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目次




◇ 冒頭


 俺の本名は『筒香(つつごう) 悪魔(めむめむ)』。十七歳。
……な? 生まれた時点で人生詰んでるだろ?
物心ついた頃にはプロいじめられっ子の俺は、もう悲惨まみれな人生だった。
特に高校に入ってからは地獄の展示会だ。
殴られる、シャーペンを隠される、女子の前で股間だけ穴の空いたダメージジーンズを履かされる、上履きには忍者のマキビシを入れられるetc。……なぁ、マキビシだぜ? せめて地面に撒けよ。
……本気で辛い日々だったんだ…………。
何もかもつまらない俺の生き甲斐は、名探偵コナンを読むことくらいしかなかったぜ。

そんなある日の帰り道だった。


​――キィィィィィィィィィッ!!​
――ドォォォォォン!!

(え、カゲロウデイズ?)


 俺はついうっかりトラックに撥ねられ、まぁ死んだわけ。
意識が溶けていく中、脳裏に妙に落ち着いた『声』が響いた。


『個体名:筒香メムメムの生命活動停止を確認しました。魂の定着……失敗。異世界への転移シーケンスを開始します』

​(なんだ……? 今、誰か喋ったか……?)


『希望条件『どこか遠くへ行きたい』を検知。スキル【超越翻訳】および【無限の魔力庫】を獲得しました』

​(……ああ、そうか。これネット小説でよく見るやつだ……。それなら、次は……──)


(──いじめも、人が死ぬこともない人生が……、いいな……)



​そんな自分勝手な願いを最後に、俺の意識は深い闇へと沈んでいったんだ────。

………………
…………
……




◇ 作者

──五味葛葉。


◇ 執筆開始日

──2026年1月26日。


◇ タイトル

無能だとパーティーを追放されステータス0のゴミ扱いされた俺、実は数値がカンストしすぎてバグっていた上に全属性適正のSSSランク魔導師で、不遇スキル【翻訳】も神の言葉を読み解く唯一の権能だった件。
~今さら戻ってきてくれと言われても、隣国で聖女やエルフの王女、復活した古代の絶世美女たちに囲まれて無自覚最強ハーレムを築いているのでもう遅い。俺のポーション一滴で滅びかけた国を救いつつ、元居たギルドが崩壊するのを横目にスローライフを送っています~
あと、ついでになんか名探偵やることになってて草の巻。


【第一章】
『この世のバグ』


 暗い。
目を開けたはずなのに、何も見えない。
上下も左右も分からない、底のない闇。
自分の体があるのかどうかさえ、感覚が曖昧だった。


(ここはレイトショーか?)


俺がコナン顔負けの名推理を巡らせた、その瞬間。


『ようこそ、異界管理システムへ』

「うぇ?」


なんか、女の人の声が、頭の中に直接響いた。


『あなたは不慮の事故により死亡しました』

「マジ? ガンツじゃん」

『しかし特例として、異世界への転生権が付与されます』

「テンセーケンってなに?」


直後、闇の中に淡い光が浮かび上がる。
青白い半透明のウィンドウ。
よく分かんないけど、俺はステータス(?)で色々進化できるらしかった。ラリホ〜♫
悩む時間も勿体無い。
俺のステータス調整はたった一択だったぜ。

……生前の話な。
俺は頭悪すぎて、近所のガキから『パタスモンキー』『群馬のへっぽこ刑事』って呼ばれてたんだよ。
顔はイケメンなのに中身は空き缶以下で、それがすごいコンプレックスでな。
だから『ちりょく』に全ふりしてやったよ。


『え゙。……よろしいのですか?』

「そこんとこ上手くまとめんのがテメェらの仕事だろ!!!(正論&カスハラ)」

『……分かりました』


こーして俺は一秒で天才になってしまった。
国語のテストざまぁみろ。



『では、お名前を決めてください』

「は? 俺はメムメムだよ」

『新たな世界での、名前です』


 で、そしたらこれだ。俺は虚を突かれた思いをした。
よくわかんないけど、お姉さん曰く、転生先では偽名使わなきゃやってられないらしいんだ。
ビジネス用語で言うところの『ドレスコード』ってやつだな。
なんか、ドラクエとかファイファンみたいに名前決めるメッセージウィンドウ出てきたから、俺はさっそく偽名職人をすることにした。
……言っとくけど俺、有吉ラジオのゲスナーするくらい大喜利職人でな?
夏目友人帳にも載らないような、エグい二つ名なんてポンポン思いつくもんだぜ。


──ポチポチ

「…………いとうよしかず、で」

『……サラリーマンみたいなお名前で』


そしたらどうよ。


──ブブー!!
【この名前は既に使用されています】


「は?」

『あ、申し訳ありません……。別のお名前を……その、もっと独創的なものを……』


​俺は虚容疑者に突かれて死んだ思いをした。
俺の、ひろいきに鍛えられた珠玉の「いとうよしかず」が……ボツだと?
なら、これならどうだ。


──ポチポチ

「ハイリンヒ・クロウ・トゥドール、で」

『……だいぶ、世界観に媚売ってきましたね……』


へへ、ざまぁみろ。
これで全人類大爆笑だ。


──ブブー!!
【この名前は既に使用されています】


「は?」

『……本当に、申し訳ありません……』


虚は、いったい俺になんの恨みがあるのだろう。
俺はこのときすでに限界だった。
サマーウォーズのあんちゃんも、脳CPU使用率エグくなったとき鼻血だしてたけど、俺も完全シンクロしてた。
脳汁が鼻穴から出てヤバかった。
完全思考停止した俺にはもう、『名前』なんて概念は残っていなかった。


──ポチポチポチィ

「あめNま1に、で」

『……はい』


──ピンポーン!!


何がピンポンだ殺すぞ。
だがいい。
名前なんてどうだっていい。親だってそう思ったからメムメムと名付けたんだ。
これで解決なんだ。


こうして俺は第二の冒険生活を始めるのだった──、



『……では、次に。新たな『苗字』をお決めください』



俺は怒りで頭が真っ白になった。






『設定完了。まもなく、あなたは異世界へと転送されます。──』

『──どうか、良き物語を……』



視界が真っ白に弾ける。
こうして、俺『あめNま1に・ぱぱぱーーみょ』のチート魔法人生が始まるのだった──。




【第二章】
『バグとの出会い』


 それからの俺の人生は、バラ色みたいだった。
イケメン勇者であるルガール・シュタイン君とパーティになったけど、追放されて。
その時はショックのあまり、個室トイレで泣いたけど、なんかチート力使ったら手のひら返してくれた。
それからは、聖女とかエルフとか、とにかく「なろうの表紙」にいそうな美女をたくさん引き連れてハーレム・ハーレム。うっはうは。
ゴブリンも仲間にしたし、王様にもなんかすげぇ言われて、超勝ち組だったわ。
毎日高い酒を飲んで美味い飯を食う、完璧な『追放ざまぁライフ』を満喫していたよ。

特にルガール・シュタイン君。彼は良いやつだ。
彼みたいな人がいじめっ子だったら、俺のいじめ生活も楽しかっただろうにな……。


で、なんか魔物の偉い人退治するってなって、その決戦前夜ね。
焚き火の前、俺はルガール君と絵しりとりして大爆笑してたんだけども、
──……心の奥底では冷え切ってたんだ。

まず、「俺そんな活躍してなくて申し訳ない」ってのが0.1割。
次に、「俺、知力50なはずなのに、そんな賢いムーブしてなくね?」ってのが0.1割。

──とどめに、『俺が泊まる宿々で必ず、めちゃくちゃエグい殺人事件起きる』のが、999999割な。


「どうした、あめNま1に? なんか暗いぞ……?」

「いや、別に……」

「……ま、分かるぜ。……魔王城に挑むんだからよ、無理もねぇわな。特にお前みたいな奴はな! ハハハハ!!」

「それな」

「……安心しろ。みんな生きて帰るから。……絶対、な……」

「それな」


 ……ルガール君は陰で、俺のことを『歩く自殺スポット』とか呼んでるんだろう。
焼死、毒死、刺死、惨死、──無死満塁。
うん。必ず誰かが死ぬんだよ。
俺はその度に泣く。マジで泣く。

助けてやれない悔しさ、
何もできないもどかしさ、
そして、実質俺が殺したみたいな、あの空気感──。

コナン君の気持ちが嫌というほど分かるクソライフだったぜ。



 でも、俺は思うね。
『コナンってジンに薬のことバラして、アポトキシン開発協力すればよくね?』
『あの薬あれば、組織は荒いことしなくても金持ちになれんじゃね?』
──ってな。

だってそうだろ?
『敵の敵は味方』じゃないけど(つかその諺の意味わからんけど)、協力すればジ・エンドで平和じゃん?
連載即終了で、もう二度とグロい思いせずに済むじゃん?
ちりょく50になった俺は、青山先生でも思いつかないような名トリック閃きまくって、仕方なかったんだわ。


「俺なら麻酔銃の長針、毛利蘭ちゃんに撃つけどな」

「あ? もうりらん??? つかあめNま1に、マジお前すげぇよ……。魔王に肉渡して和平解決とか、普通思いつかねぇって!」

「知らね」


魔王対峙というなろうノルマの消化後。
俺はくだらない話をしながら、魔法高校の廊下を歩いていた。


──その時だった。



(あ、『その時だった』っての、今後も度々使うと思うから、『園子』と略そう)


──うん、その時だった。


「そういや、あめNま1にさぁ〜──……、」


「ちょ、ちょっと……い、いいですか!!!」

「「へ?」」


 俺は唐突に気付かされたんだ。
教えてくれたのは俺の脳。知恵コイン五百枚あげたいくらいだね。

クエスチョン──。
Q:『何故、コナン君は黒の組織と提携しないのか──?』
Q:『コナン君、さっさと正体バラしたほうが楽じゃないのか──?』


「……あめNま1に・ぱぱぱーーみょ君……。う、噂には聞いてます……っ!」

「え? この女だれ?」 「あ〜〜……。無視しとけ。コイツは──……、」

「わ、私の……『計画(プラン)』に協力してほしいんですっ!」

「あ?」 「は?(……ケーカクって夜神月がよく通ってるやつ?)」


俺に話しかけてきた女は、探偵帽子にピンク髪の小さな女の子。
虫眼鏡持ってて、しかもパイプまで持ってるソイツは、一年生。
後に聞いたところ『ヒマリ・アカネソラ』という、学校一の『触れてはいけない人物』らしい。


コナン君が、俺の提案(組織への協力)を決してしない理由──。


「……少しお話を、よろしいですね?」

「……え? 俺??」



──それは、『ガチでやべぇ奴』に見つかったら、一生しゃぶり尽くされると知っているからだ。




「……ええ、何をどう略したら『メムメム』になるんですか?」

「とにかく俺のことはそう呼んでくれていいぞ」

「……あだ名センス、だいぶアチラの世界ですねぇ……。──」


「──……流石は、歩く死神っ…………!! 筒香くん……!!」

「メムメム」


 日差し。
校舎裏にて、男女ペア。
これっていわゆる、『えろい青春』の始まりなんだろうけど、俺はヒマリのことを一ミリも待ち望んでいない。
経緯を話すぞ。
俺は学校中で、『魔王を倒した超エリート』として知れ渡ると同時に、『絶対ェ遊びに誘っちゃマズイ奴』とも噂になっている。
それがどーやら、ヒマリにも伝わってたようで、探偵気取りの彼女は、俺の『死力』を利用するつもりなんだ。
まぁ意味わかんねぇけど。


「楽しみだなぁ〜〜♪ ふへ、ふへへぇ〜〜……!」

「唾液でてるぞ」

「あ、これは失礼。……『よだれ』でもいいものを、わざわざ『唾液』と言う謎配慮。ちょいキモですねェ……」

「それはそう」


 まぁでも。それだけならまだマシだと思うわ。正直。
何か知らんけど、ヒマリは学年一の天才で、IQも225%超えなんだよ。
すげぇよね。天才じゃん。サザン症候群ってやつ? 意味わからんけど。
だから、その持て余す知力を存分に見せつけたいって動機なら、俺も納得はできたものさ。
普通、歩いてて殺人事件なんて滅多に起きるもんじゃないからよ。

で、そのうえでもう一度言うぞ。


──“まぁでも。それ『だけ』なら、まだ『マシ』だと思うわ。”



ペラッ──

「ふへへぇ〜〜! 見てくださいよ〜〜筒香くん!」

「ものすごく嫌な予感」

「私、ずっとずっとずっと……ず〜〜〜っと!! スクラップ帳にまとめてきたんですからね!!──」


「──この街で起きた、『死体写真』コレクション!!!」

「見せて楽しいか」



そう。ヒマリは半端ないサイコパスだったんだ。
……この時、校舎の陰が妙に彼女に差し掛かっている気がした。



「ぁ……んあっ……!──」

「──やばい……ページめくるだけでキちゃいます……! 尊い、尊すぎます…………!! 分かりますか?! えぇ分かるわけありませんよね! だって異常者ですもん、私!!!」

「赤パジャマ青パジャマ〜くらいしか俺知らないのに、早口言葉すごいな」

「ほぉら見てください……! これが開放骨折! 粉砕骨折のさらに高み、骨の向こう側ですよ!──」

「──で、これが開放骨折したジジイなんです!! 思いもしなかったでしょうねぇ〜!! 朝目覚めたとき、まさか夕方に階段から落ちて、私の一ページと化するなんてねぇ!! うぇへへ〜〜!!」

「なぁ、これどこが笑いどころなの?」


 俺は思わず、M-1でアキナ見たときと同じセリフを言ってしまった。
ヒマリ・アカネソラ某──。
──子猫のように可愛らしいソイツは、保健所の死んだ目のおっさんのように血も涙もない女だった。
(まぁコイツは笑いまくってるけど)

奴は自分の知力を事件解決、つまり『平和』のために使おうとしていない。
凄惨な犯行現場で欲情し、死体をまさぐり、自分の歪んだ私欲を満たすためだけに、頭脳を使おうとしていたのだ。
いや、そもそもヒマリは解決する気もないんじゃないのか。


『事件の途中で犯人を特定することは容易いですが、無闇に犯行を阻止すべきではない。──』

『──事件は一人歩きする生き物です。──』

『──それを親のような温かい目で見守ってやる『マタニティ精神』が、探偵には必要なんですよ』

(神探偵ヒマリ・先ほどの名言より)


俺はヒマリのベーションに、物理的にも精神的にも利用されているだけなのだ。


 恐ろしいのはここからだ。
俺はコナンのことはB'zごと大好きなんだけども、反面、金田一少年はあまり好きくない。
あいつはシリアル食う感覚で、ポンポンポンポン犯人をみすみす自殺させる。
その『アフターケアの無さ』が、俺の探偵美学には合わないのだ。
これぞまさしく、シリアルキラー。
あぁ、つまりはそれが言いたかっただけ。


ただ、付け加えるなら、こうも言いたいわけ──。

「…………筒香くん、もはや風情ですよね」

「あ?」

「絶望の淵に追い詰められた人間を、私たちは安全な場所からうっとり眺める。そのコントラストが……」

「お前、人の命をなんだと思ってんだ。この野郎」



────ヒマリは、『犯人を精神的に追い詰めて、華麗に自殺させること』を最大かつ唯一の目的にしていたんだ──。




第三章
『勝手に死んでろ』


 放課後。
街ふらつき、俺たちは風の中。
孤独瞳に浮かべさみしく、歩いていた。


「JASRACコード:0120-783-640」

「え? あぁ、思いっきり歌詞引用してるから権利関係気にしてるんですか? てかなんでコードがリーブ21なんです?」

「うるせぇ。俺は今腹立ってんだよ」


……街を歩けば、脳内では勝手に尾崎豊の『卒業』が再生される。。
そのうちゲーセンでピンボールのハイスコアを競い合ってしまうのではないかと不安だが、……今はそれどころじゃない。


「あめNま1に様だ! あめNま1に様の姿を見れて俺ぁ幸せだ!」
「魔王を倒した英雄様、今日も素敵だわ!」


街の人たちの、俺を見る羨望の眼差し。
鍛冶屋のおじさんの、湿った尊敬の念。子どもたちが俺を指差し憧れる、その無垢な声。
──そして、隣で死体写真を眺めながら歩く、サイコパス名探偵ヒマリ野郎。

俺は早くも、この異世界生活を『卒業』したくてたまらなかった。


「モテモテですねぇ! もはや歩くヴァージンロードじゃないですかァ~~ッ!」

「お前絶対皮肉だろそれ」


 ……くっ、ヒマリ・アカネソラ。
こいつが『学園一の嫌われ者』だっていうのは伊達じゃない。
噂通りのとんでもない女だった。
むしろその噂流した奴らに腹立つほど、度し難いゲス外道だった。
俺はかつてないほど、マツコと有吉の怒り新党にお便りをぶち込みたい気持ちだった。

なにが「死体が見たい」だ。
「自殺するところを肴にしたい」だと?
ふざけるな。
このクズ女は、勝手に俺を友達(=死体を探知するレーダー)と見なし、今もなお死神の鎌のように食らいついてくる。


「あ! ほら筒香くん! 宿屋ですよぉ〜!! ほら宿! 宿!! 行きましょうよ!」

「……俺は金がないんだ」

「金? 事件解決したら、宿泊代くらいチャラにしてくれますって! ぶふっ、ぶふふっ!!」



──『一輪の花』とは、まさにこのことだ。



「あ、なら病院はどうです?? 病院!! ……涼しいですよぉ〜? 死体安置所はぁ〜〜?」

「黙れ、今夏だろ」

「……ええ、だから涼みに行こうって言ってるじゃないですか」

「……」

「夏といえば、やっぱり怪談ですよねぇ。……増やしましょうよォ、新しい幽霊!! ぶふっ……!!!」


──ちなみに、その『花』の名前はラフレシア。
……俺という巨大なラフレシアには、さっきからヒマリという名のコバエがうるさくて仕方がなかった。
そうだな。
花言葉を勝手に決めさせてもらうが、『ヒマリ邪魔だ早く逮捕されろ』にでもしよう。
もちろん、名探偵コナン緋色の弾丸を二百回見た俺が、黙ってられるはずもない。
この騒がしい暴走女には、何回も正義の盾を突きつけてやったものだった。


「お前、病気だな」

「……は? 心外ですねェ〜……私、健康診断の結果はオールA、病欠なんて一度もありませんよ!」

「病気もなんにもない~ってか。お前はゲゲゲの鬼太郎か!」

「え? え? ……あ、主題歌? 二番の歌詞を引用したツッコミですか? ……センスが昭和で終わってますねぇ〜」

「……。──」


「──お前病気だよ。こころの」

「惜しい!『こころ』じゃ文芸作品になりますので、『心』と表記しましょう!」

「ィッ!!! うるさい!! Geminiみたいな訂正の仕方してくるな!」

「……案外手垢ついてない例えツッコミですねェ~。……まぁ、でも私、実際に『障害』持ちなのは事実なので、筒香くんの主張にも一応の正当性はあります」

「……え? しょーがい? ……なんの障害だ」

「自己愛性パーソナリティ障害! かのテッド・バンディ氏と同じ病理です♪──」


「──つまり、障害者には優しくしましょうよぉ、筒香くぅん~~~」

「……てめぇ……」


だが、結果はいつもこうだ。
コイツは無駄に頭が良すぎて、何も言い返せない。
知力の回転数がジェットエンジンと扇風機くらい違いすぎて、バカな俺はミキシングされるがまま、論破という名のミンチ肉と化す。
俺は正論が大嫌いだ。なぜなら嫌な気持ちになるからだ。
なぜ、こいつみたいな腐った奴に限って、正論という名の凶器を美しく使いこなせるんだ。

……だけどな。
俺はどれだけ正論の壁にぶち破ろうとも、絶対当たってみせるつもりだ。
わけわからんが、つまり当たって砕けろの精神だな。
自殺が正しい? 殺人こそが美学?
くだらん。言い訳は署で言え。


「俺はお前の狂った遊びを止めてみせる。俺は、自殺する奴が大嫌いなんだよ!!」

「……え? 『する奴(個人)』が嫌いなんですか?」

「自殺は悪いことだからしたらダメなんだよ! お前、どーとくのきょーかしょ読んでないのか?」

「浅いですねぇ……。もし道徳の教科書に『一日に三人は人を殺しましょう』と書いてあったら、従うんですか?」

「黙れ!!」


金田一少年と、目の前のピンク髪──。
犯人をみすみす自殺させる「ゴミクズ・オブ・ゴミクズ」の二大巨頭──。

──俺は絶対、お前の思い通りにはさせないからな。
……この、じっちゃん子野郎が!!


「俺はどーとくの二次創作描いたくらい大ファンなんだぞ」

「あれ、愛でる本じゃないんですよ……」


ちなみに、その二次創作はpixivで即『検索妨害』ってタグ付けられた。
俺は血涙を流しながら全作品を削除した。


………
……




 俺は腹が減ったから、食堂にいった。
──それはつまり、惨劇の幕開けを意味する。
殺すぞ生理現象。


「……毒殺、ですか。あぁ、つまらない……。もっとこう、物理的な破壊衝動が欲しいですねぇ」

「黙れ。まだ誰も死んでないだろ」


 俺たち二人が足を運んでしまったココは、『王都グリフォン食堂』。
驚くべきことに、その正式名称は『王都グリフォン食堂』というらしい。
昔懐かしい暖簾をくぐれば、広がるのは昔懐かしい料理の匂い。
昔懐かしい木の椅子に、昔懐かしいカウンター席。昔懐かしさ溢れる食器。
あまりの昔懐かしさに、俺も存在しないはずの『あの頃』を思い出して、エモい汁が脳から出そうだった。
……こんな素敵な店が、のちのち凄惨な殺人現場(テアトル)と化すなんてな。
むずかし、悲しい。
俺は食券でとんかつそばセットを頼み、惨劇の匂いに心から満腹になるのだった。


「二名様ですね。あちらの席へどうぞ〜」

「『あちらの世界』に行くのは誰だか……ふひっ、ふへへひっ!」

「おいバイトの子にいちいち絡むな。殺すぞ」


バイト娘に促されるまま、俺たちは席へとついた。


……それにしても、またか。


「また便所際の席か」

「え?」


 俺は思わず、ため息を席と同時についた。
……これは異世界転生前からずっとの話なんだ。
俺が飯屋に行くと、案内されるのは必ずトイレの真横の席。
これは店側のアテツケか。それとも何かのメタファーか。──メタファーって、鋼なケンプファーって意味なのか。
おいおい。俺は飯を食いに来たのであって、排泄物に用はない。ハエじゃないんだぞ。
まったく、服に便所際の残り香がついたらどうする。
この野郎ってんだ。


「……一人で顔を真っ赤にプルプル震えてて、生理的に気持ち悪いですねェ……」

「気持ち悪いんだよッ!!!」

「いや、それは何に対しての怒りですか?」


この時の俺はまるでコップだった。
──「中身が空っぽ」ってわけじゃない。俺の手元のコップには冷水が入ってる。表面は水滴まみれだ。
────つまり、怒りのあまり、額が汗水でベチャベチャに汚れていたってことなんだ。
俺は怒りという名の腹痛を抑えるため、脱兎の如くトイレへと駆け込むのだった。


「なんだ、ちょうどいいじゃないですか。便所際の席で」

「黙れ!! 漏れそうだから話しかけんな!!! 下痢なんだよ!!! うんこ食わすぞゴミ!!!!」


「「「…………」」」


この瞬間、周りの客の冷たい目を、俺は一生忘れることができないだろう。




………
……


 半端ない排泄音から解放されると、世界は一段と違って見える。
賢者タイムにも似た冷静さが、俺の視点をクリアにしてくれるわけだ。
トイレから出た俺は、この店にいる客たちの本質に、コナン顔負けの鋭さで気付いてしまった。


「なんだ、みんな排泄物見る目で俺を見やがって」

「……メムメムくん、もうその下品なワードはよしましょうよ……。ここ、ご飯屋ですよ……?」


「………」 「……」 「……」


 まず俺の目に止まったのは、向かいのテーブル。
いかにも社長の秘書って感じのお姉さんが、そこに座っていた。
メガネに、服。そして、髪。
推察するに、年齢は大人だろう。
その女は味噌汁をまるでケンタッキーのように食べ、隣の脂ぎったおじさんと話をしていた。

……コナン譲りの推理が進む。
さしずめ社長と秘書。あるいはそのどちらか、といった関係だろう。


「こんにちは。いい食べっぷりですね」

「あ?! ちょ、ちょっとメムメムくん! なに不審者ムーブかましてるんですか!」

「え」 「……ごほん、何だね君は。悪いが今は大事な商談中で──」

「いやぁ〜味噌汁、美味しいですよね?タレがこう、甘くて。なんというか、優しい味というか」

「え、ええ。まぁ……そうですね」 「……」

「ところでお名前はなんですか?」


俺は古畑恭一郎譲りの絶妙なトーク力で、ごく自然に彼らの個人情報を引き出した。
秘書の名前は、ラガール・セレステュアイン(29)。
そして、社長の名前は、アストレア・コーポレーション(186)。
完璧だぜ。




 そして、次に目に入ったのは、向かいのテーブル席。味噌汁をつまみにワインを揺らしているおっさんだ。
……俺は正直、ブチギレ限界突破だった。


「〜~♪」

「おい、いい加減にしろよテメェ」

「え?」 「……ほんとコミュ力おばけすぎますよ。……死んでるって意味ですからね?」


聞いて驚くな。見て驚くなよ。
なんとそのおっさんは、昼間っからワインを飲んでやがったんだ。
俺は思わず、机を叩きつけそうになるくらい憤慨していた。

いいか?
俺の好きな飲み物は、『混ぜる』だ。
ファミレスで、コーヒーもコーラもカルピスも、ぐちゃぐちゃに混ぜて飲むのが、俺の流儀なんだよ。
それくらい飲み物に対して真摯に向き合ってるんだ。
……それに比べてなんだぁ?酒ってのは。なんで飲むのに喉乾くんだよ。
しかもここは飯を食べるところで、酒を飲む場ではない。
何より、異世界前のいじめっ子がほろよいを愛飲していたこともあり、俺はもう限界だった。


「おっさん、ここは飯を食べるところで、酒を飲む場ではない。何より、異世界前のいじめっ子がほろよいを愛飲していたこともあり、俺はもう限界なんだよ」

「え?」 「思ってること一々口にしなきゃいけないにも程ありますよ」


「……おいおいボーイ♪ 文句をミーに言うのはお門違いじゃないのかい?」

「「え?(ミー?)」」


「このワインはミーが持ち込んだものじゃない。お店が提供したものなのよ? 頼んだら持ってきた、それを飲みました。なんも悪いことじゃないのね〜ん! ホッホッホ〜!」

「……」

「それとも、ミーと一緒に宴会でもしちゃうかしら? あらや~~ね~~! ほほほほ〜」

「ぐっ……」


おっさんは、あまりにも隙のない正論を言ってきた。
言い返せない俺は、敗北という名の酔いに心を満たされていたのかもしれない。
おっさん──リーガル・タシュイント(49)。
その正論と、あまりにもステレオタイプすぎるフランスかぶれのウザさに、俺はなすすべがなかった。




 まぁいい。
こんなやつ、どうせそのうち死ぬ。
こんなバカに構ってるほど、俺は暇じゃないんだ。
俺の聞き込みはさらに進む。
最後に目に入ったのは、向かいのテーブル席で味噌汁をすすっている少女。
後の聞き込みで、名前はルガール・シェンタイン(13)だと知った。


「あのぉ〜」

「え……あ、はい……え……」 「……そんなコミュ力だからいじめら……あ、なんでもないです。すみません」


「お姉さん、天気とか好きそうですね。天気で好きな天気はなーんだ?」

「……え? あ、あの、えと……」 「なぜ、なぞなぞ形式なんですか?」

「(しまった。多分年下だから『お姉さん』ではねーな)俺は晴れ。理由は雨振らないからだ。お前は?」

「わ、私、ゎ……」

「は?」


俺はこの聞き込みを激しく後悔した。
パッと見でわかるのに、俺はなんてデリカシーがない男なんだ。
前髪で顔を隠して、おどおどして、俺と目を合わさないそのシェンタイン御嬢。
彼女はどう考えても、クラスの隅でハイキュー!!の同人読んでる系女子だった。
観察に目を凝らせば、服も黒い。あーいう子は判を押したように、闇に溶け込む黒い服なんだ。
……俺も、異世界前では『人と話すのが苦手界隈』の総帥だったというのに、なんてことをしてしまったんだ。
俺は申し訳ない気持ちで一杯だった。


「……ごめんな」

「あ、あの……すみません…………」

「……ごめん」

「いえ、す、すみません……」

「ごめん……」

「いや、それがあんたらの共通言語なんですか?」


俺の心の中の天気模様はマイナスイオンだった。





すると、どうだ。


「もう〜! さっきからメムメムだかツツゴウだか知らないけど、あんたら五月蝿いのねん! ミーのティータイムを邪魔しないでほしいの!!」

「その通りだ。私は今休息中だぞ。くだらない痴話喧嘩は外で……ごほん! ごほごほっ!!」

「あ、社長! 大丈夫ですか!? ……申し訳ありません皆様、社長は重度の病で……静かにしていただければ……」

「そうよそうよ! なにが『ここは飯を食べるところだ』よ!? あなた以外みんな食べてるのよ!! ねぇ〜社長さん〜〜」


「……君も君だよ、酒飲みくん。図に乗るな」

「え?」


「なにが社長さんだ。酒の席にすりゃみんな心を開くと思ったのか? このクズガキが来る前から、貴様はミーミーと騒いで絡んできやがって……なんだ!? 私に何の恨みがある!? 高血糖で死ねとでも言うのか!?」

「あ? 沸点w」

「なんだと?! ……待て、貴様の顔には見覚えがあるぞ。ライバル社の窓際族に、確かこんな顔の男がいた。……あぁいいよな、昼間から酒が飲めて! 貴族か! 不労所得万歳か!! はははは!!」

「……あー、これ頭まで糖尿してるわねん」

「……ちょっと! その言い方はなんですか!!」

「お前もお前でさっきからうるさいぞ! 秘書のくせに!! 女のくせに!!」

「……あの、それはさすがにないでしょう?」


「お客様〜……け、喧嘩はどうか……」

「黙れ店主! そもそもこの味噌汁、味が薄いぞ! 病院食か!w」

「あ? なんつった? え、やる? どした? やる?」

「もうッ!! いい加減にしてくださいってばッ!!! 」


 ……なんだか俺のせいで、店内がうごメモのカオスバトルみたいになってしまった。
客たちは低すぎる沸点の下、語彙力の限りを尽くして言い争い、今にも物理的な解決(殺人)が始まろうとしている。
おい、なんなんだこれは。
この喧嘩、俺が火種みたいになってるのが一番辛い。てか辛さを噛みしめることしか今はできない。
俺は、深い井戸の底に沈んだ、苔むした石ころみたいな気持ちだった。


ガヤガヤワーワー! ドンッ! ガシャン!!


「……メムメムくん、あなたの行く先々って、いつもこんな猿の惑星なんですか?」

「同情するな殺すぞ」


俺は喧騒という名の戦場を、ただ震えて眺めるしかなかった。



──その時だった。



「あ」

「あ、とは?」



──……園子だった。

……まさかだと思ったよ。


「おい、そこまでだ! 醜い喧嘩はやめろ!! いいか、よく聞け!!」

「「「え……?」」」


店内が、一瞬で凍りついた。
そこに立っていたのは、光り輝く装備に身を包んだ、この世界の良心を擬人化したようなイケメンだった。


「『喧嘩するほど仲が良い。つまり仲良くなりたくなきゃ喧嘩するな』──」

「──これは、俺の親友にして、伝説の賢者……『あめNま1に』が、かつて呟いた金言なんだぞ……!!」


「え?!」 「あ……」


「だいたい、そこのデカい声の放火魔! 火種はテメェだろ!何のんきに対岸の火事みたいな顔して──」

「……って、あめNま1にじゃねぇか!! おい奇遇だな!!!」


俺の大親友──ルガール・シュタイン君(16)。
彼がまさか、こんな店にいるなん……、


「お待たせしました〜。とんかつそばセットです」


おい被せんな。バイトのルガーレ・キリシュタイン(19)。





第四章
『腹が減っては戦はできぬ。それだというのに死の合戦は始まる』



「歩いてく〜歩いてく〜歩いてく〜〜♪ た〜ま〜には〜〜ひと~やぁすみ〜~~♫(223-8649-11)」

「だっは!!! 面白すぎるだろ!!! お前、今のオリジナルソングか!? 天才かよ、あめNま1に!」

「俺は歌を愛してるからね。魂が勝手にメロディを紡いじまうんだ」

「勇者は遊び心も卓越してんだな! 俺がプロデューサーとしてお前を歌手にしようか?! ははは!!」

「いやジャスラック表記見えてますからね」


 ごめんな、有吉。
『異世界転生した俺、有吉をパクりまくって毒舌王として内P復活無双しようと思います』、連載開始だ。
才能がないせいでパクリでしか個性を絞り出せない俺は、とんかつそばの汁を舐めながら、ルガール君と会話をしていた。
ルガール君は、本当にいい奴だ。
何を言っても、盲目信者のように肯定してくれる。
それでいて、悪意や野心は一切感じない。前世では得られなかった友情の輝きを、彼は見せてくれるのだ。
……はは、まるで将棋だな。しょーぎの有名人藤井しか知らないけど。


「……はぁ」

「……どうしたヒマリ。鳩が豆鉄砲クラッチヒッター」

「ただでさえ退屈なのにつまらないこと言わないでくださいよ。てか鳩の豆鉄砲顔、絶対知らないですよね」

「それはそう」

「はぁ……。期待外れです」


「……なぁ、あめNま1に。そもそもなんでこのクズと同席してんだ?」


 それに比べてこのクズ女はどうだ。
ルガール君の言葉は、ぐうの音も出ないほど正論だった。
世界を救ったこの俺が、下界のクズゴミのような女とマンツーという、異常光景。
俺はルガール君に「よくぞ言ってくれた」と、熱い同意の目配せを送ったものだ。

俺はこれまでの事のあらましを、涙ながらにルガール君に説明した。
すると、どうだ。
ルガール君は「最低以下のゴミだなコイツ」と、まるでジョジョのなんかのようなリアクションを見せだした。
(ちなみにこの比喩、なんか面白パロディ用いようとしたけど、ジョジョ読んだことないからできなかった)


「お前マジ終わってんな。言っとくけど、お前が勝手に仲良いと思ってるアイル、裏で超陰口言ってたからな?」

「……」

「自分クズだって自覚しろよ? そういうとこでお前の悩み作ってんだからな? 分かる?」

「ルガール君、そこまでにしてやってくれ……(辛辣な言葉のエミュ度高すぎんだろ)」


「……ふふっ。お言葉ですが、ルガールだかシュタインだか君。……それ、あなたが言える言葉なんです?」

「あ?」


「仲が良いんですねぇ〜〜メムメム君と。なんでしたっけ? ゴミのように追放したくせに、今さら擦り寄って復縁? そこまでしてまで『権力者の友達』でいたいなんて、まぁ〜〜素敵なビジネス関係ですねェ~~!」

「……て、てめ……っ」

「そりゃあ、彼は今や英雄様ですもんね? 捕まえておけば一生安泰の『玉の輿』ですもんね? あー、わざわざ友達のフリをしてあげるなんて聖人すぎます!──」

「──あなたに『クズ度』とは一緒縁のない測量値なんでしょう~~~」


「…………」


するとすると、どうだ。
ヒマリは得意の正論で、ルガール君の痛いとこを滅多刺しにしてきたのだ。
ラグジュアリーから取り寄せたかのような、一分の隙もない高級ロジハラだ。
ルガール君は、喉に撒菱が詰まったような顔をして、ぐうの音も出せずに震えていた。
……この女は、本当にジョジョの全犯罪者蠱毒にしたみたいなクズだった。

気まずい雰囲気(ふいんき)。
ルガール君が黙り込んで、反論しないその姿勢に余計俺の心がぶっ殺される現状。
……こうなると、いよいよ俺の出番となるわけだ。
まるで将棋。俺の『必殺技』、とくとご覧あれである。


「……メムメム君。もう帰りましょう。こんな陰気臭い店、殺人なんか起きても楽しく─」

「黙れ!! んっ!!」

「「え?」」


俺は、中指をヒマリの鼻先に突きつけた。


「……なんですか?それ。バカみた─」

「黙れ!! んっ!!」

「『んっ』って。そんな幼稚な─」

「黙れ!! んっ!!」

「……」


 見たかルガール君。
正論でまくし立ててくるうざい奴には、「黙れ、ん!」で終わりだ。
ファックサインを見せれば、どんなおしゃべりマンも必ず黙る。
異世界の民には知らんだろうが、この指には『理屈を全部スキップする魔法』が宿ってるんだ。
神様、人間に中指を与えてくれてありがとう。そしてお母さん、俺を五指満足に産んでくれて謝謝。
まるでクリスマスプレゼント貰った子供の如く、目を輝かすルガールくんを前に、俺は勝利の確信をするのだった──。


「え?……そんなこの紋所が目にはいらぬかみたいに出されても、恐れ入ったりしませんよ」


俺は、サンタがラブホのバカップルにコンドームプレゼントしたような思いをした。



──その園子だった。



「ぎぃいっ!!! ぐ、ぐおぉぉぉっ!!!」

「しゃ、社長ぉ……!?」「社長、どうしたのねん!?」

「お客様ぁ!?」


 向かいのテーブルから、夢グループとQVC福島のコラボみたいな悲鳴が聞こえる。
振り向くと、あのナンタラカンタラという社長が、胸をかきむしりながら苦悶していた。
目は血走り、口元からも血走り。
名古屋走りかの如くのた打ち回った末、社長の最期は凄惨を極めた。
──めきりっ。じゅぶ、じゅるぅ……っ!
倒れた拍子、運悪くテーブルの角に眼球をめり込ませ、ゼリー状の蛋白質をぶち撒ける。
その反動で椅子の背もたれに後頭部を強打。
なにか恐ろしい地獄の幻覚でも見るかのように、残った方の目を見開き、


「な、なっ……」

「ひっ……!」


……そのまま、ぴくりとも動かなくなった。


「い、いやぁあああああああああああああああああああ!!!」


……やれやれ、いつもこうだ。俺が何をしたっていうんだ。
絶句するルガール君に、皿を落とすアルバイト。そして客たちの悲鳴が木霊する、阿鼻叫喚の地獄絵図。
こうして幕を明けた、名探偵メムメムによる──『第一の事件』。
惨劇開始のサイレンが鳴り響く中、出囃子を勤めたのは他でもない。
──ヤツ。


「し、し……」

「ヒマリ、やめろ。そんな声を──」


「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ッッッ♡♡♡♡」



ヒマリ助手の、鼓膜を突き破らんばかりの雄叫びとともに、
俺のコナンで見たことがある気がする名推理が、いま開始するのである。





第五章
『トリックとアリバイ』


「ええ、私の名前はハンニンハ・M・デスですが……」

「ぶふっ!!! ……そ、その、一応確認ですけど……ミドルネームは?」

「ええ、『モチロンワタシ』です」

「っっ!!!! ……!!!!w」


俺は店主への聞き込みを途中で放棄し、脱兎のごとき勢いで店外へ飛び出した。
そして一頻り大爆笑したのち、俺は何事もなかったように現場へと帰還した。




「えー被害者はアストレア社長。死亡推定時刻は午後二時。死因は、まぁ毒殺……ですかねぇ」

「あ、すみません警部。社長は重度の糖尿病でして」

「あーなら自然死かもしれんな。ほら鑑識、撮って」

「はい」

パシャパシャ


 俺は今、コナンのBGMで脳が溢れかえってkる。
刑事のレスリー・ニールセン(59)と、鑑識のやつ(28)が死体で写真撮ってるこの場は、まさしくコナンの『いつもの光景』そのものだった。
……哀れな社長。すまねぇ。
被害者の無念を晴らすべく、俺は絶対この難事件を解決する決意をするのだった。


……しかし、難しいな。
これは確実に殺人事件。
被害者がとーにゅーびょーだからといって、死があまりに不自然すぎる。
となると、容疑者は俺、その他の計何人かに絞られるが……果たして誰が。
誰が、どうやって、毒を……。


「おや〜? こ、これは……あの名勇者、あめNま1に・ぱぱぱーーみょさんじゃないですかぁ!!」


不意に、鑑識がクッソうぜぇ絡みをしてきた。


「そうだよ。俺が、ぱぱぱーーみょだ」

「あ、あなた様のような高貴な方が、何故こんなチンケな店に?」

「チンケって言うと店のヤツに悪いよ」

「あぁこれは失礼〜。ははは!」

「む。なんだ鑑識くん、誰だねこの少年は」

「……警部、ご存じないのですか?」

「あ? ……その態度、何? え、お前、俺が上司なの忘れてる?」

「…………」


おいおい警部、キレるポイントはなんなんだ。
借りてきたバカのようにおとなしくなったへっぽこ鑑識に代わって、一歩前へ堂々と出たのは、なんとルガール君。


「おいおい知らねぇのか。……警察ってのは新聞も読まねえ世捨て人の集まりなのかね。へっ」

「……あ? なんだテメェ……」

「このお方はな!! あの魔王ヘンゼルを倒し、そして世界を平和にしたヒラメキ王──あめNま1に・ぱぱぱーーみょ!! その人なんだよ!!」


「「「え?! な、なんだってぇぇぇ!!?」」」


「な! あの伝説の『ぱぱぱーーみょ』が!? 本物なのか!?」

「え? あー、うん。まぁ……そう」


周囲の警官たちが、一瞬で掌をドリルのように回転させ、尊敬の眼差しで見つめてきた。
素晴らしいイリュージョンだ。
まるでドブ水をワインに変えたキリストさながらだな。


「いや待てよ。……なら、その伝説級の知力でこの事件を解決できるんじゃないのかね?!」

警部は言った。
おい、さっき自然死と断定しただろ。


「そうですよ警部!! これで彼の伝記にまた一ページ……ですな!」

鑑識は言った。
その伝記、俺にも印税貰えるんだろうな?


「よし!! そうとなったら任せたぜ!!!」

ルガール君までもが、親友という名の責任放棄を発動させた。
説明では省いたが、横にいた秘書も、フランスかぶれも、陰キャ少女も、そしてハンニン(笑)までもが、恐ろしい連帯感で首を縦に振っていた。
「うん、このバカなら任せられる」
そんな心の声が、コーラスのように店内に響いた気がした。


「解決、楽しみにしてるぞ!!」


そう言って、警部たちは風のように現場から去っていった。
……おい。なぜ、俺を孤立させた。
恐ろしいほどのテンポの良さにより、俺は血生臭い店内にポツンと取り残された。




「うーん困ったなぁ」


 ぽつんと取り残され、死体とにらめっこをする俺。
『名探偵コナン』は全巻読破しているが、推理力なんてハナクソほども持ち合わせていない俺は、人生最大級に頭を抱えていた。
容疑者は五人。
しかし、酒飲みと秘書と陰キャにはアリバイがある。
となると、毒を混入できた人物は、あのアルバイトか、それともハンニン……ぶふっ!!!wwwwww

……失礼。
消去法でその二人に絞られる。
そうなると、必然的にハンニン(笑)は「あまりにもそのまんますぎる」という理由で除外され、真犯人はアルバイトとなるが……証拠が一切見当たらない。
一体どうやって毒物を、いや、なにに毒物を入れたと言うんだろう。


「──そうか、『味噌汁』か!」


……あいにく、俺には例の『テロリーン♪』が鳴らなかった。殺すぞ音響監督。
なるほどなるほど。面白い。
確かにあの社長は、味噌汁を飲んでいた。
配膳の際か、あるいは事前に毒を仕込んでいたと考えるのが自然だ。
俺は証拠を掴むため、厨房に忍び込み、残された味噌汁を「ペロッ」とやるのだった。


 ペロッ

 テロリーン!

「味噌の味……!」


おい、何も閃いてないときに鳴るなSE。マジ殺すぞ。
コナン曰く、青酸カリはアーモンドの味がするらしいから、ロッテ的な味がするかと思ったが、飲んでも飲んでもワカメの風味しかしない。
クソ……分からない。
これで証拠つかめて一件楽々かと思ったのに、また振り出しからじゃないか。
……てか、振り出しっていうほど推理してねーしな。

助けてくれ、青山剛昌先生……。
あなたは一体、どうやって締め切りまでに数々の難事件を解決させてきたんですか。
……教えてください。


テロリーン!テロリーン!テロリーン!テロリーン!テロリーン!テロリーン!テロリーン!テロリーン!

「くっ……」


考えれば考えるほど、頭は無駄なことばかり考える。
俺の脳内は今テロリーンの無限ループだ。
……一体、誰が……どうやって……。
そんな、悩める子羊と化した俺の前に……。


──ガチャッ


……訂正。やっぱ俺羊扱いとかやだ。
そんな悩める超銀狼王・ポンタウルフ《カイザー・オブ・ジ・エンド・オメガ》の前に……トイレのドアが開く音がした。


──ガチャッ


「はぁっ、はぁぁっ……! っ、ふぅぅ……ッッ♡ あぁ、たまんない……ッ! ……なに、え? ど、どうしましたかぁ///メムメムくぅん」

「あ。……クズ」


IQ225の怪女が姿を現したのは、この時だった。
……トイレで何をしてたかは、俺は絶対言わないしそもそも想像したくない。


「ふ、ふふっ……ふーっ。……あー、簡単すぎて、逆に萎えちゃいますねぇ」

「あ?」

「ヒントは……『インシュリン』ですよ!」




第五章
『真相編~その探偵は推理もろくにできない』



突如として室内に爆音のジャズが鳴り響いた。
誰もが知る、──あの名探偵のテーマ曲である。


テェェェテェェェテェェェテェェェレレレェェェェェェ!!!!!!!!

「えー、皆さんに集まっていただいたのは、他でもありません」


静寂は一瞬で吹き飛んだ。
「もう解決したというのかね?!」「だ、誰が?!」「っていうか曲がうるせえよ!」
野次と困惑が入り混じるなか、俺はさらに音量を上げた。


テェェェテェェェテェェェテェェェレレレェェェェェェ!!!!!!!!

「犯人は……このなかにいるんです!!」


テェェェテェェェ!!!!
『ぅ゙づむ゙ぐぅううう〜〜~~ぞの゙背中に゙〜~~~~〜♬』



 お気に入りの主題歌を最大音量で垂れ流し、準備は万端。
中身は空っぽ、カンペは完璧。
俺はヒマリから渡された紙──正解をただ音読するために、堂々と口を開いた。



──《回想》。
──ヒマリのクズは、飛び散った眼球を熱心に観察しながら、俺に説明してみせた。

──「まず毒物ですが、いやぁ良薬口に苦し」
──「ことわざじゃん」
──「ええ、それがなにか? ……ともかく、毒も煎ずれば薬となる。ええ、『インシュリン』ですよ!」

──つまり、それが凶器のようだった。


「えー、とくぶつのふじげんですがー……げふん。凶器は、いんすりん(?)なんですぅー(棒)」

「え?」 「インス?」 「おい勇者様よぉ、なんで紙読みながら推理してんだ?」



──《回想》。
──ヒマリのクズは、厨房のゴミ箱の上に腰掛け、話を続ける。

──「インシュリンは心臓を抑えるため使用されるものですが、……その匙加減を間違えれば、まさに死神の鎌となる……」
──「お、かっこいいな」
──「でしょう? ……ともかく、被害者が糖尿病だった点! そこに狡猾な犯人は目をつけたんです!」


「インスリンはー、こころぶをほえるためー、しようされるものですが(棒)、……読めねパス。えーと、死神の羽となる……??」

「死神の羽?」 「闇落ちセイバン?」 「だから! 何読んでんだよお前は!!」



漢字が難しすぎて、俺は推理披露を完遂できるかという深刻な不安に陥った。
何故フリガナを振らない? あの女は普段サンデーを読まないのか? まったく……。
しかし、俺はひるまない。
ヒマリが書いたその紙が、俺の全知全能だからだ!!


──《回想》。
──ヒマリのクズは、なぜか自分の胸をやたらと強調するように抑え、鼻息を荒くして推理を続けた。
──ハナクソの大きさ比べしてる俺を傍らに、彼女はペンを取り出す。

──「ではそのインシュリン。どこから手に入れたか……」
──「お?」
──「ええ。もうお分かりですよね? 社長の身近にいて、一番容易に薬を盛れる人物は────」


「いんしゅしんー、ええわかりましたよねーー。しゃちょーのみぢ……あ、じゃあ犯人秘書じゃん!!」

「え?!」 「な、何を根拠に……! わ、私は違います!!」 「“じゃあ”ってなんだよ」



──《回想》。
──ヒマリのクズは、完成したカンペを見せつけながら続けた。

──「そう、犯人は秘書……」


「……とゆーわけではなくー(棒)」

「え?」 「は?」 「二重人格?」


──《ラスト・回想》。
──回想もいよいよフィナーレだ。
──ヒマリのクズは、死体の眼球痕にみそ汁を流し込みながら冷徹に続ける。
──俺も負けじと、味噌汁鍋にゴキブリを入れながら、その名推理に聞きほれるのだった。

──「上手いものですねぇ。うざい社長を抹殺し、秘書に罪をなすりつけて会社を終わらせる」
──「ねぇ。社長の秘書、『重い病』としか言ってないのに、あの人、すぐさま『糖尿病』と決めつけて」”
──「そもそもフランスかぶれがワイン飲んでるのがおかしいんですよ。ワインはイタリアの酒ですよ?」

──「……ハハハ。ワインってインシュリンの添加剤、アミノ酸が豊富らしいですよねぇ?」


「読めねぇパス! 読めねぇパス! 漢字死ね!」

「「「は?」」」


──《ラスト・回想の妹》。
──……ここまで来れば、もう犯人像は明らかだろう。

──「……これに、全てが書かれてるってわけだな」
──「ええ。私の代わりに頑張ってください、哀れな傀儡人形さん」

──ヒマリは自信たっぷりな笑みを浮かべ、カンペを俺に押し付けると、煙のように厨房へ隠れていった。
──……ありがとうヒマリ。
──君は天才だ。IQなんて俺の100人分だ。
──ここまで神推理をしてくれた君に、俺がするお礼はただ一つ。

──「……平日午後に酒飲む落伍者が、身なりいい時点でおかしいんです」
──「ねえ?」

──……『令和の毛利小五郎』として、高音質スピーカーを勤め上げるだけだ!!



「犯人の………ルガール君!!! お前はクズだ!!!」

「いや死んでくださいよこのド低能がぁああああああああああ!!!」


バシンっ。
痺れを切らしたヒマリの強烈なツッコミが、俺の後頭部を捉えた。



──《回想》
──「つかお前自分で読めよ。なんで人に推理させんだ」
──「そ、そんなの……! あがっちゃって、恥ずかしいからに決まってるじゃないですか……っ!」




ききぃーーーどぉん!!(コナンのcmの扉)

後半に続く。




最終章
『鮮血の結末──異世界探偵であるということ。』



「……嫌な事件だったな」

「……ええ、ほとんど『あなたの手柄』ですがね」


 数日後。
俺とヒマリは学校の屋上で、沈みゆく夕陽を眺めながらエモい空気に浸っていた。
……忘れられるか。あの凄惨な事件は。


“……あぁそうだ!! 俺がやったんだ!!”


 追い詰められた犯人のルガールは、涙ながらに色々話した。
たとえば過去とか、色々、色々、色々、色々、色々なこと。
俺は眠気を堪えるためスマホで『犯人の犯沢さん』を見てたから、何の話かさっぱり理解できなかったが、とにかく可哀想なことは分かった。


「……怒られちゃいましたね。刑事さんに」

「ああ……」

「でもまさか、フランス支社への出向命令が殺意に変わるなんて。……くだらない。あまりに安っぽいドラマですよ」


ちなみにヒマリも真顔でスマホゲームしてた。
……俺ら二人は、周囲の警官からあからさまに嫌な目で見られていたと思う。いやマジで。
だが、結局モヤモヤするのは、犯人が最後になんて言っていたか全く覚えていないことだ。
まさしく「真実は闇の中」ってもんだぜ。
毛利小五郎みたいに寝て解決しないだけ、俺は立派なもんだ。


「しかしお前、ほんとクズだよな」

「……ええ。褒め言葉です」

「褒めてねーよ」

「いいえ褒めてますよ。『クズ』程度の罵倒で収まるような悪行じゃありませんから……私の発言は……」


 まぁ、真相とかどうでもいい話はどうでもいい。
一番胸糞悪かったのは、犯人が連行されようと手を差し出した時の、ヒマリのゴミクズボゲ外道な態度だ。
ああ、そうだったよなぁ、ヒマリ。
テメェは償いなんて言葉が嫌いな、自殺愛好家だったもんなぁ!?


“償う? この場に及んで法に裁きを委ねるのですか? いい歳こいて、自分の撒いた種の処理も国税に任せるんですか?”


「え?」──
あの時、ヒマリは冷ややかな目で、連行されるルガールを鼻で笑った。
そしてわざとらしくため息をつき、髪を耳にかける。
その仕草には、微塵の憐れみもなかった。


“復讐? 知りませんよそんな低次元な感情。”

“その社長さんも、愛され、愛し、誰よりも社会に貢献して──復讐ごときで潰されるような適当な人生じゃないでしょうに。一時の身勝手な理由で殺して。はた迷惑なリーガルさんですね”

“私、怨恨殺人って大嫌いなんですよ”
“そのくだらないトリックを練る知能があれば、法に則った合法的な復讐をすればいいのに”
“なぜやらないのです? 短絡的ですねぇ。原始人ですか?”


「おいこれ以上はやめろ!」──
刑事の一人が制止しようとしたが、ヒマリは意に介さず言葉を続ける。


“短絡なら短絡で、最期も締まりよくしてください。償いましょうよ。

“……『どうやって』とは言いませんが”


“ほら、ナイフがあなたを呼んでますよ?”

“……ナイフが『なに』をしてほしそうに見てるかは、……言うつもりありませんがねぇ”


「…………っ!」──と。
リーガルは地に膝をつき、壊れた人形のように呟いた。
「……この世って、絶望しかないよな…………」──
実質敗北宣言に等しいものだ。
だが、最期までヒマリは、絶望に沈む彼を弄ぶような言葉を投げかけた。


“え? 希望はありますよ? あなただってどうせこれまでの人生、いいこと一つもなかったわけじゃないでしょうに”


『希望』という名の絶望を注入され、顔面を土色にしたリーガル。
対して、勝者の余裕で笑いを堪えるクソ女・ヒマリ。
……俺はもう、コイツの性格の悪さに限界だった。
……人なんて、もう誰も死んでほしくなかった。

…………名探偵として、俺のやることは一つのみ。


──俺は耳がぶっ壊れるほどの爆音で『サンボマスター』を流した。


ヂィィイドガガガガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア────!!!!!


 「世界をかえさせておくれよ」なんて熱い叫びが、血の匂いが充満した店内に不釣り合いに響き渡る。
そして同時に、俺は犯人をぶん殴り、味噌汁鍋にナイフをぶん投げた。
自殺だと?絶対、俺はそんなことさせねぇ!
生きてりゃいいことはあるんだ!
俺はそれを信じてたから、これまでの辛いいじめ生活も耐えてきたんだ!
それだというのに……命を粗末にする奴は汚点道様が許しても、この俺が許さねぇぞ!!


“え!? ちょ、筒香君……!? な、なにを──”

“あきらめんなおぉおおおお!!! どうしてそこで諦めんだ!!! 北京だってシジミだってお米だって頑張ってんだろ!!!!”

“もっと、熱くなれよぉおおおおおおおおおおおおお!!!!!!”


俺は涙ぐむ犯人へ、必死にネットの海で拾った名言を突き刺したものだった──。



「で、結果自殺……ですか。……私一人では力不足だったかもしれないものを、本当にありがとうございます」

「殺す。マジでてめぇ、いつか絶対殺す。探偵とかもう知らねぇ、とりあえず殺してやる」


 空はどこまでも赤い。
一人の人間が死に、名探偵()が誕生し、一匹のクズが絶頂した──あの日。
こんな胸糞悪い事件……。
あの空を切り裂く飛行機雲が、全部連れ去って、宇宙のゴミ捨て場にでも不法投棄してくりゃいいのにな……。

俺はとんかつそばの、あの伸びきった麺の感触を思い出しながら、真っ赤な世界に唾を吐いた。





エピローグ
『俺の第二の人生も、悪くないのかもしれない』


……とまぁ、ここまで散々お気持ちを表明してきたわけだが、正直なところ俺はまんざらでもない。
というか最高。
例のキモい事件を解決したおかげで、今の俺はハーレム状態でウッハウッハだ。
元々そこそこ人気者だった自負はあるが、今や「俺、宗教でも開いてんの?」ってレベルで崇拝されてる。
……可哀想になぁ、元の世界で俺をイジメてたバカ共。
アイツらが血眼で進研ゼミの赤ペン先生と格闘してる傍ら、俺は異世界でハーレム最強チート生活を満喫中。
まさに天地の差、マウント取り放題だぜ。


「あめNま1にくーん! 今日の放課後、この前の事件の推理の続き聞かせてほしいなっ♪」

「事件もいいけどまず風呂からだろ? ベイビー」

「あ、でもその前に一緒に王都行かない? 新作のカフェできたんだよね」

「カフェか。俺はいつもの最高級エスプレッソを嗜もうかな」

「あめNま1に!! 俺、お前と友達でほんとよかったぜ!!!」

「これはこれはルガール君。友達? 馬鹿なことを言うな。……『兄弟(ブラザー)』、だろ?」

「「名言きた!! すごーい!!!」」 「あぁ……お前は天才だぁ!!!」


「……やれやれ、愚かな住民共が。ははは」


勿論、不満はある。
かのメス豚・ヒマリは今でも俺に執拗に絡んでくる。
嬉ションを漏らす子犬のようにしつこいソイツは、今日も今日とて俺に「死体が~」「事件が~」と火照る体の消火をせがってくるのだ。
……まったく、呆れたクズめ。


「……あ、あの……メムメムくん!!」

「あ」 「……うわ、また?」 「……キモ」

「……なんだね。僕は忙しいんだ、君の相手をする時間は、ドブに捨てる時間より価値がないんだよ」

「う、あぅ……じ、事件…………」


だが、それがどうした。
今でも俺の『死の体質』は変わらんが、それを受け入れるのもまた、勇者としての運命ってもんだろう。
俺はこのバカに恐れることはない。

……フフ。
むしろ、今では『いじめる』側だよ。


「仕方ないなぁヒマリくぅん……。一回きりだよ?」

「え?」

「あ、これw」 「きたきたw」 「やっちゃおうぜ!」

「せーの!!」


「「「「ヒマリは、いつも一人wwwwwwwwwww!!!」」」」


「「「「だーはっはっはっはっはっはっはっはっはっは!!!!!wwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww」」」」


ヒマリの泣き顔を背景に、俺はニヒルに笑った。
この異世界がどんなに理不尽で、俺がいつ死ぬ運命にあろうとも……真実を追い求めるのみ。
俺はこの、破滅的でエモい推理の主役を、死ぬまで降りるつもりはない。
バカで友達のいない助手と共に、全ての難事件を解決するまでだ。

なにせ、『迷宮入り』はごめんだからよ────。
…………異世界ファンタジーのダブルミーニングにかけて!


◇ 本文

(完)


◇ あとがき

どうも、五味葛葉です。
なろう作品ってよく、「いじめ描写だけやたらリアルで筆乗ってる」とか言われてるじゃないですか。
それ聞くたびに思うんですけど、なら該当作者さんはなろう書かずに少女いじめ系小説出してほしいんですよね。
それなら僕、読むんですけど。

なんてか、こう、無理して特定のプラットホームに自分当てはめなくてもいいんじゃないかと。
自分の衝動が向いている場所にまっすぐ投げるっていうか。
作品って、本来そういうものなんじゃないかなと。それが僕の持論なわけですよ。
まぁ、僕が単にひねくれ者なだけなんですがね。

つまり、何が言いたいのかというと、誰か『無垢の祈り』をアニメ化してください。

(2026年2月28日、完結をここに記す。)
(五味葛葉)
最終更新:2026年03月01日 11:28