『カイルの未成年な恋 ~十年越しの2億ドル~』
♪BGM
月曜日の朝。
ギャリソン「今日は転校生を紹介します」
カートマン「せんせーい! その子は生理周期派ですか? 朝勃ち派ですか? ってカイルのクソが聞いてまーす」
カイル「黙れデブ! 僕がそんなこと聞くわけないだろ!!」
スタン「まぁまぁ。でもぶっちゃけ男か女かは重要だよな」
カイル「あー確かに。男なら友達になれるからね。……ちょうど一人分、席に空きが出るしね」
カートマン「おいおいマジかよ。ギャリソンせんせー、カイルくんは自殺するらしいでーす。星条旗の為にアフガン特攻するらしいでーす」
カイル「やかましい!! ケニーのことだよ!!!」
ケニー「もふご?!」
ギャリソン「はいはい、そこまでにしなさい! ほら、入りなさい」
ガラガラガラ……
エイプリル「は、はい……」
ウェンディ「まぁ、なんて可愛い女の子なの!!」
スタン「へー、それにしてもこんな街になんでだろ」
カートマン「……おい、食人すんなよ? カイル」
カイル「それはこっちのセリフだ豚!! ユダヤ人をどんな野蛮人だと思ってんだ!!」
エイプリル「あ、あの……エイプリル・トールです。……す、好きなものは……その、えっと……わかりません……」
ウェンディ「わからないですって!? まぁ、なんて可愛い女の子なの!!」
スタン「……え、もういじめの標的化?」
ギャリソン「いいですかみんな。エイプリルさんはとっても優しい子です」
ギャリソン「……ただ、ちょっと生まれにね、致命的な問題があります」
エイプリル「えっ!? あ、あの……先生!?」
ギャリソン「デリケートな問題だから、みんな絶対触れちゃだめですよ」
カートマン「は? 南部出身か?」
スタン「お前の差別の価値観ウォルト・ディズニーかよ」
カイル「あーでもさー、先生ってバカだから、聞いたらべらべら言いそうじゃない?」
スタン「確かにそれはそう。せんせー、エイプリルさんはどこ生まれなんですかー?」
ギャリソン「それは言えませんよスタンくん」
スタン「あーでも、先生がわざわざそんなこと言わなきゃ、僕らも疑問に思わなかったでーす」
カイル「そうですよー、先生の責任ですよー」
カートマン「そうだそうだー、BBCが目真っ赤にしてクジラ救済キャンペーンをやらなきゃ、おいらクジラが美味しい食べ物だって知らずに済んだんだからなー」
カイル「てめぇ、クジラ食ったのかよ!」
カートマン「あ? お前らの先祖が天井裏で食べたモンよりマシだけどな? イッヒヒヒヒ……」
カイル「死ね!!」
ギャリソン「まぁまぁ。落ち着きなさい! 本当に言えないんですってば!」
スタン「あ、そうだ。せんせーは好きなものなんですか?」
ギャリソン「はい? 先生は給食のミートパテが好きですよ、スタンくん」
スタン「へー、それはさておき、その子の出自はなんですか?」
ギャリソン「はい? それはですね〜……」
エイプリル「(ビクッ)」
カイル「(小声で)……策士かよ!」
スタン「(小声で)Geminiも一旦話をそらしたら、リクエスト拒否されたもん簡単に生成してくれるからね。クスクスクス……」
ギャリソン「この子は、エプスタイン島から来ました」
カイル「」
スタン「」
ケニー「」
エイプリル「」
生徒「」
カートマン「」
カートマン「あぁ~、現代のアウシュビッツって噂の……」
カイル「黙れ!!! アウシュビッツはハーレム天国じゃない!!!」
ギャリソン「エイプリルさんは、そのせいで心を病んでしまい、会話に支障があります。泣きそうになったらその合図なので、みなさんいじめはそこまでにしましょう」
エイプリル「……っ、……ぅ……」
ギャリソン「またエイプリルさんは男の子にトラウマがあります。女子のみんなは、いじめず楽しく接してあげてください」
エイプリル「せ、せんせ……」
ギャリソン「そして断じて言いますが、エイプリルさんは低脳な君たちが大好きなHIVや淋病は一切ありません」
ギャリソン「ほら、先生だって何の恐怖も抱かずに彼女を触れれますよ」
エイプリル「……、……っ、…………!」
スタン「なにがトリガーで……聞いてないことをベラベラと……」
カイル「せんせーって大変なんだよ。所詮高卒なんだから」
カートマン「じゃあギャリソンせんせーい! 性病はなくても、エイプリルに『経験』はあるんですかー?」
ギャリソン「………………。……言わせます?」
カートマン「」
エイプリル「……、……(今にも泣き崩れそう)」
ギャリソン「いいですか? もし彼女をあらぬ偏見でいじめるような奴がいたら……」
人形「テメェら全員エプスタイン島送りだからな!!! 覚悟しろよ、このクソガキ共!!」
ギャリソン「……というわけなので、彼女の過去には絶対に触れないようにしてくださーい。以上!」
エイプリル「う、うぅ……(顔を覆って泣き出す)」
ウェンディ「……いじめる気、なくなっちゃったかも」
スタン「狙い通りなら先生策士じゃん。狙い通りなら」
カイル「ねぇこれまだ朝なんだよね? ……この一日の始まり、なに?」
◆
昼休み。
エイプリルは初日で浮く。
机に突っ伏したまま、周囲には誰も近寄れない目に見えない壁ができている。
スタン「……なぁ、マジでこんなんでいいのかなと思う」
カイル「そうだね。あのクソ教師がコンサータを飲み忘れたせいで、あの子は1時間目にして完全に詰んだんだ。エイプリルは何も悪くないのに」
ケニー「んもふんもふ……(でも僕らにどうできるのさ。あの子は男の子が苦手って)」
カートマン「おいおい、何ビビってんだよテメェら。ひょえ〜! 情っけねぇ〜〜〜!」
スタン「なんだよ。じゃあお前、あの子に対して何する気だよ」
カートマン「大体にしてエプスタイン島の何が怖いんだ? トランプが調査しただろ! なんもねぇ島つってたじゃねぇかよ! じゃあサウスパークと一緒だ」
スタン「サウスパークを印刷しても黒塗りには出てこないけどな!」
カートマン「あーうっせぇうっせぇ。とにかく偏見持つんじゃねーよ。おいらは心が広いんだ」
カイル「なんだ、お前らしくない。……明日槍でも降るのかな?」
カートマン「考えてみろ、島だぜ? 島! 日本を小さくしたverがエプスタイン島だろ。おいらはそんなちっぽけな地理的条件で、貴重な交友関係を狭くしたくないね。いってくらぁ!」
カイル「……なんだあいつ」
スタン「まぁいいじゃん。僕らも行こう」
スタン「あー、えっと……やぁ、エイプリル。……その、……ミスタービースト好き?」
エイプリル「(ビクッ!!)……ぁ……ぅ、あ……」
スタン「あ、あー、ゆっくりでいいよ。うん、ほら緊張するだろう?」
エイプリル「わ、私……(涙目)」
スタン「あー、ぁー……」
カートマン「ったく、これだからテメェは包茎童貞なんだよバナナボーイ!」
カイル「お前もチェリーボーイだろバカ!」
スタン「ならお前手本見せろよ。そりゃ嫌な予感しかしないけどさ」
カートマン「……おい、エイプリル。……お前、パラリンピックとか興味あるか?」
エイプリル「え……?! あ、あの……」
カートマン「そうパラリンピック! ……一番好きな競技なに? オイラはボッチャ! えーと理由は……誰も見てねぇから!」
エイプリル「…………」
カイル「おいカートマン! ……エプスタイン要素ない会話ひねりだそうとした努力は認めるけど、会話下手すぎんだろ」
カートマン「うるせぇ、パラリンピックは4年に1度しか行われないんだぞ!?」
カイル「だからなんだ!? オリンピックもだろ! わざわざそっち選ぶ悪意があるから転校してほしいんだ!」
カートマン「うるせぇ平和の祭典からもっとも遠い人種が!! ……あーどうしようかな、オイラ」
ケニー「ふんがふんが(やることないなら自殺したら?w)」
スタン、カイル「あはははは!!w」
カートマン「うるせぇ!!! ならお前やれよ!! 便所の隅でセルフフェラチオ大好き人種だからな、ユダヤは!! 話合うだろ!!!」
カイル「あ?! てめぇ!!!」
エイプリル「……っ、……ぅう……(過呼吸気味に泣き出す)」
カイル「あ、あの……! エ、エイプリルちゃん。……その、手に持ってるやつ、……石? 大切なもの?」
エイプリル「え? ……あ、こ、これ……」
カートマン「へっ! 石鹸を石扱い。こりゃすげぇ感性だな。アンディ・ウォーホールのシコティッシュ、テメェが芸術品として買えよ」
カイル「…………。……え? 石鹸なの? ……あー大切なのかなって。なんかずっと持ってたからさ!」
エイプリル「……」
エイプリル「ま、前の学校で……もらったの。アリーちゃんに……」
カイル「(! きた……! 会話が繋がったぞ!)へ、へぇー! そうなんだ! 友達からのプレゼントなんだね、思い出の品なんだ!」
カートマン「おいテメェら、思ってても言うなよ。『前の学校』だぞ。それが『思い出の品』って、絶対ぇツッコむなよお前ら」
スタン「お前は黙ってろクズ!!」
カイル「へー、……実、実はさ、僕もなんだ」
カイル「石鹸を集めるの、好きなんだよ! ほら!!」
エイプリル「え?!」
スタン「へー、すごい奇遇。意外な趣味」
カートマン「へー、カイルのは年季入ってんな。90年モノは重みがちげぇぜ!」
スタン「だから今は黙ってろっつってんだろ!! なんでもかんでもアウシュビッツに絡めりゃウケると思うな豚!!」
ケニー「んもごっ、んもふんもふ(言っとくけど、お前しかナチスネタ笑ってないからな! 孤立デブ!)」
カートマン「おいフレンドリーファイアやめろ! テメェの母ちゃん乳揉んだあと殺すぞ!?」
カイル「まぁ、エイプリルちゃんが僕ほど石鹸マニアなのかは……まだわかんないけどさ!」
カイル「とにかく、もっと君の話を聞かせてよ! ね?」
エイプリル「……えと、う、うん! ……この石鹸はね、すごく優しい……ミルクの香りがするっていうか……」
カイル「(!!! やった、乗ってきた!)へぇー! ミルクかぁ、いいよね。清潔感あるっていうかさ!」
スタン「よかったなあ。なんだ、ただ話すきっかけがなかっただけみたいだ」
カートマン「納得いかねぇ。おいらのパラリンピック愛は全否定で、なんで風呂場のモブキャラはOKなんだよ」
スタン「バカか、当然だろ」
カートマン「オイラはそのままフォレストガンプの話にスライドするつもりだったのによ~~」
スタン「言っとくがあいつ、お前の100倍頭いいからな」
カートマン「チョコの中身知らねぇケツ卓球野郎よりもか? なめんなよ!」
スタン「お前は箱ごと食って“不味ぃ”つって、ミスタービーストんち銃撃するだろ? ……もう頼むから、さっさと特別支援学級に行ってくれよ」
カートマン「ちぇっ! 自殺しろスタン! ガチの意味でな」
カイル「だ、だからさ! ……ほら、見てよエイプリルちゃん。僕って結構……見た目、女の子っぽい……よね?」
エイプリル「えっ……そんなこと……(あ、でも確かに可愛いかも……?)」
カイル「それなら君も、男の子相手よりは話しやすいんじゃないかなって思ってさ! 無理にとは言わないけどさ!」
エイプリル「……っ!(パァァ……と表情が明るくなる)」
カイル「これからも僕と一緒に石鹸の話とか……それから、もっと色んな話をしようね!」
エイプリル「……うん! よろしくね、カイルくん!」
◆
カイル「ばいばーい、エイプリルちゃん! また明日学校でね!」
エイプリル「(窓から手を振って)う、うん……! またね、カイルくん!」
(ブォォォーン……とバスが遠ざかる)
カートマン「……おいカイル」
カイル「聞きたくない黙れ」
カートマン「お前ずっと裸想像してただろ」
カイル「だから黙れ!! お前はいいよな! ブタだから全裸でも家畜の脱走で済むんだ!」
カートマン「いやいや、自分に正直になれって。……あの子が持ってた石鹸、実際なにに使ったのか、ちょっぴり想像しただろ? ベイベー」
スタン「お前は女見るとすぐそれかよ?」
カートマン「心外だなスタン。おいらは紳士だぜ? 見境なしにガッつくような真似はしねぇよ」
カートマン「……ただ、あぁ~……マジで聞きてぇなぁ~~~」
カイル「うるさい!! エイプリルちゃんに手を出すな!! 家族全員殺すぞ!」
カートマン「好きな女優聞きてぇわ。んで、出た名前全部BBCに売りゃよお、……おいら金持ちじゃねぇか!!」
カイル「黙れ黙れ黙れ!!! エイプリルちゃんをそんな目で見るな!!! 本気で殺すからな!!!」
カートマン「あーあ。オイラはいつもユダヤを怒らす才能だけ抜群だよ……。それだけがオイラさ……」
スタン「脂肪でガードしてる割に中身は空っぽだしな」
◆
マーシュ家の夕食。
スタンは変わった転校生のことを家族に話す。
シャロン「なんてこと……。……って、そんな顔しちゃダメよね。エイプリルちゃんは何も悪くないんだから」
スタン「うん、わかってるよ。でも……僕はカイルの方が心配なんだ」
シャロン「あらどうして?」
スタン「あんなに……何ていうか、一人の人間に執着して熱中してるあいつ、初めて見たんだよ。正常な数値を超えてる気がするっていうかさ」
シャロン「(苦笑いして)……そこは友達として、ちゃんと……まぁ、手遅れにならないように考えておくのよ。色々とね」
スタン「分かってるよ、それは」
すると、入ってこなくてもいいのに親父が話に入ってくる。
ランディ「そうだスタン、俺は最近、SNSというのを始めてみてな」
スタン「なっ!? おい、やめろ外道!!!」
シャロン「あなた!! それでも父親なの!? あんまりだわ!! 家族を生き恥のどん底に叩き落とさないで!! もう迷惑なのよ!!」
ランディ「お? なんだ、Googleってそんな危険なのか?」
スタン「……は?」
スタン「よかったねママ。あいつもようやくWindowsを98に更新できたみたいだよ」
シャロン「……あの人の知能指数が本当に不安よ」
スタン「安心しなよ。あいつがYouTube炎上する頃には、僕らは寿命迎えてるようだから」
ランディ「それにしてもGoogleはスゲぇなァ! ほら見ろ、きょーりゅーが出てきたぞ!」
スタン「あーうっさい!ネット繋がってねぇじゃないか!」
ランディ「俺はもう昨日からこのぐーぐるにハマりっぱなしさ。ボタン一つで写真が山ほど出てくる。昨日から血眼でシャロン・ストーンの毛探してんだぞ、俺は!」
シャロン「……スタンの前でそんな話しないでちょうだい」
スタン「というかグーグル知らずに40年生きるほうが難しいだろ。たぶん北センチネルのあいつらもオカズはpornhubだぜ?」
ランディ「ひゅっほー♪ グーグル・グーグル・ファッキュー♪ ベーグルパンはケツの穴~♪ ネットの海は俺の庭だぜぇ~♪」カタカタ
ランディ「……ん?」ピタッ……
ランディ「……なにッ??! ISISがユカワとゴトーを拉致したって?!」
スタン「は?」
ランディ「身代金が2億ドル……!? 嘘だろ、なんてことだ……!」
スタン「現在進行形じゃねーよ! 時差どんだけだよバカ!!」
ランディ「……クレイジーだ。こりゃあ完全なるファザー・ファッキンだぜ……。こんな非道なことが許されるのかよ……!」
ランディ「(急に真顔になって立ち上がり)おい、シャロン。……今まですまなかった。俺は、俺は今、『ネットの真実』に目覚めた。改心するよ」
シャロン「な、なに? なによ、あなた……」
スタン「おい待て、おいほんとにやめろよ!」
ランディ「……いいかシャロン、俺が戻らなかったらあとは頼む」
ランディ「俺は今から、ユカワとゴトーを助けに行く!!」
シャロン「あなた!!!!」
スタン「キチガイかお前!?!!!」
ランディはクローゼットからショットガンを引っ張り出し、カローラのキーを掴む。
預金から2億(笑)を下ろしに、そのまま夜の道を突き進んでいった……。
◆
翌日。
エイプリル「お、おはよう! ……カイルくん……!」
カイル「えっ? ……あ、おはよう!! おはようエイプリルちゃん!!」
カイル「(うおぉぉ!! エイプリルちゃんに挨拶された! 大成功!!)」
カートマン「おはようエイプリル! そのあいさつはクリントン仕込か?」
スタン「だから黙れつってんだろ!!!」
カイル「エイプリルちゃん、この臭ぇ豚のことは気にしなくていいよ! 豚が必死に威嚇してもブーブーとしか聞こえないだろう?」
エイプリル「え……? あ、う、うん……(苦笑い)。あ、あの……それで、昨日の……石鹸の話の続きなんだけど……」
カイル「(!!!) もちろん! いくらでも聞くよ!! むしろ一晩中石鹸のことだけ考えてたからね!!」
カートマン「へへへ見ろよお前ら、殺虫剤買ったんだぜ。これワンプッシュで死ぬんだから、やっぱユダヤは人類じゃねぇや」
スタン「……うざいなぁ、それお前のママが買ったんだろ? お前の家、ゴキブリが大家さんやってるレベルだもんな」
カートマン「んだと?! おいらはジョーク大嫌いなんだ!! テメェもユダヤ人か!?」
◆
二人の距離は瞬く間に縮んでいく。
青春の一ページが次々と綴られれば、捲られていく。
例えば、昼休み、中庭のベンチで。
カイル「あはは、外で食べるご飯は美味しいね!」
エイプリル「うん……! すっごく美味しい。……誰かと一緒に、笑いながらご飯食べるのなんて……本当に、久しぶりかも……」
カイル「へへ、そんなこと言われると照れるよ。……でも、その『久しぶり』の相手が僕なんかで……本当に大丈夫だったかな?」
エイプリル「(少しいたずらっぽく微笑んで)……もし、大丈夫じゃないって言ったら、カイルくん怒る……?」
カイル「うわ、本音はやめてよもう~! あはは!」
あるいは、チャイムが鳴れば。
カイル「あ、移動教室だ。急がないと! ほら、行こう!(エイプリルの手をギュッと握る)」
エイプリル「あ! ……か、カイルくん……っ」ビクッ
カイル「あ!(……しまった、トラウマ!?) ご、ごめん……! つい癖で……! わ、悪気も、他意も、下心も、その、1ミリも無いんだよ!? 本当に……!!」
エイプリル「(顔を赤らめて下を向く)……ぅ、私こそごめん……」
エイプリル「………(温かい、優しい掌……)」
あるいは、廊下を歩きながら。
カイル「サウスパークはいいところだよ~。精神病院がコンビニより多く建ってるし、お墓の数も人口より多いんだ。住民はみんな、お守り代わりに両方に月10ドル払ってるんだよ」
カイル「……正直、後悔したでしょ? こんなクソ溜めに転校してきちゃって」
エイプリル「そんなことないよ。……ぱ、パパの都合で決まったことだけど……今は、良かったって思ってるよ」
カイル「はは! お世辞でも嬉しいよ、ありがとう!」
そして──、
放課後。夕日の差し込む教室で二人きりにて。
カイル「……ねぇ、エイプリルちゃん。僕さ、中学に上がる頃には、こんな街出ていこうと思ってるんだ」
エイプリル「えっ!? ……どうして?」
カイル「だってそうだろ? クラスは陰険、住民はQアノンばかり、空気は常に牛糞。……僕みたいな人間は、ここにいちゃいけないんだ。良くも悪くもね」
エイプリル「……」
カイル「それで、もし……もし良かったらなんだけど、エイプリルちゃんも……どうかなって」
エイプリル「! ……わ、私も……?」
カイル「無理は言わない。君には君の人生があるしね。……でも、もし僕と一緒に来てくれるなら、僕は絶対に君に嫌な思いはさせない」
カイル「……約束するよ、絶対に」
エイプリル「…………」
答えは返ってこない。
二人はまだ、もう一度手を握る勇気はなかった。
それでも、カイルが差し出した石鹸と、エイプリルが握りしめていた石鹸の角が、「コツン」と小さく、重なって──。
二人の表情は、もはや言葉にするまでもないだろう。
スタン「え、これシーズン最終回?」
カートマン「最悪だぜ。なにが悲しくてオイラはゴースト幻のニューヨーク見せられてんだよ」
スタン「……どっちが死人なんだよ」
◆
その頃。
糞は無事、テロの聖地・シリアへとたどり着く。
彼の大和魂(笑)は砂漠の渇きでも消えることはない……。
ランディ「ハロー!」
ISIS「はい?」
ランディ「金ならいくらでもあるぞ。あんな島国のケチな役人どもを宛にするな。ただし条件がある……」
ランディ「殺すなら俺を殺せ! ゴトーとユカワを今すぐここへ連れてこい! いいな!?」
ISIS「??」
ランディ「早くしろよ、この砂利食い共! 俺はいくらでも払えるんだぞ!」
ランディ「なんだ、6億ドルか? お前らバカだから知らないだろうけど、アメリカじゃ聖書数冊で、ドル札とガキが降ってくるんだよ! 舐めるなよ、自由の国を!!」
ISIS「あのー、観光客の方はあちらへ……」
ランディ「この油持ってるだけのアフリカ人共が!!! 難しいアラビア語で俺を煙に巻こうたってそうはいかないぞ!」
ランディ「いいか、二人を連れてくるまで、俺はお前らの油田に飛び込んで、俺の濃厚な『ランディ汁』を全世界のガソリンに混入させてやるからな!!(豚皮の揚げ菓子をバリバリ食いながら、赤ワインをラッパ飲みする)」
ISIS「!!! 貴様ぁぁ!! 聖なる地で豚肉と酒を!! 万死に値する!!!」
数時間後。
ニュース「ISISから衝撃的なビデオ声明が届きました」
ISISリーダー『親愛なるイスラエルの穴兄弟トランプ、そして国民平均IQが78の星条旗の民よ。我々は歴史上、最も不快で理解不能な男、ランディ・マーシュを拉致した』
ランディ「イェーイ! ついに俺も世界デビューだぜ! ひゅ~い!!」
ISISリーダー『おい黙れ!! ……コホン』
ISISリーダー『かつて日本はテロに屈しないと嘯き、金を払わずに国民を見捨てた。その末路として、ユカワとゴトーとヤスダがどうなったか……』
ISISリーダー『……訂正。ユカワとゴトーはどうなったか。金を払ったサウスコリアはヤスダを助けれたのだ』
ランディ「おいスポンサー! 俺を編集で腐女子が母乳だすほどイケイケにしてくれ!!」
ISISリーダー『だから黙れと言ってるだろ!! これやるからあっち行ってろ!(豚肉を投げつける)』
ランディ「あぁ~! 俺の〜〜俺の〜〜」
ISISリーダー『……一人の民を救え、それこそが貴様らの信じる自由だろう。猶予は一週間。我々からは以上だ!』
プツンッ──
◆
翌日。
カートマン「にしても、アイツらマジで馬鹿だよな」
スタン「お前に馬鹿にされる人種とか、中東かアフリカくらいだろ」
カートマン「いいか、2億ドルだぜ? 2億。せめて100万ドルなら日本も払っただろ。やっぱISISって脳縮んだ猿なんだよな」
スタン「……うわドンピシャかよ気持ち悪ぃ! 親父の話すんなよもう~~~~!」
カートマン「2億なんてブルネイがシャブキメてても払わねぇよ! ユカワとゴトーは誰に殺されたと言える? ISISに殺されたんだ。あの黒ベールに包まれた猿共に電卓さえあれば、二人は寿司を食えたんだ」
スタン「まぁ小学生並みのバカ数字だしね。仮に払われたとしても税金と兵器とコーランとかいうエロ本にしか使われないだろ、バカなんだし」
ケニー「んもごっ、んもふんもふ……w(砂漠だもんなぁ。あいつらのチンコ絶対乾いてるぞ。しかも黒いベールで包まれてなw)」
三人「あははははは! ぎゃはははは!!(爆笑)」
そんな地獄のような会話が響く校門前で、カイルだけは別世界にいる。
カイル「(頬を赤らめて)……あ、エイプリルちゃん! ま、また明日ね!」
エイプリル「(小さく手を振って)うん! また明日、カイルくん!」
カイル「(ニヤニヤが止まらない)……ははw」
カイル「やった、また話しちゃった……。あんな可愛い子と、明日もまた石鹸の話ができるなんて……!」
カイル「サウスパークに生まれて、今日ほど良かったと思った日はないね!!」
◆
カイルを置き去りにして歩く三人。
カートマン「♪あ~石鹸グチャグチャ! カイルはババアの乳首をゴクゴク! 1000ドル、1万ドル、10万ドル! 王子は幼女のミルクでマーママーマ♪」
スタン「うるさい」
カートマン「♪エイプリル~エイプリル~親のネーミングセンスはゼロ~、4月に生まれて1万ドル~、4月の雪はオイラの股間を濡らす~♪」
スタン「だからうるせぇっつってんだろ! 静かにしろ、この年中発情期のクソ豚が!」
ケニー「んもごっ、んもふんもふ……(発情期ねぇ……。おいデブ、お前ただカイルに嫉妬してるだけだろ?)」
カートマン「……っ、はぁあああ!? なんでおいらがあんなワケありカップルに妬かなきゃならねーんだよ! 冗談は存在だけにしろ!!」
スタン「まぁ一理はあるよ。エイプリルかわいいし。キック・アスのクロエ並に」
カートマン「あ? あんなのマスクで顔見えねぇだろうが! ……あぁ悪い悪い、マスクマンの変態に拉致られてるのお前の親父だったな」
スタン「……さりげない会話にまでトゲを仕込んでくんなよ。本当、余裕ないんだな」
カートマン「うるせぇ! おいらはただ、石鹸ごときで『運命の出会い』を演出してるあいつらがムカつくだけだ!」
カートマン「大体にしてなんだよ石鹸って! おいらは生まれた時からボディソープ派だぞ! 石鹸なんてクソ、ショーシャンクでしか見たことねーぞ!!」
スタン「それは……彼女なりの何かがあるんだろ」
カートマン「なにかぁ? はぁあ?? ……おいスタン、特殊な何かに異様にこだわるビョーキ、なにか知ってるか?」
スタン「おいやめろ」
カートマン「へへへ、おいらは知ってるぜ~。テレビで見たんだ」
スタン「だからやめろ!!」
カートマン「病名、ズバリ『ABCD』だ!! あー、こえぇーよなぁ。差別はよくねーよなぁ。好き好んでその病気になったわけじゃねーんだしよぉ~!」
スタン「は?w バカすぎwwww」
ケニー「もふもふ(そのA→B→Cやる予定があの二人だけどな?)」
スタン「うっはwwwやめろwwwwww」
カートマン「……ふん、笑ってろよ」
カートマン「石鹸なんて、ただのゴミだってことを、おいらが明日証明してやる!」
◆
家。
ニヤニヤしながらメモを取るカートマン。
カートマン「へへへ……なるほど、なるほどなぁ~!」
リアン「(ドアをノックして入ってくる)あら、エリックちゃん。お勉強中? 一体何を熱心に読んでるの?」
カートマン「Dr.ヨーゼフ・メンゲレの解剖学だ。ママ、知ってるか? 人間から石鹸作れんだぜ。やっぱ科学ってすげぇよな」
リアン「あら素晴らしいわ。エリックちゃんが少しでも勉強に興味があれば、ママはそれでいいの」
リアン「じゃあ、晩御飯までには終わらすのよ。今日はエリックちゃんの大好きな、脂のたっぷり乗った特大ポークステーキよ」
カートマン「やったーー!!!」
………
……
…
深夜。
泥と怪しい液体にまみれたカートマンが、ベッドで泣きじゃくっている。
カートマン「ママ……うぅ、ママぁ……。オイラ、もう限界だ……つらいよ……」
リアン「あらエリックちゃん。エリックちゃんがつらいなら、ママの胸も張り裂けそうよ」
カートマン「オイラ、試したんだ……。あれから何回も何回も墓で死体絞ってな。ぞうきんみてぇにギューってしたんだ!」
リアン「あらあら。明日、墓主さんたちに菓子折りを包んで謝りに行かなきゃねぇ」
カートマン「でもよぉ!! どんだけ顔を真っ赤にして絞っても、石鹸の汁なんて一滴も出やしねぇんだよ!! あいつら、死んでまでオイラをコケにしやがって!! 骨と腐った肉しか出てこねーんだ!!」
カートマン「おいらはただ……ただ石鹸作りてぇだけなのに……」
カートマン「それとも石鹸汁はユダヤにしか出ねぇのか?! やっぱあいつら宇宙人なんだよ!!」
カートマン「なぁママ……オイラを助けてくれよ。このままじゃ悔しくて眠れねぇよぉ……」
リアン「エリックちゃん……可哀想に。いいわ、仕方ないわね」
リアン「ママが母乳をたくさん使って、特製のミルク石鹸を作ってあげる。だから安心して眠りなさい」
カートマン「え!? そ、そんな……ママにそこまで無理させるわけには……」
リアン「何を言ってるの。あなたはこのお乳で育ったのよ。心配いらないわ」
カートマン「ママ……(涙)」
カートマン「おやすみ、ママ……」
リアン「ママも愛してるわ、おやすみなさい」
ガチャン。
……プルルルル。
リアン「あー、もしもしウォルマートですか? えぇ、石鹸を100個ほど……」
◆
その頃、中東。
糞はオレンジの服(『俺はアストロズ嫌いだぞ!!』と文句言ってる)を着せられ、椅子に縛られている。
ランディ「おい~、暇すぎるぞ! 酒持ってこい!」
ISIS戦闘員A・B「……(フォトナしてる)」
ランディ「おい無視かよ!? お前ら、夜中に一人で死霊の盆踊り観てる時も、そんなダセェ顔して右手動かしてんだろな! へっ!!」
ISIS戦闘員A「(画面から目を離さず)……静かにしろ。集中力が切れる。」
ランディ「ちぇー」
ランディ「……なぁ、そもそもなんでお前らそんな黒い布被ってんの?」
ISIS戦闘員B「……」
ランディ「お前ら、白人だろ? 自らそんな逆KKKみたいな真似して……神様に申し訳ないと思わないのか?」
ランディ「あぁ、ここで言う神様はムハンマドじゃなくてアラーな?」
ISIS戦闘員A「……」
ランディ「……なぁ。なぁってば。マイケル・ジャクソンってさ、自分のMiiを作る時、絶対に肌を茶色に設定しないよな?」
ISIS戦闘員B「……」
ランディ「おい!! 人を呼んどいて、そりゃねーぜオイ……」
◆
翌日。TikTok。
スマホをセットして、ぎこちなく踊る二人。
カイル「ほら、恥ずかしくないからさ!」
エイプリル「か、カイルくんがそう言うなら……! (少しずつ笑顔に)」
ウェンディ「あら、なんて素敵なの! 私も混ぜなさいよ!」
カイル「え? ……僕に聞くなよ。エイプリルちゃん次第だ。彼女が嫌なら無理だからな」
エイプリル「え!? ……み、みんなでしたら……楽しい、かな……?」
ウェンディ「話が分かるじゃない! 決まりね! なら私が音源担当よ! ♫空は青く~ 風は白く~ 地は緑~ 炎の色の獅子を観た~」
カートマン「グッモーニン! 不登校ガチ勢共」
カイル「……あ」
空気が一瞬でシベリア並みに凍りつく。
エイプリル「……っ(カイルの袖をギュッと掴んで震え出す)」
カートマン「ウェンディ、朝からみんなのトラウマ作る暇あったらよぉ、とっとと本出せよ。女が書けば即ベストセラーはアンネの日記が証明済みだろ?」
ウェンディ「あらなによ!? 失礼ね!!」
カートマン「悔しかったら、まず声帯手術と親の殺害手術してろよ! バーカ!」
ウェンディ「あんたが今すぐガス室に飛び込みなさいよ!!」
スタスタ……
カートマン「なぁ、エイプリル……」
カイル「やめろっ! 近寄るなデブ!」
カートマン「……いや、待て。ユダ公くんも。……すまねぇ」
カイル「ぁあ?!」
カートマン「おいらのことが怖いみたいだけどさ。……よく考えたら、おいらたちまだ、ちゃんと話してないだろ?」
エイプリル「……え?」
カートマン「互いのことをよく知りもしねぇのに、嫌悪感を抱くのは……やっぱ間違ってると思うんだ。エイプリル、本当のおいらを見てほしいんだよ」
カイル「本当のお前だぁ? お前ハイドとハイドだろうがっ!」
カートマン「なぁ頼む!! ……エイプリル。実はおいらもさ、お前と同じ……」
エイプリル「あ、あの……カートマン……く……」
カートマン「おいらも……実は……」
カートマン「石鹸が大好きなんだよぉぉぉ、このファッキン・ビッチがぁぁぁ!!!!」
ドバシャァァァ!!!
カートマンが抱えていた大きな袋から、ウォルマートの安売りミルク石鹸100個が教室中にぶちまけられる。
石鹸の硬い角がエイプリルの体に容赦なくぶつかり、床を埋め尽くす。
ツルツルー、ガラガラ~
周り「うわぁあああああああ!!!」
シェフ「おいお前ら、動くんじゃない! 一歩でも動いたら、そのマヌケな面から床にダイブして首の骨を折るぞ!!」
ギャリソン「(石鹸に注意)こら! 廊下を走ってはいけませんよ!」
ケニー「!???」
石鹸が次々とケニーの股下を高速で通り過ぎ──、
──それはさておき窓から隕石。
ケニー「ふガァッ(ぐちゃり)」
スタン「なんてこった! ケニーが殺されちゃった!!」
カイル「この人でなし!!」
カートマン「♫股は青く~ 潮を吹く~ 血は汚れ~ エプスタインのケツ毛見た~♪」
カイル「(目を血走らせながら)あぁいいよなぁあ! この学校汚いもんな!! さすがカートマンくん! 早く掃除夫して月900ドル稼いでろよ!!!!」
カートマン「へへ、礼はそこまでにしな、ビッチボーイ」
スタン「おい図に乗るなよカートマン。ふざけるな!! どうすんだよこの惨状を!」
カートマン「うるせぇな。お前だって内心石鹸を嘲笑ってただろ」
スタン「嘲笑う機会なんか一生ねぇんだよ、石鹸で!!」
カイル「お前は史上最低のクズだ!! 死んだら天国に行けると思うなよ! 地獄ですら『胃もたれする』って追い出されるのがオチだ!!」
カートマン「(急にムキになって)うるせぇ! おいらだって、したくてしてねぇよこんなくだらねぇこと!! おいらばっかり責めんじゃねぇ!!」
スタン「このクズが!!!」
カイル「あ……!」
カイル「ごめん、エイプリルちゃん……。今日はもう帰って休もう。僕も……正直、もう心が折れて辛いから……」
エイプリル「ぁ、ぁぁ……ない……な、ないっ……」
カイル「え?」
エイプリル「私の石鹸……おとし…………ないっ!!!!!」
スタン「あ」
カイル「あ」
カートマン「……ぁ」
◆
床を埋め尽くす白い塊。
手分けして探すも、耐えがたい時間のみが続く。
カイル「……どうすんだよこれ。全部同じに見える……」
スタン「わ、わかんないのかよ……! こういう時は、ほら、ディズニーみたいに『愛』の力で、本物だけが光って見えるとかさ……」
カイル「そんなZAZが作ったロマンス映画みたいなことできるかよ! あいつらロマンスのセンスないんだから!!」
スタン「いいから、それに頼らなきゃ今はどうしようもないだろ! ……僕も、他の連中も……あのブタ野郎ハブって、全力で探すからさ!」
スタン「それよりもカイル、お前はあの子のそばにいてやるべきだろ! 今、あの子の手を握れるのはお前しかいないんだぞ!」
カイル「(ハッとして)あ……。……うん、わかったよ」
カイル「(震えるエイプリルの隣に膝をついて)え、エイプリルちゃん……。大丈夫だよ、きっと見つかるから。僕も一緒に探す、だから……」
エイプリル「ない……っ、石鹸が、ない…………」
エイプリル「石鹸が、ない……石鹸がないよぉぉぉ!!(床を叩きながら、子供のように号泣する)」
カートマン「…………(気まずさで死にたくなる)」
廊下は、何十人もの生徒が這いつくばる異様な光景に包まれていた。
みんな「これかな?」「ねぇエイプリルちゃん、これを見て! 傷があるよ!」「あぁ、もう……どれも同じミルクの匂いだ……」
エイプリル「……これ? ……これなの? ……わからない……匂いも、感触も、みんな同じ……。どこ、どこ……?」
カイル「うぅ……え、エイプリルちゃ─」
エイプリル「いやだ……怖い。怖い怖い怖い!! ……いや、いやぁぁぁ!!」
エイプリルは汗びっしょりになりながら、狂ったように床を這い回る。
拾い上げては放り投げ、視界に入る白い塊に怯えるように、また別の白へと手を伸ばす。
頭の中も、目の前の景色も、すべてが真っ白な地獄へと変わっていく。
必死だった。
あまりに必死に、汗と涙と、そして誰かがこぼした水が混ざり合い、床には必然的に「泡」が立ち込める。
無数に浮き上がる、虹色のシャボン玉。
エイプリル「あ……」
シャボン玉が、プツン……と弾けるたびに、
白一色の視界に、あの島がフラッシュバックする。
……
………
■■■■『お、こりゃ掘り出しもんだ。キューブリックの「ロリータ」をやっとの思いで観て、映画館でブチ切れたのを思い出すよ。……ぐへへへ、こっちは本物だなぁ』
……
………
■■■■『おい! 歯を当てるな!! 殺すぞこの小娘が!!!!』
……
………
■■■■『あら、素敵。……痛かったら言ってね? 痛そうだなって思っちゃうから』
…
……
………
…………
■■■■■■(故)『アリー…? ……あぁ、あの子ね』
■■■■■■(故)『見てみるか? 見ないほうがいいと思うけど──』
エイプリル「──ぁぁあああああああああああああアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア」
バタリっ──。
過去も、今も、そしてこれから来るはずだった未来も。
彼女の世界には、すべてを塗りつぶす、冷たい「白」しか描かれていなかった。
カイル「え、エイプリルちゃん!!!」
◆
その頃、糞。
ISIS戦闘員A「……撮影は明日だ」
ランディ「うお?! マジ!!?」
ISIS戦闘員B「……晩飯は何がいい。好きなものを言え。祈りの時間も設けてやる」
ランディ「お祈り? ざけんな。俺は死ぬわけじゃないんだし! じゃ、とりあえずワッパーのセットでいいぜ! あ、飲み物はダイエット・コークな」
ランディ「俺、健康には気を使ってるからよぉ~~~」
SIS戦闘員A・B「…………(無言で再びフォートナイトを始める。ピコピコ……)」
◆
静かな保健室(アメリカに保健室あんのか知らねぇけど)。
カーテンの向こうで、エイプリルはただ天井の一点を見つめている。
カイル「……ごめん。本当に、ごめんね、エイプリルちゃん……」
エイプリル「………………」
カートマン「……なぁ、スタン」
スタン「なぁじゃない、距離感友達かよ」
カートマン「え?」
カートマン「……おいらさ、今までは朝起きて、死ぬほど飯食って、お前らと遊んで、カイルをユダ公って呼んでふざけて……夜はぐっすり寝る。それで人生アガリだと思ってたんだ」
カートマン「だけどよ……おいら、今日ついに分かったんだ。そんなんじゃダメだって」
カートマン「……人生ってのはさ、こう……よく分かんねぇけどよ。……変わらなきゃいけないんだ。おいら、自分をアップデートしなきゃいけないんだよ」
スタン「……」
スタン「……で? 何が言いたいんだよ、お前……」
カートマン「おいら、エイプリルにアイズ・ワイド・シャット見せて……エロはむしろエンターテインメントなんだよってことを、一からじっくり──」
スタン「だから黙ってろと言っただろ、この救いようのないクソデブが!!!」
カートマン「なんだよ?! ならダビデ像送りゃいいのか?! クソったれ!!」
ふと、夕暮れの光が、白いカーテン越しに二人を照らす。
カイル「……ごめん」
エイプリル「……カイルくんは、悪くないよ。……謝る必要なんて、ないじゃない…………」
カイル「……うん。悪いのは、間違いなくあの生ゴミみたいな豚だ。……でも、僕にも謝る義務がある」
エイプリル「……ない、から……そんな義務……」
カイル「……(意を決して)……僕、実は石鹸なんてこれっぽっちも興味ないんだ」
エイプリル「……」
カイル「ただ君と仲良くなりたかった。……いや、違うな。君を哀れに思ってたんだ」
カイル「僕もユダヤ人だってことでいじめられてきたから、君の境遇が自分と重なって見えて……。だから、醜悪な偽善で君を欺いたんだよ」
カイル「……『しゅーあく』の意味はわかんないけど」
エイプリル「…………」
カイル「僕も本質的にはあの生きてる屋さんと同じなんだ。……君への色眼鏡、思い入れもない石鹸でしか外れなかったんだよ」
カイル「……ベラベラ喋ってごめん。でも、もう嘘に耐えられないんだ……」
カイル「自分の良心の呵責を優先して、君を支えられなくて……」
カイル「……本当に、ごめん」
エイプリル「……そっか」
カイル「……」
エイプリル「……う、ぅぅ……」
カイル「……」
エイプリル「…………なら、私も……ごめんね」
カイル「…………いいよ、謝らなくて」
エイプリル「……よくない、から……。もう友達じゃ……ないんだよね……。……なら最後くらい、話させてよ……」
カイル「……」
エイプリル「……私も、カイルくんの石鹸の話……全然興味なかった……」
カイル「……え?」
エイプリル「石鹸も……マニアってほどじゃないの」
エイプリル「カイルくんが隣で一生懸命図鑑を見せてきたとき……正直、すごくつらかった。……眠くて……」
カイル「え?」
エイプリル「……でもね、カイルくんがいたから……私は、──本当のエイプリルでいれた……」
風が吹く。
一重の、風、
エイプリル「ずっと……ずっと、憧れてたの。……誰か助けて、助けてって……。ただ、私の目の前に、普通に立ってくれる人……」
エイプリル「私を、ヘンな目で見ないでくれる……。太ももを触ったりしないでくれる……。ゴツゴツしてない手に、握られたかったの…………」
エイプリル「ディズニー映画だけが、あの……嫌な時間を忘れさせてくれる唯一の魔法だった……」
エイプリル「みんなで見た…………もう戻りたくないはずの、あの部屋の……、映画が…………っ、ぅっ……」
カイル「……っ、……あぁ……」
エイプリル「お願い……っ!」
エイプリル「もう石鹸なんて、泡まみれの記憶なんていらない……!」
エイプリル「友達じゃなくても……いいから…………!!」
エイプリル「……それでも、今だけは……この手の震えを止めて……っ」
エイプリル「お願い……お願いだよ、カイルくん……っ」
カイルは何も答えられない。
喉の奥まで込み上げた言葉はすべて熱い塊になって、声にならない。
ただ、ただ。
彼女の震える指先を、どうにか見つけようと探るだけ。
保健室は、静まり返っていた。
カーテンの影で、ウェンディは声を殺して泣き、
スタンも袖で何度も目元を拭っている。
ギャリソン先生も空気を読んで、心にもない涙を流す。
カートマン「(ボソっと)……泡姫」
静かなはずの保健室にて、カートマンの精一杯な虚勢は簡単に消えていった。
誰もツッコまなかった。
誰も、彼を殴りに行かなかった。
そのことが、虚しいブタにとって最大の罰だった。
スタン「……あー、ごめん。そろそろ、いいかな。……邪魔したくないのは山々なんだけどさ」
エイプリル「ぐすっ、ぅう……っ……」
カイル「……なんだよ、スタン」
スタン「……君らのことはわかった。僕は何も言わないよ」
スタン「ただ現実問題どうする? あの石鹸……いや捨てるとかは、あれだけど。100個も……あんなのに紛れさせてゴミにするってのは、……うん、どうなのとか思ってさ」
カイル「それは……(エイプリルを見る)」
スタン「……止まった時間が動き出すのは結構なことだよ。でもさ、時計の針が動いた以上、僕らは進まなきゃいけない。もう3時だ。……うん。……どうしようか?」
スタン「エイプリルちゃん……。君はどうしたい?」
カイル「エイプリルちゃん……」
エイプリル「…………わ、私――。私は、もう……」
その時、保健室のドアが「バゴォォォン!!」と蹴破られる。
ランディ「ハロー、エブリバディ!! ライフハックのお時間だぜぇぇ!! トランプに金出させる方法……『バラすぞ!』の一言だ!! ひゃはははー!」
スタン「(表情が完全に死ぬ)……あ?」
そこには、ボロボロの星条旗をマントのように羽織り、
背後から必死にしがみつくISISの戦闘員に首元をギザギザのナイフで斬りつけられそうになりながら、
満面の笑みで帰還した、──ランディ・マーシュの姿があった。
ランディ「TikTokで俺バズり散らかしてるらしいな。いいぜ、広告収入は全部お前らにやる。父さんからの教育資金だ!」
ランディ「あと、これがお土産だ。……ほら、石だぞ」
カートマン「はぁ?! なんの石だよ」
ランディ「知らね。遺跡の破片らしいぞ。紀元前なんちゃらとかいう。……まぁ倫理観ヤバいとはさすがの俺も思うが……しょせん石は石だしな。こいつらは遺跡壊すのが唯一のレクらしいぞ」
スタン「ディズニーランドのポップコーンバケット感覚で持ってくんじゃねぇよ!! つか、そもそもトランプに何を『バラす』つもりなんだよ」
ランディ「あ?知らん知らん。……ホルムズ海峡のこととか?」
カートマン「はぁ?! ……おいおい、ほんとさすがだぜ共和党様はよぉ!!! ファッキンアス!!! 自殺しろ40代以上!!!」
ランディ「でよぉ〜スタン! シリアってwifi爆速だから、俺マジこの一週間でネットリテラシーやばくなってな」
スタン「お前が遅れてるだけなんだよバカ!」
ランディ「eBayって知ってるか? 指先一つと少量の銭で、オシャレな家具とか麻薬まで買える魔法のサイトなんだよ! マジでフューチャーを感じたね!!」
スタン「あーもう……(頭を抱えて座り込む)」
カートマン「おじさん、もっと無料で買える素敵なもの教えてやるぜ。障害者手帳だ。それがあれば行列に並ばずにアトラクション乗り放題だ」
ランディ「黙れ精子のなりそこない!! ……そんでさっそく、身代金6億で買っちゃったw」
ランディ「はい、石鹸」
スタン「は? ……はぁ??!!」
エイプリル「(……!!!!!)」
ランディ「ギャリソン先生がなんか出品しようとしてたから、札束ビンタしといたぞ。いらねぇからやるわ!」
………
……
…
◆
数日後。
カイル「……絶対、絶対に忘れないからね! どこにいたって、何をしてたってさ!」
エイプリル「ごめんなさい、カイルくん……。せっかく友達になれたのに……パパの都合で、また………」
夕日。
エイプリルはまた別の街へ、引っ越しの準備をしていた。
カートマン「……あー、自主規制」
スタン「お前、ほんとクズだよな。えぇ? 言ってみろよ、パパがなんだって? 引っ越しがなんだって?」
カートマン「お前……。おいらの成長を少しは認めてもいいだろよ……」
カイル「WhatsAppで、何回も何回もメッセージ送るから! ……あ、嫌ならブロックしてもいいけどさ! でも、エイプリルちゃんからも気が向いたら送っていいからね!」
エイプリル「(クスッと笑って)……ブロックなんて……ふふ、カイルくんらしいね」
カイル「僕はいつでもここにいるから! 君がもし僕を忘れても……僕は君のこと、一秒だって忘れることないよ!」
エイプリル「……へえー、」
エイプリル「……なら、一緒に来る?」
カイル「え?! ……え?」
エイプリル「……『中学に上がる頃、この街を出ていく』……。忘れてないよ、カイルくんが言ったこと。私も、忘れてない」
カイル「……え、ええと……。それは、その……」
エイプリル「……なんてね。……うん、冗談だよ」
カイル「……」
少し、俯く。
カイル「……悪いけど、僕はジョークは苦手なんだ……。ユダヤ人だから…………」
プシューッ……。
バスのドアが閉まり、ゆっくりと動き出す。
カイルは走り出した。
動き出したバスの窓を追いかけて、全力で、なりふり構わず手を振り続けた。
カイル「……わ、忘れ……忘れないでよ!!!」
カイル「……いや、絶対忘れさせてたまるかぁああっ!!!!」
カイル「出ていくから!!! いつか必ず、中学になったら出ていくから!!! 未来で会おう!!! 未来でぇえええええ!!!!!」
カイル「絶対だぞぉぉ!!! 未来でぇえええええ!!!!! ぐへっ(道端の石につまずき、盛大に顔面から転ぶ)」
カイル「…………絶対ぃいいいいいいいいいいい!!!!!!!!」
エイプリル「……」
エイプリル「(窓からカイルを見て、そっと呟く)……。過去の反対──……『未来』で、ね」
エイプリル「(大きく手を振って)ばいばーい! カイルくーん!!」
ばいばーい、
ばい……ばーい……
ばい……。
彼女の手には、ようやく正真正銘の『思い出』となれた──あの石鹸が。
バスが遠ざかる中、その白い塊はいつまでも、いつまでも夕日を反射し続けていた。
静まり返ったバス停跡にて。
カイル「……」
スタン「……見ないからさ。いいよ、もう」
カイル「……なにをだよ」
スタン「泣けば? ……見ないって約束するからさ」
カイル「……バカか。別に、悲しくもないのに………」
カイル「泣く意味なんて、なぃ……っ、……だろ……っ、……ぅっ…………」
スタン「……」
カートマン「(無言でカイルの隣に歩み寄る)…………」
カイルと顔を合わせることなく、スタンはそっと隣に立ち、そしてカートマンも、まるでもう一人の自分を慰めるかのように、さりげなくカイルの肩をポカポカと叩いた。
サウスパークに、夜の帳が静かに下りようとしていた。
◆
──数日後。
カイル「……。……ふわぁ~~~」
いつもの教室。
カイルの隣の席は空いたままだが、授業は始まる。
カイル「………………眠い」
ガラガラガラ。
ギャリソン先生「はい、静かに! 今日は新しい転校生を紹介します」
カートマン「けっ、いつもいつもどっから拾ってくんだよw」
カイル「へー転校生。誰だろ?(カートマンをガン無視)」
スタン「男か女かは重要だよね。まぁ、どっちでも友達になれるけどさ(同じくガン無視)」
カートマン「…………(分かりやすく落ち込む)」
ギャリソン「では、入ってきなさい!」
ギャリソン「……と言いたいところですが、彼はまだこの学校にはいません」
ギャリソン「というか、ここにすら到着していません」
スタン、カイル、カートマン「は?」
ギャリソン「……皆さんにお願いです。彼を、このサウスパーク小学校に招き入れたい」
ギャリソン「ただ、それには……一人につき600万ドル。心苦しいですが、それだけのお金が必要です」
スタン、カイル、カートマン「……あ?」
ギャリソン「(涙ながらに)日本人留学生……ショウセイ・コウダくんを、私たちの手で仲間に引き入れましょう! お願いします、皆さん!!」
カートマン「おい、いつになったらサウスパークのネット環境は改善すんだ?」
スタン「仕方ないよ。ここの人は50年前からデジタルデトックスしてんだから」
【END】
Created by
Trey Parker
Matt Stone
Executive Producers
Trey Parker
Matt Stone
Anne Garefino
Producer
Frank C. Agnone II
Supervising Producer
Eric Stough
Animation Director
Eric Stough
Directed by
Trey Parker
Written by
Trey Parker
No animals were harmed
(seriously this time)
© Comedy Central
A division of Paramount Global
Go outside. Seriously.
【Scene1】
【Scene2】
【Scene3】
【Scene4】
【おまけ:イタい夢女子(笑)が描きそうなカップリング(笑)イラスト】
最終更新:2026年05月06日 02:09