コンペロリショタバトルロワイアル@ ウィキ

星に願いを

最終更新:

Bot(ページ名リンク)

- view
だれでも歓迎! 編集
「アンタの世界、おかしいわよ」

的場梨沙はそう言った。

「そんなことないよ!」

それに対し、緑の髪を後ろに縛った少年、龍亞が反論する。

「おかしいわよ! 大都会の警察の管轄にどうして、西部劇みたいな町があるわけ!? 鉱山送りで奴隷とかあんた何時代の人間よ!!
 どうしてカードゲームするのにバイクに乗るの!! 意味わからない!! どうして犯罪者捕まえるのに、カードゲームしてんのよ!!」

「面倒くせー女」

「何よ! 何か言ったシカマル?」

「…いやなんも」

灰原哀とブラックと呼ばれた少年との邂逅を終え、奈良シカマルは残された灰原との情報交換に臨んでいた。
外見なら梨沙よりも一回りも年下の少女だが、その口調や論理的な思考は梨沙はおろか、中忍以上の大人達にも匹敵する程に高度であった。
的確に情報を伝え、またシカマルから与えた情報も要領良く受け取り、素早く理解する。本音を言えば梨沙を相手にしている時よりも楽であったし、頼もしさもあり、年齢に見合わぬ聡明さに不気味さも少し覚えていた。

「しかし、平行世界とはまた面倒くせーもんが……灰原は覚えはあるか?」
「私も話ぐらいは聞いたことがあるけど」

戦闘はともかくとして、知能面では信頼できる味方が出来、予想以上に情報交換も殺し合いの脱出に関しても、灰原個人とは目的が一致し協力は取り付けられた。
元より、奥で寝かせてある金髪の少年を介抱していたくらいだ。善良さは折り紙付きで、そう心配もしていなかったが。
その名前も素性も不明の少年は、あとで事情を聞き出すとして、あのブラックという少年に対し、どう対話し交渉するか、一手しくじれば即詰まされかねない強大な相手への対処を考えていた時だ。
もう一つ、全く別の新たな頭を悩ませる要素、もといシカマル風に言うならば面倒くさい事柄が追加されてしまった。

「でも、本当に龍亞さんの世界のお話はとても面白いですわね。私、その世界でなら、大統領になれる自信がありますわよ。
 カードで全部決まる世界だなんて、部活で鍛えた腕が鳴りますわ! をーっほっほっほ!!」
「大統領……? 君が?」

(そうか、その世界でアタシがカードで総理大臣倒せば、パパと結婚できるじゃない!)

灰原と情報交換を終えた後、ブラックと入れ替わるように現れた集団。
妙に小生意気なお嬢様言葉を喋る少女、北条沙都子。その彼女曰く、自分の騎士と主張し、本人は否定する鎧を着た少女メリュジーヌ。

「こいつの変な世界も、元を辿れば海馬瀬人とかいう奴に原因があるみたいだし、やっぱ同じ苗字の乃亜の野郎と関係あるんじゃねェか?」
「私、分かったかも……その海馬って奴、きっと変な宗教に憑りつかれてるのよ……。カード打ち上げて宇宙の波動浴びせるとか、頭のおかしい事やってる奴でしょ? 絶対そうよ。殺し合いも、そういうのが理由なんじゃない?」

「なんで……吸血鬼や妖精の居る世界のが、全然おかしいじゃんか……どうしてオレの世界ばっか……」

そして、左腕に奇妙な赤ん坊を生やしている山本勝次。帽子を被った赤髪の少女、有馬かな。梨沙に突っ込まれ続け困惑していた少年、龍亞。
彼らと沙都子達は、シカマル達が仮の拠点に利用していたこの民家に辿り着く前に合流し、お互いに脱出を考えている事を確認し同行を承諾。
そして、人の気配があった民家に足を踏み入れ、シカマル達とも接触することとなった。
忍者などの存在を除けば、比較的文明の進歩は早いシカマルの世界と、ほぼ同一世界の梨沙と灰原との対話では気付けなかったが、この場に呼ばれた参加者達の語る社会背景は多かれ少なかれ差異がある。
妖精や吸血鬼、忍者の存在する世界、更に近しいが年代や細かい歴史が異なる灰原や梨沙、かな、沙都子の世界。
邪神だの、未来人だの、カウボーイなどの単語が飛び出す、B級映画にありがちなジャンルの闇鍋のような意味不明な龍亞の世界。

(ここじゃ、俺の知る知識や忍術の定石は当て嵌まらねえってことか……面倒なことになってきたな)

不安を煽りたくはない為に口にはしないが、別世界の未知の技術が首輪に利用されているとなると、現状のシカマルではとても解析など出来そうにはない。


「なんだかなぁ……オレの世界が変なのはともかく、遊星やジャックまで頭がおかしいみたいな言い方は納得いかないよ!」

「一番最低なのそのジャックって男じゃない!! 毎朝3000円のコーヒー飲んで家計圧迫して、ろくに働きもせず同棲してる友達に全部依存して、仕事はすぐ首になるニートなんて、世界に関係なく酷い男よ!!
 遊星って奴、甘やかしすぎじゃない!!」

「梨沙、何てこと言うんだよ……ジャックは、キングなんだ! いざって時はカッコよくて……」

「そもそもカードオタクって臭いし不潔なのよね」

「臭くないよ! オレ、毎日風呂入ってるもん!」

あまりに辛辣な梨沙の物言いに、龍亞も心を痛めながら言い返す。先ほどから話していて感じた事だが、この女の子とても口が悪い。

「私がそのジャックとかいうダメ男の中で一番気に入らないのは、女を何人もたぶらかしてるとこよねー」

更に便乗するようにかなも言葉を続けた。

「そういう男って本当に嫌いだわ。ちゃんと、誰を選ぶかはっきりさせなさいよ! 大体ね。何人も、女に思わせぶりにたぶらかしといて、全員キープしてるのが腹立つのよ。
 女の気持ち考えた事あるのかしら? その女も女よね……そんなダメ男、自分から捨てなきゃ駄目なんだから! いつまでそんな駄目男に引き摺られているのかしらね。チョロ過ぎるのよ」

「……」

メリュジーヌの視線が少しだけ、かなに注視されていたことに気付いていた者は誰もいなかった。
ただ、制限下の中で不安定になっている能力が、別の可能性の未来を見せたのだろう。そして、それをおいおい話す理由も義理も彼女にはない。

「それはそうね。どっかの探偵さんみたいに、はっきり決めてくれていれば、まだ楽なんだけど」

「かなの言う通りよね。パパみたいに一途で素敵な男性じゃないと」

「なあ、お前のパパってその…そういう……?」

「アンタ、勝次…どういう意味よそれ!!」

「圭一さんも、レナさんや魅音さんに思わせぶりな事をして、痛い目に合うこともありましたもの。やはり殿方は誠実でないと」

(オレ以外の世界じゃ、デュエリストって社会的地位が低いのかな……なんだよ、カードと臭いの関係ないじゃん)

やっぱ、女って集まると面倒臭いな。そう考えながらも、梨沙が元の調子を取り戻しているのを見てシカマルは少しだけ安堵した。
龍亞も、放送でやけに目立った割戦隊との交戦を経たらしく、望まぬ殺人を強いられたせいで初対面の時は表情が優れなかったが、今はそこそこ明るい。
無駄な雑談というのも、時には心を落ち着ける有益な時間だ。

「…そろそろ、本題に移っても良いか?」

だが、その雑談も長く続けていく訳にはいかない。
時間は限られている。それは殺し合いの決着が着くまでのリミットでもあり、あの絶望王(ブラック)が帰還するまでの時間でもある。
早期に最善の一手を打たねば。

「先に言っておくが、ここにブラックというマーダーが戻ってくる。そいつは強い。この中じゃ”誰”も太刀打ち出来ないくらいに」

嘘ではないが、敢えて誇張しシカマルは言葉を紡ぐ。

「幸い、そいつは殺し合いに乗るつもりらしいが、積極的に殺し回ってる訳じゃない。分かりやすく言っちまえば、ようは、ノリで動いてる」

「それって情緒不安定ってコトじゃない!」

かなの叫びにも似た指摘に、シカマルは面倒そうに頷く。


「そうとも言うな。……話を戻すが、灰原とは同行を許可するくらいには関係は良好だ」

「どうかしら……私と彼の関係は、ただの向こうの気紛れだと思うわ。
 今の私は掌の中の蝶と同じ、握りしめれば容易く潰されてしまう。
 あの微笑は仮面よ。仮面の下に、なんの絶望(ウソ)を隠しているのかしらね」

こいつ、急にポエム詠み出すな。面倒そうに聞きながら、シカマルはその意味を紐解いていく。
ようするに、ブラックが何を目的としているか定かではない。そう言いたいのだろう。
同行もあくまで気紛れ、一定の価値はアピールし有益だとは思わせたつもりだが、それを加味しても頭ごなしに良好な関係とは言えない。

「だが、首輪を外して乃亜をとっちめる算段が整えば、そっちに乗る程度には考えてるだろ。でなきゃ灰原を生かす理由もねぇ。絶対生還する為に、優勝しなきゃってタイプじゃない。だから…」

「……協力を取り付けるってこと?」

話を聞いていたかなが続けた。

「面倒くせーけどな。
 だから、奴の帰還を待って交渉をしたい……」

シカマルの中で、勝算は少なからずある交渉相手だと考えていた。同時に内面が未知数であり、失敗は許されない相手であることも。
それを、口にしこの場に居る全員に伝える。

「―――お前たちはどうする? そう聞いて、出方を伺うつもりですのね?」

流れを切るように、沙都子が割り込んだ。

「沙都子…ど、どうしたの……」

「……待て龍亞、なんか変だ。近づくな」

この場の空気が冷え込むように、勝次には感じられた。
こういった感覚には、何度か遭遇したことがある。
宮本明が、それまで何度も対峙してきた雅の息子達を見てきた時のような、本能が危機を知らせるアラートのようなものを告げる感触。
だが、なぜ今それが目の前の少女に対し抱いているのか、勝次自身、困惑を隠しきれない。

「そんなつもりはねえよ。ただ、ここに居ると危ないってのを……」

「違いますわよね? 警告と牽制でしょう? 私達に対し、ここで手を出せば後ろに控えた大物を相手にするぞ、と」

「沙都子、アンタ…急にどうしたのよ」

「梨沙、黙ってろ」

「シカマル?」

「良いから、黙れ!!」

一を言われれば百にして返すだろう梨沙が、切迫したシカマルの言い方に押し黙らされた。
表情は険しく、額に汗まで浮いている。
状況の把握はまるで追い付いていないが、一つだけ言えるのは、今がなにか非常に危うい場面にいるであろうことだ。

「貴方はとても優秀でしたわ。何てことのない顔をして、私の容姿にも油断せず、常に警戒を続けて平静を装い続けた。
 何処で、おかしいと思ったんですの?」

「別に、ほぼ直感だよ」

身のこなしだった。
軍人と呼ばれるほど洗練はされていないが、素人とは呼べぬほどには手慣れている。
懐に隠しているであろう銃に対し、自然体を装いながら常に意識を張り続ける等、常人の技量ではない。
もっとも、シカマルはそれを口にする気はなかったが。

「……メリュジーヌの強さは何となく分かってる。
 その上でお互い、ここでやり合うのは損じゃねえか? ブラックは灰原を大分気に入ってる。こんな最序盤で、奴の怒りを買って消耗するのも面倒くせーだろ? いくらメリュジーヌでも、それなりに苦戦するだろうぜ。
 ここで、さようならってのが…割とベストな落としどころな気がするんだが」

既に、シカマルと沙都子の会話の流れから、沙都子が殺し合いに乗っていると察しない者はいない。


「か、数なら…こっちが……」

「的場さん」

灰原が梨沙に重く声を掛ける。
沙都子が敵であるのなら、その彼女に付き従うメリュジーヌも同じくマーダー。
メリュジーヌがその矛先をこちらに向けるのであれば、数の利などあってないようなものだと。

「一応、言っとくが……俺も忍の端くれだ。やりあうなら、負けるにしても時間は稼ぐぜ。ブラックが帰って、鉢合わせしちまう程度にはな」

「……私、仲良くしたかったんですのよ? 本当に。
 少なくとも、殺し合いの途中までは。けれど、駄目ですわね。―――シカマルさん、貴方、賢すぎましたわ」

指を鳴らす乾いた音。

「だから、こう筋書きを考えましたの。ブラックと名乗るマーダーに、私の大切な仲間は全員冷酷に殺され、私は命からがら逃げだした。と」

それと共に、メリュジーヌの二振りの鞘から刃が生成される。

「シカマルさん、一つ誤算でしたわね―――私の騎士は、この場に居る全員数秒以内に殺せますのよ」



―――影真似の術!!



光の粒子を帯びたそれは、同時に身構えたままのメリュジーヌと共に制止する。


「動きを縛る魔術か」

シカマルの足元から伸びる影が、メリュジーヌの影を侵食していた。体の稼働を阻害する圧力は、この影により影響なのだろう。
通常の魔術と違い、印を手で組む必要があるらしいが。メリュジーヌの動きに注視し、宝具発動より先手を取ったのは、純粋な賞賛に値した。

「なっ……!?」

けれど、そこまで。
何の焦りもなければ対策も練らず、ただメリュジーヌは動く。ひたすらに無理矢理力づくで。
シカマルの術中に嵌った相手には、よく見られる無駄な抵抗だ。

(マジかあいつ……!? ブラックが戻るまでにケリを着ける気かよ! それになんだ、この力……こっちはチャクラ全開だってのに、動きを止められねえ……!!)

本来であれば。
それがメリュジーヌでさえなければ。
"無駄な"抵抗で終わる筈だった。

影真似の術は元は鹿の角を捕るために、後に改良なども重ね対人用へより特化されたであろう秘伝の術。
しかし、相手は妖精騎士ランスロット、またの名をメリュジーヌ。そして真の出自は最高位の竜種。
元来、人が戦うべき存在ではない。
人を縛る術では、竜(メリュジーヌ)を留める事はできない。

「逃げろ、みんな―――」

恐らく、時間にして多くて1秒。
それだけメリュジーヌを留められたのは、乃亜によるメリュジーヌへの制限と、シカマルの鍛錬の賜物であろう。
だが、それが限度だ。人間としての限界であり、竜にとっての必然。シカマルの影を容易に振り切り、メリュジーヌは再起動する。


「あの子が!」
「おい、灰原!」

灰原は先ほど手当を済ませ、未だ意識の回復が見られない少年の元へ。
それに気づいた勝次も後を追うように。
二人は奥の部屋へ飛び込む。

「し…シカマ……」

梨沙は理解が追い付かず、咄嗟にシカマルに手を伸ばす。
一瞬でチャクラと体力を大幅に削り取られ、シカマルは膝を床に付き、動く事が出来ない。
逃げるにしても、目の前の少年を置いてなど行けない。

(馬鹿! こっちに来るな!)

シカマルはその光景を見つめる事しかできない。
脳裏には、腐る程に考えが張り巡らされ、どうすべきか、何をすべきか、こちらに向かってくる梨沙の動きすらスローモーションで見えるのに。
体が一切、この刹那の瞬間に対応できない。梨沙に自分に構わず、逃げろと叫ぶことすら叶わない。


「真名──偽装展開」


(く、そ……!)


シカマルの天才的な頭脳を以てして、次なる一手が指せない。


「清廉たる湖面、月光を返す!」


機械的に殺戮を開始する青水色の妖精騎士と、その後ろで妖艶にほほ笑む魔女の笑みを見て、完全に詰まされたと死を悟った。


「集いし願いが新たに輝く星となる」


そのあまりにも遅く写る視界の中で、妖精騎士のものとは違う。新たなる輝きを見出す。


「光差す道となれ! シンクロ召喚!」


影真似の術によって作られた僅かな一秒という時間。
だが、その僅かな時間が明暗を分けた。


「──沈め!」

「――飛翔せよ!」


シグナーの少年が翳したカード。
支給されたもう一枚のシグナー竜を宿したカードより、大いなる翼を広げ疾風を巻き起こし白と青の竜が召喚される。


「今は知らず、無垢なる湖光(イノセンス・アロンダイト)!!」

「スターダスト・ドラゴン!!」


最速の妖精騎士の放つアロンダイトの輝きと、幾度となくサテライトの英雄と共に世界を救った星屑の竜のブレスが激突し、その爆風と光の渦の中に幼き子供達は飲み込まれていった。








―――






G-2にあった民家は消し飛んでいた。
屋内という閉鎖空間で、二つの高エネルギーが衝突し起爆したのだ。ただの建造物では衝撃に耐えられるはずもない。
パラパラと、瓦礫や木片は音を立てて崩れ去っていく。その中央で、メリュジーヌに抱えられた沙都子は辺りを注意深く見渡した。

「大したものですわね」

先ほど放った『今は知らず、無垢なる湖光』、メリュジーヌが言うには、謂わば必殺技のようなものらしいが、元より偽物(かりもの)、威力は低いとのことだった。
更に沙都子も居る密室であったことから、意図的に規模も縮小していたらしい。
それでも、人を殺めるには十分すぎる。あまりにもオーバーな火力に、味方にしている沙都子ですら身震いするほどに。

「それだけに、邪魔ですわねあれ」

『今は知らず、無垢なる湖光』を受けながら、未だ五体満足でいる少年と少女達が。

「―――!!!」

そして子供達を守るように咆哮を轟かせ、まるで盾のように翼を広げる白と青のドラゴン。
邪魔だ。あれさえなければ、あの場に居た全員を皆殺しにし、ブラックとやらに全ての罪を被せる事が出来たものを。
メリュジーヌが沙都子を巻き込まぬよう抑えていたとはいえ、あのドラゴンのブレスが相殺し余波から後ろの少年達を守り抜いたのだ。
そう光景を思い返すだけで、沙都子の中で苛立ちが増す。

「でも、丁度いいかもしれませんわね。
 メリュジーヌさん、憂さ晴らしがしたかったのでしょう?」

「瞬きの間に終わるよ」

その苛立ちを和らげようと、残酷な笑みを浮かべる沙都子に対して、メリュジーヌはつまらなそうに呟く。
そのままメリュジーヌは、民家の破片と土の入れ混じった砂利を踏みしめ、両腕の鞘を構えた。

「……み、みんな…」

全身を強く打ち付けて、手足にも擦り傷が痛ましく刻まれていた。
だが、龍亞の体は五体満足。痛みはあるが、決して致命傷ではない。
きっと自分は比較的軽傷だと判断し、自分達を庇うように翼を広げるスターダストの姿を確認して、辺りを見渡す。

「……かなは? 勝次もみんなも」

有馬かなは目を閉じて、意識を失っている様子だった。一瞬死んでしまったのではと思ったが、華奢な体が呼吸に従い僅かに動いている。

「シカマル…ちょっと、起きなさいよシカマル!!」

梨沙も同じく擦り傷くらいはあるが、意識もあって怪我は殆どないようなものだ。
ただ、傍に居るシカマルが当たり所が悪かったのか、気絶したまま。
影真似の術でメリュジーヌの動きを止め続けたことで、体力も削り過ぎたのもあるだろう。死んだように眠り続けている。

(勝次と灰原と…あのオールバックの男の子がいない……嘘だろ……)

まさか、消し飛んでしまったのでは。最悪の可能性を考えて、頭を振る。それを、考えてどうするのだと。
今、やらなくちゃいけないのは、ここに居る全員を守ってあげなくちゃいけないことだ。
頼りになるシカマルは暫く動けそうにない。梨沙だって強気な女の子だが非力だ。かななんて、まだ10歳にもならない幼い子供だ。

「オレが、何とかしないと。頼む、スターダスト・ドラゴン……!」

自分が守るしかない。
本来の主なき、この星屑のドラゴンと共に、あの未知の強敵に挑むしかない。


「―――シューティング・ソニック!!!」

召喚者の叫びに応え、スターダストの咆哮と共に星のような輝きが集約され、ブレスとして放出される。
赤き竜――別世界の豊穣の神ケツァルコアトル―――の眷属にして、5000年周期に渡り、冥界の王と地縛神との戦いを宿命づけられた人類を守護する竜の一柱。
その高い神格と神秘は、高位の竜種にも相当する。さらには本来の担い手ではないにしろ、同じく赤き竜に選ばれたシグナ―が使役するのであれば、召喚者としての格も十分である。

「ふっ!」

一息で、駆ける。その速度は膨大な魔力を放出することで推進力とし、瞬時にして音速へと到達する。
放たれたブレスへと、自らその身を晒すように突撃した。
鞘の基部が回転し、まるで拳のように叩き付ける。高い推進力は勢いを落とさず、魔力放出により増大した膂力は一撃でブレスの放出を歪ませる。
拮抗は1秒も持たず、莫大な圧力に耐え切れずブレスは、メリュジーヌに触れた個所から先割れ露散していく。
ブレスを拳に見立てた鞘の攻撃で突破したメリュジーヌは、子供達を守ろうと立ちはだかるスターダストの懐に数十発の打撃を見舞った。

「―――!!」

されど、相手も上位の竜種。
その凄まじい打撃の乱打を受けて、なおその闘志を損なう事はない。再度ブレスを吐き出し応戦する。

「温い」

メリュジーヌは軽やかな動きでブレスを鞘で受け止め、角度を傾け受け流す。そのまま肉薄し、更に数十発打撃を叩き込んだ。
耐え切れず、威力のまま後方へ吹き飛んでいくスターダストを見て、メリュジーヌはそれを使役していた少年へと一瞥をくれる。

(本当にただの子供だ)

多少場慣れはしているようだが、戦いの心得などまるでない。騎士として務めるのであれば、剣ではなく手を差し伸べ保護しなくてはならない程の無辜の子供。
汚れ仕事などいくらでもしてきたし、先ほども子供に毒を盛ったのを容認したばかりだ。
今更、躊躇などはない。が、やはり何処かで、紕う想いもあったのかもしれない。

「く―――」

けれども、その迷いも1秒もせずに消える。
メリュジーヌは騎士だ。オーロラの騎士だ。彼女の為だけに存在し、その愛を尽くすと誓ったのだから。
龍亞が何か新たなカードを翳そうとするが、それよりも遥かに速くメリュジーヌが腕を振るう。
龍亞の顔面目掛けて、音をも置き去りにするほどの膂力で、岩をも穿つ程の鈍器が吸い寄せられる。

「―――!!!」

刹那、メリュジーヌを死角から襲撃が襲う。後方へ退けれられたスターダストが低空で翔け、加速しながら突っ込んできたのだ。
鞘が龍亞の顔を潰す寸前で、その突撃を受けスターダストと共にメリュジーヌは吹き飛ばされていく。

「うあああああああああああああ!!!」

だが、その切っ先が右の肩を切り裂いてしまった。血が噴き出し、鋭く切り裂かれた激痛が灼熱のように拡がる。
手で抑えた個所、ドロリと熱を帯びた血液が流れだしてくる感触。体内を巡っていた液体が流れだし異物へと変わる不快感。

「い、いたい……痛いよぉ……う、わぁああ……!」

今まで生きてきた中で、もっとも血を流した瞬間。
まだ小学生の子供を恐怖の絶頂へと誘うには十分すぎる。

「る…龍亞……」

それは、傍観者である少女にとっても同様だった。梨沙は自分とそう歳の違わない男の子が、大量の血を流すという事実に狼狽してしまう。
その痛みと怖さは、想像が付かない。
普段の日常生活の範疇であれば、救急車を呼ぶとか、誰かを呼ぶだとか、取りあえず病院に連れて行こうと落ち着いて判断出来ただろう。
けれども、ここには他に誰もいないのだ。普段は頼りないけど、いざという時は信頼もできるプロデューサーも、大好きなパパだっていない。
自分より、ずっと頭の良いシカマルはまだ起きてくれない。まだ梨沙よりも年下なのに凄くクールでカッコよくて、外人の男の子の治療もこなした灰原もいない。
居るのは、更に年下の気絶した女の子と、平気で人を殺してくる冷酷な女騎士とそれを後ろで眺めて笑みすら浮かべる魔女。
それにたった一人で戦って、体を切られた男の子が一人いるだけだ。


「どうしよう……アタシ……シカマル!!」

呼びかけても、未だシカマルの意識は暗い闇の底にある。
何とか担いでみようと思ったが、相手は子供とはいえ鍛えた忍者だ。筋肉量なども違う。アイドルとして体力に自信はあるが、女の子一人で担げるような重さじゃない。
もう一人、そんな有様で意識を失っているかなを連れて行くのも無理だろう。
仮に何とかなったとしても、今度は龍亞を置いて行っていいのだろうか。

「そうよ、支給品…支給品があるじゃない!」

もう縋るしかない。ランドセルに入っている武器に。
武器で銃なんかが入っていたとしても、あのメリュジーヌをどうにか出来るとは思えないが、全てをこれに賭けるしかない。

「……泣いちゃ、駄目だ。これくらいがなんだよ……勝次はあいつは小4なのに、もっと腕をおかしくされたんだぞ。死んじゃった子だって一杯居るんだ……全然、こんなの…オレはシグナ―じゃないか」

頬を汚す、涙を拭う。
血は流れていて、痛みを感じるが、肩が切断された訳ではない。その先の腕も手も動く。
まだ全ての手足は残されている。カードは残されている。
まだ、戦えるのだ。

「生きている限り、絶望なんて―――」

未来から現れた絶望の番人に、その機械の身に秘めていた希望を取り戻させた時のように。
シグナ―の少年は痛みを捻じ伏せ、目を見開く。

「はぁ……バン・カー!」

「グギャァォオオオ!!」

「スターダスト……」

その瞬間、眼前にはスターダストが地面に打ち付けられていた。
何発も打撃を込められ、甚振られる。
斬撃で全身を切り刻まれ、皮を裂き、肉を抉り、骨を穿つ。高貴であった姿は赤黒く染まりあげられる。
今までに、どんな強敵をも退けて、仲間を守り続けてきた星屑の竜は、完全に星空から引き摺り下ろされていた。

(嘘だろ……スターダスト・ドラゴンが、手も足も出ないなんて……)

悲鳴を上げて、全身を激痛に悶えさせるスターダストを前に、まるでサンドバックのようにメリュジーヌは連撃を放つ。
ある時は鞘を殴打の鈍器として、ある時は魔力を爪へと還元し斬撃の剣として。
全身を切り刻まれようとも、なおも守り抜こうとする竜の意思を完膚なきまでにへし折らんとする。

(どうする……パワーツールとスターダストの他に、まだ何枚かカードは支給されてるけど……あいつに通用するのか)

カードが実体化するのは分かっている。やりようによっては、人を殺すなんて呆気ないほど強力な武器になるのも、割戦隊との戦いで理解した。
それでも、メリュジーヌを倒すイメージが思い浮かばない。
何かある筈だ。起死回生の方法を、メリュジーヌの弱点を何か、何か―――。

「ハイアングルトランスファー!」

「ギャオオオオオオォォォォ!!!」

悲痛なスターダストの悲鳴が耳を轟かす。
ずっとずっと、自分達を守る為にメリュジーヌの猛攻に耐え続けている。
きっと、この場には居ない不動遊星ならば、そうすることを望むであろう事を体現するかのように。
仲間を守る為に。


「龍亞、これ……!!」

「梨沙?」

焦燥に駆られながら思案を巡らせる龍亞の元へ、梨沙が駆け寄った。

「アタシの支給品…なんか、使えない? 変なミニカーと何も書かれてない変なカード、意味わからないけど、アンタなら使い方分かるんじゃないの!?」

梨沙から手渡されたカードを見た時、龍亞の中で1つの勝機が見えてきた。

「こんなものまで……いや、でも」

一枚はミニカーのようなモンスターが描かれたカード、フォーミュラ・シンクロン。
だが、これ単品ではとても使い物にならない。
強さで言えば、デュエルモンスターズ最弱の候補の一角のカードであるクリボー以下だ。とても戦闘向けのカードじゃない。

「ありがとう、梨沙……。
 来てくれ、フォーミラ・シンクロン!!」

だが、このカードの真価を龍亞は知っている。
自分がずっと背中を見て追い続けていた偉大なる決闘者が、このカードを使い何度も絶望を打ち破った姿をその目に焼き付けている。

「スターダスト……お前に、新たな力を与えてやる!!」

ミニカーに手足を生やし、目をくっつけたようなコミカルなモンスター。
フォーミュラ・シンクロンが緑の光となり、機械的な光の輪を生成する。

「クリア…マインドォ……!!」

それは、スターダスト・ドラゴンを高速の世界へと導き、到達させる。

「集いし夢の結晶が、新たな進化の扉を開く!」

梨沙に支給された、もう一枚の白地のカードに真の姿を記す進化への道標。

「光差す道となれ!」

ある世界に於いて、人間以上の力を持つ妖精の中ですら、分類が違うとされ、ただ一人世界観が違うと比喩されるほどの強大な力を持つメリュジーヌ。
その世界に踏み込む方法があるのだとすれば、龍亞の知る中ではこれしかない。

スターダスト・ドラゴンを新たな地平へと導き、進化させる。
アクセルシンクロだ。

(Z-ONEは、未来の人達にクリアマインドを伝えたと言ってた……)

クリアマインドの境地に達した者だけが可能とする、シンクロ召喚を上回ったシンクロ召喚。
更なる進化を果たした、シンクロモンスターを呼び出す。それをアクセルシンクロと呼ぶ。

(だったら、オレにだって出来る筈なんだ……! Z-ONEみたいに手術や人格のコピーで遊星にはなれなくても、オレはずっと遊星の戦いを見てきたんだから)

クリアマインドは選ばれた人間のみが扱える力ではない。
誰であろうと、理論上であれば作り上げることが可能な精神の状態であり極地だ。
それを、元は無銘の科学者でしかないZ-ONEは不動遊星という英雄を依り代にしたとはいえ、ただの一般人にも伝える事に成功していた。
人々の心の欲望や誘惑に捉われた事で、人の心を読み取るモーメントと呼ばれるエネルギーの根幹を為す、永久機関が暴走を始め、人類を滅ぼし始めた破滅の未来で。
何の特殊な力も持たないただの人々に、クリアマインドを伝える事で、それらの暴走を抑制させることまでは成功していたのだ。

つまり、クリアマインドは人間の進化の可能性であり、誰もが到達しうる希望の力だ。
龍亞とて、その可能性は秘められている筈だ。誰よりも近くで、あの不動遊星のデュエルを見続けてきたのだから。
同じ、シグナーなのだから。


「アクセル―――」

「させませんわ」

全ての希望を無に帰す、無慈悲で機械的な銃声が響き渡る。
ともすれば、メリュジーヌ以上の惨劇と絶望の体現者たる魔女が、もう一人この場に居た事を龍亞は失念していた。
沙都子の手にある銃から弾丸が射出され、龍亞の右肩を撃ち抜いた。

「ぐ、わあああ……!」

「をーっほほほほほほ! ごめんあそばせ。相手ターンにダイレクトアタックは反則でしたわね。
 けれど、私、デュエルをするつもりは毛頭ありませんことよ」

煽るような口調でいながら、内心で沙都子は舌打ちしていた。
メリュジーヌには憂さ晴らししろとは言ったが、思いのほか粘られている事に、少し焦りを感じる。
以前あった孫悟飯とは違い、ここの子供たちは自分の相手にならないとメリュジーヌは断言していた。
長くても数秒で確実に葬れると。
だが、蓋を開ければ、恐らくメリュジーヌも未だ自暴自棄で本気ではないとはいえ、こんな連中を相手に殺しきれていないとは。
あまり、手間を掛けるのも面倒だ。一人、ここで確実に殺しておこう。

「龍亞!」

「来ちゃ駄目だ、梨沙!!」

そう考え、沙都子はトリガーに力を籠め、龍亞の死を確信し―――視界の端が光る。

「なんて、しぶとさ―――」

メリュジーヌに嬲られていたスターダストが首だけ向け、沙都子にブレスを放っていたのだ。
邪魔な――そう思う頃には既に、着弾は秒読みだった。そこへ高速でスターダストを蹴り飛ばしたメリュジーヌが割り込み、沙都子を担ぎ上げ跳躍する。
ブレスは虚空を穿ち、消失していった。

「手間を掛けさせないで」
「あのドラゴン相手に、手間取る貴女も悪いのではなくて?」
「思いの他、頑丈なんだ。恐らくは、それなりに高い神格の眷属なんだろう」

だが、トリガーは確実に引いていた。放たれた銃弾はどうなったか。
頭部からはズレたものの、射線は龍亞の元へ描かれていたが外された。

「何、ぼさっとしてるのよ!」

龍亞を押し倒す形で、有馬かなが突っ込んだ事で、弾丸は龍亞に触れずに過ぎていく。

「ごめん、かな……」

気絶から目覚めたかなは辺りを見渡して、メリュジーヌとスターダストが戦っているのを見て驚嘆した。
だが、さっきまで同行していた龍亞が肩から血を流し、更に沙都子に銃を向けられていた事で、逆に現実味のある脅威が彼女に冷静さを取り戻させてくれた。
ことの一部始終を最初から現在に至るまで目撃し、混乱していた梨沙より、目覚めたばかりの、かなのが余計な事を考えずに済んだのもあるだろう。
結果として、咄嗟に取った行動は龍亞の命をなんとか凌ぐ事にはなった。

「行くぞ、アクセルシンクロォ!!!」

(何なんですの、一体……!?)

龍亞は拳を握りしめ、叫ぶ。スターダストを昇華させる希望の力を。
沙都子の中で焦りが大きくなる。
早々、メリュジーヌが負けるとは思わないが、元より彼女は精神的には不調の真っ只中で、その隙間に自分が付け込んで駒にしたようなもの。
万が一にも、彼女が後れを取ってしまうような事態は避けたいが。

「……え」

「なんだ…そんな焦る事、ありませんでしたわね」


だが、何も起こらない。スターダストは痛ましい姿のまま肩で息をして、打ちのめされたまま。
光の輪へと変化したフォーミュラ・シンクロンは元の姿へと戻る。


「アクセルシンクロ! ……アクセルシンクロォ! ……アクセル…シンクロぉ!!」

いくら叫ぼうが、望んだ変化は訪れる事はない。

「どうして……なんで…! 頼む、変わってよぉ!!」

進化は果たされず、スターダストは弱弱しく呻くだけだった。

「駄目なのか…遊星でないと、オレじゃ……クリアマインドは理解できないのかよ」

クリアマインド、明鏡止水の精神を生み出すには龍亞では、まだ未熟過ぎる。
確かに遊星の戦いを目の当たりにし、精神的にも戦術的な面でも成長は遂げたが、クリアマインドを見て理解する域ではない。

「遊星は何を考えて、アクセルシンクロしてたんだ…分からない……何だよ、クリアマインドって……!」

どうすれば、どうしたら、不動遊星になれる。
遊星の考えてたことさえ、分かればクリアマインドも分かる筈なのに。
今までずっとその戦いを見てきて、まるで遊星を理解していない自分に、情けなさすら感じてきた。
ここでアクセルシンクロを成功させないと、大勢が死んでしまう。そんな大事な局面で、失敗する己に失望してしまう。

「何、考えてるかなんて分かるわけないじゃない。アンタは遊星じゃないんだから」

「え?」

「その役そのものに”成り代わる”は無理よ。その演じる相手は、その人だけの人生を生きてきたの。龍亞は龍亞なんだから、どんなに尊敬して憧れても遊星にはなれないわよ」

全く当たり前の事のように、呆れながらも淡々とかなは言葉を紡ぐ。

「やっぱ、これだから素人は駄目よね。役作りで完全に躓いてるじゃない」

「役作りって……」

「役作りでしょ? アンタは今、遊星って役になろうとしている。でも、分からないのよね? 
いざなろうとすると、違和感がある。当然よ。実は遊星の人生の一部しかアンタは見てないんだから。
殆ど同じ人生を歩んだ双子の兄弟でも、その人にはなれないわ。だって所詮は他人じゃない。役には近づけても、その人になれはしない」

「じゃあ…もう、どうにも……」

「忘れたの? あんたの目の前に居るのは、10秒で泣ける天才子役よ」

かなは誇るように自信を持って言い放った。

「そのカード貸して! 遊星って人の事も全部手短に教えなさい!!」

押し切られる形でカードを引っ手繰られる。

「演じるのは私の仕事よ。その遊星(キャラ)は私が演じてみせる!」

そして、言い切ってみせた。この島にはいない不屈の英雄を、ここに表現(さいげん)してみせると。

「―――!!」

呼応するように、スターダストは、傷だらけの体に鞭を打ち、メリュジーヌと再度対峙する。

「まるで母竜だね。性別は雌かな」

メリュジーヌはその在り方に、ただ機械的に魔力を乗せた鞘の殴打で応える。
スターダストは絶対に守り通す意思を曲げぬように、悲鳴と一緒にその身で受け止めた。

(やはり、時間を置かない連発は無理か)

『今は知らず、無垢なる湖光』を使えば、既にあの竜の息の根を止めていた。短時間での連発が不可能になっている。
通常攻撃のような気軽さで放つ宝具が強みであったものの、乃亜のいう所のハンデとして制限を科せたのだろう。

「次で確実に終わらせる」

だが、徐々にだが再使用可能な感触を肌で感じてきていた。
次にその剣を抜いた時、それが全ての決着と終焉の時だ。


「では、こちらも始めましょうか。ドラゴンはドラゴン同士、人は人同士で……。
 私はわざわざ、何かするのを待つ程、お人好しではありませんわ」

不敵に笑い、沙都子は龍亞達に向けて銃を構えた。
相手は3人、だが一番荒事に経験のありそうな龍亞であの程度ならば、難なく全員射殺可能だ。

(アタシが何とか、しないと……銃を持ってるし…藤木みたいに、きっと外す何てことしない……!)

龍亞と、かなを守れるのは自分しかない。
梨沙は後先も考えず、両腕を広げて二人の盾になるように沙都子の前に立ちはだかる。
沙都子は馬鹿にするように、鼻で笑い引き金を―――。

「そりゃ、そーだ。だが…一人カウントをミスってねえか?」
「しま……!」

体に違和感を覚えた瞬間、沙都子は銃を敢えてその手から落とした。
その術に掛けられたメリュジーヌが、ほんの一瞬だけ、術者と同様の動きをしたのを彼女は目撃している。
その光景が脳裏を過っての判断だった。

「影真似の術、成功だ…いい子だから大人しくしとけよ」

タブレットのライトから生まれた僅かな影を、沙都子の影に接触させたシカマルは言い放つ。

「シカマル―――アンタ、ほんとに……」

「悪かったな。少しばっか寝すぎた。お前はあいつらを見ててやれ」

梨沙には余裕を見せながら、シカマルは内心、肝を冷やす思いだった。
意識を取り戻した時には、沙都子が銃を向けていたタイミングだ。
素早くタブレットを起動させ、光を照らして印を組む。
それも間に合うかどうか、相当シビアであったが、滑り込みセーフといったところらしい。

「シカマルさん…私、これ初めてですけど……随分拘束が弱まっているのではなくて? きっと、スタミナ切れなんですのね」

(忍術の概念は知らねえみてーだが、メリュジーヌに相当チャクラと体力持ってかれてんのはバレてるか。
しかも、持ってりゃ今頃頭ぶち抜かせてた銃も手放す辺り、勘も良ければと判断も素早い。嫌なガキだ)

手段はもう一つ残っているが。

「がっ……? が、は…ぁ!?」

影首縛りの術で首を締め上げることだ。
沙都子の体を影の手が走り、首元へと触れる。そのまま首を圧迫させていく。

「こ、こん…が、ぁ……!」
「少なくとも、てめーだけはここで詰みだ」

沙都子が窒息に耐え切れず、苦痛に目を見開きながら膝を崩す。
首を掻き毟るように抑えながら、かつて自分は百年近く引き起こした惨劇の犠牲者達のように、その愛くるしい顔は歪んだまま、少女は息絶えた。

「……女を殺すのは、あんま気が進まねえけどな」

嫌な後味を胸に残しながら、シカマルはチャクラの消費で乱れた息を整え、意識を切り替えた。


―――



クールに見せて、すぐに熱くなる。
口数が少ないが、趣味になるとよく喋る。
機械いじりが得意。

大きな災害があり、それに父親の開発システムが関わっていた。
恐らく、強い負い目があり未だに責任を感じている。だから、好き放題散財するジャックという男にも強く言い聞かせる事が出来ない。
龍亞達や、そのネオドミノシティというのを守っているのも、その強い罪悪感からでは。

「……遊星はそれで――」

龍亞の口から語られる多量の情報を、的確に頭に叩き込み、遊星(やく)を理解していく。


「……」

かなは龍亞の話を聞きながら、自分が噛み砕けるように遊星という人間を要約し、咀嚼し、自分の中に取り込んでいく。
不動遊星という人間の生い立ちとその過程を龍亞から聞き出し、自分の中にあるものが何か理解させていく。
好きなモノ、嫌いなコト、それらを膨らませ抑えていく。

(罪悪感……誰かのために…私もそうだ……お母さんの為に……)

かなも、母親の為に売れ続けなければいけなかった。芸能界で生き残り続けないといけなかった。
自分の母親が、売れているかなにしか関心がないのは、幼い彼女にも分かってきている。
まだ、人気はあるけれど、陰りは見えてきて。だから必死で、頑張って頑張って演じて、今は周りにも合わせるようにしてきている。現場の人に使いやすいように努力している。
それが仕事に繋がると、幼い子供のかなにも分かってきているからだ。
大っ嫌いなピーマンだったが、この世界で生き残るためにピーマン体操を熱唱して、踊り抜いてみせた。

(負けられないんだ…この人……だって、負けたら)

『勝てない不動遊星』に、何の価値もないから。
負けてしまえば、償いきれない罪を負ったただの罪人になってしまう。
勝つ以外に、償う方法が分からないのではないか。

(私も…『売れてる有馬かな』でないと……お母さんは…)

見つかった。新たな倫理観(ルール)が。

「……クリアマインド」

新たな感情のラインを生み出す。

「……!?」

見た目も性別も何もかも違う。
なのに、一瞬龍亞の目は、遊星の姿が幻視してしまった。
絶対に違うと、分かっているのに。声質から何まで違っているはずなのに。
ほんの僅かに、あの安堵感を覚える。どんな逆境も巻き返す、あの不屈の英雄を思い起こさせる。

(凄い、この娘……)

だが、それ以上に衝撃を受けたのは、梨沙だった。
アイドルとして、演技の仕事にも手を出したからこそ分かる。分かってしまう。
溢れんばかりの才能と、それを昇華させた並々ならぬ努力の跡が見て取れる。
どれだけの才を天から恵まれ、どれだけの努力を積み重ねてきたのか。
役者として、圧倒的なまでに格が違うと思い知らされる。

「なん…なの……よ…」

さっきまで、恐怖や焦りで一杯だったのに。今はこんなにも、有馬かなに釘付けになる。
感情が滅茶苦茶にされる。同じ世界に居るものとして、悔しさや嫉妬などが入れ混じっていく。
それでも、魅せられていく。顔を背けようとしても振り向かせられる。目が溶けるように焼き付けられる。
アイドルとして自分が欲しいものを、これからもっと成長させて磨き上げようとしてるものを全て、この娘は、有馬かなは―――。


「……駄目だ、カードが反応してくれない」

「なんでよ!! 何が悪いの!?」

「分かんないけど……」

「監督がこれじゃ、現場が滅茶苦茶よ! とんだキラーパスね!」

確かに、遊星を幻視したが、それでもやはり不動遊星とは違う。
理由は分からないが、龍亞の中で遊星とかなで、噛み合っていないものがある気がした。

(何…何が違うの……? っていうか、普通はどんなカードも、ルール守れば誰でも使えないと駄目じゃない。何なのこのカードゲーム!! クソゲーじゃない!)

駄目出しされるのも、リテイクを喰らうのも初めてじゃない。むしろ、よくある事だ。
演技のロジックを組みなおすべく、かなは内心で愚痴りながら集中する。
龍亞の反応から、話した不動遊星の人間性から、龍亞が求める不動遊星を再現すれば、きっと―――。
思い出せ、そう…以前に出会ったあの子役を。一人前にアクアと芸名を名乗ったあの子役を。自分の自信を粉々に粉砕したあの演技を。
監督の求めた演技を的確に意図を理解し、自分よりも高度に演じたあの少年を。
今の監督は龍亞だ。龍亞に合わせた演技をすれば、その遊星という人間に近づける筈。

(考えるのよ……龍亞の求める不動遊星って人間を…)

「巻き上げる!!」

「ガギャォォォオオオォアアアアァァアアアアア!!!」

「スターダスト・ドラゴン!!?」

スターダストの右腕が切り裂かれ切断される。血飛沫を撒き散らし、ドラゴンの腕が地べたに落ち砕け散るように消失していく。
顔も半分が潰れ、左の翼は引き千切れ、尾は先が消えていた。
対するメリュジーヌは息一つ荒げもせず、いい加減飽き飽きしたといった表情で悶え苦しむスターダストを見つめる。

(あのドラゴン、ヤバいじゃない。早く…早く……)

足りないピースを探す。
まだまだ、自分自身の理解が及んでいない。
もっとある筈だ。自分の中にあるものを正しく分かっていない。

ここでコケたら、全員終わる!

「負けられない…私(オレ)は……」

尋常ではない集中力と、子役として培った演技の技術を多量に投下し、役には近づけている。
普通の現場で言えば、撮影前に急に役を割り振られ台本を渡されて、1分以内に役を作れと言われているようなものだ。
あまりにも少ない時間の中で、これ以上ない程の完成度で仕上げている方だろう。
だが、肝心のクリアマインドの場面が、かなでも遊星に近づく事が困難だ。

「その、相手に合わせた演技止めなさいよ」

それは梨沙にとっての敗北宣言でもあり、彼女のかなに対する願望でもあった。

「は?」
「アンタはもっと好き勝手に、私を見ろって顔してる時のが、輝いてるんじゃないの!!」

そんな、有馬かなは見たくなんてない。もっと引き出せる底があるのに、加減しているのが腹正しい。
ただ、自分を見ろと笑顔を振りまくだけで、人を惹きつけるスター性。

「腹が立つけど、アンタ…天才よ……」

「……天才じゃないわ。私より…上手い役者は」

欲しくても欲しくても、容易に手に入らないそれを、この少女は元より兼ね備えている。しかも極上の仕上がりにまで磨き上げている。
なのに、どうしてそれほどの美しい原石を濁らせるような演技をするのか。
それが、見ていて耐えることが出来ない。


「天才よ、アンタは! アタシだって演技の仕事はした、そこで色んな子役も見たわ! アンタはその中の誰よりも輝いて見える!! ムカつくけど、このアタシよりもよ!
 だから、もっと見せてよ! 悔しいけどアタシ、本気のアンタの演技をもっと見たいって思ったんだから!!」

何より、梨沙にとって許せないのは。
同じ芸能世界に生きるライバルである有馬かなに、この場に居る誰よりも魅了されてしまっていることだ。
だからこそ、許せない。こんな生半可な演技を披露してくる目の前の女に。

「本気…? そんなものとっくに……」

なんだ、このメスガキ。分からせるぞコラ。

きっと芸歴も自分なんかよりもずっと浅い癖に。
周りと上手くやる。それが、有馬かながこの業界(せかい)でやって行く為に覚えた術だ。
大人は演技力なんかいらない、使いやすさを求める。気に食わないことも全部飲み込んで、他人に合わせていれば生き延びられる。

「そう、やっすい本気ね。なら、その遊星(やく)はアタシが貰うわよ! ひっこんでなさい!!」

「……なんですって」

頭に来る女だった。
真っすぐ、自分を見つめてくる目が。凄く真摯に、この演技(しごと)に向き合っている目だから。

「安いのはアンタの挑発じゃない…」

だからこそ、頭に来る。この女は、有馬かなより的場梨沙のが、優れた演技をやってみせると宣言してみたのだ。
何も知らない素人や下手糞の戯言じゃない。アイドルらしいけど、そこいらの顔が良いだけのアイドルとは違う。
本気で役者にも取り組もうとする、プロ意識を持った上で。
お前になんかに負けてたまるかと、そんな無様な有様なら、すぐに蹴落として自分が全ての仕事を奪いつくしてやると。

「でも、良いわ。的場梨沙―――見せてやろうじゃない、有馬かなの本気を」

目を閉じて、もう一度役作りに集中する。

「アンタに見せ付けて、白黒付けてやる」

そこまで言われて、引き下がれはしない。


このメスガキに目にモノ見せてやる。


……どうして、不動遊星はずっとこんな過酷な戦いをしてきたのだろう。
仲間を守りたいとか、罪を償いたいだけだったから? それもあるかもしれない。
でも、それだけならこの変なカードゲームである必要はない。
優秀なメカニックなら、もっと別の手段も選べるだろう。
それだけで、こんなゲーム続けられる筈ない。

(楽しいから…どんなに辛くて、苦しくても‥‥…それが好きだから)

私も演技は楽しいと、かなは思った。
嫌な事だって、一杯ある。
お母さんに気を遣って売れ続けようとするのもしんどい。自分の気に入らない事をやっていて嫌だし。
周りに合わせる演技も、使われる方からしたら便利でも、自分じゃ納得がいかない時も多い。
それでも、役者を続けてきたのは、演技が大好きだったから。

演じるのが、それさえ出来れば―――。

それまでの苦行なんて、無に帰す程に。

楽しいから。それが好きだから。


横に居る生意気なメスガキに一瞥をくれる。急にデカい口叩いてきて、しゃしゃり出てきた女。あの女の言葉が、それを思い起こさせてくれた気がする。
一番最初の、多分人生で一番幸せだったころの。純粋に演技を楽しんでいたあの時の想いを。
これだけは、やっぱり捨てられなくて。挑発と分かっても乗ってしまう。
演技だけは、誰にも負けたくない。例え興味がなくたって、こちらを振り向かせて自分を見せつけてやりたい。
自分一人なら、本当に最悪の場合はコケても良い。死にたくないが、まだマシだ。
だが、今は大勢の人の命も掛かっている。
そんな自分を、見せつけたい観客(なかま)もこんな場所で死なせたくもない。

それだけは何事にも代えられない、揺るがない想いだ。

「赤き竜の痣が? ……オレ達に赤き竜が力を貸してくれるのか」

龍亞の右腕のドラゴンズ・ハートが輝き出す。
これまでに何度も見てきた、遊星がアクセルシンクロをする時に起こる前兆だ。

いつだってそうだった。この竜の神格は、真に困難に立ち向かう人間の想いが集った時、それに答えないことはない。

強い確信を持ち、龍亞は叫ぶ。

「集いし夢の輝きが、新たな進化の扉を照らし出す!!」

本物の遊星の、揺るぎなき境地 クリアマインドには劣るが、赤き竜の光がそれを補うように強く光り輝く。
フォーミラ・シンクロンが光の輪となり、スターダストを導く光の道となる。
死に体のスターダストの目に光が宿り加速した。

「太陽(ひかり)差す道となれ!!」

龍亞の口上の中、かなは目を閉じて、そこに佇んでいるだけだった。
でも、たったそれだけで存在感を放ち、目を焼く程の眩い太陽の様に――。

そして、次の瞬間目を見開き、その何も描かれていない白のカードを天上へと翳す。

「アクセルシンクロォォォォォ!!!」

龍亞の叫びと共に、カードをスキャンするように小さな輝きが迸り、その姿が記されていく。
加速したスターダストがその空気抵抗によりスリップストリームを引き起こし、赤い光を纏う。
メリュジーヌは二つの鞘から魔力の刃を生み出し、スターダストの加速に合わせ一息に両断しようと構えた。

「噛み砕く」

速い。確かにそれは認める事実だ。竜種の中でも最高速の範疇にある。
それでも、まだメリュジーヌには届かない。

「―――消えた?」

ならば、もっと、もっと速く、もっと激しく、時間すら振り切れ。
不可解な現象が発生した。メリュジーヌの視界から、スターダストが消失したのだ。
一切の前触れもなく、最強の妖精騎士の目を以てしても、見切る事すら叶わずに消え去った。

「生来せよ! シューティング・スター・ドラゴン!!」

それは単純にして明快な事実。スターダスト・ドラゴンはその瞬間のみ、光をも超えた。
メリュジーヌの背後から空間を破り、星屑は流星へと進化し、凄まじい煌めきと共に天高く上昇。
その翼はより速く飛行する為、戦闘機に近いフォルムへと変形し、星の粒子がジェット機の様に推進力となる。
シューティング・スターは夜空に降臨し、まるで太陽のように暗闇を照らし出す。


「流星……」

恐らく、ずっとずっと…人類に寄り添い、絆を尊び、人の輝きと在り方を美しいと感じた竜なのだろう。
ただ、諦めない人々の想いに応え続け、限界を超え続けた。
その翼は希望と絆を背負い、幾度となく英雄と共に絶望を退けたのだろう。

「そうだね……空は竜の領域だ」

ならば、その翼を落とすとしよう。
いずれ妖精國(せかい)を焼く、この厄災の機体(つばさ)で。

「そこで朽ちるのなら、君も本望だろう」

愛(オーロラ)の為に、絆(きぼう)を燃やし尽くそう。



―――君が人間の希望を、集いし願いを守りたいように。
   私は生涯を掛けて、彼女を守ると誓ったのだから。


「スターダスト・ミラージュ!!」

シューティング・スターが5つの分身を生み出す。
手足を折りたたみ、より鋭く直線的な姿へと変える。
音速を超える5色の5つの流星が、メリュジーヌへと降り注いだ。

「今は知らず、無垢なる湖光(イノセンス・アロンダイト)」

降り注ぐ流星群目掛け、メリュジーヌは飛び上がる。
かつては、帰り損ねた星に向かうように。その、流星を撃ち落とす為に。



―――影真似の術!!



「お前……!」

「1秒は止められたんでな……こいつも効かない訳じゃねえだろ」

してやったりといった顔で、シカマルは挑発を込めた笑みを、メリュジーヌに向けた。
シューティング・スターの放つ輝き、そこに生まれた影を伸ばしメリュジーヌの影へと触れる。
既に体力はほぼない。メリュジーヌを縛れる時間は、コンマ1秒にも満たないだろう。
その予想通り、メリュジーヌは一瞬で拘束を破り、シカマルは疲労に耐え切れず倒れた。

「―――!!!」

だが、迫りくる流星の突撃の前では、致命的なロスとなる。
影真似の術を振り切り、遅れて発動した宝具の前に一体目の流星が激突する。


「……ぐっ」

外皮から精製したアロンダイトのレプリカで一体目を切り裂く。
だが衝撃を殺し切れず、この戦いのなかで初めて、メリュジーヌの口から呻き声が漏れる。
僅かな時間のロス、だが迎撃を間に合わせる為に発動した宝具は不完全なまま。元より外気に弱いレプリカのアロンダイトは、更に外気へと耐性を失っていた。
二体目、切り裂く。その時、アロンダイトにノイズのような歪みが奔る。
三体目、突撃してきたシューティング・スターに触れ、その頭部に罅を入れた直後、アロンダイトは雲散霧消する。
短時間の維持しかできない代物だ。初撃の勢いを影真似の術で殺され、放った不完全な威力では、五体の流星を切り裂くまで保てない。宝具の消失と共に、四体目の流星が翔ける。

「カットライン! ラーンスロット!」

鞘の基部を回転させる。魔力を二つの鞘の先端に集中させる。
数百を超える超える斬撃と打撃の乱打を叩き込む。一撃一撃が、膨大な魔力の塊を直接打ち込み放出し、体内を貫通する魔拳。
それら全てを受け、四体目の流星は砕け散った。残るは本体、五体目の流星のみ。

「より早く!」

鞘から放出魔力量を更に増加させる。

勢いを乗せ、天空を駆け。
最後の流星に打ち付けた。

「―――落ちろォ!!!」

「結束(きずな)は落ちない! 罠カード、シンクロ・ヘイロー発動!! シューティング・スターの攻撃力を倍にする!!」

シンクロモンスターが相手のモンスターを倒せなかった時、その攻撃力を倍にする罠カード。
スターダストの時では、発動しても恐らくはメリュジーヌには通用しなかった。
だが、今は違う。光速の世界を越え進化したシューティング・スターならば。

「なッ……!!」

メリュジーヌが圧される。
最強の妖精騎士が。
最高位の竜種が。

流星によって堕とされる。

シューティング・スターはソニックブームを発生させ、爆風を巻き上げながら、轟音と共に大地にクレーターを刻み込んだ。


―――



「すごいよ! みんな! オレ、一人じゃアクセルシンクロなんて出来なかった……」

天空に佇むシューティング・スターを見つめて龍亞は明るく声を上げる。
本音を言えば、召喚に成功出来るか、半信半疑で考えていた。
一応、支給品として配った以上は利用価値を付与しているとは思っていたが、みんなの力でこうして召喚出来た事には感慨を覚える。
役として遊星に近づけたかなも、それに発破を掛けた梨沙も、影真似で最後にサポートしてくれたシカマルも。
誰か一人でも欠けていたら、きっとこうはならなかった。

「……今の演技、撮影だったらもう一回撮り直したいくらいよ。全然、駄目じゃない。もっと時間があれば、より仕上げて来れたのに……。
 それよりアンタ、その肩……」
「大丈夫…痛いけど」
「それ、大丈夫じゃない奴よ!」

(なにが、撮り直したいよ……)

梨沙からすれば、謙遜を超えて嫌味にも聞こえてきてしまう。ろくな台本もなく、口頭で人物像を聞いて数分で、あれだけの演技を魅せたのだ。
少なくとも役者としては完敗している。それを示すように、自分はずっと有馬かなだけを見続けてしまっていた。
とても身勝手で、私を見てと押し付けるような、我儘染みたその眩しさに。梨沙は惹かれてしまっていたのだから。
自分もああなりたいと、ずっと思い続けて、努力もレッスンも積んできた。
その理想の形を、あんな太陽のような形で体現されたのだ。

(……負けたわ。こっちのプライドズタズタよ。でも、アタシはこれからよ。
 見てなさい。有馬かな、アンタを必ず超えてやるんだから)

けれども、それが少女が夢を諦める理由にはならなかった。

(アンタを超えてトップアイドルにならないと、アタシが大統領になれないのよ! パパと結婚できないなんで許さないわ。
 いずれ、絶対にアンタよりもアイドルも女優もこなしてみせる。だから―――)

ドンッと、耳が破裂しそうな銃声が響いた。向こうにいたシカマルが、とても焦った顔をしている。
赤い血が出て、素人目からでも絶対に助かりそうにない量が、胸から溢れ出していた。
一言で言えば、三人は勇気をもって最強の妖精騎士に挑んだが、普段は直接的な殺し合いには無縁だ。
だから、確実に息の根を止めたかも確認せずに、相手を倒したと思い込んでしまい、完全に油断しきっていた。

「う…っ…そ…?」
「か…な……? かな!!」
「……っ!」

龍亞の前で、胸から血を流す有馬かなを見て、梨沙は呆然とした。
この三人は目の前の脅威であるメリュジーヌに対してのみ、気を取られ過ぎていた。
そして、真っ先にまだ過ぎ去っていない脅威に対し気付いたシカマルだが、その行動は間に合わない。

「これでもう…アクセルシンクロとやらは、使えませんわね」

満面の笑みで北条沙都子は、その精密な射撃の技術を遺憾なく発揮してみせた。

「あの時、確実に殺したはず―――」

間違いなく、影首縛りで沙都子を絞殺した。死んでいるのも確認し、脈も測った。

「仮死薬かなんかか? だが……いつ薬を」

シカマルの知る中でも、忍者の技術で生きた相手を仮死状態にする術には、心当たりがある。
優れた忍者は針の一刺しで行うことも出来る。
問題は、いつ仮死状態になったかだ。

―――人間は動脈を圧迫されると、短けりゃ大体十秒足らずで失神するらしいが

藤木に数時間前語った知識を、頭の中で改めて繰り返す。


「把握してたのか? 予め、自分が何十秒で意識を失うか……」

意識を失う直前、ある程度余裕のある段階で、大袈裟に演技をしてみせてる事で仕留めたと思わせる。
その後、シカマルが術を解いた後に薬か何かを利用し、仮死状態となり死を偽装した。
それがシカマルの出した結論だ。

「さあ、どうでございましょう。ただの直感ですわ」

沙都子の不審な点に対し、直感で気付いたと、とぼけたシカマルへの意趣返しなのだろう。意地悪そうな顔をしながら、沙都子ははぐらかす。
だが、シカマルの中ではその推測はほぼ確信へと変わる。
何度も己の首を絞めて、その日の体調や状況など検証を重ねれば、理論上は個人差のある失神までの秒数の平均程度なら割り出せる。

(そういう忍者や一族が居ても、おかしくはねえが……普通、首を絞められて何秒で気絶するか…誤差まで計算に入れられるなんて、ありえるか? 
 そんなもん、調べる前に何処かで普通は死ぬだろ?)

シカマルの分析では、沙都子の肉体自体はただの幼女の域を出るものではない。
もし、それらの肉体の生理現象を検証し誤差の範囲まで観測するような一族であれば、それは少なからず表面に出る筈だ。

(何なんだこいつ…見た目とやってることの何もかもが一致しねぇ。こんなに先が読み辛ぇ相手は初めてだ)

どんな人間でも、その表面にそれまで生きてきた情報がある。それなのに、沙都子からは、その表面には釣り合わない内面が後付けのように溢れてくる。
中身と入れ物が違う、そんな印象を受けた。

(ギリギリでしたけれどね。……メリュジーヌさんから、面白い薬を貰っておいて良かったですわ)

沙都子が服薬した薬は、未来の世界で一般に販売されている『葬式ごっこの薬』。
その名の通り、飲んだ人間の脈を止め、体を冷たくし、それを診た医者ですら、死亡したと診断する程の代物だ。

(惨劇を繰り返した雛見沢の中で、こういった殺し方もいくつか試しましたし、そういう死に方もしていますのよ。
 だから、死ぬかどうかのラインは手に取るように分かりますわ)

当然ながら、死ぬリアクションも実体験から演じ再現した。
人の死を間近で何度か見てきているシカマルですら、違和感がない程にそれは真に迫っている。
なにせ、リアリティが違う。とある漫画家が聞きつければ、作品に活かしたいと喉から手が出るだろう程に。

―――私も役者をやれますわね。

血の海で倒れるかなを見下ろして、優越感に浸りながら沙都子はそう思った。

「メリュジーヌさん」

指を鳴らす。
その音を合図にするように、メリュジーヌがクレーターから飛び出し、沙都子の横に並び立つ。

「具合は、どんなものですの?」
「……そう大したものじゃないよ」

鎧に罅は入っているが、五体満足のまま目立った傷もない。
ただ、沙都子はメリュジーヌの体幹が僅かに揺れたのを見て、内心で舌打ちをする。
決定打ではないが、攻撃は通用はしている。このまま戦えば負けないにしても、こちらもただでは済まない程度には、あのドラゴンはこちらの戦力に迫っている。

「あいつ、まだ…戦えるのか……シューティング・スター・ドラゴン!!」

龍亞が叫ぶ。
まだ、召喚したシューティング・スターの現界時間は残されている。
戦闘の態勢に入るシューティング・スターを見て、メリュジーヌも鞘を構えた。


「ふざけないで…アンタ、どうしてこんなことするのよ! この娘はこれからだったのよ!」

その時、誰よりも怒りを露わにして梨沙は叫ぶ。

「きっと、あの娘はもっと……!」

その才能に一番触れたからこそ。
きっと、その未来に於ける有馬かなは、もっと光り輝くのだろうと確信めいていた。

「何を言っているんですの? どうせ子役なんて、成長すれば用済みじゃありませんか」

「なん―――」

「貴女もですわよ。
 アイドルなんて腐る程居るんですもの、売れるのは一握り。
 きっと楽しいのは今だけ、未来は貴女の思い描くような理想通りにはなりませんわ。ええ…輝かしいのは―――今だけ」

悪意に満ちた嘲りではなく、ただありのままの事実を述べるように淡々と言葉が紡がれていく。
まるで、自分はそれを見てきたように。

「やってみないと、分からないじゃないか! 沙都子に未来を決める権利なんてない!!」

「そういえば龍亞さん、貴方さっき絆とか仰っていましたわね。
 数を束ね、相手を潰す。それは絆ではなく、リンチと呼ぶんですのよ」

「そ、そんなこと―――お前、頭おかしいよ!」

「絆とは、そんな薄っぺらで軽いものではありませんわ。
 繰り返す(つみかさねて)、みなが罪(きずな)を築き上げていく。そうではございませんの? だから、私はこれからも友情を深めてくれた惨劇(きぼう)を信じますわ!!
 そして、望まぬ未来(ぜつぼう)を何度も何度も退けてきましたの。この絶対の意思で」

同じ意味を持つ、言葉なのか?

龍亞は息を飲み、唖然とした。
遊星が絆や希望を語るのと、この少女が語る有様は同じようで、全く別の意味合いに聞こえてくる。

「違う……絆は……」

「なら、貴方は貴方の信じる絆(リンチ)を続ければ良いじゃありませんの。
 そういえば、もう割戦隊の5人とも戦って殺したんですのよね? 素晴らしいですわ! とんだ焼け野原ですわね」

「!!?」

血に染まったパワー・ツール・ドラゴンが頭を過る。
龍亞はそれ以上、何も言えなくなってしまった。

「行きましょうか、メリュジーヌさん。流石にこれ以上遊んで、ブラックさんとやらに鉢合わせるのは面倒ですし」

腹正しいが、完全な誤算だった。
乃亜の言うように、これは公平な殺し合い。
支給品の使いようによっては、弱者が強大な参加者に対抗出来うるようにゲームをデザインされている。
格下と侮って、下手に手を出せば痛い目を見る事もあるのだろう。

(逆に言えば、私が最後…メリュジーヌさんを殺す手段を手にする事も可能である。とも言い換えられますわね)

だが、どこまでも固く、その信念を揺るがす事はなく。
絶対の意思を曲げぬまま、だが自分の失態をも次の盤面へと活かそうと策略を巡らせる。

「分かった」

沙都子を抱き上げる。
これからが本番の戦いと身構えただけに、多少拍子抜けしたような様子ではあるが。
やはり、不服そうではあっても、彼女に逆らう事はしない。
甘い魔女の囁きに逆らえず、流されるように妖精騎士は、メリュジーヌは疾走した

「やめとけよ、龍亞…そのドラゴンで追撃しようだなんて……」
「……」
「悔しいのは分かるが、あいつらをこのまま続ける気にさせちまったら……ここにいる全員死んでもおかしくねえ」

最強の竜種であり、最強の妖精騎士を相手を撃退した。
これ以上ない程の戦果であり、幸運であり、偉業を成し遂げた。
それでも、どうしようもない無力感を味わい、三人はただそれを見つめる事しか出来なかった。




―――






「動くんじゃないぞ! お前! マグルの武器というのが気に入らないが、僕だって銃の扱いぐらい分かるんだ!」

「ふざけんじゃねェぞ!」

シカマル達が居た民家から、少し離れた場所でドラコ・マルフォイは灰原哀の首を腕で拘束し、銃を突き付けていた。
その前では、体に所々かすり傷を作りながらも、山本勝次が苛立ちを見せながらも対峙する。
動けば撃つと暗に言われているのだ。自分ならまだしも、灰原に銃口が向けられていては強硬手段も取り難い。

「落ち着きなさい。貴方」
「黙れ! 何なんだ一体、急に爆発したかと思えば……!」

この三人はメリュジーヌのアロンダイトとスターダスト・ドラゴンのブレスの激突の際、奥の部屋に入った為に、その衝撃の余波に煽られながら、シカマル達とは別の方角へと吹き飛ばされてしまっていた。
民家の方角からは轟音が聞こえてきている。恐らくは交戦中だと考えられるが、駆け付けようにも意識を取り戻したマルフォイを対処しなければ、今度は灰原の身が危ない。
焦りを覚えながらも、慎重に勝次はマルフォイの様子を伺う。

「私達は殺し合いには乗っていないわ。貴方は……」

「黙れ!」

(取り返しのつかないミスね…ここまで吹き飛ばされた時に、私のランドセルを奪われるなんて)

ブラックから預かったランドセルは手元にあるが、肝心の自分のランドセルはマルフォイに取られ、中に銃まであったのだから、泣きっ面に蜂とはこのことだ。

「どうするつもりだお前、もし灰原を撃ち殺したらヒー坊でお前を貫くぞ! こいつは槍みたいに鋭い触手を伸ばせんだ!」

「フン! ……くっ」

鼻で笑った後、マルフォイは狼狽する。
幼いとはいえ魔法使い。魔法生物にもマグルよりは明るい。
だから、得体のしれない生物に対して理解もある。
勝次の左腕の気色悪い生物が、本当に攻撃手段を持っている可能性を否定しきれなかった。

「……その灰原の支給品はやるよ。だから、さっさと灰原を解放してどっか行っちまえ」

灰原には悪いが、彼女の命に代えられないこと。
更に言えば、メリュジーヌ達と交戦しているであろう龍亞の身が心配だった。
灰原の安全と、一秒でも早く時間を買えるのなら、支給品くらいは渡しても良いほどに。

「足りねェなら、俺のだってやる」

「うるさい! ……うるさい」

「貴方…本当は殺しなんて、したくないんじゃないの?」

そんな僅かなマルフォイの動揺を突くように、灰原が口を開いた。

「それは正しいことよ。貴方の倫理観は間違ってはいないわ」
「黙れ! 既に一人、襲っているんだ!!」
「その一人は殺したの? そうでなければ、貴方はまだ引き返せる。こんな殺し合い乗る必要なんてないのよ。
 一度犯した罪は、鎖になるわ。それは罪人を逃さない。いくら振り解いても、過去という名の鎖は逃がしてはくれない」

まるで、自分のことのように。
落ち着いた口調でありながら、影を見せる表情で語る灰原にマルフォイは固唾を飲む。

「……どうして、お前達は乃亜に逆らえるんだ?」

「なに言ってんだ?」

「怖くないのか? 奴がその気になれば、こんな首輪いつでも爆破できるんだぞ。
 僕達は奴に命を握られているんだ! どうして、逆らおうなんて思える!?
 どこで会話を聞かれているかも分からない。乃亜の機嫌を損ねた瞬間、僕達は殺されてしまうかもしれないんだぞ!」

「落ち着いて考えろよ。殺し合いに乗るにしたって、さっきの爆発を引き起こした鎧のチビ女を相手にすんだぞ?
 そんな奴と戦うより、一か八か脱出を狙った方がいいだろ?」

「そのチビ女すら、捕まえて言いなりにさせているのが乃亜だろう!! どうやって脱出、出来るというんだ!!」

「クソッ……!」

マルフォイの訴えを聞いて、勝次もその敵意が薄らいでいく。代わりにあるのは同情心だ。
マルフォイも好きで殺しをしたい訳ではない。むしろ恐怖に怯え、自衛の為に必死になって周りが見えなくなっている。


(そりゃ確かに…言われてみれば、こんな爆弾首輪付けられて乃亜の悪口を言いたくないのは分かるけど)

問題は、本人が高慢で人の話を聞かないのと、極端に馬鹿ではなく、事態を飲み込めた上で悲観的な結論を急いでしまっているのが質が悪い。

「女、お前……僕と来るんだ! 帽子のお前、お前はそこにいろ!」
「おい、何考えてんだ!?」

それはマルフォイにとっての苦肉の策だ。
乃亜と敵対するのは、これ以上ない程に恐ろしい。だが、人を殺める勇気もない。
だから、殺し合いに乗るという姿勢は崩さず、だがそれを一先ず引き延ばす。
この場から離れて、作戦や態勢を立て直すという建前で、目の前の少年から逃げる事にした。

「逃げるなら、灰原も置いて行けよ!」

「この女は人質だ! 動くんじゃないぞ!!」

人質とは言ったが、本当の理由は一人になるのが怖かったからだ。
エリスに馬乗りになられ、徹底して甚振られた恐怖がマルフォイが一人になるのを躊躇わせた。
それに先ほどの説得の言葉の重みから、自分達子供とは違う安心感や頼もしさを覚えたのだろう。

(不味いわ…ブラックがもし、私の居ない間に……シカマル達と出会ったら)

また、灰原にも懸念すべきことがある。
仮にも殺し合いに乗ると宣言してみせたブラックのことだ。
取引を成立させたとはいえ、灰原が制御してるとも言えないが、自分の目の離れた場所で別の参加者に何をするのか、不安がない訳ではない。

(いえ、あまり期待はできないけれど)

―――俺の荷物持ちをしている間は生かしてやるよ

あるいは、あの言葉を信じれば。
ブラックは、その荷物を未だ持ち続けている灰原を”生かす理由”が出来るのではないか。
救助に来る必然性が生まれるのではないか?
わざわざ、シカマル達を襲うのではなく、自分の救出を優先するのではないか?
希望的観測も込みだが、それでも自分で言ったことを翻すような男でもなさそうだ。
そう考えて……。

「勝次君―――貴方」

ここは言う通りにしてシカマルと合流し、そしてブラックに自分の荷物を預かっていると伝えて欲しいと、そう言おうとして口を閉ざす。
もし、仮に自分の想定したとおりにブラックが行動してくれたとして、今度はマルフォイはどうなる?
灰原を生かす為に、無慈悲にマルフォイを殺害してしまうのではないか?
ただ、殺し合いに一方的に巻き込まれて、まだ誰も死なせてはいない被害者の子供を死なせてよいのか。

探偵団の仲間達なら、江戸川コナンなら、それを良しとするか?

「……私は平気よ。だから、大人しくしていて……あとブラックには、この事は伝えないで」

死なせてはいけない。まだ、こんな子供を。

「そ、そんなこと言われても……」

マルフォイはそのまま灰原を連れて、ゆっくりとだが勝次から遠ざかっていく。
一瞬、隙を突いてヒー坊を、そう考えたが灰原の安全が保障出来ない。
それに、やはり勝次もマルフォイを死なせたくはなかった。
割戦隊と違って、までこの少年は引き返せる。
やがて、マルフォイと灰原の姿が消えた後、勝次は考える。


(どうする…あの二人を追いかけるか? だけど……)

はぐれた龍亞とかなも気にかかる。

あの鎧のチビ女は、勝次にとっても詳細は分からないが、宮本明ですら手に余る程の実力を兼ね備えているに違いない。
それにもう一人、あのエセお嬢様の沙都子だ。口調は丁寧だが、育ちの悪さが隠しきれていない。
とんだ、ヤバい奴だった。
あんな二人組を相手にさせて、シカマルが居たとしても無事でいるとは思えない。

(あの金髪野郎相手なら、灰原でも何とかなるか…? やっぱり龍亞達の方に)

その時、勝次を照らし出すようにドラゴンが天空へと降臨する。

「なんだ、あのドラゴン…それにあったけェ光だ……」

シューティング・スター・ドラゴンを前にして、あれが今までに見た邪鬼のような異形とは違い、邪悪な存在ではないと直感で判断した。
多分、召喚したのは龍亞なのだろう。前に出したパワーツール・ドラゴンのように、カードを使った可能性が高い。
あのドラゴンが居てくれるなら、あちらは何とかなるか?

「どうする……?」

救出の早さを優先してマルフォイと灰原を追うか、龍亞達と合流を優先するか。
それなら、灰原と同行していたらしいブラックに、救出の協力も取り付けられるかもしれない。

―――あとブラックには、この事は伝えないで

「灰原はブラックって奴が金髪野郎を殺さないか、危惧してんのか? くゥ、どうすりゃいいんだ」




【G-2民家から離れた場所/1日目/黎明】

【灰原哀@名探偵コナン】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:絶望王の基本支給品、救急箱、絶望王のランダム支給品×0~2
[思考・状況]基本方針:コナンや探偵団のみんなを探す。
0:マルフォイを説得したい。
1:殺し合いを止める方法を探す。
2:ブラックについていき、説得できないか試みる。もし困難なら無力化できる方法を探る。
3:沙都子とメリュジーヌを警戒する。
[備考]
ハロウィンの花嫁は経験済みです。


【ドラコ・マルフォイ@ハリー・ポッター シリーズ】
[状態]:現状の怪我は応急処置済み(鼻骨骨折、前歯があちこち折れている、顔の至る所に殴られた痕)、ボサボサの髪、失禁
[装備]:ホグワーツの制服、サブマシンガン(灰原に支給)@彼岸島 48日後…
[道具]:灰原の基本支給品、灰原のランダム支給品×0~1
[思考・状況]
基本方針:ゲームに乗り、生き残る。
0:本当は殺したくない。
1:灰原を連れて逃げる。一人になりたくない。
2:赤い髪の女(エリス)が怖い。
3:着替えが欲しい。
[備考]
※参戦時期は、「秘密の部屋」新学期開始~バジリスクによる生徒の石化が始まるまでの間


【山本勝次@彼岸島 48日後…】
[状態]健康
[装備]ヒー坊@彼岸島 48日後…(自前)
[道具]基本支給品、ランダム支給品1~3、割戦隊の首輪×1
[思考・状況]基本方針:クソみてェな殺し合いをぶっ潰す。
0:民家の方に引き返して龍亞達と合流するか、マルフォイと灰原を追いかけるか……。
1:無害な子供も保護して家に帰してやりたい。
2:首輪を外せる参加者を見つけ出す。殺し合いに乗らない奴も味方にしたい。
3:鎧のチビ女とエセお嬢様野郎、あいつらふざけやがって!
[備考]
少なくとも、血の楽園突入以降からの参戦です。
遊戯王5D's&当時のかな目線の【推しの子】世界について、大まかに知りました。









私は有馬かな。天才子役。
徐々に、人気も下がり始めてるけど……一応まだ天才子役。
でも、まだまだこの業界にしがみ付いて行こうと思ってた。
私よりいい演技をした天才子役アクアも気になるし、最近は周りの大人にも合わせなきゃって考えも改めたし。

(血、すご……)

それが気付いたら、海馬乃亜とか名乗る嫌味ったらしい変なガキに殺し合いを強制されてしまった。
しまいには銃で撃たれて、胸から血が出てきて止まらなくなった。

あまり考えたくないけど、これ死んじゃうんだなって。

凄く胸が痛いし。

どうしよ。私が死んだら、お母さん……悲しんでくれるのかな。

ここで死んだら、行方不明で報道されてお母さんやお父さんが疑われて…絶対帰らなくちゃ。
そう思っても、血と一緒に体から力が抜けていくようだった。

大きくなったら、一途で誠実な素敵な人と付き合いたかったな。

ごめんなさい、お母さんお父さん。
私、死んじゃうかも。

「かな! かな!!」

「アンタ…しっかりしなさいよ! 病院、そうよ…病院で」

龍亞と憎たらしいメスガキ面をした梨沙がこちらを覗き込んできた。
病院行っても、医者が居なきゃどうにもならないでしょうに。

……でも、梨沙のメスガキ面見てると、対抗意識が燃えてきた。
私にあれだけ挑発してきたんだもん。このまま死ぬのも、悔しい。
どうせ死ぬなら、苦しい顔じゃなくて……

誰かの心を奪う、そんな光みたいに。
私を見て貰ってる人達に、有馬かなとしての魅せらるだけの笑顔を。

「龍亞達と、あと…そこの後輩も…頑張んなさいよ……」

色々言いたいこともあったけど、この殺し合いを何とかしようとしてる龍亞とシカマルと、ここには居ないけど勝次と。
それから、この先厳しい世界に喰らい付いて行こうとする生意気な後輩に。
一言で、色々纏められる言葉を。そう思って、あまり捻りのない台詞になってしまった。

でも、笑顔で言い切ってやった。



(こんな私でも、誰かの推しの子になれたのかな……)


最後にそんなことを思って……。
案外、こんな殺し合いに巻き込まれなかったら、私、アイドルやってたのかもしれないわね……。




【有馬かな@【推しの子】 死亡】






「ごめん…かな……オレ…シグナ―なのに、守ってあげられなかった……」

血の中で海の中に浸るシューティング・スター・ドラゴンのカードを龍亞は手に取る。
自分が憧れる不動遊星(ヒーロー)の力を借りても、こんな小さな女の子を一人守ることすら出来なかった。

「く、そ……!」

このカードを思いっきり握りしめて、くしゃくしゃに潰そうとして――それは、駄目だと抑えた。

「……Z-ONEも…同じ気持ちだったのかな」

今なら少しだけ、最後の人類として生き残り続けたもう一人の英雄(ゆうせい)の気持ちが、理解できた。





―――輝かしいのは―――今だけ




「今、だけ……」

梨沙も呆然と佇んでいた。

沙都子の言ったことは戯言だと切り捨てたかったけど、有馬かなの射殺と共に現実を突き付けられたようで。
自分が考えたくなかった考えを、直視させられているようで。

「アタシ…この先も、アイドルでいられるの…?」

考えたくはないけど、もしも、この先死ぬ時が来た時、自分は有馬かなのように笑顔で死ねるのだろうか。
あの少女は最後まで、役者として死んでいった。
じゃあ、的場梨沙は? 
この問いに、梨沙本人は答えることが出来ない。

「あんま気にすんな」

「シカマル?」

「お前はよくやってる……俺なんて、夢が4つあったんだけどよ…早速1つ叶わなくなっちまったし……。
 そんな俺が保証してやる、お前の人生設計は悪くねえ」

「アンタの…夢って何よ?」

「―――もう、忘れちまったよ」

そっか、こいつ慰めてくれてるんだ。

梨沙は少しだけ、顔に覇気を取り戻した。

「……ありがとう」

これから、まだやらなくてはいけないことは沢山ある。
不安が拭えたわけでもなく、かなが目の前で死んだショックも残っているけれど。
シカマルのお陰で、少しだけ前向きになれた。



【G-2民家跡周辺/1日目/黎明】

※民家は消し飛びました。


【奈良シカマル@NARUTO-少年編-】
[状態]健康、疲労(大)
[装備]なし
[道具]基本支給品、アスマの煙草、ランダム支給品1~2
[思考・状況]基本方針:殺し合いから脱出する。
0:灰原達とも合流したいが、ブラックのことも何とかしねーと。
1:殺し合いから脱出するための策を練る。そのために対主催と協力する。
2:梨沙については…面倒臭ぇが、見捨てるわけにもいかねーよな。
3:沙都子とメリュジーヌを警戒
4:……夢がテキトーに忍者やること。だけど中忍になっちまった…なんて、下らな過ぎて言えねえ。
[備考]
原作26巻、任務失敗報告直後より参戦です。


【的場梨沙@アイドルマスター シンデレラガールズ U149(アニメ版)】
[状態]健康、不安(小)、有馬かなが死んだショック(極大)、将来への不安(極大)
[装備]なし
[道具]基本支給品、ランダム支給品0~2
[思考・状況]
基本方針:ゲームから脱出する。
1:シカマルについていく
2:この場所でも、アイドルの的場梨沙として。
3:でも……有馬かなみたいに、アタシも最期までアイドルでいられるのかな。
[備考]
※参戦時期は少なくとも六話以降。


【龍亞@遊戯王5D's】
[状態]疲労(大)、右肩に切り傷と銃傷、殺人へのショック(極大)
[装備]パワー・ツール・ドラゴン&スターダスト・ドラゴン&フォーミュラ・シンクロン(日中まで使用不可)
  シューティング・スター・ドラゴン&シンクロ・ヘイロー(2日目黎明まで使用不可)@遊戯王5D's
[道具]基本支給品、DMカード3枚@遊戯王、ランダム支給品0~1、割戦隊の首輪×2
[思考・状況]基本方針:殺し合いはしない。
0;かな……。
1:妹の龍可が居れば探す。首輪を外せる参加者も探す。
2:勝次が心配。
3:沙都子とメリュジーヌを警戒
[備考]
少なくともアーククレイドルでアポリアを撃破して以降からの参戦です。
彼岸島、当時のかな目線の【推しの子】世界について、大まかに把握しました。


【支給品紹介】
【スターダスト・ドラゴン@遊戯王5D's】
一度の使用で12時間使用不可

【シンクロ・ヘイロー@遊戯王5D's】
ロワ内の効果として、シンクロモンスターが相手を倒す(殺害か無力化)出来なかった時、発動し攻撃力を倍にする。
アニメオリジナルカード。
一度の使用で24時間使用不可。

【DMカード5枚】
上記2枚と合わせ、セットで1つ扱いで支給。

【フォーミュラ・シンクロン@遊戯王5D's】
的場梨沙に支給、シューティング・スターとセット扱い。
アクセルシンクロを行うのに必要なカード。
一度の使用で12時間使用不可

【シューティング・スター・ドラゴン@遊戯王5D's】
的場梨沙に支給、フォーミュラ・シンクロンとセット扱い。
スターダスト・ドラゴンの進化系。
クリアマインドと呼ばれる精神状態になり、アクセルシンクロすることで呼び出せる。
原作ではバイクに乗っていたが、乗らなくても召喚は可能とする。クリアマインド判定も緩くなってはいる。
一度の使用で24時間使用不可。









「沙都子の話を聞いても良いかな」

「どうしたんですの? いきなり」

「あの子達に言ってたじゃないか。絆がどうとか…沙都子の仲間の話を聞いてみたくなったんだ。
 僕は僕の事を話したんだ。君の事を聞いても良いだろう?」

戦闘を終え、沙都子の指示に従いながら移動するなか、メリュジーヌは不意に言った。

何か思惑があるのだろうか。逡巡した沙都子だが、はぐらかして機嫌を損ねても面倒だと考える。
だから、端的に惨劇を語った。
大好きで、憎くて、裏切られて、それでもやっぱり大好きな友達を繋ぎとめる為に。
罪という絆を重ねて、輝かしい今を守る為に。
惨劇を引き起こし、梨花の心を折るために戦い続けた事を。

全てを聞き終えたメリュジーヌは短く「そう」とだけ呟いた。

虚しく、涙を流しそうなほどの顔で。

思えば自分は、罪すら彼女(オーロラ)と共有できなかったな、と。

どんな罪を犯しても、オーロラはそのことを忘れ去ってしまう。
この先、メリュジーヌがオーロラの為に積み重ねる罪すら、彼女は知らずにいるのだろう。
ただ一言「ありがとう」たったその一言すら、言ってはくれずに。

あの、眩いばかりの流星の竜の輝きを思い出す。
あれは、人の想いを継ぐ優しい光だった。

その光が眩しくて、自分の愛を否定されそうで―――

「その愛は本物ですわよ」

その時、狙ったように声が響く。

「貴女も積み重ねているではありませんか。その悲しみ(きずな)は例え、他の誰かが否定しようとも―――それは愛なんですのよ」

痛んだ心に染みるように。
沙都子の甘い声が響く。

「この先、何があろうとも……オーロラさんにすら、忘れ去られようとも―――私だけはその愛を覚え続けてさしあげますわ」

「……なんのつもり?」

「さあ? ……なんでしょう」

人の心の機微には疎いが、何となく、この一言だけは何の打算もない。
そう、メリュジーヌには感じられた。



【G-2民家/1日目/黎明】

【北条沙都子@ひぐらしのなく頃に業】
[状態]:疲労(中)
[装備]:FNブローニング・ハイパワー(7/13発)
[道具]:基本支給品、FNブローニング・ハイパワーのマガジン×2(13発)、葬式ごっこの薬@ドラえもん×2
[思考・状況]基本方針:優勝し、雛見沢へと帰る。
0:龍亞さん達の抵抗は誤算でしたわね……。特にシカマルさんは確実に殺しておきたい。
1:メリュジーヌさんを利用して、優勝を目指す。
2:使えなくなったらボロ雑巾の様に捨てる。
3:精々頑張って下さいね?悟飯さん
4:願いを叶える…ですか。眉唾ですが本当なら梨花に勝つのに使ってもいいかも?
5:メリュジーヌさんを殺せる武器も探しておきたいですわね。
[備考]
※綿騙し編より参戦です。
※ループ能力は制限されています。
※H173入り注射器は使用後破棄されました。


【メリュジーヌ(妖精騎士ランスロット)@Fate/Grand Order】
[状態]:ダメージ(小)、疲労(小)、鎧に罅、自暴自棄(極大)
[装備]:『今は知らず、無垢なる湖光』
[道具]:基本支給品、ランダム支給品0~2
[思考・状況]基本方針:オーロラの為に、優勝する。
1:沙都子の言葉に従う、今は優勝以外何も考えたくない。
2:最後の二人になれば沙都子を殺し、優勝する。
[備考]
※第二部六章『妖精円卓領域アヴァロン・ル・フェ』にて、幕間終了直後より参戦です。
※サーヴァントではない、本人として連れてこられています。
※『誰も知らぬ、無垢なる鼓動(ホロウハート・アルビオン)』は完全に制限されています。元の姿に戻る事は現状不可能です。

【葬式ごっこの薬@ドラえもん】
メリュジーヌに支給。
飲むと一定時間仮死状態になる。




【マルフォイ以外の全員共通の備考】
全員の出展元世界と、勝次と龍亞が割戦隊と交戦したのは最低限情報交換し、共有してます。

045:厨房のフリーレン 投下順に読む 047:懐かし面影 探してる
時系列順に読む
016:臨時放送の意図を考察せよ 奈良シカマル 049:星の降る夜に
的場梨沙 071:明け方の子供達
灰原哀 068:愛さえ知らずに
ドラコ・マルフォイ
004:重曹 山本勝次 049:星の降る夜に
龍亞 071:明け方の子供達
有馬かな GAME OVER
009:さぁ誰かを、ここへ誘いなさい 北条沙都子 058:無情の世界
メリュジーヌ

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:
ウィキ募集バナー