これは宿命の円環(リング)を浮かび上がらせる多様にして確固たる表示であって、望むと望まざるとに関わらず、彼らはその重要な一端を担っているのである。


※   ※   ※ 

時は第三放送の直前。ジョルノと露伴が賭博施設より帰還して間も無く。
空は燃える様な夕暮れ。コロッセオの一角で彼らは、昼と夜の間の静謐な空気のかぐわしさに目を細めた。

この会場の生者に死者に、等しく注がれる陽光は燈のようでいてしかし、どこか慈悲を含んだ柔らかさで。
それはコロッセオの石壁を朱に染め、影をより濃く、くっきりと浮かび上がらせた。

その茜色の空気の中、ジョルノの口からよどみなく流れ出る言葉には感情が無い。
事実に感情は不要とでもいうかの如く、第一・第二放送の内容、ダービーズアイランドで見たもの、聞いた事をありのまま伝える。
さらにブチャラティのメモの内容、自分達は時間を飛び越えてここに存在する事、接触した他の参加者たちの動向、自分達がこれからやるべき事まで手落ちなく。
無機的な説明の最中、場に佇む者たちの反応は静かなものであった。

「以上です。…次は皆さんの情報を頂きたいのですが。」

ジョルノは話し続けた事で疲れたのか、ほう、と最後に息をつく。
説明が終わっても、誰も何も言わなかった。

困惑、猜疑、怒り、悲しみ、寂しさ……理解不能。それらが渦巻いて訳のわからない物になり。
誰も何も言えない。それを表す言葉は、この世には無い。
彼らはうなだれ、頭を抱え、ため息を漏らすしかない。

その中で唯一、傍観を決め込んでいた露伴が声を上げた。

「…質問がある。最後に荒木が言っていたことだが。」

言いつつ露伴は左手を頬に当て、曲げた肘に右手を当てながら考え込むような様子で車椅子の背に寄り掛かる。
黒い瞳は強い光を含んで、ジョルノを射るように見つめていた。

「君は『DIOの息子』なのかい?」

場は制止する。
ジョルノは惑う。

沈黙の中、コロッセオを吹き抜けてゆく細い細い風の音。
今までまっすぐに前を見ていた視線を、ジョルノは地面に向けた。砂利を見つめて唇を噛む。
肯定の意である事は誰の目にも明らかだった。
同時にその事実が彼に苦悩をもたらしていることも。

露伴の言葉を聞いたシーザーは目を見開いて、無意識に一歩前に踏み出す。視線の先は露伴とジョルノを行き来する。
手近な場所に腰掛け、うなだれていたジョージは弾かれた様に顔を上げ、目の前に佇む金髪の少年を見る。
ブチャラティは腕を組んだまま、ややうつむき加減で斜め下から探る様に露伴を見た。
しゃがみ込んだ姿勢で大きく股を開いていた億泰は天井を見上げ、肩をすくめ、ため息をつく。そしてがくりと床に視線を落とした。
露伴は腕を組み、じっとジョルノの答えを待っていた。

宵の口、夕闇が浸食するコロッセオはほんの少し藍色に染まりつつある。
自身の陰に溶け込むように迫るその色を苦々しい思いで見やりつつ、ジョルノは口を開きかけたまま動けなかった。
元より答えなど持ち合わせていない。
ディオとも、DIOとも、今まで面識など無かったし、母親は自分の事ばかりでほとんど何も教えてはくれなかったのだから。

(そうだ、僕は『何も知らない』。ここで出会ったディオは、いつもイラついていて、ぶっきらぼうで、僕を見ても困ったような、怒ったような顔をして……。)

だがジョルノが何か言わない限り、場は収まりそうになかった。周りからの無言の圧力。
言葉を探すジョルノの思考はまとまらず、噛んだ唇がしびれ出す。
だが、ここで彼らは全く別の要因によって意識を他に向けざるを得なくなってしまった。


『歴史だとか過去のノスタルジィを感じさせてくれるものは場所に限らず心を落ち着かせてくれるね…』


何処からか聞こえてきたそれは、軽やかな小鳥の様に忍び寄る不吉なささやき。

※   ※   ※

再び沈黙が降りてくる。
刹那の間の後、先程よりもさらに重い溜息と嗚咽がコロッセオの一角を満たした。

「ジョセフ・ジョースターが、死んだ…ッ!スージー、すまない…」

「プッチ神父とスピードワゴンさんが亡くなってしまった…さっきまで一緒にいたのに。タルカスまで…あっけなさ過ぎる…。」

「ウエストウッドもお陀仏だと…?くそ、あの時の暴漢にあのまま負けたのか…!僕の責任だ…それに。」

「トニオさんが…ジョースターさんまでいたなんて…畜生ォ、畜生ォォオ!!」

「ジョジョが死んだ…?あのお調子者が?嘘だろ、なあ?どういう事だよ…ッ!?」

「14名もの命が…!何という…。」

まるで空気がゼラチンを流し込んだ液体のごとく、どろりと重くなる。
各々の思考はバラバラに散りかけ、零した言葉はうつろに響いた。

「皆…、言いたい事があるのは分かる。だが」

「俺は出ていく!!」

場を制すように言いかけたブチャラティの声は遮られる。億泰によって。
彼はしゃがんだ状態で地面すれすれまで俯き、両腕で抱えていた頭を振り上げながら叫んでいた。
そしてそのまま垂直に立ち上がるとデイバックをつかみ上げ、大きな足音と共に脇目も振らず歩き出す。
ブチャラティは突然の事に声を荒げながら、横を通り過ぎようとした億泰の腕をつかんだ。

「待て!まだ情報の整理も何もできていない、落ち着くんだ、億泰!」

掴まれた腕を乱暴に振り切り、億泰は自身を阻むものに掴みかかった。
他の者達は沈黙したままだ。
持ち上げられたばかりの億泰のデイバックが、再び地面に落ちる。

「黙ってくれよ、頼むからよォ!」

億泰は骨の芯から震えながら、ブチャラティの胸ぐらを鷲掴みにする。
ブチャラティは本来回避できたであろう億康の行動を、読めなかったのか、読まなかったのか。
されるがままの彼の表情は、捻り上げられた襟首の圧迫感に歪んだ。

「皆、俺の知らねえところで死んじまう…。俺ァ、訳ェわかんなくなっちまったよ。だからもう、だめだ。ここにはいらんねえ。…それに。」

それは噛み殺すようなささやき声。
億泰の眼には涙が滲んで、瞳の表面に薄い膜を作る。
彼はその涙を飲み込むように固く眼を閉じてから、後ろのジョルノを睨めつけて言った。

「わかってるぜ…てめえはてめえであって。DIOじゃあねえ。でも、そんなんで割り切れるもんじゃねえ。」

ジョルノの唇に更に歯が食いこむ。しかし彼の視線は挑むように、怯えるように、億泰と合わさったままで。
張り詰めた空気の中、億泰は自身の心情を吐露し続ける。

「DIOのせいで親父が人の姿で無くなってから、死なせてやる事も出来ないまま生活してた10年間。俺と兄貴の10年…。」

ブチャラティはジョルノを見た。ジョルノは億泰と目を合わせたまま、動かずにいる。
億泰はゆっくりと腕に込めた力を抜き、ブチャラティの襟首から手を離す。
2人の距離がわずかに開き、ブチャラティはうなだれた億泰を見る。
依然、からだは痛々しく震えていて。

「親父は確かにろくでもねえ奴だったよ。だが、どんなに屑でも俺らの親だった。」

億泰は再びしゃがみこんで足元のデイバックを持つ。瞳の涙はどこへ行ってしまったのか、すでに乾いていた。

「そして、DIOの名に関係のある奴がいる。俺にはどうも…耐えられねえ。…腕を治してくれた事には、礼を言っておくぜ。」

億泰の視線はすでにジョルノに向けられてはいない。
だがジョルノは億泰を見つめ続ける。彼の過去を理解したい、と考えているかのように。
だが状況も、運命も、それを許してはくれないのだ。

「だから、さいならだ。俺は早人を探す。あんなガキがここまで生き残ってる…ぜってえ見つけて、助ける。」

エネルギーの中にある意志は、億泰を駆り立て、一処にとどまる事を許さない。
そしてここで、彼に続く様にデイバックを持ち上げ一歩前へと進み出た者があった。

「悪りーが、俺も別動体で行かせてもらうぜ。ジョルノ、お前は俺の爺さんの仇の息子…さ。理屈じゃ割りきれねえ。腹が熱くなってきやがる。」

シーザーはバックを肩に担ぐと、片手を腰に当て、斜め下を見ながら低い声で呟いた。
ジョルノの瞳は新たにもたらされた真実に、揺れる。
その様をよそにシーザーは、腰にあてた手とは逆の手を上げると人差し指を立て、言う。ひとえに、自分に言い聞かせるように。

「それにだ!ジョジョが、リサリサ先生達が死んだなどと…俺は納得できない。仇がいるんなら、ぶちのめして納得するしかない。納得は、すべてに優先するぜ。」

シーザーは後ろを振り返り、車椅子の露伴を見た。

「で、ロハン。次はどこ行く予定だったんだよ?」

問われた露伴は『納得』という言葉を口の中で呟くと、車椅子の車輪に手をかける。
親友の康一の死を、大嫌いな仗助の死を、頼れると思っていた承太郎の死を、彼は認めたくない。理由は自分の眼で見ていないから。
だから傷の治療も頼まない。納得してからでないと意味が無いから。
そして彼にとって、リアルは絶対である。荒木というリアルを納得する事も、また必須。

「荒木を取材する。つまりはどんな理由があったか知らないが、参加者になったらしいダービーを探して、ギャンブルに勝つ。」

それを聞いたシーザーは露伴の車椅子の後ろに回り込み、ハンドルを握り、進行方向へと車体を向けた。

「なら、さっさと行こうぜ。…てめえも一人で死にたくないんなら、俺らと一緒に行く事を勧める。言っておくが、俺はかなり強いぜ?」

彼は一度握った車椅子のハンドルに肘をつき、片手で頬を支えながら億泰の方へと視線を投げる。
そしてその体制のまま、億泰と視線を合わせて、出方を待つ。

その呼びかけに、億泰は応じた。元より自分の非力を痛感している、自分一人では何もできないと。
頷いてデイバックを肩に担ぎ直し、車椅子の隣に立つ。
露伴は少し考えた様子をしたが、ひじ掛けに置いた腕を左右に軽く開くと、ジョルノ達に別れのあいさつを告げた。

「まあ、川尻早人をついでに探すこともできるだろうし、億泰と一緒に失礼するかな。」

3人は連なって、外へと歩を進めた。
ブチャラティ、ジョルノ、ジョージはその背を見つめるしかできない。
止める言葉が見つからない。同じような気持ちを、味わってきたから。

「……情報交換をする気はない、と?」

低く、戸惑いながら、ジョルノは彼らの背に声を投げかけた。
両の手はずっと握りしめられたまま。手のひらにはきっと爪のあとが付いてしまっているだろう。

「ああ…食い逃げみたいで悪いが、こっちはそんなに渡せる情報が無いんだ…島に行く前にも言ったかもしれないけど」

「ダービーが新たに参戦し、G-10が禁止エリアになった…この意味は一つしかありません。G-10にダービーの島があったんだ。」

飄々とした様を装い言った露伴の言葉を遮るように、ジョルノは言葉を放った。
あからさまな禁止エリアの設定は、その不自然さゆえに他の推測を寄せ付けない。
陸地から離れた只の海を、禁止エリアにする理由は、そこに何かがあるからという以外には無い。

「島に荒木がいたのに、これではもう近付けない。首輪を解除して海を渡るか、ダービーに勝って荒木の元へ行く権利を手に入れるか、どちらかの道しかなくなったんだ。」

「だから、皆で協力して脱出を目指すべきです…だろ?」

露伴は体を右にひねらせて振り返り、ジョルノを見た。
車椅子を押していたシーザーは黙ったまま振り向きもしないが、足を止め、露伴が話しやすいように少しだけ車椅子を右に回す。
振り向いた露伴の眼は、好奇心に浮かされた、探究者の眼だった。
物事の深淵へ、深淵へと潜り込む事に躊躇をしない、戻れなくなると知っても構いもしない、愚かさとも狂気とも取れるその追求心を、ジョルノはついぞ理解できない。

「でもね、それだと僕がしたい事が出来ないんだ…言ったろ。取材だよ、取材。」

この土壇場で、何故そんな事が言える。
露伴が、ゲームに乗っていない事は分かっている。ならば、やる事は荒木を叩きのめし、脱出することではないのか。
ジョルノは握りしめ過ぎて白くなった手のひらを構いもせず、さらに力を込めた。

「荒木のあの最後のメッセージは、僕らにあてられたものだったんですよ…露伴。」

「ああ、そうだな…それについても是非取材したいものだ。」

前に向き直ると、露伴は手をひらりと振る。
何物を差し置いてもリアルを追求する、その姿勢は、はたから見れば只のいかれた行動と移り得るだろう。
しかし本人にとっては、それが至って普通らしかった。

「…せめて、意志の確認をさせろ。ゲームには乗らない、そうだろう?」

ブチャラティはすでに固まってしまった彼らの思惑に干渉できない。
だが、『ゲームに乗らない』この考えを確認したかったのだろう、脱出の為に。
そして荒木打倒に対する己の打算を抜いても、彼らの正しい心を信じたかったのだろう。

「ああ、乗らないさ。当然…ね。」

「当たり前だ。乗る理由は無いね。」

「乗るかよ、くそったれの殺し合いなんかに…。」

ゆっくりと遠ざかって行く三つの背中は、壁と壁の間から差し込む橙色の夕暮れに浸食され始めている。
そして彼らの答えは、ブチャラティの期待を裏切らなかった。
この時は、まだ。

「もし、可能になったなら…ナチス研究所に来い。我々は、そこで待っている。」

ゆっくりと広がってゆく距離は、そのまま、心の距離となるのか。
3人はブチャラティの呼びかけにはもう答えず、差し込んだ夕陽と、コロッセオの壁が作り出す影の間に消えてしまった。

乾いた足音だけを残して。

【E-3 /1日目 夕方】

【新生・チーム露伴】
【岸辺露伴】
[スタンド]:ヘブンズ・ドアー
[時間軸]:四部終了後
[状態]:右肩と左腿に重症(治療済みだが車椅子必須)、貧血気味(少々)、若干ハイ
[装備]:ポルナレフの車椅子
[道具]:基本支給品、ダービーズチケット
[思考・状況] :
基本行動方針:色々な人に『取材』しつつ、打倒荒木を目指す。
1.荒木に取材を申し込むため、テレンスを探す。
2.早人も探してやってもいい。(荒木優先)
3.“時の流れ”や“荒木が時代を超えてヒトを集めた”ことには一切関与しない
4.ウエストウッドの死亡に責任を感じている。
5.隕石を回収……ああ、そんなのあったね

[備考]
※参加者に過去や未来の極端な情報を話さないと固い決意をしました。時の情報に従って接するつもりもないです。
 ヘブンズ・ドアーによる参加者の情報を否定しているわけではありません。 具体例は「知りすぎていた男」参照。
※名簿と地図は、ほとんど確認していません(面倒なのでこれからも見る気なし。ただし地図は禁止エリアの確認には使うつもり)
※傷はシーザーのおかげでかなり回復しました。現在は安静のため車椅子生活を余儀なくされています。
※第一放送、第二放送の内容を把握しました。仗助、康一、承太郎の死に関しては半信半疑です。
※ダービーズアイランドに荒木がいることを知りました。

※今のところ、億康にヘブンズドアーで命令を書き込むつもりはありません。理由は『あほの億康の世話になんかなりたくない』からです。
※この後どこへ向かうつもりかは、後の書き手さんにお任せします。

【シーザー・アントニオ・ツェペリ】
[時間軸]:ワムウから解毒剤入りピアスを奪った直後。
[状態]:疲労(大)、ダメージ(大)、ヘブンズ・ドアーの洗脳
[装備]:スピードワゴンの帽子。
[道具]:支給品一式、エリナの人形、中性洗剤。
[思考・状況] 基本行動方針:ゲームには乗らない。エシディシと、ジョセフたちを殺した者を殺害する。
0.爺さんの仇の息子…か。
1.荒木は当然だが、リサリサ、スージー、スピードワゴン、ジョセフの仇を探してぶちのめす。
2.精神的敗北から立ち直った。テレンスをブチのめしたい。
3.荒木の能力について知っている人物を探す。
4.女の子はできれば助けたい。
[備考]
※第一、第二放送内容を把握しました。
※ヘブンズ・ドアーの命令は『岸辺露伴の身を守る』の一つだけです。
※テレンスと会話をしました(情報の交換ではありません)
※参加者が時を越えて集められたという説を聞きました

【虹村億泰】
[スタンド]:『ザ・ハンド』
[時間軸]:4部終了後
[状態]:自分の道は自分で決めるという『決意』。肉体的疲労(中)、精神的には少々弱気。
[装備]:なし
[道具]:支給品一式。(不明支給品残り0~1)
[思考・状況]
基本行動方針:味方と合流し、荒木、ゲームに乗った人間をブチのめす(特に音石は自分の"手"で仕留めたい)
0.DIOの息子…だとよ…。クソッ、八つ当たりだが、俺はここにはいたくないッ
1.早人を探す。
2.露伴たちと行動を共にする。
3.エシディシも仲間を失ったのか……。こっちに危害は加えないらしいが。
4.仗助や康一、承太郎の意思を継ぐ。絶対に犠牲者は増やさん!
5.もう一度会ったならサンドマンと行動を共にする。
6.吉良と協力なんて出来るか
【備考】
※名簿は4部キャラの分の名前のみ確認しました。
※サンドマンと情報交換をしました。 内容は「康一と億泰の関係」「康一たちとサンドマンの関係」
 「ツェペリの(≒康一の、と億泰は解釈した)遺言」「お互いのスタンド能力」「第一回放送の内容」です。
※デイパックを間違えて持っていったことに気が付きました。誰のと間違ったかはわかっていません。
 (急いで離れたので、多分承太郎さんか?位には思っています。)
※参加者が時を越えて集められたという説を聞きました

!※!3人とも、荒木について書かれたブチャラティのメモの内容を把握しました。


※   ※   ※

「…ファンクーロ(くそくらえ)。」

沈黙していたブチャラティの唇からため息の様に漏れたのは、ひどく下卑た単語。
その言葉に驚いた様子のジョルノはブチャラティを見、気遣わし気に顔を覗き込む。

「ジョルノが誰の息子だろうと、関係ない。こいつはパッショーネの下っ端の、15歳のチンピラだ。俺の部下だ。彼らの身内には同情するが…」

ブチャラティは腕を組み、静かにではあるが憤慨した様子で一人ごちる。
ジョルノは彼の言葉を聞き、少し安心したような表情でふっと呼気をもらした。

「彼らは…多分、信頼できますよ。」

「わかっている。気まぐれ屋や直情型のようだがな。」

ブチャラティは緩やかに眉を吊り上げて、組んでいた腕を解き肩をすくめた。

「露伴はあくまでも取材、と言ったが、脱出をしたくないわけが無い。億泰とシーザーは言わずもがな、荒木に憎悪を抱いている。いずれ協力し合う事になる筈だ。」

ブチャラティの言葉にジョルノは頷き返し、ずっと黙ったままでいるジョージに言葉をかけようと、口を開きかけた。
だが、ジョージはそれを片手で制すと、ジョルノの両肩を掴んで己の近くに引き寄せる。

「…君は、ディオの子なのか。ああ、確かにどこか面影がある。立派な私の、孫だ。この目で見る事が出来るとは…」

ジョルノを見つめ、感慨深そうにそう言ったジョージの眼は輝きに満ちていた。

「え?いえ…その、僕は…ディオの、父親のことはよくわかりませんし、あの…」

ジョルノはそのあまりにもまっすぐな視線と、慈しむ様な言葉にまた驚いた顔をした後、ふいと目をそらしてしまう。
珍しく口ごもる彼にブチャラティも驚いた顔をしたが、その表情と少し赤くなった耳を見、ふっと笑みをこぼした。
ジョージは一瞬目を見開いたが、豊かな口ひげを蓄えた唇でにっと笑う。

「ハハ、そういう時は逆に考えるんだ、これから知ればいいさと考えるんだ、ジョルノくん。」

背中をとん、と優しく叩かれ、反動で前に一歩踏み出したジョルノを見てジョージはまた嬉しそうに笑った。
ジョルノは無表情で黙っていたが、自分を見つめるブチャラティの視線に気づく。

「気にしないでください。彼らは何も悪くない。今ここにいるディオだって…まだ見ぬ自分の未来にまで、責任は無いと…思います。」

「お前だって何も悪くない。それは分かってるんだろうな。」

「ええ…。」

(そう、君たちは何も背負わなくていい。私がやるべき事だ。親として、ディオとジョナサンの責任を取るのは私なのだから。)

ジョージは彼らの姿を見ながら思う。
全ての状況を把握した今、明るく振る舞うのも年長者の役割。
いたずらに深刻そうな顔で押し黙っては、彼らを暗くさせてしまうばかり。
本当は愛用の肘掛椅子におさまって、1日中憂鬱を持て余しても足りない程の衝撃を受けていた。
彼らに聞かされた2人の息子の行いは、人としてあってはならない事柄。

黙って2人を見ていたジョージは、ふと自分の方を見る視線に気付く。
視線の主、ブチャラティは申し訳なさそうにしながらも、その身には確固たる意志を匂わせていた。

「ジョースター卿。あなたのジョナサンを、俺達は……。」

「わかっているさ。そうなったら…早い者勝ちだ。ブチャラティくん。」

ディオが未来に、人間を辞める?ジョナサンが殺人を犯した?
そしてジョナサンが殺した青年の仲間が、今、目の前に。彼らはジョナサンに復讐を誓っている。

ならば問おう、その時、親としてできる事は何なのか。

答えはまだ無い。
2人に会えば分かる気がする。

(だから、私は行く。お前たちの元へ。)

そう考えて視線を落としかけた時、ジョージは遠くから近づいてくる微かな足音を聞いた。
彼は人差し指を唇の前に素早く立てると、全員の注意を促す。

2つの視線が己の指先に集まった事を確認すると、ゆっくりと指を動かし、足音のする方向を指差した。
ジョルノとブチャラティはすぐさまジョージを後ろへと庇うように立ち、スタンドを発動。
だんだんと大きくなるその足音は安定していない。
怪我を負っているかのように、不規則で緩慢な様子だ。

固唾をのんで音の方向を凝視していた3人は、石壁の作る陰から溶け出す様に現れた男を見た。
おかしな具合に曲がった腕を庇うように逆の腕で支えながら、下を向いて歩いている。
彼は腕の他にもひどく負傷しており、歩くのも難儀そうだ。

怪我だらけの来訪者は足元へ向けていた視線をゆらりと上ると、壁にもたれて立ち止まる。
そして痛みと疲労で汗ばんだ喉を震わせ、掠れた声で言った。

「スーツを着た爆弾のスタンド使いを…見なかったか。」

※   ※   ※

空はすでに藍から黒に染まりつつある。

意中の人物の情報が無いと判明してすぐに、リンゴォ・ロードアゲインは去ろうとした。
しかし、去ってしまう前に怪我の治療をしようとジョルノは進み出たのである。
リンゴォは拒否の意を示したのだが、情報交換を条件に治療されることに応じたのだった。

彼は初め、危険人物の名前だけを列挙し、伝えた。
だが治療の最中に、ジョルノ達は荒木についての予想や、現状で危険と思われる人物をリンゴォに教える。
少しでも荒木の事を多くの人間に伝えるためだ。
リンゴォはその情報の多さに、怪我の治療だけでは釣りが来ると、さらに自身が知り得た事柄を語り出し。

新たに知らされたのは、エシディシが殺し合いに乗った事、タルカスの最後、吉良の危険性、その能力の断片。
その説明の中でリンゴォは、吉良を殺すとはっきりと告げた。
すぐさま殺しをやめる様に説得しかけたジョージの言葉を、リンゴォは首を振って遮り。

誰が彼を止められるのだろう。彼の世界には、誰一人干渉する隙などないのだと、ジョージは悟ったようだった。
為ん方無いと、口惜しく思っている様子ではあったが追求を諦めていた。

そして。

(ディオは…スタンド使いになった。なってしまった。)

能力の詳細は不明。発現に至った経緯も、プッチが関わっていた事以外は不明。
己のコンプレックスを克服した彼が、次にどのような行動に出るのか、想像に難く無い。

(すぐに動くだろうか、彼は?)

十分あり得る話だ。
だが、むやみやたらに動き回る様な事はしない筈。
リンゴォによればプッチを目の前で殺された時、エシディシの異常な力を目の当たりにしている彼。
いくら頭に血が上っているとしても、そう軽率に動くとも思えない。
何よりも、今、自分達がディオの元に行ったところで何ができる?
首輪解除という手土産を持ち、冷静な話し合いに運んだほうがまだ先が明るい。

(僕の、父さんなんですね。あなたは。…死なないでほしい。それだけは、思う。)

ジョルノは手に持った地図をぐっと握りしめる。

話し終えたリンゴォは、あの異様に丁寧な挨拶をし、何処へともなくコロッセオから立ち去った。
ジョルノ達も既に、ナチス研究所への道を進んでいる。
首輪解除が最優先事項の今、特別懲罰房は後回しになったのだった。

彼等は口数少なく、時々空を見上げたり、地図を確認したりしながら歩いていた。
詳細な話し合いも、意見交換もまだできていないが、誰も口に昇らせなかった。
死者を悼み、思い出を反芻する時間が、まだ見ぬ未来に挑み、自分の心と葛藤する時間が、どうしても必要なのだ。
話さずとも、皆、そう思っていることをお互い理解できた。

見上げれば、今にも沈み切らんとする夕陽のわずかな光と、夜の闇の境が美しい赤瑠璃色で。
空における色彩の交わりは互いを拒まず、妙なる調和の果てにその美を得る。
ジョルノはその様を直視しきれず、自分の足元を見下ろした。

(僕達の運命は、混じり合った果てに何になるのだろう。)

目的の場所へと向かう3人の影の間を、寂寞たる夕風が吹き抜けて行く。

【E-3 コロッセオ出口/1日目 夕方】
【ブローノ・ブチャラティ】
[時間軸]:護衛指令と共にトリッシュを受け取った直後
[状態]:トリッシュの死に後悔と自責、アバッキオとミスタの死を悼む気持ち
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、シャーロットちゃん、スージーの指輪、スージーの首輪、
   ワンチェンの首輪、包帯、冬のナマズみたいにおとなしくさせる注射器
[思考・状況]
基本行動方針:打倒主催、ゲーム脱出
0.スージー、すまない…
1.ナチス研究所へ行く。
2.いずれジョナサンを倒す。(殺害か、無力化かは後の書き手さんにお任せします)
4.フーゴと合流する。極力多くの人物と接触して、情報を集めたい。
5.ダービー(F・F)はいずれ倒す。
6.ダービー(F・F)はなぜ自分の名前を知っているのか?
7.スージーの敵であるディオ・ブランドーを倒す
[備考]
※パッショーネのボスに対して、複雑な心境を抱いています。
※波紋と吸血鬼、屍生人についての知識を得ました
※ダービー(F・F)の能力の一部(『F・F弾』と『分身』の生成)を把握しました。
※参加者が時を越えて集められたという説を聞きました
※ブチャラティが持っている紙には以下のことが書いてあります。
①荒木飛呂彦について
 ・ナランチャのエアロスミスの射程距離内いる可能性あり
  →西端【B-1】外から見てそれらしき施設無し。東端の海の先にある?(単純に地下施設という可能性も) →G-10の地下と判明
 ・荒木に協力者はいない?(いるなら、最初に見せつけた方が殺し合いは円滑に進む) →協力者あり。ダービー以外にもいる可能性があるかもしれない。
②首輪について
 ・繋ぎ目がない→分解を恐れている?=分解できる技術をもった人物がこの参加者の中にいる?
 ・首輪に生死を区別するなんらかのものがある→荒木のスタンド能力?
  →可能性は薄い(監視など、別の手段を用いているかもしれないが首輪そのものに常に作用させるのは難しい)
 ・スティッキィ・フィンガーズの発動は保留 だか時期を見計らって必ず行う。
③参加者について
 ・知り合いが固められている→ある程度関係のある人間を集めている。なぜなら敵対・裏切りなどが発生しやすいから
 ・荒木は“ジョースター”“空条”“ツェペリ”家に恨みを持った人物?→要確認
 ・なんらかの法則で並べられた名前→国別?“なんらか”の法則があるのは間違いない
 ・未知の能力がある→スタンド能力を過信してはならない
 ・参加者はスタンド使いまたは、未知の能力者たち?
 ・空間自体にスタンド能力?→一般人もスタンドが見えることから

【ジョルノ・ジョバァーナ】
[スタンド]:『ゴールド・エクスペリエンス』
[時間軸]:メローネ戦直後
[状態]:健康、精神疲労(中)、トリッシュの死に対し自責の念
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、不明支給品0~3
[思考・状況]
0.僕は去っていく彼らに、何もできなかった…
1.ナチス研究所へ行く
2.『DIO』は吐き気を催す邪悪なのでは?今のディオをその事で責めるのは間違いだとは思うが…
3.トリッシュ……アバッキオ…ミスタ…!
4.ディオが自分の父親、か…→未来のDIOには不信感。
5.エシディシと吉良と山岸由花子をかなり警戒

[備考]
※ギアッチョ以降の暗殺チーム、トリッシュがスタンド使いであること、ボスの正体、レクイエム等は知りません。
※ディオにスタンドの基本的なこと(「一人能力」「精神エネルギー(のビジョン)であること」など)を教えました。
 仲間や敵のスタンド能力について話したかは不明です。(仲間の名前は教えました)
※彼が感じた地響きとは、スペースシャトルが転がった衝撃と、鉄塔が倒れた衝撃によるものです。
 方角は分かりますが、正確な場所は分かりません。
※ジョナサンを警戒する必要がある人間と認識しました。
※参加者が時を越えて集められたという説を聞きました
 (他の可能性が考えられない以上、断定してよいと思っています。ただし、ディオが未来の父親であるという実感はありません)
※ラバーソウルの記憶DISCを見、全ての情報を把握しました。
※ダービーズアイランドに荒木がいることを知りました。
※ディオがスタンド使いになった事を知りました(能力は分かっていません)

【ジョージ・ジョースター1世】
[時間軸]:ジョナサン少年編終了後
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:なし
[思考・状況] 憂鬱
基本行動方針:ジョナサンとディオの説得
0.尊い命が散っていく…
1.ディオが、ジョナサンが…私の息子たちに一体何があったというのだッ…!
2.首輪解除のため、ナチス研究所へ。
3.機を見てディオとジョナサンを探す。例え単独でも。
4.孫に会えてうれしい
[備考]
※第一、第二放送内容を把握しました。
※テレンスと会話をしました(情報の交換ではありません)
※参加者が時を越えて集められているという話を聞きました。

【リンゴォ・ロードアゲイン】
[スタンド]:マンダム
[時間軸]:果樹園の家から出てガウチョに挨拶する直前
[状態]:身体疲労(中)、エシディシに対し畏怖の念
[装備]:ジョニィのボウィーナイフ
[道具]: 基本支給品 不明支給品0~2
[思考・状況]
基本行動方針:参加者達と『公正』なる戦いをし、『男の世界』を乗り越える
1.吉良を探すため、移動する。見つけ次第吉良に復讐する。
2.遭遇する参加者と『男の世界』を乗り越える。
[備考]
※怪我はゴールド・エクスペリエンスで治療されました。
※ブチャラティのメモの内容を把握しました。
※参加者が時を越えて集められているという話を聞きました。(その事についてどう考えているかは、後の書き手さんにお任せします)
※この後どこへ向かうかは後の書き手さんにお任せします。


投下順で読む


時系列順で読む


キャラを追って読む

168:プロモーション・キング(前編) ジョージ・ジョースター1世 184:『因縁』同士は引かれ合う
168:プロモーション・キング(前編) シーザー・アントニオ・ツェペリ 192:迷える奴隷 その①
168:プロモーション・キング(前編) 虹村億泰 192:迷える奴隷 その①
168:プロモーション・キング(前編) 岸辺露伴 192:迷える奴隷 その①
168:プロモーション・キング(前編) ジョルノ・ジョバァーナ 184:『因縁』同士は引かれ合う
168:プロモーション・キング(前編) ブローノ・ブチャラティ 184:『因縁』同士は引かれ合う
173:For no one - 誰がために?(前編) リンゴォ・ロードアゲイン 193:不帰ノ道

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:

このサイトはreCAPTCHAによって保護されており、Googleの プライバシーポリシー利用規約 が適用されます。

最終更新:2010年11月24日 20:26