おはようセックス@小説まとめ
サイダー味のキスで泡にして
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ohayousex
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黴が生えた図画工作準備室の鋸で削り切ったような夜にそいつはやってきた。
「ご注文は?」
「サイダー」
「……あんた、何しに来てんのよ」
「金がないんだよ」
「へえ、それじゃ私と一緒だ」
「お前、金がないからこんな事やってんのか」
「そらそーよ。でなきゃ好きでもない男のチンコなんか舐めれないっての」
「ああ……」
「もう慣れたけどね」
「…………なあ」
「何?」
「キスしようか」
「サイダー」
「……あんた、何しに来てんのよ」
「金がないんだよ」
「へえ、それじゃ私と一緒だ」
「お前、金がないからこんな事やってんのか」
「そらそーよ。でなきゃ好きでもない男のチンコなんか舐めれないっての」
「ああ……」
「もう慣れたけどね」
「…………なあ」
「何?」
「キスしようか」
えらく真面目な顔だった。
「いいよ」
面喰らったが、了承した。
下種な男のチンコを数え切れないくらいに咥えてきた唇で、私は名も知らない少女とキスをした。
下種な男のチンコを数え切れないくらいに咥えてきた唇で、私は名も知らない少女とキスをした。
次の日。腐った勉強机の引き出しの奥に忘れられた宝物の手紙みたいな顔をして、そいつはまたやってきた。
「サイダー」
「はいはい」
「……あのさ」
「何?」
「お前は、どうしてこんな仕事やってるんだ」
「またそれ?お金だよオカネ。お金がないんだって」
「お前幾つだよ」
「今年で14だけど」
「おかしいだろ」
「そうかなぁ」
「そうかなぁじゃねーよ」
「はいはい」
「……あのさ」
「何?」
「お前は、どうしてこんな仕事やってるんだ」
「またそれ?お金だよオカネ。お金がないんだって」
「お前幾つだよ」
「今年で14だけど」
「おかしいだろ」
「そうかなぁ」
「そうかなぁじゃねーよ」
至って正直な話、こんな事を言ってくる人間は今まで一人も居なかったので、私はまたしても面喰らった。
むず痒いような感じがした。まるで、糸の切れた凧みたいにふわふわ風に流れてた私を、血眼になって追いかけて来ているような。
むず痒いような感じがした。まるで、糸の切れた凧みたいにふわふわ風に流れてた私を、血眼になって追いかけて来ているような。
「まあ、それはそれ。私も仕事だしさ、納得してやってるんだから」
「……じゃあ」
「ん。いつでも来い」
「……じゃあ」
「ん。いつでも来い」
私達は再び唇を重ねた。少しだけ長いキスだった。
伝う銀の糸を拭う少女の眉は、なんだかいじめっ子に反逆せんとするいじめられっ子のように複雑に垂れていた。
伝う銀の糸を拭う少女の眉は、なんだかいじめっ子に反逆せんとするいじめられっ子のように複雑に垂れていた。
その次の日も、そいつは来た。この世が澱んでる事なんて一時忘れてしまえるような、場違いに晴れた孤独な空の日だった。
「さ」
「はい、サイダーね」
「……なあ、お前なんて名前なんだ」
「んー?そりゃ渡した名刺をご参照のことだ」
「何が清少納言だよふざけてんのか」
「ふざけてないよー。それが私の名前。商売上のね」
「そうじゃなくてあたしが訊いてるのは……」
「はい、そこまで。料金まけてあげてるの忘れてもらっちゃ困るよ?」
「う……」
「はい、サイダーね」
「……なあ、お前なんて名前なんだ」
「んー?そりゃ渡した名刺をご参照のことだ」
「何が清少納言だよふざけてんのか」
「ふざけてないよー。それが私の名前。商売上のね」
「そうじゃなくてあたしが訊いてるのは……」
「はい、そこまで。料金まけてあげてるの忘れてもらっちゃ困るよ?」
「う……」
そいつのビー玉みたいな目を見ていると、どうにもいつもの調子が狂ってくる。
上辺だけで話したいのに、何故だか本気になってしまう。
上辺だけで話したいのに、何故だか本気になってしまう。
「……電話番号書いてあったでしょ」
「え?」
「名刺!あれに書いてある電話番号、下四桁を一個ずつ上の数字にしてかけて」
「どういう事だよそりゃ」
「いいから」
「んむっ」
「え?」
「名刺!あれに書いてある電話番号、下四桁を一個ずつ上の数字にしてかけて」
「どういう事だよそりゃ」
「いいから」
「んむっ」
唇を塞ぐように、強引なキスをした。少女は小刻みに震えて、不安げに瞼を動かしていた。
精液臭い口を濯いで、明け方の空にひらひらと手を振る頃、デフォルトの着信音が無機質に響いた。
「もしもし?」
「あたしだ、土筆拿歩だ」
「あんた、そんな名前だったんだ」
「言ってなかったか。まあ、そんな事はいいんだ。それより、ここにかけたら名前教えてくれたりするのかい?清少納言」
「どうだろうねえ、紫式部」
「あたしはあんな趣味の悪い絶世の美男子の物語を執筆した覚えはない」
「いいじゃない架空のお話なんだから。現実を物語にして何が面白いのよ」
「ああもう、論点を逸らすな。それで?あたしにここに電話させたのはそれなりに意味がある事なんだろ」
「どーだろーね。あんまりないよ。ただ、この番号にかけてくる奴は今はあんたしかいないってだけ」
「あん?どういう事だ?」
「そのままの意味よ、歩」
「……なんか、痒いな」
「蚊でも飛んでるの?」
「名前で呼ばれるとさ」
「…………私は、それが嫌なのかもしれないわね」
「は?ッたく、いきなり自分にしか分からねー事言うのやめろよな」
「平良木縁」
「え?」
「平らな良い木の縁って書いて平良木縁。私の本当の名前」
「…………よすが、か」
「どうかした?」
「いや、なんでもない。それじゃ、おやすみ」
「おやすみ」
「あたしだ、土筆拿歩だ」
「あんた、そんな名前だったんだ」
「言ってなかったか。まあ、そんな事はいいんだ。それより、ここにかけたら名前教えてくれたりするのかい?清少納言」
「どうだろうねえ、紫式部」
「あたしはあんな趣味の悪い絶世の美男子の物語を執筆した覚えはない」
「いいじゃない架空のお話なんだから。現実を物語にして何が面白いのよ」
「ああもう、論点を逸らすな。それで?あたしにここに電話させたのはそれなりに意味がある事なんだろ」
「どーだろーね。あんまりないよ。ただ、この番号にかけてくる奴は今はあんたしかいないってだけ」
「あん?どういう事だ?」
「そのままの意味よ、歩」
「……なんか、痒いな」
「蚊でも飛んでるの?」
「名前で呼ばれるとさ」
「…………私は、それが嫌なのかもしれないわね」
「は?ッたく、いきなり自分にしか分からねー事言うのやめろよな」
「平良木縁」
「え?」
「平らな良い木の縁って書いて平良木縁。私の本当の名前」
「…………よすが、か」
「どうかした?」
「いや、なんでもない。それじゃ、おやすみ」
「おやすみ」
泥の中に花を見つけたような、酷く卑近でありながら向き合おうとすらしなかった感覚に気付いて、私は錆びた包丁の切れ味を思い出しながら、虚ろな思い出に浸る。
近くて遠い少女の存在に、どうしたってそれを、壊してしまいそうだ。ただ、私はそれが怖くて、なのに近付いてしまって。
泣き腫らした夢の色は全部混ぜちゃった暗緑模様。
今日もきっと、やってくる。
近くて遠い少女の存在に、どうしたってそれを、壊してしまいそうだ。ただ、私はそれが怖くて、なのに近付いてしまって。
泣き腫らした夢の色は全部混ぜちゃった暗緑模様。
今日もきっと、やってくる。
「よう、縁。サイダーな」
「はいはい」
「はいはい」
私は渡された今月分の給料で、箱入りのサイダーを買って冷蔵庫に入れた。