純白の悪意から
●
「なんなんだよありゃ……」
見えなくなった白い馬とその契約者っぽい外人の兄ちゃんが走って行った方を見て、俺は半ば呆然と呟いた。
「≪ユニコーン≫だったんじゃないかい?」
「ああ、≪ユニコーン≫で間違いないだろうな」
姐ちゃんが煙草をふかしながら言い、「半信半疑だったが先程の行動を見て確信した」とTさんも頷く。
先程の行動ってアレか? あの膝枕がどうとかいうアレなのか?
「≪ユニコーン≫ってーと、あの≪ユニコーン≫だよな?」
伝説の生き物っぽいあの白い馬を連想する。
「つののついたおうまさんなの」
頭の上でリカちゃんが言う。うん、角の付いたお馬さんだ。ただちょっとばかし行動とかが異常だったが。
「≪悪魔の囁き≫が憑いてたのか?」
異常な行動の辺りで閃くものがあってTさんに問いかける。
確認は出来なかったな。とTさん。
「元々≪ユニコーン≫は獰猛な生き物だ。契約者が男であることから見ても元来の獰猛な性格が出ただけなのかもしれない。まあ最初見た時に狙われていた相手が彼女では、≪悪魔の囁き≫の件の方が濃厚かもしれんがな」
Tさんが初詣の時に会った姐ちゃんを見て呟いた。……ん? 知り合いなのか?
「なんでおうまさん、お姉ちゃんをみておとなしくなったの?」
リカちゃんが訊く。そう言えばそうだ。暴れていた≪ユニコーン≫もその契約者の兄ちゃんも俺を見るとなんかあまりお近付きしたくない雰囲気の目で俺を見て戦う事をやめてた。
Tさんに疑問顔を向ける。Tさんは俺たちの表情を見て一つ頷き、口を開いた。
「それは舞が純潔だからだろうな」
普段からあまり使われてない脳みそが考えるのを完全に放棄した。
…………は?
数秒で復帰、同時に全身がカッと熱くなって考えがうまくまとまらなくなる。
……いや、まあ確かにTさんとはまだそこまでいってはいないけども、いやいや、え? あ、そうか、そういやあの馬はそういうのが好みだったっけ?
「ってあれ? 馬だけじゃなくてなんかあの馬の契約者の兄ちゃんも俺にヤバ気な目を向けてたけど?」
「契約してそこら辺の嗜好が共有されたのかもしれん」
興味深げにTさんが呟いた。
「じゅんけつ?」
リカちゃんが更に疑問を発した。しかぁし!
「まだリカちゃんは知らなくてもいいことだって、な!?」
頭のリカちゃんを引っ掴んで顔の前に持ってきて言い聞かせる。ぶっちゃけ、言ってもリカちゃんにはよく分かんねえ事だと思うしな。
「ん、そうだな」
Tさんも言うつもりは無いようで、俺の言葉に同意した。
「ひみつなの?」
リカちゃんは面白く無さそうに言う。自分にだけ秘密にされるのが嫌なお年頃なんだろう。どうしたもんかと思っているとTさんが「まだその手の知識を得るには早いというだけだ」と諭した。
リカちゃんもちょっと首を捻りながらも「わかったの」と頷いてくれる。
Tさんはリカちゃんにいい子だ、と言って、
「さて」
と首を捻り、姐ちゃんへと顔を向ける。
「朝比奈マドカだな」
「姐ちゃん、初詣の時に会ったよな……って、え?」
朝比奈マドカ……?
咄嗟にTさんへと顔を向ける。Tさんは俺の動作に構わず続けた。
「あれから探し人は見つかっただろうか?」
「なんだい? あれからもう数カ月経ってるのにまだ見つからないとでも思っているのかい?」
のんびり答える姐ちゃん。
そりゃそうだよな、普通なら会ってて当然だよな。ただの知り合いの俺たちだって初詣以来何度かチャラい兄ちゃんには会ってるわけだし。
「ああ、会ったという話を聞かないからな」
「……へぇ?」
……どうも会ってないみたいだった。どうしてだ? 状況がよく分からない。
「ち、ちょっと待てよTさん。朝比奈マドカって、この姐ちゃん、チャラい兄ちゃんの?」
「ああ、母親だな」
こともなげにTさんが答えた。この人が、チャラい兄ちゃんの母親……?
「翼を知ってるんだ?」
姐ちゃんがチャラい兄ちゃんの名前を言った。初詣の時には咄嗟に知らないと答えた名前だ。
「……ああ」
Tさんが首を縦に振る。俺もリカちゃんもそれぞれ知っている旨を示す。姐ちゃんは口の端を軽く歪め、「なんであの時教えてくれなかったんだい? 意地悪だねえ」と言って少し皮肉気に笑った。
「あん時はチャラい兄ちゃんの本名なんて知らなかったんだよ」
「へえ、私はてっきり誰かに口止めでもされてるのかと疑っちまったよ」
姐ちゃんは日景の家を勘当されているってこの前≪魔女の一撃≫の兄ちゃんに聞いた。もしかしたらチャラい兄ちゃんの親父と組んでチャラい兄ちゃんを狙ってるとか?
そっとTさんに目配せするとTさんはいや、と首を軽く横に振った。
「大丈夫だ。黒服さんが確認に行っていて尚あの人が無事なのがその証拠と見ていい」
そう言いながら俺の手からリカちゃんを取り、俺の頭にぽんと置いた。その動きと同時に俺に耳打ちする。
(それに一家は今離散していた筈だ。夫婦仲も悪かったようだし、おそらく朝比奈秀雄と彼女は連絡を取り合っていないだろう)
「それはそうと……」
Tさんはそのまま何事も無かったかのように俺の横に立つ。
「先程≪ユニコーン≫を見ても特に驚いてもいないようだし、リカちゃんについても普通に受け入れているということは、少なくとも都市伝説の存在は理解しているのだろうな。
そしてこの感じ、おそらく……」
そう言って相手の反応を確かめるかのようにTさんは目を少し細め、何かを探るように注意深く姐ちゃんを見た。
「何らかの都市伝説と契約しているな?」
一瞬の間、
「……さてね?」
姐ちゃんはそう言って肩をすくめた。Tさんは頷き、
「まあこのようなことをいつまでも議論することもない」
小さくあの青年の問題の方が先決だと呟いた。
「随分とあの青年――翼に嫌われているようだな」
「それがどうしたんだい? そんなことより私は早く翼に会いたいのだけどねえ?」
少し強い語調で姐ちゃんが言う。チャラい兄ちゃんの居場所を知っているのなら早く話してもらいたいんだろうと思う。でもTさんはそんな語調の変化なんぞどこ吹く風で話を続けた。
「苗字を名乗る事すら拒否しているな。それに、青年に親しい者もまた貴女を疎んでいた。何故そんなにも嫌われているのだろうな?」
「そんなもの関係ない。私は家族、それもたった一人、そう……たった一人の息子に会いたいだけなんだ。そこになんの問題もないんじゃないか?」
姐ちゃんの語調がまた変わった。少し早くなった気がする。なんか焦ってるのか? チャラい兄ちゃんをそんだけ大事に思ってんのかな?
Tさんは姐ちゃんに容赦なく言う。
「そのたった一人の息子の、今の家族が貴女を疎んでいるんだ」
「家族?」
「黒服さんと言って、分かるか?」
「あぁ……」
Tさんの言葉に何か納得したように姐ちゃんは気の抜けた声を上げた。
肩を落とした姐ちゃん、俺はそのどこか落ち込んだような表情を見て問いかけたくなった。
「なあ姐ちゃん、チャラい兄ちゃんに一体何したんだ?」
姐ちゃんはしばらく悩むそぶりを見せて、
「……そうさねえ」
観念したようにため息をつくと、ゆっくりと語りだした。
見えなくなった白い馬とその契約者っぽい外人の兄ちゃんが走って行った方を見て、俺は半ば呆然と呟いた。
「≪ユニコーン≫だったんじゃないかい?」
「ああ、≪ユニコーン≫で間違いないだろうな」
姐ちゃんが煙草をふかしながら言い、「半信半疑だったが先程の行動を見て確信した」とTさんも頷く。
先程の行動ってアレか? あの膝枕がどうとかいうアレなのか?
「≪ユニコーン≫ってーと、あの≪ユニコーン≫だよな?」
伝説の生き物っぽいあの白い馬を連想する。
「つののついたおうまさんなの」
頭の上でリカちゃんが言う。うん、角の付いたお馬さんだ。ただちょっとばかし行動とかが異常だったが。
「≪悪魔の囁き≫が憑いてたのか?」
異常な行動の辺りで閃くものがあってTさんに問いかける。
確認は出来なかったな。とTさん。
「元々≪ユニコーン≫は獰猛な生き物だ。契約者が男であることから見ても元来の獰猛な性格が出ただけなのかもしれない。まあ最初見た時に狙われていた相手が彼女では、≪悪魔の囁き≫の件の方が濃厚かもしれんがな」
Tさんが初詣の時に会った姐ちゃんを見て呟いた。……ん? 知り合いなのか?
「なんでおうまさん、お姉ちゃんをみておとなしくなったの?」
リカちゃんが訊く。そう言えばそうだ。暴れていた≪ユニコーン≫もその契約者の兄ちゃんも俺を見るとなんかあまりお近付きしたくない雰囲気の目で俺を見て戦う事をやめてた。
Tさんに疑問顔を向ける。Tさんは俺たちの表情を見て一つ頷き、口を開いた。
「それは舞が純潔だからだろうな」
普段からあまり使われてない脳みそが考えるのを完全に放棄した。
…………は?
数秒で復帰、同時に全身がカッと熱くなって考えがうまくまとまらなくなる。
……いや、まあ確かにTさんとはまだそこまでいってはいないけども、いやいや、え? あ、そうか、そういやあの馬はそういうのが好みだったっけ?
「ってあれ? 馬だけじゃなくてなんかあの馬の契約者の兄ちゃんも俺にヤバ気な目を向けてたけど?」
「契約してそこら辺の嗜好が共有されたのかもしれん」
興味深げにTさんが呟いた。
「じゅんけつ?」
リカちゃんが更に疑問を発した。しかぁし!
「まだリカちゃんは知らなくてもいいことだって、な!?」
頭のリカちゃんを引っ掴んで顔の前に持ってきて言い聞かせる。ぶっちゃけ、言ってもリカちゃんにはよく分かんねえ事だと思うしな。
「ん、そうだな」
Tさんも言うつもりは無いようで、俺の言葉に同意した。
「ひみつなの?」
リカちゃんは面白く無さそうに言う。自分にだけ秘密にされるのが嫌なお年頃なんだろう。どうしたもんかと思っているとTさんが「まだその手の知識を得るには早いというだけだ」と諭した。
リカちゃんもちょっと首を捻りながらも「わかったの」と頷いてくれる。
Tさんはリカちゃんにいい子だ、と言って、
「さて」
と首を捻り、姐ちゃんへと顔を向ける。
「朝比奈マドカだな」
「姐ちゃん、初詣の時に会ったよな……って、え?」
朝比奈マドカ……?
咄嗟にTさんへと顔を向ける。Tさんは俺の動作に構わず続けた。
「あれから探し人は見つかっただろうか?」
「なんだい? あれからもう数カ月経ってるのにまだ見つからないとでも思っているのかい?」
のんびり答える姐ちゃん。
そりゃそうだよな、普通なら会ってて当然だよな。ただの知り合いの俺たちだって初詣以来何度かチャラい兄ちゃんには会ってるわけだし。
「ああ、会ったという話を聞かないからな」
「……へぇ?」
……どうも会ってないみたいだった。どうしてだ? 状況がよく分からない。
「ち、ちょっと待てよTさん。朝比奈マドカって、この姐ちゃん、チャラい兄ちゃんの?」
「ああ、母親だな」
こともなげにTさんが答えた。この人が、チャラい兄ちゃんの母親……?
「翼を知ってるんだ?」
姐ちゃんがチャラい兄ちゃんの名前を言った。初詣の時には咄嗟に知らないと答えた名前だ。
「……ああ」
Tさんが首を縦に振る。俺もリカちゃんもそれぞれ知っている旨を示す。姐ちゃんは口の端を軽く歪め、「なんであの時教えてくれなかったんだい? 意地悪だねえ」と言って少し皮肉気に笑った。
「あん時はチャラい兄ちゃんの本名なんて知らなかったんだよ」
「へえ、私はてっきり誰かに口止めでもされてるのかと疑っちまったよ」
姐ちゃんは日景の家を勘当されているってこの前≪魔女の一撃≫の兄ちゃんに聞いた。もしかしたらチャラい兄ちゃんの親父と組んでチャラい兄ちゃんを狙ってるとか?
そっとTさんに目配せするとTさんはいや、と首を軽く横に振った。
「大丈夫だ。黒服さんが確認に行っていて尚あの人が無事なのがその証拠と見ていい」
そう言いながら俺の手からリカちゃんを取り、俺の頭にぽんと置いた。その動きと同時に俺に耳打ちする。
(それに一家は今離散していた筈だ。夫婦仲も悪かったようだし、おそらく朝比奈秀雄と彼女は連絡を取り合っていないだろう)
「それはそうと……」
Tさんはそのまま何事も無かったかのように俺の横に立つ。
「先程≪ユニコーン≫を見ても特に驚いてもいないようだし、リカちゃんについても普通に受け入れているということは、少なくとも都市伝説の存在は理解しているのだろうな。
そしてこの感じ、おそらく……」
そう言って相手の反応を確かめるかのようにTさんは目を少し細め、何かを探るように注意深く姐ちゃんを見た。
「何らかの都市伝説と契約しているな?」
一瞬の間、
「……さてね?」
姐ちゃんはそう言って肩をすくめた。Tさんは頷き、
「まあこのようなことをいつまでも議論することもない」
小さくあの青年の問題の方が先決だと呟いた。
「随分とあの青年――翼に嫌われているようだな」
「それがどうしたんだい? そんなことより私は早く翼に会いたいのだけどねえ?」
少し強い語調で姐ちゃんが言う。チャラい兄ちゃんの居場所を知っているのなら早く話してもらいたいんだろうと思う。でもTさんはそんな語調の変化なんぞどこ吹く風で話を続けた。
「苗字を名乗る事すら拒否しているな。それに、青年に親しい者もまた貴女を疎んでいた。何故そんなにも嫌われているのだろうな?」
「そんなもの関係ない。私は家族、それもたった一人、そう……たった一人の息子に会いたいだけなんだ。そこになんの問題もないんじゃないか?」
姐ちゃんの語調がまた変わった。少し早くなった気がする。なんか焦ってるのか? チャラい兄ちゃんをそんだけ大事に思ってんのかな?
Tさんは姐ちゃんに容赦なく言う。
「そのたった一人の息子の、今の家族が貴女を疎んでいるんだ」
「家族?」
「黒服さんと言って、分かるか?」
「あぁ……」
Tさんの言葉に何か納得したように姐ちゃんは気の抜けた声を上げた。
肩を落とした姐ちゃん、俺はそのどこか落ち込んだような表情を見て問いかけたくなった。
「なあ姐ちゃん、チャラい兄ちゃんに一体何したんだ?」
姐ちゃんはしばらく悩むそぶりを見せて、
「……そうさねえ」
観念したようにため息をつくと、ゆっくりと語りだした。
●
ある女の日記 1~3ページ目
ある女の日記 4~9ページ目
ある女の日記 10~13ページ目
ある女の日記 14~16ページ目
ある女の日記 17~20ページ目
これらのことが所々ぼかして語られます。
ある女の日記 4~9ページ目
ある女の日記 10~13ページ目
ある女の日記 14~16ページ目
ある女の日記 17~20ページ目
これらのことが所々ぼかして語られます。
●
姐ちゃんの話は所々ボカされてたから詳しいことはよく分かんなかったけど、とりあえず、
「そりゃあ、まあ嫌われちまうと思うな」
というのが俺の感想だった。
「まあ、よく考えればそうだろうなとは……思う」
姐ちゃんがそう言うけどなかなか罪状は重いと俺は思う。男遊びに夫婦喧嘩、んでもって子供はほとんどほったらかしと来たもんだ。俺ならグレる。
「が、一応反省もしているようではあるな」
Tさんが難しい顔で言う。Tさん自身は親という存在を幼くして亡くしちまってるから感覚がよく分からないのかもしれない。まあ確かに、言葉に後悔というか反省というか、そんなものが滲んでいたような気がする。それも含めて考えると、
「あの黒服さんが嫌うほどの人間にゃあ見えないけどなー」
「だがあの黒服の男に私はかなり嫌われている」
「うーん……」
まだ反省とかしないで遊び続けてるぜやっほぃ! とか言いだす人間ならともかく、今の姐ちゃんと比べたら去年マッドガッサーの騒動の時に会ったコーラの兄ちゃんの方がよっぽど嫌われる素質はあると思うんだけどな。
「おそらく、話し合いの場が持たれないか、胸襟を開いて話をしたことがないのだろう」
違うか? とTさんが姐ちゃんに問いかける。
「……」
姐ちゃんは無言。どうも図星っぽい。
ああ、それで皆が皆誤解したままってことか?
「おはなし、とってもだいじなの」
俺の頭上からの声に姐ちゃんもTさんも視線を俺の頭にしがみついているリカちゃんに向けた。
「このまえね、お兄ちゃんとお姉ちゃんもね、すきどうしなのにすれちがってるって言ってね、夢のお姉ちゃんがとってもしんぱいしてたの!」
だからお話は大事だとリカちゃんが一生懸命に言って締めくくった。
…………う~ん、そうか、夢子ちゃんに心配かけてたのかぁ……。
確かにあの時は俺もTさんがまさか俺に疎まれてるとか思ってやがったとは考えもしなかったけど……。
衝動に任せてリカちゃんを頭上から掴み上げて上下に激しくシェイクしながら思う。数秒振って落ち着くとTさんと顔を見合わせた。
「全くその通りだ。話をするのは大事だな」
「ほんとにな」
「ぐらぐらするの~」とリカちゃんがふらふら感あふれる声で言うのをバックに俺とTさんは姐ちゃんの手前、苦笑するしかない。
「朝比奈マドカ」
Tさんが一息ついて言葉をかける。
「少し、手を貸す努力をしてみよう」
そう言って取り出されたのは携帯電話。画面には黒服さんの電話番号が表示されている。それを姐ちゃんに向けて、Tさんは訊ねた。
「素直に向き合う覚悟はあるか?」
「そりゃあ、まあ嫌われちまうと思うな」
というのが俺の感想だった。
「まあ、よく考えればそうだろうなとは……思う」
姐ちゃんがそう言うけどなかなか罪状は重いと俺は思う。男遊びに夫婦喧嘩、んでもって子供はほとんどほったらかしと来たもんだ。俺ならグレる。
「が、一応反省もしているようではあるな」
Tさんが難しい顔で言う。Tさん自身は親という存在を幼くして亡くしちまってるから感覚がよく分からないのかもしれない。まあ確かに、言葉に後悔というか反省というか、そんなものが滲んでいたような気がする。それも含めて考えると、
「あの黒服さんが嫌うほどの人間にゃあ見えないけどなー」
「だがあの黒服の男に私はかなり嫌われている」
「うーん……」
まだ反省とかしないで遊び続けてるぜやっほぃ! とか言いだす人間ならともかく、今の姐ちゃんと比べたら去年マッドガッサーの騒動の時に会ったコーラの兄ちゃんの方がよっぽど嫌われる素質はあると思うんだけどな。
「おそらく、話し合いの場が持たれないか、胸襟を開いて話をしたことがないのだろう」
違うか? とTさんが姐ちゃんに問いかける。
「……」
姐ちゃんは無言。どうも図星っぽい。
ああ、それで皆が皆誤解したままってことか?
「おはなし、とってもだいじなの」
俺の頭上からの声に姐ちゃんもTさんも視線を俺の頭にしがみついているリカちゃんに向けた。
「このまえね、お兄ちゃんとお姉ちゃんもね、すきどうしなのにすれちがってるって言ってね、夢のお姉ちゃんがとってもしんぱいしてたの!」
だからお話は大事だとリカちゃんが一生懸命に言って締めくくった。
…………う~ん、そうか、夢子ちゃんに心配かけてたのかぁ……。
確かにあの時は俺もTさんがまさか俺に疎まれてるとか思ってやがったとは考えもしなかったけど……。
衝動に任せてリカちゃんを頭上から掴み上げて上下に激しくシェイクしながら思う。数秒振って落ち着くとTさんと顔を見合わせた。
「全くその通りだ。話をするのは大事だな」
「ほんとにな」
「ぐらぐらするの~」とリカちゃんがふらふら感あふれる声で言うのをバックに俺とTさんは姐ちゃんの手前、苦笑するしかない。
「朝比奈マドカ」
Tさんが一息ついて言葉をかける。
「少し、手を貸す努力をしてみよう」
そう言って取り出されたのは携帯電話。画面には黒服さんの電話番号が表示されている。それを姐ちゃんに向けて、Tさんは訊ねた。
「素直に向き合う覚悟はあるか?」