――震えてる体包む足跡
――信じてる理由は日々に連ねた
◆
松阪さとうが襲い掛かって来た青年に思うことは多くない。
何故殺し合いに乗っているのか、今さっきまで言葉を交わしていたアーリャを殺した理由は何か。
そういった善良な参加者なら考えて然るべきものを、一つとして抱かなかった。
自分を襲ってしおの捜索を邪魔する男、放って置いたらしおに危害が及ぶかもしれない。
その二点のみで思考が排除へ切り替わる。
何故殺し合いに乗っているのか、今さっきまで言葉を交わしていたアーリャを殺した理由は何か。
そういった善良な参加者なら考えて然るべきものを、一つとして抱かなかった。
自分を襲ってしおの捜索を邪魔する男、放って置いたらしおに危害が及ぶかもしれない。
その二点のみで思考が排除へ切り替わる。
両手で握り締めた得物を、頭部目掛けて振り下ろす。
脳を潰されて生きていられる人間はいない、なれど敵は兜を装着済み。
振動により視界を揺さぶる程度はできても、金属を叩き壊すのは少女の身では不可能。
尤も今のさとうを見て、すぐに10代の女子高生と分かる者が果たしているのやら。
白銀の装甲が胸元の膨らみを覆い、細い四肢をボディスーツが隠す。
異性を惹き付ける容姿もそこには無く、代わりに騎士を思わせるフェイスシールド。
仮面ライダータイガという名の力が、さとうに与えられた凶器だった。
脳を潰されて生きていられる人間はいない、なれど敵は兜を装着済み。
振動により視界を揺さぶる程度はできても、金属を叩き壊すのは少女の身では不可能。
尤も今のさとうを見て、すぐに10代の女子高生と分かる者が果たしているのやら。
白銀の装甲が胸元の膨らみを覆い、細い四肢をボディスーツが隠す。
異性を惹き付ける容姿もそこには無く、代わりに騎士を思わせるフェイスシールド。
仮面ライダータイガという名の力が、さとうに与えられた凶器だった。
神崎士郎の開発したライダーシステムに共通して言えることだが、デッキを使った変身者の身体機能は人の限界を優に超える。
ミラーモンスター及び他ライダーとの戦闘を大前提にしている以上、多少運動能力が上がる程度では到底足りない。
従って、各々が振るう武器も並大抵の性能に非ず。
タイガが持つ大斧型召喚機、デストバイザーもその例に漏れずライダーの強固な装甲越しにダメージを与える威力だ。
兜を被っていようと紙切れ同然、脳みそと共に地面へ散らばるだけ。
ミラーモンスター及び他ライダーとの戦闘を大前提にしている以上、多少運動能力が上がる程度では到底足りない。
従って、各々が振るう武器も並大抵の性能に非ず。
タイガが持つ大斧型召喚機、デストバイザーもその例に漏れずライダーの強固な装甲越しにダメージを与える威力だ。
兜を被っていようと紙切れ同然、脳みそと共に地面へ散らばるだけ。
一度障害と見定めたなら、躊躇は微塵も抱かない。
今更になって思い止まる展開が起ころう筈も無く、分厚い刃が頭部目掛け急降下。
トマトが潰れたみたいな赤が広がる、誰しも予想するだろう光景はしかし現実にならず。
刃を阻むは同じく刃、選ばれし勇者だけに持つことを許された剣。
最初の一撃で仕留める算段が呆気なく崩れ、口の中へ不快な味が滲み出す。
今更になって思い止まる展開が起ころう筈も無く、分厚い刃が頭部目掛け急降下。
トマトが潰れたみたいな赤が広がる、誰しも予想するだろう光景はしかし現実にならず。
刃を阻むは同じく刃、選ばれし勇者だけに持つことを許された剣。
最初の一撃で仕留める算段が呆気なく崩れ、口の中へ不快な味が滲み出す。
(重いな……)
少女の細腕から繰り出されたとは思えない重さ。
華奢な体格で暴れ回られたとて、こっちは片腕で捻じ伏せられる筈なのに。
剣の柄を両手でしっかりと握り締めねば、防御を崩され真っ二つにされ兼ねない。
ただの少女がここまでの力を発揮したのは、やはり腹部の奇妙な小箱が原因か。
あれを使って纏った鎧は頑丈なだけではない、身体能力を大幅に引き上げるらしい。
華奢な体格で暴れ回られたとて、こっちは片腕で捻じ伏せられる筈なのに。
剣の柄を両手でしっかりと握り締めねば、防御を崩され真っ二つにされ兼ねない。
ただの少女がここまでの力を発揮したのは、やはり腹部の奇妙な小箱が原因か。
あれを使って纏った鎧は頑丈なだけではない、身体能力を大幅に引き上げるらしい。
鎧の力も警戒して然るべきだが、少女自身の迷いの無さも油断ならない。
偶然聞いた彼女の愛に対するスタンスは口先だけではない。
愛の為なら人の命すら平然と奪える。
偶然聞いた彼女の愛に対するスタンスは口先だけではない。
愛の為なら人の命すら平然と奪える。
覚悟の程は分かった、だからといって殺されてやる気は無い。
死ねない理由なら自分にだってある。
愛が噓か真か知る為に、勇者ではないただのアレフとして血の雨を降らせよう。
腹に力を入れ踏ん張り、得物に殺意が漲る。
剣共々粉砕するつもりだろうがそうはいくか。
斧を徐々に自身の頭部から遠ざけ、遂には完全に押し返す。
死ねない理由なら自分にだってある。
愛が噓か真か知る為に、勇者ではないただのアレフとして血の雨を降らせよう。
腹に力を入れ踏ん張り、得物に殺意が漲る。
剣共々粉砕するつもりだろうがそうはいくか。
斧を徐々に自身の頭部から遠ざけ、遂には完全に押し返す。
己の意思に反して両手が引き戻され、体勢を維持していられない。
再度構え直すまでに時間は掛からずとも、生まれた隙をアレフは見逃さなかった。
真っ直ぐに剣を突き出し突進。
どうのつるぎでは鎧を貫けず、反対に折れてしまうだろう。
なれど握る武器はロトの剣、竜王ですら切り裂いた刃を防げるものは無いと知れ。
再度構え直すまでに時間は掛からずとも、生まれた隙をアレフは見逃さなかった。
真っ直ぐに剣を突き出し突進。
どうのつるぎでは鎧を貫けず、反対に折れてしまうだろう。
なれど握る武器はロトの剣、竜王ですら切り裂いた刃を防げるものは無いと知れ。
タイミングは完璧だ、抵抗しようにも間に合わない。
尤も、そんな不可能を可能にするのが仮面ライダー。
マスクの奥に隠れた目が、迫るアレフの一挙一動を捉える。
さとうの肉体では対処は出来ずとも、タイガならば問題無い。
尤も、そんな不可能を可能にするのが仮面ライダー。
マスクの奥に隠れた目が、迫るアレフの一挙一動を捉える。
さとうの肉体では対処は出来ずとも、タイガならば問題無い。
切っ先が腹部を突く寸前、斜め下から妨害に遭った。
跳ね上げたタイガの腕には当然の如くデストバイザー。
刀身を叩き狙いが逸れた瞬間、身を捻って剣を躱す。
遠ざかった死への安堵より、アレフ殺害を優先。
横薙ぎに振るった斧が狙うのは首、胴体と泣き別れすれば勇者も死体へ早変わりだ。
跳ね上げたタイガの腕には当然の如くデストバイザー。
刀身を叩き狙いが逸れた瞬間、身を捻って剣を躱す。
遠ざかった死への安堵より、アレフ殺害を優先。
横薙ぎに振るった斧が狙うのは首、胴体と泣き別れすれば勇者も死体へ早変わりだ。
「ギラ!」
攻撃が失敗に終わろうと動揺は見せず、片手を翳し対処へ動く。
偶然にも彼らがいる城、コーカサスカブト城の王と同じ名前の呪文。
放たれた炎は仮面越しにさとうの顔を炙る。
ダメージが最低限に抑えられるも、感じた熱さへ僅かなりとも怯めば敵の攻撃を許すも同然。
胸部へ刃が走り、遅れて痛みが情報として伝わって来た。
偶然にも彼らがいる城、コーカサスカブト城の王と同じ名前の呪文。
放たれた炎は仮面越しにさとうの顔を炙る。
ダメージが最低限に抑えられるも、感じた熱さへ僅かなりとも怯めば敵の攻撃を許すも同然。
胸部へ刃が走り、遅れて痛みが情報として伝わって来た。
「…っ」
タイガの全身で最も強固な胸部装甲故、致命傷には程遠い。
だが二撃三撃と立て続けに斬られればどうなるか。
これ以上のアレフの好き勝手を許可した覚えはない。
片手持ちに変えたデストバイザーをやったらめったらに振り回す。
狙いが付いていない為に却って読み辛く、アレフも剣を止め数歩後退。
再度距離を詰めるのは容易いだろうがしかし、タイガが次の手に出る為の時間は稼いだ。
だが二撃三撃と立て続けに斬られればどうなるか。
これ以上のアレフの好き勝手を許可した覚えはない。
片手持ちに変えたデストバイザーをやったらめったらに振り回す。
狙いが付いていない為に却って読み辛く、アレフも剣を止め数歩後退。
再度距離を詰めるのは容易いだろうがしかし、タイガが次の手に出る為の時間は稼いだ。
『STRIKE VENT』
馬鹿の一つ覚えで斧を叩きつけても、勝てる相手でないとは分かった。
望みのカードを引き抜き召喚機へ装填、電子音声に告げられ新たな武器が出現。
熊の爪を思わせる形状のソレは、契約モンスターの両腕を模したデストクローだ。
片方だけでも相当な重量であるが、タイガの膂力を以てすれば筆のように軽い。
軽く腕を動かし支障がないと分かれば、後は直接相手を殺すだけ。
望みのカードを引き抜き召喚機へ装填、電子音声に告げられ新たな武器が出現。
熊の爪を思わせる形状のソレは、契約モンスターの両腕を模したデストクローだ。
片方だけでも相当な重量であるが、タイガの膂力を以てすれば筆のように軽い。
軽く腕を動かし支障がないと分かれば、後は直接相手を殺すだけ。
「そんなことまで……」
動きのキレを引き上げるのみならず、武器の召喚も可能とは。
立ち寄った町で手持ちの金銭と相談しながら、装備の売買を行うよりもずっと手っ取り早い。
少々場違いなことを考える間にもタイガは既に動き出し、接近と同時に斬り掛かる。
デストバイザー同様、強度と切れ味は脅威と言う他ない。
立ち寄った町で手持ちの金銭と相談しながら、装備の売買を行うよりもずっと手っ取り早い。
少々場違いなことを考える間にもタイガは既に動き出し、接近と同時に斬り掛かる。
デストバイザー同様、強度と切れ味は脅威と言う他ない。
右腕の斬撃を防げば今度は反対の腕が迫る。
防御よりは回避に動いた方が良いと跳び退き、爪は虚しく空気を切り裂く。
チラと着込んだ鎧を見やれば、爪がほんの少し掠った箇所に傷。
先端が僅かに触れた程度でもこれだ、直撃すればどうなるかを考えるまでも無い。
ロトの鎧ならまだしも、現状の耐久性は布の服と大して変わらないだろう。
防御よりは回避に動いた方が良いと跳び退き、爪は虚しく空気を切り裂く。
チラと着込んだ鎧を見やれば、爪がほんの少し掠った箇所に傷。
先端が僅かに触れた程度でもこれだ、直撃すればどうなるかを考えるまでも無い。
ロトの鎧ならまだしも、現状の耐久性は布の服と大して変わらないだろう。
距離が開こうと5秒も掛からずに、再び眼前へ移動可能だ。
ボディスーツ型の強化皮膚が、変身者の能力を常人以上に引き上げる。
駆け出し心臓目掛け腕を伸ばすタイガは、弾丸と見紛う速さ。
しかし素早さに優れるのはアレフだって変わらない。
旅に出た直後はスライムベス一匹にすら梃子摺ったが、最早過去の話。
魔物退治を重ねた経験は、アレフを真に勇者と呼べるまでに強くした。
ボディスーツ型の強化皮膚が、変身者の能力を常人以上に引き上げる。
駆け出し心臓目掛け腕を伸ばすタイガは、弾丸と見紛う速さ。
しかし素早さに優れるのはアレフだって変わらない。
旅に出た直後はスライムベス一匹にすら梃子摺ったが、最早過去の話。
魔物退治を重ねた経験は、アレフを真に勇者と呼べるまでに強くした。
両腕のデストクローで攻め立てるタイガへ、アレフは剣一本で凌ぎ切る。
得物の数では敵が有利であり、一見すれば防戦一方に追いつめられた状態だ。
見方を変えれば武器二つを用いても、未だタイガはアレフに傷一つ付けられていない。
弾き、防ぎ、躱し、また躱し、二本纏めて防ぎ、豪快に押し返す。
どう対処するのが正解を瞬時に弾き出す冷静さと観察眼。
何より実行へ移せるだけの実力が、タイガに勝機の片鱗をまるで与えない。
得物の数では敵が有利であり、一見すれば防戦一方に追いつめられた状態だ。
見方を変えれば武器二つを用いても、未だタイガはアレフに傷一つ付けられていない。
弾き、防ぎ、躱し、また躱し、二本纏めて防ぎ、豪快に押し返す。
どう対処するのが正解を瞬時に弾き出す冷静さと観察眼。
何より実行へ移せるだけの実力が、タイガに勝機の片鱗をまるで与えない。
剣を振るいながらアレフは敵の力量を見極める。
鎧の力や殺害への躊躇の無さは警戒するべき、ただ本人の能力はそこまでじゃない。
奇妙な道具を使い身体機能こそ劇的に上昇しているも、動き自体は良く見れば素人。
当然と言えば当然の話だ。
さとうは殺人の経験こそあれど、魔物の討伐やライダーバトル等とは無縁の少女。
武器を使って戦うこと自体、アレフ相手が初めてなのだから。
鎧の力や殺害への躊躇の無さは警戒するべき、ただ本人の能力はそこまでじゃない。
奇妙な道具を使い身体機能こそ劇的に上昇しているも、動き自体は良く見れば素人。
当然と言えば当然の話だ。
さとうは殺人の経験こそあれど、魔物の討伐やライダーバトル等とは無縁の少女。
武器を使って戦うこと自体、アレフ相手が初めてなのだから。
アレフもまたローラ姫救出に旅立った当初こそ、お世辞にも強いとは言えなかった。
だが苦戦しつつも勝利を治め、覚えた呪文を使いこなし、実戦を経て着実に力を付けた結果。
遂には元凶である大魔王を倒し、故郷アレフガルドを救うに至った。
力のゴリ押しがいつまでも通じる軟な男ではない。
だが苦戦しつつも勝利を治め、覚えた呪文を使いこなし、実戦を経て着実に力を付けた結果。
遂には元凶である大魔王を倒し、故郷アレフガルドを救うに至った。
力のゴリ押しがいつまでも通じる軟な男ではない。
それを証明するかのように、ロトの剣は猛攻をすり抜けタイガの胴体を疾走。
動作一つを誤れば爪の餌食と化すも、既に見切った動き故恐怖は無い。
痛みと共に地面を転がり、衝撃で変身解除されるもどうにか立ち上がる。
憎々し気に睨みつけるも相手は不動、敵意など襲い掛かって来た魔物の相手で飽きるくらいに味わった。
動作一つを誤れば爪の餌食と化すも、既に見切った動き故恐怖は無い。
痛みと共に地面を転がり、衝撃で変身解除されるもどうにか立ち上がる。
憎々し気に睨みつけるも相手は不動、敵意など襲い掛かって来た魔物の相手で飽きるくらいに味わった。
装甲で防がれたとはいえ斬られた感触は不快の一言に尽きる。
なれど痛みはさとうに、このままマトモにぶつかっても勝ち目は薄いと告げる役目を果たす。
形勢逆転出来るかもしれないカードなら持っている。
或いはここは撤退を選び、しおの捜索やルルーシュの下へ向かうのを優先するべきか。
どれを選ぶにしても自身が動きを見せた途端、アレフが瞬く間に仕留めに来る筈。
自分を簡単に殺せる相手と見ていた最初と違い、変身する暇も与えてくれないに違いない。
なれど痛みはさとうに、このままマトモにぶつかっても勝ち目は薄いと告げる役目を果たす。
形勢逆転出来るかもしれないカードなら持っている。
或いはここは撤退を選び、しおの捜索やルルーシュの下へ向かうのを優先するべきか。
どれを選ぶにしても自身が動きを見せた途端、アレフが瞬く間に仕留めに来る筈。
自分を簡単に殺せる相手と見ていた最初と違い、変身する暇も与えてくれないに違いない。
(…仕方ないか)
時間を無駄にさせるアレフを苦々しく思いつつ、次なる行動を決定。
隙が見当たらないなら作ればいい。
隙が見当たらないなら作ればいい。
「ねぇ、そんなに強いのにどうして殺し合いに乗ったの?」
落としたデッキを意識しつつ、アレフ相手に初めて口を開く。
無論、本気で相手が殺し合いに乗る道を選んだ理由を知りたいとは思っていない。
対話で少しでも動揺を引き出し、そこからどうにか現状を切り抜けられないか。
そう考えただけに過ぎないのだから。
無論、本気で相手が殺し合いに乗る道を選んだ理由を知りたいとは思っていない。
対話で少しでも動揺を引き出し、そこからどうにか現状を切り抜けられないか。
そう考えただけに過ぎないのだから。
「……」
問い掛けられたアレフはすぐに答えられない。
会話へ応じる理由は無く、言葉の代わりに剣を振るうのが殺し合いを肯定した者としての正解。
けれど、剣を持つ手の力がほんの少し揺らいだのが自分でも分かり、
会話へ応じる理由は無く、言葉の代わりに剣を振るうのが殺し合いを肯定した者としての正解。
けれど、剣を持つ手の力がほんの少し揺らいだのが自分でも分かり、
「…………僕には、もう一度会わなきゃならない人がいるんだ」
沈黙を挟んだ後、絞り出すように告げた。
何故わざわざ答えてやったのか、正確な理由はアレフ自身にも分からない。
気まぐれかと言われたら頷くかもしれないし、違うと返すかもしれない。
死ぬ前に話くらいは聞いてやろうという、寛容と傲慢をはき違えた判断か。
ひょっとすると、自身の胸の内を吐き出したかったのだろうか。
もう一人の自分と会ってからずっと渦巻き続ける恐怖から、少しでも解放されたい。
そんな理由があったとしても否定は出来ず、ポツポツと話す。
何故わざわざ答えてやったのか、正確な理由はアレフ自身にも分からない。
気まぐれかと言われたら頷くかもしれないし、違うと返すかもしれない。
死ぬ前に話くらいは聞いてやろうという、寛容と傲慢をはき違えた判断か。
ひょっとすると、自身の胸の内を吐き出したかったのだろうか。
もう一人の自分と会ってからずっと渦巻き続ける恐怖から、少しでも解放されたい。
そんな理由があったとしても否定は出来ず、ポツポツと話す。
殺し合いが始まってすぐに殺されてしまった彼女、ローラ姫の蘇生。
最後の一人に勝ち残り叶える、死者の蘇生という願いを。
だからさっきのアリサとか言う少女を殺した。
最後の一人に勝ち残り叶える、死者の蘇生という願いを。
だからさっきのアリサとか言う少女を殺した。
「そのローラって人を愛してるから、生き返らせたいってこと?」
話を聞き終えたさとうの質問には、本当だったらそうだと答えるべきだ。
今の話を聞けば大半の人間はこう思う。
アレフにとってローラは他の誰よりも大事で、どんな手を使ってでも取り戻したいのだろうと。
でなければ善良な人達に犠牲を強いる理由にはならない。
今の話を聞けば大半の人間はこう思う。
アレフにとってローラは他の誰よりも大事で、どんな手を使ってでも取り戻したいのだろうと。
でなければ善良な人達に犠牲を強いる理由にはならない。
「それは……分からないんだ…」
だがアレフの答えは大多数の予想とはかけ離れた内容。
ローラに悪感情は抱いていなかった、でも愛に繋がるかは自分でも判断が付かない。
肝心の彼女が死んでしまっては確かめられない、だから生き返らせるしかない。
何よりローラは、いずれ自分が治める国に必要不可欠な人間。
国の運営に姫がいなくては、国家として成り立たない。
将来的には国民の為にも生きてもらわねばならないからと、捲し立てる。
ローラに悪感情は抱いていなかった、でも愛に繋がるかは自分でも判断が付かない。
肝心の彼女が死んでしまっては確かめられない、だから生き返らせるしかない。
何よりローラは、いずれ自分が治める国に必要不可欠な人間。
国の運営に姫がいなくては、国家として成り立たない。
将来的には国民の為にも生きてもらわねばならないからと、捲し立てる。
「……」
さとうが自分をどんな目で見ているかも気付かず。
「…あのさ、本当はその人のこと別に愛してないよね」
何かが軋む音が聞こえた。
周りを見ても壊れた物は一つもない。
アレフ自身の内側が発した音と気付く前に、さとうが色を削いだ声で言う。
周りを見ても壊れた物は一つもない。
アレフ自身の内側が発した音と気付く前に、さとうが色を削いだ声で言う。
「ローラって人に旅に同行したいって言われた時、嫌じゃ無かったらしいけど。それ、ただ単にどうでも良かったからでしょ?」
「え……」
「気付いてないの?嫌じゃ無かったとか不快には感じなかったって言うだけで、あなたは一度も嬉しかったとは言ってない。
あなたにとってローラは別にいてもいなくても、どっちでもいい人でしかない。だから特に拒もうともしなかった、それだけの話だよ」
「え……」
「気付いてないの?嫌じゃ無かったとか不快には感じなかったって言うだけで、あなたは一度も嬉しかったとは言ってない。
あなたにとってローラは別にいてもいなくても、どっちでもいい人でしかない。だから特に拒もうともしなかった、それだけの話だよ」
心臓が痛いくらいに跳ね上がった。
違うと、たった二文字を返せばいいのにどうしてか言葉が出ない。
代わりに考える、さとうの言葉に考え込んでしまう。
ローラを助けた時、城まで抱き上げてくれるよう頼まれ承諾した。
想っているかと問われた時、頷きローラの心をときめかせた。
旅への同行を申し出た彼女を拒まず、いずれは二人で新たな国を治める筈だった。
違うと、たった二文字を返せばいいのにどうしてか言葉が出ない。
代わりに考える、さとうの言葉に考え込んでしまう。
ローラを助けた時、城まで抱き上げてくれるよう頼まれ承諾した。
想っているかと問われた時、頷きローラの心をときめかせた。
旅への同行を申し出た彼女を拒まず、いずれは二人で新たな国を治める筈だった。
全てローラが嫌いではない、自分が気付かないだけで愛していたから。
けど本当は違う、ローラに特別関心を抱いて無かっただけなのでは?
受け入れようが拒絶しようがどちらでも良く、さりとて嫌う理由も無かった。
だから流されるまま彼女の要求を呑んだという、酷くつまらないそれが真実。
けど本当は違う、ローラに特別関心を抱いて無かっただけなのでは?
受け入れようが拒絶しようがどちらでも良く、さりとて嫌う理由も無かった。
だから流されるまま彼女の要求を呑んだという、酷くつまらないそれが真実。
「ち、が……」
「でも、自分がそんな無関心な人間だって認めるのが嫌だ。それで国の為っていう理由を他に作った。良かったね、便利な言い訳が見付かって」
「でも、自分がそんな無関心な人間だって認めるのが嫌だ。それで国の為っていう理由を他に作った。良かったね、便利な言い訳が見付かって」
ローラを愛しているから殺し合いに乗った、そう言うのなら分かる。
政治的な事情でローラを蘇生させるしかない、それもまだ分かる。
しかし実際には好嫌ハッキリしないあやふやな理由と、自分を無理やり納得させる国の将来。
さとうの質問に答えながらも、仕方ないと自分へ言い聞かせる姿を見れば瞭然だ。
政治的な事情でローラを蘇生させるしかない、それもまだ分かる。
しかし実際には好嫌ハッキリしないあやふやな理由と、自分を無理やり納得させる国の将来。
さとうの質問に答えながらも、仕方ないと自分へ言い聞かせる姿を見れば瞭然だ。
「あなた、本当は誰も愛してないんでしょ?」
目に見えないその刃は、どんな呪文よりもアレフを痛め付けた。
「う……るさいっ!」
叫ぶ声は大きさの割に迫力が欠けている。
戯言を一笑に付すのではない、やめてくれという懇願にも似た悲痛さがあった。
対話に応じるべきじゃ無かったと、今更後悔しても遅い。
ただもうこれ以上、さとうの言葉を耳に入れたくなくて。
自分の大事な部分が砕けるのを防ぐべく剣を振り被り、
戯言を一笑に付すのではない、やめてくれという懇願にも似た悲痛さがあった。
対話に応じるべきじゃ無かったと、今更後悔しても遅い。
ただもうこれ以上、さとうの言葉を耳に入れたくなくて。
自分の大事な部分が砕けるのを防ぐべく剣を振り被り、
「何してるんだ!やめろーっ!!」
勇者の暴挙を止める者達が現れた。
◆◆◆
森を抜け租界エリアに出た丁度のそのタイミングだ。
卜部とドラえもんが主催者の放送を見たのは。
クルーゼと名乗った白い仮面の男は、羂索同様殺し合いに何の抵抗も抱いていない。
参加者達を焚き付ける内容に怒りを抱くも、画面越しの相手には睨む以外にできることもなく。
ガッチャという言葉を最後に放送は終了、何とも言えぬ後味の悪さだけだ残る。
卜部とドラえもんが主催者の放送を見たのは。
クルーゼと名乗った白い仮面の男は、羂索同様殺し合いに何の抵抗も抱いていない。
参加者達を焚き付ける内容に怒りを抱くも、画面越しの相手には睨む以外にできることもなく。
ガッチャという言葉を最後に放送は終了、何とも言えぬ後味の悪さだけだ残る。
「な、なんて奴だ…!」
「連中への怒りは直接会う時まで取っておこう。今はまず、目先の問題から片付けるしかない」
「連中への怒りは直接会う時まで取っておこう。今はまず、目先の問題から片付けるしかない」
憤るドラえもんを否定せず、かといって感情に身を任せもしない。
冷静さの欠如が如何に危険かは、ブリタニアとの戦争で嫌という程に知った。
正論と気遣いを織り交ぜた言葉を投げられれば、ドラえもんも幾分落ち着きを取り戻す。
大事件の際に自分がのび太達を宥める立場になることが多いが、今回はその逆。
卜部に感謝しつつ言われた通り、出来る範囲から始める。
冷静さの欠如が如何に危険かは、ブリタニアとの戦争で嫌という程に知った。
正論と気遣いを織り交ぜた言葉を投げられれば、ドラえもんも幾分落ち着きを取り戻す。
大事件の際に自分がのび太達を宥める立場になることが多いが、今回はその逆。
卜部に感謝しつつ言われた通り、出来る範囲から始める。
その卜部も、間髪入れずに始まった悪逆皇帝の演説に動揺を抱くのだが。
「ゼロ…!?一体何を……」
ルルーシュが島中のテレビをジャックし、参加者達の注目を集めた。
しかも内容は自身への隷属か敵対の二択を突き付けるという、余りにも挑戦的な内容。
いや、それだけなら驚きはしてもまだ受け入れられた。
単に力を誇示するだけじゃない、ルルーシュなりの狙いがあっての事だと考えられる。
今までも大胆な策に打って出たが、全て黒の騎士団の勝利へ繋げられたのだから。
ブリタニアへ王手(チェックメイト)掛ける手前まで行った手腕を、今更疑うつもりはない。
しかも内容は自身への隷属か敵対の二択を突き付けるという、余りにも挑戦的な内容。
いや、それだけなら驚きはしてもまだ受け入れられた。
単に力を誇示するだけじゃない、ルルーシュなりの狙いがあっての事だと考えられる。
今までも大胆な策に打って出たが、全て黒の騎士団の勝利へ繋げられたのだから。
ブリタニアへ王手(チェックメイト)掛ける手前まで行った手腕を、今更疑うつもりはない。
卜部が理解できないのは、ルルーシュが提示した自陣営に付くための条件。
黒の騎士団の構成員の首を持って来いと、ハッキリ参加者達に伝えた。
全く持って意味が分からない。
騎士団の者に召集を掛けるならまだしも、よりにもよって他の参加者の標的(ターゲット)にするなんて。
玉城ならこれも作戦の一つと楽観的に考えるかもしれないが、到底そうは思えない。
何故自分達を狩りの獲物に選んだのか、問い質したいが当人が傍にいないのがもどかしかった。
黒の騎士団の構成員の首を持って来いと、ハッキリ参加者達に伝えた。
全く持って意味が分からない。
騎士団の者に召集を掛けるならまだしも、よりにもよって他の参加者の標的(ターゲット)にするなんて。
玉城ならこれも作戦の一つと楽観的に考えるかもしれないが、到底そうは思えない。
何故自分達を狩りの獲物に選んだのか、問い質したいが当人が傍にいないのがもどかしかった。
「卜部さん大丈夫?あのルルーシュくんって、卜部さんが言ってたゼロって人だよね?」
「あ、ああ。その筈、なんだが……」
「あ、ああ。その筈、なんだが……」
困惑を隠せない様子を心配するドラえもんに、何とか思考を落ち着かせながら事情を話す。
どういう訳か、味方である自分達を敵として扱っていると。
説明を聞いたドラえもんは難しい顔で暫し唸り、一つの仮説を弾き出した。
22世紀のロボットだからこその考えだ。
どういう訳か、味方である自分達を敵として扱っていると。
説明を聞いたドラえもんは難しい顔で暫し唸り、一つの仮説を弾き出した。
22世紀のロボットだからこその考えだ。
あのルルーシュは卜部が知らない未来から来たルルーシュである。
放送前に出くわした総司令官が分かり易い例だ。
リルルとピッポの献身により3万年前に歴史改変が発生、メカトピアのロボット兵が一体残らず消滅したのは覚えている。
だが言動から察するに、総司令官は歴史改変により存在が消える前の時間から招かれたに違いない。
同様にルルーシュと卜部もまた、それぞれ異なる時間から呼ばれたのだろう。
リルルとピッポの献身により3万年前に歴史改変が発生、メカトピアのロボット兵が一体残らず消滅したのは覚えている。
だが言動から察するに、総司令官は歴史改変により存在が消える前の時間から招かれたに違いない。
同様にルルーシュと卜部もまた、それぞれ異なる時間から呼ばれたのだろう。
「だから卜部さんが知らない未来で、ルルーシュくんと卜部さんの仲間の人達に何かあったってことなんだろうけど…」
「その何かが原因で、ゼロは騎士団と敵対したのか…?」
「その何かが原因で、ゼロは騎士団と敵対したのか…?」
カラレスのように、殺し合いがブリタニアの仕組んだものと都合良く考える真似はしない。
明らかな異常事態だからこそ、ドラえもんの言う仮説も受け入れられる。
が、ルルーシュの言葉を信じるなら騎士団はゼロを裏切りシュナイゼルの傘下に付いた。
日本解放の要である自分達のトップを切り捨て、よりにもよってブリタニア皇族に首を垂れるとは。
何故そのような事態に陥った、裏切りを主導したのは一体誰だ。
藤堂や四聖剣の者達までもが加担し、ルルーシュが言ったように誇りを捨ててしまったのか。
明らかな異常事態だからこそ、ドラえもんの言う仮説も受け入れられる。
が、ルルーシュの言葉を信じるなら騎士団はゼロを裏切りシュナイゼルの傘下に付いた。
日本解放の要である自分達のトップを切り捨て、よりにもよってブリタニア皇族に首を垂れるとは。
何故そのような事態に陥った、裏切りを主導したのは一体誰だ。
藤堂や四聖剣の者達までもが加担し、ルルーシュが言ったように誇りを捨ててしまったのか。
(捕虜として捕まっている時に、何か唆されることを言われた…?いやそもそも、あのゼロが誰かに洗脳されてるって可能性も…)
どちらも無いとは言い切れない。
ギアスという超常の力を持つ者がルルーシュ以外にもいて、そいつの手で記憶を書き換えられたのか。
何故かブリタニア姓の皇帝を名乗り騎士団を敵視するのも、未来でゼロはブリタニアに洗脳されたからじゃあないのか。
可能性の話なら幾らでも出来るが、どれが正解かは卜部にも分からない。
ギアスという超常の力を持つ者がルルーシュ以外にもいて、そいつの手で記憶を書き換えられたのか。
何故かブリタニア姓の皇帝を名乗り騎士団を敵視するのも、未来でゼロはブリタニアに洗脳されたからじゃあないのか。
可能性の話なら幾らでも出来るが、どれが正解かは卜部にも分からない。
「……会って話を聞くしかないな」
やはり手っ取り早い方法は、ルルーシュ本人の下へ赴くこと。
直接顔を合わせ言葉を交わし見極めるのだ。
ルルーシュが語ったのは真実か否かを。
直接顔を合わせ言葉を交わし見極めるのだ。
ルルーシュが語ったのは真実か否かを。
幸い居場所なら本人から知らされた。
堂々と自分達の拠点を教えるくらいだ、厳重な守りを固めているに違いない。
不用意に近付くのは危険、それでも卜部は自身の考えを曲げるつもりは無かった。
ゼロに希望を託し散った一人の軍人として、彼の真意を確かめたい。
堂々と自分達の拠点を教えるくらいだ、厳重な守りを固めているに違いない。
不用意に近付くのは危険、それでも卜部は自身の考えを曲げるつもりは無かった。
ゼロに希望を託し散った一人の軍人として、彼の真意を確かめたい。
「すまんドラえもん。我儘に聞こえるかもしれないが、俺はゼロに会わなきゃならない」
「うん、ぼくもルルーシュくんは放って置けない。でもいきなり会うのは危ないんじゃないかなぁ…」
「うん、ぼくもルルーシュくんは放って置けない。でもいきなり会うのは危ないんじゃないかなぁ…」
心配は尤もだ。
前述の通りルルーシュも無策で待ち構えてはいない。
参加者が集まるまでの時間を活用し、テレビ局を要塞化してもおかしくはない。
対話だけで済むとは限らず、何が起こるか分からない以上相応の準備は必須。
少なくとも自分達二人だけで突っ込むのは、流石に無謀である。
前述の通りルルーシュも無策で待ち構えてはいない。
参加者が集まるまでの時間を活用し、テレビ局を要塞化してもおかしくはない。
対話だけで済むとは限らず、何が起こるか分からない以上相応の準備は必須。
少なくとも自分達二人だけで突っ込むのは、流石に無謀である。
となるとまずは仲間を集めるのが先決。
羂索に食って掛かった『仮面ライダーガッチャード』なる者のように、打倒主催者を目指す者も一定数参加している筈。
無論、殺し合いに巻き込まれた時点で参加者全員が被害者だ。
カラレスの時のように言葉で止まらない場合は、武力を行使する他ないが。
羂索に食って掛かった『仮面ライダーガッチャード』なる者のように、打倒主催者を目指す者も一定数参加している筈。
無論、殺し合いに巻き込まれた時点で参加者全員が被害者だ。
カラレスの時のように言葉で止まらない場合は、武力を行使する他ないが。
「ぼくはのび太くん達もいないから大丈夫だけど、卜部さんはルルーシュくん以外に会いたい人はいないの?」
「紅月とC.C.は巻き込まれていないし、知ってる奴もいるにはいるが…話せば分かる相手だとは思うがな」
「紅月とC.C.は巻き込まれていないし、知ってる奴もいるにはいるが…話せば分かる相手だとは思うがな」
ドラえもんの関係者は総司令官のみ、のび太達は参加を免れている。
様々な大事件に巻き込まれたとはいえ、まだ小学生の子ども。
殺し合いなんて凄惨な場にいないのには内心ホッとした。
様々な大事件に巻き込まれたとはいえ、まだ小学生の子ども。
殺し合いなんて凄惨な場にいないのには内心ホッとした。
卜部の知っている者はルルーシュを除くと枢木スザク一人。
名誉ブリタニア人の軍人で、白兜ことランスロットを駆る凄腕の騎士。
立場的には卜部と敵対しており、会えば警戒されるに違いない。
ただカラレスよりはまだ話の通じる相手だ、一時的な協力くらいは望めるかもしれない。
他に面識は無いがブリタニア姓のロロなる人物や、二代目ゼロと記載された者も気にはなる。
名誉ブリタニア人の軍人で、白兜ことランスロットを駆る凄腕の騎士。
立場的には卜部と敵対しており、会えば警戒されるに違いない。
ただカラレスよりはまだ話の通じる相手だ、一時的な協力くらいは望めるかもしれない。
他に面識は無いがブリタニア姓のロロなる人物や、二代目ゼロと記載された者も気にはなる。
(まさかとは思うが、この二代目ゼロが裏切りに関係してるのか?)
ゼロというコードネーム自体そう珍しくもないので、無関係の線も十分にある。
これについてはルルーシュ同様、直接会う以外に確認方法は現状無し。
これについてはルルーシュ同様、直接会う以外に確認方法は現状無し。
ともかく方針の決まった二人は近場で最も目を引く施設、コーカサスカブト城へ移動。
もしかしたら友好的な参加者が既に訪れているかもしれないと、一抹の期待を籠めて探索開始。
警戒しつつ進んだ先で聞こえて来たのは、何者かが争う穏やかじゃない音。
卜部の先導に従い駆け付けた先で、少女が殺される寸前の場面に出くわしたのだった。
もしかしたら友好的な参加者が既に訪れているかもしれないと、一抹の期待を籠めて探索開始。
警戒しつつ進んだ先で聞こえて来たのは、何者かが争う穏やかじゃない音。
卜部の先導に従い駆け付けた先で、少女が殺される寸前の場面に出くわしたのだった。
◆
一足遅かったと、卜部は悔しさを表情に滲ませる。
桃色の髪の少女の危機には間に合った、しかしもう一人は違う。
扉の下敷きになりピクリとも動かない、カレンと同年代と思われる別の少女。
血だまりに浸した銀髪は乾き、二度と元の艶やかさを取り戻せない。
またしても、無益な殺し合いの犠牲者が生まれるのを防げなかった。
桃色の髪の少女の危機には間に合った、しかしもう一人は違う。
扉の下敷きになりピクリとも動かない、カレンと同年代と思われる別の少女。
血だまりに浸した銀髪は乾き、二度と元の艶やかさを取り戻せない。
またしても、無益な殺し合いの犠牲者が生まれるのを防げなかった。
「どうしてあんな奴の言うことに従うんだ…!」
悔しいのは卜部だけではない、ドラえもんもやるせなさを声に乗せ叫ぶ。
恐竜ハンターや魔界の王、怪魚族など多くの敵と戦って来た。
でもこれは、羂索が自分達にやらせているのは友だちを守る為の戦いなんかじゃあない。
誰かの大切な人を奪うことを強要する最悪の所業。
死んでしまってはそこで終わりだ、緑の星のシラーのように過ちに気付く機会すら得られない。
殺し合いなんかしたって、最後に残るのが良いものな訳ないのに。
恐竜ハンターや魔界の王、怪魚族など多くの敵と戦って来た。
でもこれは、羂索が自分達にやらせているのは友だちを守る為の戦いなんかじゃあない。
誰かの大切な人を奪うことを強要する最悪の所業。
死んでしまってはそこで終わりだ、緑の星のシラーのように過ちに気付く機会すら得られない。
殺し合いなんかしたって、最後に残るのが良いものな訳ないのに。
自分達が間に合わなかった事実を噛み締め、もうこれ以上は好きにさせないと構える。
決意を固め直す乱入者達を横目で見つつ、極めて冷静に頭を回すのはさとうだ。
こういった展開もあり得るとは思っていたが、本当に起こるとは。
片方は青いタヌキだか達磨だかよく分からない見た目だけど、何にせよ好都合。
今正に殺されそうになっている自分と、物言わぬ屍を利用しない手はない。
決意を固め直す乱入者達を横目で見つつ、極めて冷静に頭を回すのはさとうだ。
こういった展開もあり得るとは思っていたが、本当に起こるとは。
片方は青いタヌキだか達磨だかよく分からない見た目だけど、何にせよ好都合。
今正に殺されそうになっている自分と、物言わぬ屍を利用しない手はない。
「ふ、二人とも気を付けてください!この人がいきなり襲って来て、アリサちゃんも……」
卜部達に警戒を促し、怯えと悲しみの混じった仮面を装着。
倒れ伏す少女へ視線を向ける姿は、善良な参加者の同情を誘うだろう。
別に嘘は言ってない。
アーリャを殺したのは自分では無くアレフだし、突然隣の部屋から剣を突き刺したのも本当。
正直言って、もしアレフが現れずアーリャが自分を行かせまいと邪魔を続けたら。
こっちだって実力行使も辞さないし、その結果殺すことになっても構わなかった。
現実にはそうならず、アーリャとは別の相手にいらぬ時間を食わされたが。
しかし乱入者達の存在が現状を変える良い切っ掛けとなる。
倒れ伏す少女へ視線を向ける姿は、善良な参加者の同情を誘うだろう。
別に嘘は言ってない。
アーリャを殺したのは自分では無くアレフだし、突然隣の部屋から剣を突き刺したのも本当。
正直言って、もしアレフが現れずアーリャが自分を行かせまいと邪魔を続けたら。
こっちだって実力行使も辞さないし、その結果殺すことになっても構わなかった。
現実にはそうならず、アーリャとは別の相手にいらぬ時間を食わされたが。
しかし乱入者達の存在が現状を変える良い切っ掛けとなる。
さとうの忠告を受け、卜部達の視線は自然とアレフに向かう。
特に目を引くのは両手に持ったロトの剣。
刀身には未だアーリャの血液が付着しており、動かぬ証拠となる。
尤も、卜部の方はさとうが全くのシロだとは思っていない。
実は彼女こそがアーリャを殺し、罪をアレフに擦り付けた可能性とて現段階で否定材料は無い。
特に目を引くのは両手に持ったロトの剣。
刀身には未だアーリャの血液が付着しており、動かぬ証拠となる。
尤も、卜部の方はさとうが全くのシロだとは思っていない。
実は彼女こそがアーリャを殺し、罪をアレフに擦り付けた可能性とて現段階で否定材料は無い。
「彼女が言っているのは事実なのか?」
「…ああそうだよ。僕が、そこに転がってる女の子を刺した」
「…ああそうだよ。僕が、そこに転がってる女の子を刺した」
といっても、犯人がアッサリ自供し杞憂で済んだ。
アレフからすれば殺し合いに乗ってるのは本当のこと、アーリャ殺害を誤魔化す理由も無し。
もし狡猾に動くタイプならさとうこそが犯人と罪をでっち上げたかもしれないが、精神的な余裕の無さから目を背け殺し合いに乗った。
だから問いかけにもどこか投げやり気味に頷いたのである。
アレフからすれば殺し合いに乗ってるのは本当のこと、アーリャ殺害を誤魔化す理由も無し。
もし狡猾に動くタイプならさとうこそが犯人と罪をでっち上げたかもしれないが、精神的な余裕の無さから目を背け殺し合いに乗った。
だから問いかけにもどこか投げやり気味に頷いたのである。
そして割って入ったなら卜部達を見逃す気も無い。
さとうが原因で大いに揺さぶられたものの、優勝を目指すという方針は変わらない。
仕掛ける前にこっちから先手を打つ。
剣を持つのとは反対の手を翳し、呪文を唱えた。
さとうが原因で大いに揺さぶられたものの、優勝を目指すという方針は変わらない。
仕掛ける前にこっちから先手を打つ。
剣を持つのとは反対の手を翳し、呪文を唱えた。
「ドカン!」
「ぐっ!?」
「ぐっ!?」
掌に収束した炎は敵を炙る前に霧散。
肩を襲った鈍痛に攻撃が阻止され、咄嗟に退きながら警戒を強める。
竜王討伐の旅では見かけなかった青い魔物が、筒のような物を向けていた。
肩を襲った鈍痛に攻撃が阻止され、咄嗟に退きながら警戒を強める。
竜王討伐の旅では見かけなかった青い魔物が、筒のような物を向けていた。
のび太程の天才的な射撃センスは無い、しかしドラえもんだって多くの戦いを経験し悪を打ち倒したロボット。
使い慣れたひみつ道具が手にあるのなら、先手を取るのも決して不可能じゃあない。
使い慣れたひみつ道具が手にあるのなら、先手を取るのも決して不可能じゃあない。
ドラえもんだけに戦闘を押し付けはしないと、卜部も起動鍵を使用。
ナイトメアフレーム・月下をパワードスーツとして装着、愛刀片手に斬り込む。
脚部に取り付けられたホイール、ランドスピナーが高速回転し移動速度を爆発的に引き上げる。
等身大のサイズに落とし込まれても、機動性の高さは健在だ。
ナイトメアフレーム・月下をパワードスーツとして装着、愛刀片手に斬り込む。
脚部に取り付けられたホイール、ランドスピナーが高速回転し移動速度を爆発的に引き上げる。
等身大のサイズに落とし込まれても、機動性の高さは健在だ。
タイガ以上の重厚な鎧でありながら、名馬よりも速い。
突進の勢いを乗せた剣の前に生半可な防御は無意味、綿埃のように散らされるだけ。
なれど此度の敵は世界を救ってみせた勇者。
真っ向から叩きつけられた刀を受け止め、鍔迫り合いに持ち込む。
突進の勢いを乗せた剣の前に生半可な防御は無意味、綿埃のように散らされるだけ。
なれど此度の敵は世界を救ってみせた勇者。
真っ向から叩きつけられた刀を受け止め、鍔迫り合いに持ち込む。
刃同士が噛み付き合い、牙を突き立てキリキリと不快な音を鳴らす。
腕の力を抜かないままグリップ部分を操作、卜部の得物の刀身が回転。
無頼・改の頃より使い続けた装備、廻転刃刀はチェンソーのように削り取る攻撃も可能。
武器を破壊し敵の戦力低下、及び戦意喪失を狙う。
腕の力を抜かないままグリップ部分を操作、卜部の得物の刀身が回転。
無頼・改の頃より使い続けた装備、廻転刃刀はチェンソーのように削り取る攻撃も可能。
武器を破壊し敵の戦力低下、及び戦意喪失を狙う。
だが卜部の予想を裏切り、火花を散らすばかりで一向に武器は壊れない。
小さな亀裂すら付けられないが、それも当然である。
アレフが振るうのはロトの剣、竜王の強固な鱗すら切り裂く勇者の証。
そこいらの道具屋で手に入る武器とは、一線を画す強度と切れ味を誇る。
小さな亀裂すら付けられないが、それも当然である。
アレフが振るうのはロトの剣、竜王の強固な鱗すら切り裂く勇者の証。
そこいらの道具屋で手に入る武器とは、一線を画す強度と切れ味を誇る。
武器は壊れず、互いに剣を押し込めず拮抗。
膠着状態はどちらにとっても望む所ではなく、先に動いたのはアレフ。
自分から腕の力を緩め真横に倒れ、床を転がって死角へ回り込む。
一方力の当て所を急に失った卜部は前のめりになり、対処に遅れが生じる。
立て直される前に仕留めるべく、無防備な背に刃が振るわれた。
膠着状態はどちらにとっても望む所ではなく、先に動いたのはアレフ。
自分から腕の力を緩め真横に倒れ、床を転がって死角へ回り込む。
一方力の当て所を急に失った卜部は前のめりになり、対処に遅れが生じる。
立て直される前に仕留めるべく、無防備な背に刃が振るわれた。
「ドカン!ドカン!ドカン!」
阻止に動いたのはアレフには無く、卜部にはある存在。
志を共にする仲間、ドラえもんが空気砲で援護射撃を行う。
刀身が弾かれるや否や即座に跳び退く。
見えない何かが命中し、痛い思いをするのは最初の一発で十分だ。
志を共にする仲間、ドラえもんが空気砲で援護射撃を行う。
刀身が弾かれるや否や即座に跳び退く。
見えない何かが命中し、痛い思いをするのは最初の一発で十分だ。
(聞いた事のない呪文だけど、衝撃波を放っているのか?)
攻撃の際に必ず「ドカン」と口にしている為、自分の知らない呪文の類かと警戒。
実際には魔法と無関係の科学技術の産物だが、少なくとも今のアレフが知る由は無かった。
実際には魔法と無関係の科学技術の産物だが、少なくとも今のアレフが知る由は無かった。
「ギラ!」
呪文には呪文とばかりに詠唱、ドラえもん目掛けて火球が放たれる。
22世紀のロボットだけあって人間よりは頑丈なれど、ダメージにならない訳ではない。
普通であれば回避一択であるもドラえもんには好都合だ。
ひらりマントを取り出し、闘牛士を思わせるフォームで振るう。
22世紀のロボットだけあって人間よりは頑丈なれど、ダメージにならない訳ではない。
普通であれば回避一択であるもドラえもんには好都合だ。
ひらりマントを取り出し、闘牛士を思わせるフォームで振るう。
跳ね返った火球は呪文を唱えたアレフの元へと逆戻り。
そんな道具まであるのかとの驚きは一瞬に留め、次の瞬間にはドラえもんを標的に疾走。
眼前へ迫った火球を斬り落とし、青い体を細切れにすべく斬り掛かる。
そんな道具まであるのかとの驚きは一瞬に留め、次の瞬間にはドラえもんを標的に疾走。
眼前へ迫った火球を斬り落とし、青い体を細切れにすべく斬り掛かる。
「させるか…!」
ピンチの場面を仲間に救われたなら、今度は自分の番だ。
ランドスピナーが床を削り取り、ロトの剣の前に己が身を割り込ませる。
斜め下からの斬り上げが剣を弾き、がら空きの胴体が完成。
再度振り下ろすまでに数秒あるかも不明な猶予を無駄にせず、脚部を唸らせ蹴り付けた。
無論死なないように加減をした上で、だ。
そうでなければ鎧が砕かれるのみならず、骨も内臓も豆腐のように飛び散ってしまう。
ランドスピナーが床を削り取り、ロトの剣の前に己が身を割り込ませる。
斜め下からの斬り上げが剣を弾き、がら空きの胴体が完成。
再度振り下ろすまでに数秒あるかも不明な猶予を無駄にせず、脚部を唸らせ蹴り付けた。
無論死なないように加減をした上で、だ。
そうでなければ鎧が砕かれるのみならず、骨も内臓も豆腐のように飛び散ってしまう。
「なに!?」
そんな懸念も無意味となるが。
足底が叩きつけられる寸前で跳躍、伸ばされた右脚を踏み付け更に高く跳ぶ。
卜部の頭上を跳び越えたアレフが睨む先にはドラえもん。
強張った顔で右手を向けるも遅い、横薙ぎの一閃で真っ二つに切り裂く。
足底が叩きつけられる寸前で跳躍、伸ばされた右脚を踏み付け更に高く跳ぶ。
卜部の頭上を跳び越えたアレフが睨む先にはドラえもん。
強張った顔で右手を向けるも遅い、横薙ぎの一閃で真っ二つに切り裂く。
「うわああああっ!?」
吹き飛ぶ青い体を視界に捉え、仕留められなかったと奥歯を嚙み締める。
咄嗟に右腕を盾にし、両断を防いだのだろう。
今度こそと追いかけようにも、もう一人が許さない。
振り返るや否や接近する気配に剣を突き出せば、敵も刀を以て迎え撃つ。
咄嗟に右腕を盾にし、両断を防いだのだろう。
今度こそと追いかけようにも、もう一人が許さない。
振り返るや否や接近する気配に剣を突き出せば、敵も刀を以て迎え撃つ。
「いたたた…」
数度のバウンドを経てようやく止まり、ドラえもんは頭部をさする。
空気砲を撃つのは間に合わないと察し、急所を庇った為助かった。
人間だったら地面に叩きつけられた時点で負傷は軽くないだろうけど、ロボット故に稼働への支障も無い。
と言っても、流石に何の代償も払わずに済んだとはいかないが。
空気砲を撃つのは間に合わないと察し、急所を庇った為助かった。
人間だったら地面に叩きつけられた時点で負傷は軽くないだろうけど、ロボット故に稼働への支障も無い。
と言っても、流石に何の代償も払わずに済んだとはいかないが。
「あ、く、空気砲が…!」
勇者の繰り出す一撃を防ぎ、右手の筒は最早使い物にならない。
破損個所から落ちた部品がそこらへ散らばり、これで撃っても暴発間違いなしだ。
武器を一つ失ったが、幸い卜部から譲ってもらった復元光線がある。
急いで取り出し光を当て、三つ目の支給品も使う。
破損個所から落ちた部品がそこらへ散らばり、これで撃っても暴発間違いなしだ。
武器を一つ失ったが、幸い卜部から譲ってもらった復元光線がある。
急いで取り出し光を当て、三つ目の支給品も使う。
「よーし!待ってて卜部さん!」
チータローションはまだまだ残量に余裕があった。
両足に塗りたくって駆け出せば、名前の通りチーターにも引けを取らないスピードを発揮。
効果時間が短い為、速いからといって1秒も無駄には出来ない。
卜部と剣戟を繰り広げる真っ最中のアレフが気付いた時には、もう間近へ迫った後。
何故これ程の速さをと驚愕しながらも、体は対処に動く。
剣を振るう手は止めず、反対の手で呪文を放とうと翳し、
両足に塗りたくって駆け出せば、名前の通りチーターにも引けを取らないスピードを発揮。
効果時間が短い為、速いからといって1秒も無駄には出来ない。
卜部と剣戟を繰り広げる真っ最中のアレフが気付いた時には、もう間近へ迫った後。
何故これ程の速さをと驚愕しながらも、体は対処に動く。
剣を振るう手は止めず、反対の手で呪文を放とうと翳し、
(駄目だ!速過ぎる…!)
これは間に合わないと急遽回避へ変更。
攻撃が外れれば無駄にMPを消費するばかりか、敵へむざむざ隙を晒すのに繋がる。
後方へと大きく身を躍らせ、一手遅れて聞こえた「ドカン」という声。
またもや呪文を唱えた、そう脳が認識する前に体が防御の体勢を取った。
棍棒で叩かれたのにも似た衝撃が刀身を襲い、間髪入れず背後へと剣を翳す。
敵は尋常ならざる速さを駆使し、一瞬で自分の後ろを取ったのだと肌を突き刺す敵意が教える。
目だけに頼ってはいられない、魔物との戦いで磨かれた感覚を総動員させねば。
背後の次は真横、その次は右斜め上、今度は頭上と位置を変えて衝撃波が襲い掛かった。
攻撃が外れれば無駄にMPを消費するばかりか、敵へむざむざ隙を晒すのに繋がる。
後方へと大きく身を躍らせ、一手遅れて聞こえた「ドカン」という声。
またもや呪文を唱えた、そう脳が認識する前に体が防御の体勢を取った。
棍棒で叩かれたのにも似た衝撃が刀身を襲い、間髪入れず背後へと剣を翳す。
敵は尋常ならざる速さを駆使し、一瞬で自分の後ろを取ったのだと肌を突き刺す敵意が教える。
目だけに頼ってはいられない、魔物との戦いで磨かれた感覚を総動員させねば。
背後の次は真横、その次は右斜め上、今度は頭上と位置を変えて衝撃波が襲い掛かった。
「良い援護だ…!」
アレフが相手取るのはドラえもんのみに非ず。
的確な援護を感謝し卜部も突撃、空気砲を防いだ直後を狙う。
忌々しいタイミングでの攻撃をどうにか躱し、間を置かずに別方向から空気砲が発射。
それを凌げばまた違う位置から卜部、次は空気砲と絶え間なく攻め立てる。
カラレス相手にもやった、機動力を活かした単純ながら効果的な戦法だ。
的確な援護を感謝し卜部も突撃、空気砲を防いだ直後を狙う。
忌々しいタイミングでの攻撃をどうにか躱し、間を置かずに別方向から空気砲が発射。
それを凌げばまた違う位置から卜部、次は空気砲と絶え間なく攻め立てる。
カラレス相手にもやった、機動力を活かした単純ながら効果的な戦法だ。
「ぐ…う…!」
刃と空気砲の連撃に堪らず、防御を取ったまま吹き飛ばされる。
みっともなく地面を転がる前に受け身を取り、素早く剣を構え直し敵と睨み合う。
チータローションの効果が切れ、卜部の横にドラえもんが並ぶ。
互いに仕切り直す時間が生まれると、見計らってか卜部は問い掛ける。
みっともなく地面を転がる前に受け身を取り、素早く剣を構え直し敵と睨み合う。
チータローションの効果が切れ、卜部の横にドラえもんが並ぶ。
互いに仕切り直す時間が生まれると、見計らってか卜部は問い掛ける。
「今からでも殺し合いに乗るのを止めて、共に羂索達と戦う気はないか?」
「…なんだって?」
「…なんだって?」
予想だにしなかった提案へ思わず聞き返す。
自分が既に一人殺したのは彼だって分かってるだろうに。
本気で殺そうと襲い掛かった相手を、今更言葉でどうにかできると本気で考えているのか。
馬鹿げてるとしか言いようがない。
自分が既に一人殺したのは彼だって分かってるだろうに。
本気で殺そうと襲い掛かった相手を、今更言葉でどうにかできると本気で考えているのか。
馬鹿げてるとしか言いようがない。
「確かにあの娘を殺した件は許されないが、俺にはお前が、好き好んで殺し合いに乗ったとは思えないんだ」
羂索の言い成りになり、参加者を殺して回る危険な者。
カラレスや総司令官と同じと言われれば否定できないが、彼らとは異なる点がアレフには見られた。
彼は気付いているのか、戦っている最中ずっと自分がどんな顔をしていたかを。
目を見張る強さとは裏腹に酷く弱々しい、絶望を味わった表情だ。
イレブンと蔑まれ、差別と暴力に晒され、終わりの見えない悪夢の日々に怯える日本人達とよく似ている。
カラレスや総司令官と同じと言われれば否定できないが、彼らとは異なる点がアレフには見られた。
彼は気付いているのか、戦っている最中ずっと自分がどんな顔をしていたかを。
目を見張る強さとは裏腹に酷く弱々しい、絶望を味わった表情だ。
イレブンと蔑まれ、差別と暴力に晒され、終わりの見えない悪夢の日々に怯える日本人達とよく似ている。
「何がそこまでお前を追い詰めたのか、俺には分からない。だがお前にはきっと、助けが必要な筈だ」
「……はは」
「……はは」
顔は見えずとも声で真剣なのだと分かり、アレフはつい乾いた笑いを漏らす。
別に相手を馬鹿にする意図があったのではない。
ただ、アレフにとっては初めての経験なのだ。
国民は自分に助けを乞うばかりで、協力を申し出る者は一人もいなかった。
王は姫の救出や魔王討伐を急かし、ロクな支援をしてくれなかった。
ローラは自分を愛してくれたけど、共に戦う仲間とは到底言い難い。
だから卜部のように、助けを求めるのでなく助けようとする人間に会ったのは殺し合いが最初。
別に相手を馬鹿にする意図があったのではない。
ただ、アレフにとっては初めての経験なのだ。
国民は自分に助けを乞うばかりで、協力を申し出る者は一人もいなかった。
王は姫の救出や魔王討伐を急かし、ロクな支援をしてくれなかった。
ローラは自分を愛してくれたけど、共に戦う仲間とは到底言い難い。
だから卜部のように、助けを求めるのでなく助けようとする人間に会ったのは殺し合いが最初。
もし、もしもの話になるが。
嘗ての旅でたった一人でも仲間と呼べる者がいたら。
肩を並べて戦い、共に勝利を分かち合い、時には弱音を吐き合える存在がいたら。
竜王に選択を迫られた時も勇者としての使命ではなく、仲間を裏切りたくないという、もっと人間らしい考えで「いいえ」と答えられたのか。
自分が人として何処か欠如していると、思わずに済んだのだろうか。
嘗ての旅でたった一人でも仲間と呼べる者がいたら。
肩を並べて戦い、共に勝利を分かち合い、時には弱音を吐き合える存在がいたら。
竜王に選択を迫られた時も勇者としての使命ではなく、仲間を裏切りたくないという、もっと人間らしい考えで「いいえ」と答えられたのか。
自分が人として何処か欠如していると、思わずに済んだのだろうか。
「でも、もう遅いんだ」
そんな仲間はいなかった。
自分は既に選んでしまった。
別の選択をしていたらとどれだけ思っても、過ぎた時は戻せない。
一度選べば選ばなかったもう一つの道は可能性に留まり、二度とそちらには行けない。
自分は既に選んでしまった。
別の選択をしていたらとどれだけ思っても、過ぎた時は戻せない。
一度選べば選ばなかったもう一つの道は可能性に留まり、二度とそちらには行けない。
だから、今更引き返せない。
例え目を逸らす為だとしても、選んだ答えを無かったことには出来ない。
優勝してローラを生き返らせる、アレフ自身がそう決めたのだから。
例え目を逸らす為だとしても、選んだ答えを無かったことには出来ない。
優勝してローラを生き返らせる、アレフ自身がそう決めたのだから。
○
二人と一体の戦闘に巻き込まれないようにしつつ、さとうはアーリャの死体へ近付く。
後で弔おうだとかそんな無駄なことの為ではない。
アーリャは死んだが彼女の支給品は手付かずで放置されたまま。
自分から意識が外れた今こそ、回収する絶好のチャンス。
死に際にアタッシュがどうのと呟いたのは確かに聞いた。
わざわざあの状況で、「助けて」や「死にたくない」よりも優先して言い残したのだ。
何らかの役立つ支給品である可能性は高い。
後で弔おうだとかそんな無駄なことの為ではない。
アーリャは死んだが彼女の支給品は手付かずで放置されたまま。
自分から意識が外れた今こそ、回収する絶好のチャンス。
死に際にアタッシュがどうのと呟いたのは確かに聞いた。
わざわざあの状況で、「助けて」や「死にたくない」よりも優先して言い残したのだ。
何らかの役立つ支給品である可能性は高い。
(私に必要かは知らないけど)
アーリャの最期に思うものは無く、けれど残った道具は有効に使わせてもらう。
ついでに装着されたままのレジスター、これも手に入れておけばルルーシュへの献上品になるだろう。
アレフの相手は乱入して来た男と青いタヌキに任せ、さっさと城を出れば良い。
ついでに装着されたままのレジスター、これも手に入れておけばルルーシュへの献上品になるだろう。
アレフの相手は乱入して来た男と青いタヌキに任せ、さっさと城を出れば良い。
さとうは殺し合いに乗っていない。
少なくともしおの生存が確認されている間は、優勝の選択を選ばない。
しかし他の参加者と協力し、羂索達を倒すつもりも皆無。
自分としお、二人揃っての生還さえ叶えれば良いのだから。
少なくともしおの生存が確認されている間は、優勝の選択を選ばない。
しかし他の参加者と協力し、羂索達を倒すつもりも皆無。
自分としお、二人揃っての生還さえ叶えれば良いのだから。
かといって自分一人の力でしおを探し出し、脱出方法を見付けるのが如何に困難かも理解している。
となれば他の参加者との協力も要所要所で求められるに違いない。
尤も、手を組むのが誰でも良いのかと言われれば否。
卜部やドラえもん、先のアーリャのような真っ当な倫理観の善良な参加者では駄目だ。
となれば他の参加者との協力も要所要所で求められるに違いない。
尤も、手を組むのが誰でも良いのかと言われれば否。
卜部やドラえもん、先のアーリャのような真っ当な倫理観の善良な参加者では駄目だ。
さとうにとっての最優先はしおの安全確保。
その為なら殺しを始めどんな手を使うのにも抵抗は無い。
当然、幾らしおを守る為とはいえそのような手に出るのを誰もが良しとはしない。
アーリャと同じく馬鹿な真似はさせないとでも言いた気に、邪魔をするのが目に見えている。
危険な参加者の相手を押し付けるだけならまだしも、こちらの障害にもなり兼ねないのだ。
その為なら殺しを始めどんな手を使うのにも抵抗は無い。
当然、幾らしおを守る為とはいえそのような手に出るのを誰もが良しとはしない。
アーリャと同じく馬鹿な真似はさせないとでも言いた気に、邪魔をするのが目に見えている。
危険な参加者の相手を押し付けるだけならまだしも、こちらの障害にもなり兼ねないのだ。
だからこそルルーシュは都合の良い相手だった。
殺し合いに乗っておらず、尚且つ勝利の為には手段を選ばない。
しおとの生活を守る為に異常性癖の男を利用していたが、ルルーシュの危険性はその比ではない。
同時にあの手のタイプは、結果を出せばとやかく文句を言わない筈。
しおと二人での生還に向けてルルーシュやルルーシュの勢力を利用し、向こうも向こうで打倒羂索の駒に自分を利用する。
だから加入の条件とは少々違うもカードデッキと、アーリャの残したアタッシュケース。
それともう一つ、彼女のレジスターを持って行けば功績が認められ幾らか融通が利くかもしれない。
殺し合いに乗っておらず、尚且つ勝利の為には手段を選ばない。
しおとの生活を守る為に異常性癖の男を利用していたが、ルルーシュの危険性はその比ではない。
同時にあの手のタイプは、結果を出せばとやかく文句を言わない筈。
しおと二人での生還に向けてルルーシュやルルーシュの勢力を利用し、向こうも向こうで打倒羂索の駒に自分を利用する。
だから加入の条件とは少々違うもカードデッキと、アーリャの残したアタッシュケース。
それともう一つ、彼女のレジスターを持って行けば功績が認められ幾らか融通が利くかもしれない。
卜部達は戦闘に集中しており、こっちへ気を回す素振りも無い。
早急に手首を斬り落として、彼らとはおさらばしようとし――
早急に手首を斬り落として、彼らとはおさらばしようとし――
「はーい、そこまで♪」
全身を虫が這いずり回るような、寒気のする声で囁かれた。
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