HELL ON EARTH(後編)

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HELL ON EARTH(後編)  ◆EboujAWlRA





   ◆   ◆   ◆


「馬鹿な!」

武田観柳は画面越しに映る煉獄の沈没に叫び声を上げる。
煉獄に積み込まれた兵器、煉獄を動かせるための燃料、煉獄を築き上げた材質。
そこに注ぎ込まれた金は、数字は今の観柳のキャパシティを超える程のものだ。
どれだけ頭を捻っても、血汗を流しても観柳では手にすることが出来ない。
V.V.が居たからこそ手に入れることができた金の化身・煉獄。
それがたった五人の人間によって、見るも無残に破壊された。

「馬鹿な馬鹿な馬鹿な馬鹿な馬鹿な馬鹿な馬鹿な!!」

現実を否定する言葉だけが観柳の口から溢れる。
煉獄で全てが終わると信じきっていた。
会場に残った八人を殺し、強制的に志々雄と翠星石の殺し合いが始まる。
観柳はそれを高級酒でも口にしながら観覧しようと考えいたのだ。

「ふざけんじゃねえぞ……なら、どれだけ金を出せばアイツらを殺せるってんだ……!」

観柳から常の気取った口ぶりは消え去り、チンピラじみた乱暴な口調へと変化する。
目に映るものは海底へと眠っていく煉獄の姿だけ。
ならば、今度は煉獄を超える金を使わなければ勝てない。
煉獄では勝てなかったのだから、もっともっと金が必要になるはずだ。
身銭を切る、それは観柳にとって血肉を削るよりも辛い出来事だ。

「おーおー、思ったより早かったな」
「……ッ! これはこれは……湯加減はどうでしたかな?」

そんな観柳に志々雄が近づいてくる。
さすがに人前となると弱みを見せないためにも、平静さを気取ろうとする観柳。
動揺を見せることはすなわち弱みを、器の底を見せることであると商売で学んでいる。
そして、弱みを見せることは一銭の得にもならないこともまた承知しているのだ。

「しかし、思ったよりとは……志々雄殿は煉獄が倒せることを予測していた、と?」
「煉獄が全員を殺したらここで終わっちまうだろ? それほど甘い連中じゃないんじゃねえかと思ってな。
 ま……一人も殺せなかったってのはさすがに笑っちまうがな」
「ッ!」

志々雄の挑発に観柳の頭に血がのぼる。
しかし、自制する。
志々雄に怒りをぶつけて得をすることなど一つもないからだ。

「とにかく、盤面は動いた……次は、こっちに乗り込んで来るぜ?」
「……でしょうな。その時は私の悪魔召喚プログラムの出番ということですか」

自身の武器は煉獄だけではない。
観柳は言外にそう告げていた。

『……戻りましたです』

そして、悪魔召喚プログラムという言葉に反応するように、一人の少女が姿を現した。
その姿を発見した観柳は眉間に皺を寄せて怒りを露わにする。
目の前の相手ならば怒りをぶつけても問題のない相手だからだ。

「貴様! この役立たずが!」

観柳は怒りを隠そうともせずに巫女服の少女――――羽入へと近づいていく。
羽入、雛見沢という山村で崇め奉られるオヤシロ様その人だ。
不可思議な力を持ち、巫女である古手梨花の傍に立ち続けた土着神。

その神がなぜ梨花から離れて観柳の側へと現れたかというと、すなわち悪魔召喚プログラムの力だ。
梨花を人質にされて結ばれた契約は確かに羽入の自由を縛っている。
しかし、心までは屈していない。
羽入は相変わらず無表情のまま、半ば睨みつけるように観柳と視線を合わせる。

『……』
「何だ、その目は。なにか文句でもあるのか?」

羽入は何も口にしない。
もとより、煉獄の甲板に置いたのは大した理由があるわけではない。
ただ、羽入の存在を気にする余りに回転式機関砲への対処が怠るかもしれない。
そんな、願望めいた軽い考えからだ。
現在の羽入は単純な戦闘には使えない。

「貴様……悪魔合体でもされたいのか!」
『……』

無言を貫く羽入に観柳は怒りを深める。
それでも羽入は口を閉ざしたままだ。
悪魔召喚プログラムによって優位に立っているはずなのに反抗的な様子の羽入。
観柳はついに怒りを爆発させようとしたその瞬間。

「悪魔合体?」

観柳の漏らした『悪魔合体』という単語に志々雄が反応する。
志々雄の存在が頭を冷やさせたのか、観柳はぴくりと動きを止める。
そして、深く息を吸い直すと、志々雄の問いかけに応えた。

「……………ええ、邪教の館と呼ばれる施設から悪魔合体の儀式を行う設備を切り取ったものですよ。
 二匹、あるいは三匹の悪魔を合体させることでより強力な悪魔へと生まれ変われさせる儀式ですね。
 もっとも、専門家が居ないために成功率は低くなっていますが。
 大半が液体と肉片で構築された悪魔であるスライムになってしまいますよ。
 なんなら、そこまで案内をしましょうか?」
「ぜひ頼むぜ」

志々雄へと説明することによって頭が冷えていく。
羽入がどれだけ反抗的な態度を取ろうとも、悪魔召喚プログラムが存在する限りは自分に逆らうことは出来ない。
あそこに居る五人は観柳の想像よりも恐ろしい相手であるということがわかっただけだ。

「しかし、ここで待ち受けると言いましたが……貴方から攻めるようなことはしないので?」

観柳は慇懃無礼に志々雄へと問う。
観柳としては志々雄が出向いて八人を皆殺しに出来るのならばそれが最良だ。
死んでしまっては金も使えないというのに、なにが悲しくて自身の命を危険を晒さねければいけないのか。

「それも選択肢の一つだな……まぁ、適当にやるさ」

一方で志々雄は気楽に構えるだけだ。
懐が深すぎてその心中を読むことが出来ない。

『貴方たちは――――』

志々雄と観柳のやり取りに今まで口を閉ざしていた羽入が口を開く。
その目は概世的な色を含んだ、志々雄と観柳に対する嫌悪が混じっていた。
観柳は落ち着きを取り戻したのか、羽入の瞳が強がりでしかないことを理解している。
どれだけ反抗の意を示そうと、悪魔召喚プログラムがある限り羽入は観柳の言葉に唯々諾々と従うしかないのだ。

『戦ってばかりなのですね』
「ハッ、戦わないなら何のために生まれてきたんだよ」
『……』

観柳の代わりに志々雄が羽入の言葉に応えた。
その言葉をどう思ったのか、そっぽを向いて黙りこむ羽入。
その羽入に対して志々雄はぐっと近づき、観柳の耳には入らずに羽入だけに聞こえるように、耳元で小さく囁いた。

「この地獄じゃ戦わない弱者は食われるだけだ。お前だってそうだろう?」
『僕?』

羽入は眉をしかめて尋ね返した。

「お前も戦うんだろ、俺と、そしてこいつらと、な」
『……やっぱり、僕には貴方のことがわかりません』

羽入がその言葉に初めて感情を露わにしたように見えた。
志々雄と自身が同じであると言われたことに対する、明確な嫌悪だ。
それを感じ取った志々雄は小さく笑い、羽入の肩を軽く叩いた。

「まっ、楽しく行こうぜ……悪魔様よ」

その様子を眺めながら観柳は悪魔召喚プログラムがインストールされたハンドベルトコンピュータをなぞる。
煉獄が失われた今、この悪魔召喚プログラムの出番が来る。
その時とはすなわち、商人でしかない観柳が矢面に立つ時だ。

(まだ、まだ私は優位に立っている……V.V.や志々雄とともにある限り……私の黄金の栄光は決して……!)


【二日目/早朝/???】
志々雄真実@るろうに剣心-明治剣客浪漫譚-(漫画)】
[装備]:サバイバルナイフ@現実、ヒノカグツチ@真・女神転生if...、サバイブ(烈火)@仮面ライダー龍騎
[所持品]:支給品一式×4、リュウガのデッキ@仮面ライダー龍騎(一時間変身不可)、確認済み支給品0~4(武器ではない)、林檎×8@DEATH NOTE、鉄の棒@寄生獣
     マハブフストーン×4@真・女神転生if…、本を数冊(種類はお任せ)、工具@現実(現地調達)、首輪の残骸(銭形のもの)、首輪解除に関するメモ
     逆刃刀・真打@るろうに剣心、玉×5@TRICK、紐とゴム@現実(現地調達)、夜神月が書いたメモ、菊一文字則宗@るろうに剣心、
     鷹野のデイパック(魔力の香@真・女神転生if...、体力の香@真・女神転生if...、???@???、その他不明支給品))
[状態]:各部に軽度の裂傷、首輪解除済み
[思考・行動]
1:ぶいつぅの掌の上にいる。(飽きるまで)
2:気が向いたらガリア王国のジョゼフを持て成す。
3:翠星石の中のキングストーンが欲しい。
4:間引く。
[備考]
※クーガー、C.C.、真司らと情報交換をしました。ギアスとコードについて情報を得ました。
※さざなみの笛@真・女神転生if...はV.V.が回収しました。(効果は持続中)



    ◆   ◆   ◆



「煉獄が落ちたそうです……」
「煉獄?」

薔薇水晶の発した聞きなれない単語に、翠星石は疑問の色を多く含んだ言葉で返す。
薔薇水晶はゆったりとした言葉で煉獄についての簡単な説明を告げた。
強大な兵器を装備した空中を泳ぐ大戦艦、それが煉獄。
同時に煉獄を撃墜せしめたグループの名前もまた翠星石へと告げる。

「ハザマイデオ、上田次郎、ヴァン……シャドームーン
「シャドー……ムーン……!」
「それと、ストレイト・クーガー
「あの銀色お化け……!」

明らかな敵意が翠星石から溢れ出す。
薔薇水晶が取ってつけたような口ぶりで加えたストレイト・クーガーの名前も聞こえていないようだった。

ローザミスティカに眠る記憶、シャドームーンへの恐怖を確かに覚えている。
あの誇り高いローゼンメイデン第一ドール・水銀燈から誇りそのものを奪い去った魔王の姿。
ローザミスティカから伝わる水銀燈が味わった屈辱と恐怖は忘れようとも忘れない。

真司という一人の人間を奪い去った人物もまたシャドームーンだ。
この場に居た確かな味方を、『守ってみせる』と言ってくれた人間を殺した。
いや、正確に言えば真司を殺したのは翠星石だ。
翠星石にとっては受け入れがたい事実だが、真司の死から目を背けることは出来ない。
それでも、真司の死はシャドームーンにあると、そう思いたかった。
そう思わなければ、翠星石の小さな身体は立ち上がる気力すら奪われてしまう。

「翠星石」

そんな翠星石へと薔薇水晶は、やはり無感情に言葉を投げかける。
俯いていた翠星石はハッとしたように顔を上げる。
その顔は、当然のように怒りの表情に染まっていた。
薔薇水晶はその怒りに触れることはなく、言葉を続けた。

「戻るというのなら、戻れますが……どうします……翠星石……?」
「戻る?」
「バトルロワイアル会場に戻る、ということです。
 私は、常に貴方の意思を尊重する……
 『悲しいこと』ですが、戻るというのならば私は道を開きましょう」
「そうは言うですけど、無理やり連れてきたじゃね―ですか」
「あれは一度こちらに連れてくる必要があっただけのこと……
 こちらに一度訪れて、V.V.と出会う必要があるのです……
 それが終わったのならば……ここで待つのも、会場に居る彼らと合流するのも貴方の自由です……」

薔薇水晶は感情の乏しい表情のまま翠星石へと殺し合いに設けられた、いわば『裏のルール』を告げていく。
翠星石はそのルールを聞かされ、しばしの間、思考の海に脳の機能を沈める。

「……薔薇水晶はどうして欲しいですか?」
「先も言いましたが、私は貴方の意思を尊重します……」
「お題目じゃなくて、気持ちを聞いてるんです」
「これも、先ほど言いましたが……『悲しい』ですね……しかし、それでも翠星石の選ぶ戦う道を選ぶべきでは……?」

その言葉と同時に薔薇水晶は翠星石から視線をそらした。
当然、演技である。
薔薇水晶は自身の持つ知識を総動員して、翠星石の唯一の味方となる道を歩き続ける。
薔薇水晶は翠星石の本質などまるで見ていない。
ただ、『姉妹』としてそれらしく振る舞っているだけだ。

そんな薔薇水晶の真意を気づかずに、翠星石は顔を悲痛に歪める。
薔薇水晶の言葉に、感情に、翠星石は確かに反応した。

「……戦えと言うんですか? 薔薇水晶は、翠星石に?」
「戦わなければ生き残れない……違いますか、翠星石……?」
「……」
「戦わずに生き延びる道はありません……誰かを倒さなければ、生き残ることは出来ない……
 今でなくとも……貴方も、いつか戦わなければいけない……戦い無くして生はない……
 誰かを傷つけなければ、人は生きることができない……いつかは、誰かを傷つけに行かなければいけない……」
「それは、違うです」

翠星石は薔薇水晶の言葉が正しいとは思えない。
薔薇水晶の言葉を否定しながらも、闇の中を手探りで探るように言葉を選んでいく。
なるべく、自分自身の気持ちが薔薇水晶に伝わるように。

「確かに生きるってことは闘うことです。
 きっと、生きてれば辛いこともいっぱいあるし、泣きたくなる時だってある。
 それに、許せない相手もいる……!
 そんな時は戦わなきゃいけない、自分のためにも……そ、その、だ、大事な人のためにも……!」

大事な人という言葉に過ぎったものは真紅と、蒼星石と、水銀燈。
そして、城戸真司
一日程度しか行動を共にしていない相手が大事なのかと問われると、翠星石は強がるかもしれないが、本心では大事だと思っている。
自分自身と姉妹と彼のためにも、戦わなければいけない。
溢れ出る力をシャドームーンへと向けなければいけない。

誇り高きローゼンメイデンを踏みにじったシャドームーンを倒さなければ、
城戸真司の命を奪う原因を作ったシャドームーンを倒さなければ、翠星石はローゼンメイデンとして生きられない。
そのために邪魔するものとも戦わなければいけない。
ハザマイデオも、北岡秀一も、ジェレミア・ゴットバルトも、ヴァンも、上田次郎も、柊つかさも。
全てと、戦う覚悟もしなければいけない。

「でも、薔薇水晶の言う戦いは……違うです。戦うことそのものを目的にするような、そんな……」

しかし、薔薇水晶の言う『戦い』は翠星石の考える『戦い』とは齟齬が存在していた。
潤んだ瞳を薔薇水晶へと向ける。
そして、はっきりと言葉を口にした。

「悲しいですよ、きっと」
「……」

薔薇水晶は応えない。
もとより、翠星石とは『姉妹』という『設定』で『おままごと』をしているだけだ。
翠星石がなんと言おうと、薔薇水晶は問題としない。

「……そうですね」
「薔薇水晶?」

そう言うと薔薇水晶は翠星石を抱きしめる。
翠星石の小さな身体を薔薇水晶が小さな腕で抱きしめると、静かに言葉を続ける。

翠星石へと向けて、
翠星石の心を理解したかのような、
それでいて自身だけを見つめた言葉だ。

「きっと……戦うだけの生き方は……悲しいでしょうね」

翠星石を抱く腕が、父の腕に重なる。
翠星石の言葉を切り捨てられない心があった。
戦いの果てに、父の腕に包まれることが出来るかと。
弱い考えを抱いてしまったから。

「今は、一緒に居てくれますか……?
 貴方の戦いの力になりたいから……傍に居させてください……」

愛娘に戻るその日を、常に夢見ていたから。

【二日目/黎明/???】
【翠星石@ローゼンメイデン(アニメ)】
[装備]真紅と蒼星石と水銀燈と雛苺のローザミスティカ@ローゼンメイデン、キングストーン(太陽の石)@仮面ライダーBLACK(実写)
   ローゼンメイデンの鞄@ローゼンメイデン、庭師の鋏@ローゼンメイデン、庭師の如雨露@ローゼンメイデン
[支給品]支給品一式(朝食分を消費)、真紅のステッキ@ローゼンメイデン、情報が記されたメモ、確認済支給品(0~1)
[状態]首輪解除済み
[思考・行動]
0:???
1:戦う……
[備考]
※スイドリームが居ない事を疑問に思っています。
※ローザミスティカを複数取り込んだことで、それぞれの姉妹の能力を会得しました。
※キングストーンを取り込んだことで、能力が上がっています。
 またキングストーンによる精神への悪影響が見られ、やがて暴走へ繋がる危険性があります。


    ◆   ◆   ◆


古手梨花が歩きまわるV.V.の本拠地は広大な敷地だった。
どれだけ歩いても『端』に辿り着いた実感が沸かない。
あるいは、単純に入り組んだ作りなのかもしれない。
迷路に閉じ込められたモルモットのような、不快な気持ちが梨花の心中を染めつつあった。

「やぁ、梨花」

そんな梨花の前にV.V.が現れる。
閉じ込められた梨花の前へと簡単に現れるV.V.、その姿に梨花は自身の行動が操られているような錯覚を覚えた。
いや、恐らく操られているだろう。
それも操られているのは梨花だけではない。
バトルロワイアル会場から脱出しようとしている八人もまたV.V.に提示された情報に右往左往している。
この殺し合いはまだV.V.の手のひらの中だ。

「志々雄は観柳と一緒が良いみたいだし、薔薇水晶は翠星石につきっきりだし、ラプラスと鷹野はもう居ないし……
 正直な話をすると、僕、暇なんだよね」
「人望がないのね、日頃の行いが悪いのよ」

梨花が口にできた精一杯の言葉はV.V.を煽るものだった。
ただ憎まれ口を叩くことしかできない無力さが苛立たせる。
V.V.はその幼体には似合わない老練な笑みを浮かべたまま、梨花へと問いかけてくる。

「だからさ、少し話をしないかな?」
「私から唯一の持ち物である、せっかくのお酒も奪おうっていうの?」

手に持ったワインを掲げながら憎々しげに呟く。
V.V.は静かに首を横に振った。

「僕はお酒はいいよ……こんな身体だからかな? あんまり、飲みたいとは思わないんだよね。
 相手が同い年ぐらいの君だし、余計にね」
「私は好きよ、お酒。貴方が単純に心も子供だからじゃないの?」

憎まれ口を叩き続ける梨花に、V.V.が初めてぴくりと動揺を示した。
梨花はその様子を確かに確認したが、なぜ動揺したかという理由までは判断がつかない。

「……そうだね、僕が、僕だけが変わってないだけなのかもしれない」
「……」
「立ち話でいいかな、梨花も別に僕と話したいことがあるわけじゃないんだろう?」
「そうね」

梨花は、V.V.に話はない、という部分に同意を示す。
事実、今の梨花にV.V.と問いかけることはなかった。
仮に問いかけたとしてもV.V.がまともに応えるとは思えない。
ならば、『梨花はなにかをしている、その何かはわからないが』という状態にしておきたい。
『武器庫を探っている』ということが、ひょっとすると何かの切り札になるかもしれないからだ。

「僕たちの目的を言っておこうかと思ってさ。多分、知らないのは梨花と志々雄ぐらいだから」

その言葉と同時にV.V.は『ラグナレクの接続』計画について語り始める。

「僕らは嘘が嫌いなんだ……知ってたかな?」
「意外ね。こんな悪趣味なことやるぐらいだから嘘なんて大好きだと思ってたわ」
「……僕らはずっと騙されてたから。薄汚い笑顔の下で殺意を持って舌なめずりしてくる下衆のことを知っていたから」

V.V.の記憶にあるものは王宮内部のドロドロとした闘争だった。
誰も彼もが王家の人間であるV.V.とシャルル・ジ・ブリタニアの兄弟利用しようとし、
あるいはV.V.とシャルル・ジ・ブリタニア兄弟の存在を削除しようとしていた。
そこで見たものは、守るべき弟と兄弟を傷つけようとする醜い嘘。
それだけだった。

「だからね、僕は嘘が嫌いなんだ。僕たちを傷つけようとする、僕たちに敵対する嘘がね。
 『ある力』を使った計画でその嘘を無くすっていうのが、昔の僕の目的。」
「……今は違うの」
「さぁ、どうだろうね……君はどう思う?」
「ふざけないで」
「まあ、色々とあったってことさ」

その脳裏にあるものは、シャルル・ジ・ブリタニアの姿。
V.V.の心中には一言で表せられない感情の渦がシャルル・ジ・ブリタニアへと向けられている。
文字通り、一言では言い表すことが出来ない、V.V.の全てが込められているのだ。

「君はどう思う?
 相手の嘘がわかっていれば、前原圭一は何度も死ぬことはなかった……そうは思わないかい」
「……何が言いたいの?」

V.V.は梨花の問いかけを無視するように言葉を続けた。
それはV.V.特有の自分勝手な一面が現れる言動だった。

「レナと魅音の気持ちがわかってれば前原圭一は死ななかった時もあっただろう?
 君の住む雛見沢って村は、嘘で塗れてたじゃないか。
 前原圭一も、竜宮レナも、園崎魅音も、北条沙都子も、園崎詩音も、北条悟史も……君自身も、皆に嘘をついていただろう?」
「……嘘?」
「そう、嘘だよ。君も随分と嘘に振り回されてきたみたいだから、僕たち……仲良く慣れるんじゃないかな?」

V.V.の問いかけは敵対するのではなく、共に動こうという勧誘だった。
梨花が必要だとは思わない。
単純に、V.V.は梨花を試しているのだろうが。

「アンタが……」

梨花は顔をうつむかせて、ポツポツと言葉を漏らし始める。

「アンタが、どう思うと勝手よ。
 嘘を無くしたいと考えようが自由よ……」

顔をうつむかせたまま、言葉を続ける。
梨花の小さな肩が震えていた。
それは怒りからか、それとも悲しみからか。

「でも、私の友達を否定だけはさせない……!」

そこで梨花は顔を上げる。
涙が混じっていることを自覚する。
それでも、涙の滲んだ瞳でV.V.をはっきりと睨みつけた。

「圭一は私達を疑いながらも、それでも私達を信じていたいと願っていた! だからあの時、圭一は自分を取り戻した!

 レナは全部壊したいぐらい辛い毎日だったのに、私達との平凡な日常を楽しむためにそんな感情を押し殺していた!

 魅音は園崎の鬼としての非情な一面を自覚しながらも、私たちのことを本当に大切な友だちだと思っていた!

 詩音は悟史と一緒に居たいのに、それでも抑えこもうとして壊れてしまった!

 悟史は沙都子を疎ましく思いながらも、それでも沙都子に家族の情を確かに持ってた!

 沙都子は、あの子は……悟史が居なくなって本当は泣きたいのにそれでも私達と一緒に強く笑っていた!」

言葉にするたびに友人の姿が頭をよぎっていく。
この場で死んでしまった、かけがえの無い友達の姿だ。

「全部が正しい訳じゃないわ……そのせいで、みんな救われなかった時間もある……!」
 でも、全部みんなの優しさよ! 本当の心よ!」

我慢が出来なかった。
友人の全てを嘘だと断じられたことが、どうしても耐えられなかった。

「それを全部……全部『ただのウソ』だって一纏めにするっていうの!?」

涙が混じって声が震える。
羽入が居ない今、もう二度と会うことが出来ない大事な友達。
その全てを侮辱された怒りが、怒声とともに涙を生み出している。

「私を、私たち皆を馬鹿にするのもいい加減にしなさいよ!」

それだけ言い切ると、V.V.を鋭く睨みつけた後にくるりと振り返って歩み始める。
梨花は勝つ、と決めた。
自身から全てを奪ったV.V.に勝つと決めたのだ。
運命に勝利した自分ならば出来る、そう勇気づけながら梨花は歩みを早める。

「ふう……振られちゃったかな」

V.V.はそんな少女の背中を眺めながら、薄ら笑いを浮かべる。
現在のバトルロワイアルはV.V.の思惑通り進んでいるのか。
それともすでにV.V.は自身の手から離れすぎたこの殺し合いに動揺しているのか。

「彼女はどうするべきなんだろうねぇ」

それすら、誰にもわからない。


【二日目/早朝/???】
【古手梨花@ひぐらしのなく頃に
[装備]無し
[支給品]ワイン
[状態]健康
[思考・行動]
1:殺し合いを最後まで見届ける。
2:武器庫を探す。
※銀髪の少年により『鷹野三四に従え』というギアスをかけられています。


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165:HELL ON EARTH(前編) 志々雄真実 166:package h.GRY.ed
武田観柳
165:HELL ON EARTH(中編) 羽入
164:3/5 V.V.
古手梨花
薔薇水晶 168:メギド――断罪の炎――(前編)
翠星石



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