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星の降る夜に

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だれでも歓迎! 編集
最強の妖精騎士と絶対の魔女との戦いから少し経った頃。
木の葉隠れの里の中忍、奈良シカマルは協力者である山本勝次と向き合っていた。
彼の傍らに同行者であった的場梨沙と龍亞はいない。
彼は二人を一先ず安全な民家で隠れている様指示し、メリュジーヌの攻撃により逸れた二人の協力者を探しに先行していたのだ。
その内の一人とは首尾よく合流が叶ったのだが、シカマルの表情は芳しくない。


「そうか…灰原はあの金髪の野郎に攫われちまったか……」
「すまねェ、シカマル。俺とヒー坊がもっとしっかりしてりゃ……いだだだだ!?
ぎィィイイイイ!!やめろヒー坊!俺が悪かった!!」


自責の念に駆られ、協力者の灰原をみすみす連れ去られてしまった事を謝罪する勝次。
それを叱責と受け取ったのか、彼の肩から生える怪物が癇癪を起したように啼き、それに痛みを感じて勝次はのたうち回る。
それを眺めながら、まったく次から次へと全く面倒くさい事態が起きる物だ。
心中で毒づきつつ、シカマルは勝次に責任はない。そう告げた。


「下手に刺激してりゃ灰原とお前、二人とも危なかったかもしれねぇ……
お前の判断は間違ってなかったと思うぜ、勝次」
「そうかな……それでも、灰原を守り切れなかったのは変わりねェよ」
「かもな。でももう結果は出てる。問題はこれからどうするか……だろ?」


酷な話ではあるが。
時は勝次の失敗に寄り添い一緒に悲しんではくれない。
灰原はほぼ丸腰で連れ去られた。自力での脱出は難しいだろう。
となれば、誰か救助に赴くほかない。
だが、シカマルたちの現状は芳しくない。
今しがた最強の妖精騎士、暗い沼のメリュジーヌと百年の魔女、北条沙都子を撃退した所なのだ。
全員が疲弊している今、救助隊を編成できる程の余裕はなかった。


「あの金髪野郎は迷ってる感じだったぜ?そうそう灰原を殺すとは思えねェけど……」
「……だといいがな。殺し合いに乗ってる奴は、何も彼奴一人じゃねーんだ」


例え金髪の少年が灰原を殺す恐れが低くとも。
他のマーダーに襲われればその限りでは無いだろう。
あの金髪の少年は出会った時顔面が焼きたてのパンの様に腫れあがっていた。
それは相当殴打された事を意味し、ひいては金髪の少年はそこまで腕っぷしが強くないともとれる。
自ら手を下さずとも、肉の盾にされる恐れは十分ある。
楽観視できる状況ではとてもなかった。


「……灰原は、その。ブラックって奴には伝えるなって言ってた。
多分、ブラックって奴があのクソ金髪を殺さないか心配してるんだと……」
「だろうな…だが、生憎俺達はその意図を汲んでやれるほど余裕がある立場じゃねぇ」


シカマルも、灰原が何を思って勝次にそう頼んだのかは大方推察できる。
だが、現状のシカマル達は余裕のある立場ではない。
彼自身、夜明けまで休息を取らなければチャクラの残量が乏しい事になっているし、龍亞も肩を切り裂かれている。
極めつけが、龍亞が呼び出し、自分達の窮地を救ったあの龍は暫く出せないという。
可能性自体は低い物の、もし今メリュジーヌ達が引き返して襲ってくる様なことがあれば即、全滅だ。
いや、彼女達が引き返してこなくとも。


(もし交渉が失敗すれば…あのブラックに全員殺されるかもな)


ストッパーとなっていた灰原の存在は今はもうない。
殺し合いに乗っていると豪語するブラックが彼女の目のない所で、自分達にそんな応対を見せるか分かったものではない。
シカマルがこうして先行しているのも、もしブラックを敵に回すような事態になった場合。
犠牲を最小限に抑えるためだ。
もしシカマルが一時間以上戻って来なければ、龍亞達が今隠れ潜んでいる民家を引き払う様には伝えてある。


(何にせよ…今ブラックの奴を敵に回したくはねぇ…灰原も助けてやる必要があるし、
やっぱ正直に話すしか…けど、そうなりゃ灰原を連れてかれた俺達に矛先が向かうかも…)


IQ200を超えるシカマルの天才的な頭脳をして。
ブラックの行動が読めない。彼への対応を決めかねる。
だが、時間は有限だ。シンキングタイムのタイムリミットは──直後にやって来た。


「よう、派手なギグがあったみたいじゃないか」
「……ッ!?」


シカマルは、言葉を失い。
勝次は、息をのむ。
何の前触れも無かった。
突然、本当に突然に。その少年は二人の前に姿を現した。


「どうした兄弟。表情が硬いぜ?」
「そりゃ、隣にこうも急に現れられたらな……」


無造作にかき上げた金の髪。
緋色の瞳に、耳に残るハスキーボイス。
そして、暴力的なまでの存在感と、それが急に現れた感覚。
間違える筈もない。
灰原がブラックと呼んでいた、得体のしれない少年だった。
その彼が幽霊の様に突如としてシカマルと勝次の間に現れ。
フレンドリーに二人の肩を抱き寄せ、笑みを向けてくる。



(な…何なんだよ、こいつ…ヒー坊がビクともしねェ)



通常、この距離まで接近され、無造作に接触されれば。
勝次の右肩の人面粗──ヒー坊は無差別に攻撃を加える筈なのだ。
それなのに、ヒー坊はぴくりとも動かないし、泣き叫ぶことも無い。
否、動けない。
まるで見えない巨大な手に鷲掴みにされているように、微動だにしない。
その結果として、ブラックはこうして気軽に勝次を抱き寄せられている。


「───それで?何か俺に話があるんだろ?」


にっこりと、表面上はフレンドリーに。
その実、今すぐにでも此方の首を飛ばしにかかってもおかしくない。
そんな不吉な予感をシカマルはブラックから感じ取っていた。
出来る事なら、もう少し説得のための策を練ってから交渉に臨みたい所だった。
そんな展望は、メリュジーヌと北条沙都子の大暴れで水の泡となったが。
今はそんな不運を嘆いている暇さえない。
兎に角全力でこの得体のしれない少年を納得させなければ、自分達は容易に全滅する。


「色々話さなきゃいけねぇ事はあるが──まず一つ。アンタに要請がある」
「……ま、話だけでも聞いてやるよ。言ってみな」


ニコニコと、貼り付けたような笑みを浮かべて。
ブラックはシカマルに囀る事を許可する。
全く嬉しくない心境ではあるものの、意を決してシカマルは口火を切る。


「出会った時に言った通りだ。俺達はここからの脱出を狙ってる。アンタも協力してくれ」
「……アイから聞いてないか?俺は───」
「あぁ、知ってる。その上で言ってる。今の俺達は少しでも戦力が欲しい。
アンタが協力してくれんなら──間違いなく百人力だ」


ブラックが殺し合いに乗っていること。
そんな事はシカマルも百も承知の上だ。
その上で、協力しろ、と。彼はそう告げた。
文字通り命賭の提案だった。
対するブラックの表情は薄ら笑いを浮かべたままで。
笑いながら、シカマルにとって最も答えに窮する問いかけを一つ。


「……それで、アテはあるのか?この首輪を外す具体的なアテは?」
「生憎、今は何も。何しろサンプルすら手に入れたばかりなんでな……
だけど、これからも何のアテもない様にはしねぇ…直ぐにでも取り掛かるさ」


龍亞達のお陰で割戦隊が付けていた首輪は複数手に入ったが。
現時点では首輪の解析どころか、自衛すらままならない状況下だ。
どれだけ言葉を選んだところでそれは覆らないし、下手に誤魔化してもこの男がそれを見抜けないとは思えない。
だから、此処は正直に答える他ない。
しかし、シカマルにとってはほんの僅かではあるが、勝算があった。


「灰原の奴から聞いてるよ。アンタ、実の所どっちでもいいんだろ?
優勝しようと、首輪を外して乃亜の奴に反抗しようと、構わない筈だ
チマチマリスクを考えて乃亜に怯えるタイプには俺にとってもとても見えない」


ブラックが、灰原と自分の見立て通りの人間であるならば。
合理性よりも面白いかどうかを優先する刹那的な快楽主義者であるのなら。
乗って来る芽は、決して低くない。そう踏んでいた。


「……俺は乃亜が怖くて従ってるだけの一参加者だよ。そう言ったらどうする?」
「なら、何で灰原を傍に置いた。あいつはアンタにとってもただのお荷物だろ?
それに乃亜が怖くて従ってる野郎なら、自分は殺し合いに乗ってるなんて公言しねーよ」


そう言う参加者には、既に出会っている。
シカマルの脳裏に浮かぶのは藤木と言う少年だった。
あの唇の青い卑怯者と、目の前のブラックと言う男では、格が違い過ぎる。
あくまでブラックが殺し合いに乗っているのは、其方の方が何となく楽しそうだから、に過ぎない。
もしかしたら、コイントスをして裏が出たから。そんな程度の意志による決定なのかもしれない。


「俺達虐めるより、乃亜と戦った方がアンタは楽しめるだろうぜ。そこは保障する。
なんせ、俺達なんかより乃亜の方がずっと強くて、ずっと厄介だろうからな。
アンタの力なら優勝も夢じゃねぇんだろうが…ハードモード、行ってみる気はねーか」


フッと、不敵に笑みを浮かべて。
シカマルは、現状考えられる最もブラックにとって有効であろう揺さぶりをかけた。
どうしても現状、合理的な理由からではブラックを説得するのは不可能だ。
何しろ、全て後で何とかするという空手形を斬るしか方法が無いのだから。
それなら、よりハードな道を進んでみないか、と。
彼の享楽的な部分を擽る方がずっと可能性がある。
そう読んでの言葉だった。



「今直ぐ俺達の話に乗ってくれとは言わねぇさ。というか、こっちとしても時間が欲しい。
二十四時間もあれば、何かしらの結果を出してアンタに提示する。それを見て決めてくれ」


その言葉は、今の彼がマーダーとして動くことを暗に許容する旨の言葉だった。
シカマル達としても現状は余裕がない。
今すぐに、自分達の敵に回らないというだけで十分。
元より現状の彼はマーダーとして積極的に動いている訳ではない。
もしこの提案が拒絶されても最悪この要請さえ通れば目的の半分は達成される。
そう考えての言葉だったが──ブラックもそんなシカマルの打算を汲み取ったらしい。
さっきに続いて、シカマルが最も応える事に覚悟を要求される問いを投げつけてきた。


「俺がお前らに協力する事を決める前に、何人殺していようと俺を受け入れる。
───お前が言ってる事は、そう言う事でいいんだな?」


恐ろしく整った顔立ちに微笑を浮かべて。
ブラックは静かにシカマルに尋ねた。
隣の勝次はその問いの内容に「なッ」と声を上げるものの。
シカマルは動じなかった。元より、予想できていた問いかけだた。


「あぁ……少なくとも俺はアンタを受け入れるし、梨沙達が反論しても弁護させてもらう」
「その頃には仲間も増えてるだろうな。俺を増えた仲間で倒して言う事を聞かせようとは思わないのか?」
「それも勿論プランの一つではある。だが、それは俺からしちゃ悪手でしかねぇ。
アンタを倒すまでに一体何人犠牲が出るか分からねーしな。それこそ乃亜の思うつぼだ」


言葉と共に、ニッとシカマルは笑った。
説得(アジテーション)の基本は此方に理があると自信を持って振舞う事だ。
自信なさげに言葉を幾ら並べようと、それこそ幼稚園児すら説得出来はしない。
だから、虚勢でも、張子の虎でも、こうして大風呂敷を広げて見せる。
勝算がある様に、振舞って見せなければらなかった。


「───成程。成程な。シカマル。お前やっぱりスジがいいよ」


クツクツと笑って。青いコートのポケットに手を突っ込み。
ブラックは、シカマルの説得をそう評価した。
どうやら、好感触であるのは見て取れた。


「中々サマになってる。ただ表情はもう少し改善の余地があるな。
お前の言う通り、ただのゲームさ。笑って自分の命をレイズできるくらいで丁度いい。
楽しめ。楽しめよシカマル。これはゲームでしかねーんだから」
「お褒めの言葉どーも。生憎、普段は将棋しかやらねーもんでな」
「上出来だ。あぁ、お前の見立て通り…俺としてもここから出られるならそれでいい。
俺も、まだ見たいモンがあるからな。生きて帰らなくちゃいけないが、方法は何でもいい」


楽しければな。と、そう結論付けて。
笑みを崩さず、舞台役者の様に大仰な身振り手振りで、ブラックは語る。
気づけば、先ほどまで感じていた威圧感は霧散していて。
緊張していた空気が、弛緩したような錯覚を覚える。
それでも、シカマルは未だ緊張の最中に会った。
彼の天才的な頭脳は、未だ自分達が瀬戸際に立たされているのを理解していたから。


「───見てェものって、何だよ?」


だが、彼の隣に立つ勝次はそうではなかった。
何処か空気が緩んだことに安堵して、深く考えず、ブラックに尋ねる。
それ自体は、何てことは無い問いかけだった。
少なくとも、それを尋ねた勝次に落ち度は断じてない。
だが、その瞬間。
シカマルは不味い、と思った。
何故そう思ったのかは分からない。だって。
ブラックは、未だ軽薄な笑みを浮かべたままだったから。


「そうだな。一言で言うなら───」


微小を浮かべながら、金の髪をかき上げて。
口ずさむ様に、ブラックは彼の胸にある願いを口にした。


「世界の終わり、かな?」


バカげた返事だった。
この会場にいる勇者辺りが聞いたなら、「そういう時期は、誰にでもあるよな……」と。
宿敵の魔族を視る様な視線を向けていたかもしれない。
だが、一笑に付すには。ブラックと言う少年は余りにも不気味だった。
涼やかな自信に満ちた態度と、身に纏う不吉な雰囲気によって。
彼ならば本当にやってしまうのではないか、そんな錯覚を覚えるほどに。
シカマルの脳裏に嫌な予感が駆け巡る。


「な、何だよそれ、お前何言ってんだ──!」
「勝次落ち着け、今こいつの目的は俺達にとってはどうでもいい筈だ。
それよりも、今後の事を───」

「なぁ、シカマル」


世界の終わり。
それは勝次も見知った光景だった。
日常が、紙細工の様に崩れて、吸血鬼が跳梁跋扈し。
母は慰み者担った挙句、化け物になって自ら命を絶った。
それを経験している勝次にとって、世界の終わりなんてものは、冗談でも受け入れがたい物だった。
例え、ブラックの得体がどんなにしれなくとも。
だから、食って掛かり、シカマルに制止される。
不味い流れだ。シカマルの予感が半ば確信に変わる。
兎に角、ズレた会話を元に戻す。その事だけに注力しようとして。
彼の言葉が遮られ、ブラックは勝次に尋ねた。


「──所で………アイの奴は何処にいる?」


表情はさっきまでと変わらない。
ぞっとするほど、整った顔立ちに微笑を浮かべて。
けれど、見ていると仄かに怖気の走って来る笑みだった。
そんな笑みに促され、考える暇を与えられず、勝次は思わず答えてしまう。


「は……灰原の奴は変な鎧のチビ女に襲われた時に逸れて…見つかってねェよ!!」


勝次も緊張を覚えているのか、叫ぶように答える。
その返答は、灰原が彼に頼んだ通り、マルフォイに連れ去られた事を隠す旨の返事だった。
彼がそう答えると同時に、暫しの間、音が消える。
ブラックは笑みを浮かべたまま押し黙り、シカマルや勝次も口を挟めない。
そうして、二十秒ほど経った後、沈黙を破ったのは、やはりブラックだった。


「シカマル。お前さっきこう言ったよな?」



───俺が例え何人殺していようと、協力の意志さえ見せれば受け入れるって。



その言葉を聞いた瞬間。
シカマルの全身が総毛だった。
今迄話していたブラックと言う名の少年が、まったく別の何かに変わった様な。
本能的に、間近に迫った脅威を強く確信する。
逃げなければ、そう思っているのに、体が動かない。
自分が影真似の術で捕らえた相手の様に。
不可視の巨腕に、全身を握られているように。
視線だけ動かして勝次を見れば、彼も同じような状況だった。


「コインの、表と裏だ」


二人は磔にされた様に動けないまま、ブラックの行動を見つめる事しかできない。
そんな二人を尻目に、ブラックは懐からコインを取り出して。
そして──空中に弾いた。
三人の視線が交わる中、コインは静かに弧を描き、ブラックの手の甲に収まった。
それを見て、短くブラックは告げる。


「残念、裏だ」

「ッッ!!勝次ッ!!逃げろッッ!?」


ブラックがその言葉を吐くと同時に、シカマルは叫ぶ。
危惧していた通り、状況は最悪の展開に推移した。
ブラックの気まぐれが、シカマル達にとっての最悪(ファンブル)を引き当てたのだ。
影真似の術を発動し、勝次を逃がそうとするものの、先ほどメリュジーヌと死闘を繰り広げたばかりだ。
気絶するまで酷使したチャクラはまだ回復しきっていない。
つまり、ブラックを止める事はできない。
そんな中でも、シカマルは勝次を逃がそうと声を張り上げたが───!


「ぐ───チクショォオオオオオオオッッッ!!!」


勝次は、逃走ではなく、闘争を選んだ。
一見浅慮の様だが、これもまた、一概に間違った判断とは言い難い。
ただ単に背を向けて逃げた所で、このブラックと言う少年がみすみす逃がしてくれるとは思えない。
今迄は彼の気まぐれで、自分達は生かされていたのだから。
その気まぐれが反転すればどうなるか、シカマル達は身をもって知る事となる。


「いけェ!ヒー坊!!ぶち抜いてやれ!!」


半分は鼓舞するように、もう半分は祈るような声で。
勝次は、相棒である人面瘡に檄を飛ばす。
その檄に呼応するかのように、人面瘡は敵手に向けて鋭い触手を放つ。
人を超えた吸血鬼すら一撃で穿つ威力の触手だ。当たればブラックもただでは済まない。


「……そん、な……そん………」


当たれば、の話であるが。
ブラックの顔の前で、触手は止まった。
高速で、槍の様に吸血鬼たちを倒してきたヒー坊の触手が、受け止められる。
先ほどまでと同じ、ビクともしない。


(──くそっ!やっぱり駄目か!!)


その光景を見た瞬間、敗北を悟ったシカマルは、それでも何とか勝次を逃がそうと影を伸ばす。
印を組み、現状使えるなけなしのチャクラを使って、影真似の術を行使する。
だが、それを読んでいたかのように──ブラックは笑った。
直後、シカマルの頭上から見えない巨大な手が振り下ろされた様に、凄まじい圧力が覆いかぶさって来る。
印を組むことすら敵わず、地面に縫い付けられる。
こうなってしまえば、影真似の術はもう意味をなさない。


「クソ、やめろ!!やるなら俺を───!!」
「おいおい、お前がいなくなったら、誰が他の奴らを説得するんだ?」


理解。
会話ができる事と、話が通じる事は全く別の話だ。
それもその筈、シカマルと勝次が対峙した少年は魔都H.Lにおいて、13王(エルダーズ・サーティーン)の名を与えられた一人なのだから。
それが意味するのは力の絶大さだけでなく、H.Lきっての人格破綻者の証明である事に他ならない。


「ヒィィイイイイ……やめてくれェエエエエエエ!!!」


勝次が恐怖の叫び声をあげる。
だが、彼の命乞いにもブラックと言う少年は微笑で答えるのみで。
その是非は、数秒後の死刑執行を持って勝次に提示された。



「───ぎ、ィ!?がッああああああああああ!?!?!?!?」



べりべりと、捕まえた羽虫から翅を引きちぎる様に。
ブラックは、勝次の肩からヒー坊を強引に“”むしり取った“”。
それは、半身を引き裂くに等しい行為だ。
身を焼く様な痛烈に過ぎる痛みを受けて、ビグン、ビグンと勝次の身体が痙攣する。
ジョボボボボボ……と股座は失禁し、鮮血と混ざり合ってジーパンを濡らす。
そして、糸が切れたように、血だまりでできた水たまりに彼の肉体は倒れこんだ。



「……悪い悪い、でも、さ───」



浮かべる表情は先ほどまでと同じ。
だが、今のシカマルにとって、その笑みは酷く酷薄なものに思えてならなかった。
ゲームの様に一つの命を消した、その直後に、友人の様な気軽さで。
ブラックは、シカマルに向けて笑い掛けた。


「こうでもしないと──お前ら、絶望(オレ)が誰か忘れちまうだろ?」





勝次を血だまりに沈めた後。
ブラックは、未だ地面に縫い留められたままのシカマルと対峙していた。
そして、興味深そうに彼の顔を覗き込む。
もう死んだ勝次には一瞥すらせずに。


「……一応聞いておくが、何でだ?」
「おいおい、お前にしちゃ冴えない質問だな、シカマル。
俺はまだマーダー何だぜ?その俺が、誰かを殺すのに──理由がいるか?」


そう、深い理由は無いのだろう。
きっとコインを投げて裏が出たから、その程度の理由でしかない。
このゲームの参加者、鬼舞辻無惨は遠くない未来で自分の事を天災と称したが。
まさしくブラックがたった今及んだ凶行は、二人にとっての天災そのものだった。
予測することはできても、完全に対処するなど出来る筈もなく。
一度災禍に飲まれれば、抗う術はない。
そんな“絶望”の中でブラックと言う少年は、“絶望王”は、今一度問いかける。


「さて、もう一度聞きなおそうか。まだ、俺を仲間にするつもりはあるか?」


皮肉と、嘲笑をたっぷり詰め込んだ笑みで。
絶望王は、聡明なる忍を問いただす。
恐らく、この回答をしくじれば自分は死ぬだろう。
シカマルは、それを強く強く意志して。
そして、立ち上がりながら口を開いた。



「───撤回はねぇ」



強い意志が込められた言葉だった。
怒りと、緊張によって眉間に皺を寄せながら。
それでも、シカマルの頭脳は冷静さを失っていなかった。



「ここでアンタを許さなくても、勝次が生き返ったりはしねぇ。
…俺達にゃ、少しでも戦力が必要だ。勿論アンタの力もな」



中忍と下忍の最も顕著な違いは、小隊を率いる小隊長に抜擢されるか否かだ。
そして、隊長の判断ミスは部下達を死地へと追いやる。
それをサスケ奪還という苦い経験からシカマルは強く理解していた。
勝次はもう、助からない。だから、重要なのはこれからどうするかだ。
感情に任せてブラックを糾弾し、排除しようと動くのは簡単だ。
だが、その後には自分、ひいては梨沙達の死が待っているだろう。
それだけは、絶対に避けなければならなかった。


「こう言っちゃ何だが、俺と勝次はついさっき知り合ったばかりの関係だ。
協力者ではあったが、友達ってわけじゃねーし、それならアンタを敵に回すリスクとは天秤にかけるまでもねぇ」


心にもない、至極合理的な判断を下す。
ぎゅう、と拳を握り締めて。感情を心の底に沈める。
梨沙や、龍亞にこんな真似はさせられない。
中忍試験合格時に小隊長としての精神訓練を経験している自分にしかできない事だ。
そうでなければ誰か代わってくれと、願いながらシカマルは言葉を並べた。
それをブラックは口を挟まず見守っていたが──不意に彼の笑みが固まる。


「────。」


背後で立ち上がる、気配があった。
ハァ…ハァ…
そんな吐息が、ブラックの耳朶に響き。
ゆっくりと向き直る。


そこには、血だまりの中からゆっくりと立ち上がる勝次がいた。


「──ハハッ!!驚いたよ。凄いな、お前!!」


どう見ても致命傷だ。裂けたチーズの様に、体を引き裂かれているのだから。
そんな有様で、どうして彼が立ち上がれたのかは分からない。
虫の王から植え付けられたヒー坊という腫瘍が摘出された影響かもしれないし。
逆に虫の王という一際強力なアマルガムの能力によって植え付けられたヒー坊により、勝次の身体も吸血鬼に近しい生命力を得ていたのかもしれない。
彼が仲間として慕っていたハゲこと鮫島の様に。
だが、そんな事ブラックにはどうでも良かった。
この時、憐憫も嘲笑も無く。
純粋な賞賛の声を、ブラックは上げていた。


「当たり前だろ。小4舐めんじゃねェ」


その言葉は、どうしようもなく強がりなのは、一目見ただけで分かった。
勝次の瞳は虚ろで、もう永くない。
足元はヨロ…ヨロ…と生まれたての小鹿のようにおぼついていない。
しかし、それでも、勝次はしっかりと。二本の自分の足で立っていた。
もう肩にヒー坊の存在を感じる事がないのに悲しみを覚えつつ。
それでも全身に力を籠めて、ブラックの方へ歩みを進める。
そして、彼の青いコートを掴んで、そして言った。


「──俺は、さ…負け犬だよ。いつも…明やハゲに守られてばっかりで」


何時だって、明やハゲの様になりたいと思っていた。
彼等の様に、強くなりたいと思っていた。
でも、実際は守られてばかりで。
そんな彼だからこそ、目の前のブラックという少年が許せなかった。


「でも、お前は違うだろ……そんな、そんだけの力があれば……」


もう俺は助からない。
今迄、本土で大勢の死を見てきたから分かる。
きっとその順番が、今俺に回って来たんだ。
だから、最後に俺にできる事をする。
俺が、シカマルや龍亞達にできる事をしてやるんだ。



「───誰だって……何だって……!守れるのに……ッ!!」



だから、さ。頼むよ。
もう、俺や佐吉みたいな思いをする子供は生まれて欲しくねェんだよ。
俺を殺した事は、スゲェムカつくし、嫌だけど、もういいから。
だから、その代わり、シカマル達を助けてやってくれ。
口の端に血の滝を作りながら、勝次はそう叫んだ。



「───シカマル」



僅かな沈黙のあと。
コートの裾を、勝次に握られたまま。
ブラックは、少年の命を賭した嘆願に対する答えを述べた。



「興が乗った、話に乗ってやるよ。これから二十四時間以内に……
首輪(コレ)を外せる段取りをつければ、そっからお前達に協力してやる」



取るに足らない少年だと思っていた。
半身を引き裂かれてなお立ち上がる事ができる少年とは思っていなかった。
勝次はこの瞬間違いなく、ブラックの、絶望王の想定を飛び越えていたのだ。
その事実に対して、彼の王は応えた。ただそれだけの話だった。
それを聞いて、コートを掴んでいた勝次の指の力が、フッと抜ける。
その体は今度こそ崩れ落ちて、けれど見えない手にゆっくりと降ろされるように、地面に少年の身体が横たわる。


「勝次!!」


それを見たシカマルは、たまらず勝次の元へと駆け寄った。
その体を支えて、既に冷たくなりかけている事に気づく。
流した血の量が多すぎたのだ。助からないことは、瞬間に確信へと変わった。


「……すまなかったな。さっきはあんな事を言って」
「へ……へへ…別にいいよ。俺よりも、ブラックの方が。きっと…だから……」


勝次は死んだ、そう思っていた時に放った、仲間ではないという言葉をシカマルは詫び。
勝次は小学生らしい、快活な笑顔でそれに応えた。
そこに恨む気持ちは何一つとして無かった。


「すまねェ……龍亞達には…おれはあのチビ女の巻き添えで、って言っといてくれ……」
「あぁ…分かった」
「ほんと、頼む、な…佐吉や、俺みたいな子供は、もう生まれて、欲しく、ねェんだ…!」
「……心配するな」


その言葉を聞いた時。
勝次の瞳にはもうシカマルは映っていなかった。
ただ、彼の背後に広がる夜空の星に、魅入られていた。



───明、ハゲ、ごめん。
───俺、二人みたいにはなれなかったよ。



明たちはいつかきっと日本を雅の手から取り戻す。
その光景を見届ける事ができないのはとてもとても悔しかった。
あぁ、でも───



───母ちゃん、星が見えるよ……。



最後に見えたのが、例え偽りでも、星空で良かった。
辛いときは星を見るからと、母に誓った夜空の下で。
その想いだけを抱いて、山本勝次と言う少年の意識は、夜空に吸い込まれていった。



【山本勝次@彼岸島 48日後… 死亡】



「灰原は…あの金髪の奴に連れ去られた。勝次の奴がそう言ってたよ」
「……そうか。なら一応まだ契約は続いてる事だし、見に行ってやるとするかね」



今しがた人を殺したとは思えない気軽さで。
伸びをしながらブラックは、灰原を探す方針をシカマルに提示した。
勝次が秘密にしようとしたことを明かしていしまう後ろめたさはあったものの。
追求すればかわし切れない。そう考えての判断だ。



「じゃあな、シカマル。精々上手くやれよ?」



まるで友人に別れを告げる様なフランクさで。
一言だけを残して、ブラックは一人生き残ったシカマルから離れて行こうとする。
そんな彼の背中に、シカマルは最後に言葉を投げる。


「───おい、ブラック」


ただ一人、今ここで起こった事の顛末を知る者として。
漸く話が纏まった矢先に、合理的ではないと、彼の理性が言う。
だが、ここで黙って見送る事は、彼の中にある、木の葉の里の火の意志に反する事だった。
もう一つ、約束しろ、と。圧倒的強者であるブラックに対して彼は契約を持ちかける。


「俺達の側についたら──少なくとも対主催は、もう誰も殺すな」


勝次の死を無駄にしないためにも。
これだけは、譲れない一線だった。
通るかどうかは関係ない。
ここでブラックの機嫌を損ねて、退くわけにはいかない。
その決意を籠めて、言葉を綴った。


「……ま、それはお前等次第だな。まぁ、安心しろよ───」


───悪魔ってのは、契約を守るもんだ。
その言葉だけを残して、ブラックは口笛を吹きシカマルの前から去っていく。
離れていく青い背中を、無言で見守って。
灰原の方はこれで片が付くだろう、と。そう判断した。
あの金髪の少年の生死は保証できないにせよ、だ。
ブラックの姿が視界から消えると同時に、シカマルは懐から煙草を取り出した。
付属のライターで淀みなく火をつけて、灰一杯に煙を吸う。
二秒でせき込んだ。


「全く、こっちは任務失敗から立ち直ったばっかだっつーのに、
重たいモン背負わせてくれやがって……」


生まれた煙を、口から吐き出しながら、独り言ちる。
態度こそ、気だるげなままだったけれど。
けれど、その言葉に彼の口癖である面倒くせーという言葉は含まれていなかった。



【G-2民家から離れた場所/1日目/黎明】

【奈良シカマル@NARUTO-少年編-】
[状態]健康、疲労(大)
[装備]なし
[道具]基本支給品、アスマの煙草、ランダム支給品1~2
[思考・状況]基本方針:殺し合いから脱出する。
0:ブラックについては話は一先ずついた。勝次の説得を無駄にはしねぇ。
1:殺し合いから脱出するための策を練る。そのために対主催と協力する。
2:梨沙については…面倒臭ぇが、見捨てるわけにもいかねーよな。
3:沙都子とメリュジーヌを警戒
4:……夢がテキトーに忍者やること。だけど中忍になっちまった…なんて、下らな過ぎて言えねえ。
5:梨沙や灰原には…勝次の事をどう伝えるかね。
[備考]
原作26巻、任務失敗報告直後より参戦です。



「少し、惜しかったかもな」


人間と言う生き物は、何処の世界でも案外変わらないらしい。
愚かと一言で断じるには、余りにも無垢で一途だ。
だからこそ、こうして殺した少年に一抹の未練が湧いていた。
見込みがあるなら、シカマルの方だと思っていた。
だが、あの異形の半身を持つ少年も、存外見込みがあったらしい。
早まった真似をしたかもな、と。自身の行動を振り返って、絶望王はそう評した。


「だが──まぁいいか。ここで希望(あいつ)がくたばったとしても」


次の希望は、まだこの会場には数多く存在しているだろう。
絶望(オレ)が此処にいるという事は、そう言う事だ。
そう結論付けた。



「安心しろよ、山本勝次。次の希望(オマエ)がお前を生かすさ」



綴る言葉に込められていたのは、絶望の王からの果てなき祝福の祝詞であり。
希望で在るのは、別にお前でなくてもいいという断絶の言葉でもあった。
もう決して届かぬその言葉を口にして。従者を探すべく独り歩いていく。
その後彼の周りで響く音は、どこか寒々しい口笛の旋律だけだった。


【G-2民家から離れた場所/1日目/黎明】

【絶望王(ブラック)@血界戦線(アニメ版)】
[状態]:疲労(中)
[装備]:王の財宝@Fate/Grand Order
[道具]:なし
[思考・状況]基本行動方針:殺し合いに乗る。
0:哀の奴を探す。金髪のガキを殺すかどうかは…ま、流れと気分だな。
1:気ままに殺す。
2:気ままに生かす。つまりは好きにやる。
3:シカマル達が、結果を出せば───、
[備考]
※ゲームが破綻しない程度に制限がかけられています。
※参戦時期はアニメ四話。
※エリアの境界線に認識阻害の結界が展開されているのに気づきました。

048:踊るフジキング 投下順に読む 050:Everyday Level Up!!
時系列順に読む
046:星に願いを 奈良シカマル 071:明け方の子供達
山本勝次 GAME OVER
028:世界と世界のゲーム 絶望王(ブラック) 058:無情の世界

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