早朝の冷えた空気が徐々に熱を増し、素肌を適度に暖めてくれるだろう頃。
大小様々な建造物が並び立つエリアに広まるのは、行き交う人々の喧騒。
ではなく、風の音一つしない静寂。
遅刻回避をすべく息を切らせて走る学生はいない。
退勤時刻までの数時間に、憂鬱さを隠せない社会人もいない。
交通ルール等知った事かと自転車を乗り回す若者や、苛立たし気にクラクションを鳴らすドライバーだって皆無。
大都会を大都会たらしめる筈の人々がおらず、物言わぬビル群だけが墓標のように建てられた場所。
嘗ては最強の片割れの、今はアビドス生徒会会長の肉体を器とする怪物、羂索が用意した箱庭の一画にて。
エンジン音を唸らせながら、二人の犠牲者(プレイヤー)が現れた。
大小様々な建造物が並び立つエリアに広まるのは、行き交う人々の喧騒。
ではなく、風の音一つしない静寂。
遅刻回避をすべく息を切らせて走る学生はいない。
退勤時刻までの数時間に、憂鬱さを隠せない社会人もいない。
交通ルール等知った事かと自転車を乗り回す若者や、苛立たし気にクラクションを鳴らすドライバーだって皆無。
大都会を大都会たらしめる筈の人々がおらず、物言わぬビル群だけが墓標のように建てられた場所。
嘗ては最強の片割れの、今はアビドス生徒会会長の肉体を器とする怪物、羂索が用意した箱庭の一画にて。
エンジン音を唸らせながら、二人の犠牲者(プレイヤー)が現れた。
世界の破壊者との戦闘を、相手の撤退という形で終わらせたチェイスと果穂。
道中で新たなトラブルに遭遇、といった展開も起こりはせず。
精々がNPCとすれ違った程度であり、それについてもバイクには追い付けず撒かれた為戦闘にはならない。
アッシュフォード学園が遠くの景色の一部になって、早数十分。
ちょっとした朝のドライブを味わっていた。
道中で新たなトラブルに遭遇、といった展開も起こりはせず。
精々がNPCとすれ違った程度であり、それについてもバイクには追い付けず撒かれた為戦闘にはならない。
アッシュフォード学園が遠くの景色の一部になって、早数十分。
ちょっとした朝のドライブを味わっていた。
(悪くない性能だな)
運転に集中する傍ら、己が動かす機体に感心を抱く。
プロトドライブ時代からの愛機程では無いが、乗り心地は悪くない。
人であれば苦戦するだろうじゃじゃ馬も、ロイミュードの身体能力を活かせば無問題。
慣れない機体とハンドルの感触に最初こそ違和感を抱いたが、乗りこなすのに時間は掛からなかった。
プロトドライブ時代からの愛機程では無いが、乗り心地は悪くない。
人であれば苦戦するだろうじゃじゃ馬も、ロイミュードの身体能力を活かせば無問題。
慣れない機体とハンドルの感触に最初こそ違和感を抱いたが、乗りこなすのに時間は掛からなかった。
渋滞とは無縁の道路を突っ切り、歩道橋の真下を潜り抜ける。
人が住まう街なのに、肝心の人が存在しない。
殺し合いに巻き込まれなければ一生見なかった筈の光景を、不思議な気持ちで果穂は見やる。
日常から連れ出された非日常の世界がヘルメット越しに映り、自分が異様な催しに巻き込まれたと強く意識させた。
首謀者達を止める決意に偽りは無く、しかし恐怖は完全に消えない。
意識してか或いは無意識の内にか、彼の腰に回した腕に少しだけ力が籠る。
父や兄、プロデューサーといった者達よりも共にした時間は短い。
けれど心からの信頼を、互いに向け合える彼が傍にいてくれる。
その事実が恐怖心を和らげてくれた。
人が住まう街なのに、肝心の人が存在しない。
殺し合いに巻き込まれなければ一生見なかった筈の光景を、不思議な気持ちで果穂は見やる。
日常から連れ出された非日常の世界がヘルメット越しに映り、自分が異様な催しに巻き込まれたと強く意識させた。
首謀者達を止める決意に偽りは無く、しかし恐怖は完全に消えない。
意識してか或いは無意識の内にか、彼の腰に回した腕に少しだけ力が籠る。
父や兄、プロデューサーといった者達よりも共にした時間は短い。
けれど心からの信頼を、互いに向け合える彼が傍にいてくれる。
その事実が恐怖心を和らげてくれた。
「む…?」
進路を変えずに南下し、探索を決めた目的地に到着。
といった当初の予定はどうやら、ここに来て変更となるかもしれない。
チェイスの内部センサーがこちらへ迫る存在を探知。
バイクを止め周囲を見渡すも、人が隠れている気配は無し。
ではどこからと、首を捻るまでもなく向こうから答えが返って来た。
といった当初の予定はどうやら、ここに来て変更となるかもしれない。
チェイスの内部センサーがこちらへ迫る存在を探知。
バイクを止め周囲を見渡すも、人が隠れている気配は無し。
ではどこからと、首を捻るまでもなく向こうから答えが返って来た。
「――――!!――――!」
声らしき、甲高い音が聞こえた。
発生源は即座に特定、太陽と雲が居座る天へと視線を移動
チェイスのみならず果穂も同じようで、ギョッとし頭上を見やる。
発生源は即座に特定、太陽と雲が居座る天へと視線を移動
チェイスのみならず果穂も同じようで、ギョッとし頭上を見やる。
「ピンクの鳥…ですか?」
「いや違う、あれは……」
「いや違う、あれは……」
何かが飛んでいる。
鳥かと思ったが羽は無い、NPCのモンスターだとしてもどこか不自然。
というかアレは飛んでいるんじゃなく、落ちていると言った方が正しい。
鳥かと思ったが羽は無い、NPCのモンスターだとしてもどこか不自然。
というかアレは飛んでいるんじゃなく、落ちていると言った方が正しい。
「そこの二人ーっ!!お願い避けてぇええええええええええっ!!!」
人が落ちて来た。
高層ビルよりも遥かに高い位置から、ロケットもかくやの急降下。
下にあるのは水を張った広いプールではなく、赤い花を咲かせる為の無慈悲なアスファルト。
声の主を瞳が映し出し、5秒と掛けずに情報を割り出す。
ピンク色の衣装を着た少女と、彼女に抱きしめられたもう一人の少女。
後者は身動ぎせず、だが生体反応はあり。
一方前者は涙目で大慌てしながらも、腕の力を緩める気配は見られない。
むしろどうにか体勢を変えて、少女を激突から守ろうと奮戦の真っ最中。
ダイナミックな自殺を決行したのではない、そこまで分かれば何をやるかは決まった。
高層ビルよりも遥かに高い位置から、ロケットもかくやの急降下。
下にあるのは水を張った広いプールではなく、赤い花を咲かせる為の無慈悲なアスファルト。
声の主を瞳が映し出し、5秒と掛けずに情報を割り出す。
ピンク色の衣装を着た少女と、彼女に抱きしめられたもう一人の少女。
後者は身動ぎせず、だが生体反応はあり。
一方前者は涙目で大慌てしながらも、腕の力を緩める気配は見られない。
むしろどうにか体勢を変えて、少女を激突から守ろうと奮戦の真っ最中。
ダイナミックな自殺を決行したのではない、そこまで分かれば何をやるかは決まった。
「チェイスさ――」
後部座席の少女が言い切るより早く跳躍。
魔進チェイサーに変身時程ではないが、ただの人間では発揮不可能な運動能力だ。
避けてと言ったのに自分からぶつかりに来た相手へ、ピンク少女の混乱が増す。
激突は最早避けられない、とはならずに済むのだが。
魔進チェイサーに変身時程ではないが、ただの人間では発揮不可能な運動能力だ。
避けてと言ったのに自分からぶつかりに来た相手へ、ピンク少女の混乱が増す。
激突は最早避けられない、とはならずに済むのだが。
「ひゃっ!?」
耐え難い激痛への悲鳴や、肉が潰れる生々しい音に非ず。
素っ頓狂な声がピンク少女の口から飛び出る。
驚きと、快楽の残滓によるものとは本人以外知らない。
容赦なく待ち構える灰色の地面は見えず、代わりに視界を覆うは紫色。
こちらへ自ら突っ込んで来た青年に受け止められた、そう遅れて気付いた。
素っ頓狂な声がピンク少女の口から飛び出る。
驚きと、快楽の残滓によるものとは本人以外知らない。
容赦なく待ち構える灰色の地面は見えず、代わりに視界を覆うは紫色。
こちらへ自ら突っ込んで来た青年に受け止められた、そう遅れて気付いた。
人間に擬態中とはいえ、ロイミュードのマシンボディならこれくらいはやってのけられる。
中々に勢いがあり着地の際に少々よろけたが、受けた被害はその程度のもの。
ピンク少女も、彼女が抱きしめて離さないもう一人も無事。
降ろしてやると緊張から解放されたが故か、ペタンと尻もちを付いた。
中々に勢いがあり着地の際に少々よろけたが、受けた被害はその程度のもの。
ピンク少女も、彼女が抱きしめて離さないもう一人も無事。
降ろしてやると緊張から解放されたが故か、ペタンと尻もちを付いた。
「無事か。傷を負わないようこちらも加減はしたが」
「え…えっと…あ、はい!良かったぁ…千佳ちゃん、大丈夫だったよぉ……」
「え…えっと…あ、はい!良かったぁ…千佳ちゃん、大丈夫だったよぉ……」
淡々とした問いかけに我を取り戻し、真っ先に腕の中の少女の様子を確認。
チェイスの言葉に嘘はなく、意識は無いが今の落下による負傷はゼロ。
安堵の息を深く吐き、先程とは別の理由で目尻に涙を浮かべた。
唐突な事態に目を白黒させていた果穂も、相手の無事には喜びを抱く。
自身の体よりも同行者を心配するピンク少女を見て、
チェイスの言葉に嘘はなく、意識は無いが今の落下による負傷はゼロ。
安堵の息を深く吐き、先程とは別の理由で目尻に涙を浮かべた。
唐突な事態に目を白黒させていた果穂も、相手の無事には喜びを抱く。
自身の体よりも同行者を心配するピンク少女を見て、
「あ!服が変わりました!?」
「えっ?」
「えっ?」
ヘルメットを被った相手の言葉に、つられて自分の体を見下ろす。
袖は白に、ブーツはソックスに、ピンクのスカートは学校指定の制服に。
休日以外は毎朝袖を通している服。
どうして急にこの恰好になったのか、理由は難しく考えるまでもない。
魔女の手下の天使達に散々弄ばれ、体液と共に魔力を奪われた。
エリアを丸ごと飲み込む災害から逃れるべく、許容量を上回るエネルギーを注ぎ込んだ。
消耗の大きさを考えればこうなって当然。
袖は白に、ブーツはソックスに、ピンクのスカートは学校指定の制服に。
休日以外は毎朝袖を通している服。
どうして急にこの恰好になったのか、理由は難しく考えるまでもない。
魔女の手下の天使達に散々弄ばれ、体液と共に魔力を奪われた。
エリアを丸ごと飲み込む災害から逃れるべく、許容量を上回るエネルギーを注ぎ込んだ。
消耗の大きさを考えればこうなって当然。
尤も事情を知らない二人は、訳も分からず顔を見合わせた。
○
何が何やら分からないが、とにかくおろおろし続けても話は進まない。
気を失った少女をこのままにも出来ないし、一度場所を変えてから事情を聞きかせて欲しい。
チェイスの冷静な言葉は十分な効果があったようで、向こうは間髪入れずに承諾。
自身の正体を知られたのも本来なら一大事だが、今優先するべきは眠りから覚めない少女だ。
二人しか乗れないバイクを仕舞い、屋内へと移動。
近場のアパートの一室に腰を下ろし、自分達を助けてくれた礼を告げるのに始まり、互いの身分を明かす。
気を失った少女をこのままにも出来ないし、一度場所を変えてから事情を聞きかせて欲しい。
チェイスの冷静な言葉は十分な効果があったようで、向こうは間髪入れずに承諾。
自身の正体を知られたのも本来なら一大事だが、今優先するべきは眠りから覚めない少女だ。
二人しか乗れないバイクを仕舞い、屋内へと移動。
近場のアパートの一室に腰を下ろし、自分達を助けてくれた礼を告げるのに始まり、互いの身分を明かす。
「じゃ、じゃあ!はるかさん達トレスマジアの皆さんが、エノルミータって組織の人達から世界を守ってるんですか!?」
「う、うん。世界征服…かどうかは分かんないけど」
「う、うん。世界征服…かどうかは分かんないけど」
瞳を星のように輝かせる果穂に頷き返す。
変身が解ける瞬間を見られた以上、トレスマジアについても教える流れとなった。
二度も正体がバレてしまい、小夜と薫子に知られたらと思うと今から震えが走るもそれはともかく。
こうもストレートに羨望や尊敬の眼差しをぶつけられるのは、嬉しくはあるが同時に照れくさい。
トレスマジアが大人気なのは今に始まったことで無くとも、正体を知られた上でこういう反応は殺し合いで二度目。
思わず頬が熱くなった。
果穂が興奮する一方、極めて冷静に話を聞いたチェイスから質問が飛ぶ。
変身が解ける瞬間を見られた以上、トレスマジアについても教える流れとなった。
二度も正体がバレてしまい、小夜と薫子に知られたらと思うと今から震えが走るもそれはともかく。
こうもストレートに羨望や尊敬の眼差しをぶつけられるのは、嬉しくはあるが同時に照れくさい。
トレスマジアが大人気なのは今に始まったことで無くとも、正体を知られた上でこういう反応は殺し合いで二度目。
思わず頬が熱くなった。
果穂が興奮する一方、極めて冷静に話を聞いたチェイスから質問が飛ぶ。
「もしこの島にエノルミータの人間がいれば、殺し合いに乗っている可能性が高いのか?」
「あ、それは違うよ!確かにエノルミータとは敵同士だけど、でも、今は協力するって約束してくれたから!」
「あ、それは違うよ!確かにエノルミータとは敵同士だけど、でも、今は協力するって約束してくれたから!」
真っ直ぐな目で違うと返し、流れでこれまでの経緯を話すことになる。
今も眠り続ける少女…横山千佳を始めとする者達との出会い。
強大な魔力を持つ魔女と、助けに来てくれた宿敵との共闘、そして脱出劇を経てチェイス達のもとへ落ちて来るまでを。
今も眠り続ける少女…横山千佳を始めとする者達との出会い。
強大な魔力を持つ魔女と、助けに来てくれた宿敵との共闘、そして脱出劇を経てチェイス達のもとへ落ちて来るまでを。
「そんなことが…ヒーローの皆さんをそこまで苦戦させる相手が……」
「うん…情けないけど、皆がいてくれなかったらあのまま…う…うぅ…」
「体温が急激に上昇しているが、何があった?」
「え!?そ、それは……えと…」
「うん…情けないけど、皆がいてくれなかったらあのまま…う…うぅ…」
「体温が急激に上昇しているが、何があった?」
「え!?そ、それは……えと…」
言葉を詰まらせ、顔を赤くしたり青くしたりと忙しい。
はるかの様子に余り深くは聞かない方が良いと判断し、得られた情報に考え込む。
聞く限りはるか達が交戦した相手、ノワルの危険度は相当高い。
ロクな抵抗を許さないばかりか、エリア一つを破壊してみせる力。
加えて、相手が幼い少女だろうと見せしめのように殺そうとする残虐性。
仮に遭遇したならば苦戦は免れない、下手をすればあっという間に捕らえられ詰みとなってもおかしくない。
脅威の度合いで言えば、この地で戦った二人のライダー以上だろう。
はるかの様子に余り深くは聞かない方が良いと判断し、得られた情報に考え込む。
聞く限りはるか達が交戦した相手、ノワルの危険度は相当高い。
ロクな抵抗を許さないばかりか、エリア一つを破壊してみせる力。
加えて、相手が幼い少女だろうと見せしめのように殺そうとする残虐性。
仮に遭遇したならば苦戦は免れない、下手をすればあっという間に捕らえられ詰みとなってもおかしくない。
脅威の度合いで言えば、この地で戦った二人のライダー以上だろう。
果穂もまた暗い顔で戦慄を抱く。
はるかだけでなく、アルカイザーなるヒーローやイドラという魔法使い。
話を聞いただけでも心強いと思われる人達がいて尚も、最終的には撤退するしかなかった相手。
殺し合いを止めようとする人がいる一方で、誰かを平然と傷付ける人も決して少なくない。
道が相容れない以上、ノワルともいずれ戦わねばならない時が来る。
逃げ出すつもりはなくとも、その瞬間を思えば緊張で体中が強張るのを抑えられなかった。
はるかだけでなく、アルカイザーなるヒーローやイドラという魔法使い。
話を聞いただけでも心強いと思われる人達がいて尚も、最終的には撤退するしかなかった相手。
殺し合いを止めようとする人がいる一方で、誰かを平然と傷付ける人も決して少なくない。
道が相容れない以上、ノワルともいずれ戦わねばならない時が来る。
逃げ出すつもりはなくとも、その瞬間を思えば緊張で体中が強張るのを抑えられなかった。
思いもよらぬ強敵の出現を知らされ、室内の空気が重くなる。
だが悪いことばかりでもない。
思考を一旦中断させるかのように、三人がいる部屋の襖が開いた。
侵入者では無い、魔女との戦いで起死回生の一手を打った魔法少女が目覚めたのだ。
だが悪いことばかりでもない。
思考を一旦中断させるかのように、三人がいる部屋の襖が開いた。
侵入者では無い、魔女との戦いで起死回生の一手を打った魔法少女が目覚めたのだ。
「はるかちゃん……?」
起きたら知らない部屋の、知らない布団に寝かされていて。
訳も分からず寝惚け半分のまま立ち上がり、ふと今までのは夢だったのかと思い。
隣の部屋からの聞き覚えのある声が、現実だと告げた。
心身共に疲弊しフラ付きながらも、そっと隙間から覗けば憧れの魔法少女の姿。
服装は違うけど顔は同じ、認識阻害の魔法も一度正体がバレれば効果は無い。
それはともかく、はるかを見付けて思わず襖を一気に開いた。
訳も分からず寝惚け半分のまま立ち上がり、ふと今までのは夢だったのかと思い。
隣の部屋からの聞き覚えのある声が、現実だと告げた。
心身共に疲弊しフラ付きながらも、そっと隙間から覗けば憧れの魔法少女の姿。
服装は違うけど顔は同じ、認識阻害の魔法も一度正体がバレれば効果は無い。
それはともかく、はるかを見付けて思わず襖を一気に開いた。
「千佳ちゃん!?もう起きて大丈夫なの?まだ痛いとこがあるなら私が…」
「う、うん。あんまり痛くないから…あ!はるかちゃんは大丈夫!?それに皆は…」
「今は一緒にいないけど、でも皆絶対無事だよ!イドラさんもアルカイザーも、それにマジアベーゼも!私達みんな、千佳ちゃんのおかげで助かったんだ!」
「う、うん。あんまり痛くないから…あ!はるかちゃんは大丈夫!?それに皆は…」
「今は一緒にいないけど、でも皆絶対無事だよ!イドラさんもアルカイザーも、それにマジアベーゼも!私達みんな、千佳ちゃんのおかげで助かったんだ!」
抱きしめられながら自身の記憶を手繰り寄せる。
お芝居やテレビの中の出来事なんかじゃない、本当に殺される恐怖。
同じくらい、何も出来ず誰も助けられずに死ぬ絶望。
大好きな魔法少女と、第三芸能課での日々という自分を形作る思い出が駆け巡り、
お芝居やテレビの中の出来事なんかじゃない、本当に殺される恐怖。
同じくらい、何も出来ず誰も助けられずに死ぬ絶望。
大好きな魔法少女と、第三芸能課での日々という自分を形作る思い出が駆け巡り、
「そっか……」
自分の背中を押してくれた、空色の髪の女の子。
皆を苦しめる黒の束縛を打ち消す奇跡を、他でもない千佳自身が実現させた。
夢でも都合の良い幻でも無い、本当のことだったと噛み締める。
皆を苦しめる黒の束縛を打ち消す奇跡を、他でもない千佳自身が実現させた。
夢でも都合の良い幻でも無い、本当のことだったと噛み締める。
「あたしの魔法…ちゃんと届いたんだぁ…!」
顔を綻ばせ、思わず一筋の涙が流れる。
魔女への恐怖や、自身の終わりを突き付けられたが故の悲痛な雫ではない。
嬉しさと安堵が込み上げ、堪らずはるかを抱き返す。
小さな体で恐い思いをして尚も戦った千佳を、拒絶する理由はどこにもない。
魔女への恐怖や、自身の終わりを突き付けられたが故の悲痛な雫ではない。
嬉しさと安堵が込み上げ、堪らずはるかを抱き返す。
小さな体で恐い思いをして尚も戦った千佳を、拒絶する理由はどこにもない。
「あはは…私今変な顔しちゃってるね…」
「千佳もおんなじだよ!」
「千佳もおんなじだよ!」
抱きしめ合って互いを見つめれば、共に目が赤くなっている。
二人して笑い合い、間近で伝わる温もりが生きていることを教えてくれた。
二人して笑い合い、間近で伝わる温もりが生きていることを教えてくれた。
○
「すっごーい!果穂ちゃん、同じアイドルってだけでも嬉しいのに、ヒーローもやってるんだ!」
「千佳ちゃんだって凄いですよ!皆を笑顔にして、皆の笑顔を守る魔女っ娘…!とってもキラキラってしてます!」
「えへへ…ありがと!嬉しいからお礼に、ハッピパワー☆い~~~~っぱい注~~~入っ!」
「わわっ!千佳ちゃんのポカポカする魔法、たくさんもらっちゃいました!」
「千佳ちゃんだって凄いですよ!皆を笑顔にして、皆の笑顔を守る魔女っ娘…!とってもキラキラってしてます!」
「えへへ…ありがと!嬉しいからお礼に、ハッピパワー☆い~~~~っぱい注~~~入っ!」
「わわっ!千佳ちゃんのポカポカする魔法、たくさんもらっちゃいました!」
アパートの一室にて、今が殺し合いであることを忘れさせるような光景があった。
あの後、千佳も交え改めて自己紹介をし互いのこれまでの経緯を話した。
話せることを全て語り、一段落着いて間もない頃。
消耗の大きいはるかと千佳を休ませる為にも、暫くはアパートに留まる事となった。
チェイスと果穂の二人だけで先に移動する、という案も勿論ある。
しかし残されたはるか達の元へ危険人物が襲って来ないとも限らず、ましてまだ万全ではない。
よってチェイス達も護衛を兼ねて休憩に入った後、移動を行おうと話が纏まったのである。
話せることを全て語り、一段落着いて間もない頃。
消耗の大きいはるかと千佳を休ませる為にも、暫くはアパートに留まる事となった。
チェイスと果穂の二人だけで先に移動する、という案も勿論ある。
しかし残されたはるか達の元へ危険人物が襲って来ないとも限らず、ましてまだ万全ではない。
よってチェイス達も護衛を兼ねて休憩に入った後、移動を行おうと話が纏まったのである。
「チェイスさん達は良かったの?行きたい場所があったのに…」
「構わない、調査よりもお前達の安全の方が優先度は上だ。それに、俺は果穂に気を張り詰めさせ過ぎたかもしれなかった」
「そっか…うん、果穂ちゃんも千佳ちゃんもすぐに仲良くなってて、私も嬉しくなっちゃうなぁ」
「構わない、調査よりもお前達の安全の方が優先度は上だ。それに、俺は果穂に気を張り詰めさせ過ぎたかもしれなかった」
「そっか…うん、果穂ちゃんも千佳ちゃんもすぐに仲良くなってて、私も嬉しくなっちゃうなぁ」
片や真顔、片や満面の笑みで見つめる先にはアイドル達の微笑ましいやり取り。
事務所こそ違えど同じアイドルなら、互いに興味が無い訳が無い。
抱きつかれていれる果穂は、チェイスの話で目を輝かせた時とは違う理由で嬉しそうだ。
283プロでは最年少、家族構成も兄は持つが下の子はいない。
それもあってか年下の千佳に懐かれくすぐったそうにしつつ、決して拒絶感は無かった。
事務所こそ違えど同じアイドルなら、互いに興味が無い訳が無い。
抱きつかれていれる果穂は、チェイスの話で目を輝かせた時とは違う理由で嬉しそうだ。
283プロでは最年少、家族構成も兄は持つが下の子はいない。
それもあってか年下の千佳に懐かれくすぐったそうにしつつ、決して拒絶感は無かった。
殺し合いでの緊張感を忘れたつもりはない。
ただチェイスの言うようにずっと張り詰めさせるのも、幼い少女達には負担を強いる事へ繋がる。
であればきっと、今この時間は千佳と果穂にとって大切なものの筈。
ただチェイスの言うようにずっと張り詰めさせるのも、幼い少女達には負担を強いる事へ繋がる。
であればきっと、今この時間は千佳と果穂にとって大切なものの筈。
(皆…大丈夫かな……)
ふと、表情を曇らせ思うのは仲間の安否。
ノワルとの戦闘後、別行動を余儀なくされた三人は勿論。
大切な友人まで巻き込まれたと知れば、大丈夫だと信じてはいるがそれでも不安が完全に消える訳じゃない。
主催側からの放送があった時はイドラ共々拘束中で、とてもじゃないがホットラインの確認など不可能。
千佳も交えた先の情報交換の際、視聴アプリを使いようやっと内容を把握。
それから名簿を見たが、記載されていた名前ははるかを揺さぶるのに十分な内容だった。
ノワルとの戦闘後、別行動を余儀なくされた三人は勿論。
大切な友人まで巻き込まれたと知れば、大丈夫だと信じてはいるがそれでも不安が完全に消える訳じゃない。
主催側からの放送があった時はイドラ共々拘束中で、とてもじゃないがホットラインの確認など不可能。
千佳も交えた先の情報交換の際、視聴アプリを使いようやっと内容を把握。
それから名簿を見たが、記載されていた名前ははるかを揺さぶるのに十分な内容だった。
小夜と薫子はまだ分からんでもない。
彼女達まで巻き込まれたのには当然怒っている。
しかしトレスマジアを狙い三人纏めて拉致したと言うのなら、一応は理解出来なくもない。
だが柊うてなは違う、彼女は魔法少女と悪の組織の戦いに関係の無い一般人。
マジアマゼンタではなく花菱はるかとしての友達だ。
戦える力を持つトレスマジアはまだしも、何故うてなまで参加させたのか。
心配と、どこまでも非道を強いる羂索達への怒りが湧く。
彼女達まで巻き込まれたのには当然怒っている。
しかしトレスマジアを狙い三人纏めて拉致したと言うのなら、一応は理解出来なくもない。
だが柊うてなは違う、彼女は魔法少女と悪の組織の戦いに関係の無い一般人。
マジアマゼンタではなく花菱はるかとしての友達だ。
戦える力を持つトレスマジアはまだしも、何故うてなまで参加させたのか。
心配と、どこまでも非道を強いる羂索達への怒りが湧く。
殺し合いに乗っていない者と会えてれば良いが、残念ながら善人だけが参加者ではないのが現実。
ノワルは勿論、チェイス達が戦った者達にも注意が必要だ。
いきなり果穂を殴り殺そうとした蛇柄の服の男、善人の皮で邪悪な本性を隠す先生。
そして彼の生徒である学園都市キヴォトスの少女達。
全員がノワル並の力を持っているのでなくとも、うてなのような一般人には大きな脅威である。
ノワルは勿論、チェイス達が戦った者達にも注意が必要だ。
いきなり果穂を殴り殺そうとした蛇柄の服の男、善人の皮で邪悪な本性を隠す先生。
そして彼の生徒である学園都市キヴォトスの少女達。
全員がノワル並の力を持っているのでなくとも、うてなのような一般人には大きな脅威である。
「はるか、少し気になったことがある」
と、意識を引き戻され顔を上げる。
声を掛けた本人はホットラインで名簿を開き、並んだ名前に視線を落としていた。
声を掛けた本人はホットラインで名簿を開き、並んだ名前に視線を落としていた。
「お前の元々の敵であるマジアベーゼについてだ」
「う、うん。でもマジアベーゼは一緒に戦ってくれるって約束したよ?」
「ああ、それは聞いた。俺も特に異論は挟まない」
「う、うん。でもマジアベーゼは一緒に戦ってくれるって約束したよ?」
「ああ、それは聞いた。俺も特に異論は挟まない」
前からの因縁はあるが、向こうは殺し合いに乗っておらずノワルから助けてくれた。
あくまで一時的な協力と念を押していたけど、はるかにとってはそれでも構わない。
殺し合いへ立ち向かう仲間だと自信を持って言えるし、チェイスもその点にあれこれ文句を付ける気は無かった。
蛮野相手にハート・メディックの両名と共闘した経験を思えば、マジアベーゼとの協力に問題は無い。
あくまで一時的な協力と念を押していたけど、はるかにとってはそれでも構わない。
殺し合いへ立ち向かう仲間だと自信を持って言えるし、チェイスもその点にあれこれ文句を付ける気は無かった。
蛮野相手にハート・メディックの両名と共闘した経験を思えば、マジアベーゼとの協力に問題は無い。
「俺が気になったのはマジアベーゼの正体についてだ。ガッチャードのように変身した後の名前が無いなら、恐らく本名が記載されている」
「それは…そうだよね」
「だが、誰がマジアベーゼなのかを絞り込むのは難しくない」
「それは…そうだよね」
「だが、誰がマジアベーゼなのかを絞り込むのは難しくない」
クルーゼが含みを持たせたように、名簿の順には意味がある。
例えばキヴォトス関係者は小鳥遊ホシノから先生までの6人が並んでおり、関係の深い者同士を纏めたと考えられるだろう。
チェイスの方は知っている者がおらずとも、ガッチャードとゼインという二人のライダーの間に名前があった。
であれば、所謂仮面ライダーの変身者又は関係者で固めたと推測は可能。
果穂と千佳についても、アイドルという共通点が見出せる。
例えばキヴォトス関係者は小鳥遊ホシノから先生までの6人が並んでおり、関係の深い者同士を纏めたと考えられるだろう。
チェイスの方は知っている者がおらずとも、ガッチャードとゼインという二人のライダーの間に名前があった。
であれば、所謂仮面ライダーの変身者又は関係者で固めたと推測は可能。
果穂と千佳についても、アイドルという共通点が見出せる。
はるかの場合はキヴォトスの者同様、元々の知り合い同士で名前を順に並べている。
そしてマジアベーゼは殺し合いの前からはるかと、より正確に言うとマジアマゼンタとの面識持ち。
名簿の法則に計れば、一体誰がマジアベーゼなのかは自ずと見えて来る。
そしてマジアベーゼは殺し合いの前からはるかと、より正確に言うとマジアマゼンタとの面識持ち。
名簿の法則に計れば、一体誰がマジアベーゼなのかは自ずと見えて来る。
「ちょ、ちょっと待って!それじゃあまさか、マジアベーゼって……」
トレスマジアの小夜と薫子は当然除外。
残る名前に目を見開き、わなわなと震え出す。
悪の組織エノルミータの総帥であり、自分達を幾度も辱めた宿敵。
共に殺し合いに立ち向かう、今この時は信頼を寄せる彼女の正体は――
残る名前に目を見開き、わなわなと震え出す。
悪の組織エノルミータの総帥であり、自分達を幾度も辱めた宿敵。
共に殺し合いに立ち向かう、今この時は信頼を寄せる彼女の正体は――
「外人さんだったの!?」
「……」
「……」
驚きを露わに『アルジュナ・オルタ』を指差すはるかへ、チェイスは言葉に困った。
確かに彼女達の真上に名前はあるが、そうじゃない。
確かに彼女達の真上に名前はあるが、そうじゃない。
「でも日本語ペラペラだったし…頑張って勉強したのかな?やっぱり悪の組織を率いるくらいだし、凄い努力家なのかも…」
「……」
「マジアベーゼ、ううん、アルジュナちゃん。こんな形で正体を知るとは思わなかったけど、でも今は仲間だもんね。このことは秘密に――」
「違う、その下の名前だ」
「……」
「マジアベーゼ、ううん、アルジュナちゃん。こんな形で正体を知るとは思わなかったけど、でも今は仲間だもんね。このことは秘密に――」
「違う、その下の名前だ」
放って置くと無関係の参加者がマジアベーゼ認定され兼ねないので、口を挟み軌道修正。
下と言われて自身の勘違いを悟り、早合点したと反省。
恥ずかしそうにしつつ違う名前を見て、またもや驚愕の表情を作った。
下と言われて自身の勘違いを悟り、早合点したと反省。
恥ずかしそうにしつつ違う名前を見て、またもや驚愕の表情を作った。
「邪樹右龍ちゃん…マジアベーゼってこんなに強そうな本名だったんだ」
「…………」
「…………」
下に行き過ぎである。
いい加減埒が明かないので直接言おうと思ったが、それより速く会話に割って入る者がいた。
いい加減埒が明かないので直接言おうと思ったが、それより速く会話に割って入る者がいた。
「ダメだよチェイスくん!魔女っ娘もヒーローも正体はヒミツにしてるんだから。マジアベーゼだって、バレたらきっと困るよ!」
二人の話が聞こえて来たのか、頬を膨らませて千佳は言う。
変身する場面を見られたレッドとはるかが大層落ち込んだのは記憶に新しい。
あの時は千佳の魔法とイドラの言葉もあって立ち直ったが、それでも彼らにとっては本来秘匿すべき情報。
ならマジアベーゼだって正体発覚は防ぎたい筈。
彼女は正義と対を為す悪、魔法少女やヒーローとは相容れない存在。
けど千佳にとっては自分達を助け、「あこがれ」の気持ちを肯定してくれた人だ。
チェイスが悪意で正体を探ったのでないとは分かる。
それでも、マジアベーゼを傷付けることへ繋がり兼ねないなら黙っていられなかった。
変身する場面を見られたレッドとはるかが大層落ち込んだのは記憶に新しい。
あの時は千佳の魔法とイドラの言葉もあって立ち直ったが、それでも彼らにとっては本来秘匿すべき情報。
ならマジアベーゼだって正体発覚は防ぎたい筈。
彼女は正義と対を為す悪、魔法少女やヒーローとは相容れない存在。
けど千佳にとっては自分達を助け、「あこがれ」の気持ちを肯定してくれた人だ。
チェイスが悪意で正体を探ったのでないとは分かる。
それでも、マジアベーゼを傷付けることへ繋がり兼ねないなら黙っていられなかった。
「…うん、そうだね。マジアベーゼの正体が誰だったとしても、一緒に殺し合いを止める仲間だもの」
千佳の言葉を聞き、はるかも名簿から視線を外す。
マジアベーゼが誰なのか気にはなる。
元々の因縁を考えると、正体を知っておくのはトレスマジアとして正しいのかもしれない。
しかしそれは、協力すると言ってくれたマジアベーゼへの裏切りになるんじゃないか。
一時的なものに過ぎなくとも彼女は志を共にする仲間、だから正体を探るのはフェアとは言い難い。
マジアベーゼが誰なのか気にはなる。
元々の因縁を考えると、正体を知っておくのはトレスマジアとして正しいのかもしれない。
しかしそれは、協力すると言ってくれたマジアベーゼへの裏切りになるんじゃないか。
一時的なものに過ぎなくとも彼女は志を共にする仲間、だから正体を探るのはフェアとは言い難い。
「よしっ!マジアベーゼが誰なのかは探さないことにする!」
「そうか…お前が決めたなら俺もこれ以上は何も言わん」
「そうか…お前が決めたなら俺もこれ以上は何も言わん」
警察直々に公表される前は、進ノ介も仮面ライダードライブであることを関係者以外には隠し続けていた。
ヒーローと悪という明確な違いこそあれど、はるか達の信頼を得ている者なら。
これ以上口を挟むべきではないだろう。
ヒーローと悪という明確な違いこそあれど、はるか達の信頼を得ている者なら。
これ以上口を挟むべきではないだろう。
「マジアベーゼさん…不思議だけとってもカッコいい人です!悪の組織だけど、譲れないものの為に戦ってるんですね!」
「…う、うん!そうだね!」
「…う、うん!そうだね!」
頷くのに数秒の時間を要した理由は、マジアベーゼとノワルによる熱い語らいの場面を思い出したから。
趣味の面で盛り上がったと思いきや最終的に求めるもの違いから、互いへ敵意をぶつけ合った光景。
解釈違いで火花を散らす様子を説明するのは憚れるので、その部分は適当にボカしておいた。
譲れないものがマジアベーゼにあるのは本当の事だろうし、そこは間違ってない。
趣味の面で盛り上がったと思いきや最終的に求めるもの違いから、互いへ敵意をぶつけ合った光景。
解釈違いで火花を散らす様子を説明するのは憚れるので、その部分は適当にボカしておいた。
譲れないものがマジアベーゼにあるのは本当の事だろうし、そこは間違ってない。
「……っ!」
「この反応って…!」
「この反応って…!」
狙ったのか偶然か、和やかな空気は終わりを告げる。
ロイミュードのセンサーが戦闘音を拾い、魔法少女は反応を捉えた。
戦いに身を置く者達の警戒に、アイドルの少女達も察しが付く。
既に危険人物に襲われ、命の危機も味わっているのだ。
いつ新しい戦いが起きても不思議は無く、互いに身を強張らせる。
ロイミュードのセンサーが戦闘音を拾い、魔法少女は反応を捉えた。
戦いに身を置く者達の警戒に、アイドルの少女達も察しが付く。
既に危険人物に襲われ、命の危機も味わっているのだ。
いつ新しい戦いが起きても不思議は無く、互いに身を強張らせる。
「魔力…とは違う力?でも、誰かが戦ってる…」
「3、いやもっと多い。騒ぎを聞いた者達が更に集まる可能性もある」
「3、いやもっと多い。騒ぎを聞いた者達が更に集まる可能性もある」
現在いるアパートから距離はそこまで離れていない。
急げば介入は可能であり、さてここからどう動くか。
感じた力ははるかの知らないもの、つまり仲間達でもないしノワルが暴れているのとも違う。
かといってこのままアパート内に身を潜めているのは御免だ。
誰かが危険人物に襲われているかもしれないのに、知らんぷりを決め込むような性根なら、はるかは最初から魔法少女になっていない。
休んだおかげで体力もある程度戻った、戦うのに支障はない。
急げば介入は可能であり、さてここからどう動くか。
感じた力ははるかの知らないもの、つまり仲間達でもないしノワルが暴れているのとも違う。
かといってこのままアパート内に身を潜めているのは御免だ。
誰かが危険人物に襲われているかもしれないのに、知らんぷりを決め込むような性根なら、はるかは最初から魔法少女になっていない。
休んだおかげで体力もある程度戻った、戦うのに支障はない。
「あたしも、一緒に行く!皆みたいに強くはないけど、恐がってるだけなのはラブリーチカじゃないから!」
ノワルに植え付けられたトラウマは深い。
魔法が使えるようになっても、恐怖を完全には拭い切れない。
まして千佳はまだ9歳の小学生、怯えて泣きじゃくっても無理はない。
けれど助けたい心に蓋をして逃げるのだけは、絶対にやりたくなかった。
魔法が使えるようになっても、恐怖を完全には拭い切れない。
まして千佳はまだ9歳の小学生、怯えて泣きじゃくっても無理はない。
けれど助けたい心に蓋をして逃げるのだけは、絶対にやりたくなかった。
「なら、全員で向かうぞ。だが無理はするな」
「はい!あたしも千佳ちゃんの魔法のおかげで元気をもらいました!皆と一緒に戦えます!」
「はい!あたしも千佳ちゃんの魔法のおかげで元気をもらいました!皆と一緒に戦えます!」
放って置く気が無いのはチェイス達も同様だ。
それに別行動を取って片方が襲われるよりは、4人で固まった方がまだ対処に動きやすい。
先生との戦いでの消耗も幾らか消え、体力的にも問題無し。
全員が同じ想いなら口論の必要も無く、外へ出てそれぞれ戦闘の準備に入った。
それに別行動を取って片方が襲われるよりは、4人で固まった方がまだ対処に動きやすい。
先生との戦いでの消耗も幾らか消え、体力的にも問題無し。
全員が同じ想いなら口論の必要も無く、外へ出てそれぞれ戦闘の準備に入った。
「変身《トランスマジア》!!」
「変身っ!」
『BEAT』
制服が弾け、素肌の上からピンク色を纏う。
可愛らしさを前面に押し出した、王道の魔法少女衣装こそマジアマゼンタの証。
横ではデザイアドライバーを操作し、果穂がナーゴへ変身。
煌びやかな装甲と猫をモチーフにした頭部は、彼女にとって最早お馴染みとなった。
可愛らしさを前面に押し出した、王道の魔法少女衣装こそマジアマゼンタの証。
横ではデザイアドライバーを操作し、果穂がナーゴへ変身。
煌びやかな装甲と猫をモチーフにした頭部は、彼女にとって最早お馴染みとなった。
『BREAK UP』
少女達が姿を変えた隣では、機械の戦士ももう一つの顔へ変わる。
バイクパーツを人型に組み立てた装甲の、魔進チェイサーが殺し合いで三度目の変身を果たす。
バイクパーツを人型に組み立てた装甲の、魔進チェイサーが殺し合いで三度目の変身を果たす。
仮面ライダーとは違う魔法少女への変身。
仲間であるアルカイザーとは別のヒーローの姿。
互いに興味はあるが胸の内に秘めておき、騒ぎの場へ向かう方が先だ。
変身した今なら常人を遥かに超える走力を発揮出来る。
千佳をマジアマゼンタがおんぶし、残る問題は間に合うかどうかだけ。
覚悟はとっくに出来てる、頷き合い駆け出した。
仲間であるアルカイザーとは別のヒーローの姿。
互いに興味はあるが胸の内に秘めておき、騒ぎの場へ向かう方が先だ。
変身した今なら常人を遥かに超える走力を発揮出来る。
千佳をマジアマゼンタがおんぶし、残る問題は間に合うかどうかだけ。
覚悟はとっくに出来てる、頷き合い駆け出した。
◆◆◆
「ああそういや、一応教えといた方が良いか」
ふと思い出したように言った彼女(彼)に、後方の二人は揃って首を傾げた。
支給品及び十条姫和の右腕回収を目的とし、市街地を移動中の可奈美一行。
イレギュラーな形で急遽参加登録されたアンクに案内される道中でのこと。
警戒を怠らず、尚且つ息を切らさない程度に早歩きで進み到着までもうまもなくといった時だ。
無駄口を嫌うのか単に急いで目的地に着きたいのか不明だが、これまで口を閉ざしていたアンクから言葉が出たのは。
イレギュラーな形で急遽参加登録されたアンクに案内される道中でのこと。
警戒を怠らず、尚且つ息を切らさない程度に早歩きで進み到着までもうまもなくといった時だ。
無駄口を嫌うのか単に急いで目的地に着きたいのか不明だが、これまで口を閉ざしていたアンクから言葉が出たのは。
「お前ら、俺と会う前は森にいたってことはあの放送も知らねぇだろ?」
「放送?クルーゼだかって変態仮面のじゃなくてか?」
「そいつの後にもう一人、派手な真似した奴がいるんだよ」
「放送?クルーゼだかって変態仮面のじゃなくてか?」
「そいつの後にもう一人、派手な真似した奴がいるんだよ」
五大院との戦闘に始まる可奈美とリュージの出会いは、全て森林エリアで起こったこと。
クルーゼの放送が終わってからも、暫くは森を抜けるのに時間を費やした。
よって必然的にもう一つの放送は、テレビの類が無い場所では見れない。
アンクの場合は免許試験所の食堂でアイスを探していた際、設置されたテレビで把握している。
主催側からの通達程ではないが殺し合いの盤面を変える内容だ、情報は共有した方が良いだろう。
クルーゼの放送が終わってからも、暫くは森を抜けるのに時間を費やした。
よって必然的にもう一つの放送は、テレビの類が無い場所では見れない。
アンクの場合は免許試験所の食堂でアイスを探していた際、設置されたテレビで把握している。
主催側からの通達程ではないが殺し合いの盤面を変える内容だ、情報は共有した方が良いだろう。
アンクの口から語られたのは、ルルーシュ・ヴィ・ブリタニアによる演説。
最初の場で参加者全員の注目を集めた彼は、殺し合い開始直後にまたもや波乱の種を蒔いたらしい。
最初の場で参加者全員の注目を集めた彼は、殺し合い開始直後にまたもや波乱の種を蒔いたらしい。
「何だそりゃ…王様気取るにしてもやり過ぎだろ」
「でも、ルルーシュさんの言うことを真に受けちゃう人もやっぱり出てきますよね…」
「でも、ルルーシュさんの言うことを真に受けちゃう人もやっぱり出てきますよね…」
大々的に己の存在を知らせ、力の誇示と傲慢な命令により参加者の危機感を煽る。
決して褒められた方法ではない、しかし馬鹿げた戯言と全ての参加者が一蹴するとも限らない。
恐怖に屈した者や手っ取り早く数を揃えたい者は、ルルーシュ陣営に着くことを決めるだろう。
可奈美とて覚えが無い話ではない。
タギツヒメと高津学長がメディアを使って、折神紫にヘイトが集まるよう仕向けたのは覚えている。
放送を使った戦略と言うのであれば、全く効果がないとは言い切れなかった。
決して褒められた方法ではない、しかし馬鹿げた戯言と全ての参加者が一蹴するとも限らない。
恐怖に屈した者や手っ取り早く数を揃えたい者は、ルルーシュ陣営に着くことを決めるだろう。
可奈美とて覚えが無い話ではない。
タギツヒメと高津学長がメディアを使って、折神紫にヘイトが集まるよう仕向けたのは覚えている。
放送を使った戦略と言うのであれば、全く効果がないとは言い切れなかった。
「まあ状況が状況だ、あいつの言う通りにする奴もゼロじゃあないわな」
力と安全の保障でプレイヤーを釣ってクランを結成すると言った所か。
信頼関係では無く利用される駒と利用する王(キング)。
参加者の中には元々荒事に慣れた訳ではない、つい昨日まで平穏に過ごしていただけの奴だっているかもしれない。
ダーウィンズゲームだって、プレイヤー全員が事前にルールを知っていたのではない。
カナメのように、訳も分からぬ内に命懸けの遊戯を強制された者がいるのは殺し合いも同じ筈。
戸惑いから抜け出せない内に隷属と敵対の二択を突き付ける。
気に入らないやり方ではあるが、可奈美の言うように効果はあるだろうから質が悪い。
信頼関係では無く利用される駒と利用する王(キング)。
参加者の中には元々荒事に慣れた訳ではない、つい昨日まで平穏に過ごしていただけの奴だっているかもしれない。
ダーウィンズゲームだって、プレイヤー全員が事前にルールを知っていたのではない。
カナメのように、訳も分からぬ内に命懸けの遊戯を強制された者がいるのは殺し合いも同じ筈。
戸惑いから抜け出せない内に隷属と敵対の二択を突き付ける。
気に入らないやり方ではあるが、可奈美の言うように効果はあるだろうから質が悪い。
「で、アンク。お前は皇帝陛下の飼い犬になる気か?」
「ハッ!笑えねぇな。あんな奴に使われるのは御免だ」
「ハッ!笑えねぇな。あんな奴に使われるのは御免だ」
鼻で笑いそう返すアンクの言葉が嘘でないと、自身のシギルで確認。
どうやらルルーシュの持つ、堀北鈴音の様子から察するに洗脳の類の異能は画面越しでは使えないようだ。
直接相手に命令しなければ効果が無い、それが分かれば対策の幅も広まる。
敵のシギルがどういったものかを知るのは、ダーウィンズゲームの時から必須。
一応殺し合いには乗っていないようだが、かと言って協力できるかは現状否寄り。
気付かぬ内に異能の餌食となり、あっさり捨て駒にされましたは御免被る。
どうやらルルーシュの持つ、堀北鈴音の様子から察するに洗脳の類の異能は画面越しでは使えないようだ。
直接相手に命令しなければ効果が無い、それが分かれば対策の幅も広まる。
敵のシギルがどういったものかを知るのは、ダーウィンズゲームの時から必須。
一応殺し合いには乗っていないようだが、かと言って協力できるかは現状否寄り。
気付かぬ内に異能の餌食となり、あっさり捨て駒にされましたは御免被る。
「取り敢えずルルーシュの奴は一旦後回しで良いだろ。今の俺らじゃ装備も人数も足りてない」
「はい、それに姫和ちゃんの腕も急いで見付けないと…」
「はい、それに姫和ちゃんの腕も急いで見付けないと…」
支給品と違い切断された右腕を好んで持ち帰る参加者は、『そういう趣味嗜好』の持ち主くらいだろうがしかし。
NPCのモンスターが拾い食いする、という可能性も十分にある。
ルルーシュと今後敵対するにしても、準備不足のまま向かうのは悪手以外の何物でもない。
宝探しゲームで花屋がホテルを要塞化したように、ルルーシュもテレビ局の守りを固めているのは確実。
あの時と違って今回は突入準備が可能であるが、やはり急ぐべきは姫和の腕を含めた物資の回収。
NPCのモンスターが拾い食いする、という可能性も十分にある。
ルルーシュと今後敵対するにしても、準備不足のまま向かうのは悪手以外の何物でもない。
宝探しゲームで花屋がホテルを要塞化したように、ルルーシュもテレビ局の守りを固めているのは確実。
あの時と違って今回は突入準備が可能であるが、やはり急ぐべきは姫和の腕を含めた物資の回収。
そうこう話している内に目的地へと到着。
人の気配が無い街中で、思わず鼻を摘まみたくなる悪臭が漂った。
人の気配が無い街中で、思わず鼻を摘まみたくなる悪臭が漂った。
「っ……」
「こりゃ酷ぇな…」
「こりゃ酷ぇな…」
息を呑む可奈美に並び、リュージも顔を顰める。
三人分の死体、とも呼べぬ肉の破片が散らばっていた。
斬り殺されただろう死体はまだマシ。
相当に嬲られた、というよりはあちこちを食い千切られた二人はもっと悲惨だ。
片方に至っては顔の皮まで食われ、赤いマスクを被ったようにも見える有様。
そんな状態であっても、苦痛と絶望をこれでもかと味わっただろう表情で事切れている。
三人分の死体、とも呼べぬ肉の破片が散らばっていた。
斬り殺されただろう死体はまだマシ。
相当に嬲られた、というよりはあちこちを食い千切られた二人はもっと悲惨だ。
片方に至っては顔の皮まで食われ、赤いマスクを被ったようにも見える有様。
そんな状態であっても、苦痛と絶望をこれでもかと味わっただろう表情で事切れている。
大荒魂を巡る一連の事件を経て今更大抵の事には動じないが、ここまでグロテスクな死体を見る機会も無い。
悲鳴を上げたりはせずとも、顔色が良いとは言えなかった。
リュージもまた、ダーウィンズゲームで人が死ぬ瞬間は腐る程見て来た。
特にエイスによる被害者は弟を含め凄惨を極めている。
だからといって死体を見て喜ぶような性質で無い以上、当然気分爽快になろう筈もない。
悲鳴を上げたりはせずとも、顔色が良いとは言えなかった。
リュージもまた、ダーウィンズゲームで人が死ぬ瞬間は腐る程見て来た。
特にエイスによる被害者は弟を含め凄惨を極めている。
だからといって死体を見て喜ぶような性質で無い以上、当然気分爽快になろう筈もない。
「吐きたいなら後にしとけ。どうやら俺ら以外の漁り屋はいなかったらしい」
唯一平然としているのはアンクだ。
800年前、彼が生まれた時代にはこういった死体を見る機会も少なく無かった。
死んだ連中に思う事は特に無く、それより支給品が手付かずな方が重要。
姫和の右腕以外の収穫無しも考えただけに、取り敢えず時間の無駄とはならずに済む。
アンクの言う通り、ここまで来た目的を忘れ立ち尽くしてもいられない。
切り替えてリュックサックに手を伸ばすリュージに倣い、可奈美も付近を見回す。
800年前、彼が生まれた時代にはこういった死体を見る機会も少なく無かった。
死んだ連中に思う事は特に無く、それより支給品が手付かずな方が重要。
姫和の右腕以外の収穫無しも考えただけに、取り敢えず時間の無駄とはならずに済む。
アンクの言う通り、ここまで来た目的を忘れ立ち尽くしてもいられない。
切り替えてリュックサックに手を伸ばすリュージに倣い、可奈美も付近を見回す。
「あっ、あれって…」
血に汚れてはいるも、見覚えのある緑色の制服。
袖から覗く細い指、駆け寄り間違いないと確信を抱く。
姫和の右腕を拾い上げ、可奈美はズキリと胸に痛みを感じる。
同じ刀使として、姫和がどれ程大荒魂の討伐に執念を燃やしていたかを隣で見て来ただけに。
利き腕の喪失が彼女へ与えた心身の痛みに、悲しみが溢れるのは無理もないこと。
なれど、同時に彼女の強さも知っているから。
満身創痍になろうと生にしがみ付いたとアンクから聞き、姫和ならそうするだろうなと納得したから。
たとえ時間が違おうと、彼女を死なせたくない自身の決意に嘘はない。
後は腕の治療が可能な者を探し、並行して腐敗を防ぐ為に氷も手に入れておきたかった。
腕が見付かった以上は屋外でウロウロしていても悪目立ちするだけだ。
手招きするリュージに従い、近くの書店に入りスタッフルームに身を隠す。
袖から覗く細い指、駆け寄り間違いないと確信を抱く。
姫和の右腕を拾い上げ、可奈美はズキリと胸に痛みを感じる。
同じ刀使として、姫和がどれ程大荒魂の討伐に執念を燃やしていたかを隣で見て来ただけに。
利き腕の喪失が彼女へ与えた心身の痛みに、悲しみが溢れるのは無理もないこと。
なれど、同時に彼女の強さも知っているから。
満身創痍になろうと生にしがみ付いたとアンクから聞き、姫和ならそうするだろうなと納得したから。
たとえ時間が違おうと、彼女を死なせたくない自身の決意に嘘はない。
後は腕の治療が可能な者を探し、並行して腐敗を防ぐ為に氷も手に入れておきたかった。
腕が見付かった以上は屋外でウロウロしていても悪目立ちするだけだ。
手招きするリュージに従い、近くの書店に入りスタッフルームに身を隠す。
「使った形跡が無い…取り出す暇もなく喰われちまったってとこか」
三人分のリュックサックの中身から手付かずの道具を複数発見。
アンクの話では相当な強さの男と、複数のNPCに襲われたとのこと。
起死回生の一手を打つ余裕すら与えられず、揃ってあの世行きになったのだろう。
人間性に関しては聞く限り褒められたものではなく、王に近いロクデナシのようだが。
アンクの話では相当な強さの男と、複数のNPCに襲われたとのこと。
起死回生の一手を打つ余裕すら与えられず、揃ってあの世行きになったのだろう。
人間性に関しては聞く限り褒められたものではなく、王に近いロクデナシのようだが。
「おっと、こいつは…」
馴染みのある金属の感触に取り出してみれば案の定銃、それもアサルトライフル。
弾倉から一発も減っておらず、予備の弾もたっぷり見付かった。
個人用にカスタムされているが悪くない、このまま使わせてもらう。
死んだ連中はご愁傷様だがこっちにとっては運が良い。
弾倉から一発も減っておらず、予備の弾もたっぷり見付かった。
個人用にカスタムされているが悪くない、このまま使わせてもらう。
死んだ連中はご愁傷様だがこっちにとっては運が良い。
「姫和ちゃんの腕は見付かりましたけど、リュージさんの方はどうですか?」
「おう、こっちも幾つかは使えそうだぜ。ただ…こりゃダメだな」
「おう、こっちも幾つかは使えそうだぜ。ただ…こりゃダメだな」
武器が手に入ったのは良いが、全て問題無く使えるとはならない。
死体の傍らに落ちたカバンらしき物。
説明書によるとお医者さんカバンという、子供の玩具のような名前。
しかし実際には怪我や病気の回復には持って来いの、今の姫和に必要な道具だ。
但しそれは使えたらの話。
戦闘の際に支給品袋から弾みで飛び出たのか、所々が破損し部品が丸見え。
恐らくはNPCに踏み潰されでもしたのだろう、試しに開いてもうんともすんとも言わない。
残念ながらこれではただのガラクタ、そう都合良くはならず可奈美もガックリと肩を落とす。
死体の傍らに落ちたカバンらしき物。
説明書によるとお医者さんカバンという、子供の玩具のような名前。
しかし実際には怪我や病気の回復には持って来いの、今の姫和に必要な道具だ。
但しそれは使えたらの話。
戦闘の際に支給品袋から弾みで飛び出たのか、所々が破損し部品が丸見え。
恐らくはNPCに踏み潰されでもしたのだろう、試しに開いてもうんともすんとも言わない。
残念ながらこれではただのガラクタ、そう都合良くはならず可奈美もガックリと肩を落とす。
「ま、まあそんな落ち込むなって。腕は今すぐ無理でも、傷は幾らか治せる筈だ」
そう言って見せたのは布製の袋。
口を開けると緑色のモノがぎっしり詰まっていた。
口を開けると緑色のモノがぎっしり詰まっていた。
「草、ですか?」
「薬草らしい。食うと傷が治るんだとよ」
「そんなゲームみたいなことが…?」
「薬草らしい。食うと傷が治るんだとよ」
「そんなゲームみたいなことが…?」
世に溢れる剣と魔法の物語ではお馴染みだが、現実に草を食べて瞬時に回復は起こらない。
だが此度はそういった常識を鼻で笑う殺し合い。
過去の日本の偉人すら呼び寄せる技術があるのだから、薬草が本物なくらい別に不思議ではない。
だが此度はそういった常識を鼻で笑う殺し合い。
過去の日本の偉人すら呼び寄せる技術があるのだから、薬草が本物なくらい別に不思議ではない。
「つー訳だからアンク、一枚ガブっといけば姫和って奴も少しは良くなるだろ」
「あぁ?ふざけんな、俺がこいつに憑いてればその内治んだよ」
「あぁ?ふざけんな、俺がこいつに憑いてればその内治んだよ」
泉信吾のように重症の怪我人だろうと、アンクが憑依している間は高い身体能力付きで動ける。
加えてグリードの生命力故か、わざわざ医療機関に赴かずとも自然治癒力も増す。
確かに何らかの道具を使って傷を治せば、姫和の意識が戻るのも早まる。
しかしアイスでもない、百歩譲ってクスクシエで提供される料理ならまだしも、見るからに苦みしかないものを口に入れる気はない。
吐き捨てた内容に嘘は無いと分かるが、ここでリュージが自身のリュックサックからある物を出した。
加えてグリードの生命力故か、わざわざ医療機関に赴かずとも自然治癒力も増す。
確かに何らかの道具を使って傷を治せば、姫和の意識が戻るのも早まる。
しかしアイスでもない、百歩譲ってクスクシエで提供される料理ならまだしも、見るからに苦みしかないものを口に入れる気はない。
吐き捨てた内容に嘘は無いと分かるが、ここでリュージが自身のリュックサックからある物を出した。
「お前それ…」
「何考えてこんなもん支給したのか知らねぇが、物は使いようってか。好きなんだろ?アイス」
「チッ…隠してやがったのか」
「何考えてこんなもん支給したのか知らねぇが、物は使いようってか。好きなんだろ?アイス」
「チッ…隠してやがったのか」
クーラーボックスいっぱいに詰められた、色とりどりのアイスキャンディー。
人間に憑依して初めて口にし、以来すっかり好物となったソレが大量に目の前に。
欲しければ黙って薬草を食えと言いたいのか、全く腹立たしい。
わざと大きく舌打ちをし、口に放り込んで噛む。
案の定苦みというかエグみが広まり、同じくして姫和の負傷が多少は治ったと分かった。
ぶっきらぼうに効果はあったと伝えれば、ソーダ味のアイスを一本寄越される。
人間に憑依して初めて口にし、以来すっかり好物となったソレが大量に目の前に。
欲しければ黙って薬草を食えと言いたいのか、全く腹立たしい。
わざと大きく舌打ちをし、口に放り込んで噛む。
案の定苦みというかエグみが広まり、同じくして姫和の負傷が多少は治ったと分かった。
ぶっきらぼうに効果はあったと伝えれば、ソーダ味のアイスを一本寄越される。
「あ゛!?一本だけかよ!」
「そりゃ全部やるとは一言も言ってねぇからな」
「そりゃ全部やるとは一言も言ってねぇからな」
あっけらかんと返されもう一度舌打ちをし、だが口直しをやめる気は無い。
シャリッとした食感と爽やかな甘みは、映司と出会ってから幾度となく味わったのと同じ。
よもやこういった形でまた食べるとは思わなかったが。
姫和の好きな味とは違うも、アンクにとってはこっちの方が好みだ。
ついでに念の為にと可奈美にも薬草を何枚か渡しておく。
シャリッとした食感と爽やかな甘みは、映司と出会ってから幾度となく味わったのと同じ。
よもやこういった形でまた食べるとは思わなかったが。
姫和の好きな味とは違うも、アンクにとってはこっちの方が好みだ。
ついでに念の為にと可奈美にも薬草を何枚か渡しておく。
「ありがとうございます、でも良かったんですか?」
「薬草のことならまだ残ってるし別に良い、アイスの方も使い道に困ってたしな」
「薬草のことならまだ残ってるし別に良い、アイスの方も使い道に困ってたしな」
礼を言って頭を下げる可奈美へ、何でも無いように返す。
善意が微塵も無かったとは言わないが、さりとて恩を売っておく意図がゼロだったとも言えない。
現状殺し合いはダーウィンズゲームとは無関係な上に、サンセットレーベンズのメンバーは自分だけ。
というか知ってる範囲だが、ダーウィンズゲームのプレイヤーが他に誰もいない。
何故ピンポイントで自分だけを巻き込んだのか、どうせロクでもない理由だろうとは察せられる。
今の所殺し合いに乗って勝ち残る気は無い、但し今後の状況次第では方針をガラリと変える必要も出て来るだろう。
カナメ達との出会いとクラン加入を経て以前より仲間意識はあるものの、リュージは基本的にリアリスト。
元々のクランの面々が不在な以上、優勝を目指す選択も考えざるを得なくなるかもしれない。
優勝、脱出、打倒主催者。
いずれ決めねばならない時に備えて、信頼とまではいかなくとも信用は得ておくに限る。
宝探しゲームの時同様、自分一人でどうにかするには相当骨が折れるのだから。
善意が微塵も無かったとは言わないが、さりとて恩を売っておく意図がゼロだったとも言えない。
現状殺し合いはダーウィンズゲームとは無関係な上に、サンセットレーベンズのメンバーは自分だけ。
というか知ってる範囲だが、ダーウィンズゲームのプレイヤーが他に誰もいない。
何故ピンポイントで自分だけを巻き込んだのか、どうせロクでもない理由だろうとは察せられる。
今の所殺し合いに乗って勝ち残る気は無い、但し今後の状況次第では方針をガラリと変える必要も出て来るだろう。
カナメ達との出会いとクラン加入を経て以前より仲間意識はあるものの、リュージは基本的にリアリスト。
元々のクランの面々が不在な以上、優勝を目指す選択も考えざるを得なくなるかもしれない。
優勝、脱出、打倒主催者。
いずれ決めねばならない時に備えて、信頼とまではいかなくとも信用は得ておくに限る。
宝探しゲームの時同様、自分一人でどうにかするには相当骨が折れるのだから。
(ま、胡散臭さはダーウィンズゲームとどっこいどっこいだけどよ)
当たり前だが主催者のことは一切信じていない。
優勝したって本当に帰してくれるのか、望みを叶えてくれるのか。
どういう訳か羂索相手には自身のシギルが通用せず、真か嘘か判別不能だった。
優勝したって本当に帰してくれるのか、望みを叶えてくれるのか。
どういう訳か羂索相手には自身のシギルが通用せず、真か嘘か判別不能だった。
ともかく今はまだ殺し合いの序盤。
さっき言った武器と人でのみならず、情報が圧倒的に足りない。
レインならばもっと頭を回せるのだろうけど、いない者を頼っても仕方ない。
最終的にどうするにしても、まずは可奈美とアンクの両名と行動。
前者は早目に覚悟を決められるよう働きかけ、後者は油断せずに接する。
根っからの善人だろう可奈美と違い、アンクは損得を勘定に入れて動く面を持つ。
まさか本当にアイスが交渉道具に使えるとは思わなかったが。
さっき言った武器と人でのみならず、情報が圧倒的に足りない。
レインならばもっと頭を回せるのだろうけど、いない者を頼っても仕方ない。
最終的にどうするにしても、まずは可奈美とアンクの両名と行動。
前者は早目に覚悟を決められるよう働きかけ、後者は油断せずに接する。
根っからの善人だろう可奈美と違い、アンクは損得を勘定に入れて動く面を持つ。
まさか本当にアイスが交渉道具に使えるとは思わなかったが。
「…おい」
「分かってる」
「分かってる」
苛立たし気な表情から一変、アンクは猛禽類のように鋭く睨む。
同じ方へリュージが手に入れたばかりの銃を構え、後ろでは可奈美もいつでも抜刀できる準備は整った。
全員の鼓膜を震わせるのは、バイクが発する低いエンジン音。
マフラーが火を吹き駆ける姿は大都会ならありふれた光景なれど、殺し合いでは別。
新たな参加者が敵か味方か、どちらだろうと即座の対処が可能にしておく。
同じ方へリュージが手に入れたばかりの銃を構え、後ろでは可奈美もいつでも抜刀できる準備は整った。
全員の鼓膜を震わせるのは、バイクが発する低いエンジン音。
マフラーが火を吹き駆ける姿は大都会ならありふれた光景なれど、殺し合いでは別。
新たな参加者が敵か味方か、どちらだろうと即座の対処が可能にしておく。
そっと様子を窺うと、音の正体がハッキリ見えるようになった。
案の定バイクに乗った何者かがこちらに近付いて来る。
髑髏のレリーフが特徴のイカしたマシンを乗りこなすのは、何とも珍妙な見た目の人物。
カタカナ四文字を貼り付けた仮面に、どういう趣味だよと内心で零すのはリュージ。
球団マスコットの着ぐるみで新人狩りをしたプレイヤーをふと思い出す。
案の定バイクに乗った何者かがこちらに近付いて来る。
髑髏のレリーフが特徴のイカしたマシンを乗りこなすのは、何とも珍妙な見た目の人物。
カタカナ四文字を貼り付けた仮面に、どういう趣味だよと内心で零すのはリュージ。
球団マスコットの着ぐるみで新人狩りをしたプレイヤーをふと思い出す。
バイクは市街地で今最も目立つ場所、三人分の死体が転がる前で停車。
仮面の人物が降りた際、もう一人乗っていたと気付いた。
小柄な為走行中は見えなかったが、ツインテールの少女である。
死体を目撃しあからさまに顔を歪めており、当然の反応と言えるだろう。
仮面の人物が降りた際、もう一人乗っていたと気付いた。
小柄な為走行中は見えなかったが、ツインテールの少女である。
死体を目撃しあからさまに顔を歪めており、当然の反応と言えるだろう。
「あれって…!」
「な、おいまだ行くな…!」
「心配すんな。あっちのライダーはともかく、もう一人のガキは問題ねぇ」
「な、おいまだ行くな…!」
「心配すんな。あっちのライダーはともかく、もう一人のガキは問題ねぇ」
飛び出す可奈美に焦るも、アンクからは冷静な声が飛ぶ。
直接の面識はない、しかし宿主の記憶の中で見た顔。
時折見せるやる気のなさ気な態度や、身体の一部をちょくちょくいじられ怒らせる相手。
ただ殺し合いに乗る性根の持ち主では無い。
見れば可奈美の姿を向こうも捉え、驚きが自分達の方にも伝わって来る。
直接の面識はない、しかし宿主の記憶の中で見た顔。
時折見せるやる気のなさ気な態度や、身体の一部をちょくちょくいじられ怒らせる相手。
ただ殺し合いに乗る性根の持ち主では無い。
見れば可奈美の姿を向こうも捉え、驚きが自分達の方にも伝わって来る。
「薫ちゃーんっ!」
「おまっ、か、可奈美!?」
「おまっ、か、可奈美!?」
手を振って駆け寄る相手は見間違える筈も無い、刀使の仲間であり友の一人。
隠世に行ったまま帰って来なかった二人の片割れ。
信じられないものを見たように、薫は目をパチクリさせるばかり。
名簿を見た時から姫和共々参加しているとは知っていた。
だけどこんなに早く、しかもあっさり再会が叶うとは完全に予想外。
しかも偶然見知った顔を見付けたような気安さで駆けて来るものだから、段々と眉間に皺が寄り出す。
こっちは帰って来れなかったと聞かされた時、御刀を放り投げるくらいショックだったというのに。
隠世に行ったまま帰って来なかった二人の片割れ。
信じられないものを見たように、薫は目をパチクリさせるばかり。
名簿を見た時から姫和共々参加しているとは知っていた。
だけどこんなに早く、しかもあっさり再会が叶うとは完全に予想外。
しかも偶然見知った顔を見付けたような気安さで駆けて来るものだから、段々と眉間に皺が寄り出す。
こっちは帰って来れなかったと聞かされた時、御刀を放り投げるくらいショックだったというのに。
「……ふんっ」
「あたっ!?」
「あたっ!?」
能天気に近付いて来た所へ、不機嫌なまま頭突きを繰り出す。
腹部への鈍い痛みに思わず呻き、「いたた…」と擦るもお構いなしだ。
散々心配させておいたのだからこれくらい安いものだろう。
もう二発くらいどすどすと頭突きを食らわせてやる。
腹部への鈍い痛みに思わず呻き、「いたた…」と擦るもお構いなしだ。
散々心配させておいたのだからこれくらい安いものだろう。
もう二発くらいどすどすと頭突きを食らわせてやる。
「いたっ!?薫ちゃんストップストップ!」
「るっせー、お前ならこんぐらい平気だろ。金剛身使ったみたいな腹しやがって」
「うええ!?わ、私のお腹そんなに硬いの!?」
「るっせー、お前ならこんぐらい平気だろ。金剛身使ったみたいな腹しやがって」
「うええ!?わ、私のお腹そんなに硬いの!?」
信じられないとでも言いた気に腹部を擦る様子は、記憶にある可奈美と全く同じ。
殺し合いという最悪の状況なのは気に食わないけど、それでもまた可奈美に会えたのは疑いようのない事実。
悪趣味な幻の類で無い、れっきとした本物だと分かったら不機嫌さも薄れ出す。
ぽすりと、間の抜けた音の頭突きと同時に鼻の奥がツンとしてきた。
こういうのは自分でも柄じゃないし、何より人殺しになった身で会って良いのか悩んでいたけど。
本人を見たら感情が溢れるのを我慢できない。
殺し合いという最悪の状況なのは気に食わないけど、それでもまた可奈美に会えたのは疑いようのない事実。
悪趣味な幻の類で無い、れっきとした本物だと分かったら不機嫌さも薄れ出す。
ぽすりと、間の抜けた音の頭突きと同時に鼻の奥がツンとしてきた。
こういうのは自分でも柄じゃないし、何より人殺しになった身で会って良いのか悩んでいたけど。
本人を見たら感情が溢れるのを我慢できない。
「大丈夫なら…もっと早く帰って来いよバカ……」
「……うん、ごめんね。あとただいま!」
「……うん、ごめんね。あとただいま!」
俯き鼻声になっている薫に、おずおずと手を伸ばす。
言動から彼女も姫和と同じく、呼ばれた時間が違うと察した。
自分達が隠世から帰って来る前に、殺し合いに巻き込まれたのだろう。
一々指摘するのは無粋であり、何より自身の選択に後悔が無くとも友を悲しませたのに変わりは無い。
頭を撫でてやると僅かに震えられたが、拒絶はせずに受け入れてくれた。
言動から彼女も姫和と同じく、呼ばれた時間が違うと察した。
自分達が隠世から帰って来る前に、殺し合いに巻き込まれたのだろう。
一々指摘するのは無粋であり、何より自身の選択に後悔が無くとも友を悲しませたのに変わりは無い。
頭を撫でてやると僅かに震えられたが、拒絶はせずに受け入れてくれた。
「ガキ扱いすんなっての…」
「本当は嫌じゃないくせにー」
「うるせーバーカ……このモヤモヤした分は、もう一人のペッタン女にぶつけてやる」
「本当は嫌じゃないくせにー」
「うるせーバーカ……このモヤモヤした分は、もう一人のペッタン女にぶつけてやる」
それが誰を指しているのかすぐに分かり、困ったように目を泳がせる。
自分が会った方の姫和の現状も説明せねばなるまい。
時間軸が違うが、彼女だって自分達の知る姫和なのだから。
可奈美の様子が変わったのを感じ取ったのか、訝し気に顔を上げた。
薫の目にまたもや見覚えのある顔が映り込んだのは、その時である。
自分が会った方の姫和の現状も説明せねばなるまい。
時間軸が違うが、彼女だって自分達の知る姫和なのだから。
可奈美の様子が変わったのを感じ取ったのか、訝し気に顔を上げた。
薫の目にまたもや見覚えのある顔が映り込んだのは、その時である。
「…って、いるじゃねえか!」
見知らぬ茶髪の青年と並んでやって来るのは、紛れも無い十条姫和だ。
着ているのは平城学館の制服ではないし、髪も珍しく編んでいる。
おおよそ姫和らしくないファッションであるも、間違いなく本人。
可奈美とは早々に会えていたのか、この分では舞衣と沙耶香とも案外早く合流が叶うのでは。
少々楽観的に考えつつも、可奈美同様心配させた友へ声を掛ける。
着ているのは平城学館の制服ではないし、髪も珍しく編んでいる。
おおよそ姫和らしくないファッションであるも、間違いなく本人。
可奈美とは早々に会えていたのか、この分では舞衣と沙耶香とも案外早く合流が叶うのでは。
少々楽観的に考えつつも、可奈美同様心配させた友へ声を掛ける。
「出やがったなエターナル胸ぺったん女。その恰好どうしたんだよ?帰って来る前にイメチェンでもしたのか?」
「チッ、こいつにも説明がいるか…おい可奈美、お前の方から言っとけ。それと、そっちのライダーも話を聞かせてもらうぞ」
「チッ、こいつにも説明がいるか…おい可奈美、お前の方から言っとけ。それと、そっちのライダーも話を聞かせてもらうぞ」
面倒とばかりに舌打ちを零した挙句、飛び出したのは粗暴な男口調の数々。
幾ら何でもキャラが変わり過ぎであり、あんぐりと口を開ける。
隠世に長くいると人格にも変化が起きてしまうのか。
その割に可奈美は至って前と変わらないが。
幾ら何でもキャラが変わり過ぎであり、あんぐりと口を開ける。
隠世に長くいると人格にも変化が起きてしまうのか。
その割に可奈美は至って前と変わらないが。
「……ひよよんの奴どうしちまったんだ?胸の成長性が絶望的な余りグレたのか?不良になっても育たないもんは育たないだろ…」
「それ、姫和ちゃんが起きても言わないであげてね。色々複雑なんだけど実は…」
「それ、姫和ちゃんが起きても言わないであげてね。色々複雑なんだけど実は…」
軽く引いてる薫を宥めながら、姫和に起こった経緯を話す。
刀使達を横目にアンクもまたリュージと共に、もう一人へと対応。
薫はともかく、こっちは明確な味方かどうかはまだ不明。
何よりも、聞き覚えのあり過ぎる声を発したのはどういうことかをハッキリしなくては。
刀使達を横目にアンクもまたリュージと共に、もう一人へと対応。
薫はともかく、こっちは明確な味方かどうかはまだ不明。
何よりも、聞き覚えのあり過ぎる声を発したのはどういうことかをハッキリしなくては。
「薫の友人の同行者なら、こちらと敵対する意思は無いと見て良いのかな?」
「そいつはお前次第だ。変身しても声は誤魔化せねぇ。何でお前はルルーシュと同じ声をしてやがんだ?」
「そいつはお前次第だ。変身しても声は誤魔化せねぇ。何でお前はルルーシュと同じ声をしてやがんだ?」
最初の場で、そしてアンクはテレビに映った演説で二度ルルーシュの声を聞いている。
ライダーの四文字を貼り付けた男は顔こそ見えないが、声はルルーシュと全く同じ。
一体全体どういうことなのかと説明を求める。
無論、嘘は許さないと鋭い瞳で訴えて。
ライダーの四文字を貼り付けた男は顔こそ見えないが、声はルルーシュと全く同じ。
一体全体どういうことなのかと説明を求める。
無論、嘘は許さないと鋭い瞳で訴えて。
「お、おい待てって!こいつはルルーシュじゃねぇ!」
「落ち着け薫。こうなる事態は私も予測していた、今更焦らなくても問題無い」
「落ち着け薫。こうなる事態は私も予測していた、今更焦らなくても問題無い」
剣呑な空気を察したのだろう、弁明しようとする薫を制する。
ルルーシュと間違われるのは既に分かり切っていた故、別段動揺もない。
下手に言い訳を重ねるよりも、事実を口にした方がこの場合は正解。
ベルトを操作し偽りの魔王の鎧を脱ぐ。
現れたのはこの場の全員が知っている悪逆皇帝の顔、但し全くの別人と知るのは薫だけだ。
ルルーシュと間違われるのは既に分かり切っていた故、別段動揺もない。
下手に言い訳を重ねるよりも、事実を口にした方がこの場合は正解。
ベルトを操作し偽りの魔王の鎧を脱ぐ。
現れたのはこの場の全員が知っている悪逆皇帝の顔、但し全くの別人と知るのは薫だけだ。
「まずは自己紹介させてくれ。私はロロ・ヴィ・ブリタニア、ルルーシュとは双子の兄弟…と、少し前まではそう思わされていたよ」
実の妹のナナリーですら、ルルーシュ本人の声と思ったくらいだ。
当然顔もルルーシュと瓜二つ、だが名乗ったのは全く異なる名前。
ブリタニア姓に強く反応する者はおらず、代わりにアンクが険しい表情を崩さずに問い質す。
当然顔もルルーシュと瓜二つ、だが名乗ったのは全く異なる名前。
ブリタニア姓に強く反応する者はおらず、代わりにアンクが険しい表情を崩さずに問い質す。
「含みのある言い方だが、正確には双子じゃないって事か」
「まぁ、余り大っぴらに話したい内容でもないが。母の腹から産み落とされたのではなく、人工的に造られたルルーシュの弟。それが私だ」
「放送で自信満々に恐れよだの言ってた奴とは別人か?」
「その時間私はテレビ局から離れた場所にいた。証人となるのは薫と、どこぞの下賤な剣士のみだが」
「まぁ、余り大っぴらに話したい内容でもないが。母の腹から産み落とされたのではなく、人工的に造られたルルーシュの弟。それが私だ」
「放送で自信満々に恐れよだの言ってた奴とは別人か?」
「その時間私はテレビ局から離れた場所にいた。証人となるのは薫と、どこぞの下賤な剣士のみだが」
チラと薫を見ればその通りだと言うように頷いている。
可奈美と目を合わせたリュージも小さく頷き、嘘は言ってないと合図。
名前も経歴も、シギルの判断は両方嘘では無いということか。
可奈美と目を合わせたリュージも小さく頷き、嘘は言ってないと合図。
名前も経歴も、シギルの判断は両方嘘では無いということか。
「…ま、わざわざテメェの城を抜け出して熱心に勧誘するタイプでもないか」
テレビ局で待つと言っておきながら、こうも早くに自ら動くのは流石に不自然だ。
ここにいるのはルルーシュとは別人、そう考えて問題無いだろう。
中々に複雑な境遇の持ち主らしいがともかく、敵対の意思が無いなら構わない。
ここにいるのはルルーシュとは別人、そう考えて問題無いだろう。
中々に複雑な境遇の持ち主らしいがともかく、敵対の意思が無いなら構わない。
「薫ちゃん、その服の血って怪我…だったらこんな風に話せてないよね」
「あぁ、これ、な……」
「あぁ、これ、な……」
当然の指摘に声が硬くなるのが自分でも分かった。
見知った顔が返り血で汚れていたら、気にならない訳が無い。
可奈美の同行者達も口に出さないだけで、事情の説明を求めているだろう。
見知った顔が返り血で汚れていたら、気にならない訳が無い。
可奈美の同行者達も口に出さないだけで、事情の説明を求めているだろう。
その点も含め書店の奥に戻ってこの二人からも話を引き出す。
といきたい所だが予定通りにはいかなかった。
といきたい所だが予定通りにはいかなかった。
「話の続きは後回しだな。呼んでもいない連中が来やがった」
リュージの言う通り、ゾロゾロと現れる影が全員に見えた。
二足歩行ではあるも人の姿からはかけ離れた異形達。
黄金の胴体とカマキリの鋭利な腕を持つ者。
女性を思わせる口元と体付きを持つが、同様に昆虫の特徴が混ざった者。
緑の瞳をあっちこっちにせわしなく向け、6枚の羽根をダランと垂らした者。
上からマンティスマルガム、女王蜂のイリアン、トンボアマゾン。
それぞれ異なる世界で、仮面ライダーやスーパー戦隊と戦った怪人である。
レジスターを持たないことからNPCだとは一目で分かった。
二足歩行ではあるも人の姿からはかけ離れた異形達。
黄金の胴体とカマキリの鋭利な腕を持つ者。
女性を思わせる口元と体付きを持つが、同様に昆虫の特徴が混ざった者。
緑の瞳をあっちこっちにせわしなく向け、6枚の羽根をダランと垂らした者。
上からマンティスマルガム、女王蜂のイリアン、トンボアマゾン。
それぞれ異なる世界で、仮面ライダーやスーパー戦隊と戦った怪人である。
レジスターを持たないことからNPCだとは一目で分かった。
「アイツらは……」
姫和と共有した記憶が正しければ、彼女の腕を落とした男が引き連れていた怪人と同じ。
まさか戻って来たのかと焦り周囲を見回すが、件の男はどこにもいない。
偶々同種のNPCが現われた、或いは男が配下に別行動を取らせ参加者を狩るよう命じたか。
どっちにしろあの男が万が一戻って来る前に片を付けねば。
見付かってしまった以上は、倒して切り抜けるしかあるまい。
まさか戻って来たのかと焦り周囲を見回すが、件の男はどこにもいない。
偶々同種のNPCが現われた、或いは男が配下に別行動を取らせ参加者を狩るよう命じたか。
どっちにしろあの男が万が一戻って来る前に片を付けねば。
見付かってしまった以上は、倒して切り抜けるしかあるまい。
既に刀使の二人は得物を構えており、リュージも引き金を引く準備は万端。
彼らに倣ってロロも再度変身を行う。
ギアス抜きで切り抜けられるならそれに越したことはない。
彼らに倣ってロロも再度変身を行う。
ギアス抜きで切り抜けられるならそれに越したことはない。
「変身」
『RIDER TIME』
『KAMEN RIDER ZI-O!』
腕時計モチーフの装甲と、特徴的な四文字を貼り付けた仮面。
仮面ライダージオウへの変身に、リュージはつい呆れ顔を作る。
仮面ライダージオウへの変身に、リュージはつい呆れ顔を作る。
「仮面なんたらってのは毎回こんなうるせぇのか?」
「音楽は気にするな。今は便利な装甲服とでも思っときゃ良い」
「音楽は気にするな。今は便利な装甲服とでも思っときゃ良い」
仮にオーズの変身を見たらどう反応するのか。
どうでもいいことを一瞬浮かべ、アンクも自らの姿を変える。
獲物を捉えて離さない鷹の頭部に、孔雀のような派手な色彩の胴体、更にはコンドルの爪を生やした脚部。
三種類の鳥の特徴を持ち合わせた赤い怪人。
グリードとしてのアンク本来の姿だ。
どうでもいいことを一瞬浮かべ、アンクも自らの姿を変える。
獲物を捉えて離さない鷹の頭部に、孔雀のような派手な色彩の胴体、更にはコンドルの爪を生やした脚部。
三種類の鳥の特徴を持ち合わせた赤い怪人。
グリードとしてのアンク本来の姿だ。
「ひよよんの奴本当に大丈夫なのかよ?元に戻ってもあのまま、とかじゃねぇだろうな?」
「アンクさんが離れれば元の姫和ちゃんに戻るみたい。嘘は言ってない…と思う」
「アンクさんが離れれば元の姫和ちゃんに戻るみたい。嘘は言ってない…と思う」
リュージが何も言わなかったのでアンクの言葉に嘘はないと知ってるが、実際に姫和の体で人外に変身すると流石に驚きはする。
いきなり危険な輩に腕を斬られ、今は荒魂とは別の存在が憑依し、当の本人は重傷で意識が無い。
自分が言えたものではないが巻き込まれて早々、とんでもない目に遭ったらしい。
姫和に関する話は他にもあるようだったが、詳しく聞くのは邪魔な連中を蹴散らした後。
同じく、犯した罪を可奈美に告げねばならない時も来る。
気は重いが誤魔化す真似はしたくない、芳佳の件は必ず伝えなければ。
いきなり危険な輩に腕を斬られ、今は荒魂とは別の存在が憑依し、当の本人は重傷で意識が無い。
自分が言えたものではないが巻き込まれて早々、とんでもない目に遭ったらしい。
姫和に関する話は他にもあるようだったが、詳しく聞くのは邪魔な連中を蹴散らした後。
同じく、犯した罪を可奈美に告げねばならない時も来る。
気は重いが誤魔化す真似はしたくない、芳佳の件は必ず伝えなければ。
お喋りは終わりだ。
異形達の絶叫に似た声を合図に、狩りが始まる。
異形達の絶叫に似た声を合図に、狩りが始まる。
028:痛み が 重なったら/闇に光を、罪に罰を | 投下順 | 029:波瀾Ⅱ:ザ・マーセナリーズ |
時系列順 | ||
002:どうすればいいかなんてもうわかっていた | 十条姫和 | |
アンク | ||
前坂隆二(リュージ) | ||
衛藤可奈美 | ||
009:魔法少女ラブリーチカの災難 ―闇檻の胎動―(前編) | 花菱はるか | |
横山千佳 | ||
026:悪の巣窟キヴォトスとはなにか | 小宮果穂 | |
チェイス | ||
005:罪/力 | 益子薫 | |
ロロ・ヴィ・ブリタニア | ||
ジンガ | ||
008:夢中になれるモノが── | トランクス(未来) | |
神戸しお | ||
候補作031:INFERNO-LEGAL SIDE- | 宇蟲王ギラ |