メギド――断罪の炎――(前編) ◆KKid85tGwY
簡素な部屋の中で抱き合う二体の美しい少女人形。
それは他の何者かの悪戯でそうなった訳では無い。
二体の人形、それ自体が自ら抱き合っているのだ。
それは他の何者かの悪戯でそうなった訳では無い。
二体の人形、それ自体が自ら抱き合っているのだ。
翠星石を包み込むように抱きしめる薔薇水晶。
程なく、薔薇水晶は翠星石から離れる。
翠星石はどこか名残惜しそうな様子だが、薔薇水晶は構わずに部屋から出ようとする。
部屋の扉からではなく、部屋の壁に掛かっている鏡で。
程なく、薔薇水晶は翠星石から離れる。
翠星石はどこか名残惜しそうな様子だが、薔薇水晶は構わずに部屋から出ようとする。
部屋の扉からではなく、部屋の壁に掛かっている鏡で。
「……薔薇水晶、どこに行くですか?」
「私はどこにも行かない。ずっとあなたのそばに居る……」
「私はどこにも行かない。ずっとあなたのそばに居る……」
薔薇水晶の返答を聞いても、翠星石の不安は消えない。
姉妹であるにもかかわらず、薔薇水晶の意思は不明瞭な点が多い。
それでも、今の翠星石にとっては唯一そばに居る大切な姉妹であり、
何よりこの場で信用できる、唯一の存在である。
その薔薇水晶が鏡から居なくなってしまった。
姉妹であるにもかかわらず、薔薇水晶の意思は不明瞭な点が多い。
それでも、今の翠星石にとっては唯一そばに居る大切な姉妹であり、
何よりこの場で信用できる、唯一の存在である。
その薔薇水晶が鏡から居なくなってしまった。
一人部屋に残された翠星石は、どうしようもない心細さに襲われる。
思い出したくないこと、そして考えたくないことも一人になると浮かんでくる。
思い出したくないこと、そして考えたくないことも一人になると浮かんでくる。
何で一人になってしまったのだろう。
本来、翠星石がこんな場所で、大人しくしていなければならない道理は無い。
首輪を外して、殺し合いの会場も脱出できたのだから、
家に帰ろうとするなりすれば良いのである。
確かにそれは簡単な話ではない。
今の翠星石は、制限によってnのフィールドと言う移動手段を使えない。
そして現在翠星石が居るのは、V.V.の本拠地。云わば敵地にあたる。
軽々しく動き回るのは危険である。
それでも、本気で帰りたいのであれば幾らでも動きようがあるはずだ。
翠星石が帰ろうとしない理由。
それは単純に帰るつもりが無いからだ。
首輪を外して、殺し合いの会場も脱出できたのだから、
家に帰ろうとするなりすれば良いのである。
確かにそれは簡単な話ではない。
今の翠星石は、制限によってnのフィールドと言う移動手段を使えない。
そして現在翠星石が居るのは、V.V.の本拠地。云わば敵地にあたる。
軽々しく動き回るのは危険である。
それでも、本気で帰りたいのであれば幾らでも動きようがあるはずだ。
翠星石が帰ろうとしない理由。
それは単純に帰るつもりが無いからだ。
この殺し合いの中の渦中は、翠星石にとって耐え難い恐怖と苦痛に満ちた物だった。
更に翠星石は殺し合いによって蒼星石と真紅と水銀燈、そして雛苺まで四人の姉妹を失っている。
その上、殺し合いの恐怖と苦痛から翠星石を守っていた城戸真司を死なせてしまったのだ。
翠星石の精神はこれ以上なく磨耗している。
今すぐ自分の世界に戻って、元の日常に戻りたいことは間違いない。
ジュンやのりの顔が見たいと言う気持ちに違いは無かった。
更に翠星石は殺し合いによって蒼星石と真紅と水銀燈、そして雛苺まで四人の姉妹を失っている。
その上、殺し合いの恐怖と苦痛から翠星石を守っていた城戸真司を死なせてしまったのだ。
翠星石の精神はこれ以上なく磨耗している。
今すぐ自分の世界に戻って、元の日常に戻りたいことは間違いない。
ジュンやのりの顔が見たいと言う気持ちに違いは無かった。
しかしそれ以上に、このまま殺し合いに背を向けて逃げ出すつもりにはなれなかった。
殺し合いには、水銀燈と真司の仇であるシャドームーンが残っている。
水銀燈の受けた屈辱と、そして命を奪われた真司。
それを忘れて帰ることはできない。
殺し合いには、水銀燈と真司の仇であるシャドームーンが残っている。
水銀燈の受けた屈辱と、そして命を奪われた真司。
それを忘れて帰ることはできない。
それならば今度は、早く殺し合いの場に戻りシャドームーンと決着を付ければ良い話だ。
しかしそれも簡単な話ではなかった。
既にシャドームーンは、他の参加者と手を組んでいる。
シャドームーンを敵に回すと言うことは、他の参加者も同時に回すことになる。
翠星石と言えども、今更シャドームーンを殺すことに躊躇は無い。
しかし他の参加者を殺すとなると話は別だ。
しかしそれも簡単な話ではなかった。
既にシャドームーンは、他の参加者と手を組んでいる。
シャドームーンを敵に回すと言うことは、他の参加者も同時に回すことになる。
翠星石と言えども、今更シャドームーンを殺すことに躊躇は無い。
しかし他の参加者を殺すとなると話は別だ。
――――何が別なのだろう。
残った参加者は皆、他の者を襲っていたり、シャドームーンと組んでいたり、そして翠星石を騙している、
信用のできない連中ばかりだ。
そんな連中がシャドームーンの側に立つと言うことは、自分の敵と言うことで構わないはずだ。
少なくとも翠星石にとって、水銀燈と真司の仇より大事な物ではない。
信用のできない連中ばかりだ。
そんな連中がシャドームーンの側に立つと言うことは、自分の敵と言うことで構わないはずだ。
少なくとも翠星石にとって、水銀燈と真司の仇より大事な物ではない。
それなのにまだ翠星石は戦うことに躊躇している。
戦いがそんなに厭わしいのか?
クーガーの言葉がまだ引っ掛かっているのか?
翠星石自身にすら理由は判然としない。
判るのは、今の翠星石が戦うことも逃げることもせず、
ただ無為に時を過ごしていることだけ。
ただ一人で姉妹や真司の死を抱えて。
戦いがそんなに厭わしいのか?
クーガーの言葉がまだ引っ掛かっているのか?
翠星石自身にすら理由は判然としない。
判るのは、今の翠星石が戦うことも逃げることもせず、
ただ無為に時を過ごしていることだけ。
ただ一人で姉妹や真司の死を抱えて。
殺し合いがどんな結末を迎えるのか、翠星石には想像も付かない。
しかしこのままその結末を、ただじっと待っていれば満足できるだろうか?
それは嫌だ。
それだけはできない。
姉妹や真司の死を抱えたまま、何もしないで殺し合いの終わりを迎えることは。
しかしこのままその結末を、ただじっと待っていれば満足できるだろうか?
それは嫌だ。
それだけはできない。
姉妹や真司の死を抱えたまま、何もしないで殺し合いの終わりを迎えることは。
多くの姉妹に囲まれて生活していた翠星石は幸せだった。
水銀燈とは争っていたが、それでも平穏な生活を送れていた。
永い眠りと戦いの果てに辿り着いた平穏な幸福。
その幸せは、所以も判らない殺し合いのために永遠に失われたのだ。
殺し合いはあまりにも多くを翠星石から奪ってしまった。
もう絶対に取り戻せない損失。
だからこそせめて翠星石は失った物に報いることがしたかった。
そうしなければ喪失に押し潰されそうだった。
水銀燈とは争っていたが、それでも平穏な生活を送れていた。
永い眠りと戦いの果てに辿り着いた平穏な幸福。
その幸せは、所以も判らない殺し合いのために永遠に失われたのだ。
殺し合いはあまりにも多くを翠星石から奪ってしまった。
もう絶対に取り戻せない損失。
だからこそせめて翠星石は失った物に報いることがしたかった。
そうしなければ喪失に押し潰されそうだった。
(…………翠星石はどうすれば良いんですか?)
ただ何をすれば良いのかが判らない。
戦えば良いのか? 一体誰と?
逃げれば良いのか? 一体何処に?
翠星石の身の振り方一つが、途方も無い難題に思える。
それほど翠星石が失った物は大きかったのだ。
戦えば良いのか? 一体誰と?
逃げれば良いのか? 一体何処に?
翠星石の身の振り方一つが、途方も無い難題に思える。
それほど翠星石が失った物は大きかったのだ。
蒼星石も、真紅も、水銀燈も、雛苺も死んでしまったのだ。
そして翠星石の手は、城戸真司の血で汚れてしまった。
そして翠星石の手は、城戸真司の血で汚れてしまった。
違う
違う違う
違う違う違う違う
違う違う違う違う違う違う違う違う
違う違う
違う違う違う違う
違う違う違う違う違う違う違う違う
頭が痛い。気分が悪くなる。
翠星石は今や真司のことを思い出すだけで、どうしようもない苦痛を覚えるようになってしまった。
それを誤魔化すように、翠星石は何度も自分に言い聞かせる。
真司を殺したのはシャドームーンだと。
翠星石は今や真司のことを思い出すだけで、どうしようもない苦痛を覚えるようになってしまった。
それを誤魔化すように、翠星石は何度も自分に言い聞かせる。
真司を殺したのはシャドームーンだと。
殺し合いの中ではあれほど頼りになった真司の思い出が、今は何よりも翠星石を苦しめる。
そしてそのことが何よりも翠星石の精神を蝕んでいた。
だからその憤りは全て、シャドームーンに向けられる。
翠星石にとって、真司の死の責任はシャドームーンになければならないのだ。
そしてそのことが何よりも翠星石の精神を蝕んでいた。
だからその憤りは全て、シャドームーンに向けられる。
翠星石にとって、真司の死の責任はシャドームーンになければならないのだ。
ガチャリ
その時、部屋の扉からそう音が鳴った。
ドアノブを回す音。
扉は軋むような低い音を鳴らしながら、その後ろからゆっくりと光を差し込ませていく。
ゆっくりと。ゆっくりと。
しかし薔薇水晶は扉から出入りしない。別の者、と言うことになる。
ならばV.V.なのか? それとも志々雄なのか?
得体の知れない来訪者に翠星石は身を硬くして、ゆっくりと開いて行く扉を見守った。
しかし現れた二人は翠星石が予想すらしていなかった、
否、予想すらできなかった存在。
ドアノブを回す音。
扉は軋むような低い音を鳴らしながら、その後ろからゆっくりと光を差し込ませていく。
ゆっくりと。ゆっくりと。
しかし薔薇水晶は扉から出入りしない。別の者、と言うことになる。
ならばV.V.なのか? それとも志々雄なのか?
得体の知れない来訪者に翠星石は身を硬くして、ゆっくりと開いて行く扉を見守った。
しかし現れた二人は翠星石が予想すらしていなかった、
否、予想すらできなかった存在。
そして翠星石にとって真の恐怖と苦痛が始まる。
◇
「私たちは――――全員で研究所に向かおう」
狭間偉出夫の決断。それは全員で研究所に出発することだった。
狭間たちの当初の目的は、首輪を解除するために研究所へ赴くこと。
研究所が在るのはA-10エリア。
狭間たちの現在位置であるF-10エリアからは遠い。
出発を急いで研究所の安全と首輪の解除方法を確保するべきだと言うのが、狭間の判断だった。
狭間たちの当初の目的は、首輪を解除するために研究所へ赴くこと。
研究所が在るのはA-10エリア。
狭間たちの現在位置であるF-10エリアからは遠い。
出発を急いで研究所の安全と首輪の解除方法を確保するべきだと言うのが、狭間の判断だった。
「援護には行かなくて良いんですか?」
ストレイト・クーガーがそこに疑問を挟む。
先刻KMF(ナイトメアフレーム)の襲撃を受けた際、ジェレミアと北岡が足止めに留まっている。
襲撃してきたナイトメアフレームはただ一機。
しかしそれは正にワンオフの特製機、ランスロット。
同じナイトメアフレームの軍勢を相手にしても、八面六臂の戦果を上げるランスロットでは、
ジェレミアと北岡の二人だけとなると、戦力的な不利は否めない。
二人の援護に向かうべきでは無いのか?
クーガーがそう疑問に思うことも無理は無かった。
先刻KMF(ナイトメアフレーム)の襲撃を受けた際、ジェレミアと北岡が足止めに留まっている。
襲撃してきたナイトメアフレームはただ一機。
しかしそれは正にワンオフの特製機、ランスロット。
同じナイトメアフレームの軍勢を相手にしても、八面六臂の戦果を上げるランスロットでは、
ジェレミアと北岡の二人だけとなると、戦力的な不利は否めない。
二人の援護に向かうべきでは無いのか?
クーガーがそう疑問に思うことも無理は無かった。
「それが出来る戦力が有ればな」
狭間の返答に、クーガーは小さく嘆息を吐く。
現在、クーガーの居る集団は、
狭間偉出夫、ストレイト・クーガー、ヴァン、上田次郎、シャドームーンの五名。
しかしメギドラオンを使った反動が未だ抜け切らない狭間、
二時間ナイトに変身することができないヴァン、
ほとんど独力で煉獄の大体を破壊したシャドームーン、
この三名はクーガーからも明らかに消耗が見て取れる。
そして当のクーガー自身にも疲労の色が見えていた。
クーガーは速さが信条の男。それは単純な運動速度ではなく、判断や実行の速度も含まれる。
そもそも余裕があるならば、とっくに自分だけでも援護なりに向かっている。
しかし参加者のほとんどが対主催で結束して、ここまで状況が煮詰まっている以上、
クーガーと言えど安易な独断専行は許されない状況だ。
自身や集団の状態を考慮して、クーガーは狭間の判断を待ったのだ。
現在、クーガーの居る集団は、
狭間偉出夫、ストレイト・クーガー、ヴァン、上田次郎、シャドームーンの五名。
しかしメギドラオンを使った反動が未だ抜け切らない狭間、
二時間ナイトに変身することができないヴァン、
ほとんど独力で煉獄の大体を破壊したシャドームーン、
この三名はクーガーからも明らかに消耗が見て取れる。
そして当のクーガー自身にも疲労の色が見えていた。
クーガーは速さが信条の男。それは単純な運動速度ではなく、判断や実行の速度も含まれる。
そもそも余裕があるならば、とっくに自分だけでも援護なりに向かっている。
しかし参加者のほとんどが対主催で結束して、ここまで状況が煮詰まっている以上、
クーガーと言えど安易な独断専行は許されない状況だ。
自身や集団の状態を考慮して、クーガーは狭間の判断を待ったのだ。
「私たちは今、分断できるほどの戦力も無い。煉獄の撃墜に戦力を大きくつぎ込んでしまったからな。
……煉獄の内部は無人で、おそらく自動操縦だったのだろう……その無人艦を、わざわざ撃墜するために多大な消耗をしてしまった!
落とさずに艦の操縦系統を抑えれば、煉獄その物をこちらの戦力にできたにも関わらず、だ!!」
……煉獄の内部は無人で、おそらく自動操縦だったのだろう……その無人艦を、わざわざ撃墜するために多大な消耗をしてしまった!
落とさずに艦の操縦系統を抑えれば、煉獄その物をこちらの戦力にできたにも関わらず、だ!!」
無人艦であった煉獄は、その戦闘行動の単純さからおそらく遠隔操作ではなく、自動操縦であったと推測される。
更に推測を進めれば、そのシステムは煉獄内部の操縦系統をコンピューターによって操作する物だと考えられる。
それならば煉獄の内部に侵入できた際、操舵室などにあるだろうコンピューターを掌握するなどすれば、
煉獄の操縦を奪取することも可能だった。
そして狭間にはそれができるだけの知識と技能を有している。
実際にはそれほど簡単に話が進むかどうかは判らないが、試してみるだけの価値は有った。
だからこそ狭間が艦内に侵入した際も、煉獄に対する攻撃は迎撃装備だけに留めていた。
もし煉獄の操縦を奪取することができたならば、戦力的な利益は計り知れない。
ジェレミアと北岡の援護も容易だっただろう。
更に推測を進めれば、そのシステムは煉獄内部の操縦系統をコンピューターによって操作する物だと考えられる。
それならば煉獄の内部に侵入できた際、操舵室などにあるだろうコンピューターを掌握するなどすれば、
煉獄の操縦を奪取することも可能だった。
そして狭間にはそれができるだけの知識と技能を有している。
実際にはそれほど簡単に話が進むかどうかは判らないが、試してみるだけの価値は有った。
だからこそ狭間が艦内に侵入した際も、煉獄に対する攻撃は迎撃装備だけに留めていた。
もし煉獄の操縦を奪取することができたならば、戦力的な利益は計り知れない。
ジェレミアと北岡の援護も容易だっただろう。
「例えそれだけの専門知識が無くとも、無人艦に侵入できたらまず艦の操縦を奪うことを考えるだろう!
誰だってそう考える! 私でもそう考える! それを考えない奴はバカだ!!
ましてや艦内に味方が侵入しているにもかかわらず、艦を内側から撃沈するほどの大規模な破壊活動を行うなどよっぽどのバカだ!!
そのよっぽどのバカが、まさか数少ない味方の中に居たとはな!!!」
「……まあ落ち着いてください。あいつが居なかったら、研究所も危なかったことだし」
「ハァハァ……大丈夫だ。私は落ち着いている」
誰だってそう考える! 私でもそう考える! それを考えない奴はバカだ!!
ましてや艦内に味方が侵入しているにもかかわらず、艦を内側から撃沈するほどの大規模な破壊活動を行うなどよっぽどのバカだ!!
そのよっぽどのバカが、まさか数少ない味方の中に居たとはな!!!」
「……まあ落ち着いてください。あいつが居なかったら、研究所も危なかったことだし」
「ハァハァ……大丈夫だ。私は落ち着いている」
クーガーに諭されて、狭間は荒げた息を整える。
その狭間の息を荒げさせた原因である“よっぽどのバカ”ことシャドームーンは、
狭間の憤りが聞こえているにもかかわらず、気に留める様子も無く平然と佇んでいる。
そもそもが世紀王としてその脳まで改造されたゆえ、生来の王であるシャドームーンが自分の行いを省みることは無い。
反省とは世界の道理に支配された者の行いなのだ。
狭間とてシャドームーンに厭味が効くとは思っていない。
それでも勝手な行動への怒りを抑えられなかった。
その狭間の息を荒げさせた原因である“よっぽどのバカ”ことシャドームーンは、
狭間の憤りが聞こえているにもかかわらず、気に留める様子も無く平然と佇んでいる。
そもそもが世紀王としてその脳まで改造されたゆえ、生来の王であるシャドームーンが自分の行いを省みることは無い。
反省とは世界の道理に支配された者の行いなのだ。
狭間とてシャドームーンに厭味が効くとは思っていない。
それでも勝手な行動への怒りを抑えられなかった。
「……煉獄、恐るべき敵だった。私の射撃の腕が無ければ、あそこで屍を晒していたのは私の仲間だったかもしれないな……」
その向こうで撃沈した煉獄を眺めながら、まるでそれを自分の功績のように語っているのは上田である。
上田は先刻から如何にも自分が煉獄撃沈の功労者です的なアピールをしているが、誰の眼中に入っていない。
ちなみに上田は、先刻の戦いにおける消耗がほとんど無く体力にも余裕があるが、
それですら狭間の判断には関係の無い情報だった。
上田は先刻から如何にも自分が煉獄撃沈の功労者です的なアピールをしているが、誰の眼中に入っていない。
ちなみに上田は、先刻の戦いにおける消耗がほとんど無く体力にも余裕があるが、
それですら狭間の判断には関係の無い情報だった。
「……とにかく、あれだけ派手に煉獄を撃墜したんだ。ジェレミアたちからもそれを確認できた蓋然性は高い。
そうなればランスロットを無理に足止めする理由も無くなる。私たちが無理に援護に行く必要もな。
ランスロットがいかに高性能の兵器でも、一度見失った人間を捕捉するのは容易では無いだろう。
全体の安全を考えた上でも、ここを出発して研究所に向かった方が良い。
私たちの戦力が回復した後に探知機を使えばジェレミアたちと再び合流するのも難しくは無いからな」
「じゃあ、気を取り直して出発と行きますか! この世の理は速さ!! 今は悩む時間ももったいない!
なぁに、世界を縮める俺のラディカル・グッドスピードなら、研究所だろうとどこだろうと目と鼻の先です!!」
そうなればランスロットを無理に足止めする理由も無くなる。私たちが無理に援護に行く必要もな。
ランスロットがいかに高性能の兵器でも、一度見失った人間を捕捉するのは容易では無いだろう。
全体の安全を考えた上でも、ここを出発して研究所に向かった方が良い。
私たちの戦力が回復した後に探知機を使えばジェレミアたちと再び合流するのも難しくは無いからな」
「じゃあ、気を取り直して出発と行きますか! この世の理は速さ!! 今は悩む時間ももったいない!
なぁに、世界を縮める俺のラディカル・グッドスピードなら、研究所だろうとどこだろうと目と鼻の先です!!」
狭間の説明が終わるか終わらないかの速さで、クーガーは自分の乗っていた車を狭間の横につける。
クーガーのアルター能力『ラディカル・グッドスピード』によって作り変えられたこの車なら、
確かに研究所でも、時を掛けずに付くことが可能だ。
しかも車に乗っている間に休憩を取る形にもなる。
この場の全員が狭間の判断に異論は無いらしく、
狭間とヴァンと上田は、クーガーの車に乗り込む。
クーガーのアルター能力『ラディカル・グッドスピード』によって作り変えられたこの車なら、
確かに研究所でも、時を掛けずに付くことが可能だ。
しかも車に乗っている間に休憩を取る形にもなる。
この場の全員が狭間の判断に異論は無いらしく、
狭間とヴァンと上田は、クーガーの車に乗り込む。
「……乗らないのかシャドームーン?」
「フッ、世紀王がバトルホッパー以外の……」
「出せクーガー」
「フッ、世紀王がバトルホッパー以外の……」
「出せクーガー」
シャドームーンが車に乗らないことを確認すると、
その話が終わる前に、狭間は車を出発させた。
シャドームーンは後からバトルホッパーで追ってきたが、
特に文句も無く、車と並走する。
その話が終わる前に、狭間は車を出発させた。
シャドームーンは後からバトルホッパーで追ってきたが、
特に文句も無く、車と並走する。
車に揺られながら、右手の海から昇る朝日を臨み、
さすがの狭間もようやく人心地つく。
無論、最低限の警戒は解いてはいないが、
ずっと張り詰めていた物を、多少でも緩ませることができた。
さすがの狭間もようやく人心地つく。
無論、最低限の警戒は解いてはいないが、
ずっと張り詰めていた物を、多少でも緩ませることができた。
今の狭間は集団を指揮する立場となっている。
それに不服が在るわけでは無い。
しかしその判断の一つ一つに、責任の重さが伴う。
人を高みから見下ろす魔神皇には無かった、人の命を負う魔人皇の重み。
何より狭間にとって、レナとの約束が重い物だった。
それに不服が在るわけでは無い。
しかしその判断の一つ一つに、責任の重さが伴う。
人を高みから見下ろす魔神皇には無かった、人の命を負う魔人皇の重み。
何より狭間にとって、レナとの約束が重い物だった。
『うん……皆を元の世界に返してあげて欲しいんだ……狭間さんならきっと出来るよ』
レナの願い。狭間はそれを確かに了解した。
それはどんなに困難であっても成し遂げる覚悟だ。
誰を犠牲にするつもりも無い。
そのためにはいかなる障害も問題では無い。必ず排除する。
既に何人もの犠牲は出たが、それでも折れるつもりは無い。
それはどんなに困難であっても成し遂げる覚悟だ。
誰を犠牲にするつもりも無い。
そのためにはいかなる障害も問題では無い。必ず排除する。
既に何人もの犠牲は出たが、それでも折れるつもりは無い。
問題はレナの言う“皆”とはどこまで含まれるかだ。
例えばV.V.と薔薇水晶がそこに含まれないことは容易に推測できる。
彼らは殺し合いを最初から主催していた立場だ。
レナが元の世界への帰還を願う筋合いなど無い。
問題となるのは最初から主催に組していた立場ではない人物である。
彼らは殺し合いを最初から主催していた立場だ。
レナが元の世界への帰還を願う筋合いなど無い。
問題となるのは最初から主催に組していた立場ではない人物である。
『だが主催に加わった以上は私達の敵、容赦はしない!』
志々雄真実に襲撃された時、狭間はそう言った。
実際、志々雄は二度も自分達を襲撃してきた。敵という判断は妥当である。
しかし主催に加わったと言う判断はどうか?
確かに志々雄はランスロットや煉獄などを持ち出して、襲撃してきた。
それらの戦力は主催の協力無しに用意できなかった物だろう。
それでも志々雄の性格を考えれば、自分を殺し合いに巻き込んだ主催にそのまま加わることは無いはずだ。
志々雄の性格なら、決して主催と馴れ合うことはしない。
おそらく主催その物を打倒してその戦力の掌握に取り組むだろう。
いずれにしろ主催と手を組んでいるのは、一時的な物と考えて間違いない。
そうなれば志々雄とは交渉の余地がある。
実際、志々雄は二度も自分達を襲撃してきた。敵という判断は妥当である。
しかし主催に加わったと言う判断はどうか?
確かに志々雄はランスロットや煉獄などを持ち出して、襲撃してきた。
それらの戦力は主催の協力無しに用意できなかった物だろう。
それでも志々雄の性格を考えれば、自分を殺し合いに巻き込んだ主催にそのまま加わることは無いはずだ。
志々雄の性格なら、決して主催と馴れ合うことはしない。
おそらく主催その物を打倒してその戦力の掌握に取り組むだろう。
いずれにしろ主催と手を組んでいるのは、一時的な物と考えて間違いない。
そうなれば志々雄とは交渉の余地がある。
そんな相手を敵として切り捨てることが、レナの本意だろうか?
志々雄とて殺し合いに拉致された被害者であることに変わりは無い。
クーガーと翠星石と真司を助けたこともある。
無論、実際に志々雄と和解するなど、容易ではないだろう。
あれだけの攻撃をしてきたのだから。
ただ主催との関係や、そもそも志々雄の真意が不明な以上、安易な予断をするべきではない。
クーガーと翠星石と真司を助けたこともある。
無論、実際に志々雄と和解するなど、容易ではないだろう。
あれだけの攻撃をしてきたのだから。
ただ主催との関係や、そもそも志々雄の真意が不明な以上、安易な予断をするべきではない。
(…………違うな、不明なのは志々雄ではなくレナの真意だ……)
志々雄の心情が不明なのは間違いではないが、それが問題の核心ではない。
問題なのは――少なくとも狭間にとっては――やはりレナの心情なのだ。
しかし、もうレナにその真意を問い質すことはできない。
レナはもう死んだ。
そして死した者との約束だからこそ、決して裏切れない物として狭間を強く縛る。
問題なのは――少なくとも狭間にとっては――やはりレナの心情なのだ。
しかし、もうレナにその真意を問い質すことはできない。
レナはもう死んだ。
そして死した者との約束だからこそ、決して裏切れない物として狭間を強く縛る。
(…………そろそろ探知機とホームページでジェレミアと北岡とつかさの様子を見た方が良いな)
答えの出ない煩悶を打ち切って、狭間は現状の把握に思考を切り替える。
どんな情報を得ても、現在の行動指針を大幅に変える蓋然性は低いが、
それでも別行動をしている三人の状況を随時把握していることは重要だ。
今にして思えば探知機はつかさにでも渡しておけば、全員の合流が楽だったかも知れない。
自分の判断にまだ甘さが残っていたことを反省しながらも、狭間は手元を動かし作業を進める。
自分のデイパックから、『多ジャンルバトルロワイアル』のホームページを閲覧するために必要なノートパソコンを取り出そうとする。
しかしノートパソコンを取り出そうとした手が止まった。
狭間の手元だけではない。
狭間自身、それだけではなく狭間の乗っている車ごと止まっている。
車が急停止したのだ。
何が起こったかはすぐに分かった。
車を急停止させたであろうクーガーは、視線を車の後方へ向けている。
その視線の先ではシャドームーンの駆るバトルホッパーが同じく停止している。
更にそのシャドームーンが視線を向けているのは、右手の海。
その海面には見覚えの在る、絵の具を無作為に混ぜたような混濁が浮かんでいた。
シャドームーンは広視界のマイティアイを有しているため、いち早くそれを発見することができたのだろう。
どんな情報を得ても、現在の行動指針を大幅に変える蓋然性は低いが、
それでも別行動をしている三人の状況を随時把握していることは重要だ。
今にして思えば探知機はつかさにでも渡しておけば、全員の合流が楽だったかも知れない。
自分の判断にまだ甘さが残っていたことを反省しながらも、狭間は手元を動かし作業を進める。
自分のデイパックから、『多ジャンルバトルロワイアル』のホームページを閲覧するために必要なノートパソコンを取り出そうとする。
しかしノートパソコンを取り出そうとした手が止まった。
狭間の手元だけではない。
狭間自身、それだけではなく狭間の乗っている車ごと止まっている。
車が急停止したのだ。
何が起こったかはすぐに分かった。
車を急停止させたであろうクーガーは、視線を車の後方へ向けている。
その視線の先ではシャドームーンの駆るバトルホッパーが同じく停止している。
更にそのシャドームーンが視線を向けているのは、右手の海。
その海面には見覚えの在る、絵の具を無作為に混ぜたような混濁が浮かんでいた。
シャドームーンは広視界のマイティアイを有しているため、いち早くそれを発見することができたのだろう。
異空間、nのフィールドへの入り口。
それを確認した瞬間、車内の一同全員に緊張が走る。
nのフィールドは薔薇水晶が会場を移動するのに使用していた。
薔薇水晶、あるいは手を組んでいる志々雄の襲撃を全員が予感したからだ。
しかしそこから現れたのは薔薇水晶でも志々雄でもない。
nのフィールドの入り口から現れたのは、東欧の民族衣装を思わせるドレスに身を包んだ、
やはり見覚えの在る人形だった。
クーガーがその名を呟く。
nのフィールドは薔薇水晶が会場を移動するのに使用していた。
薔薇水晶、あるいは手を組んでいる志々雄の襲撃を全員が予感したからだ。
しかしそこから現れたのは薔薇水晶でも志々雄でもない。
nのフィールドの入り口から現れたのは、東欧の民族衣装を思わせるドレスに身を包んだ、
やはり見覚えの在る人形だった。
クーガーがその名を呟く。
「……翠星石さん…………」
その姿を完全に現した翠星石は、海上を浮かびながらゆっくりと陸に近付いてくる。
シャドームーンは徐にバトルホッパーから降りる。
その様からは翠星石への敵意が明らかだ。
そのシャドームーンの前、翠星石との間に割り込むようにクーガーの運転する車が入ってきた。
シャドームーンは徐にバトルホッパーから降りる。
その様からは翠星石への敵意が明らかだ。
そのシャドームーンの前、翠星石との間に割り込むようにクーガーの運転する車が入ってきた。
「シャドームーン、早まるなよ」
「フッ、だからそれはあの人形に言え」
「フッ、だからそれはあの人形に言え」
シャドームーンに釘を刺しながら、狭間は車から降りる。
続けてクーガーとヴァンが、シャドームーンからヴァンの影に隠れるように上田が降りて来て、
シャドームーンを囲むように立ち並ぶ。
続けてクーガーとヴァンが、シャドームーンからヴァンの影に隠れるように上田が降りて来て、
シャドームーンを囲むように立ち並ぶ。
「ヴァン、シャドームーンを……」
「こいつに手出しさせなきゃ良いんだろ?」
「こいつに手出しさせなきゃ良いんだろ?」
ヴァンは、狭間にもシャドームーンにも目をくれず翠星石だけを見据えながら返答する。
どうやら翠星石からシャドームーンを守らなければいけない状況だと承知しているらしい。
とりあえずでも五人全員で翠星石を迎える体制が取れたことに狭間は安堵する。
翠星石は、未だ敵とも味方とも判断の付かない存在だ。
それゆえ敵だと割り切って対応できない分、難しい相手と言えた。
どうやら翠星石からシャドームーンを守らなければいけない状況だと承知しているらしい。
とりあえずでも五人全員で翠星石を迎える体制が取れたことに狭間は安堵する。
翠星石は、未だ敵とも味方とも判断の付かない存在だ。
それゆえ敵だと割り切って対応できない分、難しい相手と言えた。
当の翠星石はシャドームーンに攻撃を仕掛けてくる様子もなく、狭間たちに近付いてくる。
ゆっくりと。ゆっくりと。
その様には奇妙な違和感があった。
ゆっくりと。ゆっくりと。
その様には奇妙な違和感があった。
「……いやあ翠星石さん、お元気そうで何よりです!
ところでどうしたんですか急に? もしかして俺に会いに来たとか?」
ところでどうしたんですか急に? もしかして俺に会いに来たとか?」
おどけた調子で話し掛けるクーガーだが、その構えから警戒の色を隠し切れていない。
どうやらクーガーも翠星石の状態を掴みかねているようだった。
それほど今の翠星石は得体の知れない気配を漂わせていた。
どうやらクーガーも翠星石の状態を掴みかねているようだった。
それほど今の翠星石は得体の知れない気配を漂わせていた。
「そうですよぉ。わざわざ翠星石からお前らと会い来てやったんですから、せいぜい感謝しやがれですぅ」
翠星石はクーガーに笑顔を向けて返答する。
まるで花のような屈託の無い笑顔だった。
しかしそれを見た狭間は言いようの無い寒気を覚える。
例えるなら、正に“人形のよう”な空虚さが漂う笑顔だった。
まるで花のような屈託の無い笑顔だった。
しかしそれを見た狭間は言いようの無い寒気を覚える。
例えるなら、正に“人形のよう”な空虚さが漂う笑顔だった。
“人形のよう”?
翠星石は元来人形だ。それならば比喩として成立はしない。
しかし狭間、のみならず他の多くの者も、
翠星石が人の形を模した人造物、即ち人形であることを殊更意識することはほとんどなかった。
自らの魂“ローザミスティカ”を持つゆえ、自らの意志で行動して豊かな感情表現を見せる翠星石は、
人間と変わらぬ印象があった。
翠星石は元来人形だ。それならば比喩として成立はしない。
しかし狭間、のみならず他の多くの者も、
翠星石が人の形を模した人造物、即ち人形であることを殊更意識することはほとんどなかった。
自らの魂“ローザミスティカ”を持つゆえ、自らの意志で行動して豊かな感情表現を見せる翠星石は、
人間と変わらぬ印象があった。
では今の翠星石には異様な空虚感が漂っていた。
何かが欠落したような空虚感。
一体何が欠落していると言うのだろう。
何かが欠落したような空虚感。
一体何が欠落していると言うのだろう。
「…………翠星石、君はnのフィールドに侵入できるようになったのだな?」
狭間は慎重な口ぶりで、探るように問い掛ける。
翠星石の状態や思惑はともかく、すぐに攻撃を仕掛けてくるようなつもりは無いらしい。
それならば戦闘の回避は可能かもしれない。
シャドームーンとの経緯がある以上、味方に引き入れるのは簡単な話ではないが。
翠星石の状態や思惑はともかく、すぐに攻撃を仕掛けてくるようなつもりは無いらしい。
それならば戦闘の回避は可能かもしれない。
シャドームーンとの経緯がある以上、味方に引き入れるのは簡単な話ではないが。
「そんなの翠星石の手に掛かれば、お茶の子さいさいですぅ。これで皆、殺し合いから脱出することができますね」
翠星石の返答は、意外なほど狭間の目的に沿った物だった。
言葉の意味を素直に受け止めれば、狭間たちの脱出に翠星石が協力してくれるつもりらしい。
翠星石とシャドームーンの衝突は避けられない、即ち自分と翠星石の戦闘も避け難いと予想していただけに、
狭間にとっては望外の言葉だった。
言葉の意味を素直に受け止めれば、狭間たちの脱出に翠星石が協力してくれるつもりらしい。
翠星石とシャドームーンの衝突は避けられない、即ち自分と翠星石の戦闘も避け難いと予想していただけに、
狭間にとっては望外の言葉だった。
「nのフィールドを通れば、あのV.V.の所にでも連れて行ってやれるですよぉ。そうなったら皆でV.V.をギッタンギッタンにしてやると良いですよ」
「V.V.の居場所を知っているのか!?」
「翠星石なんて、あのチョココロネみてーな髪の毛を全部刈り取ってやってハゲハゲ坊主にしてやるですぅ」
「V.V.の居場所を知っているのか!?」
「翠星石なんて、あのチョココロネみてーな髪の毛を全部刈り取ってやってハゲハゲ坊主にしてやるですぅ」
それにも関わらず狭間は相変わらず、翠星石に対する不安感が拭えない。
それは上田やヴァンも同じ様子だった。
クーガーですら翠星石の思惑を掴みかねているのが判る。
シャドームーンだけが、変わらぬ鉄面皮にその思惑を隠している。
当の翠星石は相変わらず、空虚な笑みを浮かべていた。
V.V.の居場所を知っているらしいが、そのことを問い質したくとも、どうも会話が上手く噛み合わない。
とにかく翠星石を刺激しないようにしながら、その意思をはっきりと確認する必要がある。
違和感を引きずったまま、狭間は翠星石との対話を続ける。
それは上田やヴァンも同じ様子だった。
クーガーですら翠星石の思惑を掴みかねているのが判る。
シャドームーンだけが、変わらぬ鉄面皮にその思惑を隠している。
当の翠星石は相変わらず、空虚な笑みを浮かべていた。
V.V.の居場所を知っているらしいが、そのことを問い質したくとも、どうも会話が上手く噛み合わない。
とにかく翠星石を刺激しないようにしながら、その意思をはっきりと確認する必要がある。
違和感を引きずったまま、狭間は翠星石との対話を続ける。
「君は私たちの脱出に協力するつもりなのか?」
「そうですぅ。……ただしそれには一つ条件が有るですぅ」
「条件? 仕方ない、私の著作『ドンと来い!超常現象』をサイン入りで君にプレゼントしよう。
この世界的な名著を作者のサイン入りで手に入るんだ、一生に一度有るか無いかの幸運と言えるだろう。
…………と言うか、君には以前にも赤い宝石を上げたじゃないか! あれ以上、まだ要求するつもりか!」
「何だその条件と言うのは?」
「そうですぅ。……ただしそれには一つ条件が有るですぅ」
「条件? 仕方ない、私の著作『ドンと来い!超常現象』をサイン入りで君にプレゼントしよう。
この世界的な名著を作者のサイン入りで手に入るんだ、一生に一度有るか無いかの幸運と言えるだろう。
…………と言うか、君には以前にも赤い宝石を上げたじゃないか! あれ以上、まだ要求するつもりか!」
「何だその条件と言うのは?」
意味の判らないことを言っている上田を無視して、狭間は翠星石の言う条件を問い質す。
交換条件を持ち出して来たということは、翠星石は狭間とTALK(交渉)をするつもりということだ。
これだけあからさまに交渉を持ち掛けてきたのは、裏があるのではなく、
単純に翠星石が交渉ごとに慣れていないからだろう。
それでも油断はできない。
翠星石同様に、狭間も悪魔交渉は不得手なのだから。
シャドームーンを相手にした際に上手く行ったのは、同じ王であると言う条件もあって、
狭間にとって特別に相性が良い交渉相手だったからだ。
しかし翠星石は狭間にとって共通点の少ない相手であるし、
何より、人魔問わず不得手とする女性なのである。
交換条件を持ち出して来たということは、翠星石は狭間とTALK(交渉)をするつもりということだ。
これだけあからさまに交渉を持ち掛けてきたのは、裏があるのではなく、
単純に翠星石が交渉ごとに慣れていないからだろう。
それでも油断はできない。
翠星石同様に、狭間も悪魔交渉は不得手なのだから。
シャドームーンを相手にした際に上手く行ったのは、同じ王であると言う条件もあって、
狭間にとって特別に相性が良い交渉相手だったからだ。
しかし翠星石は狭間にとって共通点の少ない相手であるし、
何より、人魔問わず不得手とする女性なのである。
いずれにしろ未だに翠星石の意図は掴み切れないが、和解の糸口はそこに見えているのだ。
そこから話を進めていくしかないだろう。
例えそこに罠があったとしても。
そこから話を進めていくしかないだろう。
例えそこに罠があったとしても。
しかし翠星石は狭間の問いに答える様子を見せない。
ただ黙って右手を、自分の身体の前にゆっくりと上げていく。
ゆっくりと。ゆっくりと。
ちょうど肩の高さまで上がった所で、その指先が誰かを指しているのが判った。
指された者以外の、狭間にも、クーガーにも、ヴァンにも、上田にも、
一様に緊張が走る。
翠星石はシャドームーンを指しながら“条件”を提示する。
ただ黙って右手を、自分の身体の前にゆっくりと上げていく。
ゆっくりと。ゆっくりと。
ちょうど肩の高さまで上がった所で、その指先が誰かを指しているのが判った。
指された者以外の、狭間にも、クーガーにも、ヴァンにも、上田にも、
一様に緊張が走る。
翠星石はシャドームーンを指しながら“条件”を提示する。
「その銀色オバケを翠星石に引き渡せば、皆を脱出させてやるですよ」
◇
「――――!!!!」
扉の向こうに現れた二人を確認した翠星石は、声にならない叫びを上げる。
それは驚き、と言うより理解を超えた混乱が原因だった。
有り得ないのだ。その二人が現れるのは。
何故ならその二人は、既に死んでいるのだから。
それは驚き、と言うより理解を超えた混乱が原因だった。
有り得ないのだ。その二人が現れるのは。
何故ならその二人は、既に死んでいるのだから。
一人は女。
銀色の髪。
紺色のドレス。
そして欠落した腹部。
銀色の髪。
紺色のドレス。
そして欠落した腹部。
もう一人は男。
外に撥ねた茶髪。
水色のダウンジャケット。
そして欠落した下顎。
外に撥ねた茶髪。
水色のダウンジャケット。
そして欠落した下顎。
扉の向こうに立つ二人は、紛れもなく水銀燈と城戸真司だった。
懐かしむべき二人と再会した翠星石は、声一つ立てられず震えていた。
再会の喜びとは無縁の震え。
恐怖が翠星石の身体を震わしていた。
再会の喜びとは無縁の震え。
恐怖が翠星石の身体を震わしていた。
目の前の光景は翠星石にとって、あまりにも不条理な物だった。
水銀燈はその死の瞬間を確認している。
何より翠星石は水銀燈のローザミスティカを保有している。
ローザミスティカはローゼンメイデンの本体に等しい。
それが翠星石に在る以上、目の前に水銀燈が居るはずが無いのだ。
水銀燈はその死の瞬間を確認している。
何より翠星石は水銀燈のローザミスティカを保有している。
ローザミスティカはローゼンメイデンの本体に等しい。
それが翠星石に在る以上、目の前に水銀燈が居るはずが無いのだ。
真司もまた、その死の瞬間を確認している。
それは何より翠星石にとって確かだ。
何故なら真司を殺したのは――――
それは何より翠星石にとって確かだ。
何故なら真司を殺したのは――――
「――――!!」
扉の向こうに佇んでいた水銀燈と真司が動き出す。
ただそれだけで、翠星石は息を呑んだ。
一歩一歩と部屋の床を踏み締めて確実に近付いてくる二人。
その確かさは、二人が夢や幻のごとき存在では無いを示していた。
水銀燈と真司は確かにそこに存在している。
それだからこそ翠星石は二人が恐ろしいのだ。
翠星石がかつてテレビでお化けを見た時も、震えるほどに怖かった。
しかし今翠星石が覚えるのは、全く別種の恐怖。
自分の行いを責められる恐怖。
ただそれだけで、翠星石は息を呑んだ。
一歩一歩と部屋の床を踏み締めて確実に近付いてくる二人。
その確かさは、二人が夢や幻のごとき存在では無いを示していた。
水銀燈と真司は確かにそこに存在している。
それだからこそ翠星石は二人が恐ろしいのだ。
翠星石がかつてテレビでお化けを見た時も、震えるほどに怖かった。
しかし今翠星石が覚えるのは、全く別種の恐怖。
自分の行いを責められる恐怖。
確かな存在感を示しながら、まるで幽鬼のごとく無言に歩を進める二人。
それに圧されるように、後ろに踏鞴を踏む翠星石。
翠星石の震える足が縺れて、何も無い所で転倒。
二人の足音が近付いて来るのを聞きながら、翠星石は慌てて起き上がろうとするが、
突如、その脚を誰かの手によって強く後ろに引っ張られ再び転倒する。
体温を感じ取れない異様に冷たい手。
誰の手なのかほぼ想像がつくが、それを確認するのが恐ろしい。
手で床を掻いて逃げようとする翠星石。
しかし身体ごとを引っ張られ、無理やり対面させられる。
人の体温を失った城戸真司と。
顔色と下顎を失くし、眼も空ろな真司の面相は、
まさしく現世に蘇った死者、UNDEADその物だった。
それに圧されるように、後ろに踏鞴を踏む翠星石。
翠星石の震える足が縺れて、何も無い所で転倒。
二人の足音が近付いて来るのを聞きながら、翠星石は慌てて起き上がろうとするが、
突如、その脚を誰かの手によって強く後ろに引っ張られ再び転倒する。
体温を感じ取れない異様に冷たい手。
誰の手なのかほぼ想像がつくが、それを確認するのが恐ろしい。
手で床を掻いて逃げようとする翠星石。
しかし身体ごとを引っ張られ、無理やり対面させられる。
人の体温を失った城戸真司と。
顔色と下顎を失くし、眼も空ろな真司の面相は、
まさしく現世に蘇った死者、UNDEADその物だった。
「ああああああああああああああ!!!」
翠星石の口からようやく言葉にならない悲鳴が零れる。
そして眩い光が翠星石の身体から放たれる。
ゴルゴムの王のみが持つことを許された賢者の石・キングストーン。
現在は翠星石の体内に在るそれが、翠星石の恐れに呼応して紅い輝きを放ったのだ。
キングストーンが示すのはその光だけではない。
世紀王の根源とも言えるキングストーンは、輝きと同時にその絶大な力を発揮する。
翠星石の手から光の波が衝撃となって放たれる。
衝撃は翠星石の何倍もの体躯を持つ真司を、玩具のごとく転がした。
翠星石はそれに目もくれず逃げ出そうとする。
どこに逃げるつもりなのかも定かでは無い。
それほど翠星石は慌てふためいていた。
しかし翠星石の身体は再び、温度のない手によって抑えられる。
人の物では無い小さな手。
肩を掴まれた翠星石は、それが水銀燈の手であることが判った。
そして眩い光が翠星石の身体から放たれる。
ゴルゴムの王のみが持つことを許された賢者の石・キングストーン。
現在は翠星石の体内に在るそれが、翠星石の恐れに呼応して紅い輝きを放ったのだ。
キングストーンが示すのはその光だけではない。
世紀王の根源とも言えるキングストーンは、輝きと同時にその絶大な力を発揮する。
翠星石の手から光の波が衝撃となって放たれる。
衝撃は翠星石の何倍もの体躯を持つ真司を、玩具のごとく転がした。
翠星石はそれに目もくれず逃げ出そうとする。
どこに逃げるつもりなのかも定かでは無い。
それほど翠星石は慌てふためいていた。
しかし翠星石の身体は再び、温度のない手によって抑えられる。
人の物では無い小さな手。
肩を掴まれた翠星石は、それが水銀燈の手であることが判った。
途端、翠星石の中でローザミスティカが反応する。
水銀燈から受け取ったローザミスティカ。
それに込められた水銀燈が受けた屈辱の記憶。
そしてローザミスティカを受け取った時、
同じローゼンメイデンの姉妹として、水銀燈から託された想いに必ず報いると自分に誓っていた。
そんな今や二つの物とも一つの物ともつかない記憶を、翠星石は呼び覚まされたのだ。
水銀燈から受け取ったローザミスティカ。
それに込められた水銀燈が受けた屈辱の記憶。
そしてローザミスティカを受け取った時、
同じローゼンメイデンの姉妹として、水銀燈から託された想いに必ず報いると自分に誓っていた。
そんな今や二つの物とも一つの物ともつかない記憶を、翠星石は呼び覚まされたのだ。
だからこそ、今の翠星石は恐怖を覚える。
同じローゼンメイデンの姉妹である水銀燈に。
同じローゼンメイデンの姉妹である水銀燈に。
しかしどれだけ足掻いても、水銀燈の手から逃れることはできない。
翠星石から再び紅い輝き、キングストーンの力が放たれる。
そして水銀燈のローザミスティカの力も。
翠星石の身体の周囲に黒い鳥羽が、何枚も発生していく。
黒羽はまるで弾丸のごとくに突端を水銀燈に向けて一斉発射。
黒羽は水銀燈を切り裂き、その身体を翠星石から引き剥がす。
しかし黒羽は速度と切断力に優れた武器であるが、羽自体が軽量ゆえに銃弾のようなストッピングパワーは持ち合わせていない。
水銀燈はその身を切り裂かれながら尚も翠星石に追い縋り、その身体に取り付いてくる。
翠星石から再び紅い輝き、キングストーンの力が放たれる。
そして水銀燈のローザミスティカの力も。
翠星石の身体の周囲に黒い鳥羽が、何枚も発生していく。
黒羽はまるで弾丸のごとくに突端を水銀燈に向けて一斉発射。
黒羽は水銀燈を切り裂き、その身体を翠星石から引き剥がす。
しかし黒羽は速度と切断力に優れた武器であるが、羽自体が軽量ゆえに銃弾のようなストッピングパワーは持ち合わせていない。
水銀燈はその身を切り裂かれながら尚も翠星石に追い縋り、その身体に取り付いてくる。
「来るな!!! 来るなですぅ!!!」
嫌悪に満ちた拒絶の言葉を姉妹に浴びせながら、翠星石は水銀燈の身体に取り付いた黒羽から青い炎を発生させた。
炎は瞬時に水銀燈の全身を覆い尽くすほどに燃え上がったのだろう。
背後に炎の熱を帯びる翠星石の身体から、水銀燈の手が離れた。
ようやく水銀燈を振りほどいた。
そう思い、翠星石は背後に振り返る。
炎は瞬時に水銀燈の全身を覆い尽くすほどに燃え上がったのだろう。
背後に炎の熱を帯びる翠星石の身体から、水銀燈の手が離れた。
ようやく水銀燈を振りほどいた。
そう思い、翠星石は背後に振り返る。
そこには、まるで地獄の一場面を切り取ったような光景が広がっていた。
青い炎が水銀燈を包み込む。
衣服が燃え落ち、毛髪が燃え上がり、表皮と言わず眼球と言わず溶解して行き、
水銀燈の全身を炎が容赦なく焼いていた。
それにもかかわらず、水銀燈は翠星石に向かって行く。
苦痛に耐えている気配すらない。
何の意思も感じ取れないその様は、翠星石にはまるで地獄の餓鬼のように見えた。
青い炎が水銀燈を包み込む。
衣服が燃え落ち、毛髪が燃え上がり、表皮と言わず眼球と言わず溶解して行き、
水銀燈の全身を炎が容赦なく焼いていた。
それにもかかわらず、水銀燈は翠星石に向かって行く。
苦痛に耐えている気配すらない。
何の意思も感じ取れないその様は、翠星石にはまるで地獄の餓鬼のように見えた。
そして今、水銀燈を地獄に落として亡者としているのは翠星石なのだ。
(嫌ぁっ!! なんで――――)
自らが作り出した地獄に姉が焼かれる。
(なんで翠星石にばかりこんなことが起こるんですか――――)
その有様に耐え難い苦痛と恐怖を覚えた翠星石は、
(もう……もうこんなところに居たくないです!!)
かつて真司の死を思い出した時のように、己の責からの逃亡を望んだ。
その思念に呼応して、キングストーンは今までになかったほど強烈な光を発する。
そしてその力も。
翠星石の全身から放たれていたキングストーンの光が、突如一方向へ収束していく。
光が浴びせられる場所は、薔薇水晶が退室に使った鏡。
キングストーンの光を帯びた鏡は、鏡面上に反応を示す。
絵の具を無作為に混ぜたような混濁を浮かび上がらせたのだ。
それは翠星石のよく知った現象だった。
その思念に呼応して、キングストーンは今までになかったほど強烈な光を発する。
そしてその力も。
翠星石の全身から放たれていたキングストーンの光が、突如一方向へ収束していく。
光が浴びせられる場所は、薔薇水晶が退室に使った鏡。
キングストーンの光を帯びた鏡は、鏡面上に反応を示す。
絵の具を無作為に混ぜたような混濁を浮かび上がらせたのだ。
それは翠星石のよく知った現象だった。
「え、nのフィールド!!?」
翠星石の前に開かれたnのフィールドへの入り口。
しかし翠星石は、主催者によって掛けられた制限によりnのフィールドに入ることに強い抵抗を覚えるので、
そこに入ることはできない。
はずだった。
しかし翠星石は、主催者によって掛けられた制限によりnのフィールドに入ることに強い抵抗を覚えるので、
そこに入ることはできない。
はずだった。
しかし翠星石が、おずおずと右手を差し出すと、
何の抵抗が表れることも無く、鏡の中に入り込んだ。
何の抵抗が表れることも無く、鏡の中に入り込んだ。
「は、入れるですぅ!!」
ゴルゴムを支配する王は、この世の条理を捻じ伏せてそこに君臨する存在。
その力の根源となるのがキングストーンなのだ。
キングストーンは所持者の想いに応えて、奇跡のごとき超常の力を発揮する。
翠星石に課せられていた制限はギアスに拠る物。
ギアスはキャンセラー無しには、ほとんど抵抗すら許さないほどの強制力を発揮する。
通常の力では決して破ることはできない。
しかしキングストーンはこの世のあらゆる束縛を乗り越えて、王として君臨するための物。
翠星石の想いに応えて発揮されたのキングストーン力は、ギアスの制限すら乗り越えた。
その力の根源となるのがキングストーンなのだ。
キングストーンは所持者の想いに応えて、奇跡のごとき超常の力を発揮する。
翠星石に課せられていた制限はギアスに拠る物。
ギアスはキャンセラー無しには、ほとんど抵抗すら許さないほどの強制力を発揮する。
通常の力では決して破ることはできない。
しかしキングストーンはこの世のあらゆる束縛を乗り越えて、王として君臨するための物。
翠星石の想いに応えて発揮されたのキングストーン力は、ギアスの制限すら乗り越えた。
もっとも今の翠星石には、制限を破った原理などどうでもいい。
早くこの場から逃げ出したい。
その想いに駆られ、頭からnのフィールドへ飛び込もうとする。
早くこの場から逃げ出したい。
その想いに駆られ、頭からnのフィールドへ飛び込もうとする。
「!!!?」
その眼前に突如、人形の顔が現れる。
鏡に映った翠星石の物ではない。鏡面はnのフィールドに塗り潰されているのだから。
人形の顔はnのフィールドから現れたのだ。
鏡に映った翠星石の物ではない。鏡面はnのフィールドに塗り潰されているのだから。
人形の顔はnのフィールドから現れたのだ。
「ばばば薔薇水晶!! 脅かすんじゃねーです!」
nのフィールドを通り翠星石と鉢合わせになる形で現れた薔薇水晶。
その不意打ちに驚いていた翠星石だが、すぐに気を取り直して再び逃亡を開始する。
今度は薔薇水晶の手を取って。
その不意打ちに驚いていた翠星石だが、すぐに気を取り直して再び逃亡を開始する。
今度は薔薇水晶の手を取って。
「ば、薔薇水晶も早く逃げるですよ!」
「なぜです?」
「なぜです?」
しかし薔薇水晶は、翠星石がその手を引いてもそこから動こうとしない。
翠星石は手を引きながら、薔薇水晶を急かすように声を張る。
翠星石は手を引きながら、薔薇水晶を急かすように声を張る。
「何を言っているですか!! 薔薇水晶はあれが見えないんですか!?」
「あれですか」
「あれですか」
薔薇水晶は別段、強情張るでもなく、
翠星石の様子が心底不思議だと言わんばかりの表情で小首を傾げる。
その視線の先には、水銀燈と真司が居た。
翠星石の様子が心底不思議だと言わんばかりの表情で小首を傾げる。
その視線の先には、水銀燈と真司が居た。
「あれはたった七人しか居ないあなたの姉妹。そしてあなたを守ると言ってくれた人ではないのですか?」
途端、薔薇水晶を引く翠星石の手から、全身から力が抜ける。
翠星石は声を発する力まで無くしたかのように、口を震わせている。
翠星石は声を発する力まで無くしたかのように、口を震わせている。
違う
そんなはずが無い
あんな恐ろしい物が自分の親しい者たちであるはずが無い
そんなはずが無い
あんな恐ろしい物が自分の親しい者たちであるはずが無い
声にならない言葉を発する翠星石と対照的に、薔薇水晶は淡々と語り続ける。
「それに、どこに行っても……どれだけ逃げても……無意味。だって、あなたは決して逃げられない」
「……な、何を言ってやがるんですか? だって翠星石はnのフィールドに入れるんですよ……」
「……な、何を言ってやがるんですか? だって翠星石はnのフィールドに入れるんですよ……」
薔薇水晶の言葉に不穏な物を感じながらも、翠星石は何とか反論の言葉を搾り出す。
それでも薔薇水晶は淡々と語り続ける。
翠星石を決定的に責め立てて、打ちのめす言葉を。
それでも薔薇水晶は淡々と語り続ける。
翠星石を決定的に責め立てて、打ちのめす言葉を。
「どんなに逃げても……あなたの犯した罪からは逃げられない」
それは翠星石にとって、どんな刃よりも鋭く己を抉り貫く言葉だった。
翠星石が、なぜあれほど二人を恐れたのか
翠星石が、なぜ逃げようとしたのか
恐怖の源泉は自分が犯した罪。
自分の罪深さを直視することができないから逃げ出した。
翠星石が、なぜあれほど二人を恐れたのか
翠星石が、なぜ逃げようとしたのか
恐怖の源泉は自分が犯した罪。
自分の罪深さを直視することができないから逃げ出した。
翠星石の視界が酩酊して、世界が歪む。
自分が膝から崩れていることさえ気付かない。
薔薇水晶の話は終わらない。
翠星石の世界を更なる痛みで満たしていく。
自分が膝から崩れていることさえ気付かない。
薔薇水晶の話は終わらない。
翠星石の世界を更なる痛みで満たしていく。
「あの二人が恐ろしいですか? でもそれはあなたが仕向けたこと……」
翠星石の罪深さが更に白日の下に晒されていく。
真司を殺した。
水銀燈の屈辱を知りながら、その報復を行おうとしなかった。
そして二人から逃げるために、二人を攻めて傷付けた。
それは全て翠星石が行ったこと。
あの二人を死霊としたのは翠星石なのだ。
水銀燈の屈辱を知りながら、その報復を行おうとしなかった。
そして二人から逃げるために、二人を攻めて傷付けた。
それは全て翠星石が行ったこと。
あの二人を死霊としたのは翠星石なのだ。
「あなたが逃げるほど、あの二人は決して許しはしない」
違う、と言う言葉は今度こそ翠星石の中にすら聞こえない。
あの二人が翠星石の罪だとするならば、薔薇水晶の言う通りどこへ逃げても無駄なのだろう。
nのフィールドを通ろうが意味は無い。
翠星石自身が翠星石を追い詰めているのだから。
罪は逃げようとすればするほど大きくなり、十字架は目を逸らせば逸らすほど重くなり翠星石に圧し掛かる。
どこまでも翠星石を責めるだろう。
いつまでも翠星石を苛むだろう。
nのフィールドを通ろうが意味は無い。
翠星石自身が翠星石を追い詰めているのだから。
罪は逃げようとすればするほど大きくなり、十字架は目を逸らせば逸らすほど重くなり翠星石に圧し掛かる。
どこまでも翠星石を責めるだろう。
いつまでも翠星石を苛むだろう。
掛け替えの無い姉を
何度も命を守ってくれた兄を
永遠に恐れ続けなければならないのだ。
絶対に逃れられない罪の牢獄。
それが翠星石に科せられた罰なのだ。
何度も命を守ってくれた兄を
永遠に恐れ続けなければならないのだ。
絶対に逃れられない罪の牢獄。
それが翠星石に科せられた罰なのだ。
「……………………じゃ、じゃあ…………じゃあ翠星石は……」
どうすれば良いんですか、と言う言葉も出ない。
それは翠星石の問題だと、翠星石自身が一番良く判っていたし、
薔薇水晶にそう言われて突き放されるのが怖かった。
もう翠星石には薔薇水晶しか味方が居ないのだから。
それは翠星石の問題だと、翠星石自身が一番良く判っていたし、
薔薇水晶にそう言われて突き放されるのが怖かった。
もう翠星石には薔薇水晶しか味方が居ないのだから。
「……どうすれば良いのか、はもう翠星石に言いました」
「…………な、何の話ですか!?」
「…………な、何の話ですか!?」
しかし薔薇水晶は、まるで翠星石の心中を読んでいたかのように返答した。
顔を上げた翠星石は僅かに語気を取り戻し、薔薇水晶を問い詰める。
どんな闇の中でも、光が差し込めば人は力を取り戻すことができる。
例えその光の先に罠があったとしても。
顔を上げた翠星石は僅かに語気を取り戻し、薔薇水晶を問い詰める。
どんな闇の中でも、光が差し込めば人は力を取り戻すことができる。
例えその光の先に罠があったとしても。
「先ほど、ジェレミア・ゴットバルトが死亡しました。これであと、八人……」
何が後八人なのか、翠星石には判っていた。
そしてそれが指し示す意味も。
ジェレミアが死んだことによって残った参加者は、
翠星石、ストレイト・クーガー、ヴァン、上田次郎、狭間偉出夫、北岡秀一、柊つかさ、シャドームーン、志々雄真実の九人。
そこから翠星石を抜けば残り八人。
その八人が死ねば、翠星石は殺し合いを優勝することになる。
優勝をすればV.V.に拠れば『どんな願いも叶う』。
V.V.の言を素直に信じるならば、誰を生き返らせるのも思いのまま。
そしてそれが指し示す意味も。
ジェレミアが死んだことによって残った参加者は、
翠星石、ストレイト・クーガー、ヴァン、上田次郎、狭間偉出夫、北岡秀一、柊つかさ、シャドームーン、志々雄真実の九人。
そこから翠星石を抜けば残り八人。
その八人が死ねば、翠星石は殺し合いを優勝することになる。
優勝をすればV.V.に拠れば『どんな願いも叶う』。
V.V.の言を素直に信じるならば、誰を生き返らせるのも思いのまま。
即ち薔薇水晶は八人を殺して、翠星石の罪を清算しろと言っているのだ。
それは紛れも無く殺人を促す言葉。
翠星石は何よりも争いごとが嫌いだった。
誰を傷付けるのも、誰に傷付けられるのも。
だからこそ翠星石はアリスゲームを拒否してきた。
そんな翠星石が誰かと殺し合うことをよしとするはずが無い。
翠星石は何よりも争いごとが嫌いだった。
誰を傷付けるのも、誰に傷付けられるのも。
だからこそ翠星石はアリスゲームを拒否してきた。
そんな翠星石が誰かと殺し合うことをよしとするはずが無い。
「……………………」
「戦うことだけがあなたの生き方じゃない……でも戦わなければ手に入れられない物もある……」
「戦うことだけがあなたの生き方じゃない……でも戦わなければ手に入れられない物もある……」
しかし翠星石は薔薇水晶の言葉をただ黙って聞いていた。
今の翠星石に殺し合いを否定することはできない。
それは闇の中で唯一差し込んだ希望の光。
人は例え無限の苦痛に耐えることができても、唯一つの希望を否定することはできない。
どんな強さを持っていたとしても関係ない。
人は希望を否定して闇の中に身を置いていられるようにはできていないのだ。
今の翠星石に殺し合いを否定することはできない。
それは闇の中で唯一差し込んだ希望の光。
人は例え無限の苦痛に耐えることができても、唯一つの希望を否定することはできない。
どんな強さを持っていたとしても関係ない。
人は希望を否定して闇の中に身を置いていられるようにはできていないのだ。
「あなたはもう一人でどこにでも行ける」
薔薇水晶が視線を向けた先に在るのは鏡。
そこにはまだnのフィールドへの入り口が開いていた。
そこを通れば、自分は戦いの場へ戻ることができる。
殺し合いの場へ。
そこにはまだnのフィールドへの入り口が開いていた。
そこを通れば、自分は戦いの場へ戻ることができる。
殺し合いの場へ。
「戦いを選ぶなら早い方が良いです。もう他の参加者が、いつ殺し合いを終わらせてもおかしくない」
ドクン、と自分の身体が震えたように翠星石は思えた。
殺し合いが終わると言うことは、願いを叶える機会は永遠に失われると言うこと。
そしておそらく今から殺し合いが終わるとなれば、それは優勝者が決まると言うことではなく、
参加者の反抗によって、殺し合いその物が御破算になると言う形を取るだろう。
何しろ、今残っている参加者の内、翠星石と志々雄を除く全員が停戦で合意している。
殺し合いの打破が近いことは、翠星石にも容易に想像できた。
そしてあのシャドームーンもクーガーたちと共に殺し合いの打破に協力していた。
その様を思い描いた途端、翠星石の胸中に黒い物が込み上げて来る。
水銀燈と真司の仇であるシャドームーンが、まるで正義の味方であるかのように仲間の力を借りて主催者を討つ。
翠星石にとってそれは、自分の大事な物を決定的に汚されるような忌まわしい光景に思えた。
そしてそうなれば翠星石は決して共に戦うことはできない。
翠星石がシャドームーンと肩を並べてことなどできるはずもないのだ。
だからシャドームーンたちが華々しく奇跡のごとき勝利を得る裏で、
翠星石は自分の罪に焼かれながら、闇に取り残されることになるのだ。
殺し合いが終わると言うことは、願いを叶える機会は永遠に失われると言うこと。
そしておそらく今から殺し合いが終わるとなれば、それは優勝者が決まると言うことではなく、
参加者の反抗によって、殺し合いその物が御破算になると言う形を取るだろう。
何しろ、今残っている参加者の内、翠星石と志々雄を除く全員が停戦で合意している。
殺し合いの打破が近いことは、翠星石にも容易に想像できた。
そしてあのシャドームーンもクーガーたちと共に殺し合いの打破に協力していた。
その様を思い描いた途端、翠星石の胸中に黒い物が込み上げて来る。
水銀燈と真司の仇であるシャドームーンが、まるで正義の味方であるかのように仲間の力を借りて主催者を討つ。
翠星石にとってそれは、自分の大事な物を決定的に汚されるような忌まわしい光景に思えた。
そしてそうなれば翠星石は決して共に戦うことはできない。
翠星石がシャドームーンと肩を並べてことなどできるはずもないのだ。
だからシャドームーンたちが華々しく奇跡のごとき勝利を得る裏で、
翠星石は自分の罪に焼かれながら、闇に取り残されることになるのだ。
何でそんな理不尽な羽目にならなければならないのか。
そんな理不尽で、醜悪で、残酷な事態を受け入れなければならないのか。
そんな理不尽で、醜悪で、残酷な事態を受け入れなければならないのか。
嫌だ
嫌だ嫌だ
嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ
嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ
嫌だ嫌だ
嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ
嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ
力無く膝を折っていた翠星石が再び立ち上がる。
このまま膝を付いて、ただじっと全てが終わるのを待っているのは嫌だ。
何もしないまま一人で取り残されるのは嫌だ。
このまま膝を付いて、ただじっと全てが終わるのを待っているのは嫌だ。
何もしないまま一人で取り残されるのは嫌だ。
それがどんなに我侭勝手であろうと、翠星石の譲れない想いだった。
「戦いに行くのですか?」
「……薔薇水晶は、翠星石が殺し合いに乗った方が良いと思いますか?」
「……薔薇水晶は、翠星石が殺し合いに乗った方が良いと思いますか?」
しかしこの期に及んでも殺し合いに乗る決心はつかない。
殺し合いに優勝するにはシャドームーンだけを殺せば済む話ではないのだ。
既に一人を殺しているとは言え、過失で殺すのと進んで殺しに行くこととは全く話が違う。
殺し合いに優勝するにはシャドームーンだけを殺せば済む話ではないのだ。
既に一人を殺しているとは言え、過失で殺すのと進んで殺しに行くこととは全く話が違う。
更に言えばシャドームーンだけを倒すためであろうと、組んでいる者たちとの戦いも避けられないだろう。
そして今の対主催集団との戦いとなれば、それは命懸けの物となるはずだ。
そうなればもう後戻りはできない。殺し合いに乗るより他に道は無くなる。
そして今の対主催集団との戦いとなれば、それは命懸けの物となるはずだ。
そうなればもう後戻りはできない。殺し合いに乗るより他に道は無くなる。
即ち戦いを選ぶと言うことは、後戻りのできない殺し合いの道を選ぶと言うことだ。
「残った八人の命が大切かどうかは、あなたが決めることです……」
薔薇水晶の返答は相変わらず淡々としたものだった。
それでも今の翠星石には、今や唯一信頼できる姉妹の言葉。
僅かに気が楽になるのを感じた。
それでも今の翠星石には、今や唯一信頼できる姉妹の言葉。
僅かに気が楽になるのを感じた。
「翠星石が確かめれば良い話ですね…………あいつらが翠星石の味方か、銀色オバケの味方か……」
そう言って翠星石は微笑みを見せる。
しかし笑顔には、常の翠星石には無い暗い物を抱えていた。
しかし笑顔には、常の翠星石には無い暗い物を抱えていた。
その翠星石の微笑みを見て、薔薇水晶もまた微かな笑みを返した。
◇
相変わらず屈託のない笑みを浮かべる翠星石と対照的に、五人は重苦しい沈黙に包まれていた。
ヴァンのみならずクーガーも翠星石に鋭い視線を向けている。
シャドームーンは相変わらずの鉄面皮。
上田はその人並み以上に大きな身体を、ヴァンの背中に隠している。
そして狭間は緊張の面持ちで、その卓越した頭脳で翠星石への対応策を練っていた。
ヴァンのみならずクーガーも翠星石に鋭い視線を向けている。
シャドームーンは相変わらずの鉄面皮。
上田はその人並み以上に大きな身体を、ヴァンの背中に隠している。
そして狭間は緊張の面持ちで、その卓越した頭脳で翠星石への対応策を練っていた。
翠星石の要求はシャドームーンの引渡し。
それさえ呑めば脱出に協力すると言っている。
しかし安易にその要求を受け入れるわけにはいかない事情がある。
その身の安全を保障する、シャドームーンとの契約があるのだ。
そして翠星石は、狭間が知る限りシャドームーンにとって最も危険な存在なのだ。
それさえ呑めば脱出に協力すると言っている。
しかし安易にその要求を受け入れるわけにはいかない事情がある。
その身の安全を保障する、シャドームーンとの契約があるのだ。
そして翠星石は、狭間が知る限りシャドームーンにとって最も危険な存在なのだ。
「……シャドームーンをどうするつもりだ?」
「おめーらには関係の無いことですぅ」
「おめーらには関係の無いことですぅ」
翠星石は狭間の疑問に答えない。
即ち、翠星石はシャドームーンの命を引き渡せと要求していると言うこと。
ならばそれに対する狭間の答えは一つ。
即ち、翠星石はシャドームーンの命を引き渡せと要求していると言うこと。
ならばそれに対する狭間の答えは一つ。
「契約のことは知っているな。シャドームーンの安全が保障されない以上、君に身柄を引き渡すことはできない」
狭間がシャドームーンと交わしたのは、王の名の下の契約。
それを違えることは決してできない。
例え交換条件として何を差し出されても、シャドームーンを危険に晒すことはしない。
断固とした意思をその語気に込める狭間。
狭間の意気を受けても、翠星石はまるで涼風でも受けたかのごとく薄ら寒い笑みを浮かべている。
それを違えることは決してできない。
例え交換条件として何を差し出されても、シャドームーンを危険に晒すことはしない。
断固とした意思をその語気に込める狭間。
狭間の意気を受けても、翠星石はまるで涼風でも受けたかのごとく薄ら寒い笑みを浮かべている。
「……銀色オバケとは契約できて、翠星石のお願いは聞けねーって訳ですね」
翠星石の笑みに酷薄な獰猛さを帯び始める。
獲物を弄ぶ肉食獣のごとき獰猛さを。
今の翠星石にとっては狭間すら獲物同然の存在に見ている。
まるで言外にそう語っているようだった。
獲物を弄ぶ肉食獣のごとき獰猛さを。
今の翠星石にとっては狭間すら獲物同然の存在に見ている。
まるで言外にそう語っているようだった。
「二者択一の問題ではあるまい」
「どっちかしか選べないんですよ」
「どっちかしか選べないんですよ」
翠星石の冷ややかな口調の裏に悪意が透けて見える。
狭間にもはっきりと認識できた。
翠星石は狭間たちの至上の目的と、シャドームーンの命を天秤に載せて選択を迫っているのだと。
しかし易々と翠星石の意図に乗るほど、狭間も短慮ではない。
狭間にもはっきりと認識できた。
翠星石は狭間たちの至上の目的と、シャドームーンの命を天秤に載せて選択を迫っているのだと。
しかし易々と翠星石の意図に乗るほど、狭間も短慮ではない。
「……シャドームーンとの契約は、この殺し合いの主催者を打倒するまでの物だ。その後は私たちとシャドームーンが戦うことで話がついている。
まず私たちをV.V.の元へ連れて行ってくれ。そうしてV.V.を倒してその裏に誰も居ないことを確認できたら、
シャドームーンの身柄を君の好きにできるように計らおう」
「翠星石は今すぐ引き渡せと言っているんですよ」
まず私たちをV.V.の元へ連れて行ってくれ。そうしてV.V.を倒してその裏に誰も居ないことを確認できたら、
シャドームーンの身柄を君の好きにできるように計らおう」
「翠星石は今すぐ引き渡せと言っているんですよ」
可能な限り意図が伝わるよう、丁寧に妥協案を述べる狭間。
しかし翠星石の返答は短く、冷淡な物だった。
翠星石はあくまで狭間の妥協を許さない。
それでも狭間は、最善策を講じるためにその卓越した頭脳を回転させる。
しかし翠星石の返答は短く、冷淡な物だった。
翠星石はあくまで狭間の妥協を許さない。
それでも狭間は、最善策を講じるためにその卓越した頭脳を回転させる。
「……君の言う『V.V.の所』とは、どんな場所を指しているのか具体的に説明してくれ。
そもそも君から提案された取り引きだが、私たちの立場からすれば君がそれを守る保証のない物だ。
それではこの場の全員の納得を得ることはできない。だからまず君がここからnのフィールドを経由してどんな場所に行くのを説明してくれれば、
すぐにはシャドームーンの身柄を引き渡すことができなくとも、場合によって途上で……!!!」
そもそも君から提案された取り引きだが、私たちの立場からすれば君がそれを守る保証のない物だ。
それではこの場の全員の納得を得ることはできない。だからまず君がここからnのフィールドを経由してどんな場所に行くのを説明してくれれば、
すぐにはシャドームーンの身柄を引き渡すことができなくとも、場合によって途上で……!!!」
刹那を奔る閃光。
閃光は翠星石の手元から奔り、狭間の頬を掠めてシャドームーンの足下で爆発音と土煙を上げた。
正体は黒羽。
交渉に集中していたとは言え、翠星石に対する警戒を惰っていた訳ではない狭間ですら不意を衝かれた凄まじい速度。
閃光は翠星石の手元から奔り、狭間の頬を掠めてシャドームーンの足下で爆発音と土煙を上げた。
正体は黒羽。
交渉に集中していたとは言え、翠星石に対する警戒を惰っていた訳ではない狭間ですら不意を衝かれた凄まじい速度。
「ごちゃごちゃごちゃごちゃうるせーんですよ!!」
先ほどまでの薄ら笑いからは想像もできないような、苛立ちを湛えた表情を浮かべる翠星石。
狭間としては慎重に交渉を続けていたつもりだったので、ここまで翠星石の怒りを買うのは予想外のことだった。
もっともそれは無理もないことだった。
高校生でありながら人類の最高峰まで科学の分野を極め、自らの力で魔界を構築することもできた狭間は、極めて論理的な人間である。
それは人として歪み魔神皇となってからも、実の所話の分からない人間では無かった。
平たく言えば理屈で物事を判断して、思考して、行動する人間なのだ。
しかし翠星石は違う。
翠星石は理屈だけで納得をすることは無い。
どんなに論理的に説得されても、自分の気持ちの納得の方を優先させる。
むしろ理屈を並べ立てられるほど、自分の話が曲げられていると感じて反発を覚えることもあるのだ。
狭間と翠星石は、悪魔交渉と言う場面においては極めて相性が悪い組み合わせなのだ。
狭間としては慎重に交渉を続けていたつもりだったので、ここまで翠星石の怒りを買うのは予想外のことだった。
もっともそれは無理もないことだった。
高校生でありながら人類の最高峰まで科学の分野を極め、自らの力で魔界を構築することもできた狭間は、極めて論理的な人間である。
それは人として歪み魔神皇となってからも、実の所話の分からない人間では無かった。
平たく言えば理屈で物事を判断して、思考して、行動する人間なのだ。
しかし翠星石は違う。
翠星石は理屈だけで納得をすることは無い。
どんなに論理的に説得されても、自分の気持ちの納得の方を優先させる。
むしろ理屈を並べ立てられるほど、自分の話が曲げられていると感じて反発を覚えることもあるのだ。
狭間と翠星石は、悪魔交渉と言う場面においては極めて相性が悪い組み合わせなのだ。
「……もう一片だけ言ってやります。これが最後ですよ?」
翠星石は再び薄ら笑いを浮かべて話し始める。
その冷たい視線は、もう悪意を隠してはいなかった。
その冷たい視線は、もう悪意を隠してはいなかった。
「さっさと脱出したいのなら、その銀色オバケを翠星石に差し出しやがれです。
すぐに答えないようなら翠星石から銀色オバケの方に行ってやるです。死にたくねーなら、邪魔しない方が良いですよ」
「フッ……魔人皇よ。どうやら正当防衛は成立したようだな」
すぐに答えないようなら翠星石から銀色オバケの方に行ってやるです。死にたくねーなら、邪魔しない方が良いですよ」
「フッ……魔人皇よ。どうやら正当防衛は成立したようだな」
これまで一言も口を利かなかったシャドームーンが初めて口を挟む。
剣を構えるその様子からは、並ならぬ覇気を湛えていた。
剣を構えるその様子からは、並ならぬ覇気を湛えていた。
正当防衛の成立。
契約において、シャドームーンの参加者の殺害は禁じられているが、
正当防衛の場合だけは例外とされていた。
そして翠星石のシャドームーンの引き渡し要求。
シャドームーンの安全を保障しない。
更に武力による恫喝。
これだけの条件が揃えば『正当防衛の成立』と言うシャドームーンの弁を否定するのは難しい。
即ち翠星石とシャドームーンの戦いは避け難いと言うこと。
契約において、シャドームーンの参加者の殺害は禁じられているが、
正当防衛の場合だけは例外とされていた。
そして翠星石のシャドームーンの引き渡し要求。
シャドームーンの安全を保障しない。
更に武力による恫喝。
これだけの条件が揃えば『正当防衛の成立』と言うシャドームーンの弁を否定するのは難しい。
即ち翠星石とシャドームーンの戦いは避け難いと言うこと。
狭間は翠星石との間に割り込むように、シャドームーンの前に立つ。
やはり穏当な交渉では翠星石との和解は不可能だった。
ならばもう少し強硬な手段に出るしかない。
リスクは増えるが、何れにしろこのままでは戦いは避けられない。
やはり穏当な交渉では翠星石との和解は不可能だった。
ならばもう少し強硬な手段に出るしかない。
リスクは増えるが、何れにしろこのままでは戦いは避けられない。
「それは貴様が殺し合いに乗ると捉えて良いんだな」
殺し合いに乗る、と言う言葉を選んでも翠星石に反応は無い。
翠星石にどこまで自覚があるかは不明だが、反応を引き出せない以上狭間で話を進める他ない。
翠星石にどこまで自覚があるかは不明だが、反応を引き出せない以上狭間で話を進める他ない。
「シャドームーンに危害を加えようとすると言うことは、他の参加者全員を敵に回すことになる。
ここに居る五人だけではない。貴様以外の誰も、もう殺し合いには乗っていない。
ここで私たち五人と戦闘になれば貴様は当然、他の参加者全員から殺し合いに乗ったと判断されるな」
ここに居る五人だけではない。貴様以外の誰も、もう殺し合いには乗っていない。
ここで私たち五人と戦闘になれば貴様は当然、他の参加者全員から殺し合いに乗ったと判断されるな」
狭間の言は正確ではない。
志々雄真実は狭間たちに攻撃を仕掛けてきたのだから、殺し合いに乗っていないか否かの判断は付かない状況である。
それでも翠星石が殺し合いに乗れば、敵対することになるのは間違いないのだから、
狭間の論は大筋では成り立っている。
即ち、翠星石への脅しとしては充分な意味を持つ。
それが狭間の計算だった。
志々雄真実は狭間たちに攻撃を仕掛けてきたのだから、殺し合いに乗っていないか否かの判断は付かない状況である。
それでも翠星石が殺し合いに乗れば、敵対することになるのは間違いないのだから、
狭間の論は大筋では成り立っている。
即ち、翠星石への脅しとしては充分な意味を持つ。
それが狭間の計算だった。
「……おめーら、そんなボロボロの状態で翠星石の敵が務まるつもりですか」
嘲る響きすらない、怒りを押し殺すような翠星石の声。
翠星石の身体から紅い光が漏れる。
虚勢ではない。翠星石は純粋に狭間たちに怒りを覚えている様子だった。
身の程を知らぬ弱者に対する、強者の傲岸な怒りを。
翠星石の身体から紅い光が漏れる。
虚勢ではない。翠星石は純粋に狭間たちに怒りを覚えている様子だった。
身の程を知らぬ弱者に対する、強者の傲岸な怒りを。
翠星石がこれほどの戦意を見せるようでは、もう脅しも通用しない。
狭間は翠星石を説得する糸口を完全に見失っていた。
狭間は翠星石を説得する糸口を完全に見失っていた。
「……要するにあれだろ? お前はシャドームーンを渡さなきゃ、俺たちを殺すって言ってるんだな?」
翠星石の怒りを意に介さず、まるで雑談のような声が掛かる。
狭間は声の主、ヴァンを見やる。
ヴァンは翠星石を恐れた様子もなく、静かに言葉を続けた。
狭間は声の主、ヴァンを見やる。
ヴァンは翠星石を恐れた様子もなく、静かに言葉を続けた。
「……お前、俺たちが組んでいることを知っているんだよな? 知っていてシャドームーンを渡せって言っているんだよな?」
ヴァンが、なぜ翠星石の怒りを意に介さないでいられるのか?
狭間にもその答えはすぐに分かった。
翠星石同様、いや翠星石をも凌ぐほどの怒りをヴァンが抱えているからだ。
しかし、なぜヴァンが翠星石にそれほどの怒りを覚えているのか、
それが分からない。
ヴァンはシャドームーンに敵意を抱いている。
シャドームーンに危害を加えようとしていることは、ヴァンの怒りを買う理由にはならないはずだ。
しかし狭間にとっては、いずれにしろ今のヴァンを放置するわけには行かない。
このままでは、いよいよ翠星石との関係は抜き差しならない物になってしまう。
狭間にもその答えはすぐに分かった。
翠星石同様、いや翠星石をも凌ぐほどの怒りをヴァンが抱えているからだ。
しかし、なぜヴァンが翠星石にそれほどの怒りを覚えているのか、
それが分からない。
ヴァンはシャドームーンに敵意を抱いている。
シャドームーンに危害を加えようとしていることは、ヴァンの怒りを買う理由にはならないはずだ。
しかし狭間にとっては、いずれにしろ今のヴァンを放置するわけには行かない。
このままでは、いよいよ翠星石との関係は抜き差しならない物になってしまう。
「ヴァン、翠星石との交渉は私に……」
「翠星石さん、俺は貴女に心を強く持ってくださいと言いました」
「翠星石さん、俺は貴女に心を強く持ってくださいと言いました」
今度はクーガーが狭間の言葉を遮って、口を挟んできた。
クーガーもまた、その表情には思い詰めた物を湛えている。
クーガーもまた、その表情には思い詰めた物を湛えている。
「シャドームーンを差し出せと言うのは、貴女自身の意思で要求しているんですね?
それが貴女の出した結論なんですね?」
それが貴女の出した結論なんですね?」
クーガーは翠星石へ肩入れしていた。
説得する場合は無論、いざ戦闘と言う状況になっても、
翠星石をかばう可能性があるとすら考えていた。
しかし今のクーガーは明らかに翠星石に叛意を抱いていた。
説得する場合は無論、いざ戦闘と言う状況になっても、
翠星石をかばう可能性があるとすら考えていた。
しかし今のクーガーは明らかに翠星石に叛意を抱いていた。
「クーガー……質問してるのは翠星石の方です……」
クーガーの叛意に、一瞬動揺の色を見せる翠星石。
しかしすぐに冷淡な表情に戻る。
かつては共に殺し合いの脱出を志した者同士の戦意がぶつかり合う。
しかしすぐに冷淡な表情に戻る。
かつては共に殺し合いの脱出を志した者同士の戦意がぶつかり合う。
「……翠星石はV.V.の所に連れて行ってやると言っているのに、ずっと殺し合いに乗っていたヤローを庇う訳ですね?」
「ああそうだ、こいつはずっと殺し合いに乗っていた……心底虫が好かない……後で必ず殺す……」
「ああそうだ、こいつはずっと殺し合いに乗っていた……心底虫が好かない……後で必ず殺す……」
ヴァンが喋りながら自分の刀を構える。
次の瞬間には、神速を思わせる踏み込み。
僅かに反応が遅れて翠星石も水銀燈と同じ要領で、自分の手に西洋剣を形成させる。
ヴァンの刀を翠星石の剣が受け止める。
二つの金が火花を上げて競り合い、それを挟んでヴァンと翠星石が睨み合う。
次の瞬間には、神速を思わせる踏み込み。
僅かに反応が遅れて翠星石も水銀燈と同じ要領で、自分の手に西洋剣を形成させる。
ヴァンの刀を翠星石の剣が受け止める。
二つの金が火花を上げて競り合い、それを挟んでヴァンと翠星石が睨み合う。
「だが、今は俺とこいつは組んでいる!! こいつと背中を合わせて戦った!!
お前は、そいつの命を差し出せと言ってるのか!!!!」
「……翠星石に逆らって、勝てると思ってるんですか!」
お前は、そいつの命を差し出せと言ってるのか!!!!」
「……翠星石に逆らって、勝てると思ってるんですか!」
翠星石の前面に形成される、紫色の純粋光の壁。
水銀燈のローザミスティカから得た能力である。
それがキングストーンによって更に出力が増加。
衝撃波のごとく放出される。
刀を構えるヴァンを吹き飛ばす。
翠星石は更に、自身の飛行能力でヴァンを追い掛ける。
地面に倒れるヴァンに一瞬で追い付いた翠星石は、剣を振り下ろした。
鉄火が打ち鳴らされる音が響く。
剣は中ほどで折れ、翠星石の手を離れて弾け飛んだ。
クーガーが足を伸ばす方向へ向けて。
水銀燈のローザミスティカから得た能力である。
それがキングストーンによって更に出力が増加。
衝撃波のごとく放出される。
刀を構えるヴァンを吹き飛ばす。
翠星石は更に、自身の飛行能力でヴァンを追い掛ける。
地面に倒れるヴァンに一瞬で追い付いた翠星石は、剣を振り下ろした。
鉄火が打ち鳴らされる音が響く。
剣は中ほどで折れ、翠星石の手を離れて弾け飛んだ。
クーガーが足を伸ばす方向へ向けて。
「クーガー!!」
翠星石は自分の邪魔をしたクーガーを憎々しげに睨む。
その顔にクーガーの踵が叩き込まれた。
今度は翠星石が吹き飛ばされる番だった。
その顔にクーガーの踵が叩き込まれた。
今度は翠星石が吹き飛ばされる番だった。
「翠星石さん…………理由はどうあれ、脅して共闘する者の命を差し出させる…………それはあまりにも文化的ではない了見じゃないですかねぇ」
口調は平素の穏やかな物と変わりは無いが、クーガーの声からははっきりと怒りが伝わって来る。
そうでなければクーガーが翠星石を攻撃したりはしないだろう。
その後ろでヴァンが立ち上がり、クーガーと並ぶように歩み出る。
ヴァンは翠星石を見据えて言い放つ。
そうでなければクーガーが翠星石を攻撃したりはしないだろう。
その後ろでヴァンが立ち上がり、クーガーと並ぶように歩み出る。
ヴァンは翠星石を見据えて言い放つ。
「脱出のために、お前は邪魔だ。邪魔な奴は……殺す」
ヴァンとクーガーの怒り。
それは自分の意思を歪められる怒り。
復讐のために果ての無い旅に臨むヴァン。
残る僅かな命を己の速さを極めるために費やすクーガー。
この二人にとって、自分の生き方が歪められるのは何よりも許せないことだ。
だからこの殺し合いにも反逆する。
そして命を盾に脅して、隣に居る者の命を脅かさせる今の翠星石のやり方は、
二人にとって殺し合いを強要する主催者のやり方と変わりはしない。
自分の生き方と抵触する明確な敵なのだ。
それは自分の意思を歪められる怒り。
復讐のために果ての無い旅に臨むヴァン。
残る僅かな命を己の速さを極めるために費やすクーガー。
この二人にとって、自分の生き方が歪められるのは何よりも許せないことだ。
だからこの殺し合いにも反逆する。
そして命を盾に脅して、隣に居る者の命を脅かさせる今の翠星石のやり方は、
二人にとって殺し合いを強要する主催者のやり方と変わりはしない。
自分の生き方と抵触する明確な敵なのだ。
ヴァンとクーガーの怒りに、怒りを込めた視線で返す翠星石。
翠星石もまたヴァンとクーガーが許せない。
シャドームーンとは同盟を結びながら、自分を除け者にして、
まるで正義の味方のような顔をして、怒りをぶつけてくる二人が。
討たれるべきはシャドームーンであり、それに組する者なのだ。
翠星石もまたヴァンとクーガーが許せない。
シャドームーンとは同盟を結びながら、自分を除け者にして、
まるで正義の味方のような顔をして、怒りをぶつけてくる二人が。
討たれるべきはシャドームーンであり、それに組する者なのだ。
(やはり戦いは避けられなかったか……)
狭間の意に沿わない結果だったが、翠星石との接触が交戦に至ることはある程度予想できていた。
クーガーまでが戦いに乗ることは予想外だったが。
こうなっては狭間も、翠星石を相手に戦わざるを得ないだろう。
もっとも、それは翠星石の生還を諦めることを意味しない。
翠星石を上手く拘束、あるいは無力化することができれば、
最終的にはシャドームーンと決着を付けることになるのだから、まだ和解も可能だ。
クーガーまでが戦いに乗ることは予想外だったが。
こうなっては狭間も、翠星石を相手に戦わざるを得ないだろう。
もっとも、それは翠星石の生還を諦めることを意味しない。
翠星石を上手く拘束、あるいは無力化することができれば、
最終的にはシャドームーンと決着を付けることになるのだから、まだ和解も可能だ。
問題として考えられるのは狭間たちの消耗度合いである。
ヴァンはナイトへの変身が未だ不可能。
シャドームーンの消耗もいまだに大きい。
しかしクーガーは比較的余裕があるし、
狭間も煉獄との戦いのダメージから、ある程度は回復していた。
そもそもメギドラオンを使った最大の弊害は、身体的な“反動”であって魔力的な消耗ではない。
体力が回復すれば、自然と反動も抜ける。
そして元来の魔力量が規格外に図抜けている狭間は、比例して魔力の回復量も埒外。
現在の狭間の魔力なら、味方の五人の中で最大の戦力を振るうことができる。
上手く立ち回れば翠星石を制圧して生存させることも可能である。
それが狭間の計算だった。
相変わらず上田は入っていないが。
ヴァンはナイトへの変身が未だ不可能。
シャドームーンの消耗もいまだに大きい。
しかしクーガーは比較的余裕があるし、
狭間も煉獄との戦いのダメージから、ある程度は回復していた。
そもそもメギドラオンを使った最大の弊害は、身体的な“反動”であって魔力的な消耗ではない。
体力が回復すれば、自然と反動も抜ける。
そして元来の魔力量が規格外に図抜けている狭間は、比例して魔力の回復量も埒外。
現在の狭間の魔力なら、味方の五人の中で最大の戦力を振るうことができる。
上手く立ち回れば翠星石を制圧して生存させることも可能である。
それが狭間の計算だった。
相変わらず上田は入っていないが。
しかし、すぐにその計算が甘いことを思い知らされる。
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ヴァン | ||
ストレイト・クーガー | ||
上田次郎 | ||
シャドームーン | ||
165:HELL ON EARTH(後編) | 薔薇水晶 | |
翠星石 |