【朱雀門の鬼(すざくもんのおに)】

平安京の朱雀門に住んでいたとされる鬼。

勝負事・賭け事を大変好んでいる鬼として知られる。人間の姿に化しては、すごろく・碁などをして、相手を負かしては満足をしていた。

【紀長谷雄との勝負】

平安京の貴族・紀長谷雄(きのはせお)と朱雀門の鬼は双六で勝負をしたことがある。

長谷雄の腕前を知った朱雀門の鬼が人間に化けて近づいて挑んだのだが、勝ったのは長谷雄である。勝負に負けてしまった朱雀門の鬼は「鬼神は虚言せぬものだ」という長谷雄の言葉を飲んで、当初の約束通りこの世のものならない美女を長谷雄に与えた。

「この美女はただの美女ではないので、共に過ごして百日が過ぎてからではないと肌を重ねてはならぬぞ」と朱雀門の鬼は長谷雄に告げていたが、我慢が出来ずに長谷雄が五十日目*1に手を出してしまったので、美女は砕けて骨になり消えてしまった。

この世のものならない美女

朱雀門の鬼が紀長谷雄に与えた美女は、死人の盆血を切り集めて造ったものだった。造られてから百日を過ぎると実際の人間に近いものとなり、つないだ血肉や魂も定着したのであろうが、砕け消えてしまった。これは長谷雄に辛抱がなかったためであり、言いつけを守っていれば共に暮らすことも可能であったと言える。

【葉二(はふたつ)の笛】

朱雀門の鬼が所持していたという鬼の世界の大変すぐれた笛。青葉と赤葉の装飾*2があるために「葉二」と呼ばれ、非常に真っ赤な不思議な竹で造られている。

ある明月の夜、朱雀門の鬼が人間の姿になって吹いていたところ、笛の名人である源博雅(みなもとのひろまさ)*3も夜空の下で笛を吹いていた。互いの笛の音を親しんだ両名は持っている笛を交換した。

その後も何度も両名はときどき明月の夜に合奏をたのしんでいた。しかし、互いにどこの誰とも告げ合わなかった博雅は当然、朱雀門の鬼そのものと出会うことはなかったので、博雅の早逝後は交換したままになってしまった「葉二」は、鬼たちの世界から人間たちの世界へと管理者が移ってしまったのだった。

風流な鬼たち

風流をたしなんでいた鬼としては羅生門の鬼も名高いため、「葉二」を所有していた鬼については「羅生門の鬼のことなのではないか」と言われることもある。しかし、賭け事に過熱しすぎる性格であったとは言っても朱雀門の鬼も、鬼のなかでは別格な一人でもあるのだから、風流なたしなみが皆無だと勝手に断じることも別に根拠とするところはない。

【平安京と朱雀門】

朱雀門は大内裏の南の門であり、最も重要視されていた。王位にあるものは正南に宮殿(大内裏)を面して座すのが正しいとされており、正南の方角であることから南を守る朱雀と名付けられている。朱雀門を出た先は朱雀大路であり、そのまま南に進んで平安京そのものの出入り口にあたるのが羅生門(羅城門)である。

最終更新:2023年12月15日 00:14

*1 『続教訓抄』による記述。『長谷雄双紙』では八十日。

*2 蝉(吹穴の裏)の部分にあるという。

*3 『続教訓抄』では、笛の交換をしたのは在原業平あるいは浄蔵貴所だという別の説も載せている。