「……君が、ジョルナータ・ジョイエッロだな?」
ドドドドドドドドドドドドドドドドド……
背後からの声に、ジョルナータはあわてて振り返った。そこに立っていたのは、一言で言えば奇妙な見知らぬ男であった。
短めの髪や衣服のあちこちにコイルや針金をあしらった奇抜な格好の彼は、若い割には人を引き付ける威厳が全身からにじみ出ている。
「あなた、何者ですか?」
「疑問文に疑問文で答えられても困る。俺は人間違いをする訳にはいかないんでな」
「……ええ、私がジョルナータ・ジョイエッロです」
男の執拗な問いに、彼女は心底嫌そうに答えた。
「なるほど。君がボスを助け、うちに入団したいという少女だな?」
彼女の言葉に、男は一つ頷いた直後、パチン、と指を鳴らす。すると、
「!!?」
ズリュン! 突如巨大な力に足をすくわれ、彼女は無様に倒れこみ、どこかへと引きずられていく。
見ると、足には針金でできた輪が巻き付き、その先端は近くを通った車のバンパーに巻き付いている。
これが、説明を受けた「スタンド」の能力? ならば、この人は!
「いっ、インハリット・S!」
己がスタンドで針金を切断した少女は、擦り傷だらけの姿で起き上がった。男は、ゆっくりと彼女へと近づいてくる。
「へぇ、それが君のスタンドか。
俺の名はステッラ・テンぺスタ。君の『試験』をボスから任されてな、俺を納得させればパッショーネへの入団を許可するとのことだ」
その言葉に、彼女は一瞬にして己のやるべきことを理解する。
この人に認められなければッ! 自分は麻薬をばらまく余所からのギャングを阻止することが出来ないッ!つまりッ!
親友のような目に遭う人たちがもっと出てくるということッ! ならば、勝たなくてはいけない! 私自身の、そして未来を守り抜く為にッ!
「ほぉ……、いい目になってきたじゃないか。だが、もう一つ言われていたことがある。
ボスは『彼女を始末するつもりで試せ』、となぁッ!」
叫ぶと同時に、男の姿が消えた。
「??」
キョロキョロと辺りを見回すジョルナータの目の前に、ぽつんと影が浮かぶ。上だ!
「無駄ァッ!」
インハリット・Sのアッパーカットを、上空から鷹のように襲いかかってきていた男は易々とはじいた。
その横にはコイルのようなものを手足にはめ込んだスタンドが浮かんでいる。
しかし、もっとも特徴的だったのは男の足であった。足が、コイルばねに変わっている?!
「なかなか速いな。反射神経も悪くない。
そうだ、これが俺の『SORROW』の能力だ。『殴りつけた場所をコイルばねにする』。
単純な能力だが、なかなか悪くない」
男は、そう言うが早いが、自分の右腕を殴りつける。ビョン!
「きゃあっ!」
腕をバネに変えてリーチと勢いを強化した拳に、落下の衝撃が重なる。吹き飛ばされた少女に男はちらりと目を向けた。
「やれやれ、この程度か。ならば、採用するまでもないな」
「……そんなことはありません」
「??!」
突如聞こえてきた少女の声に、男はハッと目を見開いた。倒れた少女の方から聞こえてきた声ではない。では、どこから?
その正体に気付いた時、男は己の失策を悟った。スタンドの腕のところに、口が生えている?
「私の『インハリット・S』には、相手が触れた時点でお終いなんです。その時点で、私の体の一部を植えつけられるんですから!」
次の瞬間二つの拳が急速な勢いで飛び出し、『SORROW』の顔面に食い込む。
「げぷぅっ!」
吹っ飛んだ男に、更に追い打ちとなって飛んできたのは、ばねによって飛んできた少女の拳であった。
馬鹿な、これは俺の能力。何故彼女に使える?!
起き上った彼が目にしたのは、立ち上がった少女の手に生えている「六本目の指」。まさか、あれは!
「あなたが吹き飛ぶ瞬間に、小指を切り取ったんです。
痛みも出血もないから気付かなかったでしょうが、私もこれであなたの能力を借りられました」
つかつかと近づく少女に、彼は戦慄した。この能力はヤバい、何を起こすか解ったものではない!
「『SORROW』!」
男は、彼女が近付く寸前に地面を殴りつけた。すると、アスファルトを貫いてコイルばねの中の「空間」が穴として下水管へと道を開く。
「このままやりあうのは俺にとって不利だ。姿を隠してつけ狙うとしよう」
ガオンッ! そう言い残し、男は少女の目の前で地面の下へと姿を消した。当然、すぐにコイルばねは消えてしまう。
このままではまずい。相手のスタンドの方がスピードもパワーも上、そんな相手につけ狙われては本当に始末される。追わなくては!
「感じる……、この指の持ち主が動くのを。あっちね!」
指から感じる「血の絆」を頼りに男を追ったジョルナータがたどり着いたのはゴミゴミした袋小路であった。しかし、何処にも男の姿はない。
大体の位置しかわからない以上、真下から襲われたら危ない。彼女は手近なごみ山の上に登ろうとし、その隙間から拳が飛び出した!
「ああっ!」
空高く吹き飛んだ彼女の真下で、ゴミの隙間から男がはい出してくる。その全身を針金に変えて。
「やはり、俺の能力を完全に理解していなかったな。コイルばねを伸ばせば針金になる、それで君の足を縛ったのではなかったか?」
立ち上がった男の目の前に、少女は落下する。だが、
「……よくわかりました。あなたの能力の使い方は」
「何? む……、その脚はどうした!」
男は目を見張った。彼女の足がどこかに消えている!?
シュルシュルシュル……。その時、ゆっくりと伸びてきた針金が彼の首に巻き付いて、じわじわと締めあげていく。
「私は、殴られた時点であなたの肩に、ばねに変えた足を植えつけたんです。それが、今巻き付いた。
さて、どうします? もう、私は残る手足もばねに変えてます。あなたが手をバネに変えて私を殴るより、私が殴る方が早いですよ?」
にっこりと笑う少女。それに男は、
「いいだろう。君は十分な実力を示した。合格だ」
とうなずいた。
名前の由来
ジョルナータ:イタリア語で一日
ジョイエッロ:イタリア語で宝石
ステッラ:イタリア語で星
テンぺスタ:イタリア語で嵐
ジョイエッロ:イタリア語で宝石
ステッラ:イタリア語で星
テンぺスタ:イタリア語で嵐
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