「もう~!イチローせんせ、授業で寝てたくらいで課題なんか出して、おかげでくたくただよぅ・・・ふぁ・・帰ったら寝よ」
夕日が沈み外が闇に覆われ・・といっても、街灯があるため完全な闇夜ではないが、
商店街を歩きながら大口を開けてあくびをする少女。
西條みくは出された課題を終わらせるために学校に遅くまで残っていたのだ。
普段よりもだいぶ遅い帰宅、そして授業で寝そびれたことでみくの眠気は今まさに最高潮。
一刻も早く布団にダイブしようと足早に自宅に向かっていると・・
「きゃあああああっっ!!!化けっ・・・んんぅ~!!?・・・・・・」
遠くから女性の悲鳴が聞こえ、そちらを振り向くと声は途中で止まってしまう。
だが、あまりに不自然な途切れ方がかえって事の重大さを少女に知らせる。
「もしかして、悪臭モンスター?!うぅ・・こんな時にぃ・・・でも、放ってなんか置けないよっ!」
決心したみくは人目につかない路地裏に入り込み、鞄から香水の瓶を取り出す。
「クロス・フレーバー!!」
掛け声とともに瓶に入った香水を身にかけると、体が光のベールに包まれる。
徐々にベールが溶けていくとそこにはみくもとい香水戦士プリティー・コロンが立っていた。
「こらー!皆を困らせるのはやめなさーいっ!!」
プリティー・コロンの姿で騒ぎの原因、悪臭モンスターの前に出る。
商店街にいた人々はすでに逃げてしまっており、そこにいるのは気絶された人たちと異形のモンスター一匹。
頭に二本の角が生え、全身が黄色いそのモンスターは、やけに大きな尻をプリティーコロンに向けながらも、顔だけはしっかりと彼女に向ける。「(あやや・・これは、隠れなくてもよかったかも・・)」
「んん?!あぁっ!!おまえ、知ってる!おれたちジャマする。こうすいせんし」
片言の日本語ではあるが、はっきりとプリティー・コロンを指さして言う。
「うぅ・・人と話をするときは、ちゃんと前を向きなさーい!
とと・・忘れるとこだった。悪臭モンスター!皆にくっさ~い匂いを嗅がせて迷惑かけて・・
神様が許したって、このプリティー・コロンが許さないんだからねっ!覚悟っ!」
間抜けなモンスターと話して、肝心なことを忘れそうになるが思い出し、決めポーズをとると、モンスターに飛びかかる。
「おれ、おまえみつけたらタオセいわれてる!それと、おれのなまえ「屁鬼」。あくしゅうモンスターちがう」
ぷすうううううぅぅぅ~~~
屁鬼の突き出された黄色い尻からその色と同じガスが噴射され、プリティー・コロンを中心として滞留する。
「んんっ!!?く・・・くっっっさ~~~い!!!げほっ・・げほっ・・・・まるで・・腐った・・卵・・だよぅ・・」
屁鬼の口調に騙され、完全に油断していたプリティー・コロンは、ガスに包まれて鼻を覆いながらふらふらとしてしまう。
「やった!屁鬼、こうすいせんしタオシた。ハカセほめてくれる」
「だ・れ・が・・やられたってぇ~~・・・こんな攻撃くらいいつものことだもん!我慢できるよっ!!」
今度は屁鬼がプリティー・コロンに攻撃の効果があったため攻撃後に隙が生じ、
その隙にプリティー・コロンは背後・・では、またガスを浴びる危険があるため体の側部を取る。
「だけど、すっごく臭かったよ。だから・・お返し!『スウィート・ミスト』!!」
両手を揃えて屁鬼に向けると、そこから霧が発生・・しかもただの霧ではなく、うっすらと甘い香りを含んでいる。
「ん?なんだこれ・・?いいにおい・・なんだか、きもちが・・・」
甘い香りの霧に包まれた屁鬼は心地よさそうな表情で空気を目いっぱい吸い込むと、
体が光に包まれて消えてしまう。
「ふぅ・・これにて一件落着♪さぁ、帰って・・・やばっ!警察・・早く逃げないとっ!」
騒ぎが収まったころで警察がやってくると、プリティー・コロンは勝利の余韻に浸る間もなくその場を退散。
また人目につかないところに入って変身をといて帰路についた。
みくが商店街で屁鬼を倒した翌日。みくの通う薫風学園では・・
「でね、そのモンスターをみくが倒したんだよぉ。すごいでしょ?ね、だから、ほめてほめてぇ」
「そんな雑魚を倒したくらいで浮かれていては先が思いやられますわ」
「あぅ・・レイナ先輩、怖い・・」
昨日の出来事を自慢げに化学準備室で話すみくに、先輩であるレイナから手厳しい一言がでるが、すぐにフォローが入る。
「レイナさん、そんなことないです。みくちゃん、私は一人で悪臭モンスターを倒したこと、とってもすごいと思ってますよ」
「えへへ・・お姉ちゃんはやっぱりみくの味方だね♪」
「まったく!春菜がそんな風に甘やかすからいけませんのよ!・・って、聞いてますのっ?!」
自分が話しているというのに、春菜はいつまでもみくの頭を撫でているため、空回りした恥ずかしさを大声でごまかす。
「君たち・・・・・いい加減にしたまえ!ここはおしゃべりをする場所じゃないぞ!!」
そこに、今まで影の薄かった男性がいきなり割り込んでくる。スーツの上に白衣を着たその男性は、
一見してこの部屋の主であるとわかるが、いかんせんその童顔のせいで貫録が全くない。
「あぁ~あ・・いいのかなぁ~?そんなことイチローせんせに言われたらおねえちゃんが・・」
怒られても全くへこんでいないみくは「イチローせんせ」をジト目でひと睨みすると、春菜を指さす。
「あ・・・その・・ごめんなさい・・・わたし、天草先生のお邪魔でしたよね・・・?」
もじもじと俯いて話し、最後は上目づかいで男性を見る。決して狙ってではなく、春菜本人にとってみれば素なのだが、
これをやられた男性にとってみれば・・
「あぁ!そ、そういうことを言ったんじゃないんだ春菜君。そんなに落ち込まないでくれ」
当然、春菜を励まそうとしてしまう。励まされた春菜は嬉しそうに頬を主に染めながらも顔をあげて男性・・天草一郎を見つめるが、
これをすべて見ていた他の二人は・・
「二人とも、いい加減にしてくださいます?見ているこっちが熱くて敵いませんわ
(まったく、どうして殿方はみんな春菜に行きますの。どう見たってわたくしのほうが美しいに決まってますのに)」
「あはは♪せんせ、気をつけた方がいいよぉ?おねえちゃんのファンは高等部にも中等部にもたぁくさんいるんだからね」
嫉妬心からのレイナと、悪戯心からのみくの二人のダブル攻撃が炸裂。一郎と春菜は顔から火が出るくらいに真っ赤になる。
「ち、ちがうぞ!僕は決してそういう目で春菜君を見ているわけでは・・」
「そうですっ!何言ってるんですか、二人とも!!」
「そ・・そうだ、みく君。香水を見せてくれないか?そろそろ少なくなってきているころだろう」
「むぅ・・(イチローせんせ、話をそらすつもりだなぁ・・でも)はい・・」
話を逸らしたくないみくだが、香水が減ってきていることは事実。もし無くなりでもしたら変身ができなくなるとあって、
大人しく従い、鞄の中から香水を出して差し出す。
「ふむ・・・どうにも、君は使いすぎの傾向があるようだね・・」
「えへへ・・だってぇ・・せんせの作ってくれる香水。みくの好きな匂いなんだもん」
これ以上みくに注意しても、こんな調子ではまた使いすぎてしまうだろうと予想すると、ため息をつきながらも諦めて部屋の奥へと歩いて行く。
「じゃあ、僕はみく君の香水を調香するから、二人は先に帰っててくれないか?それと、みく君はここに残るように!」
顔だけ出して、3人に指示を出すと春菜とレイナは部屋の外に出ていき、みくは大人しくその場で待つことに。
「なんだか、追い出された感じが否めませんが仕方ありませんわ!春菜、生徒会の仕事が溜まっていたはすですから、いい機会ですし片付けますわよ」
一郎が調香を始めてから一時間弱。そろそろみくが大人しくしていられる時間の限界に近付いてきたころでようやく作業が終わる。
「みく君、待たせたね。はい、ちゃんとできたよ」
「イチローせんせ、ありがと♪」
香水を受け取ったみくは、香水に対する嬉しさと、退屈から解放された嬉しさで思わず一郎にお礼を言い、飛びついて押し倒してしまう。
「こ、こら!みく君、君は女の子なんだからもう少し・・」
時は変わって、みくが一郎を押し倒す数分前。
「やっぱり、レイナさんがいると仕事が早く終わりますね」
「当り前ですわ。美貌だけでなく仕事も完璧であって初めて一流のレディーなのですもの。
それより・・春菜、仕事の効率を下げているのはあなたですのよ?」
褒められて顔を赤くしながらも当然という態度で返すと、春菜を指さしてジト目で見つめる。
当の春菜は何故かわからないため呆気にとられたような表情でレイナの顔を見る。
「あなたが他の方々にいちいち気を使うから、そのたびに皆は気が抜けてしまって集中力が途切れるのです。まったく!」
人一倍気配り上手な春菜は、仕事をしている最中でも合間を縫って他の生徒にお茶を出したりお菓子を用意したり・・
しかも、春菜の魅力は男子のみならず女子にも通用するようで、それまで仕事の鬼だった人間がまるで魔法でもかかったかのようにのんびりしてしまう。
だから、春菜効果が効かないレイナがいないと仕事が早く終わらないのだ。
しかし、孤軍奮闘しているレイナにしてみればこれほど迷惑なことはないのだろう。
「えっと・・これからは気を付けます。」
「はぁ・・(今までこの会話を何度したことか・・きっと来週には忘れてますわね・・この天然娘は)」
そうこう話しをしているうちに一郎とみくのいる化学準備室の前に到着すると。レイナはいつもどおりにドアを開ける。
しかし、眼の前にはいつもと違う光景が・・
「あ”・・・レイナ君・・それに、春菜君まで・・・どうして?」
「わぁっ!二人とも待っててくれたの?ありがとう♪」
勘違いされるような現場を目撃された一郎は冷汗が額からどっと浮かび、あたふたしているが、
この状況を作ったみくはいたって冷静に立ち上がり二人を迎え入れる。
「天草先生、春菜がいるというのに、みくにまで手を出すなんて
乙女の純情を弄ぶ殿方はサイッッッッテイですわよ!」
「ち、違うんだ!これは・・みく君、君からも何か言ってくれ!」
冷たい視線を向けられながらレイナにきつい一言を浴びる。
春菜は何も言わないが、頬を赤く染めて視線を一郎からそらし続けている。
完全に引かれているこの状況で弁護の言葉が浮かばない一郎は、みくに助けを求める。
「うぅーん・・ま、香水作ってくれたし。仕方ないっか。実はね・・」
渋りはしたもののみくが頼んだとおり事情を説明したために一郎の無実は証明される。
「そういうことでしたの?なら、最初から言ってくださればこんな勘違いせずにすんだはずですのに・・」
「天草先生、ごめんなさい。私ったら早とちりしちゃって・・」
勘違いとわかった二人は赤くなりながら態度を改める。レイナもあれほどきつい事を言った手前珍しくしおらしい姿を見せる。
「もういいさ。あの状況なら勘違いしてもおかしくないんだし、レイナ君の言うとおりにすぐに事情を説明することだって出来たんだからね。
それより、外が暗くなってきたようだから君たちは早く帰るんだ。」
外を見ながら三人に帰宅を促すと、全員言われたとおりに帰宅し、
一郎はその後ほかの二人の分の香水も調香して、さらに雑務を片づけてたため、学校から帰る頃には8時を回っていた。
「よかった・・さっきのことが勘違いで・・」
「あぁーあ・・・もう少しからかっても面白かったかなぁ」
「今日は振り回されてばかりで疲れましたわ・・」
最終更新:2008年12月21日 23:07