蛇杖堂寂句は、数刻前の激戦などなかったように平然と車に揺られていた。
 嚇炎の悪鬼との交戦は彼の身体に浅からぬ傷痕を刻み込んだが、たかだか腕一本焼かれた程度で弱音を漏らす暴君ではない。
 確かに想定外の事態ではあったが、それも含めて彼にとっては想定内。
 神寂祓葉に触れ、一度は命を落とし、そして蘇った狂人どもが以前のままの容易い存在であると考える方が彼に言わせれば愚かしい。

 赤坂亜切。あの忌まわしい葬儀屋も、やはり狂気の深化に伴う相応以上の変容を見せていた。
 暗殺者としての機能美を排し、代わりに正面戦闘の能力値を底上げする。
 そんな相手に対して完全に先手を許しながら、この程度の傷で済んだのはむしろ儲け物だったとすら言えるだろう。
 無論欲を言えば亜切を殺しておきたかったが、過ぎたことを悔やんでも仕方がない。
 一画が欠損した右手の令呪を見下ろしつつ、蛇杖堂寂句は思考を前へと進める。

 目黒区での交戦から離脱し、すぐに代わりの運転手を用立てた。
 勝手知ったる人材でないのは多少面倒だったものの、寂句も魔術師の端くれとして暗示の術は会得している。
 タクシー運転手を呼び付けて暗示を施し、穏便に職務放棄させた上で即席かつ場繋ぎの運転手に変え、その車に乗って今に至る形だ。
 向かっている先は品川区。有事を見越して拵えておいた、都内に複数あるスペア拠点の一軒である。

 ……車内に垂れ流されているラジオ放送が、切羽詰まった声で惨劇の勃発を告げていた。
 港区にて原因不明の爆発事故が勃発。爆心地となった六本木はほぼ壊滅状態。生存者の発見は絶望的。
 現場で高濃度の放射性物質が検出されたとの未確認情報もあり、当面の間該当地域は警察と自衛隊により封鎖される見通し。

 要するに、またどこぞで馬鹿が"やらかした"というわけだ。
 これは寂句にとって、少なからず悪い知らせであった。
 東京の治安だの民間人の被害だのはどうでもいいが、問題は場所である。
 港区。幸いにして爆心地からは外れたものの、そこは蛇杖堂寂句の邸宅がある土地だ。
 戦争用の物資を少なくない量備蓄しているあの屋敷の戦術的価値は先刻〈蝗害〉に潰された病院よりも遥かに高い。
 放射能どうこうは寂句にとってさしたる問題にはならないものの、煙に惹かれてまた別な馬鹿が誘引される可能性が出たのは面倒だった。
 もし流れ弾であの量の備蓄を吹き飛ばされるようなことになれば、さしもの彼も眉くらいは顰めるだろう。

 ――都市の終わりが近付いている。未だ、少なくとも二桁は主従が残っているというのに。

 運命の加速、という言葉を老人は思い出していた。
 前回、忌まわしい奇術師が頼みもしないのに語ってくれた戯言だ。
 アレの戯言を認めるのは癪だが、今回もやはりそうなっているのだろうと思う。

 だがそれもその筈、この都市には神寂祓葉がいる。
 彼女は特異点。唯一無二の太陽であり、そこには破壊的な引力が付随している。
 祓葉の無垢に引かれるように、運命そのものがねじ曲げられているのだとそう思わずにはいられない事態が今日だけで幾つも起きていた。
 日付が変わるにはまだ数時間あるが、その頃一体見慣れた街がいかなる姿になっているのか。蛇杖堂の宿老をしても察しがつかない。

 が。
 ある意味では、こうも考えられた。
 よくもまあこの程度で済んでいるものだ――と。

 〈はじまりの聖杯戦争〉。
 そこで生まれた、六人の狂人達。
 いずれもが非凡。いずれもが、人畜有害この上ない狂気の衛星。無論蛇杖堂寂句もそこに含まれる。
 およそ正気とはかけ離れた獣達が野放図に放たれていながら、都市機能が一月弱も持続しているのは奇跡と言ってもいい。
 劇薬同士を雑に適当にかけ合わせた結果、奇跡のようなバランスですべての毒素が支え合い、均衡らしきものを作り上げているのだ。
 であれば如何にすればこれを崩せるのか。答えは、上に述べた通りだった。

 ――やはり、いずれかの衛星を間引くべきだな。
 ――最低でも次の朝日が昇るまでには、無能をひとり排する必要がある。
 ――次に事が動いた時。そこが勝負、か。

 蛇杖堂寂句もまた、狂人である。
 冷静の仮面の下に、燃え上がるような狂気を隠し持った残骸である。
 その彼が運命の加速なる異常現象に恐れをなして縮こまるかと言えば、当然否。
 むしろ彼としても早急に事が進行するのは臨むところだった。世界が壊れれば壊れるほど、寂句が切望する"その時"は早まるのだから。

 都市など、幾ら滅んでもいい。
 人類など、幾ら亡んでもいい。
 己の命さえ――この大義の前には些事でしかない。

 であれば望むべきは間違いなく混沌大渦の大戦争。
 あの忌まわしい、おぞましい小娘が嬉々として前線を駆け回り出すような状況。
 欲を言えば祓葉の興を掻き立てて、注射針をねじ込む隙が生まれてくれれば更によい。
 そうして、念願叶ってこの〈畏怖〉に別れを告げられたなら。
 後はもう、命があろうがなかろうが、心の底から、どうでもいい。

 神寂縁を唆して楪依里朱へ差し向けることには成功したが、狙いを彼女だけに絞るつもりはなかった。
 改めてホムンクルスを踏み砕くのもいいし、葬儀屋にこの腕の恨みを晴らすのも悪くない。
 どの道切り時を見極めたい相手だ、盟約を反故にしてノクト・サムスタンプを攻め落とすのもいいだろう。

 先手ではなく後手を選ぶと決めたからこその余裕。
 後の先という言葉があるが、暴君が狙っているのは常にそれだ。
 道は常に開かれている。そして寂句には、あらゆる道を選ぶ準備がある。
 狂気のままに狂気を狩り、この都市を維持している生態系を突き崩す。
 神寂祓葉という美しき獣を討つためならば、蛇杖堂寂句はいかなる選択肢でも涼しい顔で選んでみせよう。

 だが、強いて。
 強いて、特に抹消したい敵をひとり挙げるとすれば……

「着きました」
「ご苦労」

 暗示で人形に変えた運転手の無機質な声に、心の籠もらない労いで応える。
 窓の外には、築百年を優に超える侘び寂びに溢れた日本家屋が建っていた。
 西麻布の本居に比べれば敷地面積こそ劣るが、侮るなかれ、こちらも寂句が自ら"改築"した立派な拠点だ。
 此処で物資を補給しつつ、本格的に次の動きを決める。その腹積もりだったのだが――

「……マスター・ジャック」
「ああ」

 剣呑を隠そうともしない、己が従僕の張り詰めた声。
 寂句の眼差しも、彼女と同じ点に向けられていた。

 明治の始まりに建築され、大戦の本土空襲をも逃れたという歴史ある木造住宅。
 文化財に指定するべきでは、という話すら一度は出たその門構えに。
 異物が――混ざっている。その静寂にそぐわない外郎が、憎たらしい顔で笑っている。

 ボーイッシュなベリーショートスタイルに、冗談みたいなタキシード。
 顔立ちは中性的で、少女のようにも少年のようにも見える。
 どちらの印象も正しいことを、蛇杖堂寂句は知っている。
 少なくとも彼の知る"彼女"は男性だったが、この輩に限ってはいつ何時いかなる事態を起こしてみせても不思議ではないのだ。
 前回、複数の主従によって包囲網を敷かれながら、その悉くを火の輪でも潜るようにすり抜けてみせた一番の異端。
 祓葉という規格外の影に隠れていただけで、冗談抜きに、聖杯戦争を如何様にでも凌辱できる危険性を秘めていた笑う道化師。

 車から降りた寂句に、女(おとこ)は手を振った。
 もちろん、振り返してやる義理はない。
 葬儀屋の襲撃を受けてさえ表情を変えなかった寂句の顔に、微かな嫌気が差していた。

「久しぶり。元気だったかい、ジャック先生」
「そういう貴様はタイにでも行ってきたのか? 奇人め」

 〈はじまりの六人〉。
 いずれも人畜有害、油断できる手合いなんてひとりもいない魔人狂人の見本市。
 だが、強いて。
 願望の成就を主目的としない蛇杖堂寂句が強いて、特に抹消したい敵をひとり挙げるとすれば、それは――


「相変わらず目障りな下種だ。摘み取るが、構わんな? 〈脱出王〉」


 ――〈脱出王〉。
 名をハリー・フーディーニという、享楽の宿痾に囚われた怪人である。



◇◇



 "無害"とは、時にひとつの才能だ。
 害あるものと害なきものが並び立った時、まともな思考能力があるなら誰でも前者を選んで攻撃する。
 直接的にこちらの生命を脅かしてくる生き物と、鬱陶しいだけで別段心の臓に迫ってこない生き物。
 握った蠅叩きをどちらに振り下ろすかは考えるまでもなく明白。そこに、〈脱出王〉という存在の悪辣さの真髄がある。

 彼――もとい彼女は、すり抜けるのだ。
 あらゆるものを、さもそこに壁などないかのようにすり抜ける。
 それはヒトの敵意や認識でさえ例外ではない。
 だからこそ〈脱出王〉の実体は、今まで誰ひとり捕らえることができなかった。
 ただひとり、すべての遊び相手を分け隔てなく平等に見つめていたあの少女を除いては。

 寂句には、そしておそらく他の五人にも、それができない。
 何故なら彼らは誰しも、無駄に頭がいいからだ。
 無垢がない。純潔がない。狡賢く状況を見極める力を持って"しまって"いるからこそ、〈脱出王〉の手管に弄ばれ続けてしまう。

 故に、潰せる機会があるのなら是が非でも潰しておきたい。
 そうでなければ、もう二度とその機会が巡ってこない可能性すらある相手。
 少なくとも蛇杖堂寂句にとって〈脱出王〉とは、ハリー・フーディーニとは、そういう生物だった。

「やだなあ、よしてよ先生。今の私はサーヴァントも連れてない丸腰だ。交戦の意思がないことなんて見れば分かるだろ?」
「貴様にとってはいつものことだろう。何ひとつ信用する理由に値せんな」
「じゃあ君だって分かってる筈だよ。"此処では私は殺せない"」

 不敵に言い放たれる言葉に眉の角度がより厳しく吊り上がる。
 誰が見ても分かる丸腰。英霊すら連れていない、丸裸も同然の有様。
 それなのに、彼女が口にする言葉には不思議な説得力が伴って響く。

「私を殺せるのは今も昔もあの子だけさ。私も、そして君も大好きだろう愛しの星。神寂祓葉、我々のカミサマだけ」
「戯言はいい。貴様、何故此処に現れた? 同盟だの協定だの、そんな利口な真似ができる性分ではあるまいに」

 寂句の〈脱出王〉に対する認識は、一言。
 ――狂人、である。
 祓葉が頭角を現し、全員を撫で切りにする前からそうだった。
 そんな狂人が突然姿を現し、何やら対話をしたがっていると来れば警戒するのは当然のこと。

 もっとも、彼女が何を口にしたところで聞く耳を持つつもりはない。
 たとえ殺せずとも、少なくともこの視界からは消えて貰う。
 詐欺(マジック)への一番の対策は一切の見聞きをしないこと。
 御年九十になるこの老君は当然、そのセオリーを弁えていた。

「いやー、ちょっとね。耳の痛いことを言われちゃってさぁ」

 そんな寂句の魂胆が分からないわけでもあるまいに、〈脱出王〉はへらへら笑って肩など竦めてみせる。

「それこそただの戯言なら聞き流すけど、如何せん相手が相手でね、そうもいかない。
 私自身ミロク……ホムンクルスの彼に偉そうなことを言った身だから余計にねぇ」
「ほう。あの生まれ損ないを狂わせたのは貴様だったか」
「あー、違う違う。私が会った時には彼、もう保護者諸君らをブチ殺しちゃってたから。
 まあでも、"狂わせた"って意味じゃ間違いでもないのかな。だったら上手く嵌ったようで何よりだけど――って、それは置いといて、だ」

 狂人は我も彼も同じ。
 だが、それにしてもホムンクルス36号の乱心は度を越しているように見えた。
 発端は違えど、そこに〈脱出王〉の関与があったとすれば寂句としても納得できる。
 無垢な幼子を騙すのはマジシャンの得意分野。ましてそれが世紀の〈脱出王〉ともなれば尚更だ。
 わけのわからない事象に理屈の線が通るのは良いことである。では、眼前の彼女が今抱える"理屈"は何なのか。

「自分探しの旅も兼ねて、ちょっと同胞の声ってやつを聞いてみたくなってね。遠路はるばる足を伸ばしてみたってわけ」
「そうか、帰れ。できればそのまま死んでくれるとありがたい」
「つれないなぁ。同じ釜の飯もとい、同じ星の光に灼かれた仲じゃない」
「言葉の通じる他の連中ならばまだしも、貴様のような変質者に開示する情報などひとつも思い付かん」
「だーかーらー、そういうのじゃないんだってば。まったく……君も大概人の話聞いてくれないよねぇ」

 困ったように肩を竦める〈脱出王〉。
 そんな彼女を見ながら、寂句のサーヴァント……アンタレスは静かに困惑していた。

(これが……あの赤坂亜切と同じ、狂気の衛星……?)

 〈はじまりの六人〉を相手に容赦が不要なことは先の一戦で理解した。
 だが、だからこそ拍子抜けだったのだ。
 己の主が亜切に対して向けたよりも色濃い嫌悪感を滲ませながら対峙するこの少女が、ただ一瞥しただけでも分かるほど弱いことが。

 弱い。
 そう、弱いのである。
 今は山越風夏と名乗っているこの奇術王は、あまりに弱い。

 生物としての強さをまったく感じさせず、佇まいもどこをどう見ても隙だらけのそれに見える。
 寂句は何やら忌まわしげにしているが、アンタレスの所見で言えば何のこともない。
 この場で自分がちょっと槍でも振るってやれば、簡単に目の前の命を摘み取れるのではないかとそんなことさえ考えてしまうほど。
 もちろん実行に移すつもりはないが、蛇杖堂寂句という男の実力と思慮の深さを知るアンタレスをしてそう思わせるほどに、〈脱出王〉という怪人はひときわ異質に写った。

 と、そこで。

「その子が、今回の君のサーヴァントかい?」
「っ」

 内心の困惑が表情に出ていたのだろうか。
 〈脱出王〉のくりくりとした双眸と、視線が合った。
 思わず反応してしまうアンタレスをよそに、寂句は憮然と返す。

「答える意味は思い付かんな」
「ありゃりゃ。"見て分かれ。無能が"って言われると思ったけど、見ない間にずいぶん嫌われちゃったみたいだなぁ。
 まあいいや――ふん、ふんふん。なるほどね、そっか。それがドクター・ジャックの新しい"やりたいこと"ってわけだ」

 何か得心行ったという風に手を叩く、奇術師。
 寂句は何も言わない。言う筈がない。第一次の戦争で死に損なった亡霊達は、決して互いの存在を認めないのだから。

「そういう貴様はお笑いだな。輪廻が進むと情操まで退化するのか?」

 その証拠に、返す刀で繰り出された診断は容赦なく相手の懐(パーソナル)を抉る言葉のメス。
 奇術師とは違い、医神は合理で他人の傷口を暴く。故に彼は、暴君なのだ。

「"自分探しの旅"など、今日び餓鬼でも口にするまいよ。命と一緒にユーモアまで枯れ果てたか、奇術師」
「うん、そういうこと。後半は全力で否定するけど、ちょっとばかし他の狂人諸君の偵察がしたくてさ。
 具体的に言うと皆はどう変わってるのか、それともまったく変わってないのか……そこが知りたかったんだ」
「して? 成果はあったのかよ」
「バッチリさ。あの〈暴君〉サマでさえこの変わりようと来たんだ、流石に私も箴言を受け入れることにするよ」

 それでも、かつての彼を知る仇敵はこう言う。
 蛇杖堂寂句は変わったと。そしてそれを、彼自身も否定しない。
 自覚があるからだ。己の狂気をひた隠しにするほど恥知らずなこともない。
 誰あろう、同族の前ならば尚のこと。彼らは互いの存在を決して認めない故、対峙すれば必ず不合理が生じる。

「さしずめ〈畏怖〉か、君のは」
「ならば貴様は〈再演〉だな。全くもってらしいことだ」

 互いの狂気を開帳し、通じ合うことで殺し合う。
 彼らに限っては、対話は友誼を意味しない。
 存在レベルで許し難い外敵の生態を知る行為だ。
 得体さえ分かれば、駆除のしようも浮かび上がってくる。
 少なくとも寂句にとっては、そうであった。
 だが〈脱出王〉にとっては、己の停滞(マンネリ)を打ち破るための切欠だった。

「用向きは済んだか? であれば今一度言おう、帰れ。
 享楽でしか動かん変態に時間を食われるほど非生産的なこともないのでな」
「あれ、いいの? 帰っても。私を病巣として摘み取るんじゃなかったっけ?」

 くすくすと、けらけらと、少女の姿をした道化が笑っている。
 寂句は確かに彼女へそう告げたし、実際、こうしている今この瞬間もそのための思考を続けていた。
 そう――狂気を曝け出し語らっている間じゅうずっと、暴君の殺意は冷徹に奇術師という腫瘍を摘み取る手段を模索していたのだ。

 このわずかな時間で、百と十一の抹殺法を思索した。
 にも関わらず、蛇杖堂寂句は不動のままでいる。
 その理由は実に明快だ。
 失敗するのが目に見えている手術を引き受ける医者はいない。
 九十年の研鑽を蓄えた不世出の天才の脳でさえ、目の前の道化を殺せると断言できる手段を思い付けなかった。

 それこそが彼女の強さ。
 〈脱出王〉は確かに弱い。
 だが、死なない。殺されない。
 すべての袋小路から"脱出"する。
 魂までもをマジックショーに束縛された天性のマジシャン。相手が起源を覚醒させた輪廻の魔人ともなれば、いかに現代の医神であれども確殺するには時間と準備を要する。それだけのことだった。

 飄々と跳ね回るが能の〈脱出王〉の中からさえ滲む、同胞であり宿敵である暴君に対しての悪意。
 見えざる火花が散る。爆発寸前の活火山を、天蠍の少女は自然と連想した。
 もちろん、公然と主を嘲弄されて思うところがないわけはない。
 命令ひとつあれば即座に不遜な下種を都市から排除するための行動に移らんと意識を深めたところで、その集中を断ち切るように、場違いな音が鳴った。


 ――ぷるるるるるる。ぷるるるるるる。ぷるるるるるる。


 携帯電話の着信音だ。
 音の出所は、寂句の懐からだった。

「……なんてね。ちょっと意地悪言ったけど、私としても助かったよ。
 せっかく遠出してきたんだし、成果はなるべく多い方がいいからね」

 寂句はまだ、端末を取り出してもいない。
 だというのに奇術師は、着信の主が誰か知っているように言う。
 神算鬼謀は蛇杖堂寂句と"彼"の領分。
 〈脱出王〉は逆立ちしても彼らに並べないが、彼女は理屈でない己だけの視点でそのロジカルを超えてくる。
 今回のこともそうだ。まるで最初からこのタイミングで、この人物による着信があることを知っていたかのように、芝居がかった態度で奇術師は暴君に一礼してみせる。

 だからこそ、かつて彼女が男性であった頃、その跳梁はあらゆる策謀の網を掻い潜れたのだ。
 彼女はある意味で、知恵ある者達の天敵。
 世界の法則を、その普遍性を寄る辺に策を捏ねる強者に、笑いながら否を唱える者。
 "そんな筈がない"という固定観念を覆すことを生業とするステージスター、そのハイエンド。

「出なよ。三人仲良く同窓会と行こうじゃないか」

 ――神寂祓葉の存在を除けば。
 彼/彼女は間違いなく、あの聖杯戦争における一番の特異点だった。
 道理では捉えられぬ者。はじまりからして、常軌を逸している存在。

 故に彼女はこうして、定められた運命の"流れ"を狂わせる。
 幼気ではなく悪戯心(ユーモア)で。
 運命を、加速させることができる。



◇◇



「――やあノクト! 久しぶりだね。元気してたかい?」
『……うげ。なあ爺さん、切っていいか?』
「貴様が掛けてきたのだろうが」



◇◇



 一触即発、いつ弾けてもおかしくない狂気の相克。
 それからせいぜい数分しか経っていない。
 だというのに、状況は劇的に変貌していた。

 家屋の古めかしさにそぐう、恐らくは元の持ち主が置いていたものをそのまま放置しているのだろう卓袱台。
 その前に胡座を掻いて座り、いつも通りの鉄面皮を保っている〈暴君〉――蛇杖堂寂句。
 彼の対面に座るのは中性的な美貌を宿した不敵な奇術師、〈脱出王〉――山越風夏。
 自分で勝手に淹れた茶をずじ……と啜っている姿はさながら元々この家の住人であるかのようだが、無論、完全な部外者である。

 そんなふたりのちょうど中間の位置に、乱雑にスマートフォンが置かれていた。
 画面が示すのは通話状態。そこには、『N』の文字が記されている。
 N――Nocto Thumbstamp。かつて現実の東京を蹂躙した策士であり、今は蛇杖堂寂句と協定を結んでいる詐欺師の名前であった。

『分かっちゃいたが、相変わらずみてえだなおたくは』

 ノクト・サムスタンプ。彼は、〈はじまりの六人〉の中でも随一と言っていい危険人物。
 非情の数式。夜の虎。命が惜しければ彼と言葉を交わしてはならないと、誰もがそう口を揃える鬼人。
 しかし今、端末の向こうから聞こえるその声には隠しきれない嫌気が滲み出ている。

 そう――かの傭兵にとっても〈脱出王〉の名は厄ネタなのだ。
 戦力だけで見ればまるで脅威ではないものの、その躍動は綿密に整備した盤面を土足で踏み荒らす。
 〈継代〉のハサン・サッバーハが隣にいた頃でさえ遂に捕らえること叶わなかった異端児。

 ノクトが今回その動向を掴めたのすら、結局は彼女のショーの一環でしかない。
 結果としてまんまと、彼は舞台の上に引きずり出された。
 彼自身にとっても益ある形だとはいえ、予定外のアドリブを強いられた形には違いない。

「そういう君も辣腕は健在みたいじゃないか、ノクト・サムスタンプ。
 そりゃ多少煽りはしたが、期待に応えて愚連隊くん達に取り入ったのは流石の腕前だね」
『そいつはどうも。誰かさんが丁寧にお膳立てしてくれたんでな、ありがたく乗らせてもらったよ』

 さりとて――日が沈めば、夜が来る。
 夜は彼の時間だ。
 夜に親しむ力を持つ、人の姿をした鬼の独壇場だ。

 決戦の時は午前零時。
 赤き地平に復讐者(リベンジャー)は並び立つ。
 刀凶の鬼子と首無しの騎士団。
 狂人の介入が確定した時点で、もはやそれは不良グループ同士の抗争の枠では決して収まらない。
 ノクトはそう理解した上で、そのすべてを自身が総取りする可能性は非常に高いと結論づけていた。
 いつかと変わらず飄々と笑うこの奇術師だとて例外ではない。

 マジックショーに付き物なのは、驚きと喝采。
 そして、思いがけない悲惨な事故だ。
 今宵、躍動するステージスターはどこにも逃げられず無念のままに頓死する。
 夜の闇に潜む卑劣な虎が、虎視眈々とそんな喜劇を狙っている。

 ――ただ、それはそれとして。

『……ダメ元で聞くんだが、席を外せって言ったら消えてくれるか?』
「へへん。仲間外れはやだよぅ」
『だよなぁ。はぁ……つくづく思うが、厄日だな今日は』

 今このタイミングだけは勘弁してほしかった、というのが本音だった。
 〈脱出王〉はセンスの怪物。ノクトが頭脳でやることを彼女は感覚で行う。
 故にムラはあるが、上手く嵌まれば稀代の策士さえこうして出し抜ける。

 ――ノクト・サムスタンプが蛇杖堂寂句に連絡を取るタイミングを読んで後者に接触し、強引に"三者会談"の場を作り出すなど……それこそノクト級の知恵者でなければ絶対に不可能だろう。〈脱出王〉を除いては。


「私の時間は有限だ。貴様らの毒にも薬にもならない心理戦に付き合うつもりはない」


 ノクトと寂句は協定を結んでいる。
 但し、互いに誠意など欠片も抱いていない破綻ありきの関係だ。
 現にノクトが協定締結以降、寂句へ連絡を取ってきたのはこれが初めてである。

 神を撃ち落とし得る〈悪魔〉。
 ホムンクルスが見出した〈天使〉。
 いずれも普通なら真っ先に伝えるべき重大事項だが、寂句にそれらを伝えるつもりはない。
 理由は明快だ。ビジネス未満の悪意飛び交う関係性の渦中へ、自分のアキレス腱になるかもしれない情報を投下する意味など皆無である。

 しかし逆に――提供することで自分に益が生じる話もある。だから、ノクトは寂句へ電話を掛けたのだ。

「巷を騒がす愚連隊どもの存在は、私も聞き及んでいる。それを念頭に置いて、簡潔に私の問いに答えろ」

 現在、血で血を洗う抗争状態に入っているふたつの半グレ組織。
 ノクト・サムスタンプはその片割れ、刀凶聯合に知恵を貸している。
 逆に〈脱出王〉はもう片方、デュラハンに協力して目的を果たさんとしている。
 狂人同士の因縁を除いても、彼と彼女は不倶戴天の宿敵同士。ノクトが彼女の予期せぬ登場に渋い声を出すのも納得というものだろう。
 ましてそこに、何らかの思惑が介在しているのなら尚のこと。

「――貴様らは、私に何をさせたがっている?」

 蛇杖堂寂句は前回の聖杯戦争における、文句なしの"最強"だ。
 彼が介入したならば、何も起きずに終わるなんてことはあり得ない。
 その存在は必ずや盤面を震撼させるジョーカーになる。
 なればこそ、来たる決戦の時に彼が現れるという情報を敵に悟られたくないと思うのは当然の心理であった。

 だから〈脱出王〉は、ノクトがそう考えることを読んで、自分探しのついでに彼の計略を挫いたのだ。
 奇術師は祓葉になれなかったモノ。故に彼女は、すべての役者を分け隔てなく取り扱って尊重する。
 ノクト・サムスタンプならば、確実に初手で蛇杖堂寂句に接触し関係を作ると信用していた。
 何故なら夜の虎は堅実で狡猾。目的を達成するためならば恥も外聞も何食わぬ顔で捨て去れる生粋の合理主義者。
 そんな男が――前回の因縁などに囚われて、目先の最善手をフイにする筈がない。
 そこまで読めれば、実際に行動するタイミングを察することなど、天才たるステージスターにとっては朝飯前である。

 奇術師はほくそ笑み、傭兵は鬱陶しい跳梁に懐かしさすら覚える。
 彼らだけに許される次元での暗闘は、もはや常人には理解さえ及ばぬ境地。
 であれば、それに即座に適合してのけるこの老人もやはり規格外と呼ぶべきなのだろう。
 かつて天星を弓とした賢者を従え、東京全域を自身の射程圏内に収めた暴君の問いに、ふたりは口を揃えて同じ言葉を述べた。


「『何も』」


 何も望まぬと、そう答えたのだ。
 享楽に生きる〈脱出王〉のみならず、ノクトまでもが。
 させたいことなど何もないと、迷いなくそう言い放ったのである。

『……まあ、あんたの察してる通りだ。
 俺とそこのクソ手品師は、半グレどもの抗争に一枚噛んでる。もちろんお互い、正反対の陣営でな』
「そういうこと。陣営も逆、目指す目的も逆。だけどジャック、君にも舞台へ上がってほしいという点では共通してる。そうだろ? ノクト」
『この際素直に認めるよ、いかにもそうさ。
 何しろ欠伸の出るような停滞がブッ壊れる絶好の機会だ。祭りが派手であるに越したことはない』

 胸襟を開いて、思惑を明かして、ふたりは輪唱のように言う。
 祭りがあるぞ、と。お前も来い、と。
 ――それは必ずや、この戦争を次のステージに推し進めるターニングポイントになる筈だからと。

 すなわち、均衡の崩壊。
 ギリギリで保たれていた秩序は崩れ去る。
 溢れ出した混沌は都市のすべてを戦乱で呑み込む。
 もはや安全地帯など存在しない、死を隣人とした本物の戦争がやってくる。
 "何も起こらない"なんて肩透かしはあり得ない。それを稀代の詐欺師と奇術師が共に断言している。
 故に彼らは暴君を誘い。誘いを受けた暴君は、確認作業のように予想可能な言葉を返した。

「簡潔に述べろと言った筈だぞ。
 この期に及んで勿体付けるな、真に私を動かしたいならば。
 貴様らの思惑に乗ってやることで、私に何のメリットがある?」

 ノクト・サムスタンプは策士である。
 〈脱出王〉は異端である。

 そんな彼らの計略、思惑は余人には到底読み切れない。
 だが、蛇杖堂寂句は傑物である。
 当然のように彼はその例外。
 詐欺も奇術も、肥大化した叡智の化身を浚えない。
 彼もまた合理の徒。納得がなければ決して動かず、びた一文生み出しはしないのだ。
 そして無論、そんなことは〈はじまり〉の残骸達であれば誰もが知っていること。

「――おいおいジャック。君ともあろう者がそれを聞くのかい?」

 手を叩いて笑う、〈脱出王〉。

「考えても見なよ、天下分け目の大戦だよ?
 私達からしたら他人事でも、"彼ら"にとってはまさしく関ヶ原の戦いさ。
 勝てば生き残る。負ければ滅びる。生き残った方だけが正しくて死んだ方は負け犬に終わる。
 だからお互いすべてを賭ける。プライド、人員、備蓄、目に見えるものから見えないものまでオールイン!
 そしてそこに私とノクト、〈はじまり〉の残骸がふたりも混ざるんだ。問おう――その時何が起きると思う?」

 芝居がかった言い回しはいつものことだが、これに限っては意図的だ。
 彼女も、ノクトも。誰も本気で蛇杖堂寂句が耄碌したなどとは思っていない。
 分かった上で問うている。そう知っているからこそ敢えて乗る。
 彼らは狂っている。誰も彼もが、共通の光に狂わされている。
 であれば愚問。〈脱出王〉の問いは、そもそも命題でさえなく。


「"来る"な」
『ああ。必ず"来る"』
「そう、"来る"んだ」


 ――その解答を誤る者は、星空の中に存在しない。


 それは〈はじまりの六人〉全員の共通事項。
 この場にいない白黒、人造生命、悪鬼も必ず同じ結論に至る。
 彼らの星は、決して祭りの気配を無視できない。
 都市が揺れるなら、喜色満面にあの白色は現れる。
 神寂祓葉が、やって来る。
 畏怖の狂人へ介入を求めるにあたり、これ以上の誘い文句は存在すまい。

 その上で、彼らは暴君へ何も求めない。
 どちらに着けとも、着くなとも言わない。
 あるがままに踊ってくれとそう依頼している。
 考えてみれば当然のことだ。彼らには身を置く陣営が確かに在るが、狂人の歩みを星ならざる者達に抑制できる筈などない。

 重要なのは混沌。
 そして決戦の地に現れる"赤き騎士"。
 均衡を打破し、都市を戦争に染める合図になるだろう大祭。
 星が来る。星が降る。であればそこに流れる血の量は、多い方がいいに決まっている。

「……私は、貴様ら無能と同じ価値観で動いてはいない」

 数秒の静寂を経て、寂句が口を開く。
 そう――彼の見据える未来は六衛星の中でも無二のものだ。
 だからこそ彼は〈畏怖〉の狂人。その祈りは狂気六種の中でもひときわ逸脱していた。

「私の目的は私だけのものだ。譲歩も迎合も有り得はせん。
 貴様らは、あわよくば私を戦火を広げる材料にでも使おうと思っているのだろうが――」

 負の方向で祓葉を想う狂人には、彼以外にも楪の魔女がいる。
 が、敵意の陰に未だ拭えない懸想を燻ぶらせる彼女では比較対象となり得ない。
 蛇杖堂寂句は唯一無二。唯一、祓葉を遠ざけるべきものと認識している男。
 祓葉との出会いさえなければ残りの人生で、いくつ世界を揺るがす発見ができたか分からない大人物。
 その彼が全力、身魂のすべてを注いで現人神の放逐に燃えている。
 それが意味することはひとつだ。彼の狂気が見据える未来、その間に立ち塞がるなら、何人であろうとも……

「――私に好機を与えることの意味を、知らずに言っているわけではあるまいな?」

 蛇杖堂の老蛇は、あぎとを開いて呑み殺す。
 決して派手ではない、しかし確かに滲み出て空間を満たす殺気。
 〈脱出王〉さえ小さく汗を流し、通信の向こうのノクトまで苦笑いさせる王者の威風。

 そう、傲ってはならない。
 傲慢(それ)は彼だけの特権だから。

 蛇杖堂寂句は利用できる。
 彼の力とその頭脳は糧になる。
 などと己の有能を過信すれば、気付いた時には彼の胃袋の中である。

『……怖え爺さんだ。誰もあんたを手のひらで転がせるなんて思っちゃいねえさ』

 〈はじまりの六人〉ともあれば、無論全員知っている。
 だから寂句の問いに答えるならば、それは"言われるまでもない"の一言だ。
 ノクトとはタイプが違うが、彼もまた命が惜しければ近付くべきでない類の人種。
 卒寿を迎えて尚衰えぬ妖怪に知恵比べを挑むなど自殺行為も甚だしい。

『もちろん、腹に一物抱えてることは否定しない。
 だからあんたに知ってる一切合切を提供して媚びる真似もしねえよ。
 俺はただ"誘ってる"だけだ。"声をかけた"だけだ。〈脱出王〉、てめえもそうだろ?』
「まあね。私にも目的はあるけれど、その遂行を君に頼るつもりは現状ないよ。
 君は自分で、自分のやりたいように考え動き戦ってくれればそれでいい。
 もっとも何のかんの言いつつ、この賑わいに一枚噛まない"暴君"サマじゃないと思ってるけどね」

 彼らは三人ともが狂人。
 人面獣心を地で行く、それでいて決して互いの輝きを認めない厄災。
 全員がそのことを深く理解しているからこそ、一時とはいえ肩を並べて戦うなんて恐ろしくて出来やしない。

「本当にあの子が来るようなお祭りになるのなら、必ず他の主従も寄ってくる。だよね、ノクト」
『まあ、そういうこったな』
「成程。露払いでもさせられれば御の字というわけか」

 噛み合っているようで、噛み合わない。
 一貫性があるようで、どこか致命的にズレている。
 それが彼らだ。それが狂気という病のカタチなのだ。
 どれほど有能な傑物でも、ひと度罹れば二度と治らない魔の熱病。

「もしも私が貴様らの目的とやらに価値を見出し、奪い取りに動いたら?」
『その時はまあ、仕方ねえさ』
「うん。それはもう仕方ない――みんなで仲良く泥沼と行こうか」

 あくまで煮え切らない答えを返し続けている寂句だが、一方でノクトと〈脱出王〉は既に来たる決戦に彼が登場することを確信していた。
 彼らは人心のエキスパート。形は違えど、共に人の心を詳らかに暴いて掌握することを生業とする身。
 読み解けぬ筈がない。この老人が、神寂祓葉が"来る"と悟った時に見せたわずかな声音の揺れ。
 そこには執着があった。自分達が抱くのと同じ、星に対する渇望の念があった。
 午前零時の決戦は必ずや破滅的なものになる。老練なる大蛇に興味を抱かれたその時点で、安穏な幕引きに終わる確率は絶無と帰した。

「その言葉が聞きたかった」

 老人の口元が、微かな弧を描く。
 思わず、怖気の立つような笑みを。
 ぴゅう、と〈脱出王〉が口笛を鳴らした。
 完全に、悪戯の始末を諦めた子供の顔だった。

「招待状の礼だ。赤坂亜切と楪依里朱の情報を、貴様らにくれてやる」
『ほう、そいつは大盤振る舞いだな。いいのかい?』
「クク――怯えるなよ、夜の虎。構いはせん。どの道奴らに利用価値などないからな」



◇◇



「はー」

 帰り道。
 とうに日が落ち、街灯の明かりが照らし始めた街並みを、胸撫で下ろしながら歩く少女がひとり。

「死ぬかと思った」

 少女の名前を、山越風夏という。
 魂の名はハリー・フーディーニ。
 遠い昔の時代に生まれた、喜劇狂いの起源覚醒者の成れの果て。
 前髪の下に滲んだ汗を手の甲で拭う少女の隣に、何食わぬ顔で少年が具現した。

「いつもの洒落っ気じゃないみたいだね」
「そりゃねー。いくら私でもジャックの腹の中に入るとなったら肝は冷えるよ。
 大体お話の最中もあのお爺ちゃん、隙あらば私を殺そうと目光らせてたし」

 少年の名もまた、ハリー・フーディーニ。
 愚かな男が九生を辿った、風夏とはまた別な意味での"成れの果て"だ。
 猫耳を生やしたメルヘンチックな外見は見る者の毒気を抜くが、その五体には風夏が修めた以上の技と才能が横溢している。

「それで? うまくいったのかい」
「まあね。あの様子ならジャックは来てくれるだろうし、ノクトも軽くからかえた。
 三人もいればキャストは十分でしょ。あの子をもてなすなら、やっぱりこのくらいは揃えないとね」

 狂気の病に罹患しても、〈脱出王〉の抱える宿痾は変わらない。
 根っからの享楽主義者。他人の鼻を明かすのが好きで好きで堪らないトリックスター。
 かつて聖杯戦争の脱出と、それを合図に降りる破滅の緞帳という大仕掛けに興じた時から彼女は何も変わっていない。

 山越風夏は他の狂人たちに比べれば、掴みどころがないだけで幾らか穏当な存在に見える。
 が、その認識こそが一番危険だ。魂まで歪めるような狂気を宿して踊る愉快犯を既存の物差しで測ろうとするなど愚かにも程がある。
 現に彼女は反目し合う半グレ組織の片割れ・デュラハンに身を置きながら、勝手に蛇杖堂寂句という災害を呼び込んでのけたのだ。
 そういうことを、この女は一切の悪意ないままやってのける。
 なまじ悪意がないから読めない、悟れない、事によっては起きた後でもそれが彼女の仕業と気付けない。

 恐るべきステージスター。
 舞台座の怪人。
 そんな"かつての自分"に、猫耳少年は問いかける。

「それもそうだけど、もうひとつの方さ。あまりうるさく言うつもりはないけどね」
「そっちも含めて、"まあね"だよ」

 山越風夏は不変である。
 が、不変すぎた。
 祓葉が未知を愛すると知り、説いておきながら、他でもない自分自身が過去の殻に収まっている。そんな陥穽を抱えていた。

「ジャックは見違えてた。ノクトは一見すると私の知る彼のままだったけど、よ~く観察してみるとやっぱり微妙にらしくなかった」
「つまり?」
「君の言う通りだったよ、ライダー。未来の私、ハリー・フーディーニ。
 私としたことが舞台の仕込みが楽しすぎて、肝心のマジックを怠っていたみたい」

 これじゃミロクのことを笑えない。
 けらりと笑って、くるり、ターン。
 後ろの"自分"を振り向いて、いたずらっぽく舌を出す。
 ボーイッシュな美貌でそれをやるからこその、小悪魔めいた色気が滲む。

「他人事のように思っていたけど、体感してみるとこいつはなかなか厄介だ。
 なるほど――これが"狂気"か。これが太陽に近付いた代償か。いいじゃない、実に面白い!」

 『ハリー・フーディーニ』は、悪意を知らない。
 常に奇術の実践と限界からの脱出に腐心する彼女達にとっては、何かを憎み恨むという発想そのものがなかったのだ。
 だから我が身で味わって初めて気付いた己の狂気の根深さにも、苛立つどころか諸手を挙げて歓迎してみせる。

 自分が自分のまま、いつの間にか自分でなくなっていた事実。
 それを未来の自分とはいえ、他人から気付かされたその屈辱。
 すべて愛おしい。不確定要素(イレギュラー)は怒りでなく喜びで出迎えるものと決めている。
 それにこれもまた――"彼女"が自分へと刻んだスティグマなのだ。
 ならばどうして忌み嫌うことができようか。鼻を明かされたあの感覚から、どうして目を逸らすことができようか!

「……楽しそうで何よりだけど、結局これからどうするんだい?」

 確かに、此度の聖杯戦争は前回にもまして異常づくめの地獄篇。
 これを素材に紡ぐ舞台は、さぞや華々しく意外性に溢れたものになるだろう。
 しかしそれだけでは足りないのだと、山越風夏は知った。
 ならばどうするのかと、猫のハリーが当然の問いを投げる。
 風夏はそれに対して、よくぞ聞いてくれましたとばかりにウインクした。

「マジックとは意外性だよ。君に言うのは釈迦に説法ってものだろうけどね。
 ただ盛り上げてどんちゃん騒ぎするだけなら、ステージに立つのがマジシャンである必要はない。
 そこで私は考えたんだ。あの子が、いいやあの子達が、いちばんびっくりすることってなんだろうって」

 くるくる、くるくる。
 回る、周る、廻る。
 舞台は回る。衛星は周る。運命は廻る。

 その帰結として、この聖杯戦争は開催された。
 ある筈のない、起こる筈のない"二度目"。
 祓葉のゲーム盤、願いたちのヴァルハラ。

 祓葉はそれでいいのだろう。でも、それだけではない筈だ。
 神寂祓葉が存在するのならこの世界には当然、その相棒も顕現している筈。
 祓葉の願いが永遠に続く遊戯舞台だとしても、"彼"の願いは絶対に違う。

 だってそうでないのなら、わざわざこういうカタチを取る必要がない。

 そも聖杯戦争とは、本懐を遂げるための看板として用立てる建前だ。
 聖杯に魂を溜め込んで。聖杯を起動させ、願いを叶える/大義に至る。
 黒幕は祓葉ではなくそのサーヴァント。彼女を真の恒星に変えた科学者、オルフィレウス
 だとするならば、彼の計画に孔を空けることは必然、共犯者たる祓葉の度肝を抜くことにも繋がるのではないか。

「それってさぁ。全部台無しにされちゃうことだと思うんだ」

 山越風夏は、そう考えた。
 蛇杖堂の拠点を出てわずか数分で結論に至った。
 勢い任せの早合点と笑うならば愚かだ。
 彼女は奇術師。そしてそのマジックは、ある一点に究極まで特化している。

 彼女が"それ"の達人だったからこそ、〈はじまり〉のマスター達は祓葉以外誰もその存在を捉えられなかった。
 策をすり抜け、暴力を躱し、視られた時点で終わりと謳われる必滅の焔さえも空を切らせる。


「例えば聖杯に焚べて薪にする予定の魂が、急に何個か消えちゃったりしたら――あの子達、すっごくびっくりしてくれると思わない?」


 〈脱出王〉――――それが彼女の称号(な)だ。

 あらゆる檻を自由自在にすり抜ける奇術の達人。
 その才能を自分以外の誰かに使えないなんて、彼女は一言も言っていない。


「…………、………………呆れた。君、世界を壊す気なのかい」
「それが必要とあらば、喜んで」
「具体的なプランは浮かんでいるのか?」
「さっき思い付いたことだからねぇ。そこら辺はこれから、かな」
「もっかい呆れた。二割増しで」
「じゃあさ、逆に聞くけど――」

 オルフィレウスの陰謀、その実体は未だ光の彼方。
 されど彼は確実に、この聖杯戦争を何かの踏み台に用いようとしている。
 これはそのために創造された世界。いわば都市そのものが彼の巨大な工房なのだ。
 そこに孔を穿ち、あまつさえ孔の向こうに貴重な演者を放り出してしまったら?
 勝利することなく元いた処に還ってしまうという横紙破りを、彼らの知らないところで誰かがやらかしてしまったら――?

「――私(ぼく)にできないと思うかい?」

 山越風夏が。
 七生のハリー・フーディーニが九生の己へ問う。
 九生、一瞬の沈黙。
 その後、静かに答える。いや、応える。

「不可能では、ないだろうね」
「ぶー。そこは"できる"って断言してほしかったな」
「今のぼくにそれほどの自信はないよ。
 けれど情熱に燃えるかつての私(きみ)と、九生の果てたるぼくの"共演"ならば」

 ――不可能では、ないだろう。
 相棒の答えに、風夏は満足そうに微笑んだ。

 聖杯戦争がその意味を失ってしまえば。
 必然、都市のすべては茶番に堕ちる。
 世界が壊れるのだ。被造物にとって意味の喪失は死と同義。

 土台を失い、砂の城は崩れ落ちていく。
 かつて悪徳の狩人と共演していた時と同じように。
 〈脱出王〉が至った結論は、此度もまた同じ。

 聖杯戦争を辱め、その運命を凌辱する。

 それはある者にとって、希望となるだろう。
 またある者にとっては、絶望となるだろう。
 世界を創造した神々にとっては、最悪の破滅となるだろう。

 〈脱出王〉は悪意を知らない。
 だが同時に、善意も知り得ない。
 彼/彼女にとってそれらは等しく不必要。
 いつだってその躍動は舞台のために。
 奇術の映えに必要ならば、ハリー・フーディーニは世界だって焼き捨てる。

「さあ、忙しくなるよ」

 物語のピースが、またひとつ埋まる。
 〈この世界の神〉。
 〈はじまりの六人〉。
 〈恒星の資格者〉。
 〈神殺し〉。
 そして、この時生まれ落ちたのは――

「共に踊ろう、ハリー・フーディーニ。
 九生の果てへと至り、それでも脱出の宿痾から逃げられなかった哀れな私。
 これが私達が挑む、最後にして最高の檻だ」

 ――〈世界の敵〉。



◇◇



「ドブネズミめ。相変わらずあの野郎だけは好かねえな」

 通話を切り、ノクト・サムスタンプは奇術師の憎たらしい笑い声を反芻しながら悪態をついた。
 まったくもって予想外の展開だったが、そういう輩だったと思い出せたのはある意味では得かもしれない。
 最優先事項を除いても、やはり決戦においては何とかしてあの鼠の排除を試みるべきだろう。
 改めて確信できただけでも収穫だ。それに、得られたものは他にもある。

(ジャックは必ず顔を出す。聯合の秘密兵器を知られるのは具合悪いが、そうなったらなったで問題ねえ。
 夜は俺の時間だ。あのクソジジイにだってそう遅れは取らねえさ――それに)

 まず、蛇杖堂寂句の参戦を事実上確約できたこと。
 思っていた形ではないにしろ、最初の目的は遂げられた。
 ノクトも狂人だ。同じ星に目を灼かれた残骸(レムナント)だ。
 だからこそ分かる。蛇杖堂寂句は必ず来ると。であればこの時点で、もう賭け金は回収できたも同然。

(思わぬオマケが付いてきた。イリスはともかく、赤坂の変化を知れたのはでかすぎる。
 アレの魔眼をとりあえず警戒しないで済むなんて、いやはや"狂気"様様だな)

 その上で、〈はじまりの六人〉のうちふたりの現状についてまで聞けた。これはまさに嬉しい誤算だった。
 特に赤坂亜切。彼の魔眼は前回、ほぼほぼ必殺に等しい暗殺兵器であった。
 しかし寂句によれば、恐るべき嚇炎の魔眼は既に壊れているらしい。
 暴君はそれ以上を語らなかったが、推察するに、大方精密性を失った代わりに辺り構わずあの嚇炎を撒き散らすスプリンクラーに成り果てているのだろう。

 言うなれば壊れた嚇色、ブロークンカラー。
 だとしても亜切の力量・出力を鑑みれば十分に脅威ではあるが、視線ひとつで確殺されるリスクが消えてくれた事実が大きすぎてお釣りが来る。
 楪依里朱についても、煌星満天の調査結果次第ではこれで限りなく正體に迫れる筈。最も警戒すべき五人のうち、ふたりの手の内が透けたわけだ。

(ホムンクルスについては知ってるのか知らないのか……
 あの爺さんなら知った上で、俺が奴と邂逅したのを見抜いた上であえて伏せて来たとしても不思議じゃねえな。
 だがいい、今のアイツはただの人形だ。優先順位はやはりイリスと赤坂、そして爺に〈脱出王〉。
 暴いておきたい連中の内情が粗方透けてくれやがった。嬉しいねぇ、ワインでも開けたい気分だぜ)

 すべては順調に転がっている。
 不確定要素の出現は世の常。
 煌星満天や〈脱出王〉がそうだが、ノクト・サムスタンプは稀代の策謀家である。
 イレギュラーさえ噛み分けて、柔軟にプランを修正し、最後にはすべてを持っていく。
 それができるのが彼だ。だからこそこの男は、〈はじまりの聖杯戦争〉で脅威の双璧として君臨することができたのだ。

 通話の切れたスマートフォン。
 画面を見て、時刻を確認する。
 予定より会談が長引いてしまったが、それでもまだまだ決戦までは時間がある。
 これだけあればひとつふたつは手を打てる。既存の策の補正に走る余裕さえあろう。
 で、あるのならば――。

 ノクトは画面をタップし、事前に記録しておいた数字の羅列を呼び出した。

「今の内に片付けておくべきだな。憂いを抱えたまま祭りに臨みたくはねえ」

 その電話番号は、メモ帳アプリに記録されていた。
 つまり、実際に連絡したことはない番号だ。
 何故そうしたのか。策謀家を謳うにしては、あまりに手が遅いというものではないか。
 そんな疑問への答えは、この一言で事足りる。

「はてさて、鬼が出るか。それとも」

 ――本格的に夜が深まるまで、できれば"この存在"とは関わり合いになりたくなかったのだ。


()が出るか、だな」


 ノクト・サムスタンプは、東京の芸能界をほぼほぼ掌握している。
 テレビ局はもちろん、そこにタレントを送り込む芸能事務所も目ぼしいところは大体押さえている。
 彼にとってそれは、来たる修羅場に備えて擁した事前準備のひとつでしかないが。
 それでも人形の街において、非情の数式の頭脳はあまりに劇物。
 瞬く間に彼はこの国の、エンターテイメントの中枢に根付いた。
 その彼が唯一、確かな戦果を残せなかった会社がある。
 ノクトをして不可解と呼ぶ他ない不測の失敗が重なり、今に至るまで根を張り切れなかった場所が。

 ――しらすエンターテイメント。

 数多の芸能人を輩出してきた名門事務所だ。
 大御所から、毎日のようにSNSを賑わせる活きのいい新参まで幅広く育成する芸能拠点のひとつ。
 そこにも当然ノクトは手を伸ばしたが、結果は先に述べた通りだ。
 配置した人形がどういうわけか機能不全に陥って、制御が利かなくなる。
 得た情報がことごとく間違っている。かつてない不明な状況に、さしものノクトも首を捻るしかなかった。
 結果的に此処からだけは手を引きつつ、動向を見守ることにしたのだったが。
 どうにも怪しい名前は既に浮かんでいる。奇妙奇怪が渦巻くしらすエンターテイメントの中で、最もその正確な実体を測れない闇の存在。

 代表取締役社長……『綿貫齋木』。
 ノクトはこれを、最大限に警戒すべき名前のひとつとして頭の中に埋めていた。

 長きに渡り、策謀ひとつで世を渡り歩いてきた傭兵。
 その勘が告げていたのだ。これは、安易に首を突っ込めば痛い目を見るヤマだと。
 だから秘めてきた。この番号を今の今まで塩漬けにしてきた。
 されど都市は戦乱に揺れ動き、均衡の崩壊は確実となり、そして時刻は夜を示している。

 今が最善である。そう考えて、ノクト・サムスタンプは電話番号をペーストし、発信ボタンを押した。

 電波の先で待つのは暗きもの。
 星の対極、最大の闇。
 〈支配の蛇〉が、そこにいる。
 竜虎相打つ。巨大なる蛇は時に、竜に擬えられるものだ。



◇◇



「ク――――」

 〈脱出王〉が去り。
 〈夜の虎〉の声が消えた、日本家屋の中で。
 〈暴君〉たる老人、蛇杖堂寂句は笑みを浮かべていた。

 不敵な笑みだ。
 世界のすべてを恐れもせず、神さえ踏みしだく者の顔だった。
 それもその筈、彼はまさしく神に否を唱える者。
 〈この世界の神〉たる少女に挑戦する、嗄れた挑戦者(チャレンジャー)。
 であれば傲慢な破顔をすることに一体何の躊躇いがあろうか。
 ましてや、自身にとって願ってもない霹靂が訪れた後であれば尚のことだ。

「褒めてやるぞ、無能ども。よくぞ舞台を用立てた。アレが舞い降りるに足る戦場を作ってくれた。
 かねがね状況は窺っていたが、よもやこうも早くその時がやって来るとは思わなんだ。
 認めよう、〈脱出王〉。そしてノクト・サムスタンプ。貴様らは今間違いなく、この私の役に立ってみせた」

 半グレの決戦、それ自体に興味はない。
 寂句は賢人でありながら、しかし今は〈はじまりの六人〉の中で最も視野が狭いと言っていい。
 されどそれは愚か故ではない。世界を見ることよりも、単一の目標を見ることこそ肝要と彼はその頭脳でもって導き出したのだ。

 すなわち、神寂祓葉。
 空の太陽、白き神、理の破壊者、天地神明の冒涜者。
 己に恐怖を教えた者であり。己が天へ導かねばならぬ者。
 言ってしまえば寂句の目的、願いと呼べるものはそこにしかない。
 すべては、恐るべき太陽を地上から放逐するために。
 それだけのために彼は考え、行動し、武力を遣うのだ。
 だとすればああまさに、十二時過ぎの決戦は願ってもない最高の舞台であった。

「征くのですか、マスター・ジャック」
「ああ。打って出る」

 そう――蛇杖堂寂句に、この機を逃す選択肢は存在しない。
 ノクト・サムスタンプが噛んだ戦場に顔を出す意味とリスク。理解している。
 理解しているが、それよりも優先すべき事項が在るのだから是非はない。

 白い少女は、祭りの気配を見逃せない。
 何故ならアレは、都市の誰より幼いから。
 都市の誰より無垢で、純真そのものの生き物だから。

「貴様も備えておけ、ランサー。我々の意義のすべてがじきに来る」

 病院で邂逅した時は、まだその時ではなかった。
 アレが最も燃え盛り、輝きを放つのは鉄火場の中だ。
 命燃え尽き、悲劇咲き乱れるそんな惨憺たる地獄篇の中。
 そういう場所でこそ、白い少女は最大の花を咲かせる。

 三人の狂人が揃い踏み、数多の因縁が交差する深夜零時。
 これはまさしく、現状考えられる中で最大の据え膳となるだろう。
 この世界の主役が降臨し、そのおぞましさのすべてを発揮する大舞台。
 大祓の時が来る。あらゆる願い、因果を祓い、神の色に合わせる神話の時間が。

 なればこそ。
 蛇杖堂寂句は打って出る。
 星を相応しい場所へと還す槍を背負って。
 疼き焼け付く畏怖/狂気と共に迎える決別の時が、そこにあると信じて。

「私が診る。私が診す。その上で過たず施術を下せ。
 輝く病巣を除く時だ。その一点においてのみ、私は貴様に期待している」

 ――すべては午前零時、決戦の時へ。
 因果が収束する。運命が収斂する。誰かにとっての終わりが来る。


「勝つのは、我々だ」



◇◇



【品川区・路上/一日目・日没】

山越風夏(ハリー・フーディーニ)
[状態]:健康、うきうき&はりきり
[令呪]:残り三画
[装備]:舞台衣装(レオタード)
[道具]:マジシャン道具
[所持金]:潤沢(使い切れない程のマジシャンとしての収入)
[思考・状況]
基本方針:聖杯戦争を楽しく盛り上げた上で〈脱出〉を成功させる
0:――いいじゃないか、やってやろう!
1:他の主従に接触して聖杯戦争を加速させる。
2:世界に孔穿つ手段の模索。脱出させてあげる相手は、追々探ろう。人選は凝りたいね。
3:悪国征蹂郎のサーヴァントが排除されるまで〈デュラハン〉に加担。ただし指示は聞かないよ。
4:うんうん、いい感じに育ってるね。たのしみたのしみ!
5:レミュリンの選択と能力の芽生えに期待。
6:祓葉が相変わらずで何より。そうでなくっちゃね、ふふふ。
[備考]
準備の時間さえあれば、人払いの結界と同等の効果を、魔力を一切使わずに発揮できます。

〈世界の敵〉に目覚めました。この都市から人を脱出させる手段を探しています。

蛇杖堂寂句から赤坂亜切・楪依里朱について彼が知る限りの情報を受け取りました。

【ライダー(ハリー・フーディーニ)】
[状態]:健康
[装備]:九つの棺
[道具]:
[所持金]:潤沢(ハリーのものはハリーのもの、そうでしょう?)
[思考・状況]
基本方針:山越風夏の助手をしつつ、彼女の行先を観察する。
0:我ながら呆れた馬鹿だけど……まあ、悪くないか。
1:他の主従に接触して聖杯戦争を加速させる。
2:神寂祓葉は凄まじい。……なるほど、彼女(ぼく)がああなるわけだ。
[備考]
準備の時間さえあれば、人払いの結界と同等の効果を、魔力を一切使わずに発揮できます。


【???/一日目・日没】

【ノクト・サムスタンプ】
[状態]:健康、恋
[令呪]:残り三画
[装備]:なし
[道具]:なし
[所持金]:莫大。少なくとも生活に困ることはない
[思考・状況]
基本方針:聖杯を取り、祓葉を我が物とする
0:『綿貫齋木』に通信で接触する。鬼が出るか、――蛇が出るか。
1:当面はサーヴァントなしの状態で、危険を避けつつ暗躍する。
2:ロミオは煌星満天とそのキャスターに預ける。
3:とりあえず突撃レポート、行ってみようか?
4:当面の課題として蛇杖堂寂句をうまく利用しつつ、その背中を撃つ手段を模索する。
5:煌星満天の能力の成長に期待。うまく行けば蛇杖堂寂句や神寂祓葉を出し抜ける可能性がある。
6:満天の悪魔化の詳細が分からない以上、急成長を促すのは危険と判断。まっとうなやり方でサポートするのが今は一番利口、か。
[備考]
 東京中に使い魔を放っている他、一般人を契約魔術と暗示で無意識の協力者として独自の情報ネットワークを形成しています。

 東京中のテレビ局のトップ陣を支配下に置いています。主に報道関係を支配しつつあります。
 煌星満天&ファウストの主従と協力体制を築き、ロミオを貸し出しました。

 前回の聖杯戦争で従えていたアサシンは、『継代のハサン』でした。
 今回ミロクの所で召喚された継代のハサンには、前回の記憶は残っていないようです。

 蛇杖堂寂句から赤坂亜切・楪依里朱について彼が知る限りの情報を受け取りました。


【品川区・蛇杖堂寂句の拠点(スペア)/一日目・日没】

【蛇杖堂寂句】
[状態]:疲労(小)、魔力消費(小)、右腕に大火傷
[令呪]:残り2画
[装備]:コート姿
[道具]:各種の治療薬、治癒魔術のための触媒(潤沢)、「偽りの霊薬」1本。
[所持金]:潤沢
[思考・状況]
基本方針:他全ての参加者を蹴散らし、神寂祓葉と決着をつける。
0:――時は定まった。であれば備えるのみ。
1:神寂縁とは当面ゆるい協力体制を維持する。仮に彼が楪依里朱を倒した場合、本気で倒すべき脅威に格上げする。
2:当面は不適切な参加者を順次排除していく。
3:病院は陣地としては使えない。放棄がベターだろうが、さて。
4:〈恒星の資格者〉は生まれ得ない。
[備考]
神寂縁、高浜公示、静寂暁美、根室清、水池魅鳥が同一人物であることを知りました。
神寂縁との間に、蛇杖堂一族のホットラインが結ばれています。
蛇杖堂記念病院はその結界を失い、建造物は半壊状態にあります。また病院関係者に多数の死傷者が発生しています。

蛇杖堂の一族(のNPC)は、本来であればちょっとした規模の兵隊として機能するだけの能力がありますが。
敵に悪用される可能性を嫌った寂句によって、ほぼ全て東京都内から(=この舞台から)退去させられています。
屋敷にいるのは事情を知らない一般人の使用人や警備担当者のみ。
病院にいるのは事情を知らない一般人の医療従事者のみです。
事実上、蛇杖堂の一族に連なるNPCは、今後この聖杯戦争に関与してきません。

アンジェリカの母親(オリヴィア・アルロニカ)について、どのような関係があったかは後続に任せます。
→かつてオリヴィアが来日した際、尋ねてきた彼女と問答を交わしたことがあるようです。詳細は後続に任せます。

赤坂亜切のアーチャー(スカディ)の真名を看破しました。

【ランサー(ギルタブリル/天蠍アンタレス)】
[状態]:疲労(中)、全身にダメージ(中)、消沈と現状への葛藤
[装備]:赤い槍
[道具]:なし
[所持金]:なし
[思考・状況]
基本方針:神寂祓葉を刺してヒトより上の段階に放逐する。
0:――征くのですね、マスター・ジャック。
1:蛇杖堂寂句に従う。
2:ヒマがあれば人間社会についての好奇心を満たす。
3:スカディへの畏怖と衝撃。
4:霊衣改変のコツを教わる約束をした筈なのですが……言い出せる空気でもなかったので仕方ないですが……ですが……(ふて腐れ)



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最終更新:2025年04月09日 00:49