00:19:29
<ブラックペンタゴン 中央・中庭エリア>
「――――――――――は?」
ネイ・ローマンは目の前で発生した事象が現実のものとは、到底受け入れることが出来なかった。
精神感応系の超力によって頭がやられてしまったのだと、そのほうがまだ現実的だと断言できる。
千切れ飛んだ自らの右腕、その肘から先、溢れ出す鮮血は現実か?
死にかけの怪物にトドメを刺すべく叩きつけた衝撃波を、更に上回る衝撃で打ち返されたことは、記憶の改竄か?
手負いの獣が一瞬にして蘇った現象は、どういう悪い冗談だ?
過去最高の脅威から放った衝動、それは恐怖だった。
ローマンをして、身の毛がよだつ程の恐怖を感じたのだ。
今、目の前に立つ、銀の怪物―――今は、銀の魔神に。
「―――あぁ」
魔神は既に立ち上がっている。
それは今や、地を這う手負いの獣ではない。
「―――あぁ、あぁ、あぁ」
吹き飛んだ胴の臓物を再生し、もとの陶器のような白い肌で包み込む。
お気に入りのドレスは少し破けてしまったけれど、彼女の滑らかな身体には、今や傷一つない。
「―――懐かしい風ね」
魔神は、檻から開放されてしまった。
「―――懐かしい土の感触」
恐ろしい怪物が、解き放たれてしまった。
「―――懐かしい草原の匂い」
否、それはきっと正確ではなく。
この場所、この空間こそが、魔神の檻となったのだ。
「―――私、帰ってきたのね」
黒きオブジェクトを中心に、半径数十メートルの環境が塗り替わる。
世界を構築(Build)する機構(システム)は、無機質にオーダーを受取った。
少女の故郷、とある島国の環境を再現し、このブラックペンタゴン中庭の地質を上書きしていく。
状況を正確に理解していた者は一人も居なかった。
ただ、この場に集った全員が、等しく極大の恐怖を感じ、迅速に行動を開始した。
再び七名の殺意が銀鈴に集中する。
最速で動いたのはネイ・ローマンだった。
彼は銀鈴に一番近い位置に立っており、不気味なアナウンスが聞こえてから1秒足らずで衝撃を解き放った。
次に動いたのはエルビス、毒の花園が環境変化に抗うように展開されていく。
ほぼ同時に征十郎が刀を抜いて飛び掛かり、少し遅れてギャルが腕を降り、背後から血を浴びせる。
ジョニーが前進跳躍しながら頭部火砲を発射し、最後にディビットとエネリットがアイコンタクトを交わしなら走り込む。
その全てが無意味だった。
「たしか、えーっと、こう? こうだったかしら?」
人差し指を親指にくっつけ、力を貯めてピンと跳ねる。
少女の手がデコピンの動作を行い、その指先がローマンへと弾かれた。
瞬間、魔神から放射された極大の衝撃波がローマンの波動とぶつかり、拮抗の後に突き破る。
相殺しきれなかったエネルギーが彼の右肘から先を吹き飛ばし、それでも消しきれなかった余波によって全身を中庭の壁に叩きつけた。
「あら、ごめんなさいね。どうにも加減が難しいわ。久しぶりなものだから」
口元に手を当てて首を傾げる少女の元に、甘ったるい匂いが到達する。
「まぁ、まぁ、雑草が映えているわ。庭師さんを呼ばなくっちゃ」
足元まで広がった毒花を踏み潰しながら嘆息する顔貌に、一切の躊躇なく剛拳が叩き込まれた。
甲高いインパクト音に対して、魔神の頭は微動だにせず。
もはや再生という過程すら必要なかった。
エルビスの拳をまともに受けて尚、白い肌には傷一つない。
それは12年の月日をかけて底上げし続けた、常軌を逸する肉体の超強化。
在りし日の魔神が、ここに再臨する。
「ねぇ、あなた、邪魔な草を片付けてくださらない? 私の庭に合わないの」
怪物の鳴き声を無視するように、エルビスが2発目の拳を放つ。
しかし結果は変わらない。
如何なる鉱物よりも硬い皮膚によって、チャンピオンの打撃が止められている。
「ふふ……えい。どう? こんな感じかしら」
少女は頭に拳を当てられたまま、素人のようなファイテンポーズで拳を突き出す。
じゃれ合うように。
伸ばされた細い拳が、エルビスの分厚い胸部を抉り抜いた。
「――――がっ―――ァ!?」
「ああっ! 私ったらまた!」
逆流する血反吐を零しながら、チャンピオンが体勢を崩す。
それでも尚、男は倒れない。
たたらを踏みながら後ろに下がる。
「これだとみんな、すぐに壊れてしまうわね。小指一本しか使っちゃ駄目かしら」
「―――八柳新陰流」
そこで入れ替わるように、銀鈴の左側面に俊足の踏み込みが到達し。
「『天雷』」
落下した稲妻のような斬撃が、魔神の胴を袈裟懸けに斬り下ろした。
ほんの一瞬、真っ二つに分かたれた胴と下腹部。
超力、『 斬 』。
物質の硬度を無視して切断する異能が、魔神の守りを突破する。
しかしそれだけで攻略は成らない。
あり得ざる再生能力が、刹那の一瞬で、切断箇所を接着する。
まるでなにも起こらなかったかのように、その刹那の一瞬にこそ。
逆サイド、右側面に滑り込んだギャルが血液を飛ばし、魔神の内側に爆弾を仕込んでいた。
鳴り響くフィンガースナップ。
起爆する魔神の腹部。同時、ばきりと中程で折れる征十郎の名刀。
刃の硬度を遥かに超える物体を斬った、その代償であった。
その間にも、映像を巻き戻すように魔神の身体は再生されていき。
「素敵な花火ね。お返しをしなくっちゃ」
「――げっ、コイツやば」
魔神の指が鳴る。
起爆した熱波に征十郎とギャルが飲まれる。
「あなた、素敵な格好……中身はどうなっているの?」
その時には既に、魔神の興味は次に移っていた。
中庭上空から落下してきた火砲。
銃頭の主砲から放たれたそれが、宙で静止している。
発射したジョニー本人もまた、空中にて止められていた。
念動力。
普遍的な超力を、最大限に拡張した原理によって。
「ねぇ、ねぇ、見せてちょうだい」
ジョニーの四肢が強制的に動かされる。
「て―――め――この、離しやがれ」
「ふうん、ちゃんと中身も機械なのね」
メキメキと音を立てて、機械の手足が引き千切られていく。
「とっても興味深いわ。
あなたの超力を無効化したらどうなるかしら? やっぱり死んでしまう? 試してもいい?」
破壊された便利屋が地面に落下する。
そして最後に、魔神は背後から襲いかかる二人に話しかけた。
「ああ駄目よ。もっと静かに歩かないと聞こえてしまうわ」
念動力で止めていた砲弾の軌道を捻じ曲げ、後方のエネリットとディビットに直撃させる。
結果は見るまでもなかった。
どさりと鳴った落下音を背中に聞き、改めて周囲を見回そうとして。
「―――!」
振り切られた右フックが銀鈴の首をへし折った。
「あらどうし――」
攻撃が通った。魔神は言葉を続けられない。
ジャブ、アッパー、ストレート。
立て続けに放たれる。連打、連打、連打。
未だ倒れぬチャンピオンの放つ、その全てが致命の拳だ。
再生を繰り返す魔神の肉体を、その都度破壊して死に押し戻す。
先程は通らなかった拳が今は届いている。
征十郎ですら一撃が限度だった致命打を、なぜチャンピオンは立て続けに撃ち込めるのか。
答えは彼らの足元にあった。
エルビスと銀鈴の周囲にて、継続的に発生し続ける『紫骸(ダリア・ムエルテ)』。
彼の超力は意図せず、銀鈴の作った地質環境を乱している。
急ごしらえで再現された局所的な魔神の檻はまだ脆い。
あり得ざる花々の発芽によっても、その再現度は下がり精度は落ちる。
「ダリア―――」
「す―――わ―――あ―――と―――」
ジャブ、ジャブ、フック、ストレート、アッパー。
魔神は未だに何かを話そうとしているが、エルビスは一切取り合わずに連打を続けた。
「ダリア―――オレは―――」
「―――あ―――か―――」
ストレート、ストレート、ストレート。
胸と口から鮮血を零しながら、尽きようとしている体力と気力を燃やし尽くし。
ただ、愛する女を想い続けた。
「オレは―――必ず―――」
「―――う―――あ――」
ストレート、ストレート、―――。
拳は止まらない。
魔神の動きが停止していても。
構わず打ち込み続ける。
「必ず―――お前の―――元に―――」
「…………」
ストレート―――。
拳は止まらない、その打撃が。
「お前の元に―――戻るから―――!」
「あなたって、とっても頑張りやさんね」
たとえ、数秒前から、再び通らなくなっていたとしても。
「効いてないって分かっていて、愚直に続けるなんて」
拳王のパンチは、完全なる肉体に阻まれる。
足元に咲いていた花々は、既に一輪も残らず枯れ果てていた。
「あなた、だあれ?」
「オレは―――」
エルビスの拳が過去最大の鋭さを伴い、魔神の顎に叩き込まれる。
「チャンピオン―――だ」
魔神の指先が、エルビスの胸に添えられる。
「かっこいい」
上半身の右半分を消し飛ばされたエルビスは数秒、そのまま立ち続けた後、ゆっくりと後ろに倒れた。
「やっぱり、思ったとおりね」
返り血に染まった魔神は、己が発した無体な力に、辟易しながらひとりごちた。
それは能力無効化の力。桜花の備えていた、自らに纏うタイプのものではない。
まるでシステムAを再現するが如き機能。
銀の魔神がもとより備えていた能力の一つ。
周囲に存在する他者の能力を消し去り、開闢以前に戻してしまう、究極の権能。
「これを使ってしまうと、退屈になるわ」
それはシステムBの起動から、僅か3分で終結した蹂躙劇であった。
【エルビス・エルブランデス 死亡】
◇
00:15:56
<ブラックペンタゴン 中央・中庭エリア>
終わった、何もかも。
私は胸の底から湧き上がる絶望から逃れるように、必死に呼びかけていた。
「ローマン! ねえ起きてよ……ローマンっ!」
中庭の端、駆け寄った私達の呼びかけに、ネイ・ローマンは答えない。
切断された右腕から血を流し、全身に受けた甚大なダメージによって気絶している。
かろうじて生きてはいるようだけど、どれだけ声をかけても目を覚ますことはなかった。
「なんなんだよ……何がどうなってんだよ……あいつ!」
あまりの理不尽に、隣でジェーンが激昂している。
中庭の中央で暴威を振るう怪物に対して。
私はもう、怒る事もできない。
諦観が全身を支配していた。
あのネイ・ローマンが、あのエルビス・エルブランデスが、集った強者が、これほど呆気なく。
赤子の手首を捻るように、千切って捨てられた。
ばかげている。ふざけている。現実とは思えない。
私はどこかで、心のどこかで思っていた。
ネイ・ローマンは強い。負けるわけがない。大丈夫だって。
だけど、現実は―――
「に……逃げろ……なんで来たんだ……メカ―ニカ」
全身を破壊された便利屋が、こちらに向かって這い進んでくる。
「あいつの領域……ちょっとずつ拡大してる。もうすぐ……ここにも来ちまうぞ」
黒いオブジェクトから放たれた円形の光は拡大を続け、少しずつ中庭を侵食し続けていた。
あれが発生してから、怪物の力は桁違いに膨らんだ。
円形の領域が怪物の活動圏だとして。
この場所を飲み込むまであとどれくらいの時間があるだろう。
私とジェーンでローマンを抱えて逃げる。その猶予が残されているだろうか。
そもそも逃げ場なんてあるのか。仮に逃げられたとしてその後は。
あの領域が際限なく広がるものだとしたら、一体どうすればいい。
この島は、いずれ怪物の支配下に置かれてしまう。
「どうにかして……ここで止めないと」
「どうにかって……どうするのよ」
ジェーンの指摘はもっともだ。
でも逃げたって、後で死ぬか、いま死ぬかの違いなら。
嗚呼でも、やっぱり怖い。私だって死にたくない。
結局、あんな怪物を止める方法なんて、どこにも―――
「方法ならあります」
そこで、よく通る男の声が響いた。
「彼女らの協力が得られましたから」
顔を上げると、ジョニー以外にも、数人の囚人がこの場所に集まってきていた。
拡大するオブジェクト領域から逃れるために、自然と端に寄ってきたのだろう。
その中の一人、切れ長の瞳が私を見下ろしている。
気品に満ちた雰囲気を携えた、褐色の青年だった。先程声をかけたのは彼だ。
両腕に垂らしたボリュームのある髪は超力によるものだろう、その上に一人の男性を持ち上げている。
青年の腕と髪に包まれぐったりしているのは、先程図書室で出会ったディビット・マルティーニ。
戦闘による負傷だろう。全身に軽いやけどを負って、気絶している。
そして青年の背後には、二人の男女がいた。
雰囲気は平凡ながら体格のいい日本人の男性と。
対象的なもう一人は絶世の美少女、なんて陳腐な表現だけど、そう評すに相応しい白髪の少女が立っている。
こちらは日本人には見えないが、ちょっと国籍が分からないタイプの顔立ちをしている。
「僕はエネリット・サンス・ハルトナ。残念ながら詳しい自己紹介をしている時間はありません」
青年は語る。この状況で、絶望に飲まれていない。
「こちらのエンダさんから、あの黒いオブジェクトに関する情報は得られました。
しかし、怪物に関する情報はまだ少ない。知っていることがあれば共有を願います」
彼はまだ十代の子どもでありながら、気品に満ちた佇まいで場を飲み込んでいく。
「その上で―――いま僕の考えている作戦に可能性があれば、試してみたい」
彼は、エネリットは、まだ諦めていない。
ここで倒すつもりなのだ。あの、怪物を。
「ああ、でもその前に、これは大事なことなので確認を。
皆さんには無茶を承知でお願いしたいのですが」
そして締めくくりに、彼はエレガントな所作で自らの胸に手を当て。
「僕のことを―――どうか信頼していただきたい」
◇
00:09:22
<ブラックペンタゴン 中央・中庭エリア>
決戦の火蓋が斬って落とされた。
エネリットはゆっくりと境界を超える。
中庭エリアの中央より、拡大を続ける領域はもうじき庭の全域に達し、誰一人として怪物の暴威から逃れることは出来なくなる。
しかし王子は恐れることなく、逃げることなく、自ら魔神の領域に踏み込んでいく。
「まぁ、まぁ、もうみんな帰ってしまったかと思っていたの」
銀鈴の足元には倒れ伏したエルビスと征十郎、そしてギャルの身体が転がっていた。
肉体の超強化、あらゆる超力を極めし器、他者に押し付ける無効化の強権。
檻の中にある魔神は、まさしく無敵であった。
「客人接踵而来ね。あなたの、お名前は?」
「エネリット・サンス・ハルトナ」
「エネリットは、他の人間さんよりも頑丈なのね」
「なぜそう思ったのです?」
エネリットは芝生の上を進んでいく。
中央で待つ、少女の見た目をした何かのもとへ。
「だって、今の私に正面から向かってくる人は珍しいもの。みんな見えないところから躍起になってばかり」
「まあそうでしょうね。僕も正直いって貴女と向かい合うのは恐ろしい」
「そう? 随分と堂々としているけれど」
「僕は、王子ですから。堂々とするのは慣れているんですよ」
しかしそこで、彼はしばし足を止めた。
「でもやはり、これは慣れない」
「―――?」
「僕は王子ですから。囮なんてやるのは初めてなもので」
――くすくす。
――くすくすくす。
小さな笑い声が、銀鈴の背後から殺到した。
――くすくす。
――くすくすくす。
湧き上がる大量の羽虫が、銀鈴に――ではなく、銀鈴の背後にあったオブジェクトに突貫する。
「これ―――は?」
――端末にエラーが発生しました。
周囲の響き渡る警告音。
地質環境、中庭の情景にノイズが混じり始める。
『私の超力は、システムBに干渉できる』
ここに至る前、エンダから得た情報にエネリットは勝機を見出した。
領域が狭まる、銀鈴が纏っていた光が弱まり、無効化の押し付けが解除された。
「いまだ―――!」
後方にて、システムBに向けて手を翳していたエンダが叫ぶ。
「今しかない―――倒せ―――!」
エネリットの足が地を蹴る。
システムBへの干渉がいつまで保つかは不明である。
大前提としてエネリットが前線を抑える必要があり、エンダもまた、そう長くは抑えていられないだろう。
狙うはネイ・ローマンの為せなかった短期決戦。そのためのピースは今、彼の手の中にある。
「せっかく邪魔なシステムを壊せたのに、無粋ね」
銀鈴が足元の小石を軽く蹴り飛ばす。
直撃すれば戦闘機すら撃墜できる威力が秘められていた。
環境再現率の低下によって弱体化したとはいえ、彼女の超力は未だ健在。
「徴収―――『鉄の女(アイアン・ラプンツェル)』」
走り続けるエネリットは前方に鉄の髪を展開する。
しかし、それだけでは対処することは出来なかった。
故に――
「受贈します―――『人類の到達点(ヒトナル)』」
並行起動する超力。
人類に許された能力を極限まで高める異能が、エネリットの反応速度を底上げした。
只野仁成から献上された超力。
知り合って間もない彼らの間に存在する信頼度は10%を下回っている。
それでも今、彼の動きは精巧さを増し、鉄髪で受け止めた弾丸を、驚異的な身のこなしで躱してみせた。
断じて、1割に満たない再現率ではない。
「ディビットさん。やはり最初に出会ったのが貴方でよかった」
それはメアリー戦の際に思い至った一種の裏技だった。
「徴収―――『4倍賭け(クワトロ・ラドッピォ・ポンターレ)』」
先程、砲弾から彼を守った際、遂に至った50%の信頼をここで活かす。
能力を倍加する能力。
他に能力を持たないディビットが、身体強化に使用してたのは当然の帰結である。
ドミニカの超力を間接的に強化したのは例外的な運用だ。
しかしこれが、そもそも複数能力持ちの手に渡れば何が起こるか。
倍加された『人類の到達点(ヒトナル)』の効力がエネリットの身体能力を更に引き上げる。
一度に強化できる能力は一つだけだが、それでもディビットの力は低信頼の献上を補完し得るのだ。
つまり、彼はこの場で献上された全ての超力を、信頼度に拘らず実用に耐えうるレベルで運用可能。
「どうか、ディビットさんが寝ている間に終わってくれると良いのですが」
徴収がバレて信頼度が下がると困ってしまう。
そういう意味でも、エネリットは短期決戦を強いられている。
「受贈―――『補え、私の愛する人工物質(モルデオ・アルティフィシアル)』」
畳み掛ける。
中庭に散らばったジョニーのパーツ、メリリンが持ち歩いていたドローン等の金属機材がひとりでに動き、エネリットの元に集結する。
「さらに受贈―――『鉄の騎士(アイアン・デューク)』」
寄り集まった機械と鉄がエネリットの全身に装着され、鉄錆の騎士姿を形成する。
右腕に装着した砲身から解き放たれたボルトガンと火球が、魔神の放った指鉄砲とぶつかり合い空中で弾けた。
爆炎を突っ切り、彼我の距離を殺しきり、肉薄したエネリットは左腕を振りかぶる。
取り付けられたチェーンソーが唸りを上げ、魔神の肩口に押し付けられた。
やはり凄まじい肉体強度。
回転する刃の猛攻を、弱体化してなお、完全に近い肉体は通さない。
しかし、そこに、少しでもほころびがあるならば。
「さらにさらに受贈―――『屰罵討(マーダーズ・マスタリー)』」
絶殺の接触。
直接触れた所有物を至上の凶器に変える力。
遂に刃が埋まる、魔神の肉体へ。
「あなた、楽しいわ。おもちゃ箱みたい」
計6種に及ぶ超力の並行使用。
そこまでやって作り出した戦果。
上半身を真っ二つに割られても、その魔神は笑っていた。
表情から余裕を奪うことができない。
「それで、これで、おしまい」
ぺたり、と。
魔神の手が、エネリットの胸に触れた。
「―――ぐぁ――!」
咄嗟に鉄の髪で振り払ったが、間に合わなかったらしい。
指の触れた左肩が爆ぜ、大量の血が吹き出している。
「だとしたら……ちょっと期待はずれ」
「いいえ――」
王子は褐色の頬を血に染めながら、痛みに咽ぶ声を零しながら、それでも優雅な笑みを絶やさない。
魔神は首をかしげてもう一度、エネリットの肌に触れる。
そうして再度、その体を破壊しようとして。
「楽しんで、頂けるはずですよ」
全く同時、エネリットの震える指が、自らの血に濡れた指が、再生していく魔神の傷口に触れていた。
「受贈します―――『人類の到達点(ヒトナル)』」
「あ―――ら」
その、再生が止まった。
「あら―――どうし―――」
途中まで塞がっていた傷口が、逆に広がり、徐々に壊死していく。
『人類の到達点(ヒトナル)』の血は、人を人以外に変える全てを無効化する。
人の究極であり、怪物の対極。
つまり、魔神にとっては―――
「凄いわ――エネリット、私、壊れしまっているみたい」
致命の毒に他ならない。
「血に入り込んで――全身に回って――どうやって――わから――」
「ええ、これで終わることを祈っています」
エネリットも表情こそ取り繕っていたが、流石にこれを凌がれたら後が無かった。
「ああ―――」
頼むから効いてくれと祈り。
ややあって崩れ落ちていく魔神の身体に安堵を覚え――
「血を全部―――して―――しまえば―――かしら?」
その一言に、極大の怖気が湧き上がった。
魔神は今、崩壊していく自らの身体に手を差し入れた。
確かに可能だ。
残る全ての力を動員し、自らの身体を爆散させ、自らの血を全て吐き出してしまえば。
毒に破壊される細胞から、たった一つでも逃がすことが出来れば―――
普通は思いつかないし思いついてもやらない。
再生力を前提にした対処療法。
「駄目だ……!」
止めようと腕を振りかぶろうとして、そのまま後方に崩れ落ちる。
エネリットもまた限界だったのだ。
人生で経験したことのない種類の超力を同時並行で動かし、傷を負い、王子ですら疲労の限界だった。
「止めろ――誰か――」
エネリットは動けない。
背後から、メリリンとジェーン、只野仁成が駆けつけてくる気配があった。
しかしきっともう間に合わない、距離が開きすぎている。
魔神が、復活する。
薄れていく意識の中で、エネリットは最後にその光景を見た。
◇
00:5:01
<ブラックペンタゴン 中央・中庭エリア>
肉を切り裂く音がした。
大量の鮮血が中庭の地面に零れ落ちる。
液体が草花に染み込む。
肉を切り裂く音がした。
誰かが膝をつく。
肉を切り裂く音がした。
そう、それは、爆ぜる音ではない。
切り裂く音だったのだ。
「あら―――あなた」
魔神の、怪物の、銀の獣の、銀鈴の額に突き刺さっている透明なナニカ。
それは不可視の刃だった。
「いたの?」
背後から忍び寄っていた暗殺者による。
「よお、銀鈴」
雌伏の時を経て、耐え忍び続けた男の一撃だった。
「いたさ、ずっとな。気が付かなかったろ?」
「ええ――お兄さんより、上手だったわ」
この局面を伏して待っていた男は、ジェイ・ハリックは銀の少女を見下ろしている。
達成感と、少しの虚しさを含んだ瞳で。
「ねぇ、ねぇ、ジェイ。聞いて。私ね、すごいことに気付いたの」
「なんだよ」
「私ね、死んでしまうみたい。まるで人間さんみたいね」
「ああ、だったら、人間だったんじゃねえか? お前も」
「そうなのかしら? だとしたら、ちょっと勿体なかったわ」
「何がだよ」
「誰か、もっとはやく教えてくれたら、人間さんともっと楽しく遊べたのに」
何かを成し遂げ、何かを失った男は、ゆっくりと刃を一振し。
「次があったら、そうしてみたらいいんじゃねえか」
「ええ、ええ、そうして、みようかしら……じゃあね、ジェイ」
「ああ――じゃあな、銀鈴」
そうして、小さな友人に別れを告げた。
【銀鈴 死亡】
◇
00:04:17
<ブラックペンタゴン 中央・中庭エリア>
遂に、怪物の身体が崩れる。
システムBの光が停止する。
大変なことがいっぺんに起きて、度肝を抜かれるようなことの連続で。
だけど、この時、この瞬間、私が言うべき言葉は一つだけだった。
「まだ終わってない!!」
ジェーンと一緒に中央へと駆けつける。
動きを止めたオブジェクトの前には気絶したエネリットと、銀鈴を殺した暗殺者と、そして―――
「そいつは―――まだ―――!」
ゆらりと、仰向けに倒れていた身体が、巻き戻りのように立ち上がる。
さっきまで銀鈴だったもの。
今は揺らめく黒い影。
その輪郭は瞭然としない。
でも分かる、あいつは、獄中で見た男だ。
ブラックペンタゴンのエントランスにも現れた存在。
ホンジョウ――サリヤの仇。
「てめえが――なんでここに!?」
突如発生した形態変化に、暗殺者の男は驚愕しながら後ずさる。
握る不可視の何かを振り上げようとして、脇腹を撃たれて後ずさり、地面の血溜まりに足をすべらせ膝を付く。
あの暗殺者は奴を知っていたのか。
いや、今はそんなこと、どうでもいい。
末恐ろしい怪物を退けて、それでもまだ戦闘は終わっていない。
その事実を知っているのは私達だけ。
いま、動けるのは私達だけなのだから。
「ジェーン!」
「分かってる! 援護して、メリリン!」
エネリットが気絶したことで、私達の超力が戻った。
先行するジェーンに私のドローンが追随する。
さらにその後ろには体格の良い日本人、只野仁成が来てくれている。
影が動いた。
鉄砲の形をした指を、こちらに向けて構えている。
まずい、攻撃する気だ。
連射される空気銃。
隣で足を撃たれた只野が転倒した。傷の度合いはわからないけど、引き起こしている時間はない。
更には、やつの足元から、紫色の毒花が咲き乱れる。
あれは――エルビス・エルブランデスの超力。
喰われていたのか。
咄嗟にジェーンにつけたドローンに鉄板を展開させ、彼女を守る。
私も彼女の後ろにぴったりついて、身を隠しながらドローンを操作する。
毒の花に服を溶かされるのを無視して突っ込む。
敵との距離はあと3メートル。
ジェーンであれば一息に詰めて、殺傷できる間合いのはず。
そのとき―――
「ああ、ああ―――さ、サリヤ、ちゃん」
酷く吃りがちな、男の声がした。
「これで、お、お別れなんて―――さ、寂しいな」
こちらに構えられた男の指先に、強烈な閃光が集まっている。
「あれは……」
「なにを――!?」
――魂を撃つ。
これがひょっとして、ローマンが言っていた。
「安全装置、解除――」
「やらせちゃだめ!」
「分かってる!」
でも、間に合うはずだ。
ジェーンは私の上着で作った腹部の包帯を解き、間合いを延長しながら振り抜いた。
光の収束よりも、ヤツの狙いが定まるよりも前に、確殺の一撃が首に届く。
間に合った。
引き金が引かれる直前。
殺し屋は依頼を完遂する。
「終わりだ―――!」
そうしてやっと、この場における戦闘が幕を下ろす。
最後に、私の目の前で。
ぽたりと、誰かの額から、血がこぼれ落ちた。
【本条 清彦 死亡】
◇
/Chambers-Memory 1
――どうして、こんな事になってしまったのだろう。
死を前にした人間は得てして原因を知りたがる。
本条清彦もまた、そうであった。
脳裏を過る走馬灯に、男はこれまでの足跡を振り返る。
昔から影の薄い子だと言われた。
印象に残らない男だと。
生まれつき備わったその特性。
超力という不平等に配られたクジに負けた結果。
ネイティヴ世代にありがちな、力に狂わされた人生だった。
彼の意志に関係なく、認識の阻害は次第に強まり、ひたすら孤立を深めていく。
気づけば誰も彼を見ていなかった。
両親や兄弟ですら、彼を忘れるようになった。
透明人間のような生活が、当たり前になっていた。
不幸だったのは彼自身の感性はとても一般的なもので、普遍的な幸せを求めていたこと。
特にホームドラマが好きで、創作の中の家族愛というものに憧れた。
それは、決して自分には与えられない夢なのだと諦めていた。
だからきっと、その出会いは彼にとって奇跡だった。
「―――誰か、そこにいるの?」
遠い異国から来た学者の女性が、己を見つけてくれた。
そして、こんな能力に価値があると言ってくれた。
誰からも記憶されない、印象に残らない、そんなつまらない超力を、ずっと探していたのだと。
嬉しくて、嬉しくて、出会ったばかりの彼女に、あんな事を言ってしまって。
きっと怖がられたと思う。
なのに、彼女はずっと一緒にいてくれた。
だから―――
「駄目よ……清彦さん……早まっては駄目……」
それは、けたたましく蝉の鳴く、夏の夜だった。
「い、いいんだ。サリヤちゃん、もう充分なんだ。それに、例の協力者がくるまで、まだ時間を稼がないと」
街灯の少ない田舎、人通りの少ない高架下の河原。
そこが彼の終点にして、新たな始点となった。
「もう二人じゃ、逃げ切れない。追っ手が来てるんだろ。早くやってくれ」
「でも……」
「いいから」
女性の指先が、彼の額に押し当てられている。
彼が手を握り、そのように誘導した。
女は泣いていたのだろうか。
自分を利用しようとしているだけだったのか。
その表情は本心だったのか、別にどちらでもいいと、彼は思った。
「清彦さん……私と……家族になりましょう」
「……うん、喜んで」
闇の中で、一発の銃声が轟いた。
「――生涯をかけて、幸せな家庭を築くことを誓います」
彼は最期まで、その運命を肯定していた。
◇
00:00:00
<ブラックペンタゴン 中央・中庭エリア>
「ああ……」
私は、ばかだ。
「ああ……なんで」
ヒントはあった。
チャンスもあった。
そしてそれは、私には与えられていたのに。
「なんで……こんな」
この期に及んで、私は驚愕に震えている。
分からないふりをしている。
認めたくないから。知りたくないから。
許しがたいから。誰を? 他でもない、気づくことが出来なかった自分自身を。
私の目の前で、ジェーンの身体が崩れ落ちる。
額を銃弾が貫通して、きっと即死だったろう。
私達は間に合わなかった。間に合うと思わされていた。
気配希薄化の究極たる超力を込めた魂の弾丸。
即ち、『撃ったことに気づかせない』銃撃が、とっくに発射されていたのだ。
目の前で、影が形を成す。
不定形な、印象に残りにくい男の像では、それはもはやない。
その男はつい先程、弾丸になって消えた。
ならば、いま、ここに居るのは、
「あなた、だったの―――?」
その可能性に、私は思い至ることが出来た筈なのに。
理屈に合わないからと、大前提に反するからと切り捨てた。
それでも、前提以外の全てが、その現実を示している。
気づくチャンスはあった。
威力の上昇していた空気銃。
あれは、銀鈴が撃った時に威力が上昇していたわけではない。
あれは、サリヤが撃った時に、"威力を下方修正"させていたのだ。
サリヤが律儀に毎回行っていた工作を、銀鈴がまったく斟酌しなかっただけの話。
ならば、なぜサリヤは、わざわざそんな偽装をしていたのか。
ああ、理由なんて、一つしかない。
そもそも、『威力が下がっていなかった』とすれば。
弾丸の中で『超力が劣化していない存在』が、たった一人、弾倉の中に紛れ込んでいたとすれば、それは――
・・・・・・・
「ぜんぶ最初から、あなた、だったの?」
それは、ただの一度も死んだことのない―――
「―――サリヤ」
肉体の"元人格"と呼ばれる存在に他ならない。
「―――そうだよ、メリリン」
薄紫色のウェーブがかった髪の毛が、はらりと流れる。
目の前には、黒いドレスを着た、オッドアイの女性が立っている。
「―――ああ、サリヤ」
私は、ばかだ。
彼女と、最初に出会った日のことを思い出す。
『―――きっと似たもの同士ね』
いつかの記憶、いつかの彼女。
『―――私はサリヤ。サリヤ・―――』
今更気づいても、何もかも手遅れな今に至って。
「―――サリヤ・"キルショット"・レストマン」
私は、その渾名を呼びかけた。
◇
【ジェーン・マッドハッター 死亡】
【D-5/ブラックペンタゴン中央・中庭エリア/一日目・昼(放送直前)】
【メリリン・"メカーニカ"・ミリアン】
[状態]:全身にダメージ(中)、上半身下着姿
[道具]:デジタルウォッチ、生成ドローン1機、ラジコン1機、フルプレートアーマー。
[恩赦P]:0pt
[方針]
基本.―――
0.目の前の状況に対応。
1.サリヤ・K・レストマンを―――。
2.ローマンに従いブラックペンタゴンを調査する?
※ドミニカと知っている刑務者について情報を交換しました。
【ジェイ・ハリック】
[状態]:疲労(大)、全身にダメージ(中)
[道具]:
[恩赦P]:0pt
[方針]
基本.生き延びる。チャンスがあれば恩赦Pを稼ぎたい。
0.目の前の状況に対応。
1.呼延光、本条清彦、バルタザール・デリージュ、銀鈴に対する恐怖と警戒。
【エンダ・Y・カクレヤマ】
[状態]:ダメージ(中)、疲労(小)
[道具]:デジタルウォッチ、探偵風衣装、ドンの首輪(使用済み)、ドンのデジタルウォッチ、図書室の本数冊
[恩赦P]:0pt
[方針]
基本.脱出し、『エンダの願い』を果たす。
0.目の前の状況に対処。
1.仁成と共に首輪やケンザキ係官を無力化するための準備を整える。
2.囚人共は勝手に殺し合っていればいい。
3.ルーサー・キングには警戒する。
4.ヤミナ・ハイドを使うか、誰かに押し付けるか考える。
5.今の世界も『ヤマオリ』も本当にどうしようもないな……。
※エンダの超力は対象への〝恨み〟によって強化されます。
※エンダの肉体は既に死亡しており、カクレヤマの土地神の魂が宿っています。この状態でもう一度死亡した場合、カクレヤマの魂も消滅します。
※黒靄による超力干渉でエルビスの腐敗毒をある程度遮断できます。
ただし〝恨み〟による強化が発揮しない限り、完全な無効化は出来ないようです。
【只野 仁成】
[状態]:疲労(極大)、ダメージ(中)、全身に傷、右掌皮膚腐敗、右手薬指骨折、左頬骨骨折、左奥歯損傷、ずぶ濡れ、服の全面が溶けている、精神汚染:侮り状態、強い覚悟
[道具]:デジタルウォッチ、図書室の本数冊
[恩赦P]:0pt
[方針]
基本.生き残る。
0.目の前の状況に対処。
1.エンダに協力して脱出手段を探す。
2.今のところはまだ、殺し合いに乗るつもりはない。
3.エンダが述べた3人の囚人達には警戒する。
4.家族の安否を確かめたい。
5.少女(四葉)にも対処したい。
※エンダが自分と似た境遇にいることを知りました。
※ヤミナの超力の影響を受け、彼女を侮っています。
【ギャル・ギュネス・ギョローレン】
[状態]:疲労(大)、“タチアナ”、気絶中
[道具]:学生服(ブレザー)、注射器
[恩赦P]:0pt
[方針]
基本.――――
0.気絶中
1.周囲の喧噪を鎮める。
2.改めて征十郎を燃やす。
※刑務開始前にジョーカーになることを打診されましたが、蹴っています。
※ジョーカー打診の際にこの刑務の目的を聞いていますが、それを他の受刑者に話した際には相応のペナルティを被るようです。
※永遠は斬られたので、今後は年を取ります。
【征十郎・H・クラーク】
[状態]:ダメージ(大)、気絶中
[道具]:日本刀(折)
[恩赦P]:0pt
[方針]
基本.――――
0.気絶中
1.周囲の喧噪を鎮める。
2.復活したら改めてギャルを斬る。
【エネリット・サンス・ハルトナ】
[状態]:全身にダメージ(中)、気絶中
[道具]:デジタルウォッチ、宮本麻衣の首輪(未使用)、携帯食料
[恩赦P]:0pt
[方針]
基本.復讐を成し遂げる
1.エルビスを戦力として運用する
2.ディビットの信頼を強める
3.…命を懸ける理由、か。
※現在の超力対象は以下の通りです。
【徴収】などが対象に発覚した場合、信頼度の変動がある可能性があります。
①マーガレット・ステイン(刑務官)
信頼度:80%(超力再現率40%)
効果:徴収(相手の同意なしの超力借り受け。再現度は信頼度の半分)
超力:『鉄の女』
②ディビット・マルティーニ
信頼度:50%(超力再現率25%)
効果:徴収(相手の同意なしの超力借り受け。再現度は信頼度の半分)
超力:『4倍賭け』
③~⑤ジョニー・ハイドアウト、メリリン・"メカーニカ"・ミリアン、只野仁成。
信頼度:全て10%前後
効果:献上(双方の同意による超力の一時譲渡。再現度は信頼や忠誠心に比例)
超力:『鉄の騎士(アイアン・デューク)』、『補え、私の愛する人工物質(モルデオ・アルティフィシアル)』、『人類の到達点(ヒトナル)』
【ディビット・マルティーニ】
[状態]:全身にダメージ(小)、気絶中
[道具]:デジタルウォッチ、ドミニカ・マリノフスキの首輪(未使用)、メアリー・エバンスの首輪(未使用)、携帯食料
[恩赦P]:0pt
[方針]
基本.ルーサー・キングを殺す、その為の準備を進める。
0.―――。
1.ネイ・ローマンと提携を結ぶ
2.エネリットの取引は受けるが、警戒は忘れない。とはいえ少しは信頼が増した。
3.タバコは……どうするか。
【ジョニー・ハイドアウト】
[状態]:健康、破損(大)
[道具]:なし
[恩赦P]:0pt
[方針]
基本.受けた依頼は必ず果たす
1.怪盗(チェシャキャット)の依頼を果たす。
2.メカーニカを探す。見つけたらローマンとの取引内容も話す。
3.夜上神一郎への強い不信感と敵意。
※ネイ・ローマンと情報交換しました。
※ルメス・ヘインヴェラートが掴んだ情報を全て伝えられています。
【ネイ・ローマン】
[状態]:全身にダメージ(大) 、疲労(大)、右腕肘から先欠損、気絶中
[道具]:デイパック(幾つかの食糧と酒)
[恩赦P]:99pt
[方針]
基本.やりたいようにやる。
0.―――
1.ブラックペンタゴンでルーサーを探す。
2.ルーサー・キングを殺す。
3.ハヤト=ミナセと出会ったら……。
※ルメス=ヘインヴェラート、ジョニー・ハイドアウトと情報交換しました。
◇
/Chambers-Memory 0
――これから、どうすればいいのだろう。
思いがけず条件を満たした人間は、得てして思考を止めてしまう。
彼女もまた、そうであった。
期せず舞い込んだ鬼札に、女はこれまでの足跡を振り返る。
その計画は最初から破綻していた。
決して実現する筈のない策のために、彼女はこのカクレヤマの地にやってきた。
世界に弓を引く馬鹿げた計画。しかしそれが、叶ってしまうとしたら。
それは、けたたましく蝉の鳴く、夏の夜だった。
河原に浮かぶ少年の死体を見つめながら、彼女は思う。
――これから、どうすればいいのだろう。
「よっ、おまたせ」
人影が近づいてくる。
雲に隠れていた月が顔をだし、真っ暗な河川敷を照らした。
ついに追手が来たかと身構えたが、どうやら違ったようだ。
「あんたが、依頼人だよな。お嬢さん」
現れたのは紺色のジャケットスーツを着用した男だった。
ハットを目深に被っており、表情は見えないが飄々とした態度を崩さない。
GPAの追跡が始まった時、咄嗟に連絡をつけ、援護を依頼していた犯罪組織の協力者。
それは、あまりにも遅い到着だった。
もう少し早ければ、足元で浮いている少年は死ななくて済んだかも知れない。
しかしそれも、
「なかなか泣かせるシーンだったぜ、さっきのは」
殺すまで待たれていたなら、あり得ざる未来だった。
彼女は、ほんの少しの苛立ちを込めて、現れた男の名を呼ぶ。
「……恵波流都」
「怒るなよ。このガキを殺るのはお前の計画だったんだろ?
だからそれまで待ってやったんじゃないか」
「………」
「見ろよこのガキの死に顔、幸せそうだ。女は怖いね。
いや実に、上手くやったもんだ。なあ……ハイブの試作品?」
「なぜそれを」
「あんたのお母様とは、そこそこ懇意だったんでね」
彼女には誰にも言えない秘密があった。
人の魂を弾丸で撃ち抜き、取り込んでしまえる。
殺人を前提にした悍ましい体質は、生まれついてのものではない。
科学者である実の母親に、身体を弄り回された結果、備えた後天的な超力だった。
シエンシアの娘にして、ハイブの試作品。
最初期の失敗作。それが彼女だった。
肉体は様々なテストに使われたあと、研究価値は無いと判断され、科学者の助手として生活を続けた。
やがて父も母も蒸発し、ひとり残された時、彼女は考えた。
――これから、どうすればいいのだろう。
――報いを与える。しかしそれは誰に?
――母はもういない。
――ああ、ならば、母が残した全てのものに。
――間違いから生まれたものは、間違いしか生まない、ならば――
「どうだい。復讐は順調かい? レストマンの娘よ」
シエンシアの開発したシステムは社会の根幹となっている。
ならばそれはシステムを、社会を壊すということだ。
現実的ではない計画を、彼女はずっと考えていた。
友人も出来て、居場所も出来た。
現実的ではない計画を、いつしか捨てて、忘れることも出来た。
だけど今、条件が揃ってしまった。
気配希薄化。存在しないとされた超力の弾丸。
存在したところで、見つけることが困難を極める力。
姿をくらまし、アビスに潜る計画を実行に移すための。
それが最初の1ピースにして、全ての始まりだった。
そして彼女は、カクレヤマの地で、期せずしてもう一つ、ある筈のないピースを拾ってしまったのだ。
計画は大幅に前倒しになり、もうすぐ追手が来る。
GPAは重罪人となった彼女を、決して逃さないだろう。
「それで、あなたは私を助ける気があるの?」
「勿論だ。追っ手は片付けてやる。とっとと逃げな。ああそうだ」
呼び止めた恵波は、浮かぶ死体の前にしゃがみ込み肩に触れた。
少年の、本条清彦の形をしていた身体が、みるみるオッドアイの女性の物に変わる。
薄紫の頭髪が、水面に広がっていく。
「オプションサービスだよ。上手くいきゃ、あんたは死んだモノとして生きられる」
「なんでここまでするの?」
「決まってるだろ。あんたはきっと、混沌を生み出す。俺はそいつが見たいのさ」
去りゆく彼女に、最後に男は問いかけた。
「なあ、あんた何処に行くんだ、これから」
「……深淵」
「そうかい、じゃあ、そっちでまた会うかもな」
飄々とした男の声が、彼女を追ってきた。
「気をつけろよ。ヴァイスマンの野郎は手強い。アイツの目を逃れて、アビスに入るのは困難だろう」
分かっていた。
だからこそ、彼女は人を殺したのだ。
「じゃあな、致命の一撃(キルショット)。チャオ」
そうして河原を歩きながら。
女はその主人格の席を、取り込んだ少年の弾丸に譲り渡した。
夜の闇の中に、揺らめく影が溶けていく。
もう後戻りできない、暗い道を行くように。
葉を隠すなら森の中、死体を隠すなら死体の中、ならば"意志"を隠すなら―――?
【サリヤ・"キルショット"・レストマン 装填】
◇
【サリヤ・"キルショット"・レストマン】
[状態]:健康、我喰い
[道具]:グロック19(装弾数22/22)、デイパック(手榴弾×2、催涙弾×2、食料一食分)、黒いドレス、銀鈴の首輪
[恩赦P]:18pt
[方針]
基本.アビスに保管されているシステムを破壊する。
0.メリリンに対応。
※現在のシリンダー状況
Chamber1:サリヤ・K・レストマン(女性、元人格、空気銃能力、以下弾丸を統制)
Chamber2:ジェーン・マッドハッター(女性、殺傷能力、人格凍結)
Chamber3:ソフィア・チェリー・ブロッサム(女性、無効化能力、人格凍結)
Chamber4:ルクレツィア・ファルネーゼ(女性、再生及び幻惑能力、人格凍結)
Chamber5:欠番
Chamber6:エルビス・エルブランデス(男性、毒花能力、人格凍結)
最終更新:2025年09月05日 23:21