遊星よりの物体X

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遊星よりの物体X  ◆EboujAWlRA



【0】


『この種を喰いつくせ』

塗り固まった漆黒の色をした言葉が後藤の頭に響く。
いや、響くという表現は正確ではない。
それは音でもなく光でもなく、現実の法則では観測し得ない質量もエネルギーも持たない何かだ。
その何かが、人類の天敵であるパラサイト・後藤を急かすように『命令』する。

『この種を喰いつくせ』

後藤はこの世に生まれ落ちてから常に、眠っている時間でさえも、どこかでこの命令を聞いているのだ。
理性では抑えることのできない本能で命令を受け止める。
そこに疑問を挟む余地はない。
現実主義を飛び越えて機械のように冷徹な思考で後藤は判断する。
抗おうとせずに、ただ本能の命令に従ったまま人を殺すだろう。
後藤に必要なものは野生を縛る理性ではない。
戦いを支える本能、後藤の中に眠りまだ目覚めきっていない野生こそが必要なのだ。

「そうだ、俺にとっては戦いこそが――――」



【1】


教会に近づいた時、ロロ・ランペルージが最初に感じ取ったものは鼻を通り越して脳に訴えかける異臭だった。
その臭いの正体をロロは敏感に察する。
慣れ親しんだ血の臭い、神聖な教会で人が死んでいるのだ。
教会と殺人というミスマッチな状況が、ロロにこれが殺し合いであることを思い出させる。

(物音がしない……人はいないのか?)

安全を期すのならば、ここは回れ右をして引き返すべきなのだろう。
だが、現在のロロはナイフが奪われ徒手空拳の状態である。
ここは多少は無理をしてでも、武器調達のために動くべきなのかもしれない。

(問題があるとすれば、ギアスの不調……)

ロロは不安気に自身の右目を右手のひらで覆う。
彼のギアスは時間の停止、正確に言うならば対象の体感時間を停止させる能力を持ったギアスだ。
一見、無敵に思えるこの『絶対停止』のギアスも重大な欠陥を抱えている。

ロロを中心に一定の範囲内の相手の体感時間を止めるこのギアスは、相手を止める時間と同じ時間だけ自らの心臓の動きを停止させる。
故に長時間の使用、または間を置かずに連続で使用すれば、ロロは心臓だけでなく身体機能の全てを停止させ死んでしまうという欠点がある。
また、絶対停止のギアスは生物の体感時間を止めるだけであり物理法則を止めることができない。
勢い良く走っている人間を瞬時に停止させることや、発射された銃弾の動きを止めることはできないのだ。

さらに、これがもっとも重大な事態なのだが、ロロのギアスにはなにか異変が起こっている。
三人の人間を停止させたはずが、一人だけが停止し残り二人は停止しなかった。
この異変が何を意味するのか、今のロロには察することができない。

(でも、完全にギアスが使えなくなったわけじゃない……入ってみようか)

考えこんだ後、志々雄だけではあるが確かにギアスを効いていたことから、少なくとも使えなくなったわけではないと判断する。
相手の武器を盗むことに終始すれば危険は少ないだろう。
それに教会の中に人が残っていると決まったわけではないのだ。
死体だけが残されている可能性だってある。

(それが兄さんだったら――――)

そんな思考がよぎり、軽く頭を振る。
理屈で考えればルルーシュの死体を見つければ、同時に殺害者のヒントも見つかるかもしれない。
だが同時に、ロロにはルルーシュの無残な姿など見たくないという感情があった。

(兄さん……僕は、どうしたら……)

ルルーシュの仇を惨殺するという目的ははっきりとしているが、その手段がわからない。
どのようにすればルルーシュの仇を見つけることが出来るのかがわからないのだ。

(――――今は、とにかく動こう)

ロロはそう考えて息を潜め、ゆっくりと教会の扉を開けて中へと入った。

「……ッ」

扉を開いた瞬間に飛び込んできた光景に、ロロは喉元から溢れ出そうな声を無理やりに抑えこむ。
兄であるルルーシュの死体があったわけではない。
ただ、そこには異形の化け物が座り込んでいたのだ。
十字架の前に、見方によっては神に祈りを捧げているようにも見える姿勢で座り込んでいた。
その化け物の名は後藤という神への信仰とは程遠いだろう生き物だ。


「――――人間だな」


突然響いた音の発信源が後藤であり、またその音の集まりが人の言葉だと理解するのにロロは僅かな時間を必要とした。
ロロにとって後藤は見るもおぞましい化物であり、その化け物が人の言葉を発するとは考えつかなかいのだから当然とも言えるだろう。

「食欲は湧く、人形などではないようだな」

ゆったりと立ち上がりながら後藤はロロに話しかける。
その姿を正面から見つめた時、ロロは自身の頭がおかしくなったのではないかと思ってしまった。

後藤の姿は衣服をまとっておらず、引き締まった分厚い肉の塊を薄く肌が覆っている。
口は耳元まで裂けており、歯の一つ一つが肉食獣の犬歯を思わせるほどに鋭さを持っていた。
また、これがもっとも異形と言えるのだろうが、後藤の腕は四本あった。

それはロロが知っているこの世のどの生き物にも程遠い姿だった。
いや、一瞬ロロの思考によぎった、空想の中だけの生き物がもっとも近い。

「あ、悪魔……!?」
「悪魔、か。それは違うな、俺は悪魔ではない」

ロロの呆然としたつぶやきに対して、後藤は吐き捨てるように答える。
後藤の投げやりな態度で逆に落ち着いたのか、ロロは表情を引き締め無言で腰を落として身構える。
そして、同時に周囲の様子も改めて確認する。
後藤の現実離れした姿に面を喰らったため、状況の把握を怠ってしまったからだ。

教会は一般的なものよりも広い作りとなっているが、何列にも並んだ長椅子が邪魔であまり戦闘向きの場所ではない。
ロロは扉を背に構えているため、絶対停止のギアスを使えば逃走は簡単だろう。
だが、容易なだけに欲が出てくる。
後藤の持っているであろう支給品を奪う、という欲が。
ロロは静かに後藤の足元に目を向ける。
後藤の足元にはデイパックが一つと、片刃の剣が一本、そして真っ赤に染まった何かが散らばっている。
ロロは目を凝らして、そのなにかを見極める。
そして、すぐに気づいた。
異臭と、グニュグニュと柔らかそうな真っ赤な何か、それから覗く白い硬さを感じさせる物体。

(あれは……――――まさか、人の肉と骨!? こいつ、人を食べるのか!?)

その事実にロロは愕然とする。
人殺しとして生きてきたロロにとっても人食は明らかな異常な行為、禁忌のものだった。
ロロの動揺を感じ取ったのか、後藤は表情を変化させず鉄仮面を張り付かせたまま語りかける。

「俺は悪魔ではないが、人間でもない……まあ、人間から見れば悪魔とそう変わらんのかもしれんがな」

その言葉と共に後藤は腰を落として臨戦態勢に入る。
戦いが始まる、ロロが後藤の発する殺気から察した瞬間――――。


(消えた!?)


破裂音と共に後藤の姿がロロの視界から消える。
そして背中に走った悪寒から反射的にロロは絶対停止のギアスを発動させる。
ロロのギアスはロロを中心として円を描き、その円の内部の物体を停止させる。

そして、今度は左横からまた大きな音が響いた。

(壁にぶつかった……どうして?)

そこには壁へと激突している後藤の姿があった。
その事態を疑問にも思うが、それ以上にロロは安堵感に包まれる。

(アイツの時間は止まって、僕の時間は動く!)

その安堵はギアスが確かに成功したことからくるものだ。
不安要素を抱えていたギアスはしっかりと効果を発揮していた。
安堵の溜息をついた後、ロロは前方へと駈け出す。
先ほどまで後藤の居た位置まで走ると、地面に置かれたデイパックと蛮刀を奪い取る。
そこで蛮刀を握ってからギアスを解除する。

「……なんだ?」

ギアスを解除されて、後藤が意識を回復させてから呟いた言葉は疑問の感情がこもった言葉だった。
後藤にしてみれば突然壁に埋まっているのだから、今の状況は理解出来ないだろう。

かく乱目的に壁に向かって横っ飛びを行い、そこからさらに壁を蹴ってロロに突進するつもりだった。
つまり、上から見ると『く』の字を書くように動いてロロを突進で殺すつもりだったのだ。
なのに、今の後藤は壁に激突している。
この状況を理解など出来るはずがなかった。
だが、同時にロロの胸中もまた驚きに支配されていた。

(僕のギアスは人の意識を止めるだけ……だから、一度した行動を止めることはできない。
 それに連続した行動もできないから、走っている人間は次の動作が出来ずに勢い良く転がるはずだ。
 なのにアイツは地面に転がらずに壁に激突していた。
 つまり、『横に向かって飛ぶ』というだけの動きで、壁に衝突するほどの瞬発力があるってことなのか!?)

垂直跳びを行った人間が空中で止まるわけではないように、後藤の一瞬の横飛びも空中で止まるわけではない。
力を失ったどこかで地面に落ちるはずなのだ。
だというのに、後藤は地面に落ちることはなく壁に激突した。
静止した状態から一瞬でトップスピードに達したため、ロロの目からは消えていたように見えたのだ。

「……貴様、なにかをしたのか?」
(こいつ、危険だ。殺せる時に殺しておかないと。
 ……ここは時間を稼いでギアスの連続使用が出来るぐらいには体力を回復させるべきか)

使い慣れていないとは言え人を十分に殺せる切れ味を持った蛮刀と、絶対静止のギアス。
この二つがある限り今有利なのは自分自身のはずだとロロは判断する。
そのため、乗ってくるかはわからないが時間稼ぎのために後藤へと話しかけた。

「やったさ、この剣が欲しかったからね」

ロロは手に持った蛮刀を構えながら、後藤に対して煽るように話しかける。
心臓への負担はなるべく減らしていきたいため、連続での使用はよほどのことがなければ使わない。
ギアスも体調も手持ちの武器も完全とは程遠い。
一撃で決めてやる、ロロはそう決意した。


「……そうだ、聞きたいことがある」
「なんだ?」

後藤はじわじわと距離を詰めながら、ロロの言葉に反応する。
鋭い眼光からはどんな隙も見逃さないという後藤の意志が込められている。

(なんだっていうんだ……この気迫、まるで獣じゃないか)

時間を稼ぐつもりで会話に集中して僅かな隙を作ってしまえば、ロロは殺されてしまうだろう。
今は間合いが広いが、先ほど見せたあの瞬発力があればその間合いも一瞬で詰めてしまうだろう。
気を張り詰めながら、心臓や呼吸が整う瞬間を待つ。

ルルーシュ・ランペルージ、この名前に心当たりは?」
「……最初の場所で目立っていた、あの男か」
「そうだ」

後藤がピクリと動くたびにロロの神経はすり減っていく。
ロロのギアスは暗殺向きの能力であり、また暗殺しかやったことのないロロはこのように向き合って戦闘することは慣れていなかった。
常に時間を止めて絶対的優位の中で殺しを行う、戦闘経験と言えばそんな戦闘とも呼べない戦闘だけなのだ。
今のような一瞬の隙を見せれば敵が猛スピードで襲いかかってくるという状況には経験が薄いのだ

「知らんな、少なくとも戦ってはいない」
「……そうか」

ロロの目からは後藤が嘘を付くような人間には、いや、生き物には見えない。
興味が有るのは人間を殺すことだけ、そんな生き物だ。

「……どうして、人間を食べるんだ?」

思わず、ロロの口からそんな言葉漏れる。
人を食すことという異常性に、幼少の頃から血の臭いが染みこんでいた自身の異常性をかぶらせて見たから出た言葉かもしれない。

「声がするからだ」
「声?」
「人を喰らえ、人という種を喰いつくせ。産まれた瞬間から俺たちはその声のようなものを感じてきた。
 ……そしてまた、俺は人との戦いを求めている。だから、俺は人を殺して人を食らう。
 そうしたいからそうしているだけだ」

後藤はそこで言葉を切ってロロを見つめる。
その瞳には敵意ではなく、純粋な殺意だけが込められる。
敵意を持たない殺意が存在することをロロは始まった知った。
同時に、そんな殺意を抱ける時点で後藤は人間とは違う、別の生き物なのだとよくわかる。
後藤は決してロロが憎いわけでも、また人間を憎んでいるわけでもないのだろう。
ただ、人を殺したいだけなのだ。

「……お喋りは終わりだ、お前は何かを持っているのだろう?
 死にたくなければ、その何かで俺を殺してみせろ。
 殺すことに手こずるほど、俺は満足感を得ることが出来る」

これ以上の時間稼ぎは難しい、ロロは後藤の発する空気が僅かに変わったことを感じ取ってそう判断する。
蛮刀を体の前に突き出すようにして構える、狙いは首か心臓だ。
後藤もロロのギアスを警戒しているのか、身構えたまますぐには動こうとしない。
ロロは息を整え、再度ギアスを撃っても問題ない程度の体力があることを感じ取る。

(――――今だっ!)

後藤がじわりと動いた瞬間、ロロはギアスを発動させる。
後藤の身体は停止し、ロロだけが動ける時間となる。

その時間でロロが行ったことは後藤への攻撃ではなく、後藤が持っていた支給品の確認だった。
滑りこむように教会に並べられていた椅子の影に潜む。
デイパックをひっくり返すようにして支給品を確認する。
出てきたものは食料や地図といった基本支給品。
そして、二つの宝石と、オレンジ色の原動機付自転車だった。
宝石の名前は宝玉、どんな傷だろうと癒す力を込められた宝石だ。
オレンジ色の原動機付自転車はこのバトルロワイアルの参加者でもある城戸真司の愛車、ズーマーデラックスだ。

(銃が欲しかったけど、悪くない)

ロロは宝玉を懐に潜めて、ズーマーはキーをつけたまま放置して後藤のいる位置に向かって移動する。
宝玉をポケットにしまったのはどんな傷も癒す、その言葉が真実でなくても投石する分には使えるだろうと判断したからだ。

(……一発勝負だな)

ロロは蛮刀を強く握り、ギアスを解除する。
このまま逃げても良かったが、殺せる時に殺しておくべきだ。
体勢を低くして一見では見つからないように身体を隠す。

「……ッ!?」

ロロから見ても後藤の驚愕は一目瞭然だった。
当然であろう、後藤にしてみれば突然とロロの姿が消えて視界の隅に存在しなかったはずのブーマーが映っているのだから。
このあり得ない体験に後藤は動きが鈍る。
その隙をつくようにロロは素早く地面を這うように駈け出した。

「そこかッ」
「もう一度、止まれ!」

地面を駆ける音に反応して後藤がロロの方を向く。
だが、それと同時にロロはギアスを使用する。
ギアスを連続で使用したのは、これで後藤を殺せるという確信があったからだ。
そして、素早く後藤の後ろへと周る。

(ッ……キツイな……!)

連続での使用と心停止中の激しい運動により、ロロはギアスを解除する。
そして、後藤が目を覚ました瞬間にうなじへと向かって思い切り蛮刀を振り下ろした。


「――――首狙いとは単調だな」


だが、後藤の首へと振り下ろしたロロの一刀は後藤の硬い皮膚に防がれていた。

「か、硬い……!?」
「もっと工夫しろ、それが人間の強みのはずだ」

元々ロロは剣術に覚えがあるわけではないため、パラサイトの固めた皮膚を切ることが出来ない。
ロロは急いで距離を稼ぐが、意外なことに後藤は固まったまま動きを止めている。
後藤を野生の猛獣といった印象を受けていたロロにとっては意外の一言だった。

(……攻めてこない?)

種明かしすると、後藤は身体が動くことを無視することで鎧の隙間をなくしたのだ。
内臓と首筋を重点的に固めた鎧、とは言えそのままでは動きは取れない。
後藤は攻撃に転じるため、その硬質化させた鎧を普段のそれに戻す。

「単純に行くときは、それで仕留められるという確固たる自信がある時だけだ」

先ほどのストレイト・クーガー斎藤一との一戦である種の戦闘方法を浮かんでいた。
それは複雑なものではないが、突き詰めればどのような生物も行うただの一動作にしか過ぎない。
だが、個対個の戦い、しかも開いた場所ならばかなりの優位性を持つはずだ。
後藤は身を低くし、前傾姿勢をとる。
短距離走のクラウンチング・スタートにも見えるが、それよりももっと低い。
一番近い姿勢はライオンや虎、チーターといった肉食動物の構えに似ているように思える。
また、ロロの目から見てもわかるほどに足の一部をバネのように柔軟なものへと変化させていた。

(なんだ、なにか嫌な感じが……)

ロロはその構えを観た瞬間に背中に悪寒が走る。

(動く気配を見せたら、殺される……でも、ギアスで逃げるにしても連続での使用は辛い)

心臓停止の負荷が身体中に襲いかかりながら、ロロは静かに呼吸を整える。
汗が止まらない。
それは志々雄から受けた腹部の痛みと心臓停止による身体的負担。
また、ルルーシュの死亡という現実と後藤の殺意をまともに受けることによる心的負担。
ロロは心も体も疲弊していた。

ただ、幸いというべきか、後藤はロロの能力について察しがまるでついていないようだ。
後藤としても確実性を欠いたまま行動することを避けるだろう。
その分ロロには心体ともに休ませる時間が出来る。
三度目のギアス、未だに不安はある。
思えばロロはギアスに頼った戦いしか知らなかった。
そのギアスに何かの不調がある。
志々雄達の時はたまたま不調だっただけなのかもしれないが、今まではそのたまたまの不調すらなかったのだ。
もう一度、その『たまたま』が来るかもしれない。
もしくは、ロロのギアスにはロロも知らない規則性があって次のギアス発動はその規則に当てはまり、不発に終わるかもしれない。

汗が流れる。
ロロが思っている以上にロロの身体は疲弊しているようだった。

そして、その汗が瞳に入って右腕で拭おうとして視界が狭まった瞬間。

「―――――!」

後藤の姿が消えた。

ロロは反射的にギアスを発動させる。
ギアス以外に縋るものがない生き方をしてきたロロとしては当然の判断だったが、それは結果的に間違いとなった。
くどいようであるが、ロロのギアスを止めるのは意識であって物理法則ではない。
つまり、後藤の弾けるような猛進を止めることは出来ずに。

凄まじい衝撃がロロの身体を襲った。

「ハアッ!?」

肺に溜まっていた空気が吐き出される。
また、その衝撃を遙かに超える痛みが左腕から伝わってくる。
何事かと思い、ロロは視線を左腕に移す。

「……ア、アあアァ!!?」



――――そこにはあるはずの左腕が綺麗に食いちぎられていた。


「僕の、僕の腕が……!」
「……仕掛けた瞬間の記憶がないのは落ち着かんが、どうやらこの方法で間違っていないようだな」

激しい痛みのためか、ロロは無意識にギアスは解除していた。
後藤の口元には黒い袖に包まれたロロの左腕がくわえられていた。

「単純な突進だが、お前の手品では防げないようだな」

高い瞬発力を生かした後藤の突進はロロのギアスでは防げれなかった。
ただ後藤が動いた瞬間に横にでも転がれば、ロロはこれほどのダメージを負わず左腕をなくすこともなかったかもしれない。
ただ、ギアスを使う、という一つの動作をいれてしまったがために一瞬の遅れが生まれて回避が間に合わなかったのだ。

「……次で仕留めるぞ」
「ッ!? 止まれぇ!」

後藤は再び体勢を低くして突進の準備を行う。
その姿を観た瞬間に、ロロはギアスをもう一度発動させる。
身体への負担は左腕損失から来る痛みによって一周して感じなくなっていた。

左腕がなくなったためか、上手くバランスが取れずに立ち上がることすら困難な状況だ。
そこでロロは懐に入れた宝玉の存在を思い出す。

(これ、ホントに効果が……?)

藁にもすがる気持ちで懐から宝玉を取り出し、左腕の欠損部分に当てる。
血が流れ続けていた左腕の傷が塞がっていく。

傷が塞がっていく感覚は不思議な感覚だが、痛みは完全に消えたわけではない。
突然痛みが消えたことを脳が受け止めきれていないのだろう。
ただ、なくなった左腕が戻ることはなく欠損したまま、隻腕の状態となってしまった。

(あとはスクーターに……)

這うようにブーマーを置いた場所まで近づく。
そして、右手でキーを捻りエンジンを吹かす。
崩れ落ちそうになりながら、戦闘の邪魔になると思い外していたデイパックを放置したまま、ズーマーを教会の外へと向かって走らせた。



【2】


ギアスの効果が解除され、後藤が気がつくとロロの姿は既に消えていた。

「逃げられたか……不思議な人間だ」

後藤はロロ・ランペルージが残していったデイパックの口を開いて、乱暴に中身を床へとぶちまける。
そこには幾らかの支給品が入っているが、後藤が欲したのは食料だけだ。
手付かずの食料がちょうど三セット残っている。
これは後藤が最初から持っていた食料と、ロロが持っていた二人分の食料だ。
その成果に後藤はある程度の満足を示した後、教会の隅に置かれたオルガンへと歩き始めた。

「……」

静けさの中、四つの腕を持つ異形の化け物である後藤がオルガンに指を置く。
流れ出た音は神を讃える音楽。
後藤になにか思うことがあったわけではない。
ただ、教会という場から連想した楽譜を弾いただけだ。

「……少し鈍っているか」

奏でられた音楽を聞いた後、僅かに動きが鈍いことに気づく。
ルイズ・フランソワーズ、ストレイト・クーガーと斎藤一に平賀才人、そしてロロ・ランペルージ。
連戦が祟ったのか、後藤の身体は確実に疲労と傷を蓄積させていた。
パラサイトは疲労や痛みなどは無視できる。
とは言え、内臓器官など人間の部分も残っており、それが人間と同じく重要な機能を果たしていることも事実だ。
心臓を潰されれば死んでしまうのは後藤も人間も変わりはないのだ。
無視した部分が悲鳴を上げて、身体が思うように動けないという状況だってあり得る。
それを確認するための精密な指先の動きを必要とする演奏だったのだ。

「……ここは完全に回復しておくべきか。食事の後に睡眠……だな」

後藤はロロの置いていった食事と、切り取った左腕を眺めて呟いた。


【一日目午前/F-9 教会】
【後藤@寄生獣
[装備]無し
[支給品]支給品一式×3、前原圭一のメモ@ひぐらしのなく頃に、不明支給品0~1
    カツラ@TRICK、カードキー、知り合い順名簿
    三村信史特性爆弾セット(滑車、タコ糸、ガムテープ、ゴミ袋、ボイスコンバーター、ロープ三百メートル)@バトルロワイアル
    ロロの左腕
[状態]疲労(中)、空腹(小)
[思考・行動]
1:食事をとった後、睡眠をとる。
2:強い奴とは戦いたい。
3:泉新一を殺す。
4:田村玲子が本物なら戦ってみたい。
5:睡眠をとってから、他の参加者を探しに行く。
[備考]
参戦時期は市役所戦後。
※後藤は腕を振るう速度が若干、足を硬質化させて走った際の速度が大幅に制限されています。



【3】


教会から離れたことを確認した後、ロロは転げ落ちるようにズーマーから離れる。
既に痛みはなくなっており、宝玉のその高すぎる効果に驚きを覚えていた。
だが左腕の喪失は辛い、これでは殺人も一苦労だ。
これからのことを考えながらロロはズーマーに持たれるように座る。
後藤との戦闘とギアスによる心停止の影響もあってもはや体はボロボロだった。
このまま動いてもなんのメリットもない、休憩を取らなければいけないだろう。

「――――そうしたいからそうしてるだけ、か」

そんな中、後藤の言葉を思い出す。
後藤の行動は非常にわかりやすかった。
ただ『したい』から『している』だけ、そこに余分な感情は含まれていない。

「……そうだ、単純でいいんだ」

ロロは志々雄真実の狂気と後藤の本能に当てられ、倫理に基づいた判断力をなくしているのかもしれない。
だが、親愛なる兄が死んでしまった今では、そんなものはなんの役にも立たない。
彼が理性を働かすのは社会のためではなく、兄のためだ。
なぜなら、空っぽだった自分に人間としての理性を与えてくれたのは兄だから。

「兄さん……僕は、やりたいことをやろうと思うよ」

その兄が居なくなってしまえば、ロロに理性は必要ない。
単純に己の感情に身を任せて狂ってしまえばいい。
心は激情と狂気の炎で燃やし尽くしながら、頭は氷のように冷えきらせる。

「理性なくしちゃ駄目だ……それじゃあ、殺すだけになってしまう」

人間らしく、より残酷な方法で殺す。
後藤の言っていた通り、人間の最大の武器はその知恵であり残酷さだ。
痛がり屋の人間だからこそ、より無残に殺せる。

「兄さんを殺したやつを殺してやる……絶対……!」

左腕を失ったことで、ルルーシュを失った喪失感というものをより鮮明に感じられる。
隻腕による今までと違う肉体の感覚は、兄を失ったことを常に思い出させてくれる。
今はない左腕を感じながら、ロロはルルーシュを殺した人間への憎悪で心を燃やした。


【一日目午前/F-9 教会外】
【ロロ・ランペルージ@コードギアス 反逆のルルーシュ(アニメ)】
[装備]ヴァンの蛮刀@ガン×ソード
[支給品]宝玉@真・女神転生if…、城戸真司のズーマーデラックス@仮面ライダー龍騎
[状態]左腕欠損、疲労(大)
[思考・行動]
1:ルルーシュを殺した者を探し出し、拷問した後に殺す。
2:ルルーシュを蘇生した後、V.V.も殺す。
3:ナナリーの存在を消してしまいたい。
4:3のために志々雄に協力するべきか……
5:竜宮レナは発見次第殺害、優勝も視野に入れるため他の人間の殺しも考えに入れておく。
6:ギアスの使用はできるだけ控える。(緊急時は使う)
[備考]
※ルパン勢の情報を入手しました。
※ギアスに何らかの制限が掛けられていることに気付きました。
※左腕がなくなりましたが、ダメージ自体は宝玉の効果でありません。

※ロロのギアスに設けられた制限は、単体にしか効果がないことです。
ただし死ぬ気で発動すれば、その限りではないかもしれません。
そして他にも制限が設けられた可能性があります。

【宝玉@真・女神転生if…】
すべての傷を癒すことが出来る宝石。
病気を治すことや死者を蘇らすことはできない。

【城戸真司のズーマーデラックス@仮面ライダー龍騎】
城戸真司の愛車、ヘルメットがついていない。


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087:がるぐる! 後藤 110:パラサイトを狩るモノたち
101:嘘か真実か ロロ・ランペルージ 116:アラベスク



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