コンペロリショタバトルロワイアル@ ウィキ

厨房のフリーレン

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だれでも歓迎! 編集
勇者ヒンメルの死から28年後。
戦闘実験プログラム島。海馬乃亜領。



───厳密には君たちのその技術は魔法とは違う様だから畑違いの意見になるけど…
───魔法の世界ではイメージこそ重要なんだ。魔法の世界ではイメージできないモノは実現できないからね。



伝説の魔法使いフリーレンの口からその言葉を聞いた時。
学園都市の超能力開発と同じだ、と写影は思った。
能力開発において、Personal Reality(自分だけの現実)という概念がある。
学園都市の能力者にとって超能力の源であり、超能力の存在する現実とはズレた世界を観測し、そのミクロな世界を操る力。
これは言う者が言ってしまえば己だけにしか見えない妄想、思い込みであり。
また現実にはあり得ぬ不可能を可能であると、可能性を信じる意志の力だとする者もいる。
尤も、その是非は今の写影にとってどうでも良かった。
重要なのは、フリーレンのそのアドバイスは、自身の能力の向上に通じるモノだった、という事だけ。


───イメージしろ。そして信じるんだ。今重要なのは、精度を上げること。


できると、信じる。
空気を吸って呼吸するように。
HBの鉛筆をべきっとへし折る様に。
出来て当然と、そう思う事だ。
支給された帝具、スペクテッドは自分の演算能力の補助装置。
『身近な範囲の未来の不幸を予知し、それを写真映像として投影する』
この能力は自分が観測する能力であり、他人に観測結果を見せられる能力でもある。
能力を拡大解釈しろ。幅を広げろ。
想起するのはガッシュの兄であるゼオンをやりすごした時の感覚。
電撃に貫かれる未来を予見し、またその映像を投影する事によってあの状況を切り抜けた。
自分にできる事は、“視る”だけだ。だから、その一点を極めぬけ。


───残念だけど、ハッキリ言って付け焼刃の力じゃ戦い慣れている相手には勝てない。
───見習い魔法使いの実戦での死亡率、聞きたい?


確かに、そうなのだろう。
この努力は無駄なのかもしれない。
結局の所自分の力ではこの島に跋扈する強者たちには逆立ちしても勝てなくて。
全てが徒労に終わるのかもしれない。


(でも…例えそうでも、自分は出来るだけの事をやった。そう思いたいじゃないか)


ゼオンはこの島でも強者に位置する子供…だと思う。
そんな彼にも、自分の能力…と言っていいが分からないが、一度は通用したのだ。
もう一度やれと言われてできる自信はないけれども。
それでも、一度通用したなら可能性はあると思いたかった。
だからこそ休息もそこそこに、こうして能力の研鑽を試みている。


(…でもやっぱり、遠視と透視を組み合わせるのは厳しいな…負担も大きい)


スペクテッドを使用し演算を補助したとしても、能力の拡大解釈には限度がある。
能力の負荷で鼻から流れ出る鼻血を袖で拭いながら、それを認識した。
これ以上能力を高めるために能力を使用すれば、実戦時に体力切れの憂き目に遭うかもしれない。それでは本末転倒だ。
根を詰めすぎず、また改めて休息を取ろう。
丁度そう思った、その時だった。

「写影さん。今、少し宜しいですか?」


こんこんと部屋をノックするのは、この島で最初に出会った女の子だった。
どうぞ、と短く返事を待ってから、桃華が入って来る。
その瞬間、写影はさっと視線を逸らした。
理由は単純、発動したままの透視により、色々見えてしまうのではと懸念したからだ。
服の下が見える程度ならいいが、最悪の場合臓物すら見える恐れがある。
そうなる前に、素早く能力の行使を停止し、向き直る。
どうしたのか尋ねる前に、桃華の視線が、写影の顔のある一点に集中している事に気づく。


「写影さん、鼻血が……」


どうやら、拭い残しがあったらしい。
慌ててごしごしともう一度袖で顔を拭おうとするが、桃華はそれを手で制す。
そのままポケットから取り出した一万円以上しそうなハンカチを取り出して、そして言った。


「じっとしてくださいまし」


そっと、繊細なガラス細工を扱うような手つきで優しく血を拭う。
高そうなハンカチが汚れると、写影が指摘する暇もない、迷いのない所作だった。
そして、真面目な視線で、桃華は静かに問いかけた。
何を、なさっていたんですの?と。
写影の瞳が、動揺で僅かに揺れる。
はぐらかすことも、誤魔化すことも後から考えれば幾らでもできた問いかけだった。
でも、桃華の瞳を見ていたら…何故か、正直に答えてしまった。
これから、少しでも生き残れる様に、能力の練習をしていた、と。


「……君の言いたい事は分かる。けど、僕には、これしか無いんだ」


視る事には長けていても、言ってしまえば写影の能力はそれまでだ。
自前の能力と組み合わせれば、雷帝すら欺く事ができても、彼自身に戦闘能力は無い。
頭脳で言っても同い年の少年少女よりも多少は利発で、大人びているけれど。
それでも子供の域を跳びぬけている訳でもない。

視ること以外に、特に何か役立てるスキルがある訳でもない。
あらゆる異能を打ち消せる右手を持っている訳でも。
あらゆる向き(ベクトル)を操る能力を持っている訳でも、ない。
空間転移(テレポーター)の風紀委員の少女ほど荒事の経験を積んでいる訳でも。
何より、彼女の様に何があっても揺るがない正義の心を持っている訳でもない。

怖いし、帰りたいけれど、同時に自分がきっと生きて帰る事ができる可能性は。
きっと、低いだろう。
同年代の子供より多少聡明な客観性を持っているからこそ、そう考えてしまう。


「…ボクみたいなただの子供が生き残ろうと思えば、多少の無茶は通さなきゃいけない」


無理も無茶もしなければ、遠からず写影は骸を晒す。
この世界(バトル・ロワイアル)は、力こそ全てにおいて優先されるのだから。
力のない正義を掲げても、それは余りに儚く脆い。
自分をかつて助けてくれた正義の味方である少女は、「貴方と私は似ている」と言ってくれたけど。
それでもきっと、自分が正義の味方(ヒーロー)になれる時は、きっと来ないと。
写影は信じて疑わなかった。


「…そうかもしれません。わたくし達が生き残るには、多少の無茶もきっと必要ですわ」


桃華の言葉から出たのは、意外にも肯定だった。
それでも無茶はいけないと釘を刺される事を予想していたし、それも真実ではあったから、頷くつもりだったけれど。
続く彼女の言葉は、写影にとって予想していなかった物だった。




「……ですが、視る力以外何もない何て、わたくしは言ってほしくありません。
だって、最初に出会った時も、わたくしが一人で凍り付きそうになっている時も…
写影さんは、もう二度も、わたくしを助けてくれたではないですか」


告げる桃華の視線は、写影への信頼の光を湛えていて。
けれど当の本人である写影にとってその視線は、一言で言って重かった。


「……そんなんじゃない。僕はそんな信頼に足る人間じゃない。能力も、心情も」


買い被りも甚だしい。
雷帝を欺いた未来予知と幻視の合わせ技も、所詮はまぐれだ。
もう一度やれと言われてできる自信は、皆無だと断言してもいい。
そして、自分はそんな高潔な人間でもない事は嫌と言う程分かっている。
だって、桃華を励ましたあの時、自分が考えていたのは。


───アンタが不幸を呼び込んでるんじゃないの?


その言葉を、否定したかった。ただそれだけだったのだから。


「あの時…とても酷い夢を見て……そこで言われたことを認めたくなかった。
僕が不幸を呼び込んでるわけじゃないんだって、そう証明したかった。
君を励ました言葉も、そんな考えから漠然的に出てきたものでしか…ないんだ」


何のことは無い。つまるところ、自分の逃避のためでしかなかったのだ。
全部、自分のためだった。
自分に対する黒い物が、胸の奥から噴きあがって来る。気持ち悪い。
俯いて、視線を上げる事ができない。
もし彼女から向けられる視線が大河内と同じ、嫌悪と侮蔑を含んだものだったら。
話してからその可能性に行きついて、恐怖で半ズボンの裾をぎゅっと握る。


「……それでも、わたくしの言うべきことは前に言った事と、変わることはありません」


対する桃華の言葉は、以前変わりなく穏やかな物だった。
佐藤マサオが彼女に母性を感じ取った様に、まるで失敗した子供を慰める様な声色で。
それでいて決然とした態度で、灰被りの少女は不幸の未来を視る少年に思いを届ける。


「写影さんがあの時何を考えていようと、わたくしは写影さんの言葉に助けられました。
その事実は変わりません。写影さんにだって、それは変えられません。
確かに、写影さんよりずっと立派で、力も強い方がここにはいるのかもしれませんが…」


先ほどまでと違って、反論ができない。
彼女の浮かべるその柔らかな微笑から、目が離せない。
誰もが目を奪われていく、一番星の生まれ変わりだと言われても。
その言葉を信じてしまいそうなほどに、櫻井桃華と言う少女には、人を惹きつける雰囲気を纏っていた。


「───それでも、あの時わたくし達を助けてくれたのは写影さん、貴方です。
貴方がいなければ、わたくしも、マサオさんも、赤ちゃんも、きっと亡くなっていました」


眼は口ほどに物を語る時もある。
貴方がそう思ってくれないのなら、何度でも私はそう言いますわ。
言葉にしなくても、桃華の思いは写影に確かに響いた。


「写影さんが戦えなくても、私や、フリーレンさん、ガッシュさん、一姫さんもいます。
皆さんと助け合いましょう。独りで何でも解決できてしまう方は……
きっとこの島で、首輪をつけられて目覚めてはいませんもの」



力を籠めて、桃華はそう伝えて。
そして、真剣な眼差しで写影の手を握った。
……暖かい手だった。でも、震えていた。
それを認識した時、写影ももう、桃華の言葉を否定する事はできなかった。


「……そう、だね。そうかもしれない」


何に対して肯定したのか、写影にも具体的には何とも言えなかった。
自分が桃華達を助けた事か。それとも助け合おうという提案に対してか。
それとも、独りで全部を解決できてしまう、都合のいいヒーローはきっとこの島にはいない、という事か。

それは分からなかったけれど。それでも、明確に認識した事もある。
桃華は、今でも震えが止まっていない。
彼女は、今もまだ、押しつぶされそうな恐怖に耐えている。
耐えたうえで、こうして自分を立ち上がらせようとしている。
それなのに、自分がいつまでも不貞腐れている訳にはいかない。
これ以上、彼女の優しさに甘える恥知らずにはなりたくなかった。


「───ありがとう。桃華。もう大丈夫」


そう言って、ぎこちなくても笑みを作る。
普段あまり使わない表情筋を総動員して、半ばやせ我慢で作った、オンボロの笑顔。
しかしそれでも、桃華はそれを見て華のように笑い返すのだった。


「……良かった。写影さん。やっと笑ってくれましたわね
これでダメなら、わたくしはアイドルとして才能がないのか疑ってしまいましたわ」

「いや、それは無いよ。君は根っからの…アイドルだと思う」


言葉と共に、もう一度笑い返す。
今度は、さっきよりもマシな笑顔が返せた気がした。
二人で笑い合った後、ところでと話を変えてみる。
さっき自分を呼びに来たのは、何か用があったのでは?と。
「あ」と桃華は忘れていた様な生返事を返して。


「そ…そうでしたわ!フリーレンさんが何か大変な事になっていて…
一緒に来ていただけますか、写影さん!!」

「…………?分かった、けど…」


何があったのかは知らないが、自分が研鑽している間に何かあったらしい。
桃華に促されるままに、フリーレンがいる部屋へと赴く。
何があったのか桃華に聞いてみても、何とも返答に困った様な顔をしていて。
兎に角実際見て欲しいという桃華の要請のままに、写影はフリーレンがいるという部屋に急いだ。









「暗いよ怖いよー!!!」



RPGゲームに出てくる宝箱のような物体から、尻が生えていた。
挟まっている訳でなければ出ればいいだろうと見る者は思うがそんな簡単な話ではない。
何故なら、尻が生えている箱の開閉部分には何故か鋭利な牙が生えている。
鋭利な牙で以て、尻から上の上半身をがっちり固定しているのである。
その割には挟まれている者はお尻をフリフリ振って余裕そうだが……
何これ、と言う顔で写影はその物体を指さし、傍らの桃華に尋ねる。



「……?」

「わたくしも写影さんと同じく休んでいたのですが…フリーレンさんに呼ばれまして。
写影さんも連れてこようとフリーレンさんが仰るので、一緒に呼びに行った途中、
この箱を見つけて…それでフリーレンさんがもしこうなったら、写影さんを呼んで助けて欲しいと…」

「で?こうなったの」

「はい……」


フリーレンが、写影達に語ったことはそう多くはない。
曰く、伝説上の存在であるエルフであること。
曰く、魔法使いであること。
曰く、旅をしていたこと。
曰く、数百歳を超えていること。
そして、これは直接語られた訳ではないが、荒事にも精通していること。
その彼女が、箱に食われて尻を生やしている。
一言で言って、困惑する光景だった。



「遅いよ~~早く助けて~~…」



フリーレンの催促の言葉に、はっと我に返る。
そうだ、早く助けてあげなければ。
そう思ってフリーレンの片足を掴む。
女性には普段から紳士的である様心がけている写影だったが、今は緊急事態だ。仕方ない。
片足を掴んだ写影を見て、桃華も慌ててもう片方の足を持って引っ張るが。


「いだだだだだ……押して、押してくれる?」


食らいついた宝箱は中々フリーレンを離さない。
そこで彼女の指示通り足を持ってせーので押し込んでみる。
すると宝箱はえづいた犬のようにぺっとフリーレンを吐き出した。
吐き出された瞬間、フリーレンは地面に落ちていた杖を拾い、魔法を放つ。
放たれたのはゾルトラーク。一撃で宝箱の怪物は黒い粒子になって消えて行った。
怪訝な顔で、写影はフリーレンに尋ねる。


「……今のは?」

「ミミックだよ。宝箱のフリをして人を襲う魔物だ。
いやー誰かが襲われる前に退治出来て良かった」

「そんなのがいるなら、先に魔法で倒しておけば……」

「本当に宝箱だったらどうするの?貴重な魔導書が入っているかもしれないんだよ?」

「魔物が他の人を襲わない様にするためじゃなかったの?」


写影は思った。
この人、意外と俗っぽいな、と。
でも口には出さず、彼女が自分と桃華を呼ぼうとしていた理由を尋ねる。


「あぁ、私はちょっと厨房に寄るから、先にさっきガッシュたちと話した部屋で待ってて
待ってる人もいるから。大丈夫、この殺し合いに乗ってる様な子じゃない。多分」


どうやら、自分達が個室で休息をとっている間にフリーレンは色々していたらしい。
その上、他の参加者にも出会っていたという。
写影と桃華は顔を見合わせて、取り合えずその人物に会ってみよう、という事になった。
フリーレンと別れ、先ほどガッシュたちと集まった広間に向かう。
取り合えず、警戒されない様にこんこんとノックをして、「どうぞ」と言われてから扉を開ける。
すると、中で待っていたのは茶の豊かな髪にウェーブをかけた、聡明そうな少女だった。
少女は食事をしていたのかその手のナイフとフォークを置いて、口の端を拭い。
理知的な雰囲気で、写影達に名乗った。


「貴女達が写影に桃華ね。ハーマイオニー・グレンジャーよ。よろしく」






ハーマイオニーが、グレイラッド邸に辿り着けたのは全くの偶然だった。
本来であればさっさとホグワーツに向かう予定だったけれど。
あの銀髪の少年に鉄パイプを投げつけられた背中が痛んだのだ。

せめて、手当てがしたい。それに、このまま直接ホグワーツに向かえば。
さっきの男の子がまた追いかけて、ハリーやロンが襲われるかもしれない。
学年主席の自分だから対応できたものの、ロンなどが襲われれば最悪の事態も予想できる。

だから、一旦落ち着いて体の回復に努めるために。
また、銀髪の少年を撒くためにこのグレイラッド邸に寄った形になる。
参加者が善悪問わず寄り付きやすい地図に載っている施設を目指すという考えは、普段の彼女からすれば些か短慮な物だったが。
それでも、今回はうまい具合に嵌まったと言える。
その結果、フリーレンに会う事が出来たのだから。
そうして、この部屋に通されて、今に至る。


「……という訳よ。拾って手当してくれたフリーレンには感謝してるわ。
屋敷しもべ妖精みたいで驚いたけど、まだ本で読んだことのない妖精種がいたのね」

「……ハーマイオニーさんも、魔法使いなんですの?」

「えぇそう。地図にもあったでしょ?ホグワーツ魔法魔術学校で魔法の勉強をしていたの。
イギリスにあるはずのホグワーツが、何故この島にあるのか分からないけど」


ハーマイオニーとの情報交換は淀みなく進んだ。
ゼオン、奇術師の子供、シャルティア、北条沙都子、銀髪の子供…
双方知りえる危険人物の情報を共有し、次にお互いの事や自分達は並行世界から連れてこられているのではという仮説などを話し合った。
両親が歯医者のマグル出身の家庭であるハーマイオニーにとってマグルと話すことはホグワーツに入学するまで当たり前の事だった。
それ故に、純潔の魔法族と違い偏見や先入観を持たずに話し合えたのだ。
……時折、余りにも常識が違う事に彼女は頭が痛そうにしていたけど。


「取り合えず、ホグワーツに向かうのは日が昇ってからにしようと思うわ。
折角貴女達と会えた事だし、まだ私や貴女達を襲った子が近くにいるかもしれないし」

「うん、それがいいよ。君が魔法使いとしてどれぐらい凄いのかは分からないけど……
フリーレンは、頼りになる人だから」


ハーマイオニーにとって、フリーレン達に会えたのは正に降って湧いた幸運だったと言えるだろう。
彼女は本気で、この会場にヘンゼルの様な人間しかいなければ、殺し合いをするしかないと考えていたのだから。
特にフリーレンには傷の手当だけでなく食事まで振舞ってもらった。
相当な魔法の使い手である事も察せたので、守って貰えるという打算もあったものの。
それでも彼女の近くにいるのは自分にとって大きくプラスだ。彼女は冷静さを取り戻した頭でそう考えた。
そんな時だった、フリーレンが大皿を一つ持って部屋に入ってきたのは。


「はいはい、お待ちどう。今のうちにお腹を膨らませとくと良い」

「まぁ……これ、フリーレンさんが作ったんですの?」


そこに盛られていたのは、ハンバーグだった。
皿一面に、ドンと分厚い肉の塊が湯気を立てて鎮座していた。


「凄いでしょ。材料が丁度厨房にあったから作ってみたんだ。
私の仲間アイゼンから教わった、戦士を労う1kgハンバーグだ。味わって食べなさい」


ムフー、と得意げな顔で、フリーレンは巨大な肉塊を食べるように促す。
幾ら食べ盛りの子供でもこの殺し合いと言う緊張下で、腹に収まるかと不安を覚えた写影だったが。
いただきます。と言ってから一口食べると、それは杞憂に終わった。


「美味しい……!」


濃厚な肉の風味が伝わってきて、口の中一面に滋養が満ちてくる。
分厚い肉の塊なのに、口当たりも軽くて、ぱくぱく食べる事ができる。
同じく自分が作ったハンバーグに舌鼓を打つフリーレンの方を見ると、彼女は得意げな顔でムフーと鼻を鳴らし。


「凄いでしょ。何て言ったって魔法がかけてあるんだ」

「何の魔法?」


魔法というフレーズにハーマイオニーが反応を示すが、フリーレンは思わせぶりに笑って。
秘密、とだけ言ってはぐらかした。
ハーマイオニーは一瞬不服そうな顔をするものの、直ぐにハンバーグに口をつけて顔をほころばせる。
全員こんな殺伐とした場所で、こんな料理を楽しめるとは思っていなかった。
これが、最後の晩餐になるかもしれない場所以外で食べたかったが。
そんな考えが全員に浮かびつつも、桃華が肉を飲み込んでからフリーレンに尋ねる。


「アイゼンさんと言う方から教わったのですか?このハンバーグ」

「うん、アイゼンはドワーフの戦士なんだけど、意外とこういうのが好きでね。
今の仲間の…シュタルクが誕生日になったら作ってあげようと思ってたんだ」

「それは素敵ですわね…!きっと、楽しい旅だったでしょう?」



そう問われたフリーレンは瞳を僅かに揺らし。
少しの間沈黙してしまった。
しまった、何か聞いてはいけない事を聞いてしまったか、と。
桃華の胸が仄かに跳ねる。
だが、彼女のそんな懸念とは裏腹に、フリーレンはいたずらっ子の様に笑って。


「勿論。旅をしている日々は、私の長い人生の中でも一番楽しかった。
私の仲間のヒンメルもね。言ってたんだ。どうせするなら、楽しい旅をしよう。って」


彼女の千年を超える生涯の中で。ほんの瞬きの様な日々だったけれど。
それでも、自分の人生が始まったのは森の中でヒンメルに誘われた瞬間だったと、そう思っている。
あの日々こそ、フリーレンの今を形作っている。
あの日々があったからこそ、彼女はこの殺し合いでもその生きざまを変えることは無い。


「……そうだね。きっと、それがいい」


水の入った木のカップを置いて、独り言ちる様に写影が賛同する。
桃華の言葉と、フリーレンの作ってくれた食事のお陰で。
失意の庭の影響は、彼の中から抜けつつあった。


「ありがとう、フリーレン。本当に、本当に……美味しかった
残りがあったら、ガッシュたちにも食べさせてあげれば喜ぶと思う」

「うん、もう余った残りは詰めてある」


多分今日食べたハンバーグの味は、生涯忘れないだろう。
どうしても、もし生きて帰られたら、という枕詞が付いてしまうが。
そうして、食事はその後何事もなく進み、桃華がフォークとナイフを置いて一息ついてから提案する。


「そうだフリーレンさん、後でわたくしにそのハンバーグのレシピ、教えていただけないでしょうか?」

「そうね。私も知識として知っておきたいわ!」

「うん、勿論いい──」


桃華が提案し、ハーマイオニーがそれに賛同して。
提案をフリーレンが快く受け入れようとした、その時の事だった。
フリーレンの挙動が止まる。
何かを察知したように部屋の天井付近の虚空を見つめて。
そして十秒ほど押し黙った後、全員に静かに指示を出した。


「桃華、荷物は纏めてある?」

「え?えぇ、フリーレンさんに言われた通り、写影さんの分も」

「なら良し。ハーマイオニーも自分の荷物は持ってるね?」

「え、えぇ……どうしたの?」


フリーレンの纏っていた雰囲気は、先ほどまでとは違うモノだった。
冷淡で、感情を感じさせない。氷の様な美貌。
かんばせの唇を滑らかに動かして、直ぐに此処を立つ、と告げて。
西側の窓に駆け寄り、素早く開けた。


「…各々荷物を持って準備をして。あと四十秒で此処を出る」

「えっ?でも、一姫さん達は……」

「一姫には私達がここで何かあった時の行き場所も伝えてある。さぁ行くよ」



怒気こそ孕んでいない物の、冷淡なその声は有無を言わせない。
論理性にこだわり、説明を求めがちなハーマイオニーですら一瞥しただけで床に置いてあった自分のランドセルを引っ掴んだ。
写影と桃華は更にその挙動に淀みがない。
二人とも既にフリーレンの指示に従うことが最も生存確率を上げると理解しているからだ。
この場にいる四人の中で、一番フリーレンが危機に対する嗅覚が効き、対処も的確だ。
その彼女が出る、と言った以上、この屋敷には危機が迫っているのは伺えた。


「準備できましたわ!!」


桃華、写影、フリーレンの三人が部屋に持ち込んでいたランドセルを担いで、足早に開けた窓の前に集合する。
ここまで三十秒程。
フリーレンにとっても素人の子供達にしては全員中々優秀な挙動だった。
全員、子供でありながら一定以上の聡明さがあるからだろう──そう思いつつ、フリーレンは桃華に新たな指示を提示する。


「よし、桃華。桃華と私が出会った時の様に突風を起こして私達を打ち上げられる?」

「え?え、えぇ…打ち上げるだけなら。でも、操作まではまだ……」

「十分だ、初速を付けたら私が飛行魔法で軌道は制御する。
桃華はとにかくここから真っすぐの方角にできるだけ強く打ち出して。急いで」


フリーレンが急かしている。
これは尋常な事態ではない。
桃華は突然振られた責任の重い仕事に僅かに逡巡を見せたものの。
直ぐに力強く頷いて窓の前に向き直った。


「皆さん!わたくしの周りに集まって下さいまし!!」


桃華が叫ぶより前に、桃華の周りにフリーレンと写影が集まり、最後に桃華の力を良く知らないハーマイオニーが続く。
全員の肩がぶつかる距離着た瞬間、桃華はその背にスタンド『ウェザーリポート』を顕現。
そして、数時間前に行使した時と同じように突風を発生させる───!!


「な、なにこれ。貴女、マグルじゃ──?」

「黙ってて、舌を噛むよ!!」


ハーマイオニーが知的好奇心を刺激されて尋ねるものの、応えている時間は無かった。
そのまま全員が突風に攫われて、屋敷の外へと打ち出されて行く。
ジェットコースターを降り始めた時のような凄まじい浮遊感が、写影達三人を包む。
そのままぐんぐんと屋敷から離れた所で──風に揉まれる様な不自由さはなくなった。
フリーレンが、飛行魔法を掛けたのだ。
そのまま一同は隣接していたエリアの一番大きな民家の前に降り立つ。
地面にへたり込み、一息ついた後、一体全体どうしたのかを尋ねた。
まだ事態を飲み込めていない三人対して、フリーレンの返答は簡潔だった。


「簡単だよ。私達に害を持っている可能性が高くて、
強い参加者が屋敷まで来ようとしていた」

「確かなの?」


ハーマイオニーの問いかけに、フリーレンは無言で頷く。
そして、そう思った根拠を述べた。


「ハーマイオニー、君と出会った時、屋敷の外だっただろう?
あの時私は、屋敷の近くに結界を張って帰る途中だったんだ」



旅の中で野営の時に張る、魔族や魔物に反応する結界。それが破壊されたという。
一姫には予め結界を張っていない地点を教えているため、ガッシュも問題なく入れるし。
別の場所でガッシュが結界に触れて反応すれば結界は問題なく機能し、少なくともフリーレンは無事で結界内にいるという目印にもなる。
逆に言えば、本来結界を張っているはずの場所に触れてガッシュに何も反応が起きないのなら、それは結界が破壊されているという事になる。
その場合は屋敷の敷地に近づかず、直ぐにその場を離れ、
事前に打ち合わせた通り、放送の二時間後に隣接したエリアであるH-5の一番大きい民家で落ち合う様、一姫と示し合わせていた。


「…君でも、勝てない相手かい?」


写影が少し目を伏せがちに尋ねる。
見渡してみれば、桃華も、ハーマイオニーも、不安げな表情でフリーレンを見つめていた。
この場にいる全員、フリーレンの力量を実際に目の当たりにしたことはないけれど。
それでもこの場で最も荒事に精通しており、永い時を生きる魔法使いである彼女が真っ先に逃げを打った。
それはこの場にいる少年少女たちが不安を抱くに十分な事態だった。
対するフリーレンは、そんな彼等の問いかけと視線に対して。



「勝つよ。私もまだ死にたくはないし」



一言で、そう断言したのだった。
これは、普段のフリーレンらしからぬ発言だったが、敢えて口にした。
フリーレンは熟達した魔法使いではあるが、無敗の存在ではない。
彼女は人生でこれまで11人の魔法使いに敗北を喫した事がある。
魔族が四人、エルフが一人、人間が六人。
打倒した魔王だって、彼女一人では到底太刀打ちできない存在だった。
この会場にも、フリーレン一人では及ばぬ参加者はきっと複数存在している。
それは理解していたが、三人の手前今ここで悲観的になる訳にもいかない。
彼女はフッと笑みを浮かべて。


「でも、私は強い相手と戦うのは嫌いなんだ。逃げて済むなら逃げた方がいいでしょ」


フリーレンが勝ったとしても、犠牲が出てしまっては意味がない。
逃げられるなら逃げてしまった方がいい。
それがフリーレンの決定だった。


「…うん、そうだね。フリーレンの判断は、正しいと思う」


ある意味消極的とも取れるフリーレンの判断ではあったが、守られる立場である者が反感を抱ける筈もない。
むしろ彼女は他の参加者よりも自分達の安全を優先してくれている。
それが汲み取れない程精神的に幼い者は、この場にはいなかった。


「……でも、心配ですわね。ガッシュさん達。争いに巻き込まれなければいいのですけど」



桃華の言葉に、フリーレンは少しの間答えられなかった。
彼女の永い永い人生において、魔族とは殺す物であり。
その身を案じる様な存在では断固として無かったのだから。
恐らく、自分とガッシュが心を真に通わせることは無いだろう。
フリーレンはその聡明な叡智で以てそれを理解していた。
理由は単純、危険だからだ。主に、生還した後が。
魔族に情けをかける恐れを、ほんの一欠けらでも作ってはいけない。
ガッシュが例え善良な魔族であっても、フリーレンの知る魔族はそうではないのだから。
だから、フリーレンは写影達には直接告げぬままに。
ガッシュとはどうしようもなく心を隔てる壁を作っている。
だがそれでも、彼とは一応の仲間である事もまた確かであり。
フリーレンは冷静にその事実を認めて、桃華達にその言葉を送った。



「………心配ないよ、ガッシュは強いから」



まさか、自分がこんな言葉を吐くとは思わなかった。
全く、人生は何が起こるか分からない。




【H-5/1日目/黎明】

【美山写影@とある科学の超電磁砲】
[状態]精神疲労(小)、疲労(小)あちこちに擦り傷や切り傷(小)
[装備]五視万能『スペクテッド』
[道具]基本支給品、ランダム支給品0~2
[思考・状況]
基本方針:ゲームから脱出する。
0:ドロテアの様な危険人物との対峙は避けつつ、脱出の方法を探す。
1:桃華を守る。…そう言いきれれば良かったんだけどね。
2:……あの赤ちゃん、どうにも怪しいけれど
3:一旦休息を取る。
[備考]
※参戦時期はペロを救出してから。
※マサオ達がどこに落下したかを知りません。
※フリーレンから魔法の知識をある程度知りました。


【櫻井桃華@アイドルマスター シンデレラガールズ U149(アニメ版)】
[状態]疲労(小)
[装備]ウェザー・リポートのスタンドDISC
[道具]基本支給品、ランダム支給品0~2
[思考・状況]
基本方針:ゲームから脱出する。
0:写影さんや他の方と協力して、誰も犠牲にならなくていい方法を探しますわ。
1:写影さんを守る。
2:この場所でも、アイドルの桜井桃華として。
3:……マサオさん
4:マサオさんが心配ですけど、今はガッシュさん達に任せる。
[備考]
※参戦時期は少なくとも四話以降。
※失意の庭を通してウェザー・リポートの記憶を追体験しました。それによりスタンドの熟練度が向上しています。
※マサオ達がどこに落下したかを知りません。

【ハーマイオニー・グレンジャー@ハリー・ポッター シリーズ】
[状態]:背中にダメージ(小)
[装備]:ハーマイオニーの杖@ハリー・ポッター
[道具]:基本支給品×1、ロウソク×4、ランダム支給品0~1(確認済)
[思考・状況]基本方針:殺し合いはしたくない。
1:朝の放送と名簿の開示を待った後、ホグワーツ魔法魔術学校へと向かう。
2:当面の間はフリーレン達と行動したい。
3:ハリーやロンがいるなら合流したい。
4:殺し合いするしかないとは思いたくない。
[備考]
※参戦時期は秘密の部屋でバジリスクに石にされた直後です。
※写影、桃華、フリーレン世界の基本知識と危険人物の情報を交換しています。


【フリーレン@葬送のフリーレン】
[状態]魔力消費(小)
[装備]王杖@金色のガッシュ!
[道具]基本支給品、ランダム支給品0~2、戦士の1kgハンバーグ
[思考・状況]基本方針:殺し合いを止める。
1:首輪の解析に必要なサンプル、機材、情報を集めに向かう。
2:ガッシュについては、自分の世界とは別の別世界の魔族と認識はしたが……。
3:シャルティアは次に会ったら恐らく殺すことになる。
4:1回放送後、H-5の一番大きな民家(現在居る場所)にて、ガッシュ達と再合流する。
5:北条沙都子をシャルティアと同レベルで強く警戒、話がすべて本当なら、精神が既に人類の物ではないと推測。
[備考]
※断頭台のアウラ討伐後より参戦です
※一部の魔法が制限により使用不能となっています。
※風見一姫、美山写影目線での、科学の知識をある程度知りました。
※グレイラッド邸が襲撃を受けた場合の措置として隣接するエリアであるH-5の一番大きな民家で落ち合う約束をしています。






「逃げたか……」


フリーレン一行が去り。
もぬけの殻となったグレイラッド邸で、我愛羅は独り言ちた。
ピジョットが見つけた屋敷は、確かについ先ほどまで参加者がいた。
それは間違いない。自分の第三の目で確認を行ったのだから。
先んじて相手を発見した有利を生かし、奇襲する目算だった。
無論真っ向から戦ったとしても、自分は負けないだろうが。
だが、その目論見に誤算が生じた。

屋敷の直ぐ傍に、結界術が張られていたからだ。
単純だが我愛羅の進軍を阻む程度の結界だった。自身の中にいる守鶴に反応したのだろう。
強引にそれを破壊したはいいが、相手に気取られてしまった。
結果、母に捧げる筈だった木偶たちは逃げおおせ、自分は屋敷に独り佇んでいる。


「……まぁいい」


木造りの床に、バリバリと亀裂が入る。
ボゴン!と音を立てて、割れた床から砂が泉の様に湧き出す。
折角得た拠点だ。我愛羅は、待つことにした。
地図には施設として火影岩の記載があった。
まさかあの巨大な岸壁をこの島に持ってきたとしたら信じられない忍術ではあるが、
今は重要な事ではない。
問題はそこに何の意図があるかだ。
我愛羅はそれを参加者通しの交差点にする意図があるのではないかと推察した。
火影岩は例えば木の葉隠れの里の忍者や、自分の様な他国の里の忍びへの誘導地点として。
この屋敷ただでさえ大名の様に立派な建物だ、その上グレイラッド邸と銘打たれ差別化されているなら参加者の中に所縁ある者がいても不思議ではない。
それを抜きにしてもここまで立派な拠点だ。
身を寄せようとする参加者は必ず現れるだろう。
さっきの集団に仲間がいれば、帰って来る可能性もある。


「あぁ……そうだ。鏖だ」


屋敷にやって来たものから血祭りにあげてくれよう。
今はただ、そのために場を整える。
邸宅の構造や間合いを理解する為に歩き回りながら。
殺戮の舞台(キリングフィールド)を構築する。
地下から大量の砂を出現させられるように。
時が解決するはずだった、その憎しみ闇が祓われる気配は、未だない。



【G-4 ボレアス・グレイラット邸/1日目/黎明】

【我愛羅@NARUTO-少年編-】
[状態]健康
[装備]砂の瓢箪(中の2/3が砂で満たされている) ザ・フールのスタンドDISC
[道具]基本支給品×2、タブレット×2@コンペLSロワ、サトシのピジョットが入っていたボール@アニメ ポケットモンスター めざせポケモンマスター (現在、サトシのピジョットは空を飛行中)、かみなりのいし@アニメポケットモンスター、血まみれだったナイフ@【推しの子】、スナスナの実@ONEPIECE
[思考・状況]基本方針:皆殺し
1.出会った敵と闘い、殺す。一先ずグレイラッド邸で待ち伏せを行う。
2.ピジョットを利用し、敵を、特に強い敵を殺す、それの結果によって行動を決める
3.スタンドを理解する為に時間を使ってしまったが、その分殺せば問題はない
4.あのスナスナの実の使用は保留だ
5.俺の知っている忍者がいたら積極的に殺したい、特にうちはサスケは一番殺したい
6.かみなりのいしは使えたらでいい、特に当てにしていない


[備考]
原作13巻、中忍試験のサスケ戦直前での参戦です
守鶴の完全顕現は制限されています。

044:殺人競走(レース)スタンバイ! 投下順に読む 046:星に願いを
時系列順に読む
031:夜の館で 美山写影 055:愛を示す術を失いかけても
櫻井桃華
フリーレン
035:YOASOBI ハーマイオニー・グレンジャー
029:たった1つの石ころで人生は大きく変わる 我愛羅 065:館越え

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