おはようセックス@小説まとめ
第2話-旅のはじめに_後編
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ohayousex
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錆びついた車輪が擦れて、耳慣れた音を立てる。
傍らの少年は「着きましたね」と無感情に呟くと、「では、行きましょう」と動き始めた。
しかし、私の脚は意に反して止まった。ちょうど、降車しようという時にだ。
思わず動揺して、声を上げてしまう。
傍らの少年は「着きましたね」と無感情に呟くと、「では、行きましょう」と動き始めた。
しかし、私の脚は意に反して止まった。ちょうど、降車しようという時にだ。
思わず動揺して、声を上げてしまう。
「お、おい!身体が動かないぞ!」
私の声に早く反応したのは青磁だったが、彼の口を遮るようにして鶸が前に出た。
「あー!ツルちゃん、電車に乗る時にとりついたでしょ?それと逆のことをするの!」
逆?逆とはどういう事だ。
幽霊たる我々には実体がない。故に、電車などの乗り物に乗って移動する際には、それに「とりつく」事を要求される。
なるほど、降車する時は逆に「離れる」必要があるのか。
私は目を閉じて集中し、電車の事を頭から追い出した。
暫時あって、ぷつり、と頭の中で音がした。
目を開くと私は駅のホームに立っていて、電車はがたごとと響く音を遠ざけていた。
幽霊たる我々には実体がない。故に、電車などの乗り物に乗って移動する際には、それに「とりつく」事を要求される。
なるほど、降車する時は逆に「離れる」必要があるのか。
私は目を閉じて集中し、電車の事を頭から追い出した。
暫時あって、ぷつり、と頭の中で音がした。
目を開くと私は駅のホームに立っていて、電車はがたごとと響く音を遠ざけていた。
「いやー、あせったあせった」
「……もう少しで面倒な事になってた」
「……もう少しで面倒な事になってた」
二人は暢気に話している。
私はため息をつき、この先を憂いながら、駅の看板を見上げる。
古びた木製の駅舎、昼間の暗がりに剥げた文字は、『玄珈村(げんかむら)』──
私はため息をつき、この先を憂いながら、駅の看板を見上げる。
古びた木製の駅舎、昼間の暗がりに剥げた文字は、『玄珈村(げんかむら)』──
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#-2 ~旅のはじめに~_後編
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「──それで、その……ツルちゃんの言ってたおじさんの娘……えーっと、湊(みなと)ちゃん?が住んでる家って、どのあたりにあるのかな」
草の茂る道を行く私達三人、もとい三幽霊は、湊の預けられている家へと歩を進めていた。
「私の記憶が確かなら、そう遠くない場所にあるはずだ」
私の言葉に、鶸はそっかと気のない返事をして、ふよふよと漂いながら空を見ていた。
青く澄んだ空は、きっといい天気と言われるにふさわしいもので、だからこそ私達にはふさわしくないような心持ちがした。
鶸とは反対の方へ目を向けると、青磁が無表情で漂っている。
感情を表に出す事が少ないであろうその瞳は、一体何を映しているのか。
一見して陽気に振舞っていた鶸の方も、電車に乗ってからというもの少し元気がない。
私は若干の憂いを増しつつも、悲観に憑りつかれてはならないと思い、気を引き締めて歩いた。
青く澄んだ空は、きっといい天気と言われるにふさわしいもので、だからこそ私達にはふさわしくないような心持ちがした。
鶸とは反対の方へ目を向けると、青磁が無表情で漂っている。
感情を表に出す事が少ないであろうその瞳は、一体何を映しているのか。
一見して陽気に振舞っていた鶸の方も、電車に乗ってからというもの少し元気がない。
私は若干の憂いを増しつつも、悲観に憑りつかれてはならないと思い、気を引き締めて歩いた。
湊の預けられている家は親戚方の家だそうだ。
私は何分部外者であったから、生前にそれ以外の碌な情報は仕入られなかった。
いや、仕入れなかった、というのが正しかろう。
元より偶然の繋がりで、その偶然の糸が途切れてしまったのだから、おじさんの葬式に出てからというもの彼女の家の話は聞かなかった。
ただ、家に篭ってこっくりさんをしている、という話だけを、葬式の際に小耳に挟んだ。
事実、湊はおじさんの葬式に出席しなかったのだ。
私は何分部外者であったから、生前にそれ以外の碌な情報は仕入られなかった。
いや、仕入れなかった、というのが正しかろう。
元より偶然の繋がりで、その偶然の糸が途切れてしまったのだから、おじさんの葬式に出てからというもの彼女の家の話は聞かなかった。
ただ、家に篭ってこっくりさんをしている、という話だけを、葬式の際に小耳に挟んだ。
事実、湊はおじさんの葬式に出席しなかったのだ。
生前の事を思い起こすにつれて、頭の痛みがちりちりと大きくなる。
私の感じた罪悪──救えなかったこと──があるはずもない脳味噌を擽り、耐え難い痛みをもたらす。
私の感じた罪悪──救えなかったこと──があるはずもない脳味噌を擽り、耐え難い痛みをもたらす。
「ツルちゃん、大丈夫……?」
声に気付いてはっと我に帰り顔を起こすと、少女の顔が目の前にあった。
視界の隅には恨めしげな表情の少年もいる。妹を困らせた老いぼれが憎いのだろう。
視界の隅には恨めしげな表情の少年もいる。妹を困らせた老いぼれが憎いのだろう。
「ああ、大丈夫だよ」
答えて、私は作り物の笑顔を見せる。
不安げな少女は口を閉じて、歩き出す私の後ろを漂う。
少年はその横について、ぼそぼそと何か囁いている。
図らずも険悪な空気を作ってしまった事が私に更なる罪悪をもたらし、頭の痛みはますます強くなる。
私は振り切るように口を開いた。
不安げな少女は口を閉じて、歩き出す私の後ろを漂う。
少年はその横について、ぼそぼそと何か囁いている。
図らずも険悪な空気を作ってしまった事が私に更なる罪悪をもたらし、頭の痛みはますます強くなる。
私は振り切るように口を開いた。
「大丈夫だ」
根拠もなければ、自信もない言葉だった。
「湊ちゃんを助けたいんだろう?この通り私は元気だ、鶸ちゃんも青磁も、そんな陰気な顔をしていては駄目だ。
行くぞ我らが幽霊三人衆!不幸の少女を救うのだ!!」
行くぞ我らが幽霊三人衆!不幸の少女を救うのだ!!」
我ながら白々しい台詞だった。羞恥に顔を覆い隠したい気分だ。事実、青磁は私をあからさまに睨みつけていた。
しかしその横に収まっていた鶸は目を見開いて輝かせ、今にも駆け出さんばかりだ。
しかしその横に収まっていた鶸は目を見開いて輝かせ、今にも駆け出さんばかりだ。
「うん!ツルちゃんの言うとーり!!ゴミ拾いのボランティアだって、嫌そうな顔でやってる人がいたら嫌だもん!」
笑顔に戻った鶸に、青磁が無表情で横槍を入れる。
「……それを言うなら、病院の看護師や医者が腐った肥溜めみたいな顔をしている方が…………」
「青磁にぃはすぐそうやってひどいこと言うー!だめー!!」
「……ひゃへいいうひはははへへ」
「青磁にぃはすぐそうやってひどいこと言うー!だめー!!」
「……ひゃへいいうひはははへへ」
鶸に頬を揉まれて顔を変形させる青磁に、ひっそりと「いい顔もできるじゃないか」と呟くと、私の痛みが何処かへ行ってしまった事に気付いた。
もうしばらく行けば湊の預けられているという家に着く。
あたりは草と田んぼと畑に覆われ、車は殆ど走っていない。
私達は田舎道を歩く。時折現れる鳥や蜻蛉に鶸が興味を示す度、青磁がその名前を答えていた。
あたりは草と田んぼと畑に覆われ、車は殆ど走っていない。
私達は田舎道を歩く。時折現れる鳥や蜻蛉に鶸が興味を示す度、青磁がその名前を答えていた。
私達の旅は始まり、初めての人助けの局面を迎える事になる。
青く澄んだ空は、きっといい天気と言われるにふさわしいもので、だからこそ私達にはふさわしくないような心持ちがした。
しかし、そこに浮かぶ白い雲は、私達の結成を祝うような、虚ろな輝きに満ちていた。
青く澄んだ空は、きっといい天気と言われるにふさわしいもので、だからこそ私達にはふさわしくないような心持ちがした。
しかし、そこに浮かぶ白い雲は、私達の結成を祝うような、虚ろな輝きに満ちていた。