【燕(ツバメ)と鯰(ナマズ)】

ツバメとナマズはそれぞれ、常磐(ときわ)堅磐(かきわ)そして天・地を現わす代表的な存在の一つである。紫燕(しえん)や鯷海(ていかい)とも称される。

ツバメと天・太一

紫燕(ツバメ)は、太一(北極星)を囲む天を現わしている。燕は乙(いつ)*1と鳴くと表現されているが、これも「太一」を示している*2。ツバメたちは常磐の国から飛来し、また帰って行くという行動を揺るがさずに絶え間なくつづけており、この動きが休みなくつづく事によって、陰陽や十二支(時間や四季)の動きが整えられている。

ナマズと地・鯷海

日東そのものを、東鯷*3あるいは鯷壑*4とも書くことがある。「鯷」(てい)は列島の大地、「壑」(がく)はそれを取り囲む大海を示しておりナマズのことを示している。つまり、国々の大地(堅磐)自体がナマズなのである。地震を起こすのはナマズであるという考え方も、ここに由来している。

紋章に用いられる鞆(ともえ)の形状は、大きな魚を示しておりナマズの図象と考えられる。また、鞆が渦まき状に描かれるのも太一(北極星)を中心に天がまわっている事を示してもいる。*5

【燕と竜】

特に水中に暮らしている竜たちは、ツバメを好んで食するとされる。竜たちの捕食からツバメを守護しているのが金翅鳥たちでもあり、金翅鳥は竜を喰い殺す。

雨乞いの儀式にはツバメが用いられることもあった。これも、竜がツバメを好むという性質からのもので、竜宮城や水底の竜を誘い出す意味合いがある。

【ツバヒラコ】

ツバメの古い呼称はツバヒラコ*6である。「ヒラコ」は空中に停まって羽ばたく様子を現わしており、蝶や蛾の古称にも音が用いられている。山陰・山陽ではヒーゴ、ヒューゴ*7と呼ばれている例が東部で確認できる。こちらは「日の子」あるいは「火の子」を示しているとされる。

春になるとツバメがやって来る。そのため「日の子」という意味合いで「ヒーゴ」と呼ぶ。(鳥取県)
ヒーゴを追いはらうと火事になる。特に雛鳥のツバメをヒーゴと呼んだりもする。(岡山県)

「日の子」とは、太陽の日照が延び暖かくなる季節にツバメが人々の土地に現われることに由来し、またツバメを捕獲すると火災に見舞われるといった伝承も「火の子」という部分から起こっている。つまり、民間では「太一」ではなく、より身近な天の常磐である「日・太陽」がツバメの象徴として語られていたわけである。

最終更新:2023年12月16日 21:54

*1 鳴き声が乙であるとされる事から、「乙鳥」と書いてツバメを意味する。

*2 「天鳦」というのもツバメのことである。

*3 『漢書』の地理志呉地には「會稽海外有東鯷人、分為二十餘國、以歲時來獻見云。」とある。

*4 鯷海・鯷瀛も同様の語義で用いられており、東方に位置する大海であると解釈されている。

*5 榎本出雲,近江雅和『古代は生きている』、彩流社、1994年

*6 『新撰字鏡』に「豆波比良古」とある。

*7 広戸惇「燕と蝶と蛾の語史と方言」、1984年