LOST COLORS

最終更新:

Bot(ページ名リンク)

- view
だれでも歓迎! 編集

LOST COLORS  ◆ew5bR2RQj.



舗装された公道を進む一台の小型車、中には合計二人の人間が座っている。
運転席には顔の半分を橙色の仮面で覆った男、ジェレミア・ゴットバルト
そして後部座席には黒く長い髪の日本人女性、山田奈緒子
二人の間に会話は一切無く、車内は緊迫した空気に包まれている。
だが最初から会話が無かったわけではない、ある事が原因で途切れただけなのだ。
その、ある事とは――――

(なんだよ、なんなんだよ、あの爆発!)

薄暗かった空を真昼のように照らし、落雷に匹敵する轟音を発生させたあの爆発だ。
進行方向の関係上、二人は爆発する瞬間から火が消えるまで、
そして今のなお、黒煙が立ち込める遊園地を見続けさせられていた。
ジェレミアは戦争経験者であり、程度の差はあれ爆発など見慣れている。
しかし奈緒子は何度も怪奇事件を解決していると言え、所詮は一般人。
殺し合いを強制されるという異常事態において目撃したそれは、完全に彼女を錯乱させていた。

「奈緒子」

運転席からジェレミアが奈緒子に声をかけるが、彼女は反応しない。

「奈緒子?」

息を乱しながら目を見開く奈緒子、その身体は身震いしている。

「奈緒子、聞こえているか?」
「ニャッ!」

三度目にして奈緒子は、ようやくジェレミアの声に反応する。

「……………………」
「す、すいません、それでなんですか?」
「いや、貴女の隣に私のデイパックがあるだろう、中に日本刀が入っている、それを貴女に差し上げようと思ってな」
「え、でもいいんですか? せっかくの武器なのに……」
「構わん、どうせ私には必要の無い物だ」

運転の最中のため、後部席からジェレミアの表情を伺うことは出来ない。
それでも彼が、爆発に怯える自分をある程度心配してくれていることが分かる。
ならばせっかくの心遣いを無碍に扱うのは、失礼に当たるだろう。
それに加え、極度の貧乏性である彼女には断る理由など思いつかず、
飛びつくような勢いで、隣に置いてあるジェレミアのデイパックを漁り出した。

(相変わらず意味分からない構造だなこれ……えーと、これか?)

車を出したときと同じように、デイパックの構造に疑問を抱きつつ、
デイパックの中から硬い感触を感じて、無造作に引っ張り出す。
しかし出てきたものは、質素な色をした球体であった。

(違ったみたいだな、これは戻して……と、今度こそ!)

デイパックの中で掴んだ物は細長くて硬い物体、これは間違いなく日本刀だ。

「うりゃぁ!」

そう判断した彼女は掴んだ物体を、勢いよく吊り上げた。
「……………………」

奈緒子は自分の手に握られている物体を見て、思わず顔を歪める。
口はだらしなく開きっぱなしで、その目はこの世の絶望を目の当たりにしたようだ。
確かに彼女の引き上げた物体は、ジェレミアの言う日本刀、逆刃刀・真打である。
素人目に見ても相当の業物と分かる一品、刀としては最高傑作に部類されるものだろう。
問題はその逆刃刀の先端に引っ掛かった、紺色の布キレ。
それは引っ張ると伸びる素材で出来ていて、中心には白い長方形の布が縫い付けられている。
そこには黒いマジックペンで、こう記されていた。

6−3、泉

(うわぁ……)

そう、逆刃刀に引っ掛かっていたジェレミアの最後の支給品は、
泉という苗字の女児が所持する、紛うことなきスクール水着だったのだ。
考えてもみてほしい、同じ車に乗っていた男性の鞄から小学生のスクール水着が姿を見せたのだ。
異常時ではなかろうと、世間一般の女性はドン引きするだろう。
しかし、それはジェレミアが持ち出した物ではない。
奈緒子のエロ本と同じように、主催者であるV.V.が勝手に支給しただけなのだ。
それを彼女は理解していた、深層意識の奥の奥の奥くらいで。

(忘れよう、私はこんなものは見なかった、うん、見なかったんだ)

彼女が普段絶対に浮かべることのない穏やかな笑みを浮かべて、手に握られた何かをデイパックに戻す。
そして逆刃刀を座席に立てかけ、そのまま全てを記憶の奥底に封印した。

「……どうかしたのか?」
「イイエ、ナンデモアリマセンヨ、ジェレミアサン」
「……そうか」

声の調子に明らかな違和感を感じたものの、運転中のため詳しくは確認することが出来ない。
だから背後で起きた惨劇に気付くことなく、彼はこの事を忘れてしまった。

「……ん?」

と、その時、進行方向がヘッドライトに照らされ、暗闇から一人の人間が姿を現す。
その人物は道の中心でこちらを見据えるように直立していることから、待ち伏せをしていたことが分かった。

「なんだあれは……」

その人物に訝しげな視線を送ったジェレミアは、苛立ちを露わにし警笛を鳴らす。
しかしその人物はそこを動かずに、その場で立ち続けていた。

「自殺志願者か? このままだと引いてしまうぞ……」

殺し合いと言う状況下では、自殺という選択肢も考えられないわけじゃない。
だが奈緒子には、目前の人物がそのような愚かな選択はしないと何故か確信できていた。

車は走り続け、立ちはだかる人物との距離が二十メートルまで迫ってくる。
距離が縮まったことにより、その人物の容姿がおぼろげではあるが映し出された。
その人物は若い男で、髪は白く染まっている。
サングラスのせいで顔は見えないが、背丈や顔の骨格などから端麗な顔立ちであることが伺えた。

「まだどかぬか、鬱陶しい奴め」

さらに車は進み距離が十メートルまで縮まったことで、男の容姿がより鮮明に浮かび上がる。
車の中から、男と目を合わせられるくらいに。

「……………………ッ!!」

サングラスの奥底に潜む瞳に、奈緒子の視線が吸い寄せられたその瞬間。
男は奈緒子の顔を見返して、笑みを浮かべたのだ。
仇敵との再会を果たしたような愉悦に歪んだ、酷く薄い笑みを。

(やばい! あいつは絶対にやばい!)

すぐに顔を逸らし男を視界に入れないようにしたにも関わらず、全身に広がる悪寒は止まらない。
網膜に焼き付けられた男の笑いが、奈緒子の脳内にこびり付いて離れなかった。

「なにっ!?」

ジェレミアの上げた素っ頓狂な声を聞き、現実に引き戻される奈緒子。
そうして車のフロントガラスから正面を見た時、想像を絶する物を目撃してしまった。

男が右手に刀を構え、空中から飛び掛ってきたのを。

「くっ!」

男の目的は自殺でも何でもなく、車内という狭い空間にいる自分達を襲撃すること。
それに気付いたジェレミアは、苦虫を噛み締めたような表情でハンドルを回し始める。
すると車は振動しながら左に曲がり、そのまま爆進していった。

「うわっ、ジェ、ジェレミアさん!」
「なにかに捕まっていろ!」

暴走する車を止めるため、今度はブレーキを踏みつけるジェレミア。
座席に捕まっていたにも関わらず、奈緒子の身体は揺さぶられる。
数秒間をそれは続き、耳障りな音を残しながら車はようやく停止した。。

「ふぅ……」

とりあえず危機を脱したことに、ほっと胸を撫で下ろす奈緒子。
彼女から見て数メートル隣、数秒前まで車がいた地点には、
白髪の男が剣先を地面に突き刺しながら、無表情で佇んでいる。
あのまま攻撃をされていたら、ただでは済まなかっただろう。
彼女は知る由もないが、ジェレミアは車よりも高度な技術を必要とする兵器を頻繁に搭乗している。
だから今の状況下でも冷静に車を運転して、危険を逃れることが出来たのだ。

「危なかったですね、ジェレミアさ……って、おーい!」

安堵からか恐怖心からかは分からぬが、前に座るジェレミアに声を掛けようとする奈緒子。
しかしジェレミアは返事をする前に、乱暴にドアを開けながら車外へと飛び出していた。


☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆


車から飛び出したジェレミアは、男の前方に着地する。
その視線の先にいるのは、つい先刻に彼の乗る車を襲撃した白髪の男――――雪代縁

「俺が用があるのは女だけだ、消えろ」

そう吐き捨てる縁、それを聞いたジェレミアは顔を歪める。

「か弱き女性に手を上げるか、男として恥ずべき行為だとは思わないのか?」
「姉さんがそう言うんだ、俺は姉さんがいてくれればそれでいい」

言動が支離滅裂、この男との会話は不可能。
女性以外は殺す気は無いらしいが、いつその発言を撤回するか分からない。
この様な危険な男を生かしておけば、いずれルルーシュにまで危害が及ぶ。
そう判断したジェレミアは、縁をここで粛清することにした。

「覚悟!」

右腕に仕込まれた剣を突き出すと同時に、ジェレミアは跳躍して縁との間合いを詰める。
縁の頭上に迫る黄金の剣、狙いは上空からの唐竹切り。

「無駄ダ」
「くっ……」

縁は興味なさげにそれを一瞥すると、刀を振り上げそれを裁く。
そして間髪を入れずに、右上から左下への袈裟切りへと転じた。
ジェレミアは咄嗟の判断で後退し、攻撃を回避。
そのまま彼は腕を支柱に数度回転し、さらに後退する。
これによりジェレミアと縁の間に距離が開き、両者が互いの間合いから外れた。

(あの男が持っている刀……あれは真剣ではなく木刀)

真剣による一撃を木刀で防ぎ、攻撃に転じた際には重い一撃を加える。
寸前で回避したため、繰り出された技の真の威力は分からない。
されどもその一撃は、ジェレミアの心に確かな一撃を与えた。

(ただの暴漢かと思っていたが、どうやらその認識を改めねばなるまい)

左腕に付着した埃を払い、間合いの外で待機する縁に目をやる。
その狂気を孕んだ瞳に、ジェレミアの瞳が交差する。
仮面に覆われたそれに宿るは、君主に対する揺るがない忠義。
だからこそ、絶対に敗北を認めるわけにはいかない。
ジェレミアは収納した剣を再び突き出し、疾風の如く荒地を駆けた。


「ふんッ!」
「哈亜亜亜亜亜!」

鉄の刀と木の刀が交差し、鋭い音が響き渡る。
それは一度や二度ではなく、悠に五十は越えているだろう。
木刀から繰り出される右薙ぎが、ジェレミアの脇腹に直撃する。
一般人であれば致命になりかねない一撃、しかしジェレミアには通じない。
彼の左半身は機械で構成されており、人体の急所である脇腹も完全に鉄に覆われている。
故にその一撃は決定打にならず、剣戟は続行される。
いや、続行されるのは剣戟ではない、死闘だ。

「チィッ!」

剣と剣の間を縫って、縁の拳が迫る。
剣にばかり集中していると、唐突にそれは訪れるのだ。
生身の右半身を狙っているため、防御せざるを得ない。
左腕で縁の拳を防いだジェレミアは、すぐさま前の空間に一閃をくわえる。
しかし縁は紙一重でそれを回避し、回し蹴りを繰り出してきた。

「グアァッ!」

右半身に鈍い痛みが走り、浮遊感が体を支配する。
そのまま慣性に従い、数メートルほど先にある岩に叩きつけられた。

「お前の体……左半身が金属なのカ?
 だが、右半身は生体部分が剥きだしのようだな」

嗜虐的な笑みを浮かべる縁、それは衰弱した獲物を見つめる時のようだ。
ジェレミアには改造された身体に加え、武器の性能に歴然とした差がある。
にも関わらず、その差をまるで感じさせない戦闘技術。
縁の方が戦闘技術で勝るのが、脇腹の鈍痛と共に理解できた。

「それでも!」

負けるわけにはいかないと、自身を奮い立たせる。
土で汚れたマントを翻し、縁に肉薄するジェレミア。
縁も対抗するかのように、木刀を構えて――――

「ならば、右半身だけを狙えばいい!」

曲線を描くような動きで、ジェレミアの右半身に回り込む。
そのまま木刀が、脇腹を抉るかの勢いで猛る。
が、ジェレミアは素早く右腕で振るい、木刀を弾く。

「読んでいたさ」
「ならばこれはどうだ」

残虐な笑みを絶やさない縁の二撃目は、鍛え上げられた左腕による殴打。
狙いはやはり、改造されていない右半身だ。
ジェレミアは体勢こそ縁に向いているものの、無理な姿勢で強引に動かした右腕は使えない。
だからか彼が迎撃に選んだ手法は、縁と同じく左腕による正拳突きであった。

縁は思う、俺を馬鹿にしているのか、と。
超近距離から同じ手段で攻撃すれば、当然初動が速かった方が勝つ。
腕の長さに若干の差異はあれど、この場では致命的な差にならない。
ならば、何故。
その答えを、縁は数秒後に知ることになる。

「ぐっ……!」
「だから言ったであろう、読んでいたと」

左腕を伸ばしたまま、ジェレミアはほくそ笑む。
その視線の先には、左肩に黄金の剣が刺さった縁の姿があった。

「貴様……左腕からも剣を出せたのカ」
「誰も言っていないだろう、左腕からは剣を出せないなどと」

数センチ程度の差であったならば、あの場では問題ない。
だがそこに刃渡り数十センチの刀剣が加われば、話は変わってくる
突如左腕から出現したそれは、縁が握っていた初動の差を軽々と上回り、
そのまま勝敗すらも、覆してしまったのだ。

「本来なら騙まし討ちなど、騎士道に反するのだがな」

朱に染まった剣を引き抜くと、縁の傷口から鮮血が溢れてくる。
その傷は致命傷とは呼べないが、暫くは左腕を動かせないであろう。
この局面で拳による奇襲を封じられたのは、相当のアドバンテージだ。

「よき体術であった、されどこのジェレミア・ゴットバルトには…………」
「なにをごちゃごちゃ言っている」

サングラスの位置を直し、ジェレミアを見据える縁。
その顔には苦痛に染まるどころか、先ほどと変わらず笑みを浮かべていた。

(この男……)

痛みを全く感じていないのか、ジェレミアはそんな疑問を抱いてしまう。
実際に縁は「精神が肉体を凌駕した状態」にあり、痛覚が麻痺している。
故に傷は負っても、痛みは感じない体質なのだが。

(いや、効いていないはずがない。このまま一気に畳み掛ける!)

姿を現した両剣を交差し、ジェレミアは縁の睨みつける。
その刹那、再び両者は地を駆けた。


☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆


ジェレミアが鉄の剣を振るうと、剣光が残る。
その先には縁がいて、直前で光は消滅する。
すぐさま二本目の光が伸びるが、また同じように途絶えてしまう。
こんなやり取りが、奈緒子の視界で何度も行われていた。

(はは……あの人、本当に戦国時代の人だったんだ)

車窓越しのうえ、この状況に未だ現実感が伴っていかかったからか
奈緒子の脳内には、ずっと前に見た時代劇の映画がフラッシュバックしている。
しかし窓の外で行われているやり取りは、映画ではない。
溢れる光、流れる音、立ち込める空気。
それらは虚構の世界のものではなく、全てが現実に存在するものだ。

(……………………)

勝負は終わる気配を見せず、平行線を辿っている。
これが映画であれば、飽き始める観客も現れる頃だろう。
しかし奈緒子は飽きもせず、呆然としたままそれを眺め続ける。
そんなことをしていた時に、ふと自らの放った言葉を思い出した。

――――私ももしもの場合はジェレミアさんを囮にして逃げたりしますから

この言葉は、今の状況にしっかりと当てはまっているのではないだろうか。
戦っているジェレミアを囮にして、自分は逃走する。
この場に居てはいつか巻き込まれるかもしれないし、そもそも彼が勝つ保証もない

「よし、逃げよう」

戦場とは逆方向の窓を見て、彼女はそう宣言する。
そうした途端、奈緒子の頭は恐ろしいほどに冴え始めた。
座席から落下したデイパックを背負い、同じように横たわった逆刃刀を握り締める。
逃走の際にデイパックは邪魔になるが、今後も生き残るには必須になるだろう。
それをわざわざ置いていく道理は無い。
自分に支給された車を置き去りにするのは、少々後ろ髪を引かれる気分になるが、
彼女は運転免許証を持っていないし、また会ったら乗せてもらえばいい。
この状況下でなによりも優先すべき対象は、やはり自らの命であろう。

「ジェレミアさん、さようなら、お元気で」

窓の向こうで戦い続けるジェレミアに別れの挨拶を告げ、ドアに手を掛ける。
そして音が鳴らないようにゆっくりと開け、地面に着地した――――その時。

木の枝が折れたかのような、乾いた音が奈緒子の耳に届いた。

「え?」

無音の空間にて反響する、間抜けな声。
音源はどこだ、奈緒子の頭はすぐさまその疑問を浮かべる。
すぐに答えは出る、だがそれを認めたくない。
そう思いつつも、彼女の視線は自らの足元に向いていた。

――――そこにあるのは、自らの足に踏み潰された細い枯れ枝。

「逃げるな!」

ドスの利いた重苦しい声が、奈緒子の鼓膜を穿つ。
そして次の瞬間、ジェレミアが吹き飛ばされていた。
何の前振りもなく、唐突にだ。

なにが起きた、そんな疑問を抱く前に奈緒子は逃げ出す。
縁が鬼気迫る顔で、彼女の元に駆けて来たのだ。
運動能力は明らかに劣っているが、男とは十メートル近くの距離が開いている。
さらに乗ってきた車が障害物として、縁の前に立ちはだかっていた。
だから、逃げ切れる。
ここで逃げ切れなければ、死ぬ。
彼女に備わった本能が、そう告げているのだ。

「やばい……やばい!」

心臓の鼓動が一気に速くなり、息苦しさが体を支配する。
既に時間の感覚は無く、どのくらい走ったのかすら分からない。
縁から逃げ切れたか、それだけが気になって仕方が無かった。
だから彼女は、顔を上げて周囲を確認する。

(あれ……なにも変わってない……?)

正確に言えば、逃げようと宣言した時よりも少し景色が近くなっている。
それだけだった。

「墳!」

背後で聞こえる声、誰の声かは考えるまでも無い。
奈緒子は反射的に振り向く。そこにあるのは車を軽々と飛び越す縁の姿。
握り締めた刀を天空に掲げ、彼女を斬らんと飛翔している。

(もう戦うしかない!)

彼女は唯一の武器である逆刃刀を構え、迎撃の体勢をとる。
勝てる、勝てないではない。生き残らなければならないのだ。

「うわあああああぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

奈緒子は目を瞑り、滅茶苦茶に刀を振り回す。
その太刀筋は素人未満、刀を握ったことのない一般人が繰り出すそれだった。

「きゃっ!」

そんなものが縁に通じるはずもなく、逆刃刀はデイパックごと弾き飛ばされる。
奈緒子はそのまま体勢を崩し、地面に倒れこんでしまった。

「………………」

地に伏す奈緒子を見下す縁、瞳はあまりにも冷たい。
顔からは薄ら笑いが消えており、無表情のまま彼女は凝視されていた。

「あんたに怨みはないが、人誅のためだ」

縁は大きく刀を振り翳し、月が割れる。
ここで奈緒子は、ようやく縁の得物が木刀である事に気付いた。
だが結果は変わらない、死はもう彼女のすぐそこまで訪れている。
嫌だ、そう思っても彼女に抵抗する手段は残されていない。
残された道は、死以外に無かった。

「ここで死ね」

木刀が振り落とされる。
一瞬であるはずのそれが、彼女の目には一秒ごとはっきり認識できるように映る。
一秒後に皮膚を裂き、二秒後には骨を砕く。
そして三秒後には内臓を貫き、四秒後には死ぬ。
木刀であろうと、縁――――目の前の男なら可能であろう。
烈風が彼女の身体を駆け抜け、木刀が身体を通る――――その寸前。

木刀が柄と刀身のところで、真っ二つに裂けたのだ。

「ぉぉぉぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおおっ!!」

奈緒子は思わず顔を上げる、そこにあるのは白と紫のツートンカラーのコート。
気品を感じさせる緑の髪に、煌々たる輝きを放つ黄金の剣。
見間違えるはずも無い、ジェレミア・ゴットバルトだ。

「とぅッ!」

ジェレミアは間髪入れず、縁の頬に拳を叩き込む。
縁は何故か防がず、勢いよく殴り飛ばされていった。

「ジェレミアさん!」
「掴まれ!」

腰が抜けて座り込んだ奈緒子は、ジェレミアに強引に抱え込まれる。
そのまま一度の跳躍で車まで辿り着き、乱暴にドアを開けると彼女は助手席に押し込まれた。

「ちょ……痛いなぁ!」
「我慢しろ!」

不満を述べる奈緒子を一喝し、ジェレミアも運転席に飛び乗る。
その後エンジンキーを回すと同時にアクセルを踏み、車は全速力でこの場から離脱した。


☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆


奈緒子が殺されかけてから数分が経過する。
ここまで来れば追ってこれないだろう、ジェレミアはそう判断して車の速度を落とした。

「ふぅ……なんとか生き残れたようですね」
「……そうだな」

心の底から安心したような声を出す奈緒子とは対照的に、ジェレミアの声は重苦しい。
逃げ切れたにも関わらず表情は暗く、不機嫌という単語を具現化したよう。
それもそのはず、彼の本来の目的は逃亡ではない。
雪代縁を、粛清することなのだ。
では彼は何故、逃亡を選択することになったのだろう。
それは奈緒子がとんずらしようとして失敗し、縁がそれに感づいた瞬間にある。
その頃の彼は縁との間にはおよそ五メートルの空間があり、お互いに接近できない状態。
戦況は完全に均衡を辿っており、永久に続くかと思われる鍔迫り合いが繰り広げられていた。

その最中に、木の枝を踏み潰した音が響き渡る。

一瞬だけそれに気を取られてしまったが、彼は警戒を緩めたつもりは無かった。
しかし、彼は攻撃を受けた。
五メートルの距離が開いていたにも関わらずだ。
咄嗟に右腕で生身の部分を庇ったが、縁が攻撃してきたは装甲に包まれた左腕。
通常であれば痛覚すら感じない箇所、しかし未だに痛みが彼の全身を苛んでいる。
衝撃が左腕を突きぬけ、全身を貫いたのだ。
しかも、それだけではない。

「……………………」

ハンドルを握る左腕を見て、彼は苦虫を噛み潰したように顔を歪める。
そこには根本から真っ二つに折れた、かつての仕込み剣があった。
両剣のうち一つが折られれば、戦力の減少は著しい。
その状態であの身体能力を相手にしていたら、おそらく敗北していた。
そう確信していたからこそ、彼はあの場で逃走を選択したのだ。

(ギアスは私には通じない……ならばギアス以外の特殊能力?)

同等だったはず実力の持ち主が、目で捉えられない速度で鋼鉄の剣を叩き割る力を発揮したのだ。
ギアス能力なら考えられないことも無いが、全てのギアス能力を無効化するギアスキャンセラーを彼は所有している。
ならば別の特殊能力か、ジェレミアは聞いた事ないが考えられなくも無い。

(やはりあれがあの男の力の正体)

懐に潜り込まれた際、一瞬だけ目に捉えた縁の姿を思い出す。
鍛え上げられた肉体、それに浮かび上がる禍々しい管。
あれが男の力の正体なのだろう、ジェレミアはそう確信した。

「あの男、また追ってきませんよね?」
「おそらく大丈夫だろう、仮に追ってこようと車には追いつけまい」

縁を粛清することは叶わず、自身も甚大な被害を負う形となった。
これは貴族としてあるまじき醜態だ、軍に勤めていたら確実に降格処分が下るだろう。
しかし今のジェレミアが仕えているのは軍ではなく、ルルーシュだ。

「ルルーシュ様……」

かつての彼であれば実力の差を見誤り、意地でも縁の首を狩ろうとしただろう。
だが今は違う、彼には生き残って遂行しなければならない任務があるのだ。
それこそがルルーシュ・ヴィ・ブリタニアを探し出し、護衛すること。
ルルーシュに危害が及ばぬよう危険分子を粛清することも重要だが、あくまでそれは二の次。
とにかくルルーシュを見つけ出し、あらゆる危険から彼を護ること。
それがジェレミア・ゴットバルトの忠義の形であり、
もう二度と自らの管轄内で皇族が死ぬことなど、あってはならないのだ。

(待っていてください、ルルーシュ様)

今一度自らの忠義を胸に抱きしめ、ジェレミアはアクセルを踏み締めた。


【一日目黎明/H−4 エリア最西端】

【ジェレミア・ゴットバルト@コードギアス 反逆のルルーシュ】
[装備]ミニクーパー@ルパン三世
[所持品]支給品一式、咲世子の煙球×3@コードギアス 反逆のルルーシュ、こなたのスク水@らき☆すた
[状態]右半身に中ダメージ、疲労(中)、左腕の剣が折られたため使用不能
[思考・行動]
1:ルルーシュを探し、護衛する。
2:ルルーシュに危険が及ばぬよう、危険分子は粛清する。
3:奈緒子にしばらく同行。足手まといになる場合は切り捨てる。
4:V.V.に従う気はない。
参戦時期はR2、18話直前から。ルルーシュの配下になっている時期です。
※奈緒子と知り合いについて簡単に情報交換しました。V.V.については話していません。
※白髪の男(雪代縁)を危険人物と認識しました。
※ギアス能力以外の特殊能力の存在を疑っています。
※ジェレミアはモールに寄っているため、モール内でなんらかの道具を補充した可能性があります。

【山田奈緒子@TRICK】
[装備]なし
[所持品]なし
[状態]健康
[思考・行動]
1:とりあえず上田を探す。
2:ジェレミアにしばらく同行。危なくなったら逃げる。
3:もう危険な目に遭いたくない。
4:デイパックの仕組みについては……いつか考えたい。
※ジェレミアと知り合いについて簡単に情報交換しました。
※ジェレミアを(色々な意味で)さらに変な人物と認識しました。
※白髪の男(雪代縁)を危険人物と認識しました。


☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆


「何故だ! 何故殺せない!」

舞台は移り変わり、先ほどの戦場。
頬を腫らした縁が、声を荒げながら地団太を踏んでいた。
理由は山田奈緒子を殺そうとして、失敗したことにある。
ジェレミア・ゴットバルトに邪魔されたからではない、そもそも彼は幼い頃のトラウマから若い女性を殺せないのだ。
最初に異国の女を殺そうとしたら嘔吐、先刻も嘔吐こそしなかったものの殺し損ねたのなら同じだ。
反撃を受けて実力で劣る男にすら逃走されたことを考えれば、まだ嘔吐の方がマシだったかもしれない。
この体たらくでは、天国で待ち続ける姉に申し訳が立たない。
そんな自分が情けなくなり、彼は八つ当たりを続けた。
地面を幾度も踏みつけ、それで鬱憤が解消できないと分かれば今度は拳を振り下ろす。
殴りつけられた地面は少しずつ抉れ、流れ落ちる血液が染み込んで行く。
それでも彼の鬱憤は晴れず、いつの間にか両目からは涙が零れていた。

「クソッ! クソォッ!」

拳の皮が剥け傷口から血が溢れ出すが、それでも彼は殴り続ける。
自らの不甲斐なさを擦り付けるように、何度も何度も。
それを数分続けることでようやく腕を止め、彼は立ち上がる。
しかし鬱憤は、一分たりとも払拭されていなかった。

「これはもう使い物にならんか……ならばいらん」

足元に転がる折れた木刀を不要と判断し、木片になるまで踏み砕く。
彼は重火器類を扱えない訳では無いが、それでも刀剣類の方が断然扱いやすい。
だがあの木刀が支給された唯一の刀であったので、新たな刀剣を調達しなければならなくなった。

「余計なことをしてくれる」

舌打ちをしながら、愚痴を零す。
苛々を抑えられぬまま、何気なく周囲を確認する縁。
すると彼の視界に、強い輝きを放つ代物が飛び込んできた。

「あれは……刀!」

それは、遠くから見ても業物だと分かる最上級の刀。
今の彼が飛びつかない理由はなく、縁は脇目も振らずに駆け出す。
その表情は歓喜に打ちひしがれた時のよう。
だが刀を拾い上げた時、それは一変した。

「これは――――」

拾い上げた刀は、刃と峰が入れ替わった奇妙な代物。
見たことはない、しかし聞いたことはある。
抜刀斎について調査した際に、耳に入れたのだ。

「――――逆刃刀」

逆刃刀。
それは緋村剣心――――抜刀斎が新井夫妻から受け取った、新井赤空最後の一振り。
そして姉を殺した人斬りの分際で、「不殺」の信念を込めた刀。
縁は思わずそれを投げ捨て、叩き折ろうと足を持ち上げる。

「こんなもの!」

そのまま一気に足を振り下ろすが、寸前で足は止まった。
いや、縁が自らの意思で足を止めたのだ。

(これは使える、殺しにも……人誅にも)

縁は邪念が籠った醜悪な笑みを浮かべる。
縁は抜刀斎への人誅として、一度でも彼に関わった人間を協力者に襲撃させた。
抜刀斎に罪の意識を感じさせ、行き地獄に突き落とすためだ。
それが出来るのであれば、どんな手段であったって構わない。
ならばこの逆刃刀も、それに利用できるのではないだろうか?
「不殺」の信念を込めた刀で、人を殺しまわる。
これで抜刀斎の偽善に満ちた信念は崩壊し、逆刃刀を託した新井赤空やその夫妻の思いまで蹂躙できる。
そして抜刀斎に出会った時に、血に濡れた逆刃刀を投げ渡して、こう言ってやるのだ。

――――この刀は人殺しだ、と。

「フフ、これはいい物を拾った」

逆刃刀を拾い上げ、虚空に目掛けて一閃を放つ。
そして、また笑んだ。
抜刀斎はこの刀に「不殺」を込めた、ならば俺は「殺」を込めてやる。
覚悟を決めて、女を殺してやる。
胸中で誓い、逆刃刀を握り締める縁。
そんな彼の視界に、一冊の本が目に入った。
それは奈緒子に支給されたエロ本、ページが開かれ地面に放置されている。

「…………」

月明かりに照らされ、ページの内容が映し出される。
それは金髪の女が醜悪な肢体を曝け出し、下品に誘惑をしているものだ。
そこに、姉の面影は感じない。

「墳ッ!」

彼が刀を走らせると、本に一本の線が刻まれる。
女性の首の部分に長々と
次の瞬間に本は真っ二つに分解され、女性の首と胴体はバラバラになった。
首が写されたページが宙に舞うが、吐き気は込上げてこない。
当たり前だ、彼が斬ったのはあくまで本なのだから。

「次にこの刀が斬るのは本物の女だ、すぐに血塗れの刀を渡してやる
 だから待っていろ、人斬り抜刀斎!」

そう夜空に宣言し、彼は刀を返した。

【一日目黎明/H−3 東側】
【雪代縁@るろうに剣心】
[装備]:逆刃刀・真打@るろうに剣心
[所持品]:支給品一式×2、庭師の鋏@ローゼンメイデン、確認済み支給品0〜2個(刀剣類は入っていません)
[状態]:左肩に刺し傷、両拳に軽症
[思考・行動]
1:逆刃刀を使って、女を殺しまわる。
2:抜刀斎に会ったら、血塗れの刀を投げつける。
[備考]
※殺し合いを姉が仕掛けた夢だと思っています。故に女殺しの弱点を克服できれば、それで終了すると思っています。
※ぶっちゃけ、姉と抜刀斎以外のことはあまり考えていません。抜刀斎も人誅まで殺すつもりはありません。
※奈緒子はモールに寄っているため、奈緒子のデイパック内にモール内で補充した道具があるかもしれません。

※H−3の東側に折れたジェレミアの剣が放置されています。


【咲世子の煙球×3@コードギアス 反逆のルルーシュ】
名前通り篠崎咲世子が愛用している煙球。
投げると白煙が立ち込める。


時系列順で読む


投下順で読む


011:盤上のトリック劇場 ジェレミア・ゴットバルト 063:オレンジ焦燥曲
山田奈緒子
027:ねぇ、教えて、どうしたらいいの? 雪代縁 075:二人の超人 女の意地



タグ:

+ タグ編集
  • タグ:
ウィキ募集バナー