【鎌鼬(かまいたち)】

刃物で切られたような傷を人間の足につけてゆく妖怪。切られた傷口には古い暦(こよみ)に良く煉った米飯をぬってシップ薬のように貼りつけるときれいに治るとされる。イタチのようであるとされるが武士のようであるとも語られる。(岐阜県、長野県)

傷口

鎌鼬による傷口からは血が出ることはないと言う。岐阜県では、鎌鼬は人間を切ると同時に薬をつけるので血が出ないと語られている。鎌鼬はつむじ風に乗って人間に近付き、人を傷つけて生血を吸う*1とも言い伝えられており、傷をつける事は目的では無く、副次的なものと見る事も出来る。
この傷は暦の紙を細く切ったものを傷口に貼ることで癒える*2
一般的には、鎌鼬の傷だけが原因となって人間が死ぬという事は無い。しかし、佐渡島では鎌鼬に「かけられた」特殊な傷は、石菖(セキショウ)以外の薬を用いると死んでしまうとされる*3


【構え太刀】

カマイタチという名前は、構え太刀(かまえたち)に由来すると言う。風の神は太刀を振るって原野を疾駆しており、それと遭遇することによって傷が生じると古くは考えられていたようである。

【電柱と鎌鼬】

鎌鼬は、電柱(電線)と相性が悪いとも現代では言われる事がある。鎌鼬に怪異現象として遭遇して傷を負う人間がほとんど身近な体験談として聞かれないのは、電柱が世の中に増えた事が原因であると語られる。
古くは各地に突風や旋風を避けるための呪詛に、背の高い竹ざおの先に金物や刃物*4を結び付けたものが建てられていた。各地に数多く建てられていった電柱は、それと似た物が林立している状態であるといっても良いのかも知れない。


最終更新:2021年04月20日 16:25

*1 和歌森太郎『庶民の精神史』弘文堂、1981年

*2 『本朝医談』

*3 『北窓瑣談』

*4 鎌も用いられており、これを鎌鼬の起源と考える説もある