香水戦士コロン レイナ編(2-2)

「レイナ先輩・・・まさか、ここに居るんじゃ・・・」

人影の正体は、レイナたちの後輩である柚木詩織・・
持ち場から居なくなったまま戻らないレイナを心配して探しに来たのだろう。
人どころか牛すら居るかどうかわからないような、こんな古い牛舎の中も覗き込む。
すると、彼女の目にはピクシー・コロンの姿となって居るレイナが映る。
状況をすべて見ていなくとも、その場面だけでピクシー・コロンが不利であると察知すると、心配で思わず声を掛けてしまう。

「レイナ先輩!大丈夫ですか?!」
「っ!?詩織・・?いけませんわ!逃げなさいっ!!」
「え・・?」

戦いの場、ピクシー・コロンは誰かを守りながら戦う自信は無い・・
そのため、詩織の心配はありがたいのだが足手まといになる事も考えて、逃げるようにと大声で言い聞かせるが、
いきなり逃げろと言われても、こういう状況で体はすぐに動かないものである。

「フンゥゥゥ・・・」
「っ?!(いけませんわ・・詩織を巻き込むわけには・・・)くっ・・!」

牛鬼の視線が詩織に向けられ、何かをしようとしている事に気付くと、力の入らないはずの体に鞭を打って立ち上がる。
すると、牛鬼の腕が巨大化して詩織の細い体を掴もうと伸びる。

「詩織っ!(間に合いましたわ・・)・・きゃああぁぁっ!!」

間一髪のところで詩織の体を突き飛ばして回避させたが、その代償としてピクシー・コロンは身代わりとなり、牛鬼の巨大な掌に捕まってしまう。

「先輩っ?!(どうしよう・・私を助けようとしたから、こんな事に・・・)」

ただでさえ不利な状況に置かれていたピクシー・コロンが、さらに不利な状況に追い込まれたのは自分の責任・・
詩織は自責の念で、ここから逃げないと言う事を忘れてしまう。

「早く逃げなさい!ここは危険ですわっ!」
「は、はいっ・・」

だが、ピクシー・コロンの声で現実が見えるようになると、指示通りにその場から逃げていく。

「そうだ・・天草先生に連絡しなくちゃ・・・でも、携帯番号がわからないし・・・っ!香坂先輩なら・・」

自分ではレイナを助ける事は出来ないが、何か手助けをと考えて、助け舟を求めようと携帯で春菜に連絡を取る。
だが、実習の妨げになる携帯は電源を切る事を義務付けられているため、何度掛け直しても春菜の携帯には繋がらない。

「そんな・・・これじゃあ、先輩が・・・」

こうなると、詩織は遠くに見える牛舎を見つめながら、レイナの無事を祈る事しか出来ない。


一方その頃の牛舎はというと

「(詩織はちゃんと逃げれたようですわね・・)」

文字通り敵の掌の中にいる状況にあっても、詩織のことが気掛かりだったのか、ずっと外を見ている。
すると、不意を突くかのように牛鬼の舌が彼女の顔に伸びる。

「っ!・・・はぁ・・」

だが、先程あれだけ顔を舐められたためか、慣れたくは無かったが多少の不快感には慣れてしまったようでほとんど動じていない。
疲れたようにため息を吐いたピクシー・コロンの態度を、自分を馬鹿にしたものだと取った牛鬼は、鼻息を荒くする。

「フンッッッ!!」

舐め回しが通じないのなら別の責めに移ろうというのか、ピクシー・コロンをその場に横にする。
不潔な地面に背中をべったり付ける事になると、舐め回しに動じなかったピクシー・コロンも顔を歪める。

「今度は何をするつもりですの・・・?」

次にどんな責めが待ち受けているか、不安で額に冷や汗が浮かび、じっと牛鬼の様子を凝視する。
牛鬼はそんな彼女の視線を遮るかのように尻を向ける。
茶色い肌の上でさらに確認できるほど汚れた尻・・ピクシー・コロンはそれを見上げていると、
徐々にそれが大きくなっていく錯覚に陥る。
尻が近づいているわけではない・・純粋に大きくなっているのだ。
先程見せた腕の巨大化・・あの時は詩織を助ける事で精一杯だったため、驚いている暇は無かったが、今度は十分なほどに暇がある。

「これだから、悪臭モンスターは嫌ですわ・・」

嫌悪と呆れ、そして自棄が混じったような表情で言い放つ。
彼女の言葉が終わるとほぼ同時に、巨大尻が降りかかる。
その匂いは直前まで見ていた汚れに相当したものであると、彼女はすぐに思い知らされる。

「っ、~~~!!?(んぐっ・・ぅ・・・・)」

鼻腔を通り過ぎた悪臭は嗅覚細胞を通して脳に強い刺激を与え、それと同時に彼女の平衡感覚を狂わせる。
匂いを感知した直後の彼女を地面が傾いたかのような錯覚に陥らせる程、その匂いは強烈なのだ。

「はぁ・・・(不潔な上に臭いなんて・・・最低、ですわ・・・)」

臭い尻に敷き潰されている事に加え、牛の涎まみれ・・この言葉はどちらかと言うと牛鬼に対してではなく、悪臭に汚されてしまった自分への自己嫌悪の現れだろう。

「モ"オ"ォォぉ」

すでに圧倒的優位に立った牛鬼だが、その手は緩めない。
尻をグラインドして悪臭を残さず嗅がせようとする。
実際、ピクシー・コロンは少しでも匂いを吸わないように息を抑えていたが、
尻が擦り付けられるたびに、悪臭が無理やり鼻の中に侵入してきてしまい小さな呻き声を上げている。
更には、普通なら割れ目には鼻が入る程度が良いところでも、大きすぎる尻は彼女の頭部をすっぽりと収めてしまう。

「(ぅぅっ・・・匂いが・・篭って・・・息が・・できな・・・)」

常時襲い来る悪臭の衝撃に脳が耐え切れず、意識が朦朧とし始めてくる。
視界はぼやけ、顔いっぱいに受けていた不快感も薄れていってるように感じる。

「(はぁ・・・・・意識が・・とお・・・く・・・・)」

視覚も触覚も聴覚も鈍る中、嗅覚だけは衰えることなく、悪臭の苦しみの中で気絶思想になるが、
牛鬼の尻が小さくなり、顔から離れると何とか気絶は免れる。

「はぁ・・はぁ・・・は、はなが・・こわれほう・・・でふわ・・・」

開放された後も汚れた地面にぐったりと横になり、苦しそうに息を吐いている。
すでに呂律が回らないほど彼女は追い込まれており、このままの状態では、何もされなくても気絶してしまう事さえ考えられる。
牛鬼にしてみれば、勝利がほぼ確定しているといった状況。
だが、牛鬼は油断することなく、次は何をしようかと足元にいるピクシー・コロンを見つめている。

「フムウゥゥンッッ!!!」

ピクシー・コロンに届くのではないかと思うほど、大きな鼻息を吐くと、首を2,3回曲げて骨を鳴らす。まるで何かの準備運動のように・・
それから、まもなく牛鬼の頭は先程の腕や尻のように大きくなり始める。

「・・・(何が・・起きてますの・・)」

目の前で起きている牛鬼の大きな変化にも、ぼやける視界ではまともに確認できない。
しかし、それがよりいっそう彼女の不安を駆り立てる。
そんな中、牛鬼の頭は巨大化を続け、最終的には牛舎の天井まで届くほどの大きさとなる。

「っ・・!」

ここまで、はっきりとした変化になると、ピクシー・コロンも確認できたようで表情に驚きが表れている。
彼女の驚愕を他所に、牛鬼は大きな首を舌に傾げる。
大きな口と鼻の穴から吐き出される生暖かい息が全身に掛かり表情を歪めるが、
体力が残っていない今の状態では、体を転がして域の届かない範囲に移動する事すら出来ない。

「フウウゥゥゥ・・・」

重たい首をゆっくり下げると、牛鬼の顔はピクシー・コロンと近づいていく。
そして、その距離が密着しそうなほどになると牛鬼の口が開かれる。
頭が巨大化しているため、開かれた口の大きさも規格外である。
その口で牛鬼はなんとピクシー・コロンの体を飲み込んでしまう。

「っ?!やっ・・!い、やぁぁっ!!」

ベッドのような舌の上に乗せられた彼女は、唾液の毛布に悲鳴を上げるが、
口が閉ざされ、外界とシャットアウトされるとその悲鳴は牛鬼の口の中でしか響かなくなる。

「なんて・・にほい・・・でふの・・・・」

真っ暗な口の中は、劣悪だと思っていた牛舎の中ですら可愛く思えるほどの環境で、
目の前には何も移らず、耳には唾液のクチュクチュとした音しか入ってこない。
鼻には狂いそうになるような悪臭が嫌でも入ってきて、肌は露出している部分にはすべて唾液の感触が伝わっている。
一秒・・いや、刹那すらこの空間に長く居たくないのだが、重く閉ざされた口を今の状態の
彼女が空けられる術はない。
このままでは、この不浄の空間で気を失ってしまうだけである。

「っ・・!きゃっ!?」

だが、口の中に入れるだけが責めではない。
牛鬼の舌が突然うねり出し、上からは唾液が垂れるように落ちてくる。
バランスを崩し、舌の上から落とされそうになったピクシー・コロンは体を伏せてこれを防ぐが、
それが返って逆効果に・・

「ひやっ・・!んっ・・・んううぅぅ!!はっ・・はぁ・・・・」

彼女の体は巻かれた舌によって固定される。
逃げようと力をこめるが、何の抵抗にもならない・・その上、もともと体力が衰弱していたため、すぐに体力が底を付いてしまう。
苦しそうに息を吐く彼女にも容赦のない責めは続く。

「んぷっ・・・ぅ・・っぅぅぅ・・・・ぷはぁっ・・!はぁ・・はぁ・・・」

分泌された大量の唾液を休むことなく顔に掛けられ続け、溺れそうになると、不快感すらも気にする余裕がなくなる。
舌の動きがいったん止まると、何とか呼吸は出来たが、それでも弱りきった彼女には十分な効果があった様で、ぐったりとしている。
そして、貴重な回復時間はすぐに終わり、再び舌はうねり始める。
全身を巨大な舌で撫でられ、転がされ・・大量の唾液は塗られるというよりは浴びせられるといったほうが良い。
劣悪な空間の中でこれらの責めが繰り返し行われた。

「・・・・・・・・・」

彼女にとって数時間にも感じられた長い責めが終わり、口の中から吐き出される。
弱りきっていたところ、傷口に塩を塗るかのごとく過酷な責めを強いられたため、彼女の状態は最悪である。
手足は満足に動かせず、目の焦点もまともに合っていない。
先程までは聞こえていた弱々しい呼吸音ですら聞こえてこない。
ここまで来ると正義のヒロインとして凛々しく戦っていた姿が見る影もない。

「フゥゥ」

顔を元の大きさに戻した牛鬼は、いざ目の前の少女を仕留めようと歩み寄る。
そのとき、足元に移した視界に二つのものが移る。
一つは折られた紙である。何かを書いているのだろうが、そんなものはあっても無くても関係ない。
だが、もう一つの香水は別である。悪臭モンスターを苦しめ、コロンたちを回復させるその香水は、牛鬼にとって厄介以外の何物でもない。
このままピクシー・コロンの近くに置いたままでは、危険であると判断したのか香水瓶を手に取ると、それを放り捨てる。

「フンッ!」

しかし、これが逆に災いする事になる。

カンッ・・パリン!

力が強すぎたのか、はたまた香水瓶が軽すぎたのか、勢いよく投げられた瓶は天井にぶつかり再び地面へと落ちる。
その衝撃に耐えられなかった瓶は割れて、中に入ってあった香水をばら撒く。

「・・・・んっ・・・」

香水と牛舎の匂いが混ざり、異様な香りが形成される。常人なら悪臭と分類してもおかしくない匂いだが、今の彼女にとっては砂漠のオアシス。
香りが鼻をくすぐると、僅かではあるが体力は回復し、目の焦点も取り戻し無造作に捨てられてる紙を目にする。

「・・?・・・・・」

紙には文字が書かれていた。横から見ているため、読み取りづらいが彼女は何とかそれを読み取る。そして、紙に記されていた最後の言葉を呟く・・

「『ローズ・エンブレイス』・・・」

それと同時に、牛舎の中を赤い花びらが舞い散る。
小さな花びらはやがて集まって大きな花びらを形成し、それらが牛鬼を中心にさらに集まり始める。

「?・・??」

牛鬼は目の前で起きていることが理解できなかった。
確かにピクシー・コロンは技名らしき言葉を呟いたが、今は立ち上がることすら出来無い状態にある。
そんな状態において、必殺技など使えるはずが無い・・そう思っていたが、現実に目の前では何かが始まろうとしている。
自分を浄化するための"何か"が・・

「・・・・」

ピクシー・コロンもまた驚いていた。
それは牛鬼と同じく、こんな状態にある自分が必殺技を使えたということと、
その必殺技が『ローズ・パフューム』にも勝る威力を持っていると、この時点で理解したためである。
一人と一匹の不安と驚きを他所に、巨大な花びらは花となり、その中心に牛鬼が立っているという状況になる。

「フ・・フウゥゥ」

牛鬼にしてみれば、銃口を額に突きつけられたような状況である。
普通ならそのような状況に晒されたら、逃げるのは当然である。ましてや、今は牛鬼を拘束しているものは無いのだから。
しかし、牛鬼は逃げ出そうとしない・・いや、この表現は若干違ってくる。
逃げれない・・と言ったほうが適切だろう。
確かに物理的に牛鬼の体を拘束するものは無い。
しかし、漂う花の香りはまるで蝶をおびき寄せるかのように牛鬼を惹きつけているのだ。
頭では逃げないといけないと思っていても、体が動かない。今の牛鬼はそんな状態である。
しっかりと牛鬼が針に掛かると、開かれた花はゆっくり閉じられていき、包み込むように牛鬼を閉じ込める。
先程、口の中に閉じ込められたお返しとしてはぴったりだろう。
花が閉じてから、牛鬼は暴れる様子も無く、それからしばらくして再び花開くとそこに牛鬼の姿は無かった。

「はぁっ・・・・勝ち、ました・・のね・・・」

辛勝のなかの辛勝・・・運が無ければほぼ負けていたであろう戦いで、何とか勝ちを得たピクシー・コロンは気が抜けてしまい、その場で横になったまま意識を失う。


それから、一時間ほど経過すると・・

「やっぱり、助けに行かなくちゃ・・・」

ピクシー・コロンたちの戦いの場に入り込んでしまい、一度は逃げ延びた詩織だが、やはりなかなか反応の無い牛舎が心配のようで、様子を見に行く。

「先輩は・・・・」

先程のように敵に見つかって足を引っ張らないように、牛舎内からは死角になるような場所から近づいていき、ゆっくりと中を除き見る。
すでに先程見た巨大な敵の姿は無かったが、ピクシー・コロンの姿も見当たらない・・

「敵を倒して出て行っちゃった・・?うぅん・・そんな事ない・・・ずっと見てたもの」

中にいることは間違いないと、少し顔を乗り出して中を見回す。
すると、床に倒れているピクシー・コロンの姿を発見する。

「っ・・?レイナ先輩っ!・・・ひどい・・こんな・・」

近づいてようやく気付いたその悲惨な状態に、口を手で覆ってしまう。
しかし、驚いてばかりではいられない。
しゃがみ込んでハンカチを取り出すと、ピクシー・コロンの顔についた涎だけでもきれいに拭き取る。

「ここから運び出すなんて出来ないし・・・香坂先輩に連絡がつくまではここに居ないと・・・」

それから数時間・・詩織は介抱を続けた。



レイナの戦いの翌日。
いつもどおり、一郎の仕事場のソファにレイナは座っていた。
だが、いつもと違うのは、そこに詩織が居るという事だ。

「詩織、昨日は気絶した私を介抱してくださったんですってね・・お礼を言いますわ」
「そんな・・だって、私が邪魔をしたせいで先輩が酷い目にあったんですから、当然です・・・」

お茶を差し出しながらお礼を言うレイナに謙遜し、とんでもないと詩織は首を左右に振る。

「そんな事ないだろう?君のおかげでレイナ君の変身した姿が誰にも見られずに済んだんだしね」

そこに一郎が入り込んできて詩織を褒め称える。
実際、昨日は連絡が取れて一郎たちが駆けつけるまで、牛舎の目に付かない場所にレイナを移動させ、
香水を浸したハンカチを鼻に当てて、少しでも鼻に残った悪臭を和らげようと看病していたのだ。

「そうですわ。謙遜なさらないで」
「は、はい・・」
「それより、天草先生!どうして直接あの事を教えてくださらなかったのですか?!」

詩織に対しては優しく話しかけていたレイナだったが、ソファから立ち上がると一郎に対して鋭い視線を向けながら言い寄る。
"あの事"とは『ローズ・エンブレイス』の事だろう。

「え・・?ああ・・事前に伝えようとしたんだけど、あの時は君に話が通じないようだったから、ああいう形で渡したんだが・・」
「へ・・?あの時・・??」

一郎がレイナに事を伝えようとしたとき、レイナは牧場での職業体験が憂鬱で仕方が無かったようで、まともに話が通じなかった。
彼女もそのときの記憶はろくに残っていないため、おそらくそのときに聞かされたのだろうと理解する。
すると、自分の失態を一郎のせいにしたのだと、レイナは恥ずかしくなり見る見る顔が赤くなっていく。

「し、失礼・・しましたわ・・・・」
「いや、まあ出発前にもう一度伝えなかった私にも責任はあるんだ。そこまで気にしなくても良いさ」

再び、ソファに腰を掛けるとすっかり小さくなってしまったレイナをフォローするが、対して効果は見えない。

「れ、レイナ先輩・・・」
「(失態・・いえ、大失態ですわ・・)」
「おっはよー♪あれ?詩織先輩・・?」

レイナを励まそうと二人が頭を悩ませているところに、みくが元気にやってくる。
すでに放課後であるため、時間帯の間違えた挨拶であるがそれに突っ込む余裕はこの場に居る人間には無い。

「こんにちは・・」
「ん?レイナ先輩、元気ないね・・どしたの?」
「それが・・」

いつもと違う反応にみくは拍子抜けし、一番いつもからかけ離れているレイナを心配する。

「そうだっ!元気の無いレイナ先輩には・・・はいっ♪購買で買ってきた美味しい牛乳。めったに出回らないレア商品だよ」
「きゃあっ!え、遠慮しますわっ!!」

特にこれといって変わったところの無い瓶牛乳だが、それを見るなりレイナは悲鳴を上げてみくから逃げるように距離を取る。

「あれ・・?」
「みく君・・・それは・・・」

みくには昨日のレイナの戦いの事を話していないため、仕方ないと思いながら事情を説明しようとするが。
そこでもう一度扉が開く。

「こんにちは。あ、皆さんもう集まってたんですね」

入ってきた春菜は何かを手に持ち、出迎えた一郎にそれを手渡す。
一郎は苦笑いしながらそれを受け取る。

「これ、昨日の夜に親戚から届いたんです。だから、今日はみんなですきやきパーティーでもと思って・・」
「い、いやああぁっ!!!」

昨日、レイナが牛鬼と戦った事を知っていながら、あろう事か牛肉を彼女の前に出す。
一郎は思った。春菜の性格では嫌がらせということはまずありえない。
だとすると、これは彼女の天然・・
昨日起きたことすらすっかり忘れてしまった大失敗であると。
良心でいっぱいの春菜に伝えるのは気が引けたが、小さな声で伝える。

「春菜君、忘れたのか・・?」
「え?・・・あっ!ご、ごめんなさいっ!!」

ようやく、レイナのことに気付いた春菜は、力いっぱい頭を下げて謝るが、相手であるレイナは部屋の隅に逃げてしまっている。

「もう、牛は結構ですわっっ!!!!」
最終更新:2009年07月05日 02:34
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