香水戦士コロン レイナ編(1)

「ふぅ・・もう少しで終わりそうですわね」

放課後の生徒会室。時計を見るとすでに7時を回っているが、レイナだけはそこに残って副会長としての仕事を進めていた。

「あ・・あの・・」

控えめな声が聞こえる。部屋に居るのは自分だけだと思っていたレイナは誰か居るのかと顔を上げると、目の前に一人の少女を確認する。
長い黒髪を後ろで三つ網にして眼鏡をかけた少女。一見して彼女がおとなしい性格であるとわかる。
レイナはその少女について知っていた。

「(この子は・・) 柚木さん、どうしましたの?後の仕事はわたくしがやっておきますから、あなたはお帰りなさい」

その少女の名前は柚木詩織、生徒会役員の一人である。
彼女のことを心配して、レイナは家に帰るように言うが、詩織はその場に立ったまま口を開けようとしない。

「・・・・・わたくしに用ですの?」
「はい・・相談したいことが・・・」

沈黙に耐えられなくなったレイナが質問すると、詩織は小さな返事とともにうなずく。
その瞬間、レイナはなぜ面倒見の良い春菜ではなく自分なのだと頭を抱えそうになるが、
相談をしに来ている相手の目の前ということもあって抑える。

「それで、なんの相談ですの?」
「私・・自分に自信が持てなくて・・」
「(確かに、それはなんとなくわかりますわ・・)それで?それとわたくしにいったいどんな関係が・・?」

自分に自信が持てないことで、なぜ自分に相談してくるのか・・自分とその悩み事の接点がわからず詩織に尋ねる。

「憧れてるんです・・レイナ先輩のようにかっこよくなりたくて・・・」

詩織の口から思っても居なかった言葉が返ってくると驚くが、自分に憧れていると言われているため悪い気はしない。

「そ、そうですの?・・(なかなか、見る目がありますわね・・)」
「それで・・一体、どうしたら先輩のようになれるのか聞きたくて・・」

初めて詩織の視線がレイナに向けられる。一直線に純粋な思いを伝える詩織の瞳を見て、
真剣に返すべきだと答えに悩み、返事まで間が空いてしまう。

「・・わたくしのように・・なんて考えないことですわね。どう頑張ってもあなたはあなたですもの・・
でも、頑張ることには意味がありますわ。わたくしだって、最初から自信があったわけではありません。
それ相応の努力を積んできたつもりですわ。
だから、柚木さんももう少し頑張れば、自分に自信が持てるようになるかもしれませんわよ?」

少し長くなってしまい、言い終わった後には臭かったかと照れくさそうに赤くなるが、
詩織には言葉がちゃんと伝わったようである。

「は、はいっ 私、がんばってみます・・」
「ええ・・それじゃあ、もうお帰りなさい?・・ご自宅まで車で送って差し上げますわ」
「大丈夫です・・先輩のお仕事・・邪魔したくないですし・・・」
「そうですの?」
「相談に乗ってくださってありがとうございました・・それじゃあ、さようなら」


翌朝・・
車から降りたレイナは疲れた様子で歩いていた。
それもそのはず、昨晩詩織の悩み事を聞いてからも仕事を続け学校から帰ったのは9時前。
授業終了から実に6時間近くも生徒会室にこもって仕事をしていたのだ。

「(昨日あれだけやりましたし、今日はゆっくり休めそうですわ・・)」

放課後には休めると思い、教室に向かって歩いていると一年生の教室前にちょっとした人垣ができていた。

「?・・朝から、一体何の騒ぎですの?」

教室の中に一体何があるのか、気になってしまい人垣を掻き分けて中へと入っていく。

「っ・・レイナ先輩っ!おはようございます」
「・・?(誰ですの?)」

騒ぎの中心にいた人物は、レイナを見るや取り巻きを避けて挨拶に来る。
しかし、その人物に見覚えのないレイナは返事を返せずにいた。

「先輩!私、柚木詩織ですよ。忘れちゃいました?」
「え?あ・・柚木さん?驚きましたわ・・昨日と全然雰囲気が違うんですもの」

自分から話し掛けても、なかなか話しを続けることができなかった昨日とは大違いであり、
それは外見にも良く表れている。
後ろで三つ編みにされていた髪は下ろされ、軽くパーマがかけられている。
めがねは外され、化粧も昨日とは手の込み方が違っている。
きちっと着ていた制服も今日は着崩しており、変貌というより変身に近い。

「でも、一体どうしましたの?いきなりこんな・・」
「私、昨日の帰りに香水を買ったんです。これをつけたら、なんだかきれいになった気がして」
「・・(おかし過ぎますわ・・たかが香水でここまで自信がつくなんて・・・)柚木さん・・」

キーンコーンカーンコーン!

「授業が始まってしまいますわね。それじゃあ、失礼しますわ」

詩織が取り出した香水を見て、不審に思うがチャイムが鳴ってしまったためその場は何もせずに去る。


そして放課後・・

「(あの香水、絶対に怪しいですわ・・確か、この辺って言ってましたわね・・)」

今日は休もうと思っていたが、授業が終わるとすぐに詩織の教室に行き、どこで香水を買ったか聞き出すと、
車も呼ばずにその場へ直行した。
そこには詩織の言っていた通り、香水を広げて売っている女性がおり、レイナも客を装って接近を試みる。

「いらっしゃい、お嬢さん♪どんな香水をお探しで?」
「新しい香水が欲しいのですけど、どんな香水がいいか悩んでますの・・」

客がレイナしか居なかったため、香水売りの女性はすぐに食いつき話しかけてくる。
なるべく客であると思わせるため、レイナは演技をすると話は進んでいく。

「それでしたら、お使いの香水を見せていただけると、お好みがわかるんですが・・いいでしょうか?」
「え・・ええ。構いませんわ・・」

ここで渋ると不審に思われてしまうと、素直に使っている香水を差し出す。
それは、ピクシー・コロンへの変身用香水。少量なら変身せずに普通の香水として使えるこの香水は、
香りが気に入っているため本当にプライベートでも使用しているのだ。

「珍しい種類ですね。少し使ってもいいですか?」
「どうぞ・・(今のところ、妙なところはありませんわね・・・ひょっとしたら、気のせい・・?・・いえ!そんなことありませんわ!)」

プシュッ

「きゃあああぁぁぅ?!!」

首元に香水を吹きかけた瞬間、女性は悲鳴を上げて香水瓶を放り投げる。
レイナは辛うじてキャッチするが、女性のただならぬ拒絶反応・・そして、体の一部が透けているところを見て、
ひとつの結論に至る。

「まさか・・悪臭モンスターですの?!」


「くぅ・・まさか、コロンだったなんてね・・」

香水を浴びてしまった香水売りの女性・・もとい悪臭モンスター「臭麗」は、
香水がかかった部分を布で拭き取りながら、レイナと距離をとる。

「『クロス・フレーバー』!!」

レイナも正体がばれてしまった為、その場で変身・・
幸い、今はレイナと臭麗しか居なかったため、臭麗を倒せば平気だと判断したのだろう。

「逃がしませんわ!」
「ふふ・・お前の相手はこの子さ!いらっしゃい、私の可愛い操り人形!」
「えっ?!」

臭麗が呼び出したのは、今朝・・そして放課後にも会話したばかりの詩織。
しかし、どこか様子が違う・・それは、今朝のような外見でのものではない。

「その女を倒しなさい!」
「はい♪」

臭麗の指示を素直に・・いや、喜んで聞き入れた詩織はピクシー・コロンに飛び掛る。

「柚木さん!何でですの?!あなたがこんな・・・・うっ・・!」
「先輩♪私、臭麗様のおかげでこんなに綺麗になれたんですよ?この香水のおかげで・・」

後輩が敵となって現れたことにすっかり動揺してしまっていたピクシー・コロンは
簡単に詩織に捕まってしまう。
そして、それと同時に強烈な悪臭を嗅いでしまう。
しかし詩織は悪臭に気づいている様子はなく、平然とピクシー・コロンに話しかけて香水を見せる。

「これを掛ける度に、自信が湧いてくるんです」
「(くぅ・・この匂いは・・堪りませんわ・・・まさか、あの香水が?)」

詩織が見せ付けるように香水を振り撒くと悪臭はいっそう強くなる。
そこで、ようやく詩織の悪臭の原因が香水であったことに気づく。

「(でも、おかしいですわ・・学校で話したときは普通でしたのに・・今はこんな・・)」

そう・・そして、何よりこれほどの悪臭であるにも拘らず、詩織は香水を嗅いで顔を顰めるどころか、
むしろ芳しいものでも嗅いでいるかのような様子である。

「あーはっはっは!!その顔はこの状況を理解できていないって様子ね?
良い事を教えてあげるわ。その子は私の香水の洗脳によって嗅覚が狂ってるのよ。
そして、今その子が使っている香水は私のお気に入り♪でも、コロンには刺激が強すぎるようね」
「っ?!(なんて事を・・)柚木さん、お止めなさい!」

何とかして詩織を正気に戻そうと、悪臭に耐えて必死に呼びかける。
しかし、ピクシー・コロンの声は詩織には届かず、逆にその声を遮ろうとピクシー・コロンの顔に胸を押し付ける。

「先輩にも、この香水の匂いを嗅がせてあげますね」
「ん”っ!!んぅ~~~!!!(うぅ・・近くで嗅ぐと・・いっそう強烈ですわ・・)」

ピクシー・コロンは詩織の胸によって呼吸を遮られるだけでなく、息を止めてもなお鼻腔に侵入してくる悪臭にも苦しめられる。


「ふふふ♪さすがのコロンも一般人を相手にしては本気を出せないみたいね」

遠すぎず近すぎず、臭麗は安全でかつ良く見える距離でピクシー・コロンが苦戦している姿を見物し、優越感に浸る。

「(く、空気を・・・せめて・・すこしでも・・・・)」

悪臭は未だに辛いが、鼻が慣れたおかげで最初よりは幾分ましに感じる。
しかし、酸欠は時間が経つほどに辛くなってくるため、ピクシー・コロンは胸と顔のわずかな隙間から悪臭でない新鮮な空気を吸おうと努力する。

「っ・・・足りない・・匂いが足りないっ!」
「何をしてるの!?」

ピクシー・コロンが空気を吸おうとしていることに詩織は気付いているはずであり、気付いているのならそれを妨げようとするはずである。
しかし、突然何かが切れたかのようにうろたえはじめ、事もあろうにせっかく捕らえたピクシー・コロンを開放してしまう。

プシュップシュップシュッッ

臭麗が声を大きくして詩織の失態を叱るが、まったく耳にしている様子はなく、一心不乱に香水を体に吹きかける。
すると、落ち着きを取り戻し表情も穏やかなものとなる。

「ぷはぁっ・・はぁはぁ・・・(危うく、意識が飛ぶところでしたわ・・・)」

この絶好のチャンスを逃してなるものかと、空気を吸えるだけ吸い込んで体力回復を試みる。

「(洗脳を強くしすぎたかしら・・あれじゃあ、麻薬のようなものね)まあいいわ!さあ、その女をやっておしまい!」
「先輩、次はこっちを嗅がせてあげますね」
「お、お待ちなさい!」

深呼吸していたところに詩織が接近してくると、慌てて距離を取る。
ダメージを受けた身体でいきなり動いたせいか、眩暈がして一瞬身体がふらつくが何とか堪えて詩織と向かい合う。

「(何とかして彼女を正気に戻さないといけませんわね)」

臭麗と戦おうにもその前に詩織が邪魔に入ってきてしまうため、まずは詩織のほうから何とかしようと考える。
そして、ピクシー・コロンの取った行動は・・

「(少々手荒かもしれませんが、仕方ありませんわ)『ローズ・パヒューム』!!」

匂いによって施された洗脳を、匂いによって解くという荒業を試みる。
悪臭モンスター相手なら絶大な威力を持つ「ローズ・パヒューム」、果たして操られている詩織には効果があるのか・・


「・・・・・・・・・・・」

舞い散る花びらが消え、そこに詩織が黙って立っている。この時点では、変化があるのかわからない。
しかし

「く・・くさい・・・先輩、私 こんな臭い匂いは要りません」
「ふふ♪その子の洗脳はこれ位じゃ解けないわよ」

詩織の表情はよく見ると顰め面になっている。作戦が失敗したのだ。
そして、最悪なことに詩織に悪い印象を与え、先程までの先輩を慕うような表情は侮蔑の表情へと変わる。

「ずっと憧れてたのに・・こんな臭い匂いを出すなんて・・・幻滅しました」
「違いますわ!柚木さん、あなたは鼻が」
「何も言わないで下さいッ!その可笑しな鼻を正直にしてあげます!!」

怒りにも似た感情をピクシー・コロンにぶつけ、再び襲い掛かる!
飛び掛る前に香水を大量に体に吹きかけたため、悪臭はより一層酷いものとなっており、
今の状態で捕まってしまえばピクシー・コロンは地獄の悪臭責めを受けることになるだろう。

「(捕まるわけには行きませんわ!)・・・・むっ!?(なんて匂いですの・・これを直接嗅がされたら・・・)」

攻撃を回避したが、その際に詩織の体から香水が臭ってくると思わず鼻を覆って顔を背ける。
それほどまでに大量に香水をつけた詩織の体が臭いのだ。


「逃げてばかりじゃ、その子には勝てないわよ?」
「う、うるさいですわ!!彼女を解放したら次はあなたの番ですから、覚悟して待ってなさい!」

高みの見物を決め込んでいる臭麗の一言に、噛み付くように言い返すが、今の戦況では臭麗の番が来るのは難しい。
何せ、詩織は強力な攻撃力を持って居る上に必殺技が通じないのだ。
攻撃手段が「ローズ・パヒューム」しかないピクシー・コロンにとってこれは致命的である。

「ふふ♪私のほうを気にしてて良いのかしら?」

臭麗がピクシー・コロンの背後を指差す。反射的に視線の先を見ると、目の前には詩織が迫っていた。

「しまっ・・!」
「捕まえましたよ。先輩 さあ、可笑しくなった鼻をリハビリしましょう?」

しっかりとピクシー・コロンを拘束し、自分の体に纏った香水の匂いを嗅がせようとする。

「んんっ!!(息をしてはいけませんわ・・・・でも、この匂い・・)むぅ・・うぅぅ・・・」

息を止めていても悪臭を嗅ぎ取ってしまう。それならいっそ、この無呼吸状態の苦しさから開放されるために息をしてしまおう・・
とも考えたが、後一歩のところで踏みとどまる。

「う・・(ダメ・・もう・・限界ですわ・・・・)っはぁ・・・ぅっ・・くさい!?!!」

ピクシー・コロンの吸い込んだ空気には、十分に詩織の香水が溶け込んでおり、強い悪臭に思わず声を漏らす。

「せいぜい、苦しみなさい?たっぷり弱ったところで洗脳してあげるわ」
「柚木さん・・ごほっ・・・放して・・・・ください・・まし・・」

口を開けることも困難な悪臭の中に居る中で、わずかな望みに賭けて詩織に懇願する。
咽ながらも言葉を出し切った健気なピクシー・コロンだが、詩織の返答は・・

「ダメに決まっているじゃないですか!」

即答で拒否すると、抱きついていた体勢からピクシー・コロンを押し倒す。
上から覆いかぶさるような体勢はピクシー・コロンの脱出をよりいっそう困難にする。

「ただ匂いを嗅ぐだけじゃダメですね・・」

拘束をいったん緩めて香水を取り出す。そしてそれを・・

プシュプシュップシュッ・・プシュゥーーー

ピクシー・コロンの体に大量に吹き掛ける。
一般的な使用量より圧倒的に多く使用しているため通常の香水ですら臭くなるのだが、
この香水は通常の香水ではなく悪臭香水。その匂いは通常の物の比ではない。

「ぁ・・う・・・(なんですの・・力が・・抜けて・・・)」

変身用の香水の上から悪臭香水を振りかけたためか、変身に影響を及ぼし、
ピクシー・コロンの力が弱くなっていく。
ただでさえ不利な体勢で悪臭のダメージを受け、さらに脱力してしまえばピクシー・コロンの勝機は全に消えてしまう。

「さあ、止めを刺しておしまい!」

臭麗の言葉がかかると、詩織は言われたとおりにピクシー・コロンの顔を胸で潰す。
先程と同じ責め・・しかし、香水の量が違うため威力は大違いである。

「っ!!?!?!(むうぅ・・頭が・・割れそう・・ですわ・・・)」

香水は「臭い」によって嗅覚や体を蝕むだけではなく、「刺激」によって脳すら蝕み眩暈・頭痛を生じさせる。

「ふふふ♪いい様だわ。そのまま私の香水を嗅いで大人しくなっちゃいなさい?」
「(大人しく・・)」

そう、気絶さえすればこの苦しみからは解放されるかもしれない。
しかし、それでは詩織が解放されず、下手すれば春菜やみくが戦うことになる事だって考えられる。

「(それだけは・・・・いけま・・せんわ・・・・うぅ・・)」

しかし、体のほうはすでに限界で、この状態から巻き返すことは完全に不可能。気絶も時間の問題だ。

「そこまでです(だよ)!!!」


「誰?!」

臭麗と詩織は背後から響く声に思わず振り返る。その際、詩織は立ち上がったため、一時的にピクシー・コロンは開放される。

「『フローラル・シャボン』!!」

ピクシー・コロンから離れた詩織をすかさず泡の中に閉じ込めてしまう。
臭いをシャットアウトする泡のおかげで、ピクシー・コロンはようやく悪臭から開放される。

「柚木さん・・・ごめんなさい・・少しの間だけ我慢していてください」
「くっ・・まさか、他のコロンまで来るなんて・・・」

2対1だった戦況が1対2となると、この場は不利と判断して逃げ出そうとする。

「おぉっと!逃げようったってそうは行かないよ♪
レイナ先輩をあんなになるまでした責任はちゃ~んと取って貰わないとね?」

先読みしていたプリティー・コロンが、「スウィート・ミスト」で臭麗の退路を閉ざす。
反対側にはキューティー・コロンがピクシー・コロンを抱えており、
臭麗にしてみれば、前門の虎後門の狼といった状況である。

「無茶はあまりしないで下さい・・私たちが来たから良かったんですよ?」
「あ、貴女に・・無茶なんて言われたくありませんわ・・・それより、肩を貸してくださいまし・・」
「は、はい・・」

変身用香水を吹きかけ、悪臭を紛らわせることで一時的に回復したピクシー・コロンは、
ふらつきながらも肩を借りて立ち上がると、臭麗に対し両手を突き出す。

「貴女には、お礼をしないといけませんわ・・」
「い、いらないわ!そんなもの結構よ!!」

両手を突きつけられた臭麗の様は、まるで蛇に睨まれた蛙のようである。
顔を青ざめさせながら左右に振り、後ずさりする・・

「ご遠慮なさらずに、お礼はちゃんと返さないと家名を傷つけてしまいますもの・・『ローズ・パヒューム』!!」
「い、いやああぁぁぁ!!!せっかく、コロンを倒せると思ったのにいいぃぃぃ!!!!!」

叫び声とともに、バラの花びらに包まれた臭麗は浄化されていった。
そして、悪臭香水によって淀んでしまった周りの空気はもとに戻り、詩織も洗脳が解けたのか気を失ってしまう。

「柚木さんっ!くっ・・」
「もー!レイナ先輩は人の心配より自分の心配!」

倒れた詩織に駆け寄ろうとするが、自分のほうも溜まっていたダメージがぶり返してきたため倒れてしまい、
プリティー・コロンに注意されてしまう。

「安心しましたわ・・・でも、安心したら・・眠気が・・・・・すぅ・・すぅ・・・」

敵は居なくなり、詩織は解放され、キューティー・コロンとプリティー・コロンがいる状態に安心しきったピクシー・コロンは
昨日からの疲れを回復しようと深い眠りについていってしまう。

「あれ?寝ちゃった・・?」
「きっと疲れてたんでしょうね・・でも、どうしましょう。
このまま柚木さんとレイナさんを運ぶのはちょっと・・私一人では難しいですし」
「もちろん、みくは無理だよ?・・・あっ!良い事思いついた♪」

その場に居続ければいずれ一般人に見つかってしまい兼ねないため、どうにかして移動しようと考えていると、
ピクシーコロンが何かを思いついたのか、手をポンッと叩く。


「それで・・私を呼んだと言うわけかい?」
「ごめんなさい 天草先生以外頼れる人が居なくて・・」

ピクシー・コロン・・今は変身を解いているためみくの提案で呼び出された一郎。
ため息を吐きながらレイナを背負って、みくと同じく変身を解いて詩織を背負っている春菜と一緒に注射してある車に向かって歩いていく。

「せんせ、嫌そうな顔してるけどホントは嬉しいんじゃないの?レイナ先輩と密着できて・・」
「っ!?馬鹿なことを言うんじゃない!レイナ君は私の生徒であって・・・っ!」

からかうみくに動揺させられていると、レイナの髪の毛から良い香りが風に運ばれて一郎の鼻腔をくすぐる。

「(これは・・シャンプーの香り・・)」
「あぁ!イチローせんせ、鼻伸ばしてるー!」
「ち、違うッ!これは・・その・・・レイナ君がどんな香りが好みか純粋に知りたかっただけだっ!!」

ムニュッ

「っっ!?!(この感触は・・)」

言い訳をしようと首を振った際、体まで動いてしまい背中にレイナの胸が当たる。
やわらかい感触に思わず一郎は顔が赤くなってしまい・・

「今度は顔が赤く・・せんせー・・」
「天草先生・・」

今までからかっていたみくだったが、一郎の反応がどんどんエスカレートしていくと、
次第にジト目に変わっていく。
春菜にいたっては、どう接して良い物かと一郎から一歩・・いや、数歩引いてしまっている。

「これは・・誤解だーー!!!」


翌朝・・登校してきたレイナは一年生の教室をのぞきに行く。
そこには、昨日とは打って変わって大人しそうな外見に戻った詩織がいた。

「(どうやら、操られていた影響は無かったみたいですわね)」
「あ・・・あの・・レイナ先輩・・・」

ふと、視線に気づいたのか詩織はレイナのほうを向くと立ち上がって、歩いてくる。
そして、ちょんと制服の袖を掴み、どこか場所を移そうと誘う。

「昨日は・・ありがとうございました・・・」
「お礼を言われるほどの事ではありませんわ・・・・・え?昨日・・」

人通りの少ない校舎裏にやってくると、詩織はまずレイナに頭を下げる。
何気なく返したレイナだったが、「昨日」という言葉に驚く。
何せ、昨日の詩織と言えば洗脳されていたため、記憶が失っているはずなのだ。
では、何に対してのお礼なのか・・レイナは嫌な予感が頭を過ぎる。

「私・・昨日のこと、全部覚えてます・・・」
「(やっぱりですのね・・・)柚木さん・・このことは・・」
「だ、誰にも言いませんっ!」

予感が的中したレイナはせめて詩織に口外しないようにと頼もうとするが、
先に詩織がレイナの意を察して首を左右に振りながら言い切る。

「感謝しますわ。もし人に知られたりでもしたら大騒ぎですもの」
「そんな・・レイナ先輩に、お礼を言われることなんてしてません・・・・私のせいで先輩は・・」

昨日のことを覚えていると言うことは、レイナが自分のことを呼びかけていたにも拘らず攻撃を行い、
臭麗に言われるがままに止めを刺そうとしていたことを覚えているのだ。
憧れの先輩を傷つけてしまったことを、詩織は深く後悔している様子である。

「あれは貴女の意思ではないんですもの、謝る必要はありませんわ」
「は、はい・・」
「それより、柚木さん。一昨日から比べて少し積極的になりましたわね」

ほんのわずかな変化、おそらく詩織自身ですら気づいていない変化を見抜く。

「ほ・・本当ですか?」
「ええ、わたくしは嘘を言わない主義ですもの・・それより、そろそろ教室にお戻りなさい」
「わかりました・・あ、あの・・私、言われたとおり頑張ってみます。それで、自分に自信が持てるように・・」
「応援してますわ」

教室に戻ることを促され、詩織は最後に先日言われたことを実行すると宣言すると、早足で教室へと戻っていった。
最終更新:2008年12月31日 12:13
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