香水戦士コロン 春菜編(1-2)

「さあ、春菜。付いてきなさい」

ミキサー車の意味が何であるのか・・まったくわからないまま、ピクシー・コロンに引きずられる様に連れて行かれる。
二人が接近してくるのを、まるで自動ドアのように感知して閉じていた蓋が開く。
その瞬間、円筒状のミキサーの中から悪臭が溢れ、キューティー・コロンに襲い掛かる。

「んぐっ・・!?(ひどい・・匂い・・・)」

酸味を含んだツ~ンとした臭いに、涙を滲ませて鼻を覆うキューティー・コロン。しかし、その隙に二人はキューティー・コロンの背後に回り、
悪臭の湧き出るミキサーの中に突き飛ばす。

「それじゃあ、ごゆっくり~☆」
「ゴミの中で苦しみ抜くが良いですわ」

突然の出来事に動転したキューティー・コロンが振り返ったころには、プリティー・コロンはバイバイと手を振っており、
その直後には唯一の出入り口であろう蓋が閉められる。
普通ならこれで筒の中には光が一切入ってくる事なく、暗闇の空間となるのだろうが、
うっすらとした光が中を照らしており、それによってキューティー・コロンは悪臭の正体を知る事になる。

「うっ・・(これは、臭いはずです・・)」

閉め際にピクシー・コロンが言ったとおり、生ゴミが側面にびっしりと敷き詰められていた。
しかも、それらすべてが腐っている、もしくは腐りかけている。

「・・(な、何とかここから出ないと・・このままじゃ、いつ倒れてもおかしくありません)」

閉鎖された空間内に目いっぱい広がる悪臭・・先程、溢れてきた匂いを嗅いだだけで涙が出たほどである。
この空間内で深呼吸でもしてみれば、ダメージの蓄積された体では確実にKO。
呼吸を抑えている今ですら、徐々に自分の体が悪臭に浸されていっている事を実感している。
そのため、ここから脱出するのは時間の問題でもあるとキューティー・コロンは頭を絞る。

「ふふ・・考える暇など与えませんわよ」

その様子を、まるで監視カメラで見ていたかのようなピクシー・コロン。
助手席に座り、ハンドルについてあるボタンに手を伸ばす。

「(『フローラル・シャボン』じゃ、この壁を突き破る事は出来ないですし・・・っ?!)」

脱出方法を探していたキューティー・コロンだったが、悪臭が徐々に強くなっている事に気づくと、脱出方法を考えるどころではなくなる。

「(ぅぅ・・これは・・・堪んないです・・)げほっごほっ・・」

悪臭の悪化は止まることなく、キューティー・コロンは両手で鼻を覆いながらその場に膝を着いて座り込んでしまう。
おまけに、悪臭に加えて中の温度が急激に上昇しており、まるでサウナのようになっている。
悪臭のスチームに蒸されて、ただでさえ弱っていた彼女の体力が余計に削られているのだ。

「じゃあ、みくは・・」

さらにピクシー・コロンに続いて、今度はプリティー・コロンが別のボタンに手を伸ばす。
すると、キューティー・コロンが筒の中を転がり始める。
筒が回転を・・それもかなり激しい回転を始めたのだ。こんな中では、振り回されても不思議ではない。

「っ・・!!きゃあああぁぁ・・ぅ”っ・・!!?!!」

自分の身に降りかかることを、ただ受けるだけのキューティー・コロンは、これに悲鳴を上げる事しかできず、
大量の悪臭スチームを吸い込んでしまい、失神寸前に・・

「ぁ・・ぅ・・・・ぐっ?!・・・んっ・・!」

脳と運動神経を絶たれたキューティー・コロンは、受身を取る事も出来ず筒の中を転げまわる。
しかし、これだけ壁にぶつかっても彼女が怪我をしないのは、生ゴミがクッションになっているため・・実に皮肉な事である。

「ふふ・・春菜がゴミに塗れた姿を早く見たいですわ」
「ぅ・・ぅぅん・・・・・」

ピクシー・コロンの期待通り、中にいるキューティー・コロンはゴミ塗れ・・と言うよりはゴミに埋もれていた。
壮絶な悪臭と衝撃で、気を失ってしまい、スチームの熱で滲み出た汗は涙のように頬を伝っている。

「じゃあ、そろそろ開けてみようよ」
「そうですわね」

プリティー・コロンに誘われ、蓋の前に移動する。先程と同じように自動で開いたミキサーから悪臭が漏れ出すが、
二人は顔色一つ変えずに中に入っていき、倒れているキューティー・コロンの姿を確認する。

「あらあら・・良い姿になりましたわね・・・みく、外に引き摺り出しますわよ」

二人は気を失ったキューティー・コロンを引きずって外へと出る。

「じゃあ、このままお姉ちゃんを連れて行っちゃおっか♪」
「何を言ってますの?これくらいで地獄が終わるわけありませんわ・・」
「へ?」

プリティー・コロンはすっかり満足していたのか、ピクシー・コロンの様子に呆気に取られてしまう。
そんな彼女を尻目にピクシー・コロンは、気絶したキューティー・コロンを見下して笑みを浮かべている。
そして、おもむろにキューティー・コロンの顔の上に座り込む。

「みく、貴女も隣にお座りなさい」
「え・・?(う~ん・・もう、この遊び飽きてきちゃったんだけど・・レイナ先輩は怒らせると怖いしなぁ~・・)はぁ~い」

言う事に逆らえずプリティー・コロンも一緒に座るが、先程のような無邪気な笑みは見えない。

「それでは、行きますわよ?」
「うん、いつでもいいよっ」

ぶっふうううぅぅううぅぅぅううう!!!!
ぷぴいいぃぃ~~~~!!!

視線を合わせた二人が何かを確認した直後、二つの肛門から音も匂いも異なるオナラが放たれる。
二種類のガスはすぐさま混じり合い、新たな強烈な悪臭を生み出してキューティー・コロンに降りかかる。
すると・・

「○ヽ$гÅΧ!!!?!」

臭い・・いや、痛いとすら形容できるような悪臭を至近距離からである。
キューティー・コロンは痛みで無理やりたたき起こされる。

「まさか、あれくらいで開放されると思ってましたの?本当の地獄はここからですわ」
「(そん・・・な・・)」

お尻を動かしてキューティー・コロンの顔を蹂躙しながら宣言する。
この言葉がどれほどキューティー・コロンに絶望を与えたか・・彼女の表情にはそれが如実に表れている。

「さあ、覚悟なさい・・?」

パリーーーンッッ!!

「な、何事ですの?!ぅ”っ・・!」
「何、このニオ~イ・・んううぅぅ!!」

今まさにピクシー・コロンが責めを再開しようとしたところで、ガラスの割れる音が当たりに響く。
それと同時に二種類の匂いが溢れ、ピクシー・コロンとプリティー・コロンは鼻を押さえてもがき始める。

「春菜君っ!しっかりするんだ!!」
「ん・・?天草・・先、生・・・?」

どうやら、先程ガラスのようなものを割ったのは一郎らしく、二人が苦しんでいる隙にキューティー・コロンの元に駆け寄る。

「ずいぶん手ひどくやられてしまったな・・」
「ごめん・・なさい・・・」
「謝る事はないさ。さあ、これを嗅いで?少しは楽になるはずだ」

持っていたハンカチに香水をつけるとそれをキューティー・コロンの鼻に当てる。
自分が最も好みとする心地よい香りは、新鮮な空気よりも彼女の鼻を・・体を癒す。

「はぁふぅ・・・あ、ありがとう・・ございます・・」
「これ位はお安い御用だ。それより、申し訳ないのだが君にはまだやって貰わないといけない仕事が残ってるんだ」
「はい・・」

一郎の視線がピクシー・コロンたちに向けられる。
そう・・キューティー・コロンを助けたところで彼女たちの洗脳を解かなければ、この戦いは終わらないのだ。
それは、戦っていたキューティー・コロンが誰よりもわかっている。
ゆっくりと起き上がると、フラフラになりながらも二人に向かって構える。

「ごめんなさい・・二人に武器を向ける事を許してください・・・『フローラル・シャボン』!!」

大きな・・人一人を包み込んでしまいそうなほど大きなシャボン玉が二人に向かって放たれる。
すでに漂っている匂いで目の前のキューティー・コロンを相手にしている余裕がない二人は、簡単に泡に捕らえられる。

「こ、今度は春菜ですの?くぅ・・」
「く、くっさぁ~いっ!!」

二人の洗脳を解くためにはなった攻撃も、大きな効果はなく、二人はただ臭がっているだけ・・

「そんな・・・ぅっ・・」

残り少ない力で出した必殺技も、無駄だとわかるとキューティー・コロンは絶望し、倒れてしまう。

「しっかりしなさい!君がやらなければ誰がやるんだ」

すると倒れかける彼女を後ろから一郎が支え、諦めかけているところに檄を飛ばす。
しかし、いくら気持ちを切り替えても攻撃が通じないのだから意味がない・・
いつもなら支えになっているこの言葉も、今の彼女の状態では意味を成さない。


「・・春菜君、実は君にさっき嗅いで貰った香水は新しい香水なんだ」
「え・・?」
「そして、それは君に新しい必殺技を授けてくれる・・・」

声のトーンは先程より小さい、・・しかし、ゆっくりと聞かされるその言葉は、ボロボロになってまともに動けない体で、
もう一度頑張ろうと希望を与える力を持っていた。

「君が倒れそうになっても、私が後ろから支える・・だから、諦めるんじゃない」
「は・・はいっ!」

こうして、一度は絶望したキューティー・コロンの瞳に力が宿り、シャボン玉の中の二人に視線を移す。
そして、二人をシャボン玉から解放して深呼吸をする。

「ふぅ・・・もう一度だけ・・辛いでしょうが、我慢してください・・・『フローラル・レイン』!!」

一郎に肩を掴んで支えてもらいながら、放った必殺技・・『フローラル・レイン』は二人に降り注ぎ、コスチュームや髪に染み込んでゆく。

「あ・・あああぁぁぁ!!」
「うあぁぁ・・頭が・・割れそうだよぅ・・!」

雨の香りを嗅いで苦しんでいる二人だが、鼻ではなく頭を抑えている。

「ぅ・・・ふぅっ・・・・」
「春菜君っ?!くっ・・これでもダメなのか・・?みく君!レイナ君!頼む、元に戻ってくれ!!」

便りのキューティー・コロンの必殺技も、二人の洗脳を解くまでは行かず、彼女は気を失ってしまう。
一郎は、何も出来ないがせめて二人に気持ちを伝えようと言葉を投げかける。すると・・

「ぅ・・ぅぅ・・イチロ・・せん・・せ・・・・」
「天・・くさ・・・せん、せい・・・」
「っ?!そうだ!私だ、天草一郎だ!!二人とも・・私がわかるだろう?!」

以外にも苦しんでいた二人が一郎の言葉に反応し、名前を呼びかける。
一郎はそれに応えると、気絶したキューティー・コロンを寝かせて、二人の下にゆっくりと歩いていく。
そして、二人に手を差し伸べる。

「っ?!・・・・イチローせんせい・・」
「わたくしたちは・・」
「元に戻ったみたいだな・・よかった・・」

目の前に出された手を恐る恐る取った二人は、スイッチが入ったかのように苦しみから解き放たれ、洗脳も解ける。
だが、洗脳されていた間の記憶はしっかりと残っており、自分たちがしてしまった事を激しく後悔する。

「でも・・みくたちのせいでお姉ちゃんは・・」
「そうですわ。春菜にあのような事をしてしまったのですもの・・・」
「君たちのせいではないさ・・それは春菜君も良くわかっている」
「うん・・ありがと・・・せんせ」
「そうですわね・・春菜なら、きっと・・・・・?・・お待ちなさい」

二人の洗脳が説け、すべて丸く収まったかのように見えたが、ゴミミキサー車がゆっくりとその場を離れていこうとすると、
ピクシー・コロンが車を呼び止める。

「まさか、あれほど好き勝手しておいて、黙って帰るわけじゃありませんわよね?」
「今のみくはとっても怒ってるんだからね?」
「冗談じゃないねぇ・・こんなところで、くたばるなんて・・ねぇ!!」

すると、続いてプリティー・コロンも車の前に立ちふさがる。
運転をしていた男は、額に汗を浮かべながら、ギアをバックに切り替えてその場から直ちに離れようとするが・・

「往生際が悪いですわよ?」
「黙ってみくたちにやられちゃいなさいっ!」
「『スウィート・ウィンド』!!」
「『ローズ・パフューム』!!」
「これは・・・ついてない・・ねぇ・・・・・」

車の中にいた男は逃げる事も諦め、そのまま二人の攻撃で浄化されていった・・

「それじゃ、帰ろっ♪お姉ちゃんを寝かせてあげないといけないしね」
「そうですわ。春菜の看病はわたくしたちにさせてくださいまし」
「わかった。じゃあ、学校に行こうか」

そして、変身を解いた3人は学校へと向かっていった。



学校に帰ってからは、3人が必死に春菜を看病していた。
誰もいない保健室のベッドに寝かせ、部屋の中はアロマキャンドルや香水などを使って出来る限りよい香りで満たしている。
その甲斐あって春菜の様子は順調に回復していった。

「おや・・もうこんなに減ってしまったか・・これはまた作らないとならないな・・」
「それでしたら、わたくしもお手伝いしますわ」

どうやら、定期的に春菜の全身にに吹きかけていたため、たくさんあったはずの香水も切れてしまったようで、
一郎は急遽自室に戻って香水の作成に・・それを手伝いにレイナも付いて行ったため、部屋の中には春菜とみくの2人が残される。
留守番と看病を任されたみくは、最初こそ戸惑ってはいたが春菜の体を拭いたり、アロマキャンドルを取り替えたりと無難に仕事をこなしていた。

「・・ん・・・ぅ・・」
「っ?!お姉ちゃんッ?!」

2人きりになってから十数分が経過したところで、ずっと意識を失っていた春菜が目を覚ます。

「みく・・ちゃん・・・?」
「よ、よかったぁ~~・・」

無事に目を覚ました春菜を見ると、安心して力が抜けてしまい、ベッドにもたれかかる。
それを見て一瞬春菜はなぜこんな反応をするのかと疑問を浮かべるが、すぐに気を失う前のことを思い出すと、疑問も解消する。

「あのね・・」
「気にしないでください。あれは、みくちゃんが悪いわけじゃありません・・もちろんレイナさんも・・・」

みくが何も言わなくとも言いたい事はわかっており、優しく2人の事を許し、三国笑顔を向ける。

「それもそうなんだけど・・その・・えっとね・・・」

いつもは言いたい事ははっきり喋るみくが珍しく言いづらそうに視線を泳がせている。
先程はみくの気持ちを理解できた春菜も、ここまでは読めないらしく、首をかしげる。

「みくちゃん、言いづらかったら無理に言わなくても良いんですよ?」
「だ、ダメッ!これは、ちゃんと言わないとダメなの・・」

春菜の気遣いは余計だったのか、急に声のトーンを大きくして断ると、みくは心の準備をするために深呼吸する。

「すぅーー・・はぁぁーーー・・・・うんっ、よしっ♪」

深呼吸でだいぶ気が落ち着いたのか、しっかりと春菜に目を向けて口を開ける。

「まだ、よくわからないんだけどね・・みく、イチローせんせいのことが好きみたいなの・・」
「へ・・?」

いきなりのみくの爆弾発言に春菜の時間が僅かに止まる・・
それもそのはず、いつものみくは一郎に飛びついたり抱きしめたりと、とても好意を持っている男性に対する態度ではない。
それなのに、好きだと言うのだからこうもなってしまうだろう。

「ごめんね・・」

対するみくはと言うと、春菜が一郎に対して好意を持っているにも関わらず、自分の気持ちを打ち明けてしまった事を謝る。

「どうして謝るんですか?私は良いと思いますよ。みくちゃんが天草先生のことを好きになる気持ち・・でも、これからはライバルですね♪」
「え?(あれ・・お姉ちゃん、それほど気にしてない・・?)う、うんっ!よぉし・・負けないよぉ~♪」

春菜のライバル宣言によって、気負いしていたみくはいつもの調子に戻り、対抗心を燃やす。
すると、そこにタイミングが良いと言っていいのか、一郎とレイナが戻ってくる。

「は、春菜っ!起きたんですのね・・(良かった・・)」
「ん?春菜くん、もう大丈夫なのかい?」
「はい。おかげ様でもうだいぶ良くなりました」
「そうか・・それなら良かったよ・・。ところで、私たちが入る前に話し声が聞こえたけど、何を話してたんだい?」
「えっと・・」
「それは・・」
「「内緒(です)♪」」
最終更新:2009年02月25日 01:51
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