概要

カオスクラウンの戦いとは、ラドリザン6894年、クルーディア帝国内でおきた内乱であり、物語としてのCHAOS CROWNにおける最後の戦いとなる。


戦闘に至るまでの背景


サムルトンパレスは既に滅亡、リアムスも外交圧力によりクルーディア帝国に屈するのは時間の問題であった。
こうして、六柱将の国における戦乱の時代は終わりを遂げたかに見えたが、いまだに帝都では、皇帝ファルスに関する不穏な噂が後を絶たず、物資不足や根拠のない噂に惑わされた民衆の暴動が続いた。
これらは、何者かが意図的に帝国を混乱させているのは明白であったが、その噂の元が突き止められずにいた。

そんな情勢下で、突如として一つの大事件が帝都で起きた。
帝国元帥であるフェリサスが皇帝ファルスを暗殺、病死として発表し、自らが後継者に任命されたと帝位の継承(簒奪)を発表、カスターゼクトフレイズといった、彼の息のかかった将が、それらに賛同したのである。
この暗殺の伏線は、11年前にまで話が遡る。
ラドリザン6885年、ファルスは、本来なら帝位を継ぐ者ではなかったが、兄達を次々と毒殺して皇帝の地位を手に入れた。
その事実を知った神官は、皇帝の証であるカオスクラウンファルスに継承することを拒否、これに対してファルスは権力で強引に神官の娘アルディナを皇后に迎える。
盛大な皇帝の婚儀が行われ、何も知らない民衆の多くは、近いうちにカオスクラウンファルスに戴冠される為、より絆を強める為のめでたい婚儀だと思っていたが、事実を知る者からすれば、これは完全な人質であった。
しかし、皇后アルディナは、ファルスの内に眠る残虐性に気付き、この男に帝位は危険すぎると、単身カオスクラウンを持って帝都から逃げ出した。
国境でアルディナが捕らえられた時、カオスクラウンは既に従者によって別の場所に移っていた、カオスクラウンの場所を吐かせようとしたファルスだが、アルディナは一切口を割らず、怒ったファルスによって激しい拷問の末に殺害された。
アルディナが必死に守ったカオスクラウンは、従者が山賊に襲われたことから、完全に行方不明となる。
ファルスは、結局カオスクラウンの戴冠式を行うことができず、更に皇后の突然の死(病死として発表された)が重なり、これを不審に思った民衆も少なからずいたが、年月が経つ間にそれらのことも風化させていった。
このアルディナこそが、フェリサスの姉であり、このときから彼はファルスへの復讐だけを糧に成長してきた。
面従腹背を貫き、自身が皇帝と戦えるまでの力を持つまで耐え抜き、そして水面下では3年かけて帝都にてファルスの悪い噂を流し、民衆を扇動していた。
帝都を混乱させていたのは、それを取り締まる筈の治安維持部隊を掌握するフェリサス派閥(具体的にはカスターの領分である)の自作自演であった為、犯人が捕まる筈がなかった。

全ての準備が整ったと判断したフェリサスファルスを殺害、かつてグラスシードが正体を知らずに渡していたカオスクラウンをもって、自らの帝位継承の正当性を訴えた。
呼応して、カスターゼクトフレイズ達も自分の領土で決起し、後世神聖クルーディア帝国と色分けされる陣営がうまれた。

ファルスをはじめとする皇族は、フェリサスの手の者に次々と討たれていったが、皇室近衛隊長だったラディナは、ケルカ皇太子を連れてかろうじて城から脱出、更に戴冠式直前のカオスクラウンをなんとか奪取して、グラスシードの元へと向かった。
しかし、グラスシードの元へ行くには、カスターの領土を通らないとならない。
グラスシードは、ラグに出陣の要請を送り、旧サムルトンの王都に集結する様に命じた後、自らもラディナと合流するべく出陣を開始した。


両軍の戦力

攻撃側 守備側

クルーディア帝国
軍勢
神聖クルーディア帝国
総兵力42000 兵力 総兵力45000
グラスシード 総指揮 フェリサス
アレイナ 軍師
主要参戦者

グラスシード

リーナ

シルフィ

アレイナ

ラグ

フェリサス

カスター

ゼクト

フレイズ

ラヴァ

ラディナ

クリディス

フォーゼ

ヴォルガ

アニエス

サンドラ
攻撃側 守備側

リアムス
軍勢
総兵力1000 兵力 総兵力
エカティーナ 総指揮
軍師
主要参戦者

エカティーナ

ルーザリット


カオスクラウン防衛戦

カオスクラウンケルカ皇太子という二つの切り札を持ったラディナだが、カスターの追撃隊に追いつかれてしまう。
しかし、間一髪でグラスシードが追いつき、両軍は対陣。
その戦場に、狂信者となったパレスの残党が乱入するが、ホワンから「自分が亡き後、信者が暴走したらこれを止めてほしい。ただし、仕事料はグラスシードから受け取る様に」と密かに依頼を受けていた傭兵ヴォルガが現れ、グラスシード陣営に加わる。
パレス残党とカスターの追撃隊をかろうじて撃退したグラスシード陣営は、カオスクラウンケルカ皇太子を得た上に、六国発祥の地である旧サムルトン王都から軍を起こすという演出も加え、自らが正統クルーディア帝国であることを主張した。
更に、帝都から脱出したケルカ皇太子は怪我を負っていた為、一時的にグラスシードに帝位を預けると語った。
ラグラディナをはじめとする諸将もこれに賛同、「皇太子成人の時に帝位を返上する」という誓約書を書くことで形だけでもグラスシードに帝位に就いてもらう様に説得、彼もこれを承諾する。
ただし、幼少の皇太子にその様な言葉が本当に発することができたのか、グラスシードの簒奪だったのではないかという説も未だ根強い。

こうしてクルーディア帝国内に、二人の皇帝が生まれる。
グラスシードは、アレイナリアムス国に派遣、自らの正当性と利害を解き仲間につける様に命令するが、その際「リアムスが難色を示すのなら領土を与えてもいい」と発言、この時既に自分が皇帝として、帝国領の所有権をもっているという意識を明確にしている。

こうして、偽帝討伐を旗印としたグラスシードは、ラグを先発させ自らも出陣する。
その姿を見てシルフィは、「たったいま、あなたは私の届かないところへ行ってしまった」と呟いたという。


ラゴッサの戦い


グラスシードフェリサス、歴史上に突如あらわれた「二人の皇帝」による戦い。
帝都へ向けて進軍するグラスシードの前に、フレイズゼクトが立ちふさがる。
この時フレイズ達は、自らの直属部隊と国境守備部隊をかきあつめた混成部隊で兵力を集める。
これは、フェリサスのクーデターに対して少なからず対抗する勢力があり、特に旧サムルトンの西部は中立を宣言、この場合の中立とは、フェリサスグラスシードの戦いを見守って、状況に応じてどちらにでも牙を剥き、どちらにでも媚びを売るという存在であり、フェリサスとしても帝都を空にすることができなかった。

ゼクトフレイズは、その破壊力によりラグラディナ部隊を圧倒するが、長い間実戦を体験していない寄せ集めの北方国境守備部隊は崩しやすいと看破され、グラスシードはそこから全軍の切り崩しに取り掛かる。
更にアレイナの説得によってグラスシード側についた、ルーザリットエカティーナ率いるリアムス軍が到着。
かつての敵が味方となり、昨日までの友が敵となる非情の戦場で両軍は激突する。
この援軍の出現によってフレイズゼクトは撤退するが、ゼクトは戦死する。

フェリサス軍は、帝都を掌握している利点をいかして、他の帝国将軍たちを抱きこみ、長期的な包囲作戦でグラスシード軍を疲弊させるつもりだったが、リアムス軍がグラスシード側に傾いたこと、グラスシードケルカ皇太子を擁して正当性を主張した為、追随すると思っていた他の将軍たちがサボタージュをはじめた事により、基本構想が瓦解した。
これに対して、グラスシードは早期決戦を覚悟すると、どちらにつくか決めかねている他部隊を敵に回さない為、グラスシード軍は早期決戦を覚悟し、一気に進軍を開始した。


シングリア川の戦い


フェリサスは、グラスシード軍の進軍に対して、帝都付近に接近するまでこれといった手を打ってない。
グラスシード軍が想像以上の軍勢を味方につけた為、当初の予定と大幅に狂い軽率に出陣できなくなったこともあるが、グラスシード軍が帝都に入るために通る大河シングリアに差し掛かった時、フェリサス軍はついに出陣する。

この決戦に勝利すれば、日和見を決めている周囲の勢力を味方につけることができると、フェリサス自らが出陣を決意するが、カスターがこれを止め、代わりに帝国元帥の地位を授かり、フレイズラヴァを従えて出陣する。
カスターが総指揮官に任命された人事には疑問が残る。
彼がこれまで長年かけて巧妙に腰巾着を努めたため、フェリサスをもってしても彼の才能を勘違いしていた(ランドヴァルク作戦における失態も、サムルトンの裏切りが原因だった為、誰が指揮をとっていても同じであったと考えられていた)という説もあれば、フェリサスにとって人生とは姉の仇を討つまでであり、その後の人生計画は一切存在せず、部下を失うことも帝都の民衆を戦火に巻き込む事をまったく意に介していなかったのだろうと、戦略面ではなく心理面を指摘する説もある。

シングリア川に到着したグラスシード軍の前に、カスターが率いる神聖クルーディア帝国軍が立ちふさがる。
既に橋は破壊され、浅瀬は抑えられており、グラスシードの主力部隊は一方的に攻撃される危険な渡河を行わなければならなかった。
しかし、グラスシード軍はこの戦いの数日前に、密かにエカティーナルーザリットヴォルガアニエスというメンバーに別働隊を預け、北のルスタル帝国経由で別動隊を渡河させており、決戦がはじまると密かに背後を突いて、カスターの軍勢を挟撃する。

六柱将の六国のうち、この戦乱に関与していないルスタル、マルキア、ニルスの3国は「いずれの国の味方もしない」という絶対中立宣言を発令していた、しかし、フェリサスの興した神聖クルーディア帝国は、その六国に該当しないという判断により、ルスタル帝国は別動隊の渡河を許した。
また、この時アレイナによって選抜されたルスタル帝国を説得する使者を兼ねた別動隊のメンバーは、全員クルーディア帝国に籍を置いていない者であり、より「グラスシードに私心なし」を印象付けることができた。

挟撃を受けながらも、ラヴァフレイズの善戦により神聖クルーディア帝国軍は長時間にわたって持ちこたえるが、総指揮官であるカスターが真っ先に撤退準備にはいり、味方を混乱させた為最終的には瓦解。
この決戦に勝利したグラスシードは、そのまま追撃戦を仕掛け、帝都にまで迫った。


帝都クルーディア攻略戦


追撃戦から、そのまま帝都での決戦になだれ込む両軍、フェリサスに見限られたカスターが最前線に送られるが、猛追撃を仕掛けるグラスシード軍の前に戦死、更にフレイズも、アレイナの放った矢によって討たれる。
城内にまで突入すると、かつてカシルスの都で苦楽を共にしたラヴァをも討ち取り、フェリサスを追い詰める。
フェリサスは、姉アルディナの面影を宿すシルフィに、最期を看取ってほしいと願う。
これに応じたシルフィだが、「1人では寂しい」とフェリサスは自分の道ずれにシルフィを刺す。
怒り狂ったグラスシードによってフェリサスは斬られるが、シルフィは落命、ここに皇帝と言う地位と、男女の愛憎という二つの決着を巡って行われたカオスクラウンの戦いは終わりを告げた。


戦いの結末と戦乱の終わり

戦いは終わり、クルーディア帝国の運命はグラスシードが握ることとなる。
ケルカ皇太子は、脱出の際の怪我が原因で数日後に没する。グラスシードによる暗殺の可能性も指摘されているが、とにかくもこれにより、仮であった筈のグラスシードの帝位は、正式なものとなる。
だが、その戴冠式の直前、シルフィを失い、心を壊したリーナは、姉を失った全ての元凶はグラスシードの野心であると、彼の背中を刺した。
リディとの関係修復は不可能と思い、彼女を避けようとするグラスシードは、政略結婚を画策し、ルスタル帝国の皇太子の元へと送り出す。

それから10年、グラスシードは領土拡大のため西へと兵を進めるが、数年にわたる戦いの末に挫折し、失意のうちに病にかかり世を去った。
グラスシードには子供がいなかったため、その後のクルーディア帝国は内乱状態となる。
このとき、ルスタル帝国后妃となっていたグラスシードの唯一の血族となるリーナは、「血」の繋がりを主張して、自らの息子をクルーディアの跡継ぎとする。

そして数年後、再び六柱将の六国は戦いをはじめ、ルスタル帝国が併合、統一国家となる。
時代の変革を告げるため、新たな国名として、かつて国家統一論を唱えた宗派の名から「統一国家パレス」と名付けられることとなった。

カオスクラウンの戦い」とは、何だったのか。
グラスシードは、姉でありながら血が繋がっていないと知ったシルフィに恋慕した。
リーナは、グラスシードの実の妹でありながら、自分を包み込んでくれるシルフィを信頼し、彼女を奪おうとするグラスシードに反抗心を持った。
シルフィは、弟の気持に気付きながら、姉、弟、妹の関係を壊したくなくてあえてそれを受け流した。
フェリサスは、シルフィに自分の姉の姿を重ね合わせ、復讐だけを糧として疲れ果てた自分の心の癒しを求めた。
そこにあるのは、帝国の覇権をかけた戦いというより、若者達の愛憎劇であったとも言われている。


最終更新:2024年07月24日 01:28