ツォルマリア星域連合直轄領 > 地下世界


概要

 ツォルマリア星域連合直轄領の首都星、バラノルカ。その地表に広がる先進的なメガロポリスとは対照的に、惑星の深部には「地下世界」と呼ばれる広大な迷宮が存在する。この地下世界は、かつて星間文明統一機構が極秘裏に構築した軍事施設、実験場、そして遺棄された居住区の残骸が絡み合った遺構である。星間機構の崩壊後、その管理が途絶えたことで、内部では変異キメラや失われた技術が独自の生態系を形成し、現在ではツォルマリア公民にとっても制御不能な危険地帯と化している。地下世界は複数階層に分かれており、第一層まではツォルマリア人類を含む連合軍が血みどろの戦いの末に制圧した。しかし、第二層以降は変異キメラの脅威と予測不能な環境要因により、未だに踏破されていない。連合政府はこの地下世界を「星間機構の残り香」として封鎖し、一般人の立ち入りを厳禁としているが、密かに探索を試みる者や、過去の技術を求める密猟者たちが後を絶たない。

歴史

 ツォルマリア星域連合直轄領の首都星、バラノルカの地下世界は、星間文明統一機構の崩壊以来、長きにわたり忘れ去られていた暗い遺産だった。その存在が再び注目を集めたのは、共立公暦722年、突如として発生した変異キメラの暴走事件に端を発する。この年、地下世界の深部から這い上がった無数のキメラが地表を襲い、バラノルカの先進的なメガロポリスは壊滅的な打撃を受けた。記録によると、超大型キメラ「タイタン・レヴィアサン」を含む群れが地殻を突き破り、都市ツェイク・メルバの外縁部を焦土と化した。特に恐ろしかったのは「バーサクゾンビ」と呼ばれる凶悪な変異集団で、星間機構の実験によって生み出されたこの群体は、自我を失い狂乱状態で襲いかかる毒性のキメラだった。彼らは傷を負っても動きを止めず、仲間を喰らいながら増殖する異常な生態を持ち、連合軍の兵士たちに深い恐怖を植え付けた。犠牲者は数十万人に及び、かつての「銀河の掃き溜め」を超える混乱が首都星を覆った。この未曾有の危機に、共立機構国際平和維持軍が即座に動き出した。最高評議会の緊急要請のもと、各国から連合軍が集結し、バラノルカ防衛のための総力戦が開始された。

 当初、連合軍は地表での迎撃に全力を注いだが、キメラの数が減るどころか地下から次々と湧き上がる状況に直面し、事態の深刻さが明らかになった。特にバーサクゾンビの無秩序な襲撃は予測不能で、通常の戦術では対処しきれず、多くの部隊が壊滅した。バーサクゾンビは銃撃を受けても倒れず、切断された部位から新たな個体が再生するケースすら報告され、連合軍の士気を著しく低下させた。調査の結果、星間機構が遺した地下施設がキメラの発生源であることが判明。忘れられていた地下世界の存在が明るみに出ると、連合政府はただちに制圧作戦を立案した。「オペレーション・リクラメーション」と名付けられたこの作戦は、平和維持軍の主力部隊と各国の支援部隊からなる大規模な連合軍によって実行された。共立公暦723年から始まった戦いは苛烈を極め、特に第一層の制圧には数千人の命が失われた。星間機構の前哨基地や補給倉庫を拠点とするキメラの群れは、連合軍の装甲車両やドローンを次々に破壊し、バーサクゾンビの狂った突進が戦線を混乱させた。それでも連合軍は執念と先進技術を駆使し、共立公暦725年に第一層の完全制圧に成功。空気浄化システムの再起動とバリケードの構築により、第一層は緩衝地帯として確立された。

 一方、第二層への進攻は予想以上の困難を伴った。高温多湿な環境と、中型キメラ「ガルム・ストライカー」や「ヴェノム・スウォーム」の猛攻に加え、バーサクゾンビの執拗な追撃に直面した連合軍は、多大な犠牲を払いながらも前進を試みたが、共立公暦726年に「深淵の惨劇」と呼ばれる大敗北を喫した。この戦いで数百人の兵士が全滅し、バーサクゾンビの群れに飲み込まれた部隊の悲鳴が通信記録に残されている。第二層の制圧は断念され、以後、連合政府は第二層への入り口を厳重に封鎖し、第一層を監視基地として再編成。第三層や第四層以降への探査は、キメラの脅威と環境の過酷さから事実上不可能と判断され、現在に至るまで未踏のまま残されている。共立公暦722年の暴走事件は、ツォルマリア公民に地下世界の危険性を再認識させ、星間機構の残した闇が今なお生き続けていることを示した。この歴史は、連合政府が平和と共立を掲げる一方で、過去の遺産との戦いを避けられない現実を物語っている。

第一層:制圧領域(深度0~50km)

メルバ・ラムティスの地表から地下へと続く第一層は、かつて星間文明統一機構が首都星バラノルカの支配を確立するために築いた前哨基地と補給倉庫の跡が広がる領域だ。連合軍が共立公歴50年に開始した「オペレーション・クレンジング」によって、この層は血みどろの戦いの末に制圧され、現在はツォルマリアの監視基地として再利用されている。広大なトンネル網には、星間機構が設置した人工照明が今も淡く灯り、空気浄化システムが低く唸りながら稼働を続けている。気温は10~20℃と安定し、湿度も管理されているため、探索者にとっては比較的快適な環境と言えるだろう。壁面には錆びたパイプや、古典ツォルマ語で書かれた案内板が残り、かつての秩序を偲ばせる。ここに棲息する生物は、連合軍の徹底した駆除作戦によってほとんどが排除された。小型の害獣や、機能を失った星間機構の清掃ドローンが時折姿を見せる程度で、かつて徘徊していた変異キメラの影はほぼ見られない。連合政府はこの層を歴史研究や技術回収の拠点とし、第一層に点在する武器庫や防壁、記録端末を活用している。たとえば、古びたデータパッドからは星間機構の兵站記録が発掘され、過去の実験内容を垣間見ることができる。しかし、第二層へと続く通路は分厚いバリケードと自動砲台で封鎖され、平和維持軍が昼夜を問わず監視を続けている。第一層は安全が確保された領域とはいえ、その奥に潜む未知の脅威への入り口としての緊張感が漂う場所でもある。

第二層:混沌の前線(深度50~150km)

第一層の封鎖を抜けると、そこは第二層、混沌の前線と呼ばれる緩衝地帯が広がっている。連合軍が制圧を試みたものの、多大な犠牲を払って撤退を余儀なくされたこの層は、星間機構の実験場や居住区の廃墟が朽ち果てた姿をさらしている。照明は断続的に点滅し、薄暗い通路には硫黄臭が立ち込める。空気は酸素濃度が低く、探索にはマスクが欠かせない。気温は30~40℃と高温多湿で、汗と湿気が装備を重くする。ここは星間機構が生物兵器の開発や遺伝子操作実験に没頭した痕跡が色濃く残る場所であり、崩落した研究施設の残骸や、動作を停止した自動防衛システムが通路を塞いでいる。床には実験で使われた薬剤の容器が散乱し、壁には爪痕や焼け焦げた跡が生々しく刻まれている。第二層には中型から大型の変異キメラが徘徊し、探索者を容赦なく襲う。たとえば、「ガルム・ストライカー」は装甲化した皮膚と鋭い爪を持つ四足の怪物で、群れを成して獲物を追い詰める。その咆哮はトンネルを震わせ、連合軍の装甲車を軽々と引き裂いた記録が残っている。また、「ヴェノム・スウォーム」は群体性の小型キメラで、毒針と酸性の体液を武器に、通気口や狭い隙間から不意に襲いかかる。この層での戦闘は連合軍にとって悪夢となり、「深淵の惨劇」として知られる大敗北を喫した。探索を試みる者には高度な装備と訓練が求められ、連合政府もここを事実上の危険地帯と見なして一般人の立ち入りを禁じている。それでも、星間機構の遺物を求める密猟者たちが命をかけて侵入し、キメラとの遭遇を繰り返しているのだ。

第三層:暗黒の深淵(深度150~300km)

 第二層をさらに下ると、第三層、暗黒の深淵と呼ばれる未踏の領域が広がる。ここは星間機構の中枢実験場やエネルギー炉の残骸が眠るとされる場所で、平和維持軍のFT2すら生還できなかった恐怖の領域だ。完全な暗闇が支配し、人工光源がなければ一寸先も見えない。気温は-10℃から60℃まで極端に変動し、メタンや二酸化硫黄といった有毒ガスが充満している。呼吸するたびに肺が焼けるような感覚に襲われ、長時間の滞在は命を削る。通路は歪んだ金属と砕けた岩盤で埋め尽くされ、壁には古典ツォルマ語で「深淵に触れるな」と刻まれた警告文が不気味に浮かび上がる。時折、地響きのような振動が響き、探索者の心を締め付ける。第三層には超大型の変異キメラが生息し、その存在は伝説と化している。「タイタン・レヴィアサン」は体長50mを超える巨獣で、触手と顎で岩盤を砕き、咆哮だけで空気を震わせる怪物だ。FT2の探査隊が全滅した原因とされ、その足音は地震のように地中を揺らす。また、「シェイド・インテレクト」は知能を持つとされる影のようなキメラで、罠を仕掛けたり探索者を誘い込んだりする戦術を使う。目撃者はその姿を「黒い霧」と形容し、知恵ある敵との遭遇に戦慄した。この層には星間機構の最終兵器や禁断の技術が封印されている可能性があり、崩れた実験棟からは反物質反応の痕跡や、異常なエネルギーを放つ装置の残骸が発見されている。生存報告はほぼ皆無で、ここに足を踏み入れることは死を覚悟する行為とされている。

第四層以降:未知の領域(深度300km~)

 第三層のさらに奥、第四層以降は連合政府の探査ドローンすら到達できていない未知の領域だ。深度300kmを超えるこの最深部は、星間機構の最終目的に関わる施設が眠ると噂され、キューズトレーターのバックアップコアが存在するとの伝説が囁かれている。環境は完全にデータ不足で、重力異常や空間歪曲が報告されるのみだ。バブルワープ航法の残滓が影響しているのか、時折空間がねじれるような感覚が記録されている。音波探査では「脈動する生命反応」が確認され、何か巨大なものが蠢いている気配が漂うが、その正体は誰も知らない。空気はもはや人間が呼吸できるものではなく、探索には完全に密閉された装備が必要だ。この層には星間機構の指導者たちが「究極の統治」を目指した実験の痕跡が残されている可能性がある。崩れた壁からは異常な金属合金が露出しており、触れると微弱な振動を放つ。ある密猟者の記録には、「無数の目が暗闇からこちらを見ていた」との記述が残され、錯乱状態で第一層まで逃げ帰った彼はその後発狂したとされる。連合政府はこの領域を「測定不能な危険地帯」と分類し、進入を試みる者を自殺行為とみなしている。それでも、「最深部に眠る力が星系を支配する鍵となる」という噂が広がり、過激派や冒険者たちが命を賭けて挑んでいる。第四層以降は、まさに星間機構の闇が凝縮された未開の深淵なのだ。

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最終更新:2025年03月27日 18:14