グェスさんが戦力として計算できるのは嬉しい誤算だった。
情報交換の段階でスタンド使いになったのも最近で戦闘の経験が皆無に近い彼女にあまり負担が大きいようのことは任せれないがそれでも一人より遥かに戦略が広まった。

廊下側の警戒を彼女に任せると僕はするすると法皇の緑を潜行させる。
不安がないと言ったら嘘になるが一直線で死角もなく、視野も通ずる廊下なら彼女でも大丈夫だろう。
なにより彼女はさっき僕の危機を救ってくれた人だ。ここで信頼しなきゃいつする?

中庭は僕自身の視覚で確認する。隣の部屋がどうなってるか、わからないが庭に面してる以上そちら側からの襲撃にも警戒を怠ってはならない。
なんせ敵は少年だけじゃないんだ。最悪他の参加者が襲い掛かってくるパターンもある。
なにより銃を持ってる彼に対して位置を把握してないのは致命的だ。今の僕の最優先事項は少年の位置を把握すること。

最大の利点、射程距離に自信のある僕のスタンドを広げ進めていく。この状態なら最悪塊になっている頭部の法皇さえ攻撃されなければ重症には到らないだろう。
隣の部屋は…バスルームか。政府公邸に恥じない広々とした優雅な空間も今の僕には厄介なものでしかない。
天井を伝って少年の姿を探る。気配を消して部屋中、それこそバスタブの中も、便座の内部も覗きこんだが彼を見つけることはできなかった。
こうなると彼はもうひとつ隣の部屋ということになるか…。

扉はガラス張りで閉めきったその状態でも僕のスタンドには充分な隙間だった。
音をたてることなく忍び込むように身体を捩じ込んでいく。もちろん、少年の捜索と警戒は怠ってない。
グェスさんが何の合図を出さないことを考えるとやはりこの部屋に潜んでいるな……。

部屋はベッドルームだった。
英国風の四隅の柱が高い、いかにも高級感漂うベッド以外にこれといった家具はなく隠れそうなスペースもなかった。
…しかし中庭に人影はない。廊下にも少年はいない。となると…。

馬鹿らしいが隠れれるスペースは子供の遊びで一番候補になりそうなベッドの下しかないか。
覚悟を決めて攻め込む。
ここでエメラルドスプラッシュは使わない。仮に射つ瞬間と少年が飛び出るタイミングが重なりようものなら、僕のスタンドは射撃の後の無防備な姿をさらすことになる。
そして法皇の緑を細くベッドの下に潜りこませるという手段もとれない。
僕が思い出したのはさっきの僕のエメラルドスプラッシュを弾いた時の少年のスタンド。
可能性でしかないが、見たものは確かだ。
弾いた両の手の甲にあった玉のようなものから煙が漂っていた。そして僕の戦いの勘があれは危険だと警報をならしている。

スタンドの能力がわからない以上迂闊には攻めれない。そうなると僕がとるべき手段は…。
意識を集中させて紐状になっていた法皇の緑を集結させる。人型に形づくっていくそれを臨戦態勢にすると僕は声を伝えた。

「抵抗するなら容赦しないッ!ベッドの下にいる少年、今すぐ出てこいッ!」

エメラルドスプラッシュを放てる態勢をとる。
頭の片隅ではベッドの周りに法皇の結界を張るという選択肢も浮かび、とにかくどのタイミングで少年が出てきても対応できるよう神経を集中させた。
数秒も経たない間に、驚くことに少年は簡単に姿を現した。
匍匐全身のような状態から立ち上がると降伏を示す態度を微塵も見せず、堂々と僕のスタンドの前に立った。

「…なんの真似だ?」

法皇の緑が僕の言葉を繋ぐ。少年は気だるそうに黙ったままいると、次に両手を挙げて克服の姿を見せた。
…不可解な行動だ。どうしてだ?
最初ベッドの下から這い出てこなかった理由は?すぐに降伏の意を示さなかったのは?

そして僕はその理由をこの身をもって知ることになった。
両手が少し閉じられるようになっていたのはその理由か。指に引っかけられた二つの爆弾が宙を舞った。
僕が最後に視認できたのは少年の口角が皮肉げにつり上がったことだった。


轟音と閃光。


「ぐぅ………ッ!!」

手榴弾でなかったのは彼が持ってなかったからか、或いは自分のダメージを考えてか。
スタンドを経由して本体の僕も視覚と聴覚を失い、頭を抱える。
法皇の緑を自衛のため呼び戻した僕に僅かだが扉を開く音と人間が走るような音が耳に入った。

「――――………い、花京……――!廊下から…――」

グェスさんの言葉が耳に入るが事態はそう暢気にしてられない。
聴覚に直結している三半規管もやられバランスがとれない僕はふらつきながらも廊下側の扉に静態した。隣にいるグェスさんを引き寄せて襲撃に備える。

扉が吹き飛んだ。狂暴なスタンドを携え銃を片手に少年が乗り込んで来た。
瞳孔は大きく開かれ顔には恐怖を浮かべている少年。狂気が走るその顔に僕はゾッとした。
明確な殺意を持った彼の瞳が僕らが捕らえる。獲物を前にした狩人かのように彼は躊躇いなく踏み込んできた。

だがそれも予想通り。
僕があらかじめ扉前に張った、法皇の緑の結界その中に。

「食らえ、このエメラルドスプラッシュをッ!」

範囲を広げることなく集中させた緑の弾幕が360度より飛来する。その密度の高さは僕の最高の攻撃ッ…!
相手のスタンドのスペックは恐るべきものだ。パワーとスピード。承太郎のスタープラチナには及ばないが、それでもその水準の高さでも僕の攻撃は捌ききれない…ッ!

弾かれた光弾は無数。それでも襲いかかる弾数は数知れない。致命傷は与えることができないのも計算の内。
僕はふらつく視界のなかで法皇の緑が床を這うように少年に向かっていくのを見て勝利を確信した。

カラン、と乾いた音を立てて拳銃が転がる。
弾幕が消え失せた時、そこにいたのは僕のスタンドが右手に巻き付き、拳銃を叩き落とされた少年がいるだけだった。
幾つか直撃を避けたものの僕の結界は少年に確実にダメージを与えていた。
青痣が額に浮かんでいる。咄嗟に僕の攻撃から身を庇ったのか、右腕は力なくぶら下がるのみ。

それでも僅かにそれだけだ。
あれだけのエメラルドスプラッシュを致命傷なく弾いた彼のスペックに感嘆すると共に無力化できたことを喜ぶ。
警戒を以前より強めながらもゆっくりと距離を縮め、唇を切って血を流している少年に僕は語りかけた。

「…さぁ、大人しくしてもらおうか。肩にかけてるデイバックをお「チェスの駒……」

言葉を遮られたことに眉を潜める。幾らか拘束を強められながらも少年は息を乱し言葉を続ける。

「ポーンって哀れな駒だと思わないかい…?大抵のポーンはオープニングゲーム、中盤の中央の支配権争いで散ってく。
生き残ったと安心した終盤にはそれでも足を動かすことを強制されてしまいには終着点にたどり着いても、今度は更なる働きを要求される…。
哀れな駒だよ、ポーンって奴は」

右腕は…緑の法皇が絡め取っている。銃は彼と僕の中間点近い位置。
スタンドにも絡みつき、獰猛なその紫の肉体を駆使しても解けないように比重は割いてある。
それなのにこの余裕はいったい…?

「何が言いたい…?」
「勝負には何が必要かって話さ…。結局最後に勝負を決めるのは感情じゃないし、覚悟でもない…。」



「勝負を決めるのは犠牲にするものが何かってことさ」



少年の左手が持ち上がる。僕の視線はそれを追い、凍りつく。
法皇の緑は全身に巻き付いているとは言え、彼自身、そしてスタンドの無力化を主にして配置を割いている。
つまり僕は彼の攻撃手段の拳銃とスタンドを完全に押さえ込んでいた。
だが。

少年の左手には二丁目の拳銃が握られていた。

法皇の緑の力じゃ彼の身体を絞め殺すことや、骨を粉砕させることは不可能。
加えて彼は指の引き金を引くだけでよくて、僕は意思を伝えスタンドを操らなければならない。

血液が凍りつくような感覚。ゾワッと全身の毛が逆立ち、警戒信号という形で存在を主張する。
視覚から入った情報はただ事実だけを述べた。僕はやっと動き始めた。

けれども間に合わない。
さらに狙いは僕じゃない。
グェスさんだ。

スローモーションのように少年が拳銃で狙いを定めるのを脳が処理した。
揺れる視界の中、身体をなんとかグェスさんの前に入れようとする。
射軸上に遮蔽物である僕を入れて彼女を助けようとする。
だが………くそ、間に合わない…ッ!

そう思った時だった。
何かの力が僕に作用する。
横っ飛びで足りなかったベクトルは補われ、僕の身体はちょうどグェスさんの前に着地した。

少年の顔が驚きに染まる。驚いてるのは僕自身もだ。
いったい何がおきてこうなったんだろうか。
尤も答えは僕の身体自身が知っていた。

両肩にかかるか細い腕。さっき僕の肩を震えながらも支えた手。
答えはシンプルだ。僕の身体はグェスさんによって引っ張られ、足りない力的エネルギーを補った。
信じられない思いで顔を真後ろに回す。少年が手にした凶器に引き金をかけないのはなぜだろうか。

そして振り返った僕は後悔した。
そこにいたグェスさんは醜かった。誇り高き僕の友人は堕ちたゲス野郎の顔をしていた。
己の誇りより醜い生に執着する人物がいた。

瞳孔が収束し揺れた。
罪悪感があるのか…。僕を盾にしたことに背徳感があるのか…。

心底残念だ。
僕は友人を庇い死なず駒のように使い捨てられ死ぬことになった。





甲高い銃声が政府公邸に尾を引いた。




     ◆





カランと無機質な音が響いた。
まったくの無というほどの静寂が部屋にこだまして沈黙が降り立つ。
飛び散った薬莢から煙が一筋漂う。

動いたのあたしじゃなかった。
崩れ落ちたのは花京院じゃなかった。
少年は左手に持っていた拳銃を取り落とすと、呆然とした表情のまま膝から崩れ落ちた。
顔は地を向き見えないが、その後から微かに聞こえる啜り泣く少年の声が悠然と彼の状態を物語っていた。

花京院がなにかをしたわけじゃない。無論あたしがなにかをしたわけでもない。
銃弾は花京院の足元に撃ち込まれていた。何が少年をそうさせたのか。何が銃撃を外す要因となったのだろう。
ただ最後の瞬間に彼が意図的に外したのは確かだろう。

真っ先にあたしが思ったことは安堵だった。そしてそう思った自分が恐ろしかった。

恐る恐る顔を挙げる。大きな背中はなく学生服のボタンが並んでいることで花京院があたしと向かい合ってることがわかった。
あたしの視線を捉えた花京院の瞳は靴底に張り付いた汚物を見るようだった。

「ッ!!」

ドンと突き飛ばす。傷口がある肩の辺りに触れたが、花京院は二、三歩よろけただけで表情を変えずに冷めた目付きのままだ。
自分がわざと傷口を狙ったという行為に狼狽しつつも、どこかでそれでも表情一つ変えず冷めた目付きの花京院が憎かった。
なんだよ…その顔は……なんだって言うんだよ………?

あたしは良くやったと思う。今の今まで命を賭けた戦いなんてしたことなかったのに自分の役割を果たせたと思う。
そもそも花京院が死なずに済んだのもあたしのおかげじゃねーか…。
あたしがソファーの後ろに引っ張ったってことがあったからこそお前は生きてられるんだぞ?感謝はされても非難はされる覚えはない………。

言い聞かせても歯軋りは止まらない。悔しいのか、憎いのか。
ただごちゃ混ぜになったどす黒い感情が込み上げる。

くそッ…なんだって言うんだよ…。
その眼を止めろッ……!そんな目で…あたしを見んなッ!
あたしを……………哀れむんじゃねえッ!!



可哀想な物を見る目付きになった花京院をその場に残してあたしは飛びようにその場を去る。
廊下側じゃない扉を潜り、バスルームを脇目も触れず駆け抜けると勢いのままにベッドに身を沈めた。

くそッ、くそッ、くそォ………!
悪いのはあたしなのかよ?この臆病者のあたし?
なんでだよ、誰だって死にたくないだろうが…。助かる可能性があるならそれにすがり付くことは悪なのか?
ぼふっ、と枕が音をたてる。あたしが感情から、怒りに任せて拳を叩きつけたからだ。

罪悪感はある。
自分を友達と言ってくれた花京院の気持ちを裏切ってしまったとも思ってる。
そうだ、悪いのはあたしじゃない。花京院でもない。
あの襲撃者の少年だ。あいつがここにいたから何もかも台無しになっちまった…。
そうだ、あいつが………。

そこまで考えてあたしは考えるのを止めた。言い訳を考えるのも疲れたし、なによりあたしが行動したことは変えられない。
あたしは花京院の気持ちを裏切った。自分の命惜しさに咄嗟にあいつを盾にした。
銃弾が外れた時、自分に害がなかったことに最も安堵した。

…なんだよ、そういうことかよ。
ちくしょう、最初から答えは出てたんじゃねーか…。

「あたしが一番悪いんじゃねーか………」

言い訳してるのもあたし。
裏切ったのもあたし。
殺す覚悟も殺される覚悟もないのもあたし。
ないない尽くし、ははは、情けねぇ……。

でも。
それでも…それでもあたしは、あたしは………


「死にたくない………」


ごろりと体の向きを上にした。天井は無表情のままあたしを見返し、なにもかも忘れようとあたしは右腕で顔を覆った。




      ◆






恥も外聞も捨てて僕は号泣を続けた。
子供の様に泣きじゃくり、口からは嗚咽が、鼻からはみっともなく鼻水を撒き散らしてる。

女性は何処に行ったのだろうか。というかいつの間にいなくなったのか。
潤んだ視界で周りがぼやけ、この場を去ったことにも気づかなかった。
そんな僕を目の前にして青年は冷酷な眼をしていた。しかし、戸惑いを感じているようでもあった。
それもそうだろうな。襲い掛かってきた狂暴な殺戮者は突然殺意を失い、惨めな姿を晒している。
親を亡くした子供のように泣きじゃくり、拠り所をなくしたかのようだ。
…どうしてこんなことになったんだろう。
僕の記憶は遡る。政府公邸に入る直前、男と交わした会話を思い起こした。



『いや、なに取り引きなんて言ったけどねぇ…うん、実際にはお願いって言った方がわかりやすいかな?』

『いやいや、具体的なことじゃないんだ。あーーでも……うん、そうなるとお願いじゃないなぁ……』

『何、そんなに怯える必要はないさ。プレゼント、どうだい?そう聞いたら幾分受け取り方も変わるだろう?』

『そうだなァ…………。ひ・み・つッ!そう言ったほうがおもしろいでしょ?…じゃ、アリーヴェ・デルチ…!』



僕は渡された物と渡された者としてヤツの狙いを考えた。
そして僕はこれがヤツからのテコ入れと受け取った。
未だ自分の道を決めていない僕に業を煮やしたのだろう。あんな大胆な行動の裏には僕に選択の余地がないと言うことを伝えたいのだと思った。
だけどそれもどうやら違ったようだ。
全てはアイツの想定どおり。思い通りの計画通り。

僕が殺し合いに乗ることも。政府公邸で参加者を待ち伏せすることも。
参加者二人と遭遇することも。躊躇いながらも二人を殺そうとしたことも。
そして…僕が荒木に反抗しないこともヤツの計算のうちなんだろう。

思い出すさっきの戦闘。
二人を追い詰めた瞬間、僕の中にはきっと漆黒の殺意が宿っていたと思う。
引き金は引くつもりだったし、そしたらもう振り返らないつもりだった。

けどそんなことはなかった。荒木飛呂彦、あいつにとって見れば僕は最高に滑稽で哀れなピエロだ。
女性に狙いを定めた瞬間、視界に映った荒木飛呂彦。わざとらしい仕草で抜き足指し足で彼女たちのデイバックに近づき中から何かを取り出した。
そして僕に向かって飛びっきりのウィンクをした。

わかっていたんだ、ヤツは。
僕が拳銃の狙いをずらしてヤツを狙撃しないということを。
襲撃者である有利な立場を投げ捨ててでも主催者殺しという大チャンスにチャレンジしないことを。

そして結果はこの様さ…。情けなくて涙が出てくるのも仕方ないだろ?
本当に滑稽だ、自分自身でも思う。ならば荒木から見たら尚更だろう。
今頃何処かで高笑いでもしてるのだろうか。

僕は所詮半端者で燃えるような正義感もなく、美しいまでの勇気もない。
青年に言ったポーンの件。ははは…なんてこったい。一番の歩兵は僕じゃないか。
荒木に言いように扱われ、中盤戦でポイッと捨てられた惨めなポーン。
あんな大口叩いて、僕はなんもわかっちゃいないんだ…。

情けない。
不甲斐ない。
そして何より…僕はまた選べなかった。

荒木という絶大なる強者。
パッショーネという巨大な権力を持つ支配者。
そう、何時だってそうなんだ。僕は眠った奴隷なんだ。
いつまでも正義に目覚めることなく、自分に不利なことには関わらない。そんなとんだチキン野郎さ…。

利益だけ考えて行動する。
上手く立ち回ってなんとか位置を確保する。
無理してだって保身と安全を最優先。
そうだ、僕は嘘と偽りで固められたパンナコッタ・フーゴっていう情けない男。

でも。
それでも…それでも僕は、僕は………


「死にたくない………」


しゃっくり混じりのしゃがれた声が出る。
返してくれる相手がいるわけもなく、涙が頬を伝っていく冷たさがやけに生々しかった。







      ◆





溜息を吐きながらも自分のスタンドを使う必要がないことを確認する。
少年のスタンドは本人の精神力がやられたのか、すっかり飼いならされた犬のように大人しくなり、終いには姿を消してしまった。
床に落ちてある拳銃も二丁、しっかりと回収済みだ。
けれでも僕の悩みは尽きない。

この少年は何があったのだろう。どうして急に襲撃をやめたんだ?
説得は可能なんだろうか?そもそも本当に殺し合いに乗ってるのか?
そして…もう一人のほうも同様だ。

彼女は…悪い人ではない。
スタンドも最近知った彼女からしたらこの舞台は些か刺激が強すぎた。
精神を消耗した彼女が保身に走ることは仕方ないだろう。

フゥ、とため息が口をついた。
…素直になれよ、花京院典明。
本音は違うということは誰より自分が一番わかっていた。
彼女なら…スタンド使いになれたほどの彼女なら乗り越えてくれると信じてた。
信じてたからこそ、今も信じたい。そう僕は思ってる。
それでもそんな贅沢は言ってられないようなんだ…。

甘すぎた自分自身。でも僕の仲間もこうしたと思う。
グェスさんを信じて、そして同じように彼女の危機には身を挺してまでも助けるだろう。

そうだ、それがいいと思ってた。それでいいと思ってたんだ…。
でも駄目だ。僕にはその甘さを貫き通す程の強さがなかった。
だからもう止めだ。
甘いことが悪いことではないと思う。僕達はそうやって捨てきれなかったからここまで来れたのだから。
だけど…この場ではそんなことを言ってられそうにないと思った…。
名簿にあるモハメド・アヴドゥルの文字がそれを忠実に物語る。

アヴドゥルさん…僕はどうすればいいんでしょうか………?貴方なら、貴方ならどうしてる?
火の化身、不死鳥のようにまた舞い戻ってくるわけがないとわかっていても僕は彼の答えが気になって仕方なかった。




はぁ………悩んでてもしかないな。重くなった意識にかかった靄を振り払うように頭を振ると僕はほかのことを考え始めた。
まず終わったこと、目の前の結果から処理しようか。

グェスさんは…もう信用できない。少なくとも命を預けるようなことは出来ない。
彼女は僕を捨てゴマにした。
変えることのできないこの事実は慎重に判断を下さないと…。
彼女自身が何を想っているか、それも後で話し合わないといけない。
ここは地図の端で参加者も好んでここにやって来るとは思えない。場合によっては、彼女が身の安全を最優先するというなら彼女の意思を最大限尊重したい。

そしてこの少年。
今はまだ大人しい。涙や抵抗を一切見せないことからきっと殺意はもうないだろう。
けれど彼が明確に僕達を殺しにきたのは確かだ。拳銃を向け、スタンドの拳を振るという判断を下したのは彼が自身だ。
思うに修羅場も多く潜ってきたんじゃないだろうか?そうなると勝ち残る自信や覚悟もあるっていうのか…?
ならばこの涙はなんだ?何が彼をそうさせた?

…焦ることはないか。情報を聞き出し理由も聞こう。
そして……場合によっては…殺すしかない………のだろうか………?


「死にたくない、か」


少年がぽつりと吐いた言葉が耳をうつ。
きっと本心からの言葉なんだろう、そう思わせるほど少年の声は憐れみを含んでた。
僕は駄目だと思っていながらも同情心が沸き上がってくるのを抑えれなかった。
それを打ち消すため懐に手を入れる。ずっしりと感じた黒光りする武器が僕に現実を思い起こさせた。

ふと僕はどうなんだろうと思った。目まぐるしく、事が起きすぎた僕は改めて考えてみる。
けれどそれを考えると先の誓いが揺らぎそうだった。
少年やグェスさんを冷静に判断できなくなりそうで、僕は自分の呟きを打ち消すようにそっと息を吐いた。


早く仲間に会いたい。信頼できる彼らと合流したい。
疲れに眼を擦りながら、とりあえず止血のため僕は辺りを見回した。











【C-8 政府公邸 /1日目 午前】
【グェス】
【時間軸】:脱獄に失敗し徐倫にボコられた後
【状態】:精神消耗(大)、花京院に屈折した思い(嫌われたくない/認めて欲しい)、罪悪感、現実逃避
【装備】:なし
【道具】:支給品一式(地図・名簿が濡れている 水全消費)
【思考・状況】基本行動方針:?????
1.死にたくない
【備考】
※グェスは、エルメェスや他の刑務所関係者は顔見知り程度だと思っています。
※空条承太郎が空条徐倫の父親であると知りました
※花京院と情報交換をしました。
※花京院に自分ははめられて刑務所に入れられた、と嘘をついています。



【パンナコッタ・フーゴ】
[時間軸]:ブチャラティチームとの離別後(56巻)
[状態]:苦悩と不安、重度の鬱状態、傷心、人間不信、精神消耗(極大)額に瘤、右腕に中程度のダメージ
[装備]:吉良吉廣の写真
[道具]:支給品一式、ディアボロのデスマスク、予備弾薬42発(リボルバー弾12発、オートマチック30発)閃光弾×?、不明支給品×?
[思考・状況]
基本行動方針:「近付くと攻撃する」と警告をし、無視した者とのみ戦闘する?
0.死にたくない
1.?????
[備考]
※結局フーゴはチョコラータの名前を聞いていません
※荒木の能力は「空間を操る(作る)」、もしくは「物体コピー」ではないかと考えました(決定打がないので、あくまで憶測)
※地図を確認しました
※空条承太郎、東方仗助、虹村億泰、山岸由花子、岸辺露伴、トニオ・トラサルディー、ジョセフ・ジョースターの能力と容姿に関する大まかな説明を聞きました
※吉良吉影の能力(爆弾化のみ)を把握しました。しかし、一つしか爆弾化できないことや接触弾、点火弾に関しては聞いていません。
 また、容姿についても髑髏のネクタイ以外には聞いていません
※吉良吉廣のことを鋼田一吉廣だと思い込んでいます
※荒木がほかになにか支給品をフーゴに与えたかは次の書き手さんにお任せします。
 また閃光弾が残りいくつか残ってるかもお任せします。



【花京院典明】
【時間軸】:ゲブ神に目を切られる直前
【状態】:とても喉が渇いている、中度の人間不信、精神消耗(中)、グエスに落胆、フーゴに戸惑い、右肩に銃撃(出血中)
【装備】:ミスタの拳銃【リボルバー式】(5/6)、ミスタがパくった銃【オートマチック式】(14/15)
【道具】:ジョナサンのハンカチ、ジョジョロワトランプ、支給品一式。
【思考・状況】 基本行動方針:打倒荒木!
0.二人に対処。どうすればいいんだろうか…?
1.自分の得た情報を信頼できる人物に話すため仲間と合流しなければ…
2.甘さを捨てるべきなのか……?
3.巻き込まれた参加者の保護
4.安心して飲める水が欲しい。
5.荒木の能力を推測する
【備考】
※水のスタンド(=ゲブ神)の本体がンドゥールだとは知りません(顔も知りません)
※ハンカチに書いてあるジョナサンの名前に気づきました。
※水や食料、肌に直接触れるものを警戒しています。
※4部のキャラ全員(トニオさん含む)を承太郎の知り合いではないかと推測しました。
※1で挙げている人物は花京院が100%信頼できて尚かつ聡明だと判断した人物です。
 決してポルナレフやイギーが信頼出来ないという訳ではありません。
※荒木から直接情報を得ました
「脅されて多数の人間が協力を強いられているが根幹までに関わっているのは一人(宮本輝之助)だけ」


     ◆



「いやぁ、安心安心…。ほんと良かったよ」

パタン、と小気味いい音が響く。日記の中身を確認した男は安堵の息を鼻からゆっくり吐き大きく伸びをした。
芝の匂いと朝日の香り。爽やかな一日を感じさせるその芳醇さに酔いしれるかのように目を瞑ると誰かに言い聞かせるかのように独り言を続ける。

「日記をパちられた時はどうしようかと思ったけど…いや、良かった良かった。
それに…彼もやっと動きだしたしね、一石二鳥だ。まぁ、動き出したっていっても何ともいえないけど…。
ただ…おもしろくなりそうではあるね、フフフ………!」

線路の砂利が足の裏で擦りあわされ音を奏でる。視線を下にすると陽光に反射し、レールがきらりと輝いた。
男はのんびりと散歩を続ける。
再び歩き出した男が少し小高い丘に着くと、振り返り彼は息を呑んだ。

「………綺麗だ」

なんでもない田舎の一風景。
昇り始めた朝日がその姿を海と鏡写しにし、揺らめく光源をもうひとつ作る。
海鳥が空に吸い込まれそうな青さに染まり、白く壮大な近くの建物がやけにちっぽけに見えた。

感激に胸をいっぱいにしそうになった男はふと閉じられたままの自分の左の拳を見た。
そうして何かを思い出したかのように顔をパッと輝かせた彼はもうひとつの手を重ねるとそっと両手を開いた。

宝石を扱うかのように丁重な送迎のもと入り口から一匹が出発していく。
その翼は力強く羽ばたかれ大空に舞う。あっという間に高度を上げるとそれは海の風に乗り何処とも知れず消えていった。
何事もなく飛び出ていったそれをじっと男は見つめる。

朝日を背に受け飛び立つ一匹に、背景である自然が妙にマッチしてるよう思え、男は思わず涙ぐむ。
ノスタルジアを思い起こさせたその光景に感銘を受けしばらく飛び去ったその方向から目が離せなかった。
自然の雄大さと生物の力強さに改めて感じた人間のちっぽけさに男は一人頷きを繰り返した。

そのままどのぐらいか、その光景を目に焼きつけようと男はじっとそのままでいた。
そして満足気に笑みを浮かべると腕時計を覗き込む。

もう朝食の時間じゃないか、そう言うと男は慌て始めた。
手元に開いた日記のようなものに走り書きをする。トン、と句点を打つような音を合図にパタンと日記を閉じる音が辺りに響いた。

そして後にはなにも残らなかった。
木から落ちた木の葉がひらりと舞うと唐突な風に運ばれ、またそれも消えていった。





【備考】
※日記は取り戻しました。
※日記は何らかの条件下で『開く』ようです。
※フェルディナンドの恐竜がこの後主の元に戻るのか、南に向かうかは次の書き手さんにお任せします。
※恐竜がどの程度政府公邸での出来事を見たのかは次の書き手さんにお任せします。
 また荒木の言葉をどの程度聴いたなどもお任せします。


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キャラを追って読む

100:グェスは大変な物を盗んでゆきました 花京院典明 132:ツィゴイネルワイゼン
100:グェスは大変な物を盗んでゆきました グェス 132:ツィゴイネルワイゼン
102:使者~メッセンジャー~ パンナコッタ・フーゴ 132:ツィゴイネルワイゼン
98:第一回放送 荒木飛呂彦 137:when where who which

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最終更新:2009年08月18日 13:52