「もうっ!メイちゃんなんて大ッキライ!!!」
「こっちこそ!みくとはもう絶交ね!!!」
薫風学園2年1組の教室。その真ん中で人だかりの中、言い争いをしている少女が二人
一人はおなじみプリティー・コロンこと西條みく、そしてもう一人はみくの親友である桜芽衣。
ほんの些細なことから始まった喧嘩は徐々にエスカレートしていき、最終的に喧嘩別れという最悪の形で終わる。
それ以降というものの、休み時間はいつも一緒にいる二人は口を聞くことも無く時間が経過し、そのまま放課後になってしまう。
「はあ~~・・」
「溜息なんて、みくちゃんらしくないですね。何かあったんですか?」
いつもと同じように一郎の仕事場――化学準備室ですごしていると、
珍しくみくの口から溜息が漏れたため、心配そうに春菜が尋ねる。
「どうせ、喧嘩でもしたのでしょう?」
「はうっ!?レイナ先輩、何でそれを・・?」
みくの様子を見て見抜いたのか、それともどこからか情報を入手してきたのか、
見事な的中でみくを驚かせる。
「あのね・・実は・・・」
ばれてしまったのならこの際、二人に相談しようと教室であった出来事を事細かに伝える。
それに二人は真剣に耳を傾け、すべての話が終わると「ふぅ」と息を漏らす。
「お互い様ですわね。みく、あなたにも責任はありますのよ?」
「はぁい・・」
「桜さんは私も知り合いですから、謝るなら協力してあげれますよ」
レイナに諭されると、小さくなって反省し、大事な親友とどうしてくだらない理由で喧嘩別れをしてしまったのかと深く後悔する。
その様子を見た春菜は、何とか力になろうと助け舟を出すが
「だ、ダメッ!お姉ちゃんの助けを借りれないよ!自分でちゃんと謝るから・・」
「そうですわね、それが賢明ですわ・・それにしても、春菜 忘れましたの?明日は・・」
明日、レイナたちは行事があり不在になるため、みくに断られる前から協力はできなかったのだが、
春菜はそのことを指摘されるまで忘れていたらしく・・
「そ、そうでした・・」
「まったく!しっかりして下さらないと・・貴女は生徒会長ですのよ?」
「ごめんなさい・・」
みくの様に小さくなって反省する。
そして翌日・・みくは教室の前で芽衣に謝る心の準備にと深呼吸をしてから入っていく。
しかし、そこには芽衣はおらず、みくは拍子抜けしながらもそのうち来るだろうと椅子に座って待つ。
「(なんて謝ろう・・やっぱり、ごめんなさいかな・・)」
座っている間も、芽衣に謝ることばかり考えていたが、ホームルームが始まっても銘がくることはなかった・・
「(メイちゃん、どうしちゃったんだろ・・帰りにお家に行ってみよっかな)」
結局、メイは学校を休み、せっかく心の準備をしていたのに謝れずに一日を過ごしてしまう。
昨日は自分と喧嘩をするほど元気だった芽衣が休んだことに、謝る謝らない関係なしに心配になり、
放課後に芽衣の家を尋ねる。
呼び鈴を鳴らすと、芽衣の母親が出てきたが、何故か慌てている。
そして、みくの顔を確認すると芽衣を知らないかと訊かれる。
「え?メイちゃん、病気でお休みだったんじゃ・・」
みくの反応を見て、芽衣の母親は肩を落とすが、状況を説明する。
昨日の放課後、みくと同じように下校した芽衣だが、夜になっても帰ってこない・・
心配になって携帯に電話をかけてみても繋がらず、眠れない夜をすごしたらしい。
「じゃあ、私がメイちゃんを探してきます。おばさんはお家で待ってて、メイちゃんが帰ってくるかもしれないから」
親友が行方不明になったと知るや、みくはすぐにメイの向かいそうな場所を探しに行く。
「はぁ・・はぁ・・・ダメだ・・見つかんないよ・・」
芽衣の家を出てから、みくは芽衣を探しに走り続けたが、目ぼしい場所にすべて当たってみても芽衣を見つけることは出来なかった・・
どうすればよいものかと、歩きながら考えていると進行方向から悲鳴が聞こえ、同時に大勢の人が走って逃げてくる。
「ちょ、ちょっと!何があったの?!」
「悪臭モンスターだよ!また現れたんだ!」
こうなる状況は大体予想が付くが、逃げてきた一人を捕まえて確認する。
芽衣を探すという大事な用事がある中で、みくは何で今なのかとため息を吐きながらも、
このまま放置させていくわけには行かないため、人の流れと逆に走っていく。
「こらー!そこの悪臭モンスター!あばれるのはやめなさ~い!!」
変身を済ませて悪臭モンスターの前に出ると、指をさして注意を向けさせる。
街で暴れていたモンスターは人間に近い・・それも、みくと春菜たちとそう変わらない女の子の姿をしており、一見したら悪臭モンスターとは思えない。
しかし、一刻も早く目の前のモンスターを倒して芽衣の捜索を続けようと、間髪入れずに攻撃を仕掛ける。
「ちゃちゃっとやっつけちゃうよ♪『スウィート・ミスト』!!」
甘い香りの霧が立ち込め、敵を包み浄化する・・・はずだったが、
突然風が吹くと霧はモンスターとは逆方向、プリティー・コロンの居る方向にかき消されてしまう。
「えぇ?!も、もう一回・・『スウィート・ミスト』!!」
思わぬ自然の妨害によって攻撃を失敗したが、今度こそともう一回「スウィート・ミスト」を使う。
しかし、霧が出たころにはモンスターは逃げている。当然、攻撃は失敗である。
「に、逃げ・・・・卑怯者~~!!」
風が吹かなかっただけに、今回は成功したものと思っていたため、思わぬ回避方法に大声で「卑怯者」と叫ぶ。
しかし、追いかけなくてはまた別の場所で暴れる可能性があるため、すぐに走る。
「はぁっ・・・・(なんだか、今日は走ってばっかりだよぅ・・・)」
芽衣を探しているときから走りっぱなしだったためか、体力には自身があったのだが、早々に息を切らす。
それでも、なんとか追い続け街の外れにある廃倉庫にたどり着く。
「よ、ようやく・・走らなくて済みそう~・・」
疲れ果てながらもモンスターの入っていった倉庫の中に進む。
そこでプリティー・コロンはあるものを目の当たりにし、疲れを忘れて驚く。
「メイちゃん?!!」
そこには行方不明になっていた芽衣がいた。それも人形ほどの大きさになり、牛乳瓶に気絶した状態で閉じ込められて・・
そしてその隣には、プリティー・コロンかかつて倒したはずの屁鬼が小さくなった姿、「子屁鬼」として立っていた。
「くすくす♪あの子に危害が加えられたくなかったら、無抵抗のままでいてね?」
先に入ったはずの悪臭モンスター「ミラ」がプリティー・コロンの後ろから現れると、芽衣を人質にして絶対的に優位になるような条件を提示して脅す。
「うっ・・卑怯者ぉ~・・」
「何とでも言って?でも、反撃なんてしてきたら、あそこに居る子屁鬼があの女の子に強烈なオナラを嗅がせちゃうだろうけど」
牛乳瓶に閉じ込められていると言うことは、そのままの状態でされる事が考えられる。
一般人にはきつすぎるオナラのにおいを牛乳瓶というガス室で嗅がされ続けたら、芽衣に危険であると思い、
言うとおりに攻撃の意思を見せない。
「そうそう、それでいいの。じゃあ・・・」
パチンッ!
言うことを素直に聞くプリティー・コロンの態度に満足そうなミラは、ゆっくりと手を上に上げて指を鳴らす。
何のための行動なのかと疑問を覚えたプリティー・コロンだが、疑問はすぐに驚愕へと変わる。
ミラの体がどんどん大きく・・いや、周りのものもすべて大きくなっているところを見ると、プリティー・コロン自身が小さくなっていってるのだ。
体の縮小はどんどん進み、次第には芽衣と同じ程度・・10センチほどの大きさになってしまう。
「な、何これ~~!!?」
「簡単簡単♪小さくなっただけだから・・あ、その状態なら無駄だと思うけど、逃げるくらいなら許してあげる。
じゃないと、苛めるのもつまらないからね」
「(なんだかわかんないけど・・・とりあえず、言えるのは・・・逃げなくっちゃ!)」
小さくなった体で、もし捕まえられでもしたら脱出不可能の状態で延々責められかねない。
相手の言うとおりに行動するのは不満だが、プリティー・コロンはミラに背を向けて逃げる。
「そうこないとね・・そ、れ、じゃ、ますはこれをね♪」
どこからか紙袋を持ってくると、その中から卵を取り出してプリティー・コロンに向かって投げつける。
しかし、小さくなったプリティー・コロンが卵に直撃しないようにわずかに狙いをはずしている。
「へ?・・ひゃあっ!!?あ・・あっぶなーい!当たったらどうすんの!?」
目の前に巨大卵が振ってきて、プリティー・コロンは驚いて尻餅をつく。
命中しなかったことに安堵の息を吐くが・・そのとき、彼女の鼻に硫黄のような匂いがかすめる。
「はぁ・・っ?!んんっ!!(くっさぁ・・・何ぃ・・?この匂いぃ)」
嗅ぎ続けてたら吐き気でも催しそうな不快感たっぷりの悪臭で、百人誰に聞いても悪臭と答えそうな・・
同じ硫黄臭でも個人によっては好きにもなれる温泉の香りとは似て非なるものである。
その悪臭をなるべく吸わないようにとプリティー・コロンは鼻を覆う。
匂いの原因は・・目の前の卵だ。
「腐った卵の匂いはいかが?でも、まだまだあるから頑張って全部避けてね」
「(うぅ・・性悪ぅ~・・)」
新たに袋から卵を出して微笑を浮かべるミラを、恨めしそうに睨みながらもすぐさま立ち上がって走り始める。
あのまま座っていたら、おそらく周りを腐った卵で囲まれて逃げられないようにされていただろう。
「ほらほらっ!もっと一生懸命逃げないと」
「はっ・・はっ・・・(ホント・・今日は・・走って、ばっかり・・・だよぅ・・)」
元から走り続けて疲れていたプリティー・コロンに、追い討ちをかけるかのように走らせる。
さらに、進行方向に卵を投げて巧みに倉庫の角へと追いやっていく。
「げほっ・・げほっ・・・(はぅ・・卵臭い・・)」
ある程度卵が割れると、倉庫内に硫黄の匂いが充満する。
プリティー・コロンは走りづらくなることも辛抱して、両手を覆い回避を続ける。
「(必死になっちゃって、可愛い♪どうせいつかは捕まるのにね)」
「(うぅ・・脚が・・上がらない・・・そろそろ、限界かもぉ・・)」
プリティー・コロンの体力は確実に限界に近づいており、方向転換の際に躓いて何度か転びかけていることが、それを良く示している。
だが、それでも彼女は必死に逃げ続ける。時間が経過すれば相手の術も解けると期待して・・
「う・・うそ・・・だよね・・」
逃げ続けるというプリティー・コロンの強い意志が一瞬で途絶え、あれほど必死になって走っていた姿が嘘のようにその場にへたり込む。
目の前に巨大な壁が現れたのだ。よく見るとそこは倉庫の角・・つまり、プリティー・コロンは必死になっていたが、
所詮はミラの手のひらで踊らされていたと言うことである。
「まさか、ここまでたどり着くとは思わなかった・・・ご苦労様♪」
「(に・・逃げなくちゃ・・・でも・・力が入らないよぉっ)」
巨大な影・・ミラが何かを持って近づいてくると、すぐさま立ち上がろうとするが疲労の溜まった体はしばらく動けそうにない。
「それじゃあ、頑張った人にはご褒美をあげる」
ミラが何かを持っている手を返すと、そこから何かが落ちてくる。落下速度は決して早くない・・むしろ遅いのだが、
回避の策がないプリティー・コロンは動けても数cmほどで、結局最後は目を瞑ってしまう。
「んっ・・ん・・?くっ・・くっさーーいっ!!!」
何かが自分の体に覆いかぶさる感触を覚え、さらには強烈なアンモニア臭が鼻を刺激すると、
自分に何が起きているのか確認しようとわずかに目を開ける。
「納豆ぅ?!うえぇ~・・ネバネバして気持ち悪いよぉ・・」
ミラの落としたものは納豆。十分にかき混ぜてあったのか、その納豆の粘り気はプリティー・コロンの身動きを封じて、
さらに持ち前の納豆臭とネバネバヌメヌメの感触による、二種類の不快感で苦しめる。
「あぅぅ・・(動けない・・・それに、鼻が痛いよぅ・・・)」
小さくなった分力も落ちており、いくら頑張ったところでネバネバから逃げることは出来ない。
おまけに、匂いが染み込んでしまうのではないかと錯覚するほどの納豆臭・・
納豆嫌いのレイナでなくとも気が滅入ってしまいそうな状況である。
「くすくす♪(良い様・・でも、もっともぉっと苛めて、二度と私たちの邪魔をする気にならないようにしてあげる)」
プリティー・コロンの様子を遥か上から見下ろしながら笑い声を漏らす。
まだ、これから何かしようと企んでいる様だが、納豆や卵の匂いでそれどころではないプリティー・コロンは、
上を見上げる余裕もなく、当然気づいていない。
「(せめて、メイちゃんを助け出さないと・・)」
そうは言っても、反撃してしまえば芽衣に危害が加わる。それに、今のこの状況では「スウィート・ミスト」が子屁鬼にまで届くとは到底思えない。
しかも、頼みの綱であるキューティー・コロンとピクシー・コロンは今日は助けに来れそうもない。
「何を企んでるのかなぁ?まあ、動けなければ意味はないだろうけど」
視線を芽衣に向け続けているプリティー・コロンの様子を見ると、
何も出来ないはずのプリティー・コロンに対して、すかさず納豆を追加・・
網のように絡んでいた納豆は量が増えると、まるで毛布のように彼女の体に覆いかぶさる。
「お、おもいぃ・・退けてよぉ~・・・」
「ダメダメ♪ほら、顔にまだ付いてないよ?」
「や、やだっ!そんなことしたら許さないよっ!!」
「くすっ。許してもらえなくても別にいいよ」
頭から脚まで全身が納豆まみれになっているが、唯一怪我されていなかった顔・・
しかし、ミラは見逃すことなく、箸で一粒をつまむとそのままプリティー・コロンの顔にこすりつける。
「やっ・・ん・・ぅ・・・(も、元に戻ったら・・ゼッタイに仕返ししてやる・・)」
自分の顔の半分ほどの粒が顔を撫でると、そのたびにプリティー・コロンの顔からネバァッと糸が引く。
抵抗できない自分がもどかしいが、怒りはすべてミラに向ける。
「あらあら。だいぶ汚れちゃったみたいね。それじゃあ、お風呂に入る?」
「だ、誰のせいでぇ・・・え?お風呂??」
今まで自分が行ってきたことを他人事のように言い放つミラに、怒りがこみ上げるが、直後の「お風呂」と言うワードに疑問を浮かべる。
周りに風呂と思わしきものは見当たらないが、このサイズなら簡単に用意できる。
しかし、そのためにはコスチュームを脱いでしまわねばならないため、プリティー・コロンは嬉しい反面恥ずかしいようで、顔を赤く染めてしまう。
「い、いらないっ!お風呂なんて・・」
「そんな事言わないで・・せっかく用意したんだもの」
ミラがその場に取り出したものは、プリティー・コロンが創造していたものとはまったく別のお風呂・・
ではなく、牛乳瓶。それも、中身は普通の牛乳ではなく、色の悪い濁った白い液体である。
「な、何それ?それの何処がお風呂なの?!」
「どこから見ても立派な牛乳風呂でしょ?」
「そんな汚い色の牛乳なんて、見たこと無いよっ!」
プリティー・コロンの反応を見て、牛乳瓶を振って見せると縁に着いた膜が瓶からはがれる。
その様子にプリティー・コロンの危機感はよりいっそう強くなる。
「(うぅ・・あれ、絶対に腐ってるよ・・・あんなのに入ったら・・か、考えたくない!)」
ただの牛乳なら、美容効果があるなどと噂されているため、まだ入る気にはなる。
しかし、腐っている牛乳なら話は別。こんなものは百害あって一理なしである。
先程まで赤く染まっていたプリティー・コロンの顔は、これからされることを想像して青ざめる。
「それじゃあ、綺麗にしましょうね~?」
それでもミラはプリティー・コロンの意見を無視して彼女の体を箸でつまむ。
手で掴めば早い話なのだが、納豆まみれのプリティー・コロンを手づかみするのは、さすがに自分がしたことであっても気が進まないのだろう。
「いたっ!いたた・・こらー!せめて手で掴んでよーっ!!」
その扱いの悪さに、プリティー・コロンも不満を漏らす。何せ、硬い箸で体を挟まれているのだ。
しかも、ミラにとっては軽い力であっても、小さなプリティー・コロンにとっては相当強い力で挟まれていることになる。
「なんだか、うるさいけど・・中では暴れないでね?下手したら溺れちゃうから」
「へ?や、やめっ・・」
ボチャンッ
結局、プリティー・コロンは汚い液体の入った瓶の中に入れられてしまう。
溺れることのないように、7~8割程度に入れられた液体に胸より下がどっぷり浸かってしまう。
納豆が加わったことによって更に汚い色になり、ヌルヌルとした不快な感触・・そして、匂いも強化される。
「ぅっ・・げほっ、くさ・・ごほっ・・・息・・できなっ・・」
「それじゃあ、しっかり汚れを落としてね?」
この劣悪な環境にさらされたプリティー・コロンに対し、あろう事か、ミラは牛乳瓶をコルク栓で蓋をしてしまったのだ。
これでは、中の匂いは外に逃げていかない。
「むぅ・・ぅぅ・・・(息・・止めてても、臭いよ・・)」
「そうだ♪効率よくきれいにしてあげる」
たとえ臭かったとしてもダメージを最小限に抑えるために呼吸を堪えるのだが、
それをあざ笑うかのようにミラがある提案をすると、牛乳瓶を振り回す。
「っっ?!!!?(や、やめて~~~!!目が・・回るうぅ~~~~!!!)」
激しい回転運動によって、プリティー・コロンは牛乳瓶の中を転がりまわる。
幸い、回転はすぐに収まったが、先程までは汚れずに済んでいた顔や髪の毛にまでも液体が掛かり、
プリティー・コロンは余計な体力を消費してしまったため呼吸を止めておくのにも限界が来てしまう。
「(空気・・吸わないと・・・しん・・じゃうよぉ・・)っはぁ・・う”っ!!?」
瓶の中の空気を初めてまともに吸い込んだプリティー・コロンは濁った声を漏らすと、すぐに鼻を覆う。
「(こんな・・臭いの・・・みくの体に・・染み付いちゃう・・よぅ・・)ふえぇ~~・・」
「くすくす♪それじゃあ、きれいになったみたいだし、出してあげるね?」
悪臭で再び目を回してフラフラしているプリティー・コロンの様子を見て、ようやく蓋を開けて彼女を外に出す。
「よ、ようやく・・でられたぁ~~・・」
瓶から出てもダメージが癒えず、しばらく目を回したままだったが、ミラが何もしなかったため、
安定して立てるまでに回復する。
「もー!!どうしてくれんの?!コスチュームも体も臭いしヌルヌルするし最悪だよっ!!」
「気に入らなかった?じゃあせめて、その濡れたコスチュームを乾かしてあげる」
「やっ!どうせまた良くない事だもんっ!!」
「くすっ♪イヤって言って今まで通用した?」
「う・・それは・・・でも、今度はホントに許さないよ!!」
「そう言われると、余計にやりたくなっちゃうの」
あくまで、自分のやりたいことをやり通そうとするミラに危険性を抱いたプリティー・コロンは、
その場から離れようとするが、やはり地道に受け続けていたダメージがそう簡単に癒えるはずもなく、第一歩で躓いてしまう。
「あれだけ、ダメージ受けたんだから簡単に逃げれるはずないでしょ?」
起き上がっていないプリティー・コロンにミラの魔手・・ではなく黒い煙が襲う。
「げほっげほっ・・なっ?・・ごほっ・・・っくさ・・くさいっ・・」
煙が目に入り、悪臭を伴っているため、プリティー・コロンは目から涙をこぼしながら咳き込む。
「どう?これならすぐに乾くでしょ?」
「ごほっ・・ごほっ・・・(ど、何処が・・?臭いし、目に沁みるし・・煙なんかで乾くはずない・・)」
ミラは七輪の前にしゃがんで、うちわでパタパタとプリティー・コロンに向かって煙を仰いでいる。
だが、肝心の煙の発生源は煙に隠れてよく見えない。
「げほっ・・・ごほっ・・・(い、いつまで・・やるのぉ・・・?)」
匂い自体は先程の牛乳瓶の中よりはマシだが、煙に包まれて呼吸しにくい上にいつまでも煙が晴れないため、
プリティー・コロンは蹲って苦しみだす。
「(くすくす♪今までは遊びだったけど、そろそろ本格的に責めてあげる)」
その後も、執拗なまでの煙責めは続く。ここまで続けば、プリティー・コロンの服も乾き始めるのだが、
それが返って逆効果に・・
「(んううぅ・・・さっきの牛乳が・・・・)」
ただでさえ元から臭い牛乳、それに納豆が加わった液体が乾いたのだからその匂いはすさまじい。
更にそれに加えて、瓶に入っていたときには気にならなかった腐卵臭・・
未だ癒えきっていないプリティー・コロンの身体には厳しすぎる匂いだ。
「うえぇ~~・・・も・・ダメぇ・・・」
やはり、耐え切れなかったようで目を回しながらその場に崩れる。
「くすくす♪・・さあ、次は何をしようかなぁ・・?」
倒れたプリティー・コロンに歩み寄り、笑みを零しながら手を伸ばし、プリティー・コロンを捕らえようとすると・・
「むっ!?オマエ、誰だ?!や、ヤメロッ!!」
何者かが乱入したのか、子屁鬼が声を大きくして取り押さえようとしていると、あるものがばら撒かれる。
「なっ!なんてことをっ・・!?」
これには、先程まで余裕の表情を見せていたミラにも焦りが表れる。
「ふえぇ~~・・・(あ、あれ・・?臭かったはずなのに・・いいにおいぃ・・・)」
ばら撒かれたものからは、悪臭で弱ったプリティー・コロンも癒すような香りが放たれ、
それは次第に倉庫内に充満していく。
「(でも・・この匂い・・どこかで・・・?・・・・あっ!)みくの香水の匂い!!」
回っていた目に力が戻り、パッチリと開くとそこは先程までと違う風景・・
巨人のように見えたミラの身体が小さくなっている・・そう、元の大きさに戻っているのだ。
「みく君!大丈夫だったか?!」
「い、イチローせんせ?!どうしてここがわかったの?!」
「そんなことは後だ!今は彼女を解放することを先決してくれ!!」
「うん♪わかったよ・・・って、あれ・・?」
芽衣を助け出そうと、子屁鬼に攻撃を行おうと視線を向けると、大きな異変に気づく。
自分と同じように、芽衣も元のサイズに戻っているのだ。
気絶していることに変わりはないにしろ、これで牛乳瓶のガス室の実現が不可能となると、
プリティー・コロンは一気に反撃しやすくなる。
「くっ・・・!でも、忘れたの?あの状態でも子屁鬼はあの子に攻撃できるの・・
それに、あなたの攻撃じゃあ、届くまでに時間が掛かるんじゃない?」
確かに、街でミラと戦ったときも攻撃が届く前に風にかき消されてしまった・・
そう思うと、攻撃を失敗して芽衣が被害にあってしまう姿が頭を過ぎる。
「ど、どうしよ~・・イチローせんせぇ~・・・」
「大丈夫!霧がダメなら、風を使えばいいんだっ!」
「そんなこと言っても・・失敗したら・・・」
「私を信じるんだっ!!」
全力で自分を信じろといった一郎に答え、プリティー・コロンは決意を固める。
すると、頭の中にあるワードが過ぎる・・『スウィート・ウィンド』・・
彼女の新しい必殺技だ。
「ま、待って・・そんなことしたら、あの子が・・」
「(みくの、新しい必殺技・・)よぉーしっ♪『スウィート・ウィンド』!!」
表情に迷いのなくなったプリティー・コロンを見て、後ずさるミラは必死に止めようとするが、
プリティー・コロンにはその言葉は届いておらず、『スウィート・ウィンド』の掛け声とともに、
甘い香りの風が・・子屁鬼とミラに向かって吹き荒れる。
「い・・いやああぁぁぁあ!!!」
「何だ・・良いニオイ・・うぅ・・ぅぅぅう・・」
風に包まれた二人はそのまま浄化され、消えていく・・
「ふぅ~~・・疲れたよぅ・・でも、何で小さくなったりしたんだろ?」
「ああ、そのからくりはこれさ・・」
一郎があるものを拾って持ってくる。アロマテラピーに使うような陶器の容器だ。
中には解けた蝋燭が入っているが、火は消えている。
「まあ、一種の幻術だよ。これの匂いを嗅いで君は幻を見てたって事だ」
「ええぇぇ!?じゃあ、卵や納豆は・・?」
「おそらく、あれだろう?幻術に掛かってたら、あれぐらいでも十分に脅威になるだろうね」
一郎が指差した場所には、卵、納豆、牛乳瓶と、責めに使われた食品が並んでいる。
それを見て、プリティー・コロンは変身を解いてへたり込む。
「じゃ、じゃあ・・みくはあんなのに苦戦してたのぉ~?」
「そういうことになるな。だけど、みく君。お疲れ様。君のおかげで彼女が助かったんだ」
「うぅ~~・・それは・・良いけど・・もう、動けないよぉ~~」
戦いの疲れがまだ残っているため無理はないのだろうが、一郎に向かって駄々をこねる。
すると・・
「仕方ないな・・今回だけだぞ?」
「うん♪イチローせんせ、ありがとっ♪」
外に止めてあった車に、芽衣を先に乗せると、今度はみくをおんぶして連れて行く。
みくも一郎に甘えて全体重をかける。
「(これが、あの二人に見られなくて良かった・・)」
翌日・・
教室にいち早く来るつもりだったみく。そして、芽衣が来てから謝ろうとしていたが、
それは芽衣も同じだったようで、校門で鉢合わせる。
教室に移動した二人は、向かい合って話を切り出すと
「あのね・・メイちゃん・・・」
「みく・・・・」
「「ごめんなさいっ!」」
二人がいっせいに謝ると、え?といった表情でお互いの顔を見る。
けんかをしても、お互い考えることは一緒だったのだと、そのとき初めて気づき、可笑しく思えてくる。
「ぷくっ・・くく・・」
「ふふふ・・・ふふっ♪」
その様子を廊下からこっそり覗いている影がいくつか・・
「良かった・・二人とも仲直りできて・・」
「あれくらい、付き合ってたら当たり前にある喧嘩ですわ。
むしろ良かったんじゃありませんの?雨降って地固まるですわ」
「ははは・・(レイナ君、なぜことわざを・・?)」
みくたちの様子を見て、海外出身のはずのレイナがことわざを言ったため、一郎は冷や汗をたらしてしまう。
「ところで、天草先生・・みくとは何もありませんでしたの?」
「れ、レイナさんっ!!」
「な、何もあるはずがないだろう?!」
「それなら、いいのですけど・・天草先生・・くれぐれも、犯罪には手を出さないようにしてくださいな」
「ど、どれだけ私は信用がないんだ!!?」
最終更新:2008年12月31日 12:15