─1─
セントラに存在する氷焔本部。
そこでリリへの歓迎会が行われようとしていた。
氷焔内部は様々なポケモン達が色とりどりのレースで飾りをつけている。
「わぁ、すごい!」
リリは目を輝かせた。
自分のためにここまでしてくれるなんて……
そう思ったリリは厨房に向かう
フブキに気づいた。
周囲の空気が凍りつく。
その光景にリリは首をかしげた。
「どうしたの皆?」
リリは手を止めてしまった周囲のポケモンに尋ねるが、慌てて作業を再開するだけで返答は無い。
そしてリリの右肩を何者かが叩いた。
リリが振り向くとそこにはノアの姿があった。
ノアはゆっくりと首を左右に振り、無言で立ち去ってしまった。
「……?」
リリはもう一度首をかしげる。
その瞬間数々の爆音が厨房から轟いた。
「え、ええ?」
リリは動揺を隠せない。
そうしているうちに焼け落ちたエプロンを身にまとったフブキが鍋を持って戻ってきた。
「ほら、アタシ特性のドライカレーだ」
「おおー、いただきま……」
鍋のふたを開けた瞬間リリは全てを理解した。
周囲のポケモンが一斉に逃げ出した事もうなずける、そんな強烈な臭いがあたりにたちこめたから。
リリも逃げ出そうと椅子から立ち上がろうとした時、極上の笑みを浮かべたフブキと目が合ってしまった。
「どうしたリリ、せっかくの料理が冷めてしまうぞ」
「え、ええ……」
もう逃げ場は無い、そんなリリに残された選択肢は目の前のドライカレーを食べきること。
しかしそのドライカレーの色は青みがかかり、硫黄を思わせる臭いを放っている。
(まずは一口……)
リリは覚悟を決めスプーンでドライカレーをすくおうとした。
しかしスプーンがドライカレーに触れた瞬間ジュッという音と共に溶けてしまった。
「あの、フブキさん……?」
「ああごめん、熱くて食べにくかったね」
するとフブキは手から冷気を放ち鍋の表面を凍らせた。
リリはその光景に絶句する。
再び笑みを浮かべたフブキ、そして異様な威圧感を誇る鍋。
リリは覚悟を決めた。
両手で鍋をつかみ、一気に胃の中へドライカレーを流し込んだ。
─2─
リリが目覚めたのは氷焔の医務室のベッドだった。
「おお、やっと目覚めたか」
そこには椅子に座りながらテレビを眺めている
バーンの姿があった。
「あの、私は……」
目覚めたばかりで混乱気味のリリはバーンに問いかけた。
「フブキの料理を一気に食って倒れたんだよ」
徐々に記憶が戻ってくるリリ。
「まったく無茶しやがって、お前といいキースといい命知らずが多いな」
「キースさんもですか?」
「アイツは料理を嬉しそうにがっついてそのまま倒れたよ」
リリは思わず苦笑する。
「で、体調は大丈夫か?」
バーンの問いかけにリリは試しに体を動かしてみた。
特に痛む部分はなく、体が変形している訳でもない。
「うん、大丈夫そう」
「そうか、早速だが依頼の話をさせてもらう」
バーンの言葉にリリは首を縦に振った。
「とりあえずテレビをみてくれ」
リリはテレビのほうに目をやると、そこには最近見つかった神殿の特番が放送されていた。
青白い壁とガラス窓から差し込む光が幻想的な場所だ。
「わぁ、綺麗な場所ね」
「氷焔にこの神殿の調査依頼が入った、リリ、参加してみる気はないか?」
突然仕事が舞い込んで困惑するリリ、しかし答えは決まっていた。
「是非やらせてください!」
「わかった、調査の仲間たちが会議室にいるから色々話しておくといい」
そう言うとバーンは医務室を後にした。
「……仲間、ね」
リリは呟いた。
─3─
「あ、だるぱちさん!」
会議室の扉を開くとリリとだるぱちの目が合った。
だるぱちは笑顔で首を縦に振ると、モモンの実を口にする。
「君がリリか」
突然リリに青いセーターに赤いスカート、
そして左手に抱えるスケッチブックが特徴のサーナイトが話しかけてきた。
「俺の名は
キルトだ、よろしく頼むぜ!」
「うん、よろしく! でもあなた男性なのね、てっきり服装から女性かと……」
「いや、オレの故郷じゃこれが普通なんだが……」
彼のはいているスカートのような物はキュールと呼ばれている。
彼の出身地であるランスランドの民族衣装なのだ。
「あのー、私も自己紹介よろしいでしょうか?」
リリに仮面で顔を隠しているラプラスの女性が話しかけてきた。
彼女は仮面の聖職者という異名を持つシスターで、とても慈悲深い性格をしている。
それはギルドの近くに孤児院を作り上げるほどだという。
「私は
レミア、今回の調査依頼ではよろしくお願いしますね」
「うん、
こちらこそ!」
リリはレミアの自己紹介に元気よく返した。
「レミアさんは仮面付けていますけど、それも何か意味があるのですか?」
リリの問いかけにレミアは若干戸惑いながらも返す。
「これね? 私ちょっと顔をぶつけちゃって…… 傷のついた顔を見せたくないのよ」
「ごめんなさい、変なこと聞いちゃって……」
「いいのよー きにしないで」
リリはレミアとの会話にひと段落ついたとき、
さっきからチッチッと指を鳴らしている長身のピクシーに目が行った。
「あの、あなたは?」
「俺か? 俺の名は
ジョイフェルだ」
リリが部屋に入ってからずっと指を左右に振り続けていた彼。
リリはその行動についてたずねた。
「指を振るのって癖なのですか?」
「ああ、俺が指を振ることで何処かで何かが起きているのさ」
そう言うとジョイフェルは今まで指だけを振っていたのに対し、
今度は手首から大きく指を振って見せた。
すると彼の指先に炎が集まっていく。
「え、ええ?」
困惑するリリにジョイフェルは答えた。
「これはブラストバーンを引き当てたな」
彼の指先に集まった炎は会議室の窓を突き破り何処かに飛んでいった。
その光景に唖然とするリリ。
「俺もそろそろ自己紹介していいか?」
黄色い模様が描かれている黒い服を帽子を身にまとったブラッキーが話しかけてきた。
「あ、ごめん!」
その言葉でリリは我に返った。
「俺は
キャスティン、特技は銃技だ」
そういうと彼は両手に持つ片手銃をクルクルと回して見せた。
「そして、見て驚くなよ」
両手に構えた銃を合体させると、巨大なキャノン砲へと形を変えた。
「わ、すごい!」
「以上だ、これで全員自己紹介が終わったな」
キャスティンがそう言うと会議室に真っ黒こげになったルカリオが飛び込んできた。
「ジョイフェル、お前の仕業か……」
その声は紛れもなくキースの物だった。
どうやらさっきのブラストバーンを受けてしまったらしい。
キースはそう言うとその場に倒れこんだ。
だるぱちが無言でキースを医務室に引きずってゆく。
「ジョイフェル、まったく罪な男だな」
「だろう? 俺といると何が起こるか分からないぜ」
「あ、あははは……」
キルトとジョイフェルのやり取りにリリは思わず苦笑いをしてしまった。
最終更新:2010年08月20日 15:54