概要
エシュティア共和国は、惑星クレイシスの北東部、シェルヴァントから約500キロ離れたセイム平原に広がるコロニー都市国家だ。人口は約100万人で、
クヴァルディスの冒険と勇気を讃える活気や浮遊コロニーの喧騒とは正反対に、ここでは静寂と調和が何よりも尊ばれている。共和国の中心であるティルシェイムは、平坦な大地に広がる直径10キロメートルの円形のコロニーで、その中央に紫色の結晶でできたサイス塔が静かにそびえている。この塔はエシュティア共和国の心臓であり、次元エネルギーを抑え込む力でコロニー全体を穏やかな静けさに包んでいる。エシュティア共和国の文化は、内省と秩序に根ざしている。住民たちは「調和は永遠に、静寂は力なり」という言葉を信条に生き、クヴァルディスが次元異常を冒険の舞台として活用するのに対し、ここではそれを「制御すべき脅威」と見なしている。彼らが使うのは
サイス術という技術だ。紫色のサイス晶という結晶を動力源に、次元エネルギーを吸収して安定させる。ティルシェイムの街並みはシンプルで、白い石でできた低層の建物が放射状に並び、装飾は控えめ。風の音さえも抑える設計が施され、住民は静かに暮らすことが美徳とされている。
エシュティア共和国は調和会議によって統治され、指導者は調停者のセリナ・ヴェルティスが務める。彼女は穏やかな声と冷静な判断で知られ、コロニーの精神的な支柱として信頼されている。行政は守護長のカイム・セシュが担い、
サイス術の専門家としてコロニーの安定と資源管理を監督する。住民はティアからの転移者と土着のセイム民で構成され、クヴァルディスのような異形種はいない。皆がエシュト語を話し、必要に応じて共立エスペラントを使う。信仰は静寂教が中心で、次元を「眠らせるべき存在」とみなし、サイス塔での瞑想を通じて心の平穏を求める。経済は自給自足が基本だ。サイス晶を地下から採掘し、平原で育つゼム草を栽培する。ゼム草は繊維や食料に加工され、ほのかな甘みのあるパンが名物となっている。次元ポータルはあるものの、外部との交易は控えめで、クヴァルディスとのやりとりも年に数回程度に留まる。
文明共立機構とは緩やかにつながりつつ、エシュティア共和国は内向きの暮らしを重視している。文化は静けさに満ちており、「静寂の夜」という年に一度の祭りでは、サイス塔が紫の光を放ち、住民が無言で集まって瞑想する。音楽はなく、風や結晶の振動音が「自然の調べ」とされる。子供たちは5歳から沈黙の訓練を受け、10歳で
サイス術の基礎を学ぶ。言葉は最小限で、身振りや視線で意思を伝えるのが日常だ。クヴァルディスとは微妙な距離感があり、エシュティア共和国は彼らの冒険心を「無秩序」と感じ、クヴァルディス側はエシュティア共和国の静寂を「退屈」と見るが、次元異常への対処では協力の歴史を持つ。
歴史
エシュティア共和国の歴史は共立公暦645年頃、次元交錯現象
ヒュプノクラシアによってティア世界から科学者や技術者がクレイシスに流れ着いたことに始まる。彼らは混沌を嫌い、秩序ある社会を目指して努力した。初代指導者
エシュ・ティスがセイム平原でサイス晶を発見し、次元異常を抑える技術を開発。共立公暦620年、これを基にエシュティア共和国が成立した。クヴァルディスが同時期に浮遊コロニーを築き冒険に注力したのとは異なり、エシュティア共和国は地表に根ざし、ヴァルク溝の次元異常地帯を封印して静かな居住地を形成した。共立公暦630年頃、ヴァルク溝から溢れる次元エネルギーが周辺を不安定化させた際、エシュ・ティスはサイス晶を用いた「調和障壁」を初めて展開し、直径5キロメートルの範囲を静穏化。これが
サイス術の原型となり、後世に受け継がれる技術の礎を築いた。共立公暦650年、2代目調停者ティルム・セシュの下でサイス塔の建設が始まり、高さ100メートル、サイス晶5トンを核とする塔が完成。周辺の次元異常を抑え込み、静寂を保つ基盤が確立された。この時期、住民たちは
サイス術を日常に取り入れ、静寂を維持する生活様式を確立していった。
共立公暦680年、ヴァルク溝で次元異常が暴走しティルシェイムを脅かした際、クヴァルディスとの初の協力が実現した。エシュティア共和国は
サイス術でエネルギーを制御し、クヴァルディスの冒険者が魔獣を排除。3日間の共同作戦で危機を乗り切り、一時的な信頼が生まれたが、価値観の違いから深い結びつきには発展しなかった。共立公暦700年代、内向きの強化に注力し、次元ポータルの運用を開始。自給自足を優先し、サイス晶採掘とゼム草栽培で経済を固めた。共立公暦720年、3代目調停者リナ・ヴェルシュが「静寂令」を発布し、騒音や無秩序を規制し、生活様式を統一。共立公暦750年、次元異常の兆候が検知された際には、迅速な対応でサイス塔の出力を増強し、コロニーの安全を守った。共立公暦800年頃、サイス塔が改良され、高さ200メートル、サイス晶10トンを核とする構造となり、安定範囲が直径20キロメートルに拡大。安全性が向上し、現代まで外部接触を抑えつつ技術と文化を深化させ、クヴァルディスとは異なる静寂の道を歩んでいる。エシュティア共和国は、クレイシスにおける独自の存在感を確立し、静寂と調和の象徴として知られるようになった。
政治
エシュティア共和国の政治は、調和会議を中心とする穏やかで秩序的な体制で運営される。調和会議は12人の議員で構成され、5年ごとに住民による無言投票で選出される。投票はサイス晶に刻まれた印を箱に投じる形式で、静寂を保ちつつ民意を反映する。指導者の調停者セリナ・ヴェルティスは穏やかな声と冷静な判断で議論を導き、コロニーの精神的な安定を支えている。行政は守護長カイム・セシュが担い、
サイス術の専門家としてサイス塔の維持や異常時の対応に直接関与し、資源管理を監督する。政治方針は「静寂の維持」と「調和の確保」に集約され、年に4回、サイス塔地下の「静寂議場」で会議が開かれる。議場は円形の部屋で、サイス晶が壁に埋め込まれ外部の音を遮断。議題は次元異常の管理、資源配分、生活向上に集中し、全会一致が原則だ。対立時は調停者が瞑想で結論を導き、議論の長期化は避けられる。共立公暦750年、次元異常の兆候を24時間以内に察知し、サイス塔の出力を増強する迅速な対応で危機を回避した実績がある。ティルシェイム全体が一つの統治単位で、地方行政はない。住民参加は「静寂提案」制度で、年に一度、市民がサイス晶に提案を刻んで提出。共立公暦780年、ゼム草栽培効率を高める灌漑システムが住民提案から採用され、農業生産が向上した。法体系は「調和法」が中心で、騒音や暴力は厳禁。違反者はサイス晶50キログラムの没収と一時追放、再発で永久追放となり、守護長直属の「静寂衛」が執行する。この衛団は
サイス術を駆使した精鋭で、コロニーの秩序を静かに保つ。
文明共立機構の保護下にあるが、独自の内政を貫き、外部干渉を最小限に抑えている。政治体制は住民の静寂な生活を支え、調和会議の穏やかな運営がエシュティア共和国の特徴として際立っている。
外交
エシュティア共和国の外交は、静寂と調和を重視し、外部との関わりを控えめに保つ姿勢が特徴だ。自給自足を基盤としつつ、最も重要な友好国は
クヴァルディスで、次に
ラヴァンジェ諸侯連合体が続く。クヴァルディスとの関係は共立公暦680年のヴァルク溝暴走事件に始まり、
サイス術と冒険者の連携で危機を収束。以後、最大の友好国として年に数回の交易を行い、サイス晶やゼム草由来の繊維を輸出し、魔獣素材や
テルク晶を輸入。共立公暦850年時点で年間交易額は20億エシュ貨に達する。「静寂使節団」がクヴァルディスの総帥ゼイム・トルヴァとシェルヴァントで年次会談を開き、共立公暦720年にはヴァルク溝の異常監視を分担する共同防衛協定を締結した。調停者セリナ・ヴェルティスはクヴァルディスを「静寂を尊重する最良の友」と評し、信頼を寄せている。この関係は、実利的な協力と相互補完に基づく強固な絆となっている。
ラヴァンジェ諸侯連合体との関係は、惑星ベルディンを拠点とする人口301億の多民族国家との技術交流に重点がある。共立公暦650年、ラヴァンジェの調査船がクレイシスの次元ポータルを通じ接触し、652年、
現象魔法でヴァルク溝を安定化させたことで対話が始まった。共立公暦700年、研究協定を結び、
サイス術と現象魔法の術式を比較。エシュティア共和国はサイス晶の安定性を向上させ、ラヴァンジェは軌道上居留地の環境管理に応用した。交易は年1回程度で、サイス晶と術式書や教育記録を交換し、年間3億エシュ貨規模。共立公暦800年、サイス塔の安定波拡大にラヴァンジェの術式が寄与した。諸侯連合代表フラウ=ドゥーントフォーント・フェトリーンドと隔年で「調和殿」会談を行い、共立公暦1000年の内戦後も協力を継続。ラヴァンジェの軍事力と人口を警戒しつつ、技術交流に限定している。
文明共立機構とは形式的な関係で、他星系との交流はほぼなく、共立公暦780年、騒音を理由に交易使節を退去させた記録が残る。クヴァルディスとラヴァンジェが静寂のコロニーを支え、エシュティア共和国の外交は両国とのバランスを重視している。
軍事
エシュティア共和国の軍事は、防御と次元制御に特化した「静寂衛」が担う。総勢5000人の小規模な組織で、攻撃よりもコロニーの安定維持を目的としている。静寂衛は「抑止隊」と「調和隊」の2部門に分かれる。抑止隊は3000人で、ティルシェイムの外縁に配置され、魔獣や次元異常の侵入を防ぐ。主武装は「サイス杖」で、長さ1.5メートルの杖にサイス晶100グラムが埋め込まれ、「セシュ・サイス(静寂の波)」の発声で紫色の波動を放ち、魔獣の動きを10分間鈍化させる。訓練は瞑想と
サイス術の実践に重点を置き、騒音を出さずに迅速に動く技術が求められる。調和隊は2000人で、サイス塔を中心に次元エネルギーの監視と制御を担当する。彼らは「サイス盤」という装置を携帯し、サイス晶を動力とするこの計算機で異常エネルギーのパターンを解析。異常時にはサイス塔と連携し、安定波を調整する。装備には「サイス盾」もあり、サイス晶を練り込んだ軽量な盾で、次元エネルギーの衝撃を吸収する。共立公暦680年のヴァルク溝暴走では、調和隊がサイス塔の出力を最大化し、
クヴァルディスの援軍が到着するまでコロニーを守り抜いた。
主要防御施設はサイス塔そのもので、直径20キロメートルの「調和障壁」を展開可能。障壁はサイス晶10トンを核とし、1日500キログラムを消費して外部からの脅威を遮断する。異常時には「大調和波」が発動し、50キロメートルの範囲を即座に静穏化する。静寂衛の拠点はサイス塔地下の「衛舎」で、500人が常駐し、24時間体制で監視を行う。戦略は防御優先で、敵を倒すよりも動きを封じ、撤退を促す戦術が基本だ。共立公暦720年の魔獣襲撃では、抑止隊がサイス杖で群れを鈍化させ、戦闘せずに平原へ追い返した。装備開発は
サイス術を基盤とし、新兵器「ソルトーム波砲」が試作中だ。直径50センチの砲身から紫色の波動を放ち、半径100メートル内の魔獣を一時的に麻痺させる。開発にはサイス晶1トンが投入され、実戦配備に向けて改良が進められている。静寂衛はクヴァルディスのような大規模な軍事力を持たないが、静寂と調和を守るための堅実な盾として、エシュティア共和国の安全を支えている。
サイス術の技術革新は、コロニーの防御力を静かに高め続けている。
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最終更新:2025年03月23日 14:03