[+00:00:50] [-00:04:44]
私がこれからの前途を憂鬱に思う気分で歩いていた時だった。
後方から、轟音が耳に飛び込んできた。
私が扱う『キラークイーン』で人間を爆破させた時のような、そんな音が。
驚き、振り向いた私の視界に映ったモノ。
それは私にとっても信じ難い光景だった。
あの『康一』のチビがケムリ噴かせて、あられもない姿でくたばっているという光景が。
「――――――康一ィィィイイイイイイイイイイイーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッッッッ!!!!!」
クソッタレ仗助が情けない声を出して走ってきた。
その御自慢のスタンドで康一を治すみたいだが、どうみてもソイツは『即死』だ。
良いザマだなと笑ってやりたくなる衝動をどうにか抑え、私は平静を繕う。
そして疑問が頭を駆け巡った。当然、康一の『死因』だ。
言うまでもない事だが、私がやったのではない。
私が爆弾に変えて人質にしているのは『アイツ』なのだ。康一ではない。
ある意味では私の目的が半分成就されたようなラッキーだが、ここで「バンザーイ」と喜ぶほど能天気でもない。
『誰か』が康一を狙って殺した……? しかしその理由は?
「おい! 今の音は何だッ!? 何があった……―――ッ!!」
私がその場で思考を続けていると慧音さんたちも駆け寄って来た。
いや、待て……。この状況、少しマズイかも知れない……!
康一の損壊状態はどうも『爆弾』で吹き飛ばされたようだ。
一応、私も爆弾のスペシャリストではある。十中八九、康一は『爆死』だ。
それを仗助が見たらどう思うだろうか。
誰かを『爆弾』にしていることを知っている仗助が、今の康一を見たら。
いや、仗助だけでなく、あのにとりとかいうガキも私の正体を知っていた節がある。
―――この『惨状』を、私の仕業だと勘違いするかもしれない……!
そうなれば非常にマズイ……!
しかし、それを危惧していた次の瞬間、とんでもない台詞が私に飛んできた。
「吉良吉影ッ!!! アンタが……アンタが康一を爆弾で殺したのねッ!!!」
―――何だって……?
確かコイツはええと、
封獣ぬえとかいうガキ。いや名前などどうだっていい。
今、このガキは私を指差して何と言ったんだ……?
コイツが叫んだ言葉の意味が一瞬理解できなかった。
それだけではない。次にこのガキは更にブッ飛んだことをぬかしやがった。
「みんな聞いてッ! 今までずっと涼しい顔してたこのスカしたブタ野郎の正体はッ!
『人や物を爆弾に変える能力』のスタンド使いッ! イカれた『殺人鬼』なのよッ!!」
「――――――………っ」
息が止まった。
私の『正体』がバレていた、だとォ……ッ!?
仗助ェェ……ッ! いや康一のクソチビが話したのか……ッ!!
とにかく、このガキの口を止めなければ……ッ!
だが、どう誤魔化すべきか言いあぐねる私に更なる口撃が飛び込む。
「この男は普通の一般人を装って、陰から私たちを殺すチャンスを伺っていたのよッ!
その証拠に康一も爆弾で殺されたッ! コイツはゲームに『乗って』いたのッ!!」
「なっ……! 何を突然言い出すんだぬえさん! 私がスタンド使いなワケが……ッ!」
「嘘ッ! 私見てたんだから! アンタがホテルで仗助と康一と会話してる所を陰からッ!
アンタが爆弾のスタンド使いで、どーしようもなくクレイジーな人殺しだって会話をねッ!」
「グ………ッ!?」
まさか『あの』会話を見られていたとは、最大のミスだ。
どうする……これでは言い逃れようが……ッ!
しかし、何かがおかしい。
全く辻褄が合わないのだ。
―――そもそも、
「待てッ! 私は
広瀬康一を殺してなどいないッ!! 何かの間違いだッ!!」
これは本当だ。
康一が死んでくれたのは本当に嬉しいが、その罪を私に擦り付けられてはたまらない。
「へえ!? 殺人鬼の言うことなんて誰が信じるものかしら! 仗助も言ってやってよッ!
この男はアンタと康一の『敵』で、正真正銘の『殺人鬼』だってことをッ!」
こ…、のメスガキがァァ……ッ!
人が下手に出ていれば有ること無いこと適当ほざきやがってッ!
仗助の次はお前から消してやろうか! その珍妙な羽根を毟って博物館に寄贈してやるぞッ!
……などという憤慨こそあったが、私はどうやらまだギリギリ理性を保つことが出来ている。
落ち着け……落ち着くんだ吉影……! まだ、何とか誤魔化す事は出来る筈だ!
このメスガキをキラークイーンで木っ端微塵にしてやりたい衝動を抑えて、ここは慧音さんを頼ろう。
彼女のクソが付くぐらい真面目な正義感ぶりならば、私を庇ってくれるかと期待したからだ。
しかし予想に反して、何故か慧音さんの反応が良くない。
まさか彼女ともあろう者までもが、こんなガキの妄言を信じているというのか。
「―――無駄よ、吉影。貴方の仮面の裏に隠してきたという『本性』……。既にここに居る全員が知っているわ」
「―――――――なに?」
………全員?
私が長年隠してきた『本性』が、よりによってコイツら全員に知られているというのか?
「ニッブい男ねアンタも! アンタの正体はホテルの中で、とっっっっくの昔に皆にバレてたって言ってんのよ!」
天子とかいう生意気なガキまで一歩踏み出し木刀を向けてきた。だがそんなことはどうでもいい。
私の正体が既に全員にバレて、いた……ッ!?
―――仗、助ェェエエエ………ッ!! キサマ、まさか全員に話したというのかッ!!
心の中が怒りに満ちてくるのを感じる。
どうやら仗助のアホ頭は人質の意味を理解していなかったらしい。
パチュリーや天子、慧音さんまで私の周りを囲んで戦闘の態勢を作ってきた。
もうなりふり構っていられない。
私は一般人の仮面を脱ぎ捨て、とうとうキラークイーンを出現させた。
ハッキリ言って、相当頭にキテいる。
だが、まだ『詰み』ではない。
「ク……ソカス、どもめェェ……ッ! だがひとつ忘れているぞ……!
私はお前たちを既に『爆弾』にしているということをッ! そこから一歩でも近づいてみろッ!
その瞬間、私は躊躇無く『スイッチ』を押すッ! 木っ端微塵にしてやろうッ!」
人質はまだ生きている。
殺してやる……ッ! 殺してやるぞ……ッ!
「ハン! クソカスなのはアンタの腐れ脳みその方じゃないの?
アンタの能力『キラークイーン』の爆弾化は『一度に一つ』まで。知ってるのよ!
だから“康一を爆弾にし、爆破した”今! アンタに残ってる『人質』なんていう札は既に無いのよッ!!」
……! そこまで、知られているだと……ッ
関係あるか……ッ! お前たちが私に攻撃するなら私もそれに対応せざるを得ないぞッ!
確実にひとり、いや『ふたり』は瞬殺出来る。だが、しかし……
キラークイーンはそもそも基本的に手で触れなければ攻撃できないし、爆弾にも出来ない。
これだけの相手を同時に相手するのは……正直、厳しい。
―――大事を取って、人質は爆破しておくか。
キラークイーンの爆破スイッチを指に掛ける。
押すのにコンマ1秒と掛からない。だが問題はその後だ。
どうやってこの場を切り抜ける? 逃げるというのも足が付く。出来れば全員始末したい。
畜生めッ……! どうしてこんなことになってしまった……!?
……ダメだ! どう考えたって切りぬける方法が分からない!
クソがッ! この吉良吉影が切りぬけられなかったトラブルなど一度だって無いんだッ!
来る……! 天子の奴が来るぞ……ッ!
もう…駄目だ……ッ! とにかく『人質』を爆破しなければ『第一の爆弾』は使えないッ!
『限界』だッ! 押すねッ!
「――――――………クレイジー・ダイヤモンド」
キラークイーンの指がスイッチに掛かったその瞬間。
私にとってどこまでも憎々しい声が鳴った。
▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽
[+00:03:12] [-00:02:22]
どうやら、状況が変わってきている。
まさしく一触即発の状況でこの場が爆発するその瞬間。
コイツは、言った。
「康一を殺しやがった奴は――――――吉良じゃねえ」
まさか敵である仗助の奴が庇ってくれるようなことを言い出すとは、正直驚いた。
コイツにとっても私は敵の筈だが、だからと言って友人を殺した『真犯人』を見つけられぬまま私を倒すのは自分でも許せなかったのか。
そう、『真犯人』だ。康一を殺したのは私ではないのだから、他に殺した奴がいる筈だ。
あろうことかそいつは私にこのまま罪を擦り付けようとしている。
それを考えたら私はまた、無性に腹が立ってきた。
仗助にそれを気付かされるというのは、それはそれで腹の立つことではあるが。
そしてその仗助はお得意のクレイジー・ダイヤモンドで実演して見せた。
爆弾の『破片』が復元され、元通りの形に戻っていくマジックを。
それらは段々と原型への逆行を開始し、最終的には手のひら大の鉄の箱……
つまりひとつの『爆弾』が完成したということだ。
ここからは私も冷静を取り戻していった。
少なくともこれで私が『冤罪』だったということにはなりそうだ。
ここでひとつの当然な疑問が生じる。
じゃあ一体、康一を殺した奴は誰なのか?
私に罪を着せようと画策した卑怯者は誰だ?
まさかそいつはどさくさに紛れて私を『殺そう』などと思ったのではないだろうな?
―――許せん。そいつが私の『平穏』を乱した輩なのか……!
そして、『真犯人』は思ったより早く特定できた。
「……にとりちゃん。その『手』についてなんスけど、どうしてそんなに油で『汚れて』るんです?
まるで――『何か』を作った痕みたいっスよね。例えば―――」
「 違 う ッ ッ ! ! ! 」
河城にとり。
反応で分かった。コイツで決まりだ。
この河童のガキが、私を陥れようとしたのか。
「この汚れは……! ど、『泥』だよ! さっき転んじゃって、そのせいで……!」
醜い。
「違うッ!! 私はスイッチなんか『押していない』ッ!!
康一を殺したのは私じゃないッ!!! 信じてくれ……っ」
醜い……!
「殺してなんかないッ!! なあパチュリーもなんか言ってやってくれよッ!!
お前、嘘がわかるんだろッ!? 私が誰も殺してないってこと、わかってるんだろおおッ!!」
醜い醜い醜い……ッ!
私は『闘い』が嫌いだ。
『闘争』は私が目指す『平穏な人生』と相反しているからだ。
だからこの『バトル・ロワイヤル』とかいう胸糞悪いゲームでも、極力地味で目立たぬよう行動したかった。
仗助と康一はいずれ始末するつもりだったが(康一は死んだがな)、それ以上の波紋を拡げるつもりは無かった。
―――無かったというのに、このクソガッパはッ!! あろうことかこの私に罪を擦ろうとしたッ!!
いや、それどころかまさかコイツはッ!
あの爆弾はそもそも私を殺すために用意したのではないだろうなッ!?
コイツが康一を殺すメリットは殆どない。そしてコイツは私の正体を知っていたのならッ!
私を『排除』するため、爆弾を仕掛けようとしたのならッ!
私はコイツを許せないッ!!
だが―――だが、キレるな吉影……ッ!
落ち着けよ……。怒って我を忘れると碌な結果が起きない……ッ
ここは……ここは……冷静に……ッ
冷静に……ッッッ
「け、慧音……っ! アンタ、先生なんだろっ!? 子供たちに道徳を説く、立派な人なんだろうっ!?
だったら信じろよッ! 私がこんなに言ってるんだッ! 信じてくれたっていいじゃないかッ!! ねえったら!!
夢美もッ! さっきからなに黙ってンだよッ!? アンタも私を疑ってるのかッ! どうなのさ!?
オイ天子! お前も何か言ってやれよッ! お前さっきまで吉良を疑ってたろッ! もう心変わりか!? なあッ!!
吉良ッ!! この……人殺しめッ!! 元はといえばお前のせいじゃないかッ!! 全部お前が悪いんだッ!!
何とかしろよッ!! 皆して私を疑ってるのかよッ!! なあッ!? なんだよその目はッ!!
康一は私を信じてくれたぞッ!! 康一だけだッ!! アイツだけが私に最後まで優しかったッ!!
私じゃないッ!! 私はやってないッ!!! 頼むよッ!! なあ みんなぁ――――!
――――――わたしを、信じてくれよぉ…………」
(――――――なれるか)
[+00:05:33] [-00:00:01]
―――カチリ―――
ド グ ォ オ オ ン ッ ッ ! ! !
【河城にとり@東方風神録】 死亡
【残り 64/90】
▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽
[+00:05:42] [+00:00:08]
―――この吉良吉影が人質と称して『爆弾』にしていたのは、河城にとりだった。
私は最初、仗助に対しこう説明した。
『仗助…お前がさっき我を見失って暴れていた時に少し『細工』させてもらったよ』と。
そんなものは奴を撹乱させるための『嘘』だ。
私が動いたのはそれよりももっと前。
パチュリーから連れられたホテルの部屋に入り、康一どもと合流したその時だ。
奴らは友人と再会できた嬉しさで気が緩んだのだろう。
私もその場に康一の奴が居て驚いてはいたが、その『隙』を狙ってやった。
康一の近くでマヌケそうに突っ立っていたにとりをキラークイーンで触れたのだ。
奴とより近そうにいる関係の相手を人質に取れば、後々脅しやすくもなる事を考えてだ。
だが、にとりを人質に選んだのは『幸運』だったのかもしれない。
第一に、簡単に私の気を晴らすことが出来たからだ。
結果的にはにとりは、どういう経緯があったのか知らんが康一を殺した。
そして私はそのことで周囲から疑われ、抜きさしならない状況に陥った。
私の平穏が完全に乱されたのだ。許せるわけがない。
だから『スイッチ』を押した。奴を粉々にして私の気もスッキリしたかったというワケだ。
そして第二に、彼女を殺すことは必ずしも私が凶行に走ったと周囲から捉えられるとは限らない。
何故ならにとりは、私が言うのもなんだが『殺人者』だったからだ。
チームの中の良心とでも言える広瀬康一を、その手で爆破した人殺し。それが河城にとりの本性といった所か。
その罪深きにとりを“裁いてやった”私は、果たしてそこまで責められるべき『悪』か?
しかも康一は仗助の大切な友人。仗助としてもにとりに対し並々ならぬ思いを向けていただろう。
だが、正義感ぶった仗助は恐らく次にこう言う。
「吉良ァァァアアアアアアアアーーーーーーーーーーーーーーーーッッッ!!!! テ、メェ~~~~~~ッ!!!」
ほうらな。分かりやすい直情バカだ。
だがにとりを粉々にしてやったことで私のアツくなった頭も若干スッキリ冷えてきた。
さてさて、しかし肝心なのはここからだ。
私は依然、この窮地を脱したとは言い難い。
今度こそ冷静になって話を進めるのだ吉影よ。
そう、『話』をするのだ。ここで戦うことは誰にとっても『吉』とはならない。
まず私はスタンドを引っ込め、出来るだけ落ち着いた声で怒れる獅子を宥める。
「落ち着けよ仗助。そのイカした(イカレた)髪型が乱れているぞ?
見ての通り、私が人質にしていたのはにとりだ。彼女を爆弾に変えていた。
だが康一を殺したのもまたにとりだ。私はその危険人物であったにとりに『罰』を与えただけだぞ。
いわば『正当防衛』とも言える。彼女はもしかすれば私を殺すつもりなのかもしれなかったのだからな」
「ぬかせッ!! まだにとりの奴が殺したとは決まってねえだろーがッ!!!」
「ンン? そのにとりを『追い詰めた』のは一体誰だったかな?
お前は康一を殺された怒りで彼女を追い詰めようとした。違うか?」
「そ、それは………ッ!」
どうやら図星のようだ。
強力なスタンド使いとはいえ、やはりガキ。
後先考えず、その場その場の思いつきで行動するからこんな羽目になる。
「だが私は実を言えばお前には感謝しているぞ、仗助。
あわや康一殺害の罪をにとりから被せられる所だった。そこをお前が真犯人を見つけてくれたのだ。
いや、本当に危なかったんだ。お前が居なければ私は今頃、再起不能ぐらいにはされていただろうからな」
「……………………クッ!!」
そう喚いた仗助は拳を一発、実に悔しそうに地面に打ち込んだ。
最高だった。もはや先程の絶望感も彼方へ吹っ飛んでいった。
私がそうやって優越に浸っていると、慧音さんが私を見咎めるように口を挟んできた。
「吉良さん。そんな言い方はあんまりだろう。仗助君は親友を亡くしたばかりだ。
それににとりに対する物言いだって目に余る。彼女は最後まで『信じてくれ』と訴えかけていた。
そんな彼女をまるで人殺しのように非難するのは惨いというものだろう。もしかしたらにとりは康一君を―――」
「―――『事故』…で殺してしまったのかもしれない、と?」
「………っ!」
「言わせて貰うが慧音さん。いや、本当に私が言うのもなんなんだがね。
『事故』だろうとなんだろうと、あの爆弾はにとり少女の紛れも無い『殺意』の表れではないかね?
しかも下手をすれば死体として地面に転がっていたのは康一君ではなく『私』の方かもしれなかったのだ。
そんな文字通りの『爆弾』をあのままチームの中に潜ませていたら、それこそもっと大変な『悲劇』が起こったのかもしれない」
「ッ! だ、だが何も聞かずにいきなり爆破するなど―――」
「失礼だが慧音さん! ……いや慧音さんだけではない。
にとりさんが『信じてくれ』と必死な表情で訴えかけていた時、ここの皆は彼女をどう思っただろうか?
……私の目には誰も彼もが『お前がやったのか』『どうして康一を殺したんだ』と言っているように見えたよ。
本音では、誰一人にとりさんを信じている者は居なかった。……康一君は違ったかもしれんがね」
今度こそ慧音さんも、その他の奴らも皆して口を黙らせた。
やはり皆してにとりを人殺しだと決め付けていたんじゃあないか。
フン……実にくだらん。何が『信頼』だ。
結局のところ、私たちは互いのことを何一つ知らない『紛い物の結束』だったというワケだ。
力ばかり寄せ集めようと、知恵を出し合おうと、いくら要塞のような集団を作ろうと……
―――所詮は『藁』で出来た要塞だ。ほんの少しの天候の悪化で吹き飛ぶような。
「それで―――どうするかね? さっきの続きとして、私を皆で襲うかね?
私自身はそれでも構わないのだが、やはり本音では戦うことはしたくない。
そこでだ……。ひとつ『交渉』をしようではないか」
「交渉……だと? テメエ……! 何考えてやがる……ッ!」
「にとりさんは康一君を殺した。私はその罰としてにとりさんを殺した。
各々不本意な所はあるだろうが、これでひとまず話を丸く『収めよう』じゃあないか……!
しかも私は既に人質を失っている。お互い『イーブン』な立場ということになる。
私とてこのままチームから追い出されるというのは難点が大きい。再起不能にされるなど以ての外だ」
私は大仰に両手を広げ、次の台詞のために息を溜めた。
ひと呼吸の間を置き、仗助を見下ろして言ってやる。
「お互い今までの確執を水に流し、再び私を『仲間に迎えて』欲しい」
吐き出した台詞を自分の中でもじっくりと噛み締め、返答を待った。
プ ッ ツ ー ー ー ン 、と。
張った弦が切れたような、そんな音が聞こえた気がした。
しかも、二方向から。
「ザッッッッッッッケんじゃねえッッッッッッ!!!!
どのツラ下げてそんな台詞吐けるんだコラァアアーーーーーーーーーーーーッッッッ!!!!」
「ザッッッッッッッケんじゃないわよッッッッッッ!!!!
どのツラ下げてそんな台詞吐けるのよアンタはァーーーーーーーーーーーーッッッッ!!!!」
プッツン仗助と、プッツン天子が同時に私へと吼えた。
仗助は予想していたが、まさかこの女もここまで短気だとは……。
「仗助ッ! アンタは黙ってなさいッ! コイツみたいな危なっかしい輩は私が吹き飛ばしてやるわ!」
「天子さんこそ後ろ引っ込んでてくださいよ……! 元々吉良のヤローは俺の因縁の相手でもあるんスッ!」
「主の命令よッ! 下僕はそこで指咥えて見てりゃあいいのよッ!」
「ケンカってのはよォーー、まず舎弟の方から出るモンじゃあねぇっスかねー?」
「私に逆らうっての!!」
「なんすか!!」
「なによ!!!」
……コイツらアホは一体どうしてこの状況で喧嘩できるんだ? これでは話が進まないだろう。
「……いいわ。仗助、アナタにも納得できる解決法を提示してあげる」
「ほォーー奇遇っスねーー。実は俺も同じ事考えてたんスけどねーー」
「へえ? いいわ、それなら一緒に言い合いっこしましょう」
「いいっスよ。それじゃあ……せーーのっ―――」
「「――――――ふたりで一緒にコイツを地の果てまでブッ飛ばすッッッッ!!!!」」
な……ッ!? なんでそうなるんだ、この脳筋どもが……ッ!
くそ……ッ! この馬鹿どもでは話にならん! 誰か話の通じる柔らかい頭の相手が好ましいが―――!
「―――おやめなさいな、仗助。天子も」
危うくスタンドを出しかけた私の耳に届いた声の主は、
▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽
[+00:00:58] [-00:04:36]
『パチュリー・ノーレッジ』
【午前7時13分】
参った。出発を目前にしてこの『アクシデント』……本当に参ったわ。
やっぱり『9人』というのは多すぎた。私ではとても制御し切れなかった。
康一が死んだのを見て最初に思ったことが、それだった。
あの時、情けなくも私は事態の把握に頭が追いついていなかった。
何故康一が死んだ?
誰が康一を殺した?
彼は直前までにとりと話していたみたいだけど、まさか彼女が?
しかし理由が無い。康一を殺すメリットがあるのは現状、吉影だけだ。
死因も爆死みたい。爆死といえばやはり吉影が怪しいけど…
何故、今? このタイミングで?
事故? それとも故意に?
私のミス? 防げた災難だった?
吉影が爆弾にしていたのは……実は康一だったの?
もっと周りをよく見ていれば康一は死ななかった?
どうして? どうして? どうして? どうして? どうして?
荒波のように襲い来るクエスチョンを、処理しきれなかった。
マズイ……! 良くない兆候だ……!
ここは冷静にこの場の『真実』を見極めないと、取り返しが付かなくなる。
そう判断し、何か言うべき言葉を発そうとした次の瞬間、思いがけない人物が口を開いた。
「吉良吉影ッ!!! アンタが……アンタが康一を爆弾で殺したのねッ!!!」
ぬえ……!?
貴方、まさか―――!
「みんな聞いてッ! 今までずっと涼しい顔してたこのスカしたブタ野郎の正体はッ!
『人や物を爆弾に変える能力』のスタンド使いッ! イカれた『殺人鬼』なのよッ!!」
馬―――鹿っ……!
そんなことは知っているわよ!
それを『今』! 吉影の目の前で言ったりしたら……ッ!
「え……えぇ~~~ッ!? 吉良さんがさ、さ、さ、『殺人使い』で、『スタンド鬼』ッ!?
爆弾って……どういうことぬえちゃんッ!?」
違うアンタはどうだっていい! 少し引っ込んでなさい!
っていうより、どうしてぬえが吉影の正体を知っているの……!?
仗助が吉影の正体を私たちに話した時、ぬえは居なかった筈だけど……
「この男は普通の一般人を装って、陰から私たちを殺すチャンスを伺っていたのよッ!
その証拠に康一も爆弾で殺されたッ! コイツはゲームに『乗って』いたのッ!!」
「なっ……! 何を突然言い出すんだぬえさん! 私がスタンド使いなワケが……ッ!」
「嘘ッ! 私見てたんだから! アンタがホテルで仗助と康一と会話してる所を陰からッ!
アンタが爆弾のスタンド使いで、どーしようもなくクレイジーな人殺しだって会話をねッ!」
仗助たちと吉影の会話を覗いていた……!?
確かにそれならぬえの強気な姿勢もわかる……でも、待って。
じゃあつまり、ぬえは『知らない』……?
私がこの後、吉影を『説得』して何とか味方に引き込もうと考えていることを!
ヤバイわね……! かなり、困ったことになった……っ
ぬえは自棄っぱちになっている。今ここで吉影を殺そうと、私たち全員を巻き込んで。
だからこうも強引に吉影を刺激している……。
いえ……でも康一が『爆弾』で、たった今吉影が人質を失ったのなら……!
彼を倒すチャンスは『今』……!
でも、『何か』がおかしい。わからないことが多すぎる。
康一はそもそも何故死んだ? 本当に吉影の仕業なの?
「…まぁいいわ。とにかく吉良! ただひとつ言えるのはアンタは私たちの『敵』!
これからどういうことが起こるのか、理解できてるんでしょうねッ!」
く……っ! ぬえがこれ以上、吉影を挑発するとマズイ!
……仕方ない、か。予定が大幅に変わるけど……
「―――無駄よ、吉影。貴方の仮面の裏に隠してきたという『本性』……。既にここに居る全員が知っているわ」
「―――――――なに?」
今、ここで吉影を再起不能にするしかない……ッ!
スペルカードの準備を整え、私は吉影の前に踏み出た。
吉影の説得はもう無理ね……。
納得できないけど、彼にはここで御退場してもらう。
「ばっ……馬鹿! やめ―――!」
天子が吉良に駆け行った時、誰かの声が場に響いた。
その叫びがにとりのものだと気付いた瞬間、
「――――――………クレイジー・ダイヤモンド」
仗助の覇気の無い声が響いた。
▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽
[+00:03:35] [-00:01:59]
仗助のおかげで康一を殺したのは吉影ではなく、にとりだと判明した。
私は正直な所、それでも疑問は尽きない。
どうして彼女が康一を殺すに至ったのか。その殺意の根幹が掴めない。
いや……結局、それは『事故』だったのでしょう。
にとりが殺そうとしたのは康一ではない。
そして吉影でもない。
―――彼女が殺そうとしたのは、きっと……『私』。
にとりは私に対して明らかに『敵意』、みたいなものを抱いていた。
と言っても、それは周囲を飛び回る蝿を鬱陶しがるような、そんな些細なものだったのかもしれない。
だからと言って、まさか彼女が私を殺そうとするまでは思いもしなかった。
にとりの『気持ち』を、計り違えていた。
もしかしたら死体になっていたのは康一ではなく、私だったのかもしれない。
胸を撫で下ろす気持ちね……。あわや死ぬ所だった。
不謹慎にも、私はそんなことを考えていた。
でも、わからない所がまだある。
「殺してなんかないッ!! なあパチュリーもなんか言ってやってくれよッ!!
お前、嘘がわかるんだろッ!? 私が誰も殺してないってこと、わかってるんだろおおッ!!」
「………………っっ」
にとりが恐怖に歪んだ表情で私に助けを求めてきた。
確かに私には相手の『嘘』の気を読む力がある。
その私を以ってしても、今のにとりの気持ちがわからない。
彼女の心は今やグチャグチャ。混濁としていてあらゆる気が混ざり合っている。
にとりは今、非常に混乱している。
康一を殺したのは『自分ではない』、『自分なのかもしれない』……そんな矛盾した二つの気持ちが垣間見える。
ああ……なんだか私もわからなくなってきたわ。
少なくともにとりは私を殺そうとあの爆弾を用意したのは間違って無いと思う。
その対象が何らかの原因により、私から康一に移ったというだけで、にとりは間違いなく『危険人物』だった。
所謂『殺人者』と言うべきかも知れない。
だって、そもそも爆弾を起動できたのはにとりだけで、康一が爆弾により死んだというのならば。
やっぱり康一を殺したのは河城にとりだった。そういうことになる。
その事実に、故意も不本意も関係ない。
にとりの処遇を考えていた私の耳に、
―――カチリ―――
そんな、不吉な音が聞こえて、
河城にとりは目の前からいなくなった。
▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽
[+00:06:26] [+00:00:52]
吉影が爆弾に変えていたのはにとりだった。
この『爆弾』という言葉には色んな意味が含まれているのだけど、とにかく吉影は今…人質を失っている。
それにこれは絶対誰にも言えないようなことなんだけど……
にとりが死んだことで、私は少しホッとした。
彼女は間違いなくチームに亀裂を入れかねない『因子』で、
実際、にとりのせいで康一が死んでしまった。私だって殺されるとこだったかもしれない。
人の自然な心理として、そりゃあ少しぐらいは安心するわよ。
勿論これが倫理的に褒められるものではないし、吉影に対して「ありがとう!」と感謝する気は毛頭無いわ。
感謝はしないけども、このことで吉影と『対等な立場』を築きやすくなった。
もしかしたら、まだ彼を説得する余地はあるかもしれない。
どう話を切り出そうかと思考していると、吉影は思わぬ提案を出してきた。
「お互い今までの確執を水に流し、再び私を『仲間に迎えて』欲しい」
まさか彼から言い出してきてくれるとは、僥倖だ。
吉影とは元々説得するつもりでいた。予定はかなり狂ってしまったけど……
ここで彼を仲間に引き込めば、いや仲間とはいかずとも手を組んでくれる関係を築ければ……!
にとりと康一を失った穴を埋めるには充分。まだ手遅れにはならない。
でも……
「ザッッッッッッッケんじゃねえッッッッッッ!!!!
どのツラ下げてそんな台詞吐けるんだコラァアアーーーーーーーーーーーーッッッッ!!!!」
「ザッッッッッッッケんじゃないわよッッッッッッ!!!!
どのツラ下げてそんな台詞吐けるのよアンタはァーーーーーーーーーーーーッッッッ!!!!」
―――そうなるわよね、やっぱ。
天子はともかく仗助は元々、吉影と敵同士だったらしいし……
一筋縄ではいかない、かしらね。
でも、何はともあれ『味方』は必要になる。
仗助には悪いんだけど、ここは我慢してもらうわ。
「―――おやめなさいな、仗助。天子も」
殴りかかる仗助と天子のふたりを止め、私は間に入った。
「……何すかパチュリーさん。止めないでくださいよ」
「そうはいかないわ。直球で言わせてもらうけど、私は吉影の交渉を呑むつもりでいる」
「……ッ!! 本気っスかパチュリーさんッ!?」
「ちょっとアナタ、なに言ってるのよッ!? コイツは殺人鬼なのよッ!?
今ここでブチ殺しておくべきだわッ!!」
……?
仗助が怒るのは分かるけど、さっきからぬえまで妙に興奮してるわね……?
まあ、そうなるかもしれない。康一爆破の件に関して吉影は『無実』だけど、『殺人鬼』なのは事実なのだから。
でも、ここで退くわけにはいかない。
「殺人鬼如きがなによ。こう見えて私は魔女なの。いざとなれば大釜で煮込んで食べるくらいしてやるわよ。
それに彼を私が説得するというのは元々全員で決めていたことでしょう? 予定が早まっただけじゃない」
「ま、待って待ってパチェ待って!! 『説得』って、私それも聞いてないわッ!! どんだけ仲間ハズレよ!?」
ちっ……うるさい教授がまた割り込んできた。
めんどいから、後でにして欲しいんだけどなー。
「ああ!? 舌打ちッ!! 今舌打ちしたでしょ!!!」
「……教授。私のことを心配してくれるのはとても嬉しいわ。
でも大丈夫よ。吉影が私に危害を加えることは絶対にさせない。……勿論、皆にも、ね」
「当ッッッたり前よ!!! おい吉良!!!!!さん!!!!!
もしも私のパチェに指一本でも触れて見なさいッ!!! 私があなたを異次元空間のスキマに叩き落してあげるわッ!!!」
「……これから『仲間』になろうって者を傷付けたりはしないよ。
爆弾に変えて人質にもしない。約束しよう」
「吉影。貴方が考えていることを当てて見せるわ。
『自分の正体を知る者を残らず始末するつもりではあるが、果たしてそれはこの『幻想郷』の住民にも当てはめるべきだろうか?』
答えは『ノー』よ。私たちは元々外の世界の貴方の犯罪なんかに興味はないわ。
貴方が外でどんなに人間を殺そうとも、それは幻想郷には全く関係ない埒外の出来事。
私たちは貴方の『性質』には全く干渉しない。その代わりに貴方も幻想郷の住民には『干渉』しない。
交渉するにあたって、私たちが貴方を仲間に加えるにあたって、それが絶対条件よ。
これが出来ないなら、私は今すぐ貴方を攻撃するつもりでいる」
「………ふむ。じゃあ例えば―――例えばだが、私がそこの幻想郷の住民ではない仗助を今から始末するとしたらどうする?」
「受けて立つぜェーッ!! テメェ吉良ッ!!!!」
「貴方は黙ってて。……質問の答えだけど、それも『ノー』よ。
仗助は私たちの仲間であり、この異変を打破するのに大きく役立つ能力を持っている。
異変が解決して元の世界に戻ったなら好きなだけ殴り合って頂戴。
彼だけじゃない。著しく仲間内の『和』を乱すのは厳禁。当然、キラークイーンで仲間に触れようとした瞬間、貴方を攻撃させて貰う」
「……幻想郷の住民であっても、敵であったり私に危害を加えようとした相手の場合は?」
「正当防衛を行使する権利は誰にでもあるわ。ただし、極力戦闘は回避して欲しいけどね。
貴方にとっても自分の『本性』は隠しておきたいでしょう?」
「ふむ………………………………、確かに、互いに『利』はある、か…………。
………わかった。その条件、受け入れよう。だが、もしも君たちが私の正体を他の誰かに伝えたりしたなら―――」
「わかってるわよ。こっちも貴方の正体を無闇に口には出さない。これで交渉は成立かしら?」
「いいだろう。君たちにも手は出さないし、“今は”仗助とも休戦といこう。……康一も死んでくれたしな」
ギリリ……!と、仗助が視界の端で拳を握り締めているのが見えた。
残酷なことをしている、のだと思う。
仗助にとって吉影は倒すべき敵なのだとは理解しているし、決して彼らは手を組めるような関係には無いとも思う。
でも、仗助は今きっと複雑な心境を泳いでいる。
友人である康一を殺され、殺したにとりはよりによって敵である吉影に殺された。
向け処のない怒り……自分は誰に対して拳を振るえばいいのか。その憎しみの矛先が、見付からない。
私とて仲間を爆破した吉影をこのまま仲間に迎えようとなど、普通なら思わない。
でも、薄情なことを言うようだけど……『にとり』は少し、別だ。
彼女があのまま生きていればチームに更なる亀裂が生まれていたと思うし、実際康一は彼女に殺された。
にとりが死んだ事もこのチームの未来にとっては『プラス』になっている気もする。
あるいは、吉影はそこまで計算してにとりを殺したのかもしれない。
それはとても褒められた行為ではないけど、確かに吉影は集団の大きな戦力にも成り得る人材。
仗助はそこの所を、悔しくも理解している。だから余計に怒りが湧いて来る。
もしかしたら彼が一番怒りを感じているのは『自分自身』なのかもしれないわね……。
「……これで交渉は成立ね。色々大変なことも起きたけど、私たちの目的はまだ続いている。
厳しいこと言うようだけど、悠長なこともしてられない。待ち合わせに変更はナシ。正午に『ジョースター邸』に集合よ。
私たちCチームも、康一とにとりが欠けてしまったけど……チーム組み分けに変更は―――」
「―――待って、パチェ」
説明の途中で教授がまた入り込んできた。
とても、真面目に心配するような目で。
ええ、わかっているわよ……貴方の言いたいこと。
「パチェはこれからその、吉良さんと2人で行動するんでしょう?
………私も一緒に―――」
「―――気持ちだけ、受け取っておくわね。
でも貴方が私たちと一緒に来たら、Bチームは慧音とぬえだけになる。
もしも彼女らがスタンド使いに襲われたら、抵抗は難しくなるでしょう。
仮にも今の貴方はスタンドを持っているんだから、彼女たちについて守ってやんなさい。……ね?」
「……でも!! それでも私はパチェが心配なのッ! もしも貴方に何かあったら私―――」
「―――じゃあさ、私がパチュリーのチームに入って吉良を見張っとくわ」
そう言って私の前に悠然と歩いてきたのは―――封獣ぬえだった。
「私も一応、大妖怪なんだしさ。力には自信、あるから。
もしも吉良が何かしてきたら串刺しにしてやることくらい、出来るわよ」
「ぬえ……? でも……」
「“でも”、なに? 夢美も慧音と2人なら互いに守りやすいでしょ。
それとも……私じゃ不満?」
ぬえの眼が、ギラリと光った。
この子……最初会った時よりも、かなり雰囲気が変わった気がする……。
でも、確かにぬえも居れば吉影だってそうそう迂闊に凶行には走れないでしょう。
―――仕方ない、か。
「じゃあ、ぬえ。同行をお願いしてもいいかしら? 教授は……また今度ね」
「……ええ、任せなさい」
―――その時。
―――ぬえの瞳がほんの一瞬だけ、吉影を睨みつけたような……そんな気がした。
▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽
[+00:12:01] [+00:06:27]
「康一を……弔う時間をくれねえっスか……」
沈痛な面持ちで提案した仗助の頼みを、私たちは勿論了承した。
綺麗に治った康一の身体を優しく土に埋め、墓を作ってあげた。
彼を穴に入れる作業は、仗助にやらせるのは酷だと判断した慧音が代わってくれた。
身近に居た人が死ぬなんて経験は初めてではないけども、やっぱり慣れるものではない。
康一の荷物は仗助に渡した。彼が持つべき……なのでしょうね。
にとりの身体は完全に消滅するほどバラバラになっていた。
その事実を再確認し、改めて吉良吉影という人間の『怖さ』を知る。
アレを敵に回すことは悪手だ。私の判断は間違っていない……そう思いたいものね。
そのにとりの墓も作ってやるべきだと慧音が言った。
彼女の遺体はもう無いけど、一緒に作ってやることにした。
流石に殺した相手のすぐ横に作るのもあんまりなので、康一の墓とは離れた場所に作ったけども。
そして彼女の荷物も話し合った結果、火炎放射器とかいう物騒な現代武器と河童の工具は得意そう(?)な教授に。
大振りの剣がこれまた得意そうな天子へと渡った(というよりブン奪られた)。
他にもスタンドDISCとはまた違うらしい円盤があったけど、用途が不明なので取り敢えず私が所持することになった。
「―――随分、予定が遅れたわね……」
私はボソリと、そう漏らした。
「ああ……。随分と、随分と色々な事が変わってしまった、な……」
慧音もどこか心此処に在らずといった面持ちで返した。
「天子……。貴方、仗助よりも人生の先輩なんだから、仗助のコト……頼めるわね?」
少し声を落として天子に伝える。
友を失ったばかりの仗助には……誰かの優しさが必要なのだから。
「……下僕の世話くらい、主である私の当然の義務よ。
それより……吉良のことはまだ認めてないわよ、私……!」
不満げに言い去った天子は、やはり私の判断に不服みたいね。
彼女の性格からして、自分が間違っていると思う相手を野放しにするのは許せないんでしょう。
わからないでもない、けど……。何とか気持ちに折り合いをつけて欲しい、と言ったトコかしら。
私からすれば仗助も天子もまだまだお子様なんだから。
「パチェ……! 絶対、絶対無理しないでね……!」
そして、教授か。
この子もまだまだ子供なんだけどねぇ……。色んな意味で。
「無理はしないわ。それより貴方こそ気を付けなさい? たった2人なんだから。
…………それじゃあ、『また』ね?」
「……! うん! 『また』……!」
2度目の別れになるけど、今回は少し違うのかもしれない。
既に2人も死んでしまった……いえ、死なせてしまったのだから。
私にだって責はある。その圧力に圧し潰されて破滅を迎えることだけは……したくない。
「パチュリー。……そろそろ」
ぬえが急かすように催促してきた。
……どうも、この子の本質が読めない。吉影とは別の意味で、わからない。
―――『封獣ぬえ』。
大昔からその正体が掴めない妖怪であり実際の所、今の彼女の姿が『本物』なのかも知り得ない。
人々を翻弄し惑わしては、笑いながら去っていく謎の多い妖怪とは聞いているけど……。
正体が判らない存在ほど恐ろしい物もない。触れたくない物もない。
正直……私は彼女が少しだけ、怖い。
今からの数時間一緒に行動して、少しでもぬえのことが理解できれば良いんだけど……。
「じゃあ……皆。今度こそ準備はいいわね?」
私の合図を皮切りに皆の注目が向けられた。
今回の目的……出だしとしては『最悪』の一歩を踏んでしまったけども。
もう、二の轍は踏まない。
私たちがやらなきゃ、誰がやる。
とことん行くしか、ないんだから……!
「――――――行くわよ!」
チームは再び、3つに分かれた。
▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽
【E-1 サンモリッツ廃ホテル前/朝】
【パチュリー・ノーレッジ@東方紅魔郷】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:
霧雨魔理沙の箒、ティーセット、基本支給品×2(にとりの物)、考察メモ、F・Fの記憶DISC(最終版)
[思考・状況]
基本行動方針:紅魔館のみんなとバトルロワイヤルからの脱出、打破を目指す。
1:霊夢と紫を探す・周辺の魔力をチェックしながら、第三ルートでジョースター邸へ行く。
2:魔力が高い場所の中心地に行き、会場にある魔力の濃度を下げてみる。
3:異変解決の足掛かりとして、吉良の能力を利用したい。
4:ぬえに対しちょっとした不信感。
5:紅魔館のみんなとの再会を目指す。
[備考]
※喘息の状態はいつもどおりです。
※他人の嘘を見抜けるようです。
※「東方心綺楼」は
八雲紫が作ったと考えています。
※以下の仮説を立てました。
荒木と太田、もしくはそのどちらかは「東方心綺楼」を販売するに当たって八雲紫が用意したダミーである。
荒木と太田、もしくはそのどちらかは「東方心綺楼」の信者達の信仰によって生まれた神である。
荒木と太田、もしくはそのどちらかは幻想郷の全知全能の神として信仰を受けている。
荒木と太田、もしくはそのどちらかの能力は「幻想郷の住人を争わせる程度の能力」である。
荒木と太田、もしくはそのどちらかは「幻想郷の住人全ての能力」を使うことができる。
荒木と太田、もしくはそのどちらかの本当の名前はZUNである。
「東方心綺楼」の他にスタンド使いの闘いを描いた作品がある。
ラスボスは可能性世界の
岡崎夢美である。
【吉良吉影@ジョジョの奇妙な冒険 第4部 ダイヤモンドは砕けない】
[状態]:健康
[装備]:スタンガン@現実
[道具]:基本支給品、ココジャンボ@ジョジョ第5部
[思考・状況]
基本行動方針:平穏に生き延びてみせる。
1:しばらくはパチュリーたちと手を組むしかない、か…
2:
東方仗助とはとりあえず休戦?
3:
空条承太郎らとの接触は避ける。どこかで勝手に死んでくれれば嬉しいんだが…
4:慧音さんの手が美しい。いつか必ず手に入れたい。抑え切れなくなるかもしれない。
5:亀のことは自分の支給品について聞かれるまでは黙っておこうかな。
[備考]
※参戦時期は「猫は吉良吉影が好き」終了後、川尻浩作の姿です。
※慧音が掲げる対主催の方針に建前では同調していますが、主催者に歯向かえるかどうかも解らないので内心全く期待していません。
ですが、主催を倒せる見込みがあれば本格的に対主催に回ってもいいかもしれないとは一応思っています。
※能力の制限に関しては今のところ不明です。
【東方仗助@ジョジョの奇妙な冒険 第4部 ダイヤモンドは砕けない】
[状態]:精神不安定、頭に切り傷
[装備]:なし
[道具]:基本支給品×2、ゲーム用ノートパソコン@現実 、不明支給品×2(ジョジョ・東方の物品・確認済み。康一の物含む)
[思考・状況]
基本行動方針:殺し合いの打破
1:霊夢と紫を探す・第一ルートでジョースター邸へ行く。
2:康一…
3:吉良のヤローがなんかしたら即ブチのめす。休戦? 知るか!
4:承太郎や杜王町の仲間たちとも出来れば早く合流したい。
[備考]
※幻想郷についての知識を得ました。
※時間のズレ、平行世界、記憶の消失の可能性について気付きました。
【
比那名居天子@東方緋想天】
[状態]:健康
[装備]:木刀@現実、LUCK&PLUCKの剣@ジョジョ第1部、龍魚の羽衣@東方緋想天
[道具]:基本支給品
[思考・状況]
基本行動方針:殺し合いに反抗し、主催者を完膚なきまでに叩きのめす。
1:霊夢と紫を探す・周辺の魔力をチェックしながら、第一ルートでジョースター邸へ行く。
2:下僕のアンタが落ち込んでたら私まで暗くなっちゃうでしょーが!
3:主催者だけではなく、殺し合いに乗ってる参加者も容赦なく叩きのめす。
4:自分の邪魔をするのなら乗っていようが乗っていなかろうが関係なくこてんぱんにする。
5:吉良のことは認めてない。調子こいたら、即ぶちのめす。
6:紫の奴が人殺し? 信じられないわね。
[備考]
※この殺し合いのゲームを『異変』と認識しています。
【
上白沢慧音@東方永夜抄】
[状態]:健康、ワーハクタク
[装備]:なし
[道具]:ハンドメガホン、不明支給品(ジョジョor東方)、基本支給品
[思考・状況]
基本行動方針:悲しき歴史を紡がせぬ為、殺し合いを止める。
1:霊夢と紫を探す・周辺の魔力をチェックしながら、第二ルートでジョースター邸へ行く。
2:殺し合いに乗っている人物は止める。
3:出来れば早く妹紅と合流したい。
4:
姫海棠はたての行為をとっ捕まえてやめさせたい。
[備考]
※参戦時期は未定ですが、少なくとも命蓮寺のことは知っているようです。
※ワーハクタク化しています。
※能力の制限に関しては不明です。
【岡崎夢美@東方夢時空】
[状態]:健康、パチェが不安
[装備]:スタンドDISC『女教皇(ハイプリエステス)』、火炎放射器@現実
[道具]:基本支給品、河童の工具@現地調達、不明支給品0~1(現実出典・確認済み)
[思考・状況]
基本行動方針:『素敵』ではないバトルロワイヤルを打破し、自分の世界に帰ったらミミちゃんによる鉄槌を下す。
パチュリーを自分の世界へお持ち帰りする。
1:パチェが不安! 超不安!! 大丈夫かしら…
2:霊夢と紫を探す・周辺の魔力をチェックしながら、第二ルートでジョースター邸へ行く。
3:能力制限と爆弾の解除方法、会場からの脱出の方法、外部と連絡を取る方法を探す。
4:パチュリーが困った時は私がフォローしたげる♪はたてや紫にも一応警戒しとこう。
5:パチュリーから魔法を教わり、魔法を習得したい。
6:霧雨魔理沙に会ってみたいわね。
[備考]
※PCで見た霧雨魔理沙の姿に少し興味はありますが、違和感を持っています。
※
宇佐見蓮子、
マエリベリー・ハーンとの面識はあるかもしれません。
※「東方心綺楼」の魔理沙ルートをクリアしました。
※「東方心綺楼」における魔理沙の箒攻撃を覚えました(実際に出来るかは不明)。
※全員が吉良の正体を知りました。同行するらしい彼に多少なりと警戒はしています。
※全員がはたての書いた紫についての記事を読みました。紫には警戒しています。
※サンモリッツ廃ホテルの近くに康一、その少し離れた所ににとりの墓があります。
※にとりの「小型爆弾@オリジナル」は爆薬を抜かれ、ホテル近くに捨てられています。
<各チームのルート>
※第一ルートを通る『仗助・天子チーム』はE-1からD-1へ進み、そのまま結界沿いを行くコース。
※第二ルートを通る『慧音・夢美チーム』はE-1からE-2へ下り、そのまま西を行くコース。
※第三ルートを通る『パチュリー・吉良・ぬえチーム』はE-1からF-1へ進み、そこからF-3に下って、西へ行くコース。
―――『人狼』にはひとつ、『狂人』と呼ばれる役職がある。
彼らは『村人』の側に属していながら『人狼』の味方をする。
彼らの目的は人狼の勝利だ。人狼側が勝利することで狂人も一緒に勝利することが出来る。
狂人の役目は『騙ること』。
村人のチームに上手く溶け込み、翻弄した発言で人狼をサポートするのだ。
村人の混乱を目的とした彼らは自分の正体を明かさず、陰から常に場を混乱させる発言を怠らない。
この9人の集団に起こったひとつの『悲劇』は、偶然の連鎖によるものではない。
いや、確かにひとつひとつの些細な偶然が今回の悲劇を生んだのかもしれない。
封獣ぬえが偶然、吉良吉影の正体を知ってしまったからその後、彼を刺激したのかもしれない。
吉良吉影が偶然、河城にとりを爆弾にしていなかったら彼女は死ななかったのかもしれない。
河城にとりが偶然、手を汚していなかったら東方仗助に疑われることもなかったかもしれない。
東方仗助が偶然、パチュリー・ノーレッジらに吉良の正体を漏らしてしまわなければ、吉良はこうも追い込まれなかったのかもしれない。
パチュリー・ノーレッジが偶然、河城にとりに懐疑心を持たなかったら彼女は爆弾を作ることはなかったかもしれない。
全ての事象はほんの些細な事柄で決定される。
他愛も無い『if』が、その場限りにおいては救いをもたらせてくれるのかもしれない。
だが、この悲劇が単なる『偶然』の連鎖で生まれたモノだとは限らない。
『偶然』ではなく『必然』という名の他意によって生み出された結果なのだとしたら。
この集団の誰もが『彼女』という『狂人』の存在を意識出来ていなかったとしたら。
それは『if』(もしも)ではなく、引き起こされた『正体不明の運命』。
―――正体不明の狂人は、戯けた。
▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽
[-00:03:08] [-00:08:42]
『封獣ぬえ』
【午前7時9分】
「慧音、夢美。ゴメン、私ちょっと忘れ物しちゃったみたい。先に行ってて」
Bチームの私たち3人は霊夢と紫を探し出すため、南へと向かって歩き出した。
ありふれた適当な文句を彼女たちに言い残し、私は当初の『計画』を実行するべく動く。
『メタリカ』によって姿を消した私は、東……すなわち吉良のチームへと隠れながら追いかける。
計画とは無論、今なお私たちの誰かを爆弾にしているという、卑劣な吉良の『暗殺』。
このメタリカの能力があれば暗殺は容易。誰にも気付かれずに奴を殺せる筈……!
そしてとうとうチンタラ歩く吉良の姿を捉え、私は躊躇無く殺しにかかる―――!
―――予定ではあったが、いざ殺す直前になると不安が押し寄せてきた。
襲撃者の正体(つまり私だ)は本当にバレないのか?
私が慧音たちの前から離れている間に吉良が襲われれば、真っ先に私が疑われないか?
そもそも透明だからといって、誰にも姿を見られることなく暗殺は完了できるのか?
吉良を即死させることが出来れば上出来だけど、反撃の隙を与えたら私は無事でいられるのか?
なんかの拍子で透明化が解ければ、その時点で私はアウトだ。
……少し、単純で浅知恵すぎる作戦ではないか?
今になって私は臆してしまった。
自分の正体が判明される事こそ昔から恐れてきた鵺という種族の特性。
ここに来て何たる無様だと、自分に喝を入れようとするけども、足は中々動いてくれない。
段々と焦燥を募らせる私の身にその時、ツキが舞い降りた。
「落ち着いて聞いて欲しい。今、パチュリーさんの荷物には……………
――――――『爆弾』が入っている」
「………………え? ば、ばくだ―――ッ」
ばくだ……何?
近くに居たにとりと康一の会話が偶然私に聞こえてきた。
こっちには気付いてないらしい。そのままボソボソと会話を続けている。
私はというと、非常に気になる単語が飛び出てきたそのナイショ話に聞き耳を立てていた。
そしてにとりは次に仰天するような台詞を放った。
(私はこの爆弾で……………………『吉良』を倒そうとした、から)
吉良を……倒すだって!?
俄然私はその会話に興味を持った。
話がよく見えないけど、康一は当然として河童までもあの吉良の正体を知っているのか?
そしてどうやらこの河童は、勇敢にもあの殺人鬼を爆弾で倒そうとしていたらしい。
ということはつまり、わざわざこのぬえ様が手を下す必要は無いということになる。
ワオ! それって超ラッキーってことじゃない!?
(で、でも吉良を倒すのに何でパチュリーさんの荷物に爆弾を入れたの!?)
(ま、間違えちゃったんだよ! さっきホテルで私以外のみんなでトイレに行ったろ!?
その時に爆弾を仕込んだんだけど……吉良の荷物と間違えてパチュリーさんの荷物に……)
そういえば、この河童がさっきホテルで誰だかの荷物に何か入れていたのを見た気がする。
あれは爆弾だったのね……河童も恐ろしいことを考えるものだわ。
とにもかくにも、これで私の不安は解消した。
このまま待っているだけで、私は何の苦労もなくあの吉良が爆死するところを見学できるからだ。
その瞬間を今か今かと待ちわびながらも、隠れて会話を聞いているとどうも話が違った方向に進んでいった。
「―――でもにとりちゃん。このことをパチュリーさんに話しておかないのはよくないと思う」
康一がそんなことを言う。
どうでもいいからさっさとその爆弾とやらを吉良の野郎に仕掛けてきなさいよ!
「君がひとり、爆弾で吉良を倒そうとしていたこと。
事故とはいえ、うっかりパチュリーさんを危険に晒したこと。
その非を、彼女に説明もナシに無かったコトにしようとするのはチームの亀裂を生む原因になると思うんだ」
「だから、ボクはパチュリーさんにきっちり謝っておくことが大切だと考えるよ。
彼女も怒るかもしれないけど、ボクからも一緒に謝るから。
誠意を持って謝ればきっとパチュリーさんだって許してくれるさ。
そしてその後、皆で吉良を倒す策を一緒に考えよう。ね?」
……なんか、この流れは吉良を倒すような話じゃなくなってきたようだ。
なに呑気言ってるんだろう、この男は。
私が爆弾にされちゃってるかもしれないのよ?
そんなふざけた正義感振りかざして、もし私が爆死したらどう責任とってくれるの?
皆で吉良を倒す策を考える? バッッッカじゃない!? 遅いっつーーーのッ!
私がこんなに苦労して奴を殺そうと頑張ってるってのに、随分平和な頭してるのね?
「パチュリーさんにはボクから話を通してくる。にとりちゃんはここで待ってて!」
コラ待ちなさいよ! ……なんて声を出すわけにもいかない。
どうしよう……これじゃあ最初の障害に逆戻りじゃない……!
何とか……何とかしないと……!
その場で頭を抱えていたら、河童の奴が青い顔して何か取り出したのが見えた。
アレは……何かの『スイッチ』かしら?
もしかして、爆弾の――――――
「――――――っ!」
脳裏に過ぎった、『悪魔の策』。
私は逸る気持ちとは裏腹に、頭の中では冷静に『ある予測』を立てられていた。
『もしも』……もしあのスイッチが康一の抱える爆弾の物だとして。
それを今、私が『押して』やったら……当然だけど康一は爆死するでしょう。
すると……どうなる?
誰が康一を爆破したかって話になるだろう。
吉良の正体が殺人鬼だということを知るのはその時点で、私を除けば仗助とにとりだ(他にもいるかも知れないけど)。
後は私が上手いこと口を合わせて『吉良の仕業』だということに仕立て上げれば……!
―――ごく自然に、私は皆を巻き込んで吉良を攻撃できる口実を得る。
いや、私は皆を上手く口車に乗せるだけで、実際には吉良を攻撃したくない、というか近付きたくもない。
煽るだけ煽いで私はこっそり引っ込む。後は皆が勝手に吉良を攻撃してくれる!
そうよ! 吉良の奴だって全員から『敵』だと認識され、同時に攻撃を受ければひとたまりもない筈!
最後の問題は『人質』。
私が爆弾にされている可能性がある以上、私自身も迂闊に仕掛けられない。
でも、そうよ! こっちにはなんと言っても仗助の『クレイジー・ダイヤモンド』があるのよッ!
たとえ私が爆破されたとしても、恐らく仗助の『治す』能力は吉良の爆破スピードよりも一瞬速く治せるッ!
つまり皆が吉良に攻撃する瞬間、私は仗助の隣に『ベッタリくっ付いて』いれば私は死ぬこともない!
爆弾が私じゃなく、他の誰かだった場合は……その人はご愁傷サマ♪ 知ったこっちゃないもん。
そしてこの作戦は『秘密裏』に行わなければ意味がない。
例えば私が吉良の正体を皆に喋っても、「それなら共に皆で吉良を打倒しよう!」と一致団結とはいかない。
だって人質が取られてるんだもん。お人好しのあいつらはきっと人質の命を優先して、吉良を攻撃することは出来ないでしょうね。
クレイジー・ダイヤモンドで爆殺を防ごうにも、すぐに治せるのは仗助の傍に居る奴だけ。
もし仗助の近くに居ない奴が爆弾にされていたら、そこで終わり。だからお人好しのあいつらはその策を使わない。
そもそも皆に吉良の正体を話すタイミングなんて、もう無い。
結局、今ここで康一を爆死させ、その罪を吉良に擦り付けるのが一番確実で楽チンってワケよ。
そこまで考えたら、私は急に希望とやる気がムンムン湧いてきたわッ!
すぐにメタリカで作ったメスを取り出し、鉄分の構成を変化させる。
メスから姿を変えて私の手の中に現れたのは、河童が持っているモノそっくりの『リモコンスイッチ』。
外見を変化させただけの紛い物だから当然これを押しても爆発なんて起こらない。
あとはコイツを―――河童の持つスイッチと入れ替える。
透明とはいえすぐ近くに私が居るってのにコイツは全然気付かない。
なんだか震えて動揺しまくってるみたいだけど、丁度良い。
本物のスイッチを河童の手から弾き、草むらの中に転がせる。
急いでそいつを手に取り、代わりの偽物をその辺に放り出した。
案の定、河童は偽物を拾った。随分ニブイ奴ね、コイツ……。
もうあまり時間は無いわね。それじゃあモタモタすることもないし―――
じゃね♪ 広瀬コーイチくん。
―――カチリ、と。
私は躊躇いなく、スイッチを押した。
▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽
[+00:02:33] [-00:03:01]
作戦は面白いほど計画通りに進んでいった。
スイッチを押して康一が爆死したのを見届け、すぐに私は慧音たちのところまで戻った。
そして彼女たちと共に何食わぬ顔で爆発音を聞きつけ、康一の惨状に驚く。
見るも早く、それを吉良の仕業だと声高らかに叫び上げる。
吉良の正体を殺人鬼だと口走って、全部ぜーんぶ吉良に押し付けてやる。
勿論、ここは『人質』のことは伏せておいた。
余計なこと言って、吉良を攻撃することに躊躇いの心を持たせることもない。
何だ、簡単じゃん。
予想通り康一は爆死したし、
予想通りそれを吉良のせいに出来たし、
予想通り吉良は焦っている。
何もかも順調だった私の計画は―――
「無駄よ、吉影。貴方の仮面の裏に隠してきたという『本性』……。既にここに居る全員が知っているわ」
―――しかしこのパチュリーの台詞から、何かが狂いだしてきた。
「ニッブい男ねアンタも! アンタの正体はホテルの中で、とっっっっくの昔に皆にバレてたって言ってんのよ!」
…………………は?
え、え……ちょっ、と…待ってよ……?
……『知ってた』? 吉良の正体を、みんなが……? とっっっっくの昔に……?
いつ? ホテルで、ですって? 私の居ない間に、そんな話を……?
な、なによソレ! それならわざわざ康一を殺して吉良に罪を擦り付けた意味が……!
―――いや、あるのか?
皆は今、康一が爆破されたことで『爆弾は康一だった』って思ってる。
『人質が居なくなった今なら吉良を好き勝手攻撃できる』って、皆は考えてるんじゃない?
……それはそれで、結果オーライって奴なのかもしれない。
このままの流れで皆が吉良を倒せば、何も問題はない筈だ。
いや、当然吉良がいつ人質を爆破してもいいように、私は仗助の傍についているけど。
うん、まあいいじゃん! 少しビックリしたけど、大丈夫大丈夫―――!
―――どころではない、予想外の事態が発生した。
「康一を殺しやがった奴は――――――吉良じゃねえ」
(仗、助ェ~~~ッ!!? ア・ン・タ……! この期に及んで何を言うつもりよ……ッ!?)
私にとって最大の予想外だったこと。
それは私がこの場でクレイジー・ダイヤモンドの順応力を忘れていたことと、仗助が思いの外、クールだったこと。
この土壇場で仗助が爆弾の破片を『直して』復元するという、とんでもないことをしてくれやがったのだ。
「……にとりちゃん。その『手』についてなんスけど、どうしてそんなに油で『汚れて』るんです?
まるで――『何か』を作った痕みたいっスよね。例えば―――」
「 違 う ッ ッ ! ! ! 」
くっ……!? ヤバッ……犯人が吉良からにとりへと転換されてきている……!
私の仕業だとバレてないだけまだマシだけど、このままだと吉良を犯人に仕立て上げられなくなる……!
そうなったら吉良を皆でボコる流れを作れなくなってしまう!
焦り始める私だったけど、当のにとりは私の100倍は狼狽しているみたいだった。
「違うッ!! 私はスイッチなんか『押していない』ッ!!
康一を殺したのは私じゃないッ!!! 信じてくれ……っ」
ええ、そうでしょうね……! アンタは殺していない。殺ったのは私だもん。
本物のスイッチはどさくさに紛れてさっき捨てておいたから、私が疑われることはない。
でも、ここに来て私の計画は既に破綻している。
私はこんな状況を作りたかったんじゃない。この後どうすればいいんだ?
考え込む私をよそに、にとりの悲痛な叫びはどんどんヒートアップしていき―――
「――――――わたしを、信じてくれよぉ…………――――――」
彼女の最期の言葉を聞くその瞬間も、私は自分のことで精一杯だった。
―――爆発音が轟いて、河童は突然死んだ。
▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽
[+00:07:02] [+00:01:28]
結論から言って、結局私の計画は『失敗』した。
吉良はにとりを殺し、その後何事も無かったかのように『仲間に迎えてくれ』だとか宣った。
当然私は憤慨した。ふざけんなと言いたかった。
河童が死んだことで私が『爆死』する可能性は無くなった。それはいい。
でも、アイツを再び仲間として迎え入れる……!? 冗談じゃないわッ!
私は康一を殺したかったわけでも、にとりを殺したかったわけでも……、ましてや吉良を仲間にしたかったわけでもない。
アイツをこの世から消してやるそのためだけに計画してきたのッ!!
「直球で言わせてもらうけど、私は吉影の交渉を呑むつもりでいる」
パチュリーが真顔でそんな事を口走った。
なによ……ソレ……ッ!
「ちょっとアナタ、なに言ってるのよッ!? コイツは殺人鬼なのよッ!?
今ここでブチ殺しておくべきだわッ!!」
見境もなく私は却下した。こんな奴を自分の近くに置いておくなんて狂ってるとしか思えない。
それでもこの魔女は、引き下がろうとしなかった。
「殺人鬼如きがなによ。こう見えて私は魔女なの。いざとなれば大釜で煮込んで食べるくらいしてやるわよ。
それに彼を私が説得するというのは元々全員で決めていたことでしょう? 予定が早まっただけじゃない」
―――説得……!? そんなの……そんなの私は聞いていなかったぞッ!!
「ま、待って待ってパチェ待って!! 『説得』って、私それも聞いてないわッ!! どんだけ仲間ハズレよ!?」
どうやら夢美の奴も聞いてなかったらしい。
なんなのよ、コレ……ッ!! フザ、けんな……ッ!!
「……これで交渉は成立ね。色々大変なことも起きたけど、私たちの目的はまだ続いている。
厳しいこと言うようだけど、悠長なこともしてられない。待ち合わせに変更はナシ。正午に『ジョースター邸』に集合よ。
私たちCチームも、康一とにとりが欠けてしまったけど……チーム組み分けに変更は―――」
私の意見も聞く耳持たず、殺人鬼を仲間にしてしまった……
吉良は私たちに手は出さないと約束されてはいるけど、そんなの分かるもんか。
やっぱり我慢ならない……! 吉良吉影は、殺さなきゃダメな人間なんだ……ッ!
「パチェはこれからその、吉良さんと2人で行動するんでしょう?
………私も一緒に―――」
夢美がパチュリーを心配して同行しようとせがんでいる。
フン……こんな根暗魔女、吉良と2人きりにして殺されちゃえばいい―――
……待てよ? いや、それなら『いっそ』……!
「―――気持ちだけ、受け取っておくわね。
でも貴方が私たちと一緒に来たら、Bチームは慧音とぬえだけになる。
もしも彼女らがスタンド使いに襲われたら、抵抗は難しくなるでしょう。
仮にも今の貴方はスタンドを持っているんだから、彼女たちについて守ってやんなさい。……ね?」
「……でも!! それでも私はパチェが心配なのッ! もしも貴方に何かあったら私―――」
いっそ、私が吉良の近くに居れば……
―――そうすれば、きっと吉良を『暗殺』するチャンスがでてくる……!
「―――じゃあさ、私がパチュリーのチームに入って吉良を見張っとくわ」
私は覚悟を決めて、パチュリーにそう進言した。
私と吉良とパチュリー、3人のチームで動けば……私も吉良を暗殺しやすくなる!
もう吉良の爆弾は解除されている。これ以上怯える必要なんて……無いッ!
対等な条件での『1vs1』なら……見込みがでてくる!
「私も一応、大妖怪なんだしさ。力には自信、あるから。
もしも吉良が何かしてきたら串刺しにしてやることくらい、出来るわよ」
「ぬえ……? でも……」
「“でも”、なに? 夢美も慧音と2人なら互いに守りやすいでしょ。
それとも……私じゃ不満?」
たとえ吉良がパチュリーに何かしてきたとしても、守ってやるつもりなんて毛頭ない。
なんなら2人とも始末したって構わない。
皆には後から「危険な人物に遭遇して2人はやられました」とかなんとか誤魔化しておいてさ。
「じゃあ、ぬえ。同行をお願いしてもいいかしら? 教授は……また今度ね」
「……ええ、任せなさい」
とにかく、吉良は殺す……!
コイツは殺す……ッ!
こんな殺人鬼を野放しにすれば聖だって危ういんだ!
だから。
―――死の恐怖を振りまく人間よ。正体不明の殺意(わたし)に怯えて、死ね。
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【Reignition】―『再点火』開始―
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【封獣ぬえ@東方星蓮船】
[状態]:精神疲労(中)、吉良を殺すという断固たる決意
[装備]:スタンドDISC「メタリカ」@ジョジョ第5部
[道具]:基本支給品
[思考・状況]
基本行動方針:聖を守りたいけど、自分も死にたくない。
1:隙を見て吉良を暗殺する。邪魔なようならパチュリーも始末する。
2:皆を裏切って自分だけ生き残る?
3:この機会に神霊廟の奴らを直接始末する…?
[備考]
※スタンド「メタリカ」のことは、誰かに言うつもりはありません。
※「メタリカ」の砂鉄による迷彩を使えるようになりましたが、やたら疲れます。
※能力の制限に関しては今のところ不明です。
※メスから変化させたリモコンスイッチ(偽)はにとりの爆発と共に消滅しました。
本物のリモコンスイッチは廃ホテルの近くの茂みに捨てられています。
※ぬえ以外の全員、康一を殺したのがにとりだと思っています。
最終更新:2015年11月13日 02:44