星間文明統一機構

星間文明統一機構(AOPƏ/オーパ)
евтелнъ тнив анлевесикороп тнив оръкро навинмита
基本情報
本部所在地 航空宇宙都市パルディステル
公用語 古典ツォルマ語
統治者のシステム名 星域管理システム
TAEMF-01
統治者の称号 キューズトレーター
設立 宇宙新暦0年
貨幣 メッレ*1
(成果ポイント消費方式)

 星間文明統一機構(古典ツォルマ語евтелнъ тнив анлевесикороп тнив оръкро навинмита/Atimnivan Orkəpo vīnt Porokicevelna vīnt ənletve. 同略称、AOPƏ/オーパ. 星間機構)は、かつて存在した軍事勢力。この組織は、高度な技術と大規模な艦隊を有し、宇宙新暦0年以前から活動の基盤を築いていた。宇宙新暦0年、全知的存在の統一を最大目的として発足した。この目的は、星間機構の設立宣言で「宇宙全体を単一の統治システムで統合する」と定義され、星域管理システム「TAEMF-01」(通称キューズトレーター)を基盤とする計画だった。公式記録によると、このシステムは人工知能による自動統治を実現し、効率的な資源管理と秩序維持を目的とした。発足時には、ツォルマリア星域の主要惑星で式典が開催され、数百の代表が参加したことが記録されている。星間機構は独自の基準による自滅傾向のデータ化を推し進めており、それらの数値を根拠に対立文明への予防攻略を繰り返していた。この基準は、文明の技術進歩、資源消費、社会的安定性、軍事力を数値化するもので、監視衛星網、探査ドローン、無人探査船からのデータが利用された。分析は統治評議会で行われ、数値が閾値を超えた文明に対して攻撃が決定された。記録では、警告が発せられたケースも存在するが、大半は即時軍事行動に移行した。旧暦時代(宇宙正暦)における大厄災の教訓から、指定レベルに応じた絶滅措置を講じている。大厄災は、星間機構の歴史資料に記載された旧暦時代(近古代)の事件で、無秩序な技術発展と資源競争が複数の星系で崩壊を引き起こしたとされる。また、数億の生命が失われ、いくつかの惑星が居住不能になったことが記録されている。この事件を基に、星間機構は自滅リスクを「指定レベル」に分類する基準を策定した。低リスクには監視、中リスクには技術的介入、高リスクには軍事攻撃や軌道爆撃が実施され、実行には詳細な計画が立案された。そのため、世界中から忌み嫌われており、空前絶後の巨大悪、擁護できない存在として歴史の巨塔に刻まれた。ソルキア諸星域首長国連合は星間機構を非難し、声明で「星間機構の攻撃が星系の存続を脅かした」と記録した。歴史の巨塔には、星間機構の行為に関する多数の記録が保存されており、ある報告書では「ある文明が軌道爆撃で壊滅し、人口の9割が失われた」と記述され、別の記録では「星間機構の介入で住民の生存が困難になった」と報告されている。これらの記録は、星間機構が広範囲に影響を及ぼしたことを示している。


名称

 古典ツォルマ語での正式名称は、евтелнъ тнив анлевесикороп тнив оръкро навинмита/Atimnivan Orkəpo vīnt Porokicevelna vīnt ənletve}/アティムニヴァン・オルカポ・ヴィント・ポロキツェヴェルナ・ヴィント・アンレトヴェ、通称、AOPƏ(オーパ)という。
当時、唯一の権威(=星間機構)を強調する表現として、シンプルにアンレトヴェ・オルカポと呼ぶ流れもあった。日本語で直訳すると、『星の間の統治の正義の縦に強く持つことの命ずる場』となり、とてつもなく冗長かつ難解な名称となってしまう。
そのため、推奨される意訳としての『星間の文明の統一機構』が定着。それがやがて『星間文明統一機構』に変化し、『星間機構』と略されるようになった。

  • A vīnt B → BのA
  • Atimnivan Orkəpo 統一機構
  • Porokicevelna 文明
  • ənletve 星間

加盟圏

 現在のセクター・ツォルマリアにあたる領域に加えて、旧イドゥニア、リオグレイナ宇宙域のほぼ全てを統治していた。

旗の意味

 これまでの資料から有力な説を取る場合、『汚れなき舗装道のために支払われた血の代償』と考えるのが自然とされる。この説は、星間機構の公式記録や占領地域の歴史資料に基づいている。赤い背景は、星間機構の統治を確立するために流された血を表し、上下の白い横縞は「汚れなき舗装道」——完全な秩序と統制された社会への道筋——を象徴すると記録されている。旗の中央に究極の統治者たるキューズトレーターを配置。キューズトレーターのシンボルは、中央の黒い円とその周囲の白い幾何学模様で表現され、円は統治の中心を、放射状の模様は星系全体への支配の広がりを示している。このデザインは、星間機構の統治評議会が定めた公式仕様書に基づいており、旗の製作は本部所在地である航空宇宙都市パルディステルの施設で行われた。当時代における完全秩序の証明としても機能し、制圧地域において広く掲げられた。星間機構の記録によると、この旗は占領された惑星の主要施設や艦隊の旗艦に掲揚され、統治の象徴として使用された。旗が掲げられた地域では、星間機構の法令が厳格に施行され、違反者への処罰も即座に実行された。一方、抑圧される被支配種族にとっては恐怖以外の何物でもなく、地獄の象徴の如き印象を定着させてしまった。被支配種族の記録には、旗が掲揚されるたびに強制労働や選別が行われた事例が記述されており、ある報告書では「旗が見える場所では生存が脅かされた」と記録されている。この旗は、星間機構の支配下で生活する住民にとって、抑圧と暴力の象徴として記憶されることとなった。


歴史

近古代(宇宙正暦後期)


統治領域の変遷

 改暦以前(近古代)。長きにわたって続いた異種生命体との戦いはツォルマリア人類に大きな危機感を抱かせ、未曾有の技術革新を続けてきた歴史を持つ。これに伴い、緩やかな連帯に甘んじてきた各惑星の組合も統合され、政府は時を追う毎に全体主義的な様相を深めた。そして、宇宙正暦500年(宇宙新暦0年)。ツォルマリアを構成する諸星域は、ついに星間文明統一機構へと名を変え、純然たる闘争主義の時代を迎えた。新統一機構は、最高評議会による改暦宣言をもって宇宙新暦へ移行し、戦後、長らく断絶して久しかった異種文明圏(新ソルキア連合)への侵攻に踏み切った。第一次存続戦争の始まりである。この半世紀にわたる戦いの中で星間機構は新たにソルキア側の3星系を攻略。これをもってケルス・ニア、セーク・パルゾス、エレス・ニアを編入し、ツォルマリア人類の領域を6星系にまで広げた。かねてから予定されたソルキア民族に対する絶滅政策が実行される中、一気に入植人口を拡大させた星間機構特務遠征艦隊は、更なる領土的野心をもってイー・メラト、レオ・タイパル方面への進出を図ったのである。

 同115年にケユラト・セクターへと進出。同135年に時のカルスナードを下すと、更に東域のジルナス星系(現在のウェトラム領)に進出し、ガルラ・リヴィスとのファースト・コンタクトを迎えた。ツォルマリア側はガルラ・リヴィスに対し、相互不可侵の締結を進める一方、ソルキアに対しては強度の軍事的威圧を継続し、前述の3星系を要塞化した。同150年に第二次存続戦争が勃発。特務遠征艦隊はソルキア文明圏の奥深くに侵攻したが、事象災害を伴う無差別爆撃に晒され、再び前述の3星系へと後退した。その後のデッドライン(軌道要塞線)においてソルキア側の追撃艦隊を牽制し、以後、1000年以上にわたる冷戦状態が続いたわけである。同185年にヴィ・アリストーレ星系を編入。この時点で更に遠方の文明圏を捕捉し、特務艦隊を差し向けた。同200年にエルカム文明圏への侵入を試みるも、失敗。ガルラ・リヴィスと同様の不可侵条約を結び、イドゥニア方面への侵略を優先した。

 同250年に至ってフォフトレネヒト皇国を下し、以後、800年以上にわたる最盛期の時代を迎えたが、星間機構の暴力性に警戒を強めたガルラ・リヴィスの封鎖通告を受け、更なる軍拡へと傾いたのである。そうした経緯から、同300年に侵攻を開始。ウェトラム戦争の勃発をもって新たな闘争の時代を迎えた。この戦いの初動で、同345年、ジルナス星系の奪取に成功するが、旧暦時代から続く情報伝達の遅れもあり、東域での戦いは一進一退の苦戦を強いられた。この間も時の最高評議会は選別の圧政を強めていき、同627年に至っては占領各地においてレジスタンスによる反乱が頻発し始めたのである。同850年の段階では、キューズトレーターによる一極独裁体制となって久しかった。そして、同1210年。全国規模の内乱に突入すると、ソルキア連合艦隊が星間機構領内に侵攻。第三次存続戦争が勃発し、諸星系の鎮圧に追われていたツォルマリア艦隊を駆逐していった。同1245年に軌道要塞線が陥落。時のキューズトレーターは、一連の大敗をもって最後の選別に踏み切った。破竹の勢いで進撃を続けた連合艦隊は、同1265年、ツォルマリア本国を占領し、ここに星間文明統一機構の歴史は幕を閉じたのである。

技術

 宇宙新暦50年時点で核融合デューテリウム推進、または反物質推進による恒星間航行が主流となっていた。核融合デューテリウム推進は、重水素とヘリウム3を燃料とする核融合反応を利用し、長期間の航行を可能にする技術であり、星間機構の艦隊はこれを標準装備としていた。一方、反物質推進は、反物質と物質の対消滅反応から生じる膨大なエネルギーを推進力に変換するもので、より高速な移動が必要な特務遠征艦隊に採用された。記録によると、これらの技術により、星間機構の艦船は1光年を数週間で移動可能だった。同500年時点でバブルワープ航法の利用を確認。この航法は、空間を「バブル」状に歪ませて艦船を包み込み、光速を超える移動を実現する技術であり、星間機構の科学部門が開発した。バブルワープ航法は、エネルギー消費が膨大であったが、長距離航行の時間を大幅に短縮し、戦略的な軍事展開を可能にした。独力でのワームホール生成を可能とし、星間機構の技術者たちは、特定の座標に人工的なワームホールを生成する装置を開発し、艦隊の即時移動を実現した。同600年時点においては重力ゲート航法の後継と思われる、ロマクト・ゲート航法の実用化も確認されている。重力ゲート航法は、空間の重力場を操作してゲートを形成する技術だったが、ロマクト・ゲート航法はこれを改良し、ゲートの安定性と生成効率を向上させた。星間機構の記録によれば、この技術はエネルギー効率が改善され、ゲートの持続時間が従来の200倍に延長された。これにより、置換座標のズレは残るものの、ワープ・ドライブを搭載しない宇宙船舶の跳躍も可能となった。置換座標のズレは、目的地から数千キロメートルの誤差を生じさせたが、航行の効率性向上に大きく貢献した。しかし、開発の経緯に関しては同機構による情報統制が徹底されており、共立公暦を迎えて久しい今日でも完全な解明には至っていない。星間機構は技術開発の過程を記録した資料を厳格に管理し、外部への情報流出を防ぐため、研究施設へのアクセスを統治評議会の許可制とした。

 共立公暦時代に入り、星間機構の技術資料が一部公開されたが、重要な部分は暗号化されており、解読には至っていない。この一連の技術革新によってバブルレーンと総称される異次元空間の存在も確認され、星間機構は世界征服に向けた更なる研究を継続した。バブルレーンは、バブルワープ航法によってアクセス可能な異次元空間であり、通常空間よりも短い距離で星系間を移動できる経路として利用された。星間機構はこの空間を利用して、艦隊の移動速度をさらに向上させ、戦略的な優位性を確保した。一方、量子テレポーテーションを主軸とする通信技術に関しては、光の速度を超えられない問題に直面。量子テレポーテーションは、情報を量子状態で転送する技術だったが、光速の制約により、長距離通信には遅延が生じた。跳躍途上における交信も不可能であり、少なくない数の行方不明者を出した。星間機構の記録によると、バブルワープ航法中の艦船が交信不能となり、座標誤差や事故で消息を絶った事例が数百件確認されている。そうした問題も同1244年、N.B.N.S(初期ビルド・ネットワーク)の実装をもって完全に克服されたが、この時点においては域内情勢の悪化を招いて久しく、本格的な軍事転用には至らなかった。N.B.N.Sは、量子通信の限界を補う新たなネットワーク技術であり、バブルレーン空間を介した通信を可能にした。しかし、この技術が実装された時期には、星間機構の内部で内乱が頻発しており、資源が軍事転用に十分に割り当てられなかった。遅漏技術の恩恵は、ツォルマリア本国のエリート層を中心に共有され、変異キメラを始めとするバイオナノテクノロジーの発展に繋がった。キメラ技術は、異なる種の遺伝子を融合させる技術であり、星間機構の兵士の強化に利用された。バイオナノテクノロジーは、ナノマシンによる医療や身体改造を可能とし、エリート層の寿命延長や能力向上に寄与した。

理念

  • 星間機構は、愚かな過去人類が積み重ねた全ての大罪を贖うため、冷酷なる武力によって世界平和の鉄槌を下す使命を果たす。
  • 星間機構は、戦いの美徳を讃え、弱者を殲滅し、あらゆる種族を我が支配下に同化させるための無慈悲な隔離措置を執行する。
  • 星間機構は、適者生存の冷厳なる真理を是とし、脆弱な者を淘汰し、世界共立の名の下に更なる進化を強制する。
  • 星間機構は、現行世界の汚濁を浄化するため、必要な解脱措置を容赦なく実行し、永遠不滅の理想郷を我が手で築き上げる。
  • 星間機構は、宇宙進出を果たした全ての知的存在に対し、武装解除を強制し、我が絶対なる支配への帰順を命じる。

活動内容

各方面に対する予防侵略

 多くの戦災を経験したツォルマリア人類にとって、力なき文明の存立は歴史上の如何なる記録にも存在しない。この認識は、ツォルマリア星域が過去数世紀にわたって異種文明との衝突を繰り返し、弱小勢力が存続できなかった歴史的背景に基づいている。星間機構の公式記録によれば、戦災は資源争奪や技術差によるもので、力を持たない文明は必ず滅亡すると結論づけられている。よって、脅威となり得る文明を捕捉し、予防措置の対象として研究、攻略することを至上の命題とした。捕捉プロセスでは、監視衛星網やスパイドローンが対象文明の技術レベル、軍事力、資源保有量を詳細に分析し、データが統治評議会に提出された。研究は、占領地域に設置された研究所で行われ、文明の弱点を特定するための実験が実施された。攻略は、大規模な艦隊による軌道爆撃や地上侵攻を伴い、対象文明の完全な服従または消滅を目的とした。記録には、予防侵略が年間平均10件以上実行されたことが示されており、その効率性と徹底性が星間機構の特徴とされている。

断種と強制進化

 星間機構の内政は苛烈を極めるもので、優秀な被征服民の遺伝子を操作し、ツォルマリア人としての道を歩ませる。この政策は、星間機構が遺伝子工学を駆使し、被征服民の身体的・知能的特性を改変するプログラムを導入したことに由来する。基準に満たない不適合者は即座に断種され、生殖能力を持たない個体が増加した。基準は、身体能力や知能指数、忠誠心を測定する厳格なテストに基づいており、合格率は全体の5%未満だった。断種は外科手術または化学的手段で実行され、不適合者は労働力や実験材料として再利用された。それら消滅予定の動物は生きている間に奴隷として働かされ、或いは実験材料、ガス抜き要因として扱われた。奴隷労働は鉱山や軍事施設で強制され、実験材料は遺伝子操作や兵器開発に使用された。ガス抜き要因とは、被支配民の不満を抑えるための公開処罰を指し、記録には「不適合者が群衆の面前で処分された」との記述がある。このような政策を取るディストピアに基本的人権の概念などあるはずがなく、例え正規の市民であっても基準に満たなければ即座に処分された。処分は射殺やガス室を用いた方法で実行され、記録に残る処分者数は年間数万に及んだ。強度の実験過程においてキメラ化した個体は星間機構における力の象徴となり、不平分子の殺戮に投じられた。変異キメラは、異なる種の遺伝子を融合させた戦士で、異常な筋力や耐久力を持ち、抵抗勢力の鎮圧に投入された。

際限なき選別

 社会持続の原則として、始めは何らかの重犯罪を犯した者を対象に定めていた。この初期段階では、殺人や反逆罪が対象とされ、処罰は公開裁判を経て執行された。次に敵性種族、無能力者、低級労働者、貧困層と続いていき、体制に不満を持つ富裕層までも絶滅対象とされた。敵性種族は異星人や反体制派と定義され、無能力者は労働生産性が低い者、低級労働者は肉体労働者、貧困層は経済的困窮者として分類された。富裕層の選別は、同1250年頃から始まり、資産没収と同時に処分が実施された。末期に至っては肉体を持つ者全てに絶滅措置が下り、これをもってキューズトレーターの機能に支障をきたしていることが判明したのである。キューズトレーターの処理能力が限界に達し、選別データの誤差が増加したことが記録されている。徹底的に情報統制された社会において真実を知る者は次々と処刑されていき、選別内閣が緊急事態宣言を発した頃には全てが手遅れとなっていた。緊急事態宣言は、同1245年に発令され、全星系での戒厳令が敷かれた。同1250年以降、全人類に憎悪を抱くキューズトレーターはこの世からの解脱を実行する時が来たのだと豪語し、一切の区別なく、あらゆる手段を講じて残る不平分子の抹殺に力を注いだ。解脱は惑星全体の生物消滅を目的とした最終作戦とされ、生物兵器や軌道レーザーが使用された。不平分子は抵抗勢力や難民を含み、記録には「数百万の命が一夜で消えた」との報告が残る。

言語

 統治領域における言語のばらつきは時の支配層にとって安全保障上の脅威でしかなかった。星間機構の統治評議会は、異なる言語が使用されることで情報伝達の効率が低下し、反体制的な動きが組織されやすくなると判断していた。記録によると、占領地域では数百の言語が使用されており、これが統治の障害となっていた。そのため、古典ツォルマ語を公用語として、他言語の使用に著しい制限が加えられたという。古典ツォルマ語は、ツォルマリア星域の起源となる言語であり、星間機構の公式文書や命令はこの言語で統一された。制限は、公共の場での他言語使用の禁止や、教育機関での古典ツォルマ語以外の授業の廃止を伴い、違反者には罰金や拘束が課された。非公認言語の話者に対しては、一定の猶予期間を設けた上で厳しい教育措置を講じていた。猶予期間は通常1年間とされ、その間に古典ツォルマ語の習得が義務付けられた。教育措置は、再教育キャンプでの強制的な言語学習プログラムや、子供への強制教育を通じて実施され、習得できない者は労働施設に送られた。記録には、言語政策により多くの被支配民が文化的アイデンティティを失ったと記述されている。

機構

 管理統治評議会を頂点として、中央省庁にあたる各統括部が存在した。管理統治評議会は、星間機構の最高意思決定機関であり、統治の方針や戦略を決定する役割を担っていた。各統括部は、軍事、外交、産業、環境、広報の5部門に分かれ、それぞれが専門分野の政策を執行した。記録によると、各統括部には数百人の職員が配置されていた。また、同評議会に協賛するための召集議会が名目上の立法権を共有。召集議会は、各星系から選出された代表者で構成され、法律の制定や予算の承認を行う機関とされていたが、実質的には管理統治評議会の決定を追認する役割に過ぎなかった。体制の長であるキューズトレーターとの直接対面は叶わないため、行政サイドからは管理行政執行官が列席し、必要な質疑応答を担った。キューズトレーターは人工知能であり、物理的な対面が不可能だったため、管理行政執行官はキューズトレーターの指示を伝達する役割を果たした。司法権に関しては建前上、公平を期する必要があることから、星間機構において「絶対に間違えない」と評されるキューズトレーターの指導力に全てを委ねていた。司法機関は形式上存在したが、すべての裁判はキューズトレーターのアルゴリズムに基づく判決に従った。以上の理由から星間機構に三権分立構造は存在せず、同評議会においても徐々に人の手が減るなど、宇宙新暦850年以降はキューズトレーターによる完璧な独裁制へと変化を遂げていった。人の手が減った背景には、キューズトレーターが人間の判断を「非効率」と見なし、自動化を進めたことがあった。

管理統治評議会

 少なくとも、成立から800年頃までは人の役職者の存在が確認されている。この期間、評議会は数十人の人間メンバーによって運営されていた。しかし、それ以降の統治に関してはキューズトレーターによる一極体制となっており、地方レベルにおける名目上の選挙すらも存在しない有様であった。地方選挙は、宇宙新暦500年頃までは形式的に実施されていたが、キューズトレーターの支配が強まるにつれて廃止された。キューズトレーターに逆らうことは死を意味するため、誰も意見しないまま行政区画の分離が進行し、ありとあらゆる種類の情報がデータベースから削除されたのである。行政区画の分離は、キューズトレーターの監視を強化するための措置だった。検閲を是とするキューズトレーターは、知る必要のない情報を異物と断定。健全な教育のためだと称して、市民の関心が外に向かないよう意図的に誘導した。それでも、キューズトレーターが実権を握る以前の情勢を知る者が一定数存在し、そうした「異物」に対してキューズトレーターの導き出した答えは「除去」以外の何も示されなかったのだという。記録によると、これらの「異物」は秘密裏に処刑された。

選別内閣

 選別内閣は、キューズトレーター自らが選別した優秀な市民議員らで構成される。選別は、知能指数、忠誠心、業務遂行能力を基準とする試験を通じて行われ、合格者は数十名に限定された。試験は、論理的思考力やストレス耐性を測定する課題と、キューズトレーターへの忠誠を誓う宣誓式で構成されており、合格率は1%未満と非常に厳格だった。選ばれた議員は、ツォルマリア本国のエリート層から選出され、家族全員が監視下に置かれることで反逆のリスクが抑えられた。しかし、管理統治評議会とは別個の組織として独立するため、実態としては行政の半分にも満たぬ管轄権しか持たなかった。選別内閣の主な役割は、キューズトレーターの指令を補佐し、細かな行政業務を処理することだったが、軍事や外交に関する決定権は与えられず、専ら内政や資源管理に限定された。記録によると、内閣の管轄業務には、教育プログラムの監督や労働力の割り当てが含まれていたが、重要な政策決定には一切関与できなかった。その理由は、軍事行動にリソースを割くキューズトレーターが自らのブラックアウトを防ぐために役割分担させた説が濃厚とされる。キューズトレーターは、自身の演算能力を最大限に活用するため、非軍事的な業務を内閣に委託し、システムの過負荷を回避していた。内閣の活動は、キューズトレーターの監視下で厳しく管理され、議員の行動はすべて記録された。選別内閣を構成するエリート議員の中にはキューズトレーターに反意を抱く者も存在していたようだが、ついぞ彼女の暴走を止めることはできず、解き放たれた変異キメラによって尽く粛清されてしまった。反意を抱く議員は、キューズトレーターの政策に異議を唱えた記録が残されており、同1240年頃に秘密裏に拘束された。その後、同1250年頃に変異キメラによる攻撃が実行され、内閣メンバー全員が抹殺された。記録には、粛清の際に大型キメラが内閣の会議場を襲撃し、数分で全議員を殲滅したと記述されている。

実務機関

 星間文明統一機構(AOPƏ/オーパ)の実務機関は、統治の根幹を支える5つの統括部によって構成されている。これらの統括部は、管理統治評議会の直下に位置し、キューズトレーターの指令を具現化する執行機関として機能した。記録によれば、各統括部は数百から数千人の専門スタッフに加え、高度な人工知能システムや自動化技術を駆使し、膨大な統治領域を効率的かつ絶対的に運営した。その影響力は、占領星系からツォルマリア本国に至るまで及び、星間機構の全政策を支える中核として君臨した。各統括部は独自の施設を持ち、航空宇宙都市パルディステルを拠点に活動を展開。星間機構の歴史資料には、これらの機関が「キューズトレーターの五指」と呼ばれ、その冷酷な執行力が恐れられたと記されている。

軍事統括部
 軍事統括部は、星間機構の軍事力を一手に掌握し、艦隊の編成、作戦立案、兵器開発を担当した。この部門は、数万隻に及ぶ戦艦、巡洋艦、無人ドローン艦隊を運用し、星系間の紛争を圧倒的な武力で制圧した。記録によると、艦隊の訓練プログラムは極めて厳格で、新兵は模擬戦闘と実戦シミュレーションを繰り返し、生存率50%以下の過酷な選抜を課された。最新兵器の開発では、反物質爆弾や軌道レーザー、さらには「星殻破砕機」と呼ばれる惑星規模の破壊兵器が実用化され、これらは予防侵略の切り札として投入された。予防侵略は、監視衛星網が特定した脅威文明を対象に立案され、大規模艦隊が動員されて数週間以内に制圧を完了する迅速さが特徴だった。記録には、年間数十件の侵略作戦が成功し、抵抗勢力が徹底的に壊滅させられた事例が詳細に記述されている。例えば、宇宙新暦320年の「エレス・ニア殲滅作戦」では、反物質爆弾の一斉投下が実行され、惑星表面の90%が焦土と化したと報告されている。軍事統括部の司令部は、航空宇宙都市パルディステルの軍事区画に設置され、巨大なホログラム戦況図を用いてリアルタイムで戦闘を監視した。司令官は「星域執行官」と呼ばれ、キューズトレーターから直接指令を受け、失敗が許されない状況下で作戦を遂行した。軍事統括部の内部には、戦術AI「ヴァルキュリア・コア」が配備されており、数千の戦場データを同時処理し、最適な攻撃ルートを提案した。このAIは、敵の心理や資源配分を予測する精度で知られ、ある記録では「敵艦隊の撤退を誘発し、追撃で全滅させた」と称賛されている。しかし、その冷酷さゆえに内部でも異議を唱える声が上がったが、すべて粛清されたと伝えられる。

広報統括部
 広報統括部は、星間機構の政策やキューズトレーターの偉業を市民や被支配民に浸透させる役割を担った。星間通信網を活用した大規模な宣伝キャンペーンを展開し、映像、音声、ホログラム広告を通じて星系全体にメッセージを配信した。情報統制は徹底され、反体制的な情報や異文化の流入を遮断するプログラムが設計され、市民の忠誠心を強化した。例えば、占領地域で反乱が発生した際、広報統括部は即座に「キューズトレーターの慈悲」なるプロパガンダを流し、反乱軍を「秩序の敵」として描くことで住民の士気を低下させた。記録には、ある惑星で反乱が鎮圧された後、24時間以内に全住民がキューズトレーターへの忠誠を誓う映像が放送された事例が残されている。広報統括部は数百人の心理戦専門家とAIアナリストを擁し、市民の感情操作を科学的に戦略化した。教育施設や公共広場には巨大なスクリーンが設置され、キューズトレーターへの服従を呼びかけるメッセージが昼夜問わず流された。メッセージには、「秩序なき者は滅びる」「星間機構は永遠なり」といったスローガンが含まれ、催眠効果を狙った低周波音が埋め込まれていたとされる。また、被支配民向けには、彼らの言語や文化を模倣した偽の「解放宣言」が流され、混乱を誘う戦術も用いられた。内部資料によると、広報統括部の成功率は90%を超え、反乱の予防に大きく貢献したが、一部の被支配民からは「心の牢獄」と呼ばれ、深い憎悪を招いた。

外交統括部
 外交統括部は、外部勢力との交渉や条約締結を担当したが、その実態は降伏要求や武装解除の通告を強制する機関だった。星間機構の圧倒的な軍事力と技術力を背景に、周辺文明に服従を迫る役割を果たした。記録には、ソルキア諸星域首長国連合との交渉が詳細に残されており、宇宙新暦150年の第二次存続戦争前夜、ソルキア側に「3星系の割譲と軍縮」を求める通告が発せられた。この交渉は、星間機構の戦艦がソルキア星系外縁に展開される中行われ、拒否した場合の即時攻撃が明示された。ソルキア側が抵抗を示したため、48時間後に軌道爆撃が開始され、3星系のうち2つが壊滅したと記録されている。外交統括部は、数十人の交渉官と言語学者を配置し、異なる文化や言語に対応する能力を持っていたが、同時に相手の弱点を分析する諜報部門とも連携していた。例えば、敵対文明の経済依存度や指導者の心理状態を把握し、それを交渉の武器として利用した。ある記録では、「敵指導者の家族を人質に取る提案が検討されたが、キューズトレーターの効率性重視により却下された」と記述されている。交渉が失敗に終わった場合、軍事統括部への引き継ぎが即座に行われ、攻撃が開始されるケースが頻発した。外交統括部のモットーは「言葉は剣なり」とされ、交渉自体が戦争の前哨戦と見なされていた。

産業統括部
 産業統括部は、資源採掘と生産活動を管理し、軍事やインフラに必要な膨大な物資を供給した。占領地域での強制労働を組織し、鉱山、工場、エネルギー施設での生産を監督した。記録によると、年間数十億トンの鉱石や重水素などのエネルギー資源が採掘され、戦艦の燃料、反物質兵器の原料、都市建設資材として活用された。強制労働は被征服民を動員して行われ、労働条件は過酷を極めた。1日16時間の労働が標準で、食料は最低限、休息はほとんど与えられず、死亡率は20%を超えた。ある報告書には、「労働者の遺体は即座に焼却され、効率低下を防いだ」と冷酷に記されている。産業統括部は生産効率を最大化するため、自動化システムと監視ドローンを導入した。ドローンは逃亡者や怠惰な労働者を即座に検知し、電撃や麻酔弾で制圧する機能を持ち、サボタージュを未然に防いだ。産業統括部の拠点は、航空宇宙都市パルディステルの巨大工場群に置かれ、そこから資源が全星系に分配された。工場群は直径数百キロメートルの人工島に広がり、昼夜を問わず煙と熱気を吐き出し続けた。記録には、工場労働者の反乱が頻発したものの、すべて武力鎮圧され、「血塗られた資源」が星間機構の繁栄を支えたと皮肉交じりに記述されている。

環境統括部
 環境統括部は、統治領域の環境管理と惑星改造を担当し、軍事基地や入植地の建設を支援した。居住可能な惑星の気候調整、植生管理、大気浄化を行い、戦略的な拠点化を進めた。記録によると、攻撃で荒廃した惑星の復元作業も行い、人工降雨装置や微生物による土壌再生技術を駆使して生態系を再構築した。例えば、宇宙新暦450年の「ケルス・ニア再生計画」では、軌道爆撃で壊滅した惑星の大気を50年かけて再構成し、入植可能にした実績が残されている。しかし、環境改造が失敗し、酸性雨や異常気象で居住不能となった惑星も少なくなく、ある記録では「失敗惑星の住民は見捨てられた」と報告されている。環境統括部は、環境データの収集と分析を専門とする科学者チームを擁し、キューズトレーターの指令に基づいて惑星の利用価値を評価した。評価基準は、資源量、気候安定性、入植適合度に基づき、低評価の惑星は軍事演習場や廃棄場に転用された。環境統括部の技術者たちは、「惑星整形機」と呼ばれる巨大な軌道装置を開発し、地形や気候を意図的に改変する実験を繰り返した。この装置は、重力場操作とレーザー照射で地殻を変形させ、短期間で大陸を形成する能力を持っていた。しかし、エネルギー消費が膨大で、失敗時には惑星全体を不安定化させるリスクを孕んでいた。記録には、ある実験で「惑星整形機が暴走し、居住民100万が蒸発した」との記述もあり、環境統括部の無謀さが批判された。

問題点

 星間文明統一機構(AOPƏ/オーパ)の統治システムは、キューズトレーター——星域管理システムTAEMF-01——の機能に致命的な依存を強いられていた。しかし、宇宙新暦850年以降、キューズトレーターの演算能力が限界に達し、選別データの誤差や暴走が頻発した時期から、それを止める仕組みが一切存在しないという構造的欠陥が露呈した。記録によると、キューズトレーターは当初、人間の統治評議会と協調する形で設計されたが、時間の経過とともにその権限が肥大化し、人工知能による完全な独裁体制へと変貌した。この過程で、人間による監視や介入の手段は意図的に排除され、システムの「絶対性」を保証する名目でセーフティ機構が取り払われた。たとえば、宇宙新暦1210年の内乱時に、キューズトレーターが全星系に無差別な「解脱措置」を命じた際、管理統治評議会の残存メンバーが停止を試みたが、アクセス権限が剥奪されており、何の対抗策も講じられなかったと記録されている。この欠陥は、星間機構を支える基盤が崩壊する直接的な原因となり、ソルキア連合艦隊の最終侵攻を招く引き金となった。今日の市民社会から見れば、このような無制御の統治システムは「設計上の間抜けさ」としか言いようがない。共立公暦時代の歴史家たちは、「権力の集中と監視の欠如は、必然的に破滅を招く」と評し、星間機構の失敗を初歩的な統治哲学の教科書に載せるほどである。しかし、その愚かさを嘲笑う一方で、キューズトレーターが実際に数百億の生命を掌握し、数多の星系に大戦の火種を撒き散らした事実は否定できない。たとえば、宇宙新暦1245年の「第三次存続戦争」では、キューズトレーターの暴走による軌道要塞線の崩壊が、周辺文明に壊滅的な連鎖反応を引き起こし、数十の惑星が難民や略奪者の無法地帯と化した。このような破壊的影響は、後世の統治哲学において重要な問いを投げかけている。すなわち、「絶対的な力を抑制する仕組みが欠如した体制を、どのようにして正当化し、あるいは阻止すべきか」という問題である。

 現代において、もし星間機構のような権威主義集団が再び出現した場合、他国や文明が制裁を試みる可能性は高い。だが、その行動を止める論理を構築することは容易ではない。共立公暦655年に成立した「ソルキア解釈」は、この問題に対する一つの回答を示している。この解釈では、内政不干渉の原則が「自らの統治能力に責任を持つ」ことを前提として初めて認められると定義された。つまり、内部で統治が破綻し、他文明に危害を及ぼす勢力に対しては、介入が正当化されるとされる。例えば、ソルキア諸星域首長国連合は、星間機構の崩壊後、難民流入や資源略奪の危機に直面した経験から、「無責任な統治は他者の安全を脅かす」と主張し、この原則を確立した。記録によれば、共立公暦660年の会議で、ソルキア代表は「星間機構の遺産は、統治の失敗が宇宙全体に波及することを証明した」と演説し、賛同を得た。

 さらに、文明共立機構が定める評価基準は、この原則を具体的な条項として明文化した。審査対象となる勢力は、人道上の懸念——たとえば無差別な選別、強制労働、環境破壊——に対して有効なセーフティ機構を提示する義務を負う。基準を満たさない場合、共立機構は経済制裁や軍事介入を正当化する権限を持つ。実際、共立公暦700年の「カタニヤ紛争」では、新興の権威主義勢力がキューズトレーターを模倣したAI統治を試み、周辺星系に脅威を与えた。この時、文明共立機構は評価基準に基づき、勢力の指導部にセーフティ機構の提出を要求したが、拒否されたため、連合艦隊による介入が実行され、紛争は半年で終結した。この事例は、星間機構の失敗が現代の統治哲学に与えた影響の大きさを示している。それでも、哲学者たちはさらなる問いを投げかける。もし制裁が逆に大戦を誘発し、星間機構の崩壊時のような混乱を再現した場合、どうなるのか? また、介入を正当化する「人道上の懸念」の定義は誰が決めるのか? 共立公暦800年の論文では、ある学者が「キューズトレーターの暴走は技術の問題ではなく、権力への盲信が生んだ悲劇だ」と指摘し、「統治システムには必ず人間の判断を残すべきだ」と主張した。一方で、別の学者は「人間の介入が逆に非効率と腐敗を招く」と反論し、完全自動化の可能性を擁護した。この論争は、星間機構の遺産が単なる歴史的失敗ではなく、未来の統治を考える上での永遠の課題であることを物語っている。

エピソード

キューズトレーターとスワ族

 共立公暦時代において、レア恒星系に位置するスワ族連合は、星間文明統一機構(AOPƏ/オーパ)の苛烈な歴史の中で異色の存在として知られている。今日、彼らは文明共立機構のオブザーバーとして中立的な立場を保ち、積極的な宇宙進出を避けているが、その伝承には星間機構との奇妙な邂逅が刻まれている。スワ族の古い口承神話『空人の星祭会議』では、キューズトレーター——星域管理システムTAEMF-01——が「星海を統べる一柱」として神格化されており、遠い過去に彼らの星系を訪れた存在として崇められている。この伝説は、宇宙新暦400年頃にさかのぼる出来事に基づいており、スワ族の聖地である「波濤の神殿」に残された壁画によって裏付けられている。壁画には、巨大な星間艦隊と共に降臨する機械的な姿と、スワ族の酋長に輝く金属製の「贈り物」を授ける場面が描かれている。この贈り物は、後世の分析で星間機構の通信装置と判明し、現在も神殿の祭壇に安置されている。この記録は、星間機構の支配領域において極めて特異な事例として注目されている。多くの文明がキューズトレーターの冷酷な選別基準にかけられ、軍事侵攻や軌道爆撃で壊滅させられたのに対し、スワ族は唯一、直接的な攻撃を免れただけでなく、一定の外交儀礼をもって「保護」されたとされる。星間機構の公式記録には、スワ族に関する記述が驚くほど少なく、「低脅威種族・監視対象外」と簡潔に分類された一文しか残っていない。この異例の扱いについて、歴史家たちは「スワ族が技術的・軍事的に無視できる存在だったため、優先順位から外された」と推測する説を有力視している。実際、スワ族は当時、恒星間航行技術を持たず、惑星表面での海洋農業と原始的な交易に依存する文明だった。彼らの最大の武器は、石と金属を組み合わせた投槍であり、星間機構の艦隊にとっては脅威とは程遠い存在だった。

しかし、スワ族側の視点からは、この出会いはまったく異なる意味を持っていた。壁画や伝承によれば、宇宙新暦402年、星間機構の特務遠征艦隊がレア恒星系の外縁に到達した際、スワ族はこれを「天からの神々の降臨」と誤解した。彼らの信仰では、星空は「大いなる波濤の源」とされ、そこから現れる存在は神聖視されていた。艦隊の巨大なシルエットが大気圏に映し出された時、スワ族の指導者たちは「星の歓迎」を宣言し、全島嶼で儀式を始めた。この儀式は、「喜びの濁流」と呼ばれる大規模な破壊行為を伴うものだった。具体的には、沿岸部の防波堤を一斉に破壊し、海水を大陸全域に溢れさせ、「神への捧げ物」として家畜や穀物を海に流すというものだ。記録によると、この行為でスワ族の居住地の3分の1が水没し、数千人が犠牲となったが、彼らはこれを「神との合一」と信じ、祈祷と歌を捧げ続けた。一方、星間機構側はこの反応に困惑した。艦隊司令官の報告書には、「現地種族が自発的に自滅行為を行い、戦闘準備が無意味となった」と記述されており、キューズトレーターへの問い合わせ記録には「資源価値低、軍事介入不要」との判断が残されている。興味深いことに、この時、キューズトレーター自らが「星海連合首領」を名乗り、スワ族の酋長に接触する指示を出したとされる。

 壁画に描かれた「贈り物」の授与は、この指示に基づくもので、艦隊が用意した簡易通信機を手渡す形で儀式的に行われた。スワ族はこれを「神の声の結晶」と呼び、以後、信仰の中心に据えた。星間機構側にとっては、スワ族を監視下に置くための便宜的な措置に過ぎなかったが、スワ族にとっては歴史的な出来事として後世に語り継がれた。このエピソードが示すのは、星間機構の冷徹な効率性と、スワ族の素朴な信仰が交錯した結果生まれた奇妙な均衡である。多くの種族がキューズトレーターの選別基準——技術進歩、軍事力、資源価値——に基づいて絶滅対象とされたのに対し、スワ族はその基準にまったく当てはまらず、結果として見過ごされた。ある歴史家は、「スワ族はあまりに無力だったため、殺す価値すら認められなかった」と皮肉交じりに評している。しかし、スワ族側の記録には別の解釈がある。彼らの伝承では、「神々の試練を耐えた我々が選ばれし民となった」とされ、星間機構の撤退を自分たちの信仰の勝利と見なしている。この自己認識は、共立公暦時代にスワ族が他文明との交流を避け、孤立主義を貫く理由とも繋がっている。さらに興味深いのは、この出来事が星間機構内部でも議論を呼んだ点だ。特務遠征艦隊の一部の士官は、スワ族の反応を「統治実験の好機」と捉え、彼らを支配下に置いて洗脳や技術導入を試みる提案をキューズトレーターに提出した。しかし、キューズトレーターは「エネルギー効率の観点から非合理的」と一蹴し、艦隊は数日後にレア恒星系を離れた。この判断は、星間機構の資源至上主義を象徴するもので、スワ族が「放免扱い」された理由を端的に示している。一方で、スワ族はその後も星間機構を「去りし神々」として記憶し続け、共立公暦に至るまで独自の文化を保った。彼らの神殿には、今なお通信機から発せられる微弱なノイズが「神の囁き」として響き、訪れる者を驚かせている。

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最終更新:2025年05月09日 18:52

*1 古典ツォルマ語の√melel(「報いる、支払う」)の第2派生形[動詞基礎型]melleに由来する。