命の長さ

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命の長さ ◆F3/75Tw8mw




―――これが、デスノートに書かれる最後の名前です。



全世界を震撼させた最悪の連続殺人事件―――通称、キラ事件。


それは、類希なる二人の天才―――夜神月とLの、死神のノートを巡る戦いでもあった。


そして戦いは、キラの敗北……つまり、夜神月の敗北により終わりを告げた。


だが、その勝利を得る為にLが払った代償は……彼にとっては小さく。


しかし、世界にとってはあまりにも大きなものだった。



―――キラという大きな悪を、倒す為の、小さな犠牲です。



デスノートの効力は絶対であり、そこに書かれた死を覆す事は出来ない。


Lはこのルールを逆手にとり、月がキラである事を暴くべく、自らの頭脳を信じて一つの賭けに及んだ。




『自らの名前を先にノートに書き込み、後に書かれたノートの効果を無効化する』という……暴挙とも取られかねない賭けに。




そう……世界一の探偵L=Lawlietの命は、僅か23日間しかもはや残されていないのだ。



◇◆◇



(……殺し合いと言う名の儀式、ですか……)




どこにでもありそうな、至って平凡な中学校―――見滝原中学校の校長室。
そこでLは、デイパックの中にある名簿と支給品を確認しつつ、己が置かれている立場について考えを巡らせていた。

この会場に来る直前。
夜神月がキラであるという事実を証明し、そして死神リュークの手により彼が死亡した後。
Lはキラ事件の終止符を打つべく、残されたデスノートの焼却処分を行おうとしていた。
ノートの消滅を以て、キラとの戦いに完全な決着が齎される……その筈だった。

だが、ノートに火を着ける寸前というところで、Lはあのホールに気がつけば呼び出されていた。
そして後は知っての通り、アカギによる殺し合いの強制だ。


(アカギ……彼の行動は、死神と同じぐらいに性質が悪い。
ある意味ではキラをも超える、最悪の犯罪者ですね)


何の罪もない者達を強制的に拉致し、殺し合いを強要する。
その行いを儀式と呼ぶ事で、己が所業を正当化し……あろうことかその様相を、楽しんでいる様にさえ見える。
それは地上にデスノートを落とし混乱を面白がっていた死神リュークと、同じぐらいに最悪の存在であり。
そして、その主たるキラをも超える犯罪者だ。


(アカギ、貴方にどういった意図があるかは知りませんが、貴方のやっている事は紛れもない『悪』です。
だから私は、貴方を必ず逮捕する……この事件を解決する為に)


ならば、Lがやる事は唯一つ。
一人の探偵として、この事件の主犯たるアカギを逮捕する事。
この馬鹿げた殺し合いを、自らの手でとめる事だ。



(そうと決まれば、早速情報を集める必要がある。
一応、あのホールの出来事からだけでも推測できる事柄は幾つかあるが、それだけでは不十分だ)


その為にはまず、誰か参加者から話を聞かなければならない。
アカギと対等の土俵に上がる為の武器―――情報を得る為だ。
何分現状では、相手とこの儀式についての知識が少な過ぎる。
闘いを挑むにしても、敵の正体も目的も見えぬままというのは、不利を通り越してもはや無茶だ。
だから、どんな些細な事でも、荒唐無稽な事でもいい。
兎に角、推理材料を得たいのだ。


(誰か、この殺し合いに乗っていない友好的な人物と遭遇出来れば幸いだが……)


そう都合よく理想的な方向へと物事が運んでくれるなら、苦労はしない。
寧ろこの状況下では、殺し合いに乗った危険人物と遭遇する可能性の方がどちらかといえば高いのだ。
同じ参加者との接触は、極力注意を払いつつ行わねばならないだろう。



その様に、Lが身の振り方について考えていた……矢先だった。



―――ガチャッ。



不意に、何者かがドアノブを握る音が聞こえてきたのだ。



「む……?」


噂をすれば影とはよく言うものの、現実に起これば流石に驚かざるを得ない。
Lは素早くドアへと視線を向けると共に、己の支給品―――クナイを後ろ手に構える。
それと同時に、片足のつま先を目の前にある机の裏へと押し当てた。
もしもドアが開かれると同時に、何かしらの攻撃行為があった場合、机を蹴り上げて盾にする為だ。
理想は銃―――それも拳銃ではなく重火器の類をドアへと向けての開幕威嚇だが、生憎ながら手元にはない。
よって、これが今取れるベストな行動と言えるだろうが……それでも、ベストであって完全ではない。
例えば出てきたのが、ロケットランチャーや対戦車ライフルなんて物騒な代物を持っていた相手だったとしたら、こんな策程度は力ずくで突破されるだろうからだ。



しかし……Lはそれを、己の頭脳で補いにかかる。


「そのドアを開けるのは、待っていただけませんか?」


ドアノブが回されようとした瞬間。
Lはすかさずドアの向こうにいる相手へと声をかけ、その動きを制止させる。
どうやら向こうも、この部屋に誰かがいるとは思っていなかったのだろうか、声に驚き動きを止めたようだ。
その様子を察するや否や、Lはすぐに口を開き、迎撃のプランを実行する。


「まずはじめに断っておきますが、私はこの儀式とやらには乗っていません。
 ですが、この状況下で他人の言う事を素直に信じろというのは、恐らく無理な話です。
 だから、例え貴方がドアを開けた瞬間に私に銃口を突き付けてきたとしても、文句は言いません。
 警戒するのは当然の事ですから」


まずLは、自分が殺し合いに乗っていないという明確な意思を相手へと告げた。
それも、己の言葉を信じてもらえなくても結構だと、断言した上でだ。
その様な行動に出た理由は、相手もまた同じ立場であると理解させる事。
『自分もまた、お前を警戒している。
 だから、例え武器を向けられたとしても仕方が無い事だ』と、前もって圧力をかける事だ。
こうしておけば、相手は少なからず自分との接触を警戒する。


ドアを開けた瞬間に、銃口を曝されたりするのではないか……と。


そうなれば、相手が殺し合いに乗っている人間であろうとなかろうと、少なくとも出会い頭にすぐさま撃たれるという可能性は低くなる。
もっとも、低くなるだけでゼロには出来ないのだが……
Lはそれを限りなくゼロへと近づけるべく、ここで最大の切り札を切った。


「しかし、私を殺すのは止めておいた方がいいです、お互いの為にも。
 何故なら今、私は、私の心臓の鼓動が停止すると共に爆発する強力な爆弾を装備しているからです。
 支給品の一つなのですが、説明書によると、この学校を一つ吹き飛ばす程に強力な威力を秘めているそうですよ」



爆弾と言う名のブラフを。
実際には、そんな爆弾なんて支給も何もされていない。
その場を凌ぐ為だけの、出鱈目もいいとこ出鱈目なのだが……しかし。
ドアの向こうにいる相手には、それを確かめる手段が無い。
ハッタリであると、見抜く事が出来ないのだ。

こうなれば、相手が取るであろう行動は三つに絞られる。
爆発を恐れられてこのまま逃亡するか、逆に自滅覚悟のギャンブルに出てくるか。



―――ガチャッ


そして……接触を、素直に果たしてくるかだ。


「御安心ください、私もこの殺し合いには乗っておりません。
 貴方と同じ目的を持つ者です」


ドアを開けて部屋に入ってきたのは、一人のメイド服を着た日本人女性だった。
それも、ただの女性ではない。
この状況下におきながら、非常に落ち着いた言動と物腰が出来ている……そう。
Lと同じく、修羅場というものを何度か経験している人間だ。


「私は、篠崎咲世子と申します。
 貴方のお名前を、お聞きしてもよろしいでしょうか?」


彼女の名は、篠崎咲世子。
アシュフォード学園に仕えるメイドにして、SPを輩出する流派・篠崎流の37代目。
黒の騎士団が誇る、白兵戦闘のエキスパートだ。



◇◆◇



「……篠崎さん、本当なのですか?
 あなたが、あのキラを一切知らないというのは……」

「はい……L様こそ、本当にブリタニアも黒の騎士団も知らないというのですか?」



先の緊迫した出会いより、数分後。
二人は互いに敵意が無い事を確認すると、同じ卓について情報交換に入っていた。
まずLと咲世子は、それぞれの名前や立場、殺し合いに呼ばれた状況等を確かめようとしたのだが……
そこでかわされた話の内容は、両者にとって俄かには信じがたい事ばかりだった。

Lは咲世子に対し、自分がキラを追う探偵である事。
各国の警察組織と共に、キラ事件の解決を図る身であると説明したのだが……咲世子は、キラなど知らないという。
今や世界中が良い意味でも悪い意味でも注目している、あのキラをだ。
Lからすれば、それはあまりにもありえない話だった。

そして咲世子もまた、同様の気持ちを感じていた。
彼女はLに対し、自身がアシュフォード家に仕えるメイドであり、またランペルージ兄妹の世話役である事。
現在は黒の騎士団やブリタニアが広げる戦火より逃れるべく、エリア11から離れている事―――これは、自身が黒の騎士団のエージェントである事を隠す為の嘘なのだが―――を説明したのだが……
Lは、エリア11もブリタニアも、黒の騎士団も知らないというのだ。
咲世子からすれば、それはあまりにもありえない話だった。

己にとっては常識にも等しい事実を、まるで知らないという。
これはおかしい話だ。
その為にお互い、最初は相手にからかわれているのかとも考えたのだが……
流石にこの状況下では、そんな滅茶苦茶すぎる嘘をつく理由がない筈だ。
ならば、この認識の相違には何か原因があるに違いない。


「……なるほど、そういうことでしたか」


そして……Lはその原因を、いち早く察した。


「L様……何か分かったのですか?」

「はい、答えはあの時にアカギが口にしています。
 『複数の可能性宇宙から、私達は選ばれた』……と。
 つまり私達は、俗に言う異世界……パラレルワールドの住人ということです」


アカギが口にした、可能性宇宙という謎のキーワード。
Lは最初、その意味をいまいち掴みきれていなかったが……
こうして咲世子と話が出来たおかげで、全てはっきりした。

自分達が、異世界より呼び出されたという……俄かには信じがたい真実へと、辿り着くことが出来た。


「異世界、ですか……?」

「はい、アカギの言う可能性宇宙とやらが何なのかを考えたところ、その確率が一番高いです。
 キラ事件の渦中にあった私の世界と、ブリタニアをはじめとする大国同士が争う篠崎さんの世界。
 それぞれより私達が呼び出されたと考えれば、全てに筋が通ります」


Lは己の推理が、限りなく正解に近いものであるという自信があった。
それは、互いの認識の違いを解消できるからだけではない。
他にも多々存在する不可解な点も、一気に無くす事が可能だからだ。

そして、何より……Lは既に、異世界という概念を知っている。


「何せ、篠崎さんには信じ難い事実かもしれませんが……そもそも私は、異世界の存在を知っているんです。
 キラ事件の背後にいた、人間とは違う生き物……『死神』が生きる世界を」


死神界。
人間達が生きる人間界に対する、デスノートを使う死神達が生きる世界。
Lはキラ事件を通じ、その存在を知った。
故に今、自分達が違う世界の住人であると、あっさり断言できたのだ。


「他にも、異世界の概念を認めれば、片付けられる問題は多くあります。
 第一があのオルフェノクと言う怪物です。
 私はあんなものの存在は当然知りませんし、篠崎さんもそれは同様の筈。
 一応、単に私達が知らないだけの、所謂社会の闇に紛れた存在と言う可能性も、否定はできませんが限りなく低いでしょう。
 逆に一番考えられるのが、異世界に生きる人間とは別の生き物という説です」


その一つが、オルフェノクと呼ばれる異形の存在だ。
人間とも死神ともまた違う、人知を超えた生き物……あれが何なのか、少なくとも自分達の常識では説明が着けられない。
ならば現時点で有力な説は、彼等が死神と同様であるというもの。
『人間が生きる世界の外にいる存在』と言う考え方だ。


「そして第二が、この名簿にある名前です。
 篠崎さん、貴方も恐らく確認している筈……正直に話してください。
 ここに、おかしな名前はありませんか?」


だが、それ以上に決定的な物的証拠がある……それは参加者名簿だ。
Lはそのページを大きく開き、咲世子に見せつけながら問い詰めた。
もしも自分の推理が間違っていないのなら、ここには彼女にとって不可解な名前が恐らくある。
仮に無かったとしても、少なくともL自身にとっては、この名簿はおかしなものなのだ。


「……流石です、L様。
 正直、話していいものかを悩んでおりましたが……貴方の言うとおりです。
 この名簿には二人程、どうしても気にかかる名前があるのです」


そして、咲世子もそれを認め返事をした。
彼女はLの推測通り、この名簿に目を通し、そして信じられない名前を見たのだ。
既に死亡している筈の人間が一人と……正体が分からぬ、得体の知れぬ名前が二人。


「ユーフェミア・リ・ブリタニア……この方はブリタニアの皇女なのですが、ある事件が切っ掛けで既に死亡しているのです。
 ここにいる筈がありません」


一人目が、ユーフェミア・リ・ブリタニア。
彼女はゼロ―――ルルーシュの手によって、間違いなく銃殺された。
それも、死を偽装する事など出来ようも無い大々的な生放送の真っただ中でだ。
生きている筈が無い……だが、確かにこの名簿には名前がある。


「つまり……このユーフェミアという方は、貴方が知っているユーフェミアとは似て非なる人物。
 異世界より来た、同一の存在といった可能性が考えられる……ということですね?」

「はい、そういう事になります」


考えられる可能性は、このユーフェミアは並行世界から来た別人という事だ。
恐らく彼女がいる理由は、この儀式場を混乱させることが目的だろう。
死亡した筈の人間がいるという事実……それを受け入れられる者など、まずいないだろうから。


「成る程……では、ついでにお聞きします。
 その方はお名前の通り、ブリタニアの皇女と言う事ですが……同じくブリタニアの皇族らしい方が一人いますね。
 この、ロロ・ヴィ・ブリタニアという方ですが……」


そう言うと、Lはロロ・ヴィ・ブリタニアの名前を指差し。
そのまま、少し離れた位置にある名前―――奇しくも同じ名を持つ者。

ロロ・ランペルージの位置へと、指を滑らせた。


「同じロロと言う名前の方が、一人います。
 そして、この方はランペルージと言う性……貴方が世話をしているという、ルルーシュさんとナナリーさんと同じ性です。
 これはもはや、偶然として片付ける事は出来ない」


言い終わると共に、Lは視線を咲世子へと真っ直ぐに向けた。
そして、現状で最も正解だと考えられる答えを、はっきり口にする。


「篠崎さん。
 ルルーシュ・ランペルージさんとナナリー・ランペルージさんのお二人は、名を偽ったブリタニアの皇族ではないのですか?」


ずばり、ロロ・ランペルージを除いたランペルージ性の人間は、ブリタニアの皇族ではないかと。


「…………」


正解を言い当てられ、流石の咲世子も言葉に困ってしまった。
Lの言うとおり、ルルーシュとナナリーはブリタニアの名を隠している。
だが、それはブリタニアから逃れる為だ……ここで、やたらに明かしていいものではない。
如何に証拠が揃っているとはいえ、「はい、そうです」と主の情報を漏らしては、従者として失格だ。


「……答えられない事情があるという事ですね。
 分かりました、ここは敢えて聞かなかった事にします。
 少なくとも現時点では、儀式の打破に必要と呼べる情報ではないですからね」


Lもそれを察したのか、深くは追求しなかった。
自身も危険から身を隠すため、多くの偽名を持つ身だ。
それを明かせというのは、確かに抵抗がある……
そして何より、強制をする事で折角できた味方が離れてしまうという事ばかりは避けたい。
だから……少なくとも、今はここまでだ。


「ただ、出来たらこのロロ・ランペルージという方と、ロロ・ヴィ・ブリタニアという方の素姓だけは話してもらえますか?
 答えられる範囲で結構ですので」


しかし、二人のロロについてだけは把握をしておきたい。
咲世子がランペルージに仕えている立場である以上、彼女は間違いなくランペルージの保護を優先とする。
Lとて勿論、出来る限りそれに協力するつもりだが……ロロだけは、情報が無いままに接触するのは危険だ。
ロロ・ランペルージとロロ・ヴィ・ブリタニアとを間違えて接触し、その挙句に死亡する事になったりしたら……洒落にならない。


「はい……ロロ・ランペルージ様は、ルルーシュ様の弟です。
 ただ、少々複雑な事情がありまして、血の繋がりは無いですが……」

「では、ロロ・ヴィ・ブリタニアについては?」

「存じません。
 私が知る限りではですが、その様な名前の皇族はいない筈なのです」

「……ふむ……」


咲世子の話を聞き、Lは少々考えた。
ロロ・ランペルージがルルーシュやナナリーの家族というのは、どうやら間違いが無い様だ。
だが、ロロ・ヴィ・ブリタニアの正体は咲世子も知らないという。
これも、異世界の人間として片付ける事は簡単だが……少々厄介な物だ。
仮に、もしこの二人の容姿が全く同じで、しかし片方は善人・片方は悪人だったりしたら……


(相当、場をかき乱されるでしょうね……)


現状では、判断材料が無い。
よって、咲世子には申し訳ないが……二人のロロは、どちらともに現時点では要注意人物として考えざるを得ない。


(この極限状態で、こんなややこしい状況だ。
最悪、人間不信に陥っても無理は無い。
アカギ……あの男、ここまで計算してやっているなら大したものです)



◇◆◇



(……ルルーシュ様と同じ……いや。
それ以上かもしれませんね)


咲世子がLに抱いた感想。
それは、彼が自身の主に匹敵するか……或いは超える頭脳の持ち主だろうという事だった。
ホールでの出来事や名簿からの僅かな情報で、彼はここまでの推理を展開させた。
そして、秘匿としていたルルーシュとナナリーの正体までも見抜いてみせた。
常人離れした、冷徹な観察眼と推理力がなければ出来ぬ芸当だ。
咲世子の知る限り、ここまで頭の切れる人間は精々一人……シュナイゼル・エル・ブリタニアぐらいだ。

それだけに、頼もしくもあり……同時に恐ろしくもある。



(この方がルルーシュ様と協力してくれたなら、きっとアカギの企みは簡単に撃ち砕けるでしょう。
ですが、逆に……もしルルーシュ様の敵に回ってしまったら、この上ない強敵になってしまうかもしれません)


咲世子が危惧している事は、Lがルルーシュの敵に回ってしまった時の事だ。
Lは、世界各国の警察組織と協力してキラ事件の捜査に当たっている探偵であり……
そしてルルーシュ率いる黒の騎士団は、世間的にはテロリスト扱いときた。
彼等は、言わば対立関係に当たる者同士なのだ。
故に咲世子は、ルルーシュが皇族である事はばれても、黒の騎士団のゼロである事だけは隠しきった。
何せ彼は、現時点では黒の騎士団を是としてくれるかどうかが分からぬ相手なのだから。


(ただ……ゼロに関しては、ばれる可能性はあまりないかもしれませんね)


しかし……咲世子にとって一つ、思わぬ幸運があった。
それは、参加者名簿に乗っていた得体が知れぬもう一人の人物。
Lにはユーフェミアとロロの『二人』のみが怪しいと言ったが……正確には、もう一人だけいる。


(この、私が知らないゼロという方がいる限りは)

それこそが、他ならぬゼロ―――名簿に刻まれた、もう一人のゼロだ。

ルルーシュこそがゼロであるにもかかわらず、彼とは別にゼロの名前がある。
考えられる事としては、Lが言う様にルルーシュとは似て非なる別人ということだが……
ゼロという名前自体は、はっきり言えば然程凝った名前ではない。
黒の騎士団のインパクトがあるからこそ固定概念として定着してしまっているが、偽名としては寧ろ、十分ありえるありふれたものだ。

もっとも、どちらであろうとも咲世子にとってはあまり関係は無い。
重要なのは、ルルーシュ=ゼロであるという真実を、これで少なからず隠せる事だ。


(ですが……この方の頭脳は油断ならない。
万が一に真実に辿りつき、もしもルルーシュ様やナナリー様の身に何かが及ぼうものなら……)


だが、それでも油断はできない。
あってほしくは無いが、もしもLが何かしらのリアクションを見せたらその時は、この手で始末する事も考えねばならない。
以前、扇が懸命に訴える中であるにも関わらず、ヴィレッタを始末しようとした時の様に。
袂に忍ばせた支給品―――スペツナズナイフの刀身が持つ冷たさを感じつつ、そう咲世子は心に決めていた。
冷酷かもしれないが、それが自身の役目なのだ。


「それにしても、篠崎さん」


そう考えていた最中。
不意に、Lより咲世子へと言葉が投げかけられた。


「貴方……随分あっさりと、私の説明を受け入れてくれましたよね?
 異世界の事といい、死神の事といい。
 普通、もっと驚いたりするものなのですが……一応、理由だけ聞いてもいいですか?」


それは、Lの説明を咲世子があっさりと受け入れた事への疑問。
確かに彼の言う通り、驚いたり拒否したりするのが普通の反応だ。
だが、咲世子はそれをあまりにも簡単に聞きいれてしまった。

その理由は、Lの推理が的を得ていた事も勿論あるが。
もう一つに、彼女もまた人知が及ばぬ力―――ギアスや、人有らざる存在―――C.C.を知っている事が大きかった。
知らぬ者からは『ありえない』と否定するしかない、非常識の領域を知っている。
だからこそ彼女は、同じ非常識の事実を十分に受け入れる事が出来た。

しかし……それを話す事は、出来るならしたくない。
ありのままに話せば、そこからLは間違いなく多くを追及してくる。
そうなれば、間違いなく事はルルーシュにまで及ぶだろう。
よってここは、当たり障りが無く、かつ違和感を持たれることの無い答えをするしかない。


「そうですね……職業柄、でしょうか?」

「職業柄、ですか?」

「ええ、私はルルーシュ様達に仕えるメイドであると同時に、SPでもあります。
 篠崎流の37代目として、幼い頃からその術を学んで参りました。
 如何なる事があっても動じることなく、冷静に主を守れる様にと……そう教えられてきたのです」


口にしたのは、彼女自身の出自だ。
如何なる状況でも冷静である様に教えられてきた、だから今回も何とか受け入れられる。
その答えは、事実こそ隠しているものの、一切の嘘も無い。
Lにも、否定する要素は無い筈だ。

そう思い、彼を真っ直ぐに見詰めるが……



「……SP、ですか……」

「……L様?」


その言葉を聞いた途端。
Lの表情が、僅かながらに変化したのだ。
そこから感じられるのは、今までの様に自分を疑う物ではない。

何と言えばいいのだろうか。
そう……何か、哀愁に近いモノを感じているように見えるのだ。


「L様……どうかしましたか?」

「ああ……すみません、篠崎さん。
 篠崎さんの話を聞いて、少し私のパートナー……ワタリの事を思い出したのです」


Lはこの時、咲世子の言葉からワタリの事を思い出していた。
彼は強大な事件に立ち向かう時、いつもパートナーとして側にあり、自身の身を守ってくれた。
またプライベートでも、お菓子や御茶の世話、チェスの相手など、大いに尽くしてくれた。
そんな彼に、Lは誰よりも感謝の意を寄せており……そして。


「そのワタリという方は……L様にとって、大切な人だったのですか?」

「ええ……ワタリは私にとって、最高の執事であり、SPであり。
 そして、父親の様な存在でした」


紛れもなく、父と呼べる存在であった。
それだけに……Lは、彼の死を心から悔やんでいた。
キラ逮捕における最大にして唯一の誤算は、ワタリを死なせてしまった事だった。
非常に、申し訳ない事をしたと……それだけが、無念でならなかったのだ。

だからだろうか……こうして彼の事を思うと、無意識にではあるが、僅かながらに態度に顕れてしまうのは。


(……L様……)


そんなLの様子を見て、一時とは言え彼に殺意を抱いてしまった事を。
彼が冷徹な人間であると決めつけてしまった事を、咲世子は少しばかり後悔した。
確かにLは、僅かな物事の隙間から、真実を追求するべく容赦なき問いかけをしてきた。
執拗なその仕打ちは一見、非情な様に見えるが……そうではない。

彼もまた、ルルーシュと同じなのだ。
目的の為ならば、手段を選ばない事こそあれど……心の底では、自分以外の誰かを思っている。
ちゃんとした、最も人間らしい『情』を持っているのだ。
ただ、それを上手く表現できないだけだ。

ルルーシュもLも、きっと不器用なだけなのだ。


「でしたら……その方の為にも、絶対に生きて帰らねばなりませんね」

「ええ、その通りです。
 ここで私が死ねば、ワタリに申し訳がありません」


それが分かったから。
咲世子は、心の中に芽生えた刃をそっと収めた。
確かにまだ、黒の騎士団等といった不安な要素はある。
いざとなれば、主の為に容赦なく切り捨てる覚悟もある。
だが、今は……少なくともこの場においては、この探偵を信じてみよう。

どこか、主に似ている……この不器用な男を。



◇◆◇



(……これで、当面の行動方針は立てられましたね)


咲世子との情報交換を終えた後、Lは今後どう動くかを彼女に伝えた。
まず第一が、お互いの知り合い―――その中でも、殺し合いを是としない者達と合流する事だ。
特に咲世子は、ランペルージ兄弟達の保護を最優先にしたいと言っている。
彼女の立場を考えれば、それは当然の事だ……だからLも、この点については極力妥協するつもりでいた。

しかし……問題があるのは、寧ろLが知っている者達だ。
何せこちらには、約二人……殺し合いに乗っていてもおかしくない人物がいる。



(月君……それに、弥海砂。
二人との合流には、最大限の注意を払わねば……)


それが、夜神月と弥海砂。
キラ事件の主犯たる、二人のキラだ。
彼等はこの殺し合いに乗っている可能性が高く……
加えて言えば、このドサクサに紛れて自分の命を狙う可能性がある。


(特に弥海砂。
彼女は月君を生き残らせる為に、殺し合いに乗る可能性が極めて高い。
それこそ、彼女がキラであるかないかは関係無しに)


Lが知る海砂は、キラ事件終了とともにノートに関する記憶を全て失った。
よって、自身がキラである事ですら忘れているが……それとは関係無しに、彼女は盲目的に月を愛している。
故にこの状況下では、月の為を思い積極的に他者へと危害を加える可能性があるのだ。
そして、もし彼女がLの知る彼女とは違う……キラとしての彼女だったなら、事態はより悪くなるかもしれない。


(一方で月君に関しては、彼がキラだったとしても、殺し合いに乗らない可能性も高い。
私を亡き者にしようと考えは、するかもしれないが……)


その一方、Lは月が殺し合いに乗る可能性は、そう高くは無いと踏んでいた。
歪んでいるとはいえ、彼は彼なりの意志に基づき、キラとしての裁きを行っていた。
しかしこの殺し合いに乗るという事は、その意志に反する行動だ。
そして何より、月は自分と同じく負けず嫌いな性格……殺し合いに乗れと言われて「はい、そうします」と答える筈もない。
寧ろ主催者を相手に、喧嘩を売るに違いない。


(それに……もしも。
もしもここにいる月君が……デスノートに出会わなかった月君だったとしたら……)


少なくとも、ここにいる月はLが知る月ではない。
何せ彼は、Lの目の前でリュークに殺されたのだ。
故にLは、淡い期待ではあるが……ここにいる月が、デスノートに出会わなかった月だったらとも考えてしまったのだ。
彼が歪んでしまったのは、デスノートを手にしてしまったからだ。
だから、もしもそうじゃなかったら……死神にさえ出会わなければ、きっと月は父親同様に立派な警察官となっていた筈だ。
それこそ、Lの名を譲ってもいいと思えるぐらいに。


(……希望的観測なのは分かっていますが。
可能性の一つとして……ついつい、考えてしまいますね)


月は、Lにとってはじめて出来た友達だ。
はじめて、対等に語り合えた相手だ。
だから僅かな可能性とは言えど、そう考えたくなるのも、無理は無い話なのだ。

とにかく、全ては会って確認するしかない。
夜神月も弥海砂も……他にも、自分達が知る全ての知り合いが、果たして同じ人物なのかどうかは。


(出来ればその途中で、この刻印……魔女の口付けについても、どうにか謎を解きたい)


もう一つ、Lと咲世子が定めた行動方針。
それは、アカギに刻み込まれた『魔女の口付け』について知る者との接触だ。
アカギの言葉通りなら、この呪術式とやらを知る者が必ず会場のどこかにいる。
その者と出会い、情報を入手したい。


(これがある限り、私達の命はアカギに握られたままだ。
まずはこれを解除しなければ、奴に立ち向かう事は出来ない……)


アカギと闘う上で、呪術式の解除は絶対にクリアしなければならない条件だ。
問題は、呪術については素人である自分達に、それが出来るかだが……
呪術『式』という以上、きっと魔女の口付けは何かしらの法則に基づいて成り立っている。
だから、例え素人だとしても。
その法則さえどうにか崩す事が出来るならば、解除はなる筈だ。



(……この事件、考えなければならない要素はあまりにも多い。
ですが、必ず解決してみせましょう……それが、私の役目なのですから)


Lは元より、余命である23日間の全てを、あらゆる事件の解決に捧げようと決めていた。
それがこの世を去るにあたっての、自身が果たすべき責任だ。
だから、このアカギが引き起こした事件も……必ずや、この手で解決してみせる。


(デスノートに書かれた死は絶対だ。
その上で、私がここに呼ばれたという事は……私の寿命は、ここで尽きてしまうのか。
それとも、無事に乗り切り23日目を迎えられるか……ワタリ。
どちらにせよ、私は貴方の元へと近い内に逝く事になります)



デスノートに書かれた死を覆す可能性は唯一、それよりも早く寿命で死亡してしまう事がある。

故に……Lに定められた運命は、二つに一つしかない。

ノートに記した23日間よりも早く、この殺し合いで果ててしまうか。

或いは、この事件を解決へと導き……予定通りの死を迎えるか。


残り僅かなその命を使い、何処まで足掻けるか。


(だからそれまでの間は、どうか私を……私達を、無事に見守っててください)


今は亡き、近々会いに行く大切なパートナーの為にも。


L=Lawlietは……この殺し合いを止めるべく、己の全てを賭ける覚悟にあった。



◇◆◇



「……ところで、咲世子さん。
 何か甘いものってありますか?」

「甘いものですか?
 それでしたら、私の支給品に『シャルロッテ印のお菓子詰め合わせ袋』というものがありますよ」

「それ、ください。
 糖分はすぐにエネルギーに変わるから、考え事をするのには打ってつけなのです」


そして。
こんな時でも、甘い物の摂取を忘れないLであった。


【E-7/見滝原中学校/一日目 深夜】


【L@デスノート(映画)】
[状態]:健康
[装備]:クナイ@コードギアス 反逆のルルーシュ
[道具]:基本支給品、ランダム支給品0~2(本人確認済み)、シャルロッテ印のお菓子詰め合わせ袋。
[思考・状況]
基本:この事件を止めるべく、アカギを逮捕する
1:咲世子と共に、お互いの知り合いを探す。
  ただし、夜神月・弥海砂・ロロの三人については極力警戒する。
2:魔女の口付けについて、知っている人物を探す
3:ルルーシュとナナリーの事情については、深くは聞かない
[備考]
※参戦時期は、後編の月死亡直後からです。
※咲世子と、彼女の世界についての大まかな情報交換をしました。
※自分達が、所謂パラレルワールドから集められた存在であると推測しています。
※デスノートに自身の名前を既に書き込んでいる為、デスノートに名を書きこまれても効果がありません。
 ただし無効化出来るのはあくまで「ノートに書かれた死」だけであり、致命的な傷を負ったりした場合は、
 「ノートに書かれた期限より早く寿命を迎えた」と判断され、ルール通り普通に死亡します。
※ルルーシュとナナリーは、ブリタニアの皇族ではないかと咲世子の様子から推測しています。
※二人のロロに関しては、素姓が分からない為に警戒心を抱いています。
※月を第一のキラとして警戒していますが、同時に、デスノートに出会わなかった彼だったらという僅かな期待も持っています。
※海砂はキラであろうとなかろうと、月の為に殺し合いに乗る可能性があると考えています。
※死亡した筈の月とナオミについては、別世界の人間が呼ばれたと仮定して考えています。


【篠崎咲世子@コードギアス 反逆のルルーシュ】
[状態]:健康
[装備]:スペツナズナイフ@現実
[道具]:基本支給品、ランダム支給品0~1(本人確認済み)
[思考・状況]
基本:ルルーシュとナナリーを保護し、アカギを倒す。
1:Lと共に、お互いの知り合いを探す。
  ただし、ロロについては極力・ゼロについてはなるべく警戒する。
2:魔女の口付けについて、知っている人物を探す
3:今のところ、Lにルルーシュやナナリーの素姓を明かすつもりはない。
[備考]
※参戦時期は、R2の14話終了後です。
※Lと、彼の世界についての大まかな情報交換をしました。
※自分達が、所謂パラレルワールドから集められた存在であると推測しています。
※ロロ・ヴィ・ブリタニアという見知らぬ皇族と、名簿にあるゼロについては、Lの推理より別世界の同一存在という可能性が一番高いと踏んでいます。
 その為、接触する場合は極力注意を払うつもりでいます。
※Lがどこか、ルルーシュに似ている面があると捉えています。
※死亡した筈のユーフェミアについては、別世界の人間が呼ばれたと仮定して考えています。



【クナイ@コードギアス 反逆のルルーシュ】
咲世子が扱う忍び道具の一つ。
高い殺傷力を持ち、短刀としても投げナイフとしても使える万能の武器である。

【スペツナズナイフ@現実】
ソビエト連邦の特殊任務部隊『スペツナズ』で主に使われている、特殊なナイフ。
刀身の射出が可能であり、近接戦闘では勿論、中距離からの奇襲を仕掛ける際にも重宝される。
ただしその再装填は、内蔵されたスプリングの強力さから、極めて困難になる。

【シャルロッテ印のお菓子詰め合わせ袋@オリジナル】
アカギから支給された、魔女シャルロッテの絵柄がプリントされたお菓子の詰め合わせ袋。
中には和菓子洋菓子問わずに、大量のお菓子が詰まっている。
シャルロッテはお菓子を無限に生み出す力がある魔女である為、恐らくはそれに因んだ支給品なのだろう。


032:探し物はなんですか? 投下順に読む 034:クレイジー・トレイン
029:偽ニセモノ者ガタリ語 時系列順に読む 035:「No Name」
初登場 L 046:超絶バイクと探偵とドラゴン
初登場 藤咲咲世子


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