.3の正規空母タイコンデロガから発艦したものである。
コルセアは、当初は艦上戦闘機として開発された物だが、前方視界の不良等、艦載機としては様々な欠点が指摘されたために
艦上機化は見送られてしまった。
これを危惧したヴォート社は大急ぎで改良を加え、1943年10月には改良型のF4Uが、海軍の新しい艦上戦闘機として認められ、
母艦戦闘飛行隊としての練成が始まった。
タイコンデロガには、試験部隊として4個中隊のF4Uが配備され、様々なテストが行われていた。
そのF4Uに、敵編隊迎撃の命が下ったのである。
スマートながら、逞しい感のあるケルフェラクが、全速力でコルセアの群れに突っ掛かっていく。
高度はコルセアのほうが500メートルほど高い。
距離はあっという間に縮まり、距離700ほどで、空戦最初の儀式とも言われる正面攻撃が始まる。
1機のコルセアが、光弾の集中射撃を右主翼に喰らう。
頑丈な作りで知られる機体も、光弾を短時間に数十発以上もぶち込まれればたまった物ではない。
一寸のうちに右主翼が粉砕された。右主翼を失ったコルセアが錐揉み飛行に入って墜落していく。
1機のケルフェラクが、操縦席に12.7ミリ機銃弾の嵐を見舞われた。
高速弾の嵐は操縦席の風防ガラスを一瞬のうちに叩き割り、操縦者を射殺した。
このケルフェラクもまた、コルセアの後を追うように機首を下にして落ちていく。
コルセアとケルフェラクが正面攻撃から抜けると、後はお互いの後ろを奪い合う乱戦となった。
しかし、一部のコルセアは攻撃隊に迫っていた。

「機長!コルセア来ます!」

後部座席に座っている部下が、切迫した声音で報告して来る。
ケルフェラクを無視した8機のコルセアが、爆弾を抱いた攻撃隊に突進して来たのだ。
その8機のコルセアに向けて、ケルフェラクの後ろに取り付けられた魔道銃が向けられる。
ケルフェラクの攻撃機型は、背等型と違って乗員2名であり、後部座席に乗る兵は魔道銃の射手を務めている。

「落ち着いて撃てよ!訓練通りに撃てば問題ない!」

タウラモ中尉は、そう言って後部座席の部下を励ましたが、彼もガチガチに緊張していた。
(ええい、落ち着け!自分でも言ったように、訓練通りにやればいいんだ!)
タウラモ中尉は内心で自分も励ましたが、思いとは裏腹に彼は緊張しまくっていた。
魔道銃が、コルセアに向けて放たれる。
第2中隊12機のケルフェラクから放たれた光弾はコルセアに殺到するが、コルセアはひらりとかわす。
逆に両翼の12.7ミリ機銃を撃ち込んで来た。
狙われたのは5番機であった。5番機の機体に機銃弾が突き刺さった、と見るや、機体から破片が飛び散った。
続いての2連射目で操縦席の風防ガラスが飛び散り、搭乗員が仰け反った。

「5番機やられました!あっ!9番機も!」

部下の悲鳴のような報告が届けられる。

「頑丈なケルフェラクを、あっという間に2機も落とすとは・・・・!」

タウラモ中尉は歯噛みしながら呟いた。
ケルフェラクの機体には、魔法合金を使用した特殊な金属が使われている。
この魔法合金は、シホールアンル本土の北にある魔法石鉱山から採られた鉄鉱石を元に作られており、最初から
魔力付加が掛かっている。そのため、強化魔法が染み込みやすく、ケルフェラクはワイバーンよりうたれ強くなっている。
しかし、その頑丈さも、多量の機銃弾を叩きつけられれば無意味になる。
第3攻撃飛行隊のケルフェラク隊は、第1、第2中隊が150リギル爆弾2発。第3中隊からは300リギル爆弾を搭載している。
そのため、機体が重く、動きが鈍い。そこにコルセアの攻撃が加えられた物だからたまった物ではない。
コルセアが光弾をかわしながら、猛速でケルフェラク隊の下方に飛び抜けていく。
下方に飛びぬけた後、コルセアは急上昇に転じてケルフェラク隊の下方から銃撃を浴びせてきた。
今度狙われたのは、第4中隊であった。
2機のコルセアが先頭を飛ぶ中隊長機に機銃弾を浴びせた。機体を満遍なく12.7ミリ機銃弾がまつわり付き、そのうちの1発が、
不幸にも胴体に抱えている300リギル爆弾に命中した。
その瞬間、第4中隊長機は紅蓮の火の玉と化した。

「第4中隊長機被弾!」
「第4中隊長機だって!?それは本当か!?」

突然の報告にぎょっとなったタウラモ中尉は、慌てて聞き返した。

「間違いありません。第4中隊長機です。」
「・・・・く!」

タウラモ中尉は、頭がかっとなったように感じた。
第4中隊長は、彼の親友が務めていた。以前居た飛空挺部隊からの親友であり、共に苦楽を分かち合ってきた中だ。

「今日の出撃では、エセックス級空母を沈めてやるぜ。」

と、親友はいつもと変わらぬ気楽な口調で、タウラモ中尉に向って自信満々に言っていた。
その親友は、敵空母を見ることも無く、あっけなく撃墜されてしまった。

「仇は取ってやるぞ、戦友!」

タウラモ中尉はそう決心した。
コルセアの攻撃はその後も1度ほどあったが、その頃には、攻撃隊は敵機動部隊を視認していた。

「攻撃隊指揮官より命令。突撃せよ!」

飛行隊長の命令が、第3攻撃飛行隊の全機に伝わる。
まず、最初の一番槍である第15空中騎士隊のワイバーン23騎(F6Fの襲撃で減らされた)が、高度2400グレルまで上がっていく。
そのワイバーン群に向けて、アメリカ機動部隊は対空射撃を開始した。
ワイバーン群の周囲に高角砲弾が炸裂する。
対空射撃を行って20秒ほどで、連続して2騎が叩き落される。
ワイバーン群は弾幕の中、数騎ずつの小編隊に別れると、それぞれの目標に向けて一斉に急降下を開始した。

アメリカ艦隊の対空射撃が一際激しくなる。
ワイバーンが高度1200グレルほどまで降下すると、アメリカ艦から機銃が放たれた。
1騎、また1騎と、ワイバーンは次々と落とされていく。
しかし、勇敢なワイバーン乗り達はそれでも怯まない。ただ、爆弾を投下するだけに意識を集中させていた。
ワイバーンは高度200グレルまで降下した後、それぞれの目標に向けて爆弾を投下した。
輪形陣の外輪部の左側を守っていた駆逐艦のうち、5隻の周囲に水柱が立ち上がる。
水柱が晴れると、3隻が黒煙を吹き上げていた。
撃沈には至らなかったようだが、一応3隻は撃破したようだ。
ワイバーンの攻撃が終わると、今度は第3攻撃飛行隊の出番が回って来た。
まず、先行していた第1、第2中隊が暖降下爆撃の要領で、高度1500グレルから突撃を開始する。
爆弾を抱いているため、スピードは遅いが、それでも260グレルほどのスピードが出ている。
突撃を開始した第1、第2中隊に対空砲火が放たれる。
23機のケルフェラクの周囲に黒煙が次々と沸き立つ。
至近弾を受けた1機のケルフェラクが左主翼を吹き飛ばされ、バランスを失って墜落していく。
続いてもう1機が直撃弾を受け、バラバラに砕け散った。
猛速で駆逐艦の防御ラインを突破した後、ケルフェラク隊は3手に別れた。
19機に減ったケルフェラクは、6機が空母群の斜め前方を守る巡洋艦に、別の6機が空母群の横を守る別の巡洋艦に、そして、7機が空母に向った。
アメリカ側の対空砲火はより激しさを増し、ケルフェラクに被撃墜機が相次ぐ。
しかし、13機に減ったケルフェラクは爆弾を投下した。
巡洋艦を狙ったケルフェラクは1隻に爆弾2発を命中させた。
空母群を狙ったケルフェラクは、エセックス級と見られる空母に爆弾を命中させていた。

「やったぞ!まずは1隻だ!」

タウラモ中尉は、味方の活躍ぶりに小躍りした。やがて、第3中隊も輪形陣外輪部に差し掛かった。
ふと、彼は空母群の後方にいる大型艦が見えた。その瞬間、彼はその大型艦に圧倒された。
ノースカロライナ級戦艦と似たような艦影を持つ1本煙突の戦艦は、他の護衛艦と比べて一際激しい対空砲火を放っていた。

「あいつが一番厄介そうだな・・・・」

彼は、初めて見る敵新鋭戦艦を一番の脅威と判断した。
(あの戦艦はかなり激しい対空砲火を放っている。ここであいつを爆撃して、対空砲火を減らせば、後続の部隊を少しでも楽にできる。)
タウラモ中尉は、空母群の後方に陣取る戦艦を攻撃する事にした。

巡洋戦艦アラスカの艦橋からは、一群の敵機がアラスカに向って来る様子が見て取れた。

「敵12機、左舷上方より突っ込んで来る!9時方向、距離3000!」

見張りの報告は、すぐさま艦橋にも届けられた。

「目標変更、両用砲、機銃は9時方向より向いつつある敵を撃て!」
「アイアイサー!」

リューエンリは、砲術長に指示を下す。
それまで撃ちまくっていた両用砲、機銃が一旦は射撃を止め、筒先を単横陣で向って来る敵編隊に向ける。
2秒ほどが経って、再び両用砲、機銃が唸りを上げた。
5インチ連装両用砲4基8門、40ミリ機銃38丁、20ミリ機銃21丁が一斉に射撃し、夥しい数の曳光弾が暖降下爆撃の要領で
接近する敵に注がれる。
唐突に右端の敵機が煙を吐き出しながらよろめき、その次の瞬間には機首を海面に向けて墜落し始める。
別の1機が高角砲弾の炸裂を至近に受け、破片をモロに喰らう。
ぐらりと傾いた敵機に、更に40ミリ機銃弾の追い討ちが掛けられ、あっという間に機体が空中分解を起こした。
対空射撃の喧騒は、艦橋内にいるリューエンリにも聞こえる。
普通の一般人であれば、耐え切れなくなって耳を塞ぎたくなるぐらいのやかましさである。
それほど、アラスカの対空射撃は凄まじかった。
敵機はぐんぐん距離を詰めてくるが、その間にもアラスカの対空砲に次々と討ち取られていく。
気が付いた頃には、12機いた敵機は8機に減っていた。
だが、敵機は引く様子が無い。むしろ猛り立ったようにスピードを上げ、アラスカとの距離を縮めつつある。
更に2機が落とされた所で、敵機が爆弾を投下した。

「敵機爆弾投下!」
「艦長!」

副長が声を上げた。すぐに回頭しましょうと言いたいのであろう。だが、リューエンリの指示は違っていた。

「針路、速度そのまま!」
「艦長!回避しなければいけません!」
「慌てるな!」

リューエンリはケイン副長に対して渇を入れるような声音で言った。
その直後、アラスカの右舷に水柱が立ち上がった。その次に左舷に水柱が立つ。
そして、アラスカの艦体に至近弾とは違う衝撃が走った。
直撃弾だ。
1度目の振動が伝わってからそのすぐ後に、ドーンという2度目の振動が、アラスカの32900トンの艦体を揺さぶる。
しかし、その振動は、乗員が飛び上がるほどの物ではない。

「第3砲塔に直撃弾!損害なし!」
「左舷中央部に敵弾命中!40ミリ機銃4丁と20ミリ機銃2丁、機銃員8名が負傷しましたが、損害は軽微です!」

リューエンリはその報告に満足した表情を浮かべた。

「副長、俺達が乗っているのはアラスカだぜ。前居たセント・ルイスとは比べ物にならんほど頑丈なんだ。だから、多少敵弾を受けたって
大丈夫だ。今のでわかっただろう?」
「そうでしたな。どうも、セント・ルイスに乗っている時のクセが出てしまったようです。」

副長は苦笑しながらリューエンリに言った。
ケルフェラクの放った300リギル爆弾は、1発がアラスカの第3砲塔に、1発が左舷中央部に命中した。
第3砲塔に命中した爆弾は、分厚い装甲を貫通できずにその場で爆発しただけで、損害を与える事は出来なかった。
中央部に命中した爆弾は、機銃6丁を壊し、機銃員8人を傷付けたが、被害はそれだけであった。

「敵後続部隊、空母群に向かいます!」
「射撃目標を変更だ。空母を守るぞ。」

リューエンリは新たな指示を下した。
前方に居る空母4隻のうち、イントレピッドは爆弾2発を被弾して炎上している。
リューエンリとしては、これ以上の被弾を許したくなかった。
やがて、敵編隊が高度5000付近から輪形陣に進入して来た。
今度は急降下爆撃を行うようだ。
対空砲火の弾幕を掻き分けながら、敵1番機が急降下を開始した。
10機ほどの敵機が、1本棒となって輪形陣中央部の空母に向っていく。

「なかなか統制が取れているな。」

リューエンリは、急降下に移る敵機群を見てそう思った。
その敵機群に向けて多量の曳光弾が注がれる。
アラスカも向けられるだけの両用砲、機銃を撃ちまくる。立て続けに2機が叩き落される。
さらにもう一丁とばかりに、3番機が撃墜された。
猛烈な対空砲火に恐れを成したのか、先頭の機が高度1200で爆弾を落とす。
後続機も次々と爆弾を投下し、離脱にかかるが、対空砲火は逃げる敵に対しても容赦なく撃ち込まれる。
高角砲弾が1機の敵機をばらばらに粉砕した。
40ミリ機銃弾が別の敵機の右主翼を粉砕し、その1秒後に左主翼を叩き折る。そのケルフェラクは白煙を吐きながら、機首から海面に突っ込んだ。
爆弾がイントレピッドの周囲に降り注ぐ。大水柱がイントレピッドを取り囲んだ。
重巡洋艦ボストンの乗員は、イントレピッドが轟沈したかと思う者が多かったが、当のイントレピッドは艦首で水柱を突き崩しながら健在な姿を現した。

「及び腰の投弾では、そう簡単にはあたらんぞ。」

リューエンリは撤退するシホールアンル軍機に向けて、辛らつな口調で語りかけていた。

午後4時20分には、対空戦闘は終わっていた。
巡洋戦艦アラスカは、対空戦闘開始前から今まで、ずっと空母群の後方に居続けていたが、空母群は戦闘開始前と違って
大きく隊形を崩していた。

「まぁ、あれだけの攻撃を受けたのだから、仕方無いとは思うが・・・・」

リューエンリは苦虫を噛み潰したような表情を浮かべていた。
先の空襲で、TG57.2は、空母イントレピッドとフランクリン、軽空母ベローウッドに被弾を許していた。
特に重傷なのは軽空母ベローウッドであり、1000ポンドと思しき爆弾を4発受けていた。
TG57.2は、敵の新型飛空挺の攻撃を受け、3回目の波状攻撃まではなんとか軽微な損害に留める事が出来た。
だが、4回目以降からは、濃密な対空砲火も敵の猛攻を押し留めることはできず、フランクリンに爆弾1発、
イントレピッドに爆弾2発、ベローウッドに爆弾4発の被弾を許してしまった。
イントレピッドのほうは、500ポンドクラスの爆弾2発を既に被弾していたため、これで4発を受けた事になったが、
被弾箇所は甲板の端がほとんどで、中央部に命中した1発もエレベーターを逸れていた。
それに加え、被弾時の火災の延焼は食い止められたため、応急修理を行えば母艦機能は回復するようだ。
フランクリンは、飛行甲板前部に爆弾1発を被弾したが、損害自体は酷くない様だ。
しかし、軽空母ベローウッドのほうは被害が大きく、敵弾の1発は缶室に損害を与えており、目下21ノットのスピードでしか航行できないようだ。
それに、火災もまだ消し止められておらず、母艦機能の回復は難しいようだ。
この2空母が被弾した事に、リューエンリは非常に悔しがった。

「このアラスカも、まだまだだな。」
「まあ艦長。沈没艦が出なかっただけでもよしとしましょう。」

思い詰めるリューエンリに、ケイン副長は温かみのある口調で語りかけてきた。

「確かに、空母への被弾を許した事は悔しいと思うでしょうが、このアラスカが居なければ、事態はもっと悪い方向に行ったかも知れませんよ。」

その頃、TG57.2旗艦であるフランクリン艦上では、司令官のフレデリック・シャーマン少将が安堵の表情を浮かべていた。

「ベローウッドはあの有様だが、本当に沈没は免れそうなのだな?」
「はい。ベローウッド艦長からは20分後に火災鎮火の見込みと報告が入っています。」
「そうか・・・・これも、アラスカのお陰だな。」

フランクリンの右斜めにいた軽空母のベローウッドは、実に30機もの敵機から急降下爆撃を受けた。
初陣のベローウッドが、早くも敵飛空挺によって討ち取られてしまうかと、誰もがそう思った。
しかし、ベローウッドの後方にいたアラスカはベローウッドを救おうと、猛然と対空射撃を行った。
そのため、敵機のうち10機はアラスカに向かい、同艦を爆撃したが、及び腰の爆撃のため全て外れ弾となった。
残りの20機はベローウッドに向かったが、アラスカを初めとする護衛艦の援護射撃の甲斐あって、被弾数を4発に留める事が出来た。
その結果、ベローウッドは大破の判定を受けるほどの損害を被ったものの、沈没には至らなかった。

「攻撃は、わが任務群だけに集中されたようです。TG57.3には損害ありません。」
「ふむ。敵の軍港施設壊滅と引き換えに、軽空母1隻大破、空母1隻、駆逐艦3隻中破、空母、巡洋艦、巡洋戦艦各1隻小破か。
まぁ、中破したイントレピッドはまだ使えるようだから、悪くはない計算だ。」
「司令官。TF57司令部より入電です。翌日の攻撃まで、各任務群は一旦西方に避退されたし、であります。」

通信参謀が読み上げた命令電に、シャーマンはただ小さく頷いてから、TG57.2に指示を下した。

午後5時30分 ウェンステル領クームナウ

「戻ったのはこれだけか・・・・・・」

第3攻撃飛行隊第3中隊長のタウラモ中尉は、列線に並ぶケルフェラクの姿を見て、愕然とした。
出撃前、クームナウの飛行場には、第3戦闘飛行隊と、第3攻撃飛行隊の飛空挺、計120機が、頼もしい轟音を轟かせて出撃を待っていた。
だが、帰還したケルフェラクは、出撃前と比べて減っていた。

「この飛行場って・・・・・こんなにも広かったか?」

彼はそう呟いたほど、損耗は激しかった。
先ほどの敵機動部隊との戦闘で、第3戦闘飛行隊、第3攻撃飛行隊共に少なからずの機体を失った。
帰還機は、第3戦闘飛行隊で36機、第3攻撃飛行隊で46機を数えるのみである。
実に、38機のケルフェラクが失われたのである。
損害はワイバーン隊にも出ているから、喪失数は全体で70以上に上ると言われている。
ここ最近は、敵の戦闘機の性能もそうだが、敵機動部隊の対空火力が段違いに向上しているという。
今回の攻撃でも、敵機動部隊の対空砲火はかなり激しかった。
特に空母群の後方に陣取っていた1本煙突の新鋭戦艦は、他の護衛艦よりも激しい対空戦闘を演じており、小型空母を攻撃しようとした
第5、第6中隊が多数で攻撃したにもかかわらず、その戦艦から放たれた猛烈な対空砲火で阻止されかけた程だ。
このようにして、第3攻撃飛行隊は初の実戦というのもあって、苦戦を余儀なくされた。
だが、戦果がゼロであった訳ではない。
決死の猛攻の末、敵機動部隊の空母3隻に爆弾を命中させ、大破と思われる損害を与えている。
戦後、実際の戦果が思ったよりも少なかった事にタウラモ中尉は落胆したが、この時は彼のみならず、軍全体が敵空母部隊の一部を戦闘不能に陥れたと確信していた。
だが、同時に彼らはこうも思っていた。
敵機動部隊に壊滅させる事は、部隊そのものをすり潰さなければなし得ない事を。

アメリカ軍が開始した事前攻撃1日目は、ここで幕を閉じる事になるが、こういった凄惨な光景は、戦争が終了するまで続く事になった。
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