「ううっ、グスッグスッ……、なんで、なんであなたが……」
後は言葉にならない。溢れ出す涙をこらえるなんてできない。
告別のミサで、少女は嗚咽していた。今永遠の別れとなる相手は、彼女の親友であった。
義父との折り合いが悪く、家から飛び出して不良の仲間入りをしたのはいいが、気弱なためにつまはじきにされていた彼女を支え続けてくれた大切な人であった。
それが、殺された。それも、麻薬の売人に誘拐され、薬を打たれ、凌辱の限りを尽くされた揚句に殺されたのだ。
それが、彼女には許せなかった。親友ほどのいい人が、何も悪いことをしてもいないのにそんな悲惨な目に遭うことがどうしても納得できなかった。
彼女は、生まれて初めて人を憎んだ。未だ見つかっていない犯人をだ。そして、幸か不幸か彼女には復讐を成すだけの、人とは違う力を持ち合わせていた。
「……必ず敵は討つわ。行きましょう、『インハリット・スターズ』」
謎めいた言葉を残し、首筋に星型の痣を持つ少女は教会を後にした。彼女の名はジョルナータ・ジョイエッロ。
2003年、ネアポリスの町でのことであった。
「答えて、私の親友を殺した売人は誰なの?」
少女の震え声での問いに、クスリ売りは答えることが出来なかった。何も知らなかったわけではない。その喉を、己が両肩から生えてきた少女の両腕に締め付けられていたからだ。
初めての行為に内心怯える少女自身は、そのことに気づくこともできず、グイグイとまるで機械のように相手の首を絞め続ける。
自分が、限度を超えていたことに気付いたのは、相手が既に二度と答えることのできない状況になってから数分たってからのことであった。
「私が……、人を殺した? ど、どうすれば……」
己が、とうとう人として足を踏み入れてはいけない世界に入り込んでしまったことに気付いた少女は、恐怖に震えながら路地裏を後にした。
頭の中でリフレインするのは「捕まりたくない」という思いだけ。こうなれば、もう手段は一つしかない。この町を裏で支配するギャング組織『パッショーネ』へと身を寄せることだ。
『パッショーネ』には己と同じような能力を持つ人たちが沢山集まっており、また麻薬取引を極力排斥しようとしている、といううわさを聞いた。
今はその噂を信じるしかない。そこに行けば、きっと自分も匿ってもらえるし、親友を殺した犯人も見つけてもらえるだろう。
それだけを考え、少女は夜の街をあてどなく彷徨い始めた。
「なんでウチのボスともあろう人が、たかが一人の女の子の保護要請ごときにわざわざ出向くんだよォーッ! ちっとは用心しろよ、ジョルノッ!」
「いや、ミスタ。調べによると、どうやら彼女は『スタンド使い』らしい。そして、彼女の親友が殺された事件も、どうも『スタンド使い』の売人が起こした事件のようです。
もしかしたら、そこから今ネアポリスに広まっている麻薬の出所を特定することが可能になるかもしれません」
「なるほどな、それはまあいいとしよう。そして、『敵』に知られないように人数を抑えるのもまあいい。だけど、護衛が二人ってのは少し少なすぎやしねえか?」
隣の男が騒ぐのにも意に介さず、パッショーネのボスは少女に指定された場所へと向かっていく。これが、運命の歯車が回る起点となっていくとも知らず。
(? 誰か、近づいてきている?)
明け方、通りに面したカフェの一席で少女はふと顔をあげた。まだ早いため人通りはさほどでもないこの道で、特定の誰かが自分へと近づいてくる。そんな気がした。
「来る」と感じた方向へと顔を向ける。その方向からやがて現れたのは、二人の若者を連れた金髪の青年。なぜか、どこか懐かしい感覚がした。おそらく、彼こそが組織からやってきた人なのだろう。
(妙だな、初めて会った気がしないぞ?)
ボスが持った少女への最初の印象はそんな奇妙なものであった。だが、今はまず彼女の事情を知ることが先決だ。
彼は口を開く。
「さて、お嬢さん。君はこの国に税金を払ってますか?」
「え? え、えっと、消費税とかならときどき払っていますけど、それ以外は払っておりません。私、一応は実家を飛び出した不良ですし……」
「なるほど、国にはさほど頼れないということですね? しかし、よく考えたほうがいいですね。僕たちはギャングだ。ギャングに保護を求める、ということは自分が思う以上の負債を持つことになる」
「か、かまいません! 私は友人の仇を討てればそれでいいんです。それさえできれば、なんだってします!」
彼女の言葉に、ボスは内心あまりいい思いはしていなかった。なぜだか、彼女をあまりこういった世界に関わらせたくない気持ちになったのだ。
「ところで、その事件について一つ確認したい。僕の元には、その少女が『いきなり蝿の群れに包まれて、それがいなくなった時には姿を消した』と入っています。それは、正しいですか?」
「はい、そうみたいです。私は見たわけじゃないんですけど、友達は『彼女がまとわりついてきたハエを払った直後のことだった』って言ってました。
あの、これって、それぞれ違った能力を持つ『悪霊』か何かを操れる人のやったことなんでしょうか?」
「ええ、おそらく」
彼がうなずいた時だった。
「おい! そこのトラック、止まれ!」
長い付き合いの側近の叫び声が聞こえた。
そのトラックは、一言で言えば異常だった。どこか違和感を感じさせる黒い人形様のものが運転席に陣取ったそれは、迷うことなくまっすぐに彼らの元へと進んでくる。
警告のために一人が放った銃弾がガラスを貫通しても、ひるむ様子を見せない。
「チッ……、聞こえねぇってか。なら、覚悟はできてるんだろうなぁッ! ピストルズ、運転手の頭をぶちぬけッ! ロッソ、てめーはボスを守れ!」
もう一人の護衛に命令して、男は即座に運転手へと銃弾を放つ。その上には、小さなスタンドが乗り、弾丸はまっすぐに進んでいく。
相手がスタンド使いだろうがなかろうが、何かしら反応をすれば、弾丸の軌道を変える。そのつもりだったのだが、相手は討たれる直前にその形を崩した。
「ミスタ! コイツ、人間ジャネェ! 無茶苦茶ニ集マッテ、人ノ形ヲ真似シタムカデノ大群ダ! シカモ、コノトラックニハ蜂ノ巣ガ積マレテタ!
アイツラ、ソレヲ車カラ放リ出シテ、自分タチモ出テイッタゾ!」
「何だと?!」
弾丸に乗っていたピストルズの報告に、男は顔色を変えた。咄嗟に車のタイヤに銃を撃って凌ぐが、爆弾の方は!
「ボ、ボス! スズメバチです! 逃げてください!」
護衛の言葉に、ボスははっと顔を上げた。見ると、スズメバチの群れが自分たちへと猛烈な勢いで接近している。その翅には数字が……、数字?
「危ない!」
彼が咄嗟に少女に覆いかぶさった直後、カフェの壁にぶつかったスズメバチの群れは『爆発』し、周囲のものを吹き飛ばした。
「おほっ! まさかこれほど威力があるとはねぇ。
俺の『シンフォニー・オヴ・デストラクション』で操った蜂の『速度』を爆弾化して吹っ飛ばす、って言った時には訳がわかんなかったが、なかなかたいしたもんじゃねえか。
あんたの『ボンバー・キング』、俺のスタンドとかなり相性がいいんじゃねぇか?」
「だろ? 俺もマジでそう思うぜ、できれば今後もいいお付き合いをしてぇくらいだ。けどな、わかってるんだろうな?
あんたは、『パッショーネのボスを仕留め、ネアポリスの街を献上する』って条件でうちのボスに寝返った。それが失敗しちゃ無意味なんだぜ?」
「わかってるぜ! 安心しろよ、こっからは俺一人でも大丈夫だからよー! ひひひ、ようやくあの恨み重なるボスをぶち殺せるぜ……」
付近の建物の屋上で、爆発の様子を眺める二人の男がいた。どうやら、ボスたちを襲ったのはこの男たちの仕業らしい。
(しっかし、こいつは本当にわかっていやがるのかねぇ。ま、こいつ一人が死のうが俺たちにはどうでもいいんだがな。巻き込まれない限りではな)
『虫使い』の様子に、何か嫌なものを感じたのか、派手な格好をしたもう一人の男は、
「まあいいさ。なら、一人でどうにかしてくれ。俺はボスにあんたの意気込みを伝えてくっからよー」
と言って姿を消した。
それにも気付かず、男は
「ひひひ、これでようやくクスリが手に入る。クスリ、クスリ、クスリぃッ!」
とわめき散らしていた。
(くっ……、スズメバチが『爆弾』になってた、だと?)
爆風の中で護衛役の少年は、自分たちの油断からボスに危害が加えられたことに愕然としていた。
本来、爆発にまともに巻き込まれて即死していたはずの彼が無傷でいられたのは、ボスが爆発の途中でスタンド『ゴールド・E・レクイエム』を発現させたからである。
その能力、「相手の動作や意思のエネルギーを全てゼロに戻す」ことで、大半のハチの誘爆と、少年の爆死という「真実」に到達させなかったのだ。
しかし、直前に少女をかばったことで発現が一拍遅れた。その結果、一部のハチの爆発までは無効化できず……
「ボス! しっかりしてください!」
彼の敬愛するボスが意識を失って石畳に倒れこんでいる。黒く焼け焦げたその背中には、爆風で吹っ飛んできた壁の破片がめり込んでいる。
このままでは命が危ないっていうのに、助けられた少女の方は、これまで住んできていた世界から逸脱した出来事に放心状態になったのか、腰を抜かしている。
その足元には、いつ落としたのか、彼女の空っぽの財布が開いて落ちており、中からは粉塵で煤けてよく見えない写真が顔をのぞかせている。
「おい、君! 君もスタンド使いなんだろ?! ボスを治療できないのか?!!」
「くそっ! ウジャウジャウジャウジャどっから湧いてきやがるんだ、チクショオ!」
一方、もう一人の護衛は次から次へと押し寄せるムカデやら蜘蛛やらの大群の波に翻弄されていた。
個々は別に何の変哲もない節足動物ではあるが、それが大量に集まると始末に悪い。何せ、彼のスタンド『セックス・ピストルズ』はこのような相手を退治するには全く向いていないのだ。
おまけに、ここ数年で己が無敵のスタンドを完全に行使できるようになっているボスまでが奇襲で負傷したときている。
爆発があったのは一回だけで、それからは虫どもが爆発することはないからには、「爆弾化」させるスタンド使いはどういうわけか助力を止めたと見ていいだろうが、それで危機が減じたというわけではない。
一体一体は大したことがなくても、壁一面を埋め尽くしているかのような大群に飲み込まれるとどうなるかは考えたくもない。
まずい、まずいまずいまずい! 彼の心中を焦りが支配しかけた瞬間、どこからかスズメバチの群れが携帯を載せて彼の目前で停止する。
その携帯から聞こえてきたのは、非常に不愉快な笑い声であった。
「ひひひ、ボスの片腕ともあろうグイード・ミスタ様がなんてぇざまだ! ボスを負傷させた今、てめーらが俺の『シンフォニー・オヴ・デストラクション』にかなうことはありえねぇな!
ボスが倒れた今、ロッソ・アマランティーノの『ガーネット・クロウ』とてめーの『セックス・ピストルズ』じゃあ、俺を殺すことはできねぇんだぜぇ~?」
携帯を片手に、売人は屋上で小躍りをしていた。よせばいいのにわざわざ身を乗り出して地上の護衛めがけて手を振っている。
いくら銃弾が届かぬ高さにいて、しかも虫の群れで相手を足止め出来ているからとはいえ、愚劣にもほどがある行為だ。現に、届かないと知りつつ護衛は弾丸を彼めがけて放っている。
派手な服装をしたギャングは、既に遠く離れた安全な場所に移動しているというのに、望遠鏡で彼の姿を見るたびに冷や汗がだらだら流れていた。
「やはり、ヤク中の売人ごときに期待する方が無謀だったってわけかよ……。まあいい、出がけの駄賃にてめーの『脈拍』は爆弾にしてるんだ。負けても一人くらいは巻き添えにしてくれんだろうよ。それじゃあな、アリーヴェデルチ!」
男はニタリと不気味な笑みをもらし、いまだ消えぬ朝霧の中へと姿を消していった。
「おい、君! 君もスタンド使いなんだろ?! ボスを治療できないのか?!! 頼む、答えてくれ!」
少年が肩をわしづかみにして揺すぶりつつ大声で叫んでいるというのに、少女はまだ茫然と眼を見開いたままであった。彼は、その様子にとうとう決意を固めた。
「やむを得ない……。『ガーネット・クロウ』、この子に『立ち向かう勇気』を、そして『守ろうとする決意』を!」
ズギュン! 彼の背後に現れた深紅の姿が、少女の頬を思いっきり張り飛ばす
「きゃっ!」
顔面をひしゃげさせて少女は派手に転倒した。これでもかなり手加減はしている方だ、本気でぶん殴っていたら少女の顔面一つは簡単に粉砕できる。
「な、何をするんですか!」
起き上った少女はいきなりぶん殴られたことにものすごく腹を立てたのか、機関銃のごとくまくしたてる。
「……俺の『ガーネット・クロウ』は『触れた人間の感情を操作する』能力。君の心に『勇気』と『決意』を与えた」
「え?」
少女は彼の言葉に目を見開いた。そういえば、さっきまでの恐怖が跡形もない。これって、ふっきれたってことなんだろうか?
「殴ったことを謝る時間なんてない。教えてくれ、君のスタンドはボスの傷を治すことはできるのか?」
その言葉に、彼女はハッと我に返った。見れば、彼女をかばったせいか、ギャングのボスという青年が大けがを負って倒れている。彼女はしゃがみ込んでその背中を子細に観察し、ややあって沈痛に首を横に振った。
「私には無理です。背中の皮膚は『インハリット・S』で補えます、傷口から流れた血も輸血できます。ですが、めり込んだ壁の欠片を一々取り出すだけの余裕がないのではとても……」
「そんな……。じゃあ、ボスの意識が戻らない限り傷の手当ては……」
少年が絶望の言葉をもらす。しかし彼女は、その言葉に返って耳をそばだたせた。
「この人の『悪霊』なら、傷を癒せるんですか?!」
「あ、ああ! ボスのスタンドは、進化する前の能力『生命を作り出す』ことを受け継いでいると聞いている。それを応用すれば、めり込んだ欠片を自分の肉体に変えることはできるはずだ」
俄然元気を取り戻した少女の言葉に、彼は眼をぱちくりさせながら返答を返す。
「それなら大丈夫です。お願い、『インハリット・S』!」
その瞬間、少女のスタンドが姿を現した。額に勾玉のようなものがついたそれは、少女の楚々とした様子とは似ても似つかない無骨な男性に似ていた。
しかしそれが行ったことは、手刀を振るってボスの右腕を切り落とすことであった。
「君、なにを!」
「大丈夫です、この人の右腕を借りただけです。血も出ませんし、後でつなげることはできます。真の能力までは無理ですけど、古い能力くらいなら、これで貸してもらえます!」
驚いた少年ににこりと笑いかけ、少女は自分の肩に切り取ったボスの腕をつなげる。そこから現れたのは、まぎれもないボスのスタンド、『ゴールド・E・レクイエム』の右腕。
その腕が破片に触れるたびに、ボスの傷が塞がれていく。これで、どうやら問題はなさそうである。
ボスが身じろぎしたのを機に、彼女は頭上へと目を向けた。その先には、いまだ馬鹿笑いを続ける犯人の姿。
「あの人を捕まえてくればいいんですよね? ちょっと待っていてください!」
そう言い残し、彼女はボスの腕を返す直前に石畳を殴りつけた。そこから伸びてくるのは巨大なツタ。
彼女はそれに触れ、
「『インハリット・スターズ』!」
一声叫んで姿を消した。その場に残ったのは、彼女の腰から下の部位だけであった。
「ひゃひゃひゃ……うおっとぉ?!」
馬鹿笑いを続けていた売人であったが、その眼は急に驚愕の色を帯びた。その足にツタの先端が巻きついている。
馬鹿な、これはボスの能力! 愕然とした彼がふと顔をあげた時、彼が目にしたものは、
「注射器と麻薬……? それに、この能力は……、もしかして、あなたが!」
ツタの中ほどから上半身を生やした少女の姿であった。
少女はその瞬間確信した。こいつが、『敵』だ!
「『インハリット・スターズ』!」
『悪霊』の拳が一直線に走る、しかしそれは昆虫じみた拳によって払われる。
「あ、あぶねえじゃねぇか、嬢ちゃんよぉー! だがな、分かるか? この瞬間、おめーは俺の敵になったんだ。そして、俺は娘っ子にも容赦はしねえんだよ。『シンフォニー・オヴ・デストラクション!』」
男の号令に応じ、物陰から大量の白アリが現れ、ツタへと襲いかかる。
「!!!」
「そのツタは、ボスの能力だな? 俺が、その程度予測しないで裏切るとでも思うのか? そして、ツタの先端も切り落とすっ!」
ボゴン! 『シンフォニー・オヴ・D』の足が、男の足を束縛していたツタの先端を踏み千切る。そして、シロアリはますますツタに群がって噛み砕いていく。
「勝った!」
男が勝ち誇ったその瞬間、
「『インハリット・スターズ』!」
千切れたツタの先端から飛び出した拳が、彼の足を打ち砕いた。同時に、シロアリがツタを噛むのを止め、元の居場所へと戻っていく。
「千切れたツタはもう『生命』ではないわ。でも、元の石畳の一部に戻るにはワンテンポ間があるみたい。
そして、『シンフォニー・オヴ・D』の防御はカメさんみたいなのろさだった。『インハリット・スターズ』が体の一部を引きちぎれるほどにね!」
ツタの先に身を生やしながら、少女は笑った。だが、その眼は全く笑っていない。
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ…………
少女の体が、ツタの成長に従って急速に男へと近づいていく。
「答えて、あなたは最近一人の女の子を連れ去って、弄んだ。そうなんでしょ?」
「だ、だったらどうだってんだよぉー!」
敗北の予感に身を震わせながら、男は開き直った答えを返す。それに、少女は、
「そう、やっぱりあなただったんだ。なら――」
――ゼッタイニユルサナイ
「無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄アッ!」
『インハリット・S』の拳が猛烈な勢いで繰り出されていく、的確に男の体へと打ち込まれていく。
「あでぶひぎゃぁっ!」
「無駄ァッ!」
そして、最後の拳が男を地べたへとたたき落とす。
頭から真っ逆さまに落ちていく彼を、しかし頑丈な腕が捕まえ、乱暴に石畳へと投げ下ろす。
「裏切り者がどうなるか、知っててやったんだろうな。コラぁああーッ!」
地上で待ち構えていたのは、既に意識を取り戻したボスと、その護衛二人。
男は失禁しつつも、気丈に最後の言葉を残した。
「貴様らがそもそもボスを裏切っ「無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄アッ!」
「ウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラガーーーーーーーーーーーノ!!!!」
「イイィーハァーーーッ!」
二つのスタンドの乱打と、銃弾が呻った。
「ごべぇっ!」
自業自得とはいえ、三人もの実力あるスタンド使いからの同時攻撃を受け、売人はなすすべなく路地裏の壁へと叩きつけられた。
「『ゴールド・E・レクイエム』、これでおまえは何処へも逝くことはないッ!
だが、次の死へと向かうまでに尋問しなくてはならない。パッショーネには動物を爆弾化させられるスタンド使いはいないはずだ。
協力者の正体と、その目的を吐いてもらおう。自白すれば、このスタンドの能力を解除し、再起不能にする程度で済ませる、と約束しよう」
ツカツカと近づいてくるボスに、売人はペッと唾を吐きかけた。ボスは首をかしげてそれをよけるが、これで彼の意思は伝わったはずだ。
「けっ! 誰が話すかよ!
相方がパッショーネのシマを狙っているギャング『ヴィルトウ』のやつで、やつのスタンド『ボンバー・キング』は、体から微弱な電気を流し、感電させた物品または生物の『数字』を『爆弾化』する能力で、
そんでもってやつらは、麻薬と称して、スタンド能力を発現させる何かを混ぜてばら撒くことで、自分の意のままになるやつらを大量に作り出そうとしてることなんてよぉーーッ! はっ!」
そこまで一気にまくし立てて、売人はハッと口を押さえた。な、何でしゃべっちまったんだよ?!
「……俺の『ガーネット・クロウ』は『触れた人間の感情を操作する』能力。先ほどのラッシュの際に、俺はあんたにいくつかの感情を与え、奪った。
『ボスからの質問には素直に知っている限りの真実を話す決意』、『今後どんなに死に続けようと、精神を崩壊させないだけの覚悟』を与え、
『無限に死に続ける現実への絶望・悲嘆』を奪ったッ!」
「な、何だってェェェェェッ!」
「ま、自分を知れってことだな。ボスを裏切っといて、なおかつ尋問に素直に答えようとしなかったてめーがわりい」
「無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄ッ!」
それで、終わりだった。再びボスからのラッシュを浴びた売人は、付近の下水溝へと吹き飛ばされ、そこで消えた。
「お話を聞かせていただきました! えっと、つまり麻薬を流す他のギャングと、抗争が起きるってことなんですよね!
じゃあ、私にも手伝わせてください! これ以上、私の友人みたいな麻薬の犠牲者は出したくないんです!」
背後から聞こえてきたその声に、ボスたちは振り返った。そこには、いつの間に降りてきていたのか、先ほどの少女が決意に満ちた目で彼らへと向き合っていた。
「いや、悪いがカタギの君には……」と、断りを言おうとしたボスは、彼女の瞳にふと口を閉ざした。
そこには、かつてこの組織に入り、元のボスと戦った時から今に至るまで自分たちが抱えている黄金のごとき意思と同質の、まるで宝石のように眩く輝く決意を見たのだ。
「……いいだろう。数日以内に、『試験』を受けてもらうことにする。それを乗り越えることができたら、君をパッショーネに迎え入れよう」
ボスの重々しい言葉に、彼女はパッと目を輝かせた。
翌日、とある本屋で「著者:リアリテストの本体」と書かれた日本直輸入の同人誌を読みふける少女がいた。
「『クラフト・ワークッ! てめーの中で、俺が出したばかりの真っ白いモノを固定するッ!』、『あ、兄貴ィィィー、ぬふぅ!』、『てめーにブチ込めるようになあああああ』『なにィーーーッ!! あっ、あっ、あっ、アッーーーー!』。ふぅ……。や、やだ、鼻血出ちゃった」
……訂正しよう、いわゆるヤオイ本を朗読するアブナイ少女がいた。
その時だった。
「……君が、ジョルナータ・ジョイエッロだな?」
ドドドドドドドドドドドドドドドドド……
彼女を呼び止める声がした。
使用させていただいたスタンド
No.570 | |
【スタンド名】 | インハリット・スターズ |
【本体】 | ジョルナータ・ジョイエッロ |
【能力】 | 『肉体』と『精神』を与え、また与えられる |
No.99 | |
【スタンド名】 | シンフォニー・オヴ・デストラクション |
【本体】 | 元パッショーネの薬の売人 |
【能力】 | 小型の非知的生命体を選択し、操る |
No.448 | |
【スタンド名】 | ボンバー・キング |
【本体】 | ギャング『ヴィルトウ』の男 |
【能力】 | 体から微弱な電気を流し、感電させた物品または生物の「数字」を「爆弾化」する |
No.721 | |
【スタンド名】 | ガーネット・クロウ |
【本体】 | ロッソ・アマランティーノ |
【能力】 | 触れた人間の感情を操作する |
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