Waiting for the End of the Ground

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Waiting for the End of the Ground  ◆ew5bR2RQj.



泉こなたは走るのが速い。
低身長というのは歩幅が短くなる影響で、通常は走るには不利である。
しかし彼女はそれを物ともせず、学年の女子でもトップクラスの速さを誇った。
部活に参加していないことを鑑みれば、驚異的な速度であると言えるだろう。
それはあくまで女子高生の中だけの話だが。
まず男性と女性というのは、運動能力に大きな差が生まれる。
更に運動能力が同じであった場合、体躯の長短がそのまま速さに直結する。
そして彼女を追い掛けているストレイト・クーガーは、運動能力――――特に速さにおいては絶対の自信を持つ。
故に彼女が捕まってしまうのは仕方のないことであった。

「やーっと捕まえましたよ、こなたさん!」
「ちょっ、離してよ! 変態! 変態! 変態!」

話は変わるが、彼女はバトルロワイアルに参加してから幸運が続いている。
デイパックの中身は全てが最高級品であり、いきなり彼女を主人と慕う仲間が現れた。
特に後藤に二度も遭遇し、二回とも無傷であったのは奇跡としか言いようがないだろう。
今の彼女は人生の中で最もツイていると言っても過言ではなかった。
そして彼女の幸運は、ここでも発揮されることとなる。

「お前! なにをやっているんだ!」

野太い声が響く。
音源の方向に振り向くと、そこには二人の男の姿があった。
一人は不健康そうな顔に痩躯の男。
もう一人は彫りの深い顔に白いライダースーツの男。
声を上げたのは、ライダースーツの男の方だった。

(こんな時に……)

悪漢に絡まれた女性を、正義漢のある男が救いだそうとする。
使い古されたドラマのような展開。
そしてクーガーの危惧した最悪の展開でもあった。
今の彼らには、自分が少女を襲おうとした危険人物に見えているのだろう。
こうなる前に説得して病院に戻りたかったが、過ぎたことを何時までも悔やんでいる時間はない。
手間暇を裂いてでも、目前の二人をなんとか説得するしかないだろう。

「えっと、俺は――――」
「た、助けてください! この人、私を殺そうとして追い掛けてきたんです!」
「こ、こなたさぁ~ん!?」

やられた、そんな言葉が頭を過る。
今の彼女の発言で、彼らの中にあった疑惑が確信へと変わったに違いない。

「こんな小さな子供に乱暴を働くなど……許さん!」

ライダースーツの男が眉間に皺を寄せ、クーガーの元へと襲いかかってくる。
筋肉質で巨大な男が突進してくる様は、さながら重機関車のようであった。
クーガーにとっての不幸は、ライダースーツの男――――南光太郎が非常に単純で直線的な人間だったことだろう。


   ☆ ☆ ☆


光太郎とLは、右京達と別れてからもひたすら走り続けていた。
短時間で多くの場所を見回るためには、一分でも時間が惜しかったのだ。
しかし光太郎の身体能力があまりにも高すぎたため、予想よりも早いペースで進んでいることに気付いた。
だから本来の巡回場所になかったDー7の山火事を観察することにしたのだ。

「Lさん、これ以上は……」

炎の規模はEー7からですら分かる酷い惨状であった。
最初はDー7の一部だけだったものが、今やDー7全体を炎が包み込んでいる。
それでも炎の勢いは衰えず、隣接する他のエリアに延焼する可能性もあった。

「光太郎さん、すいません、もう少しだけ炎に近づいてもらってもいいでしょうか?」
「し、しかし……」

仮面ライダーに変身できる光太郎はともかく、生身のLが炎の中に突っ込んでいって無事に済むわけがない。
頭脳明晰なLがそれを理解していないはずがないのに、と光太郎は首を傾げる。

「私の支給品に装備者を炎から守るアズュールという指輪がありました
 これの効力を試してみたいのです、もし怖いのでしたら私が一人で行きますが……」

Lの細指に嵌められた黄金色の指輪。
説明書によると、所有者の拒絶する意思に反応して緊急発動するようである。

「いえ、僕も付いていきますよ
 その代わりもし危険だと感じたら、強引にでも引っ張り出します」
「分かりました、ありがとうございます」

抑揚のない声で感謝を述べるLを背負い、光太郎はゆっくりと炎に近づいていく。
炎が発する熱と緊張感から来る汗が、彼らの額を伝う。
そして彼の爪先が炎に触れた瞬間、炎から彼らを守るように透明な結界が展開された。

「もう結構です、だいたい分かりました」

Lの指示を受け、炎から遠ざかる光太郎。

「やはりこの指輪、本物みたいですね」
「こんな小さな指輪にあんな力があるなんて、まるで魔法みたいだ」

子供のようにはしゃぐ光太郎とは対照的に、Lは冷静なままである。
何故なら彼は、支給品に虚偽の説明書を添付する意味がないことに気付いていたからだ。
せっかくの支給品が有効活用されないのは、主催側にとっても面白くはないだろう。
そもそもアズュール自体が眉唾な代物であり、超常現象に縁のない人間なら尚更である。
V.V.の嘘が嫌いという言葉もあり、Lはこれが本物だと確信していた。
この作業は念には念を入れた確認のためだ。

「それでは早く次の場所に行きましょう」


山火事の規模等はだいたい計測することができた。
この場でこれ以上の情報は得ることができず、もし危険人物に遭遇すれば余計な時間を取ることになる。
光太郎は火事の中に取り残された参加者を案じていたが、爆発が起こったのはもう何時間も前だ。
まともな神経の人間なら近づかないし、取り残された人間が生存している可能性も低い。
だからDー7を探索するよりは、次の目的地に進んだ方がより多くの参加者の救援に回れると判断した。
光太郎も最初は反発したものの、渋々ではあるが最終的には従ってくれた。
そうして彼らが次に向かった先は図書館。
そこにあったのは首を切断された男の死体だけであり、すぐに立ち去ることなった。
そして総合病院に赴こうと道路を走行中、奇妙なやり取りが彼らの目に飛び込んできたのだ。

「やーっと捕まえましたよ、こなたさん!」
「ちょっ、離してよ! 変態! 変態! 変態!」

サングラスをかけた変な髪型の男が、小学生くらいの女の子を襲っている。
女の子は必死に抵抗しているものの、体格差があるせいでほとんど意味を為していない。

「Lさん!」
「ええ、助けに行きましょう」

そうして彼らは二人の間に飛び込むこととなったのだ。


   ☆ ☆ ☆


「許さん!」

クーガーの腕をこなたから引っ剥がそうと、彼の腕に狙いをつける光太郎。
怪人相手なら体当たりをするところだが、それでは彼女にまで被害が及んでしまう。
だから直接腕を狙おうと目論むが、光太郎が駆けつける直前にクーガーの姿は跡形もなく消えていた。
否、物凄いスピードで後ろに下がっていたのだ。

「君は逃げて!」
「うん!」

クーガーが彼女から離れたため、逃げることは容易い。
彼女を追い掛けようとするクーガーを、光太郎は牽制する。

「お前、少しは人の話を――――」
「問答無用!」

何とか説得を試みるクーガーを一蹴する光太郎。
山火事に取り残された人々や図書館の惨殺死体は、彼に大きな無力感を与えていた。
その直後にか弱い少女を襲おうとした男を見て、彼の中の正義感に火が付いてしまったのだ。
こなたを逃したことで遠慮は要らなくなり、光太郎はクーガーに体当たりを仕掛ける。
単純で直線的ではあるものの、非常に力強い一撃。
しかしやはり直線的であり、速さを武器に戦うクーガーにとって回避することは容易い。
大きく跳躍することで体当たりを避け、返す刀で蹴りを仕掛けるクーガー。
蹴りは光太郎の顔面に命中し、彼の脳を揺さぶる。

「おぉぉ……」
「なにいぃっ!?」

だが光太郎はそれに臆することはなく、戻そうとした脚をその両腕でがっしりと掴む。
そのまま両足を軸に回転し、纏った遠心力でクーガーを投げ飛ばした。

「ぐああぁぁぁぁっ!!」

民家に激突するクーガー。
衝突した民家の壁には、クモの巣状のヒビが刻み込まれる。

「ハァ……ハァ……」

二人の視線が交差する。
奇しくも二人は、この瞬間に全く同じ事を考えていた。
それは互いの実力に対する畏怖と尊敬。
光太郎はクーガーの速さを、クーガーは光太郎の力強さを脅威に感じていた。
強化された光太郎の目ですら視認できないクーガーの速さと、絶対の自信を持っていた蹴りを容易く受け止める光太郎の力強さ。
二人は互いに身体を改造されており、本来の力を行使せずとも常人を上回る力を誇る。
故に二人は言葉を交わさずとも、互いの境遇を理解することができた。
目の前の男は自分と同じであると。

「……」

顔の傍に持ってきた両の拳を、力を溜め込むように強く握り締める光太郎。
次に右拳を腰まで引き、指までぴんと伸ばした左腕を交差するように右方向に突き出す。
そこから左腕で半円を描き、最後に両腕を同時に右に伸ばす。

「変身!」

掛け声と共に彼の腰に赤い宝玉と銀色のベルトが現出し、宝玉が強烈な閃光を放ち始める。
これこそが彼に力を与えるキングストーンであり、増幅されたエネルギーが全身へと回りだす。
そしてそのエネルギーは、彼の身体をバッタのような姿へと変える。
その上を強化皮膚・リプラスフォームが包みこんだ。

「仮面ライダーBLACK!」

関節から蒸気が吹き出て、赤黒い皮膚が見え隠れしている。
これこそが南光太郎が、ゴルゴムによって改造されて得た本当の力。
この会場で大虐殺劇を繰り広げたシャドームーンの対となる、ブラックサンの力である。

「そうか、それがお前の力か、なら俺の力も見せてやる! ラディカルグッドスピード脚部限定!」

クーガーが力を込めると同時に、近場にあった塀が細かい粒子へと変換される。
変換された粒子はクーガーの脚部を包みこみ、薄紫の色をした流線型の装甲へと生まれ変わった。

「行くぞ」
「来い」

本領を発揮した二人は、距離を保ったまま睨み合う。
10メートルほどの距離だが、彼らの前ではゼロ距離に等しい。
互いの力を溜め、必殺の一撃を叩き込もうとしているのだ。

「衝撃のぉぉぉぉぉ――――」
「ライダーァァァァ――――」

キングストーンの輝きが脚へと駆け巡り、クーガーの装甲からは蒸気が噴出し始める。
そしてある瞬間を境に、互いの姿は掻き消える。

「ファーストブリットオオオオォォォォォ!!」
「キィィィィィィィィッックッ!!」

耳をつんざくような衝突音。
装甲に包まれた互いの脚部が、空中で激突する。。
光太郎の脚が発する閃光が目を眩ませ、クーガーの脚が発する暴風が身動きを封じる。
互いに一歩も引かず、自身の全力をぶつけ合う。
そこに賭けられているのは互いの意地。
目の前の男からこなたを取り戻したい、目の前の男から少女を守りたい。
ここで撃ち負けることは、自分の意地が負けたこと同義。
だから負けるわけにはいかなかった。

「うわっ!」

だが、どんな物事にも必ず結果というものは訪れる。
限界に達した二人は、風船が破裂するような音と共に弾き飛ばされた。
彼らの意地と意地のぶつかり合いは、引き分けという形で幕を閉じたのだ。

(なんて速さなんだ……)

受け身をとって着地した光太郎は、同様に着地したクーガーを傍目に思考する。
ライダーキックはカニ怪人に破られて以来、身体の屈伸を加えることで威力を向上させている。
しかしそれでは威力が高すぎるため、高確率で蹴り飛ばした相手を殺してしまう。
いくら悪人とはいえど、光太郎は本気のライダーキックを撃つことができなかった。
が、それは結果的に彼を救う形となった。
クーガーの衝撃のファーストブリットは、キングストーンエネルギーを完全に充填する前には既に発動していた。
もし身体の屈伸を加えていれば、確実に彼の速さの前に屈することになっていただろう。


   ☆ ☆ ☆


(なんて力強さだよ……)

数時間前にミハエルが変身した姿に酷似した光太郎を見て、クーガーは苦虫を噛み締めたような表情を浮かべる。
全力で繰り出した衝撃のファーストブリット。
三段階の中で一番威力が低いが、それでも引き分けに追い込まれたことは彼の意地を傷つけていた。
否、引き分けなどではない。
先程の拮抗を終えてから、後藤との戦闘で負った傷が開きかけていた。
総合病院で応急処置を施していたが、腹部の包帯に血が滲んでいるのが分かる。
光太郎のライダーキックは、ファーストブリットと衝突してなお威力を殺すことができなかったのだ。
ほんの少しのやり取りでも理解することができた。
目の前にいる男は、後藤に匹敵する実力を持っていると。
斎藤一平賀才人の三人と共闘しても、まるで歯が立たなかった後藤。
それに匹敵する力を持つ光太郎を相手に、たった一人で立ち向かうことができるのだろうか。
説得という道も残されていたが、もはやこの男に言葉は通じない。
自分が何を言っても、おそらくこなたが否定するのだろう。
ならばこの男を張り倒して、こなたを連れ戻すしかない。
出来る出来ないの問題ではなく、やらなければいけないのだ。
例え目の前の敵がどれだけ強大でも、自分の信条を裏切るわけにはいかなかった。

「きゃっ、なに!?」

この直後に、背後にある総合病院で大爆発が起こらなければの話だが。

「まさかゾルダが!?」

北岡から話を聞いていたゾルダのファイナルベント、エンド・オブ・ワールド。
Dー7で起きた大爆発の正体であり、超広範囲を圧倒的火力で焼き尽くす。
隣のエリアからですら、その爆発の規模は察することができるほどだ。

「おい、お前!」

十数メートル先にいる光太郎に声をかけるクーガー。

「お前、名前は?」
「光太郎……南光太郎だ!」
「そうか、南光太郎! 俺が迎えに行くまで絶対にこなたさんを守り抜けよ」
「それはどういう――――」

光太郎の言葉には最後まで耳を貸さず、Lの影に隠れるこなたの方を向く。

「こなたさ~ん! また必ず迎えに行きますからそれまで待っててくださいね!」
「そんなの結構だよ! もう来んな!」
「ははっ! それじゃあ行きます!」

そうして踵を返し、クーガーはその場を立ち去ろうとする。

「待ってください!」
「待てと言われて待つ奴はいな~い!」

必死の形相で呼び止めるLに背を向け、クーガーは全速力でその場を後にした。


   ☆ ☆ ☆


「こなたちゃん、大丈夫かい?」
「うん、助かったよお兄さん、ありがとう」

変身を解除した光太郎は、真っ先にこなたの身を案じた。
本人は大丈夫だと言っているが、疲労しているのか息が乱れている。

「光太郎くん、お疲れ様です」

一方で光太郎の身体に舐めるような視線を這わせているL。

「どうかしましたか?」
「いえ、本当に変身できたんだなと」

その言葉を聞いた瞬間、光太郎の顔に影が差し込む。

「ええ……あの時にゴルゴムに捕えられて改造されて……俺と信彦はッ!」

言葉の節々から苦悩や悔恨が滲み出ているのが分かる。
信彦――――名簿に記載されているシャドームーンのことだ。
光太郎は心を改造される直前に逃げ出せたが、信彦は心身ともに邪悪に改造されてしまった。
今の彼に秋月信彦としての人格は僅かしかなく、精神も肉体もシャドームーンに支配されている。

「こなたちゃん、Lさん……やっぱり俺は変でしょうか?」

ゴルゴムに改造されて以来、毎日のように感じてきた苦悩。
光太郎は親友である信彦と戦わなければならないのと同時に、親友がシャドームーンとして悪虐の限りを尽くす姿を目の当たりにしている。
それはまだ未成熟な彼の心に大きな傷を作っていた。

「ううん、そんなことない、とってもカッコイイよ」
「少なくとも私は変とは思いません、むしろ感謝しています」

彼らから返ってきた言葉は否定ではなく肯定。

「二人とも……」
「むしろ変なのはあいつの方だよ! なんか聞き取れないほど早口だし」

杏子や克実は自分の正体を受け入れてくれたが、他の人間が自分を受け入れてくれるかは分からない。
それも苦悩の一つであったが、目の前の二人は自分を受け入れてくれた。
自分が否定されなかったことが、光太郎は純粋に嬉しかった。

「あれ、こなたちゃんその制服……ひょっとしてみなみちゃんの知り合いかい?」

彼女の姿を見ている時、ふとその制服に見覚えがあることに気付いた。
そしてすぐに彼女の制服が、数時間前まで一緒にいた岩崎みなみと同じものであることに気付いた。

「え、お兄さん、ひょっとしてみなみちゃんに会ってるの!?」
「うん、ちょうどさっきまでみなみちゃんと一緒にいたんだ
 今は別行動してるんだけど、後で警察署で合流するつもりなんだ」
「へぇ、それって私が付いてっても大丈夫?」
「もちろん!」
「やった! 私、ホントにツイてるなぁ~」

光太郎の顔にぱっと笑顔が灯る。
みなみの知り合いは全員が一般人であり、真っ先に保護しなければならない対象だった。
窮地に陥ったこなたを助けられたのもよかったし、なによりこれ以上みなみに悲しい顔をさせたくない。
みなみと合流した時、こなたがいれば彼女も喜ぶだろう。

「改めて自己紹介するよ、俺は南光太郎、よろしく」
「私は泉こなた、さっきは助けてくれてホントにありがとね」

改めて自己紹介をすると同時に、彼らは固い握手を交わした。


   ☆ ☆ ☆


(今の私はホントにツイてるね)

光太郎と握手をしながら、彼女は心中でほくそ笑む。
彼は自分を保護する対象だと思っているし、クーガーのことを危険人物だと勘違いしている。
クーガーは変人ではあるが危険人物ではない、むしろ自分の方が危険人物だろう。
遊園地の爆発は自分が犯人だし、親友だったかがみをその爆発に巻き込んだ。

(ま、ゲームだし別にいいんだけどね)

ゲームの主人公は勝手に他人の家に入って、その家に置いてあるものを勝手に持っていく。
最強の一体を作り上げるため、才能のある個体が出るまでひたすら産ませては捨てるを繰り返す。
そんなこと現実の世界でやれば犯罪だが、ゲームの世界で彼らが罪に問われることはない。
ならばゲームのキャラである自分は、何をしても許されるのだ。
だが、それを光太郎やLに打ち明けることはできない。
ゲームの世界にはゲームの世界なりのコミュニティがあり、それに反する人間は仲間はずれにされてしまう。
才人が死んでしまったため、新しい仲間を集めることは急務であった。
そこで彼らに会えたのは、本当に僥倖だったと言えるだろう。
しかもクーガーを追い払う力を持っているのだ、才人などとは比べ物にならない。
後藤がラスボスだとしたら、光太郎はゲームのクリア後に仲間にできる隠しキャラみたいなものだ。

(ホント、クソゲーだよこれ、発売してすぐにワゴン行きだね)

今はそのクソゲーっぷりに感謝するばかりであるが。
みなみと合流できるというのも大きな収穫だ
ゆたかの親友であるみなみなら、かがみと違って自分に協力してくれるに違いない。

「……ところで光太郎さん、ちょっといいかな?」
「なんだい?」

ちょっと言い難そうな演技をして、遠慮がちに口を開くこなた。

「実は教会にいた化け物に私の友達が捕まっちゃったんだ」
「化け物に友達が!?」
「うん、私もこの剣で戦ったんだけど全然歯が立たなくて……それで……」

涙ぐむ"ふり"をして、彼らの同情を誘う。
そうすれば正義漢の強い光太郎は、すぐに後藤の討伐に向かってくれるという確信があった。

「それは大変だ! すぐに助けに行かないと!」
「待ってください、光太郎君」

今すぐにでも教会へ赴かんとする光太郎を静止するL。
横槍が入ったことで、こなたは見えないように顔を歪ませる。

「我々は警察署でみなみさん達と落ち合う約束をしています」
「ですが……」
「それに先程の総合病院で起こった爆発、あれも確認する必要があるのではないでしょうか」
「しかしこなたちゃんの友達が捕まってるんですよ」
「残念ですが……こなたさんのお友達はもうお亡くなりになっている可能性が高いと思います」
「それは行ってみなければ――――!」
「確かに行ってみなければ分からないと思います、ですが私は教会に行くことに賛成はできません」

言葉を詰まらせる光太郎。
彼もLの言葉が合理的であることは理解しているだろう。
最も教会に囚われた友人など、最初から存在しないのだが。
光太郎が苦悩で板挟みになっている中、こなたはニヤリと笑っていた。


   ☆ ☆ ☆


光太郎が苦悩する中、Lは淡々とこなたの観察をしていた。
と言うものの、彼女には違和感が付きまとっていたからである。
最初に彼女の姿を見た時は、純粋にサングラスの男に襲われているかのように見えた。
だがそれ以降の彼女には、胡散臭さしか感じないのだ。
一番最初の違和感は、光太郎とサングラスの男が戦い始めた瞬間。
戦った時間は少なかったものの、サングラスの男は光太郎と互角の戦いを繰り広げていた。
それほどの実力があるのなら、女子高生を殺すことなど簡単ではないのだろうか。
にも関わらず、彼女が生きているというのは明らかに不自然だ。
考えられる可能性が二つ。
こなたがサングラスの男に匹敵する力があるか、サングラスの男が本気を出していなかったか。
みなみが戦闘能力を持たないところを見ると、同じ世界の人物である彼女がクーガーに匹敵する力があるとは思えない。
となると、理由は分からないがサングラスの男は本気を出していなかったのだろう。
最初から彼女に危害を加える気はなかったのかもしれない。
そうなると引っ掛かるのは、彼女の「殺そうとして追いかけてきた」という言葉。
サングラスの男に殺意がなかったことを前提にすると、彼女の言葉は明らかに矛盾している。
単純に彼女の勘違いという可能性もあるが、Lは彼女が故意に嘘を吐いたことを疑っていた。
殺されかけたにも関わらず彼女から緊張感を感じないことも、Lの疑いを助長させていく。
そしてLにはもう一つ気になることがあった。
サングラスの男の使用した能力が、カズマのアルターに酷似していたこと。
カズマは右腕だったが、サングラスの男は両脚。
装備する箇所は違うものの、身体の一部に鎧を装着しているところは同じだ。
さらに彼が技を打つ時に放った”衝撃のファーストブリット”という単語。
この単語は、カズマが洋館の扉を破壊する際に放った物と同じである。
このことから少なくとも二人は知り合いと見ていいだろう。
カズマ以外の詳細名簿に記載されたアルター使いは四人。
既に死亡している劉鳳と橘あすかを除外すると、残ったのは由詑かなみとストレイト・クーガー。
由詑かなみは八歳の女児であるから、あのサングラスの男であるわけがない。
そうなると消去法で、サングラスの男はストレイト・クーガーということになる。
性別や年齢も一致するし、ほぼ間違い無いだろう。
カズマを完全に信用するわけではないが、彼はクーガーを危険人物と言わなかった。
彼はわざわざ姦計をめぐらすタイプには見えないし、そもそも本気で襲撃されれば自分達はあの場で死んでいる。
だからクーガーは危険人物ではない可能性が高い。
ならば何故彼女は「殺そうとして追いかけてきた」などと言ったのだろう。

「光太郎さん……」
「俺は……俺は……」

光太郎はこなたを完全に信じ切っている。
悪いことではないのだが、彼は他人を疑うことが苦手なようだ。
光太郎が肉体労働担当なら、自分は頭脳労働担当。
彼女の一挙手一投足に目を光らせ、本当に嘘を吐いていないのか見極める必要があるだろう。

「えーと……まだ名前聞いてなかったな、お兄さん、名前は?」

悩み続ける光太郎に業を煮やしたのか、こなたはLに話し相手を変える。

「……私はLです」
「へぇー、なんかコードネームみたいでかっこいいなぁ、私は泉こなた、よろしくね」
「よろしくお願いします、泉さん」

友好的に接しようとするこなたに対し、Lはあくまで事務的に応対していた。


【一日目 午前/F-7 東】
【L@デスノート(漫画)】
[装備]無し
[支給品]支給品一式、ニンテンドーDS型詳細名簿、アズュール@灼眼のシャナ、ゼロの仮面@コードギアス、おはぎ×3@ひぐらしのなく頃に、角砂糖@デスノート
[状態]健康
[思考・行動]
1:協力者を集めてこの殺し合いをとめ、V.V.を逮捕する。
2:警察署に向かい、他の参加者を保護する。
3:光太郎に同行する。
4:こなたを疑う。
※本編死亡後からの参戦です。

【南光太郎@仮面ライダーBLACK(実写)】
[装備]無し
[支給品]支給品一式、炎の杖@ヴィオラートのアトリエ
[状態]健康、自らの無力を痛感して強い怒り 
[思考・行動]
0:教会に行くべきか、総合病院に行くべきか、警察署に行くべきか……
1:この殺し合いを潰し、主催の野望を阻止する。
2:劉鳳を探しに行かなかったことへの後悔。
3:主催とゴルゴムがつながっていないか、確かめる。
4:信彦(シャドームーン)とは出来れば闘いたくない……。
5:L、こなたを守る。
※みなみを秋月杏子と重ねています。
※本編五十話、採石場に移動直前からの参戦となります。

【泉こなた@らき☆すた】
[装備]:女神の剣@ヴィオラートのアトリエ
[所持品]:支給品一式、確認済み支給品0~2個、ルイズの眼球、背骨(一個ずつ)
[状態]:健康
[思考・行動]
1:優勝して、ブイツーからリセットボタンをもらう。
2:光太郎、Lを教会に向かわせて後藤と戦わせる。後藤が弱ったら後藤を倒す。
3:みなみと合流できたら、リセットボタンの協力を持ちかける。


   ☆ ☆ ☆


「ゼェ……ゼェ……」

肩で息をしながら、クーガーは塗装された道を歩いていた。
今の彼から速さは微塵も感じられず、ただ鈍重に歩を進めるだけである。
彼はここに来て以来、戦い続きであった。
規模の差はあれど、他人と出会うたびに戦闘を繰り広げていると言っても過言ではない。
故に限界を迎えていた。
後藤との戦闘で負った傷は、光太郎との衝突で完全に開いた。
そしてライダーキックとの拮抗で、彼の脚は限界を迎えた。
最初は総合病院まで走っていたものの、途中でアルターが崩壊して以来は歩くことしかできなくなっていた。
彼は初期段階における精製の影響で、アルターを使用する度に寿命の削れる副作用がある。
故にアルターの過剰な乱用は、彼の命にすら影響を与えかねないのだ。
一歩踏み出すたびに、両脚を激痛と負荷が苛む。
本来ならば即座に治療しなければ危険なほどの状態。
それでも彼は仲間の身を案じ、震える脚で前へと進み続けていた。

「早く……行かないと……」

総合病院の姿は、まだ見えない。


【一日目昼/F-8 南】
【ストレイト・クーガー@スクライド】
[装備]:葛西のサングラス@ひぐらしのなく頃に
[所持品]:基本支給品一式、不明支給品(確認済み)0~1
[状態]:身体中に鈍い痛み、腹部に裂傷(傷が開く)、両脚に激痛、疲労(大)
[思考・行動]
0:急いで病院に戻る。
1:こなたを正気に戻す。
2:かがみと詩音の知り合い(みなみ、圭一、レナ)を探す。
3:詩音が暴走した場合、最速で阻止する。
4:総合病院の面々が心配
※総合病院にて情報交換をしました。


時系列順で読む


投下順で読む


100:云えない言葉 ストレイト・クーガー 124:消せない罪
泉こなた 111:拗れる偶然
103:緊張 L
南光太郎



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