香水戦士コロン レイナ編(2-1)

「あ、あの・・レイナさん、頑張ってくださいね」
「それは、わたくしに対する嫌味ですの?」
「ごめんなさい・・そんなつもりじゃ・・」

薫風学園の玄関前・・なにやら生徒たちがバスに乗り込んでおり、乗車前の春菜はレイナに話しかける。
だが、今日のレイナは機嫌が悪いのか、春菜に対して突っかかるような態度を取る。

「はぁ・・貴女に当たっても仕方ありませんわね・・・ごめんなさい」

だが、すぐに自分の非を認めて春菜に頭を下げると、ため息をつきながらバスに乗り込む。

「はは・・レイナ君も大変だな・・」
「天草先生、笑い事じゃありませんっ!」
「そうだったね・・でも、彼女にとっては良い体験が出来るんじゃないかな?それはそうと、君だって頑張ってこないとダメだろう」
「あ、そうでしたっ!それじゃあ、失礼します」

一郎と話をしていると、すでに春菜が乗るバスには春菜以外の全員が乗り込んでおり、慌てて一郎に挨拶するとバスに乗る。


学校からバスが出てから数十分後・・
レイナは担当である牧場の牛舎の掃除を行っていた。
最初は臭い、汚いというマイナスな感想しかなく、牧場主がいなくなってからは愚痴を零している。

「はぁ・・何でわたくしがこんな事を・・これでは、牛の匂いが体に染み付いてしまいそうですわ・・・」

作業しやすいようにと渡された帽子に、自慢の金髪をすべて収めているため、匂いが染み付く事はめったな事がない限りないのだろうが、
気になっているのか、視線の邪魔になるほど帽子を深く被り直す。
そこまで嫌がっていても、彼女が仕事を続ける理由はなんなのか・・

「ですが、学校の行事と言う以上、途中で投げ捨てる事も出来ませんわ・・」

どうやら、責任感から仕事を放置しなかったらしい。
ましてやレイナは生徒会副会長・・生徒の模範となる存在が、規律を破る事は出来ないのだろう。
まあ、その事もあって真面目に取り組み、牧場主が戻ってくる前に掃除を終わらせてしまう。

「ふぅ・・ようやく終わりましたわ・・でも、戻ってこられるまで黙って待っているのも時間の無駄ですわね・・何か仕事があれば良いのですけど・・・」

掃除用具を持って、他に掃除をする場所はないかと牧場内の土地を歩き回る。しかし、何処の牛舎も掃除が終わっている。
そんな中、諦めずに歩いていると、ひと際異彩を放つ木造の牛舎が視線に入る。

「なんですの・・あそこだけ離れてますし・・」

仕事云々ではなく、単純に気になったようで、木造牛舎に近づいていく。
近づけば近づくほどにその牛舎がいかに古いかがわかる。
壁は一部剥がれており、僅かに柱が歪んでいる・・いくらなんでもこれでは牛も住みたくないだろう。

「ずいぶん古いですわね・・それに・・・んっ!扉も重いですわ・・」

こんな場所は使われていないだろう・・そうは思っても、念のための確認をしようと扉を開けて中に入る。
中の様子はと言うと・・

「うっ!・・・な、何ですの・・?この有様は・・・」

牛舎の中には牛はおらず、昼だと言うのに薄暗くじめじめとした空気が漂っていた・・
だが、そんな湿気すら気にならないほどに酷い悪臭が立ち込めている。
掃除をまったくしてこなかったのだろう、床を見ると牛がいないはずなのに糞が転がっている。
視線を上に移すと、牛が体を休めるときにクッション代わりにする藁が積もっていた。

「酷い匂いですわ・・どうやら、ここは掃除の必要もありませんわね・・」


鼻を覆いながらすぐさま牛舎を出ようとしたが・・

ギイイイィィ・・・

レイナが後ろを向いたところで、扉は何者かの力が働いたかのようにゆっくりと閉まり始める。
慌てたレイナが外に飛び出そうとした頃には、扉は重たい音を上げて完全に閉じてしまう。もちろん開けようとしても開く気配はない・・

「なっ・・!?扉が勝手に・・?ど、どうしましょう・・びくとも動きませんし、助けを呼ぶにも圏外ですわ・・」

レイナが自力でこの場を脱出する事も、助けを呼ぶ事も出来ない・・
となるとレイナに残された道は、誰かが自分が居ないことに気づいて探しに来るのを待つことだけである。
そうとわかれば、無理に動こうとせず、匂いも我慢してその場で大人しく待つ事にする。

「・・・・・・・・・・こんなところで来るかわからない人を待つと言うのも退屈ですわね・・」

最初は扉の前に立っていた、それから扉にもたれ掛かり、しばらく時間が経過したが一向に人が来ることはない。
こうなると、レイナは扉の近くをぐるぐると回り始める。
普段、みくに落ち着きがないと言ってばかりだったが、この状況になって改めてみくの気持ちを理解してしまう。
退屈で仕方ないのだ。

「もしかしたら、どこかから出られるかもしれませんわ・・」

退屈の境地にたったレイナは遂に行動に移る事に・・
募りに募った退屈を紛らわすのも目的だったのだろうが、これだけボロい建物ならどこかがもろくなっているだろう、脱出の道があっても不思議ではない。
果たしてどちらが本当の目的なのかはわからないが、レイナは牛舎の奥に向かって歩き始める。

「それにしても、相当年季の入っている建物ですわね・・」

歩きながら牛舎の中を見回し、思わずそう漏らす。
プレハブ牛舎と違って照明は無いが、壁や屋根の僅かな隙間から光が差し込んでいたため、視野の確保は可能であった。
だが、このよどんだ空気と悪臭は、たとえ隙間風があっても消えることなく、レイナも未だに慣れないようで鼻を押さえている。

「この辺りには脱出できそうな壁はありませんわね・・もう少し奥に行って見なければ・・・」

念入りに辺りを調べると、次の箇所に移動・・これを繰り返していく。

「ふぅ・・次で最後ですわね・・」

結局、入り口近くの区画から順に調べつくしたが、何処にも抜け道は無く、反対側の区画まで来てしまう。
レイナに残されたチャンスは後ひとつ。これがダメなら、やはり誰かの助けを待たなければならない・・
これまでとは違い、緊張した様子で移動すると・・

「っ?!」

最後の区画に入る直前、レイナの足が止まった。
目の前に何か大きな二つの影転がっていたのだ。
薄暗いためはっきりと判別できないが、目を凝らして見ると、影の招待は牛であると判別できた。

「・・驚きましたわ・・でも、牛くらいなら・・・」

牛舎の掃除の最中に散々見ているため、近寄れないほどではない。
眠っている牛を起こさないようにゆっくり区画に入ろうとする・・

「フウウゥゥゥ・・」

「きゃあっ?!」

だが、第一歩を踏みしめたところで、牛が大きな鼻息をする。
突然の出来事にレイナはびくっと体を反応させて短い悲鳴を上げてしまう。
危うく転びそうになるが、床は掃除されておらず汚れ放題・・そう思ったら転んではいけないと持ち堪える。

「はぁ~・・(あ、危なかったですわ・・)まったく!驚かせないで欲しいものですわっ!」

このような事態を招いた張本人である牛に悪態をつきながらも、出しそびれた第二歩を踏むと、気を取り直して脱出口を探し始める。
だが、探し始めて間も無く・・

「ブモオオオォォオッ!!」

眠っていた牛が牛舎全体に響き渡るような鳴き声を上げる。
その大きな声にレイナは肌で音を感じ、身を竦める。
鳴き声の主は、すぐ傍に人が居ることを知っているのか知らないのか、のそっと起き上がる。
その姿を見てレイナは再び驚愕することになる。

「な・・?なななっ?!」

あまりの衝撃に、開いた口が塞がらない・・
それもそのはずだ。起き上がった牛が体を激しく震わせると、骨格に変化が現れ始めたのだ。
地面に付いていた前足は細くなっていき、後足の付け根が尻へとずれて長くなる。
大きな丸太のような胴も変形し歪な楕円形になっていく・・
わかりやすく言ってしまうと、牛が人間の形に近づいているのだ。

「ブゥンッ!」

鳴き声の主は背後に居るレイナの気配に気づいたのか、振り向いて睨みつける

「っ?!・・ん・・?うっ!・・臭い・・・この匂いは、一体?」

今まで衝撃が大きくて気づかなかったが、鳴き声の主からは強烈な悪臭が放たれていた。
僅かに余裕が出来たところで、初めてその匂いに気づくや、すぐさま鼻を覆う。
先程まで牛舎で掃除していたときも、牛の臭いに戸惑ったが、この匂いはそれとは比にならない。
一体、この臭くて不思議な生物は何なのだ・・そうレイナは考えるが、すぐに答えに行き着いてしまう。

「はぁ・・こんなところに来てまで戦いですのね・・・『クロス・フレーバー』!!」

今のところ敵意は見られないが、悪臭モンスターを見つけた以上、
ここで倒してしまわねば、このままだと一般人に危害が加わる恐れもある。
レイナはピクシー・コロンに変身して、目の前の不思議な生物・・もとい「牛鬼」に立ち向かう。

「『ローズ・パヒューム』!!」

牛鬼に向かって吹き荒れるバラの花吹雪・・だが、牛鬼は人間の何倍にも発達した足によって高く跳躍。
ピクシー・コロンの攻撃を軽やかに避けてせる。
そのあまりに見事な回避にピクシー・コロンは一瞬だが、目を奪われてしまう。

「・・・はっ!(何を考えてますの?わたくしは・・牛なんかに見惚れるなんて考えられませんわ・・)」

事もあろうに牛・・しかも悪臭モンスターに見惚れるという行為に、
たとえそれが一瞬であったとしても自己嫌悪してしまい、自分への戒めと目を覚ますために頭を左右に振る。
だが、今は敵が目の前・・例え今すぐにでも忘れたい事があろうと、意識を相手から離して良い訳がない。

「も”おおぉぉぉ!!」
「っ?!しまっ・・!きゃあああぁっ!!」

あれだけの跳躍を見せる事の出来る瞬発力だ、10メートルもないピクシー・コロンとの距離をほんの僅かな隙の間に詰める事など造作もない。
ピクシー・コロンは牛鬼が瞬間移動をしたかのように見えたが、それに驚く前に圧倒的な腕力によって、投げ飛ばされる。

「ぅ・・(油断、しましたわ・・・でも、ここは一体・・?)」

大きく投げ飛ばされたにしては体に痛みがない。きっと何かがクッションになったのだと彼女は思った。その直後・・

むわぁ~~ん

「ぅぐっ!!く、臭いっ!」

自分の下でクッションになっているものから悪臭を感知すると、鼻を押さえて素早く立ち上がる。
見ると、それは藁でできたベッド・・そう、先程牛鬼が牛としての姿だったときに体を休めていた場所である。

「~~!?う、牛のベッドに飛び込んでしまうなんて・・汚らわしいですわっ!!」

素早く離れたとは言っても、体にはまだ牛鬼の体臭が染み付いた藁が纏わり付いている。
ピクシー・コロンはそれを毛嫌いしながら必死に払い落とす。

「ふぅ・・すべて落ちましたわ・・」
「・・ふううぅぅぅ・・!」

ピクシー・コロンは藁をすべて払い落とすと、一安心して胸を撫で下ろす。
しかし、目の前で自分のベッドをあそこまで毛嫌いされてしまった牛鬼にしてみれば、この光景は腹立たしくて仕方のないものだろう。
まだピクシー・コロンは気づいていないが、確実に怒りが篭っているとわかる眼を彼女に向けている。

「ふ、ふんっ!先程は隙を突かれましたけど、今度はそうは行きませんわよ?!気を配ってさえ居れば、距離を詰められる事なんてありませんわ」

だが、彼女も馬鹿ではない・・一度失敗した事を繰り返す事はないと、
途切れていた牛鬼への意識を戻し、とっさの動きに対応できるよう、じっと動きを見つめる。
これでは、いくら瞬発力に自信があっても接近は難しい・・
怒りで気が立っている牛鬼でもそれくらいはわかるのか、なかなか攻め気を見せない。

「ふぅ・・(どうやら、多少はブラフも効いたようですわね・・)」

だが、実はピクシー・コロンの言葉はハッタリ。本当はまだ把握し切れていない牛鬼の身体能力に対応できるか自信がなかったのだ。
そのため、牛鬼が見事にハッタリに嵌ったと安心するが、出来る限り表には見せないようにする。

「所詮、のろまな牛がわたくしを捕まえるなど万に一つもありえませんわ!」

胸を張って目いっぱいに強がり、牛鬼にハッタリであると一切思わせないよう振舞い続ける。
すると・・

ドンッ

「きゃあっ?!な、なんっ」

目の前の牛鬼にばかり注意が向いていて背後が無防備だったピクシー・コロン。
そのため背中に重たい何かがぶつかると、前のめりにバランスを崩してしまう。
だが、汚れた床に体の前面から倒れる事はなく、バランスを取り直してすぐさま後ろを確認する。

「です・・の・・・はぁ・・また、牛ですのね?」

彼女の視線のすぐ先には牛鬼と一緒に寝ていた牛が立っていた。
変形することなく、敵意もまったく見えない・・至って普通の牛である。
数時間前まで何十匹もの牛に囲まれて見慣れていた彼女は恐れる事こそなかったが、
僅かに気を取られてしまった事が災いしてしまう。

「もお”お”おおおぉぉぉ!!」

牛のほうに振り向いたピクシー・コロン。つまり、退治していた牛鬼は視覚の外に居る事になる。
当然、このチャンスを牛鬼は逃すことなく、ピクシー・コロンを背後から羽交い絞めにする。

「え・・?きゃあっ?!こ、こらっ!放しなさい!きたな・・・ぅ”・・!」

牛鬼に最悪の体勢で捕まってしまうと、もう後の祭り。
力いっぱい暴れようが牛鬼が動じる事はなく、叫べばその体臭を嗅いでしまう。
まだダメージこそないが、反撃不可能の絶体絶命の状態である。

「(間近だからですわね・・さっき以上に強烈ですわ・・・)」

牛鬼の体臭が鼻を突くが、羽交い絞めをされた状態では鼻を覆うことは出来ず、表情をゆがめる。
そんな間にも密着している部分には、牛鬼の匂いが染み付いていく。

「ぅぅ・・(牛の・・匂いが体につくなんて・・・なんて事ですの・・)」

自分の置かれた状況に憂い、がっくりとうなだれる。
牧場への職業体験、悪臭と汚れに満たされた場での戦い、そして今の状況・・
いくら戦いの最中であっても、嫌気がさしてしまうだろう。

「フーー!!」
「きゃっ!こ、今度は何ですの?!」

突然、牛鬼が荒い鼻息を吐くと、鼻の真下に位置していたピクシー・コロンの頭に吹きかかる。
生暖かい息に嫌悪と不安を抱きながらも、今の彼女は牛鬼の表情を見ることすらできない。
だが、意外にも牛鬼は何かするわけではなく、ただ座っただけ・・
ピクシー・コロンもそれと同時に汚れた床に膝を付きそうになるが、それだけは堪えて事なきを得る。

「(あれだけ大きな鼻息をして、たったこれだけですの・・?ま、まあ、何にせよ良いですわ・・)」

酷い責めがないのなら、それはそれで良い・・そう彼女が安心したのもつかの間・・

「モォオオ~~」

ビクゥッ

先程、彼女の背中にぶつかってきた牛が目の前に立っていた。しかもピクシー・コロンの顔を直視したまま視線を外そうとしない。

「う、牛になんて見られても嬉しくありませんわ・・早く、あちらにお行きなさい」

牛が自分に危害など加えるはずがないだろうが、その視線が嫌だったのか、拒むように首を振る。
しかし、牛がその場を離れようとはしない・・

「はぁ・・もういいですわ・・」

どうせ、言ったところで牛に人間の言葉が理解できるはずがない・・
そう判断したのだろう。これ以上目の前の牛に気をとらわれず、このピンチを切り抜ける方法を考え始める。
この間、優位な体勢にある牛鬼は何故か攻撃をしてこなかったため、彼女にとっては好都合である。
しかし・・

「っ?!な、何をっ・・・!!?やっ・・おやめなさい・・」

なんと、先程ピクシー・コロンを凝視していた牛が、彼女の顔を舐めようと近づいてきたのだ。
目の前に迫る大きく平べったい舌・・涎が垂れる口から伸ばされた下である。当然、そこにもべったりと匂い立つ唾液がついている。
そんなものを眼前に突き出されているのだから、当然彼女は顔を青くして牛を制止する。

「だ、ダメ・・ですわ・・・顔になんて、そんな・・・んっ!」

制止したところで牛に人間の言葉が理解できるはずがない・・先程の彼女ならこう判断できただろうが、
この状況では冷静な判断が出来ず、最後まで足掻いてみせる。
だが、所詮は足掻き・・牛を止めることは出来ず、舌がどんどん接近して、遂には匂いが強烈と思えるほどの距離になる。

「んうぅ・・(このままでは・・・こんな、汚い舌なんかで・・)」

牛の涎や口の匂いが鼻を突く中で、祈るように目を思い切り瞑る。
彼女にしてみれば、祈ると言うよりは、目の前に迫る醜い牛の顔をこれ以上見たくないのだろう・・

ピト・・

とうとう牛の舌先がピクシー・コロンの顔に触れる。しかも、あろう事かそこは彼女の下唇。
しかも、舌先と言っても大きさが大きさだ。その接触面積は広く、舌が触れた一瞬だけで彼女の全身に悪寒が走る。。

ぬらぁぁあ~~

「っ?!!!?!」

長い一瞬が終わると、顔に触れた舌は額のほうへと上っていく。
ザラザラとした感触に加え、表面にだっぷり覆われた涎が交じり合った筆舌にしがたい不快な感触を顔いっぱいに受け止める。
そのとき、彼女の身を襲った悪寒は、舌先が触れたときとは比べ物にならない・・
額まで舐めきられた彼女はブルッと体を震わせ、体中に・・と言っても露出部しかわからないが、あちらこちらで鳥肌が立っている。

「ぁ・・あぁ・・・あ・・・・わたくしの・・顔が・・」

無惨に涎まみれにされた自慢の顔に、ピクシー・コロンはショックに打ちひしがれる。
しかし、更なる追い討ちが・・

「ひあっ・・!や・・やめ・・これ以上は・・・いやああぁぁっ!!」

グチュ・・グチュッ・・

不快な音を立てながら唾液を泡立て、舌にたっぷり溜まったところでそれを塗りたくるように、ピクシー・コロンの顔を舐めまわす。

ベェロッ

「んっ・・!(は、鼻に涎が・・)」

一舐めで鼻の穴に涎が入り込み、二舐めで顔から涎が垂れてくる・・
さらにそこから続き・・

「ぅ・・あぅぅ・・・(よ、涎が乾いて・・くっ・・堪りませんわ・・・)」

牛の舐め回しが終わったころには、最初につけられた涎がすっかり乾いてしまい、強烈な悪臭を発している。
しかも、発生源が鼻の中であるから、彼女にしてみれば本当に堪ったものではない。
だが、牛の顔が離れていきこれでこの不快な責めから開放されると言う安心感を抱く・・

「はぁ・・(ようやく・・終わりますわね・・・)すぅ・・」

だが、その油断が命取りだった

グエェェェップ!!ゴプッ・・

「っ?!げほっごほっ・・!く、臭いッ!」

醜い音と共に、口から生暖かいガスが放出される。
牛の汚れた腸から精製されたガスの匂い。それにはピクシー・コロンも咽返り素直に思った事を大声で口にする。
だが、彼女には匂いのダメージももちろんだが・・

「つっ・・こんな・・ガスを顔に浴びるなんて・・・屈辱ですわ・・」

オナラとほとんど変わらない・・口から吐き出されたオナラと言っても良いゲップを顔に浴びた・・
その事が彼女にとっては一番のダメージだろう。

「くぅ・・この顔・・・まったく、忌々しいですわ」

自分の顔を散々蹂躙した牛が目の前で、知ったこっちゃないといった表情をしているのが腹立たしくて仕方がないのか、悪態をつく。

「モォ~~~」

ピクシー・コロンの気を知ってかしらずか・・いや、おそらく知らずにだろう・・
のっそのっそとその場を離れていき、また先程のように藁の上に横になって体を休める。

「ブフンッ!!」

牛が去ると、今度は牛鬼が忘れかけられた己の存在を知らしめるように、大きな鼻息をする。

「はぁ・・(とりあえず、この拘束をときませんと・・どうしようもありませんわ)」

とは言っても、牛鬼の羽交い絞めをいくら変身ヒロインと言えど女の子の力で解けるはずがない・・
だが、ふと両脇を押さえつける力が弱くなる・・そして、何故か牛鬼は自ら羽交い絞めを解いてしまう。

「っ?(拘束が解け・・・?)」

突然の牛鬼の行動に戸惑うが、このまま近くに居続けて攻撃でもされてはひとたまりもない。
若干プライドが許せなかったが、致し方ないと牛鬼に背を向けた状態で距離を取る・・

「はぁ・・ふぅ・・・先程は油断しましたけど、今度はそうは行きませんわ!『ローズ・パヒューム』!!」

一呼吸置いてから両の掌を向ける構えを取ると、牛鬼が間合いを詰めて来る前に『ローズ・パヒューム』を放つ。
牛鬼に向かって無数の花びらが吹き荒れ、あたりにはバラの香りがいっぱいに広がる。
これなら、悪臭モンスターである牛鬼は間違いなく浄化されるだろう・・

「や、やりましたわ・・・っ?!」

確かな手ごたえがあった・・花びらの嵐が収まれば、牛鬼が浄化され跡形もなく消えているだろうと彼女は確信するが

「モ"オ"オ"オオォォ!!!」
「そんな・・あれで倒せませんの?」

牛鬼は浄化されておらず、特に苦しむ様子もなくまったくの無傷で立っていた。
これには彼女も落胆と驚愕を隠せないようで、呆然と目の前に仁王立ちしている牛鬼に視線を向けたまま固まっている。

「ッフンッッっ!!」
「・・はっ!しまっ・・きゃあぁっ!?」

こんな「攻撃をしてください」と言っているような状態に、牛鬼も遠慮なく彼女を襲う。
我に返ったころにはすでに遅く、ピクシー・コロンは抱きしめるようにして体の自由を奪われてしまう。

「こ、こら!お放しなさい!(に、匂いが・・)」

正面から、牛鬼の体に押し付けられるような体勢のため、体臭はもろに鼻の中に入ってくる。
抜け出そうにも、自分の足よりも一回りも二回りも太い腕を解く事は出来ず・・

「フウウゥゥゥゥ・・」

牛鬼は何かを始めようと言うのか、まるで体に力を込めているかのように息を吐く。

「(今度は・・何をするつもりですの・・?)っ?!んうぅっ・・!(匂いが変わっ・・)」

仰々しい様子に不安を覚えていると、悪臭に不意を突かれてしまう。
悪臭の正体は牛鬼の体臭・・それまで、他の牛たちのような牛糞の臭いを強烈にしただけのものが、
甘ったるいような腐ったような匂いに変わったのだ。

「(これなら・・先ほどのほうが、ずっとマシ・・ですわ・・・)」

いっそう酷くなった悪臭に、顔を顰めながらも気をしっかりと持ち、震えそうになる足に力を込める。
牛鬼はこれに負けじと、さらなる悪臭を放出するのかと思いきや、彼女を締め付ける力を突然緩めてしまう。
さらには、その場から離れていく。
あからさまに不可解な行動だと、ピクシー・コロンは考える。

「(一体、何のつもりですの・・?)」

支えを失った事で倒れそうになるが、堪えると牛鬼を見据えて謎の行動の意図を探ろうとする。
一方牛鬼はというと、ピクシー・コロンはまるで視線に入っておらず、彼女の後ろの扉を見つめている。
そして、お互いが動かずに少しの間が空くと、牛鬼は大きく息を吸い込み・・・

「も"お"お"おぉぉォっッ!!!!」
「っっ?!!(なんて声ですの・・?鼓膜が破れるかと思いましたわ・・・)」

牛鬼の咆哮に思わず身が竦み、耳を押さえる。声が止んでからも、体に伝わった振動が残っている感覚がある。

弩怒怒ドドどどど努どドドッッ!!!

さらに、そこに別の振動が加わってくる。そして、それは徐々に大きくなっており、まるでこの場に近づいてきているようである。

「今度は何ですの?!」

ドオォォォオンッッ!!!

彼女の不安が声に漏れたとほぼ同時に、轟音が牛舎に響き扉が破られる。
そして、扉の向こうからは牛の大群が押し掛ける。

「な、ななな・・っ?!」

予想の出来ない事の連続に彼女も半混乱状態なのか、口が半開きになったままその場から動かない。
すると、牛たちはピクシー・コロンを囲むように集まり始める。

「はっ・・しまった!・・・くっ・・(逃げられませんわ・・・)」

逃げ道を失ったピクシー・コロン。360度見回しても牛ばかりであるため、先程の悪夢のような記憶が蘇る。

「(まさか・・)」

それと同時に、彼女の中には小さな不安が生まれる。
不安はそこからどんどん大きくなっていき、彼女は冷や汗を浮かべ始める。

「(いいえ・・・ありえませんわ。あんな事は二度とあって堪るものですか・・・落ち着きなさいわたくし・・)」

不安を打ち消そうと、心の中で自分に言い聞かせ深呼吸して気を落ち着かせる。
だが、それらはすべて無駄であったかのように一匹の牛が彼女の体を舐める。

べろっ

「きゃんっ?!」

生暖かくねっとりした感覚・・先程顔に刻み付けられた忘れたくても忘れられない不快感を今度は足に与えられると、短い悲鳴を上げてバッと牛から離れる。
しかし、知っての通り彼女の周りは牛だらけ・・一匹から離れたところで・・・

ヌラアァァ・・

「~~~っ!?!!」

背後から、しかもスカートの中に頭を潜らせて露出したお尻を舐め上げられる。
何度受けても慣れる事などない・・と言うより、彼女にとって見れば慣れたくも無い不快感に身を震わせ、再び逃げるように牛から離れようとするが、
牛に囲まれていると言うこの状況では、結局は同じことの繰り返し。

「っ?いつの間に・・?!」

気付けば牛たちは彼女が満足に動く余裕の無いほどに接近してきており、四方八方からまるで餌にかぶり付く様に舌を伸ばす。

「きゃっ!?お、お止めなさい!こらっ!・・あんっ・・やめっ・・・」

さらに、一匹の牛が彼女の足に頭突きすると、体勢を崩されてしまい牛の円の中に全身が飲み込まれてしまう。

「んっ・・やぁ・・・やめ・・なさい・・・」

これまで届く事のなかった顔や髪にも舌が届くようになると、もう牛の舐め回しは止まらない。
伸ばされる舌をいくら払おうと、他の舌が伸びてくる・・
そのうち疲れてくると抵抗する事を諦めてしまい、牛の成すがままになる。

「・・っぅ・・・(ネトネトして・・気持ち悪いですわ・・・)」

数分も経つと彼女の全身は涎まみれになり、僅かに動くだけで涎の感触が全身に伝わってしまう。
オマケに、涎が乾き始めると酷い匂いが漂い始める。

「く、臭い・・・っ!(あぁ・・悪夢ですわ・・・)」

悪臭に耐え切れず鼻を覆うが、覆っている手も涎まみれで悪臭を放っているという悲惨な現状に嘆く。
しかし、牛たちもいつまでも彼女の体に夢中になっているわけではなく、それからまもなく満足したかのように一斉に離れていく。

「はぁ・・・・(ようやく、終わりましたわ・・・)」

牛たちの責めが終わると、ピクシー・コロンは安堵と疲労から足に力が入らなくなり、汚れを気にする事も無くへたり込む。
悪臭も酷いものだが、それ以上に牛の舐め回しと言う不快極まりない攻撃を受け続けた事で精神的に疲弊しきっており、戦う気力など微塵も見れない。
そんな中、破れた扉の向こうから人影が現れる。
最終更新:2009年07月05日 02:35
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